1.3月の株式市場
3月の株式市場は当初トランプ政権の経済政策への期待から大きく上昇したものの、FOMCの利上げ警戒感から低迷しました。その後、更にトランプ政権の公約であったオバマケア見直し法案が下院与党での合意困難による見送り決定で、トランプ政権の経済政策の実行可能性への不透明感から、高値相場の調整が続きました。主要な動きは以下の通りでした。
3月1日:2月28日のトランプ大統領の議会演説による経済政策への期待と金利上昇による金融株の買いで、ダウ価格は303ドル高(1.46%増加)。
3月2日:前日に最高値を記録した反動とIRSの捜査を受けた建設機械大手のキャタピラーの急落で、113ドル安(0.53%減少)。3月6日:北朝鮮のミサイル発射に伴う地政学リスクの高まりや目先の利益確定の売りが金融株を中心に出たことなどで、51ドル安(0.24%減少)。
3月7日:製薬業界の競争を促すトランプ大統領のツイッターで大手製薬の株が売られたことや相場の最高値圏からの警戒感から利益確定の売りが優勢で、30ドル安(0.14%減少)。
3月8日:不正会計の報道を受けたキャタピラーが2.8%下落、米国の原油在庫が市場予想を大幅に上回った原油先物相場が下落、69ドル安(0.33%減少)。
3月10日:米政府発表の2月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比235,000人増と、市場予想の190,000人増を大きく上回ったことで、(失業率も4.7%に改善)、45ドル高(0.21%増加)。
3月14日:サウジの増産による原油相場の下落とFOMCの様子待ちから、44ドル安(0.21%減少)。
3月15日:FOMC会合で0.25%の利上げを決定、大方の予想通りであったことや原油先物相場が上昇したことで、前日までの下落していた株に買いが多くなり、113ドル高(0.54%増加)。
3月17日:米長期金利の低下を背景に、金融株が売られ、20ドル安(0.10%減少)。
3月21日:米金利低下を背景に金融株が売られ、トランプ政権の税制改革や金融規制緩和の先行き不透明感から利益確定売りが大きくなり、238ドル安(1.14%減少)、下げ幅は昨年9月13日以来。
3月24日:取引終了直前に、オバマケア代替法案の採決が見送られ、トランプ政権の政策運営の先行き見通しが不透明になったことで、60ドル安(0.29%減少)。
3月27日:トランプ政権の政策運営の不透明感が警戒され、46ドル安(0.22%減少)。8日連続の下落は2011年7月末以降の5年8か月振り。
3月28日:コンファレンスボードの発表で3月の米消費者信頼感指数が125.6と市場予想を大きく上回ったことやフィッシャー連銀副議長が今年は残り2回の利上げが適切の発言から、長期金利が上昇してJPモルガンなどの金融株の買いが優勢となり、151ドル高(0.73%増加)。
3月29日:オバマケアの代替法案の撤回を受け医療保険株が売られ、金利低下で金融株も下落し、42ドル安(0.20%減少)。
3月30日:原油先物相場の上昇や2016年10-12月のGDP確定値が年率2.1%増と改定値から上方修正されたことで長期金利が上昇し、エネルギーや金融株が買われ、69ドル高(0.33%増加)。
3月31日:長期金利の低下を受けて、金融株に利益確定の売りが出た他、エネルギー関連株も持ち高調整による売りが優勢で、65ドル安(0.31%減少)。3月は月間で149ドルの下落(0.7%の減少)。
2.米国の雇用状況
米労働省が3月10日に発表した2月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比235,000人の増加で、市場予想の190,000人増を大きく上回りました。12月の雇用者数の確定値は155,000人で2,000人の減少、1月の改定値は238,000人で11,000人の増加で、合計として9,000人の減少となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者の平均増加数は209,000人で、完全雇用に近い水準であり堅調な増加と見られています。なお、1月の失業率は4.7%で、0.1%改善しました(広義の失業率も9.2%で0.2%の改善)。労働参加率は63%で、前月比0.1%増加しました。2月の時間当たり賃金上昇率は年率2.8%増加で、前月の2.6%増より上昇しました。部門別では建設業が58,000人の増加、製造業も28,000人の増加となりましたが、逆に小売業が26,000人の減少となりました。
3.FOMC会合による利上げ決定
3月14-15日にFOMC会合が開催されましたが、昨年12月以来、3カ月ぶりに0.25%の利上げを決定しました。会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。労働市場は改善を続け、経済活動は緩やかなペースで拡大し続けている。雇用の伸びは引き続き堅調で、失業率はここ数カ月間あまり変化がない。家計支出は緩やかに増加し続け、企業の設備投資はいくらか安定したようにみえる。ここ数四半期、インフレ率は上昇し、FOMCの長期的な目標である2%に近づいている。
FOMCは法律で定められた雇用の最大化と物価安定の実現という2大使命を達成するために努める。FOMCは金融政策の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大し、労働市場もさらにいくらか力強さを増し、インフレ率も中期的に2%近辺で安定すると予測している。FOMCは引き続きインフレ率と世界の経済や金融の動向を注意深く監視する。
労働市場の状況とインフレ率の実績と見通しを考慮して、FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の目標誘導レンジを0.75-1.00%に引き上げることを決定した。金融政策の運営姿勢は引き続き緩和的で、それによって労働市場の状況の更なる改善とインフレへの持続的な回帰を支える。
FOMCは経済状況がFF金利の緩やかな引き上げを正当化する形で進むと予測する。FF金利は当面、長期的に到達すると見込まれる水準を下回るレベルで推移する可能性がある。ただ、FF金利の実際の上がり方はデータが伝える経済見通し次第である。
米機関債と住宅担保証券の償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する政策を維持する。この政策はFF金利が正常の水準に戻るまで維持する。
なお、今回の決定は9人のメンバーの賛成によるもので、1名のメンバーが現在の水準を維持すべきと反対しました。
今回の利上げの結果については、市場では大方の予想通りと受け止めたことや原油先物相場が上昇したことなどで、ダウ価格は113ドル高となりました。
4.トランプ大統領の新年度予算案とその評価
トランプ大統領は3月15日に2018会計年度(2017年10月―2018年9月)の予算案を発表しました。連邦予算全体の規模は約4兆ドルですが、今回は裁量的歳出約1兆ドルを中心に、軍事支出を10%または540億ドルを増加させました。その中で、今年度の防衛の主なプログラムに250億ドルを追加し、戦闘業務に50億ドルを追加するよう求めました。また、約135億ドルは航空機、ミサイル、および船舶の増強に割り当てています。加えて、国土安全保障省の今年度の予算には30億ドルを要請し、その一部はメキシコとの国境に壁を建設するための資金が含まれています。トランプは今年度の国境の壁建設に15億ドルを承認することを議会に要請し、更に2018年度には26億ドルの資金を提供することを求めています。
一方、削減面ではEPAから31%または26億ドルをEPAから削減することを提案しています。その中には貧困層への暖房費を助けるプログラムの削減及び廃止、地方自治体への廃水処理の支援、アラスカ州のような農村部での航空旅費補助などのプログラムの削減が含まれています。また、国務省の資金調達および他の国際プログラムの28%または109億ドルを削減することを要請しています。その他の任意削減には、HUDのコミュニティ開発助成金および20以上の教育省プログラムに対する資金が含まれています。更に、公的放送、芸術および地域プログラムのための連邦資金に依存している19の独立機関に対する資金の廃止が提案されています。
今回の予算案の評価として、EPAの削減は最大規模であるため、清浄水及び汚染関連の規制プログラムが大幅に減少することが懸念されています。また、国務省に対する大幅な予算削減は、国際地域社会及び海外援助プログラムの減少に繋がる為、米国の外交・対外政策に大きなマイナスの影響も予想されます。議会の反応は様々ですが、民主党は防衛費に多大な予算が増加され、貧困者の援助プログラム及び、医学、科学、その他の研究プログラムが削減されていることを批判しました。加えて、環境及び気候変動プログラムを意図的に削減するためEPAへの予算を大幅に減少している予算案を支持していません。一方、一部の共和党は、彼らがエンタイトルメントと呼ぶ国内プログラムが十分削減されていないと指摘しています。同時に、連邦政府の赤字減少を強調する一部の共和党議員はトランプ氏の予算案は逆効果であり、予算調整に権力のある議会が最終的に大幅に修正する必要があると主張しています。
5.トランプ政権によるオバマケア見直し法案の撤回とその影響
トランプ大統領が選挙公約に掲げ、共和党が過去7年間廃止を目指して取り組んできたオバマケアの代替法案(ライアンケア)について、3月24日に下院本会議の採決を予定していました。しかし、共和党内に反対論が根強く、可決に必要な216票の得られる見通しがなかったことで、法案が撤回されました。当初、この法案の成立を目指したライアン下院議長は24名近い反対者がいるとされた保守派のFreedom Caucus (自由議員連盟:元々はテーパーティ議員連盟とされていた)に対して一部の修正するなどして話し合いを続けたものの成功せず、トランプ大統領自身も彼らの説得に乗り出しましたが、受け入れらませんでした。反対の議員は最終的には一部の修正に反発したリベラル派の議員も反対に回ったことから、当初を上回る35、6名近い議員にも達したとも言われています。
今回のライアン法案について議会予算局が10年後には2400万人が無保険者となることを予想するなど、米国民の賛成は17%程度にすぎないと言われるほど、支持率が低いものでした。また、仮に下院で成立しても、上院では成立する可能性が殆ど無いというものでした。特に、オバマケアによって恩典を受けている米国民はラストベルトの年配工場労働者などのトランプ支持者も含めて多く、彼らは共和党議員が地元でタウンホール会合を開くと強く反対していたことなども影響しました。
今回のオバマケア見直し法案の撤回の影響は、トランプ政権にとっても極めて深刻と見られています。選挙公約であった大幅減税を含む税制改革や大規模インフラ投資も、早急に実現する可能性は低く、11月8日のトランプ政権成立によって作り出されたトランプ相場が今後は調整局面となって不安定度を増していくことも予想されます。
6.オランダの下院選挙結果
英国のEU離脱や米国でのトランプ政権の誕生で、注目されていたオランダの下院選挙は3月15日に行われました。選挙前には、極右で反移民とEU離脱を掲げるウイルダース党首の自由党が議席の倍増を達成するのでないかと見方がありましたが、結果を見ると、ルッテ首相が率いる中道右派の自由民主党が議席数を41議席から33議席へ8議席減らしたものの、引き続き第1党を維持しました。一方、自由党は12議席から20議席へ8議席伸ばし、第2党となりました。また、連立政権を組んでいた労働党は38議席から9議席と大幅に議席数を減らしました。これにより、与党の自由民主党が連立政権を組むことに成功する限り、オランダは引き続き、EUの当初メンバーとして今後とも重要な役割を果たしていくことになります。但し、自由党が大きく躍進した影響は大きく、政権与党は今後、従来よりは右寄りの政策を導入せざるを得ないのではないかと見られます。
7.英国のEU離脱通知
英国のメイ首相は3月29日にEUに対して離脱を通告しました。これにより、英国とEUとの正式な離脱交渉が始まりますが、交渉期間は2019年3月までの2年間で、双方の意見の差は大きく、難航が予想されています。英国としては離脱しても、EUとの自由貿易協定を締結を望んでいますが、EU側には既存メンバーの維持の観点から、強い反対意見があります。一方、EU側は交渉の優先事項として、英国が離脱決定前にコミットした最大600億ユーロの分担金の支払いを求めています。いずれにしても、英国は2年以内に合意に達しなければ、EUメンバーとして享受してきたヒト、モノ、金融、サービスの移動の自由を失うばかりでなく、関税が引き上げられることになり、致命的な痛手になる恐れもあります。
(2017年4月1日: 村方 清)