1.12月の株式市場
17日と18日に行われたFOMC会合で、来年1月から現在実施中の量的緩和策を月額100ドル減額することを決定しました。しかし縮小規模が小さく、そのご米国経済指標も好調であったことから、年末にかけて上昇相場が続きました。主要な動きは以下の通りです。
12月2日:米サプライマネジメント協会(ISM)の11月製造業景況感指数が先月の56.4%から57.3%へ上昇したが、年末商戦の最初の週末の小売業の販売が不振で、取引終了にかけて利益確定の売りが増加、78ドル安(0.48%減少)。
12月3日:欧州市場で主要な株価指数が下落軒、新興国でも多くの株式市場が下落、米国でも量的緩和策縮小の警戒感が強く、利益確定の売りが優勢で94ドル安(0.59%減少)。
12月5日:政府発表の7-9月期のGDPの改定値が前期比年率換算で3.6%増加、週間新規失業申請件数も23,000件減少の298,000件で、米国経済指標の好調さから連銀の量的緩和策縮小の障害が減少したとの見方から、68ドル安(0.43%減少)。
12月6日:政府発表の非農業部門の雇用者数の伸びが前月比203,000
人の増加で、市場予想(180,000-190,000人)を大きく上回り,失業率も5年振りの低さとなる7.0%に低下、量的緩和策縮小があっても、米景気の勢いが続くとの見方が強く、199ドル高(1.26%増加)。
12月11日:17日―18日のFOMCを前に、量的緩和策縮小の警戒論が増し、取引終了にかけて利益確定の売りが拡大し、130ドル安(0.81%減少)。
12月12日:米政府発表の週間失業保険申請件数が368,000件で市場予想の335,000件を上回ったが、11月の小売高が前月比0.7%増と好調で、量的緩和策縮小の警戒感が強く、104ドル安(0.66%減少)。ダウ価格の15,739ドルは11月7日以来の低水準。
12月16日:欧州圏の購買担当者景気指数(PMI)が前月の51.7から52.1へ改善、米国の11月鉱工業生産指数も先月改定値の1.1%上昇で、129ドル高(0.82%増加)。
12月18日:FOMCは来年1月からの量的緩和策の縮小を決定したが、月額850億ドルから750億ドルで減額が100億ドル(米国債と住宅担保証券を各々50億ドル)に過ぎなかったことや今後も金融緩和策が続くとの期待から、293ドル高(1.84%増加)。
12月20日:7-9月期のGDPの確定値が前年比4.1%と上方修正され、幅広い銘柄に買いが入ったことから、42ドル高(0.26%増加)。
12月23日:18日に発表された連銀の量的緩和策の縮小規模が小さいとの見方や11月の個人消費支出が予想を上回る0.5%であったことから、73ドル高(0.45%増加)。
12月26日:米政府発表の週間失業保険件数が前週に比べ42,000件減少の338,000件となったことなど米国の景況感が強気で、122ドル高(0.75%増加)。
12月31日:12月の消費者信頼度指数が前月の72%から78.1%へ上昇、10月のS&Pケース・シラー住宅価格指数も13.6%の上昇でr、米景気先行き期待感が高まり、72ドル高(0.44%増加)。ダウ価格の年間上昇率は年26.5%で1995年以来、最大。
2.米国議会の財政協議合意
10月中旬の合意で続けられていた米国の財政運営に関する民主党と共和党の幹部による超党派委員会は12月10日に合意に達したことを発表しました、合意案では、現在の暫定予算が続けられている2014会計年度の政策経費を1兆20億ドルに増額、但し、政策経費の増額には増税ではなく、連邦政府職員の年金制度見直しや空港利用料金の値上げで850億ドルを捻出、更に、現在1000億ドルの歳出強制削減額を2014年度から2年間で630億ドル(2014年度が450億ドル、2015年度が180億ドル)に圧縮することにしました。下院は12日に採決を行い、共和党のライアン予算委員会委員長が合意をまとめあげたことが大きく、ベイナー下院議長も全面的に支持、共和党の保守派の反対にもかかわらず、賛成332票、反対94票の圧倒的多数で可決となりました。上院も18日に賛成64票、反対36票で可決したことから、オバマ大統領に送付されました。今回の協議では与野党が対立する増税や社会保障費改革などの問題に踏み込まず、政府機関の再閉鎖回避を優先させました。
3.米連銀による量的緩和策縮小の決定
12月17日に18日に開かれた連銀のFOMCは、現在実行されている月額850億ドルの量的緩和策を来年1月から100億ドル減額し、750億ドルにすることを決定しました。声明の中で、雇用情勢は雇用の最大化に向かって着実に回復しており、見通しも改善していることから、控えめな縮小を決定したことを伝えており、具体的には、米国債を月額450億ドルから400億ドルへ、住宅ローン担保証券を400億億ドルから350億ドルへ、各々50億ドル減額することになります。それ以降の縮小ベースについては、バーナンキ連銀議長は会合後の記者会見で、資産購入規模は経済指標に基づき決まるとの従来の主張を繰り返した上で、今後も雇用状況は改善すると予想、量的緩和策縮小は小幅な規模で来年終盤まで続くだろうと述べ、毎回の会合で100億ドル程度の縮小を行う考えを示唆しました。
さらに、声明ではフォワードガイダンスとして、失業率が6.5%を上回り、インフレが2.5%を下回る限り、ゼロ金利政策を維持するとの従来の立場を維持すると同時に、失業率が6.5%を下回っても、インフレが2%を下回る限り、相当長期間、現在の低金利政策を維持するとの表現を加えました。
質疑で回答されたその他の主要点
1.量的緩和策縮小の理由
量的緩和策はあくまで補完的な金融政策であって、主な政策手段は金利政策である。2012年9月に量的緩和策を導入したのは金利が低水準でありながら、景気は低迷しており、証券購入を金融政策の第2の手段として実施することにした。雇用情勢が相当改善し、中期的目標が達成できたので、第2の手段を減速させることができると判断した。同時に、量的緩和にはFRBのバランスシートの膨張や金融資産への悪影響といったマイナス面も懸念されている。
2.金融政策の限界
金融政策は万能ではない。景気減速を止めたり、財政問題を解決したりすることはできない。但し、財政問題が景気を1.3%程度減速させると議会予算局が予測して中で、金融政策でその大半を相殺できたと思っている。
3.量的緩和策以外の景気刺激策
FRBは他の中央銀行がやっているような社債の買い入れはできない。FRBができるのは米国債と住宅ローン担保証券の購入だけである。
なお、FOMCの決定とバーナンキ議長の記者会見後、市場は量的緩和策の縮小規模が小さかったことや今後も緩和的な状況が長続きするとの見方が広がり、ダウは293ドルの上昇で、16,168ドルの最高値を記録しました。その後も、GDPや雇用関係の経済指標が好調であったことから、年末まで株価の上昇傾向が続きました。
来年1月以降、量的緩和策の縮小が実施されても、長期金利に著しい上昇がない限り、依然マネーサプライの供給が続くことから株式市場への悪影響は少ないと見られます。但し、来年半ばには4.5兆ドルに達すると見られる量的緩和策が終了した後は、連銀による短期の低金利政策が続けられても、株式市場は米国経済の実態をより反映することになり、一時的に大きな調整が出てくる可能性は避けらないものと見られます。
4.ドイツの大連立が正式承認
連立協議が続けられていたドイツで、最大野党の社会民主党(SPD)は12月14日、全党員による投票で賛成票が76%に達し、与党入りが承認されたことを発表しました。これにより、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)のメルケル党首が17日の連邦議会で首相に選出され、第3次メルケル政権がスタートすることになります。ドイツの大連立政権は1966-69年のキージンガー政権、2005-2009年の第1次メルケル政権に続き、3回目となります。なお、今回の連立成立には、社会民主党が要求する5ユーロの法定最低賃金制をCDU・CSUが受け入れたことが大きな理由となりました。なお、新政権では社民党が6省庁の大臣ポストを得て、ガブリエル党首が副首相兼経済相、エネルギー相として入閣することになりました。欧州債務危機対策を担当したショイプレ財務相は留任し、対欧州政策については、問題国の財務再建と構造改革を求めていく従来の方針を貫いていくものと見られます。
(2014年1月2日: 村方 清)
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