1. 4月の実績
4月の株式市場は前半にITやバイオ製薬関連株への高値警戒感から大きな調整の動きがみられましたが、その後は反動からの買戻しが再び活発化しました。後半はウクライナ情勢の混乱と投資家の強気姿勢が交錯する市場展開となりました。主要な動きは以下の通りです。
4月1日:3月の米サプライマネジメント協会(ISM)の製造業景況感指数が前月の53.2から53.7へ改善したことや3月の新車販売台数が前年同月比で5.7%増になったことなどから、ダウ平均価格は75ドル高(0.46%増加)。
4月4日:政府発表の非農業部門の雇用者数の伸びが前月比192,000 人の増加で、市場予想(200,000人)を下回ったこと(失業率は6.7%と横ばい)、ITやバイオ製薬関連株に利益確定売りが急激に進み、160ドル安(0.96%減少)。ナスダックは2.6%の減少。
4月7日:8日から発表が始まるITやバイオ製薬関連の主要企業の1~3月期決算への警戒感が強まり、167ドル安(1.02%減少)。ハイテク株比率が高いナスダックは2カ月振りの安値。
4月9日:FRBが午後に公表した3月18日―19日のFOMCの議事要旨で、FRBが緩和的な金融政策の解除を急ぐとの見方が後退し、181ドル高(1.11%増加)。
4月10日:IT株やバイオ製薬関連株への売りが強まり、投資家心理が急速に冷え込み、267ドル安(1.62%減少)。3月14日以来、約1カ月ぶりの安値。ハイテク株の比率が高いナスダック総合株価指数も130ドル安(3.10%減少)。2月5日以来、約2カ月ぶりの安値。
4月11日:金融大手JPモルガンの決算が不振であったことやインターネットやバイオ製薬関連株への売りが続き、143ドル安(0.89%減少)。ナスダックは2ヶ月ぶりに4000ドル割れ。4月14日:政府発表の3月小売売上高が前月比1.1%増であったことやシティバンクの4半期業績で純利益G前年同期比4.0%増であったことから、146ドル高(0.91%増加)。
4月16日:中国経済の第1四半期成長率が7.4%と市場予想を上回ったことやヤフーなどのIT関連株の四半期業績が好調で、162ドル高(1%増加)。
4月22日:ユナイテッドテクノロジーやトラベラーズなどの企業業績が好調で、65ドル高(0.40%増加)。
4月25日:ウクライナ国境にロシア軍が迫ったとの情報やアマゾンなどのインターネットサービス関連株の業績不振で、140ドル安(0.85%減少)。
4月28日:ウクライナ情勢への警戒感が強かったものの、ファイザーやゼネラルエレクトリックなどの欧州企業の買収案の発表で、87ドル高(0.53%増加)。
4月29日:医薬品大手のメルクなどの四半期業績が好調で、87ドル高(0.53%増加)。
4月30日:米国政府発表の2014年第1四半期GDPが予想を大きく下回る0.1%、連銀の量的緩和策の更なる100億ドル縮小にかかわらず、投資家の買いが優勢で45ドル高。最高値を更新。
2.米国の雇用状況
米労働省が4月4日に発表した3月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比192,000人の増加となり、市場予想の200,000人を少し下回りました。なお、1月と2月の雇用者数の改定値は各々144,000人と197,000人に増加しました。2月と3月雇用者数が200,000人近くなったこともあり、12月と1月の落ち込みは寒波などの悪天候など一時的なものとの見方が多くなっています。
一方、1月の失業率については前月と同じく6.7%で、横這いとなりました。部門別では、小売りが大きく伸びたサービス部門が19,000人の増加となり、一方、製造業は1,000人減と8か月ぶりに減少に転じました。
3.鈍化する米国の経済回復と連銀の量的緩和策の縮小継続
米商務省は4月30日に2014年第1四半期のGDP速報値を発表しましたが、年率換算で0.1%と事前予想の1.2%を大きく下回りました。今回、GDPが大きく予想を下回った背景には民間設備投資がマイナス2.1%となったことや住宅投資もマイナス5.7%であったことが上げられています。また、米国からの輸出も世界経済の悪化を反映して、マイナス7.6%となりました。唯一、好調だったのはGDPの約7割を占める個人消費で3.0%の増加となりました。なお、今回のGDPについては異常気象による落ち込みで事前予想は1.2%程度になると見られていただけに、それを大きく下回る0.1%であった米国経済の脆弱さはやはり懸念されるところです。
これに関連して、4月29日と30日に開かれた連銀のFOMC会合では個人消費を中心に経済回復が見られることや労働市場の改善が見られるとして、量的緩和策の縮小規模を更に100億ドル減額し、450億ドルとすることを決定しました(米国債を月額300億ドルから250億ドルへ、住宅ローン担保証券を月額250億ドルから200億ドルへ縮小)。なお、30日の株価は第1四半期のGDPの大幅低下や連銀の量的緩和策の追加縮小にもかかわらず、ダウ価格は45ドル高で、史上高値を更新するなど過熱投資状態が続いています。
4. 自社株買いが促進する米国の高値相場
米国の連銀は事実上のゼロ金利政策に加え、2008年111月以降3回に渡る量的緩和策を実施、その買い入れ規模は既に4兆ドルに達していますが、持続的な成長、完全雇用、2%のインフレといったマクロの経済目標は未だに達成されていません。その一方、ダウ平均価格は2013年3月初めにリーマン破綻前の水準を回復、4月30日も史上高値を更新するなど株価の高騰が続いています。この背景には連銀の過度な金融緩和策により、金融機関や企業体が発行する固定金利の金融商品の魅力が失われ、高リスク投資商品である株式への買い需要が強すぎることがあげられます。
これに加えて、企業側もデフレ経済の進展の中で、手持ちの余剰資金を使って自社株を購入、株主資本の減少によって自己資本利益率(ROE)が向上、その結果、株価の上昇をもたらしているとされています。一部のアナリストの見方では、2013年に自社株買いが多かった100社の株価指数は47%上昇したと伝えられています(自社株買いは一時的にPERの低下に結びつくため、本年1月の議会公聴会におけるイエレン連銀議長候補(当時)が証言したように、米国の株価収益率などの指標で見る限り、バブル的要素は少ないなどと言った誤った判断になってしまうのではないかと思われます)。しかし、企業の成長は研究開発や設備への投資が不可欠であり、余剰資金を使った自社株買いは会社が自らの成長を抑えてしまうことにもなりかねません。加えて、自社株買いは行過ぎれば、低利の社債を使った自社株買いに走らせ、自己資本比率や負債比率を悪化させることになります。いずれにしましても、連銀の長期に渡る行過ぎた金融緩和策は米国の金融・株式市場をゆがめているとも言え、本来あるべき金融正常化に向かった政策展開が求められる時期に来ていると思われます。
5.ウクライナ問題の深刻化
3月18日にロシアのプーチン大統領はクリミア自治共和国の住民投票を受けて、クリミアのロシアへの編入を宣言しましたが、その後、東部のドネツク、ドニブロペトロウシク、ハリコフ、ルハーンシク州などもロシア系住民が武力で州政府の建物を選挙、自治権を拡大し、連邦制の導入を強く要求し始めています。これに対し、ウクライナの暫定政府は軍隊を派遣し、建物を占拠するロシア系住民の排除を試みましたがドネツクの空港以外は成功していません。こうした中で、4月17日にスイスのジュネーブでウクライナ暫定政権、ロシア、米国、欧州連合の4者が集まり、①非違合法な武装勢力の解除、②欧州安保協力機構(OSCE)監視団の派遣などで合意しました。更に、オバマ大統領は外交が事態を落ち着かせる可能性はあるものの、それが履行されない場合に備えて追加の制裁を準備する方針を明確にし、28日にG7とEUは追加制裁に合意しました(米国の制裁措置はプーチン側近の7名と17社の資産凍結)。
しかしながら、こうした動きにも拘らず、ロシア政府からロシア系住民による武力での不法占拠を解除させる指示は未だにありません。その背景には現在のロシア憲法61条によって、ロシア国民は国内外においてロシア政府の保護を受けることが保証されており、ウクライナにいるロシア系住民はロシア政府の介入を期待していることがあげられます。同様な規定は戦前のドイツのナチス憲法にもあり、それが1939年のドイツのチェコスロバ二アの侵攻となりました。加えて、欧米が合意した制裁措置はロシア政府の要人に対するビザの発給禁止措置などに限定されており、ロシアの経済に対する悪影響が軽微なものに留まっていることがあげられます(米国とロシアの貿易額は年間400億ドル程度に過ぎないのに対し、欧州とロシアの貿易額は年間4600億ドルと言われ、ロシアへの本格的な経済制裁による代償はロシアだけでなく、欧州諸国にも大きなマイナスとなることが予想されています)。
4月19日付の英国エコノミスト誌はウクライナに対するロシア側の対応について、3つの可能性を指摘しています。その一つはウクライナ暫定政権が5月25日に予定する大統領選挙を阻止、現在の政権には治安維持の能力がないことを示すことにあると言われています。二つは東部の不安定化を口実に国境付近に配備しているロシアの大規模な部隊を平和維持軍としてウクライナに侵攻させることにあると言われています。そして、第3の可能性として指摘されているのはロシア軍を東部地域に侵攻させると同時に、東部地域に西側に近いキエフの暫定政権に対抗して、ロシア寄りの政権を樹立して、並行政府を確立することにあるとされています。
いずれにしても、ロシアのプーチン政権にとっては、ウクライナにいるロシア系住民の保護という名目で、武力を用いてもウクライナの東部地域にロシアの影響力を行使できる政権を樹立することが最終的な目的にあるように思われます。こうしたロシアの強硬な姿勢に対するには、2つの方法しかないように思われます。一つはロシアとの経済の結びつきが強い欧州諸国にロシアに対して金融やエネルギーなどの分野で実質的な経済制裁を認めさせることであり、特に金融面では、ロシアにドル、ユーロ、ポンドなどの国際通貨に対するアクセスを禁止する措置を取ることが求められていると思われます。二つはウクライナに対するNATOの軍事支援を強化することにあると思われます。勿論、こうした強硬策はロシアと欧米諸国との関係を決定的なものにする可能性も高くなりますが、ロシア圏の復活や拡大を意図する強硬なロシアのプーチン政権に対抗するには、欧米諸国もそれに見合った強力な措置を導入するしか有効策はないように思われます。
(2014年5月1日: 村方 清)