1.10月の株式市場
10月2日:ISMが発表した9月の製造業景況感指数が60.8と前月比2.0ポイント改善したことなどで、買いが優勢で、ダウ平均は153ドル高(0.68%増加)。
10月3日:自動車大手が発表した9月自動車販売が好調だったことから、84ドル高(0.37%増加)。
10月4日:ISMが発表した9月の非製造業景況感指数が59.8と市場予想を大きく上回り、米国景気に対する楽観論が強まり、20ドル高(0.09%増加)。
10月5日:米下院が2018会計年度の予算決議案を賛成多数で可決したことにより、法人税率の引き下げを含む税制改革案が進むとの期待から、114ドル高(0.50%増加)。
10月6日:米政府発表の9月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比33,000人減で、市場予想の75,000人増を大きく下回ったがハリケーンによる一時的な影響と見なされたことや失業率が4.2%に改善、賃金上昇率も上回ったことで、FRBの利上げ懸念から、2ドル安(0.01%減少)。
10月9日:コロンバスデーの祝日で市場参加者が少なかったが、前週に主要な株価指数が最高値を記録したことで、経営陣交代のGEを含め目先の利益確定売りが優勢で、13ドル安(0.06%減少)。
10月10日:大規模な自社株買いをしたウオールマートが大幅高となり、相場をけん引、70ドル高(0.31%増加)。
10月11日:米主要企業の業績発表への期待と証券会社の投資判断が引き上げられたジョンソン・ジョンソンが大きく上げ、42ドル高(0.18%増加)。なお、FOMCの影響は限定的。
10月12日:JPモルガンやシティグループなどの四半期決算は増収増益だったが、株価が最高圏にあることや長期金利の低下で、ディズニーなどと共に売りが優勢で、32ドル安(0.14%減少)。
10月13日:中国の輸出の伸びを示す経済指標を受け、世界経済の回復による米企業業績の拡大期待から、31ドル高(0.23%増加)。
10月16日:長期金利の上昇を受け、JPモルガンやゴールドマンサックスなどの金融株が買われ、85ドル高(0.37%増加)。
10月17日:四半期業績が好調であったジョンソン・エンド・ジョンソンやユナイテッドヘルスが買われ、40ドル高(0.18%増加)。
10月18日:四半期決算が市場予想を上回ったIBMがダウを90ドル超押し上げ、金融株が上昇し、160ドル高(0.70%増加)。ダウは史上初めて23,000ドルを上回った。
10月20日:米上院が2018年度の予算案を可決したことで、法人税減税を含む税制改革に期待が高まり、長期金利も上昇、166ドル高(0.71%増加)。
10月23日:先週末まで連日で最高値を更新していたため、利益確定の売りが優勢であったことや税制改革の不透明感もあり、55ドル安(0.23%減少)。
10月24日:四半期業績好調のキャタピラや3Mが上昇したことに加え、米長期金利の上昇でJPモルガンなどの金融株が買われ、168ドル高(0.72%増加)。
10月25日:四半期業績が不振であったボーイングが大幅安となった他、株価が最高値圏で推移しているため、利益確定の売りが優勢で、112ドル安(0.48%減少)。
10月26日:四半期業績が好調であったフォードなどが上昇、71ドル高(0.31%増加)。
10月27日:四半期業績が好調であったマイクロソフトとインテルの株価が上昇、相場を押し上げ、33ドル高(0.14%増加)。ナスダックのアマゾンやアルファベットが急上昇し、全体を2.20%増加。
10月30日:税制改革について下院が法人税減税の段階的な導入の検討やロシア疑惑との関係でトランプ陣営の元選挙対策本部長が起訴されるなど不透明感が高まり、85ドル安(0.36%減少)。
10月31日:米経済指標の改善や企業業績の好調を背景に買いが優勢で、29ドル高(0.12%増加)。
2.米国の雇用状況
米労働省が10月6日に発表した9月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比33,000人の減少で、市場予想の75,000人増を大きく下回りました。7月の雇用者数の確定値は138,000人で51,000人の減少、8月の改定値は169,000人で13,000人の増加、合計として38,000人の減少となりました。今回の結果はテキサスやフロリダを襲ったハリケーンの影響で一時的と見られています。なお、9月の失業率は4.2%で、0.2%改善しました。労働参加率は63.1%で、前月と同水準でした。9月の時間当たり賃金上昇率は前月比0.5%増加で、前年同月比では2.9%増と0.2%増加しました。部門別ではハリケーンの影響で飲食業が105,000人の減少、製造業も1,000人の減少の反面、建設業は8,000人の増加となりました。
3.9月のFOMC会合
9月11日に、9月19-20日に開催されたFOMC会合の議事要旨が公表されました。それによれば、多くの参加者は、景気見通しに変化がなければ、年内にもう1回の利上げが可能と見ています。低インフレは一時的な要因のみではないとの見方は参加者に共有されていますが、それでも利上げを先送りすべきと考えているのは少数派とのことです。
今後、FOMCは10月31日―11月1日と12月12-13日の2回が予定されていますが、市場はイエレン議長の記者会見がある12月の会合で利上げの是非を判断すると見ています。
FOMCの利上げ判断は12月のFOMC会合まで延ばされるとの見方から、影響は限定的で、11日のダウは42ドル高となりました。
4.米国株の高値更新とバフェット指数に見るバブル度
米国のダウ平均価格は10月13日以降、高値を更新続けていますが、これをGDP比率で比較したバフェット指数で見ると、2017年9月末時点のバフェット指数は131.5でかなり高い水準にあります。2014年10月のブログでも述べましたが、1951年以降2014年9月までの60年間強の平均値は68.6(2017年9月末では70.5)、深刻なスタグフレーションが起きた1982年3年がボトムで32.2%、急激なドットコムバブルが生じた2000年12月がピークで153.6%となっています。また、2008年9月の金融危機後は2009年12月がボトムで59.5、2013年3月には約100%を越え、現在は過去60年間の平均値を60以上越えることになります。
バフェット指数と同じようなものとして、米国の普通株をカバーしているウィルシャー5000(Wilshire 5000 Full Cap
Price Index)がありますが、これも平均値が71.0%、ボトムが1982年3月がボトムで45.6、ピークが2000年12月の136.5、金融危機以降は2009年12月がボトムで56.8%、2013年3月が96.5%、現在は平均値を60近く越える129.6となっています。
いずれにしても、現在の株価がバフェット指数やウィルシャー指数からして、歴史的な平均値から60近く上昇していることについて、より大きな注意が払われるべきと思われます。
5.米国上院が2018年度予算決議案を可決
2018年度予算に関連して、共和党が多数派の上院で予算決議案が10月20日に51票対49票で採択されました。既に共和党が多数派の下院でも同様な決議が採択されており、2018年度予算案は過半数の賛成で承認されることになりました。トランプ政権の予算案は法人税の大幅減税で10年間で15兆ドルの財政赤字が発生すると見られており、財政規律を重視する共和党保守派は赤字幅が少ない予算案を検討していると言われ、今後の展開が注目されます。
なお、米国財務省が20日に発表した2017年度の財政赤字は前年度比13.7%増の6657億1200万ドルとなりました(GDP比率で、前年度比0.3%増の3.5%)。これは財政赤字が2年連続拡大し、13年度以来4年ぶりの高水準になったことを意味しています。
6.第19回中国共産党大会
10月18日から開催されていた第19回中国共産党大会は現在の習主席が今後5年間だけでなく、長期に渡って政権の維持することを確認し、25日に閉幕しました。共産党の創設者である毛沢東元主席以降、鄧小平元主席を除き、集団指導体制を維持してきた中国共産党は今回の大会で、習近平氏の思想を規約に明記することや従来のような後継者の指名を行わないで、習近平主席による個人指導体制に移行することになります。
規約に明記されることになった習近平主席の思想とは、鄧小平元主席が提唱した中国は社会主義の初期段階であり、資本主義の要素も入れて経済を発展しなければならないが、共産党が指導により社会主義の道から外れてはならないという考え方を受け継いでいます。その上で、建国100年の2049年までに「社会主義現代化強国」を完成させ、、経済、軍事、文化などの分野で世界の頂点に立つことで、社会主義の初期段階を終わらせることを目標としています。
今回の共産党大会は習近平主席による長期の個人指導体制を目指した点で、過去の党大会と異なるものですが、政治面で習近平氏による強権政治となる恐れがあること、及び経済面で将来の成長企業が市場経済を志向する中で、政府の社会主義概念による国の管理体制の強化がそれを阻むことになりはしないか等の矛盾を含んでいるように思われます。
7.オーストリアの下院選挙で反難民の国民党が第1党へ
オーストリアの議会下院にあたる国民議会の選挙は10月15日に実施されました。暫定の開票では、中道右派で31歳のクルツ党首が率いる国民党が31.4%、極右政党の自由党が27.4%、中道左派で連立与党を構成する社会民主党が26.7%となりました。この結果、国民党が第1党となり、クルツ党首が首相として新たな連立政権を作る可能性が高まっています。
今回の選挙では、難民政策が最大の焦点となり、今年5月に国民党の党首に就任したクルツ氏は難民受け入れの厳格化を主張、国民の幅広い支持を得ることに成功しました。
今後、もし、国民党が極右の自由党と連立を組めば、反難民でEU批判を掲げる連立政権が誕生することになり、EU内の亀裂が一層広がる危険性が予想されます。
(2017年11月1日: 村方 清)