Saturday, July 1, 2017

利上げと高値相場の不安定性












 
1.6月の株式市場
6月の株式市場は1314日のFOMC会合までは9日のハイテク株の大幅下落を除けば上昇基調でしたが、14日に利上げを決定した後はハイテク株を中心に大幅な下落の動きも見られるなど不安定性が目立ちました。主要な動きは以下の通りでした。

61日:民間雇用サービス会社ADP5月雇用レポートで雇用者数が前月比25万人増を上回ったこと、原油先物相場や長期金利も上昇し、石油や金融株が買いが入り、136ドル高(0.65%増加)。
62日:米政府発表の4月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比138,000人増で、市場予想の185,000人増を大きく下回ったものの(失業率は4.3%に改善)、利上げベースは緩やかなものになるとの期待から、62ドル高(0.29%増加)。
65日:ロンドンでのテロ事件やサウジなどによるカタールとの国交断絶で、国際政治情勢の不透明感から、目先の利益確定の売りが優勢で、22ドル安(0.10%減少)。
66日:ボーイング、マクドナルド、ディズニーなどが売られ、48ドル安(0.28%減少)。
67日:コミー前FBA長官の議会証言の冒頭発言の草稿が公表され、内容が報道された範囲だったことから安心感が広がり、37ドル高(0.82%増加)。
68日:コミー前FBI長官の議会証言が終えたものの、トランプ政権の今後の政策運営に懸念も残り、9ドル高(004%増加)。
69日:成長期待のハイテク株が急激に下落したものの(ナスダックは1.80%下落)、ドッド・フランク法の見直しの金融規制緩和法が下院を通過、金融株が大幅に上昇、89ドル高(0.42%増加)。
612日:アップルやマイクロソフトなどIT株の下落が続き、36ドル安(0.17%減少)。
613日:前日まで下げが続いたIT株が持ち直し、金融規制緩和への期待から金融株も買われて、93ドル高(0.44%増加)。
614日:FOMC3か月振りの利上げを決定、金融株の買戻しが活発化、46ドル高(0.22%増加)。
615日:アップルやアマゾンなどのハイテク株の利益確定売りが続いたことや原油先物相場の下落で石油関連株が売られたことで、15ドル安(0.07%減少)。
616日:原油先物相場が上昇し、石油関連株が買われ、24ドル高(0.11%増加)。
619日:世界的な株高の影響を受けて市場心理が改善し、前週まで軟調だったハイテク株が買われ、145ドル高(0.68%増加)。
620日:原油先物相場が7か月ぶり低水準まで下落したことやダウが過去最高記録を記録していることもあり、目先の利益を確保する売りが優勢で、62ドル安(0.29%減少)。
621日:原油先物相場が10か月ぶりの安値を付けたことかれあ、石油やエネルギー株が売られ、57ドル安(0.27%減少)。
622日:オバマケアの代替法案の公表を受けて、ヘルスケア株が買われたものの、原油先物相場が下落し、エネルギーの売りが優勢で、13ドル安(0.06%減少)。
623日:週末を控え、利益確定の売りが優勢で、3ドル安(0.01%減少)。
626日:金融や公益関連株が上昇したものの、アップルなどのハイテク株は売られ、15ドル高(0.07%増加)。
627日:ドラギECB総裁の金融緩和縮小発言に加え、米上院共和党がオバマケア代替法案の採決を7月以降に先送りすると発表したことで税制改革の遅れが懸念され、99ドル安(0.46%減少)。
628日:米国金利の上昇を受けて、JPモルガンなどの金融株が大幅に上昇して、144ドル高(0.68%増加)。
629日:欧州や英国の中央銀行が金融正常化に伴う資金流入の先細りの懸念から、高値圏にあったハイテク株の利益確定売りが強まり、168ドル安(0.78%減少)。
630日:前日に大幅に下落した反動で、エネルギーや機械関連株が大きく上昇、63ドル高(0.29%増加)。

2.米国の雇用状況
米労働省が62日に発表した5月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比138,000人の増加で、市場予想の185,000人増を大きく下回りました。3月の雇用者数の確定値は50,000人で29,000人の減少、4月の改定値は174,000人で37,000人の減少、合計として66,000人の大幅減少となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者の平均増加数は120,700人で、好調さの目安とされた200,000人を大きく下回りました。なお、1月の失業率は4.3%で、0.1%改善し、20015月以来の低水準となりました(広義の失業率も8.4%0.2%の改善)。労働参加率は62.7%で、前月より0.2%減少しました。5月の時間当たり賃金上昇率は前月比2.0%増加で、前年同月比では2.5%増と同じ水準でした。部門別では建設業が11,000人の増加したものの、小売業は6,100人の減少、製造業も1,000人の減少となりました。

3.FOMC会合とその後の影響
61314日にFOMC会合が開催され、3カ月ぶりに0.25%の利上げを決定しました。会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。前回5月のFOMC会合後に得た情報によると、労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動もこれまでのところ緩やかに拡大している。雇用増は緩やかになったが、今年初め以降平均すると堅調で、失業率は低下している。家計支出はこの数カ月上向いており、企業の設備投資は引き続き拡大した。前年同月比で測ったインフレ率は最近低下し、食品・エネルギー価格を除くインフレ率を同じように。2%をやや下回っている。市場が織り込むインフレ率は依然低い。長期のインフル予想は総じてあまり変わっていない。

FOMCは法律で定められた使命を達成するために、雇用の最大化と物価安定の実現に努める。FOMCは金融政策の運営姿勢の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大、労働市場の状況もさらにいくらか引き締まり、インフレ率は中期的に2%付近で安定すると予測している。景気見通しのリスクは短期的にほぼ均衡してきており、FOMCは物価動向を注視している。

FOMCは労働市場情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を11.25%に引き上げることを決定した。FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、雇用の最大化とインフレ率2%という目標との比較で評価していく。インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。FOMCは対称的な物価目標に対する物価の実際の進捗と予想を注意深く観察する。

米機関債と住宅担保証券の償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する政策を維持する。FOMCは現在、経済情勢が予測通りに推移すれば、年内にバランスシートの正常化に着する予定である。

今回の決定はイエレン議長を含む8人のメンバーの賛成による。

今回の金利引き上げの決定は市場で予想されたものであったことで、金融株を中心に買い戻しが活発化し、ダウは46ドル高となりました。また、今回のFOMC会合で注目されたのは現在45千億ドルに達する連銀の資産規模の縮小を年内に開始することを表明、イエレン議長が早ければ9月にも開始することを示唆したことです。いずれにしても、現在米国の景気はインフ率の停滞状況にあり、金融正常化への道は望ましいにしても、引き締め圧力につながる資産縮小がいつの時点で開始されるかがに市場の関心が向けられています。

なお、14日の利上げ決定後、高値相場が続いたものの、ハイテク株やエネルギー株を中心に下降の動きが見られるなど不安定性が目立っています。今後の高値相場の行方については7月に発表される多くの米企業の四半期業績の結果によって、現在の高値相場が正当化されるかどうか決まってくるものと見られています。

4.英国下院選挙で与党過半数割れ
68日に実施された英国議会の下院選挙で、メイ首相が率いる保守党が圧倒的勝利という事前予想は大きく外れ、330議席から12議席減らし、過半数割れの318議席に留まりました。一方、野党の労働党は選挙前の220議席から41議席増の261議席となりました。メイ首相としては19日から始まるEU離脱交渉には選挙で国民の圧倒的支持を得て、ハードブレグジット(EU単一市場らの撤退)で臨む姿勢でいましたが、今回の選挙結果を受けて、政権維持のためには政策の異なる他の政党の協力が不可欠となりました。その後、北アイルランドの保守政党である民主統一党(DUP)との間で閣外協力について合意されたと伝えられています。

今回、メイ首相が敗北を喫した最大の理由は518日に発表した保守党の政権公約(マニュフェスト)に盛り込まれた高齢者の介護自己負担の増加など社会保障政策への有権者の反発が強かったことにあったとされていますが、そのことが強硬左派論者であるコービン氏が率いる労働党への再評価に繋がったと言われています。

いずれにしても、メイ首相には今回の下院選挙の必要性を含め、党幹部との密接な協議もなく独断で決定してしまうという欠点を持っており、DUPとの閣外協力があっても、英国政治が不安定化するリスクが強くなっているように思われます。

英国とEUの交渉は619日に始まり、EUが求める英国の未払い分担金を優先させ、通商協議は後回しにすることで合意しました。今後の会合では毎月1週間ずつ交渉を行い、当面は(1)最大600億ユーロ(約74000億円)といわれる英国の未払い分担金の支払い、(2)英国で暮らすEU市民の権利や地位の保護、(3)離脱後の英国とアイルランドの国境管理となっています。その上で、会合に十分な進展があったと判断された後に、離脱後の自由貿易協定(FTA)の準備段階に入るとしています。

5.フランスの下院議員選挙の結果
618日に実施されたフランス国民議会(下院)の決選投票の結果、マクロン大統領が率いる共和国前進が共闘する民主運動グループは過半数の289議席を上回る350議席を獲得しました。これに対し、既存の2大政党である社会党は改選前の284議席から45議席に、共和党系は199議席から136議席に大きく減少しました。1958年に第5共和政が発足して以降、右派と左派が政権交代を繰り返してきたフランスの政治で初めて2大政党制が衰退したことが明らかになりました。

マクロン政権の課題としては、共和国前進の約9割が政治経験のない新人議員で、複雑な利害が絡む問題について、こうした議員をまとめながら巧みに運営できるかが未知数の点があります。特に保守的な労働組合に守られたフランスの労働コストは欧州の平均を大きく上回っており、9.6%という高い失業率を改善させるためにも、流動性を高めるべく不当解雇の罰金の上限設定など労働市場改革が不可欠になっています。
          (201771日:  村方 清)