Friday, January 2, 2015

原油安など低インフレ下で拡大する資産インフレ














1.12月の株式市場
12月の株式市場は原油先物市場が急激に下落する中で、大きく変動しました。但し、1617日のFOMC会合で、連銀が今後も数ヶ月はゼロ金利政策を続けることを確認した時は、上昇幅を一時的に拡大することになりました。主要な動きは以下の通りでした。

121日:中国の製造業購買担当者指数(PMI)が先月から下落したことに加え、全米小売業協会が発表した感謝際期間中の小売売上高も前年同期比11%減で、米個人消費の先行き不透明感が出され、ダウ平均価格は51ドル安(0.29%減少)。
122日:11月の新車販売台数が前月比で増加、10月の建設費も前月比で市場予想以上に増加、景気回復の期待が高まり、103ドル高(0.58%増加)。
125日:政府発表の11月の雇用統計は非農業部門の雇用者数は前月比321,000人で市場予想の230,000人を大きく上回り(失業率は5.8%で変わらず)、59ドル高(0.33%増加)。
128日:原油先物市場の下落に加え、欧州、中国、日本の経済鈍化を反映して、106ドル安(0.59%減少)。100ドルを越す下落は1022日以来1ヶ月半ぶり。
129日:中国の上海市場で債券発行の規制強化から5%強の下落やギリシャの政治的混乱による株価指数の10%下落などから、投資家のリスク回避で、51ドル安(0.29%減少)。
1210日:原油先物相場が大幅に下落し、石油関連株だけでなく、景気動向に左右されやすいITや機械関連株も大きく売られ、268ドル安(1.51%減少)。下げ幅は109日以来。
1211日:11月の小売売上高が0.6%と市場予想を上回ったことから米景気の回復が順調との見方が大きくなったが、その後原油先物相場が下落したため、63ドル高(0.36%減少)。
1212日:原油先物相場が大きく下げ、石油関連株が下落、世界経済を巡る警戒感も強まり、316ドル安(1.79%減少)。週間下落幅としては677.96ドルで、33カ月振り。
1215日:急速な原油安を背景に投資家心理が悪化し、100ドル安(0.58%減少)。
1216日: 原油安やルーブル安から売りが優勢となり、112ドル安(0.58%減少)。
1217日:FOMC後の声明やイエレンFRB議長の記者会見の内容が景気に配慮した内容と受け止められ、買いが優勢となり、288ドル高(1.69%増加)。
1218日:FOMCの早期の利上げに対する慎重な姿勢および原油安の影響への警戒感が減少したことから、421ドル高(2.43%増加)。上昇幅は20111130日以来の大きさ。
1222日:先週後半の相場急上昇による投資家心理の改善から、154ドル高(0.87%増加)。
1223日:米商務省発表の7-9 月期の/dx/async/async.do/ae=P_LK_ILTERM;g=96958A90889DE2E6E3E5EAEAE4E2E3E4E2E1E0E2E3E29BE0E2E2E2E2;dv=pc;sv=NXGDP確定値が/dx/async/async.do/ae=P_LK_ILTERM;g=96958A90889DE2E6E3EBE7E7E0E2E3E5E2E1E0E2E3E29BE0E2E2E2E2;dv=pc;sv=NX前期比で年率5.0%増加や11月の米個人消費支出/dx/async/async.do/ae=P_LK_ILTERM;g=96958A90889DE2E6E3E5EAEBE2E2E3E4E2E1E0E2E3E29BE0E2E2E2E2;dv=pc;sv=NXも市場予想を上回り、65ドル高(0.36%増加)。ダウは18,000ドルを突破。
1230日:ギリシャの政治混乱が欧州や米国市場に波及し、55ドル安(0.31%減少)。
1231日:原油価格が20095月以来最低の1バレル当たり53.27ドルに下落したことから取引終了時にかけて売りが進み、160ドル安(0.89%減少)。ダウは年率で7.5%増加。

2.米国の雇用状況
米労働省が12月5日に発表した11月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比321,000人の増加で、市場予想の230,000人を大きく上回りました。また、9月と10月の改定値も271,000人と243,000人へ上方修正されました。 一方、11月の失業率については5.8%で変わらず、また、労働参加率も62.8%で前月と同様でした。なお、フルタイムの職を見つけられず、パートタイムにある労働者を含めた広義の失業率は11.4%で先月より僅かに減少しました。部門別では一番増加したのはビジネス・サービス部門で約86,000人増、次に小売業の50,000人増、更に教育や医療関連の38,000人増となりました。なお、製造業と建設業は月平均にすると各々15,000人増と21,000人増で前年に比べ、ほぼ倍に近い増加となっています。

3.12月のFOMCの決定と株価の更なる上昇(株のバブル化)。
金利の引き上げ時期をめぐり、注目されていたFOMCの会合は12月16日と17日に開かれました。会合後の声明文は先月とほぼ同じ内容で、米国の経済活動は緩やかなペースで拡大しており、労働市場も確実な雇用の増加と失業率の低下を伴って更に改善している。家計支出は緩やかに伸びており、企業の設備投資も拡大しているが、住宅部門の回復は遅いままである。インフレ率はエネルギー価格の下落もあり、FOMCの長期的な目標をやや下回り続けている。将来のインフレを示す市場ベースの指標は更にやや低下したが、長期的なインフレ期待の目標は引き続き安定していると発表しました。

その上で、FOMCの二大責務である最大雇用と物価安定に向けて続いている改善状態を後押しするために、現行のゼロから0.25%というフェデラルファンド金利の目標誘導レンジが適切であるとの見解を再確認しました。更に、この金利を維持する期間の決定にあたっては最大雇用と2%の物価上昇という目標に向けた現在の進展の実績と予測の両面を評価するために、労働市場の状況に関する指標、インフレ圧力やインフレ期待の指標、金融の動向を示すデータを含む幅広い情報を考慮する必要があり、こうした評価を基にして、金融政策の運営の正常化開始において辛抱強く待つ可能性があるとしました。また、インフレ率の予測が2%の長期目標を下回り続け、長期的なインフレ期待も十分に抑制されたままであるならば、現行のFF金利の目標誘導レンジを資産購入が10月に終了した後も相当な期間維持することが適切とした前回の声明と合致しているとしました。一方、今後入手する情報が、FOMCが掲げる雇用とインフレ率の目標に向けてFOMCの現在の予測より早いと示唆すれば、FF金利の目標誘導レンジの引き上げを早めることになるであろうし、進展が予測より遅れるようであれば、引き上げは想定よりも遅くなるであろうとしました。

次にFOMCは保有する政府機関債と住宅ローン担保証券で元本の償還期限の来たものについて、償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する既存の政策を維持するとしました。

今回のFOMCの決定は将来の金利引き上げの時期について、従来強調していた“相当期間”という言葉の意味を低下させると同時に、金融正常化について“辛抱強く待つ可能性があるとして、早期の金利引き上げを否定したような感じになったことです。更にもう一つは量的緩和策で連銀が購入した国債や住宅ローン担保証券について償還期限の来た元本を再投資することで、マネータリーベースの維持を決めたことです。市場はこうしたFOMCの決定を好意的に受け止め、ダウ平均価格は1217日と18日の連日、288ドル高(1.69%増)と421ドル高(2.43%増)の急激な上昇を記録しました

FOMCのメンバーの多くは実体経済の本格的な回復がまだ達成できていないことや世界市場での原油安などの不安定要因の高まりを背景に、今回も低金利政策の維持を決定しましたが、実体経済が低インフレで資金需要が少ない状況で、長期間に渡る超金融緩和策がもたらしている弊害、資産インフレ(特に、株のバブル化)への警戒感は殆ど示されていませんでした。連銀が早期の金利引き上げに慎重であるのは2009年秋に発生した金融バブルの崩壊を懸念しているためと見られますが、連銀の法律上の責務である最大雇用と物価安定についてはどのレベルを目標にするかに客観的な基準があるわけではなく、無理な目標を設定することにより金融緩和策が過度となり、株バブルが行過ぎないように適切な措置を取っていく必要性が出てきているように思われます。

4.ECBの追加の金融緩和策の見送りとギリシャ危機
124日に開催されたECBの理事会会合後の記者会見で、ドラギ総裁は焦点の量的緩和策について来年初めと明言したものの、具体的な方法についてはまだ詰めるべきことがあるとしました。また、ECB内部で反対があることについては、全会一致である必要はないとの判断も示しました。

これに対し、量的緩和策に依然反対の立場を取るドイツは国債を購入すれば、中央銀行が財政赤字を穴埋めする構図になるとして、シュレーガー専務理事が牽制しました。EUの消費者物価は11月でも前年同月比で0.3%に落ち込むなど厳しい情勢が続いていますが、量的緩和策の実体経済に与える効果については未だに分らないところがあり、実際の導入に際してはまだまだ多くの議論を呼ぶものと見られます。

ギリシャの政情不安が再び高まっています。ギリシャ大統領の任期は5年で、2期まで務めることができますが、現在のパブーリアス大統領は既に2期目であり、20153月をもって任期切れとなります。このため、本来20152月に予定されていた大統領の選出を前倒して、1217日に行なうことが決まりました。しかし、現在、政権与党の票数は議会定数300票の内155票で、第1回や第2回で必要な200票を大きく下回っていること、第3回の180票であっても、最大野党の急進左派連合が与党政権の財政緊縮策に強く反対しており、大統領が選出される可能性は必ずしも高い状況ではありませんでした。そして、事前の予想通り、第3回目の投票でも168票に留まったため、議会は解散、2015125日に総選挙が行なわれることになりました。前回の総選挙は2012年春に行なわれましたが、その時に急進左派連合が勝利した場合、ギリシャが欧州連合を離脱、財政破綻が起こるのではないかとの懸念が生じました。その後、5月と6月の総選挙で、急進左派連合は過半数を取れず、ユーロ残留派の現与党が政権を担うことになりました。今回の場合も、総選挙になれば、与野党の厳しい戦いが予想され、ギリシャの政治情勢は一段と不安定さを増すことになります。

5.原油価格下落の経済的影響
11月下旬に開催されたOPECの総会で、減産合意できなかったことや1212日に発表されたIEAの世界需給見通しで、2015年は原油の需要が10%近く減少するとの結論を出したことに伴い、12日のWTI先物価格は57ヶ月ぶりに1バレル57.81ドルまで下落しました。しかしながら、市場ではまだ底値に達したとは言えず、50ドル以下まで下落する可能性も指摘されています。

原油価格の下落は石油消費国の経済回復や経済発展に結びつくと同時に、原油やガス生産国に停滞をもたらすという両面があるように思われます。米国商務省が23日に発表した第3四半期のGDP確定値は市場予想の4.2%を大きく上回る5%となりましたが、その背景にはガソリン代の下落を受けて個人消費が3%の増加となったことがあがられています。今後もガソリン価格の低下が続く限り、米国の個人消費が経済成長を後押しする可能性が大きいと思われます。

その一方、ロシアやベネズエラなどの産油国にとっては原油価格の下落が深刻な影響を与えています。石油や天然ガスの輸出が国の外貨獲得の主要手段であるロシアでは株価の急激な下落に加え、ルーブルの30%以上の低下をもたらしており、食料品の多くを輸入に依存するロシアにとって物価高が国民生活を圧迫しています。ロシアにとってはウクライナの対応をめぐり、欧米からの経済制裁を受け、更に今回の原油安による減収で、来年度予算の大幅な見直しを迫られています。 1217日にオバマ大統領がキューバとの外交関係の再開を発表した数日後、ロシアの副首相がキューバを訪問、ロシアとの関係の継続を確認しましたが、ロシアの現在の経済困難を考慮するならばクリミアへの経済支援が大きな負担になっている状況の中で、キューバへの継続支援を約束することは政治的な意味でしかないように思われます。

今後、原油需要の急激な回復が見込めない中で、原油価格がどこまで下落するかはOPECの最大原油供給国であるサウジの目的がどこにあるかによります。サウジが11月のOPEC会合で減産を認めなかった理由として、最初に言われているのは急激な増産が続け、既存の原油国の脅威になっている米国のシェールオイルの生産に制限を加えることにあるとされています。既に米国でのシュールオイル生産は日量で900万バレルと言われていますが、これに天然ガスを加えると、日量1000万バレルとなり、サウジの原油生産量に匹敵するほどの規模になっているといわれています。そして、こうした米国のシュールオイルの増量が可能になったのは従来原油価格が高かったことによるもので、一部の大手企業を除く中堅採掘企業の採算ラインと言われる60ドルで、その水準を割るような状況が長く続けば、米国でのシェールオイルの生産は相当落ち込むことが予想されています。

サウジが狙うもう一つの目的はシリアのアサド政権を支援するロシアとイランに経済的な打撃を与え、スンニ派が中心の反体制派への支援を強化したいとするというものです。ロシアの場合、予算公約を守るには1バレルが100ドル前後を保っていなければならず、原油価格の大幅下落はシリアへの支援に支障を生じることになります。同様なことはイランも共通で、特にイランにとって欧米の経済制裁を受ける中では、原油価格の下落はロシア以上に深刻な問題を発生させることになります。但し、ロシアはここ数年間の石油需要の増加で、多額の外貨準備を持っていると言われ、サウジの思惑通りに、ロシアやイランの経済的な弱体化が出来遂げられるかどうかは依然不明の部分があります。

いずれにしても、原油価格の下落については、石油消費国には恩恵が大きいものの、産出国の中には採算性の見地から深刻な経済的痛手を受けるところもあり、今後の推移を注意深く見ていく必要があります。
          (201512日:  村方 清)