Monday, April 9, 2018

経済・政治の混乱と株式市場の不安定性















1.3月の株式市場
3月の株式市場はトランプ政権の輸入制限措置や経済、外交、安全保障面に渡る人事面の大きな混乱から、株式市場も安定性を欠く展開となりました。主要な動きは以下の通りでした。

31日:トランプ大統領が中国などを対象に鉄鋼とアルミニウムの追加関税の方針を発表、貿易戦争の悪影響が懸念されるボーイング等が大きく売られ、420ドル安(1.68%減小)。
32日:前日に続き、トランプ大統領の追加関税措置の影響が大きいと見られるボーイングやキャタピラーの下げが大きく、91ドル安(0.29%減少)。
35日:トランプ大統領がツイッターで、鉄鋼とアルミへの関税は新たなNAFTAが署名された場合に限り解除と投稿し、貿易摩擦激化の懸念が後退し、337ドル高(1.37%増加)。
36日:北朝鮮が非核化で米国と対話する姿勢を示し、地政学リスクが和らぐ動きがあったものの、トランプ政権の保護主義的な通商政策への懸念から、9ドル高(0.04%増加)。
37日:トランプ政権の経済政策の中心であったコーン国家経済会議委員長が辞任を表明し、米国政治の不透明感が懸念され、83ドル安(033%減少)。
38日:トランプ大統領が鉄とアルミニウムの輸入制限の文書に署名したものの、カナダやメキシコを当面猶予、同盟国も交渉次第としたため、安心感から、94ドル高(0.38%増加)。
39日:2月雇用統計で雇用者増加数は313,000人と市場予想の約200,000人を大きく上回ったが、賃金上昇率が0.1%増加で、前月より下回ったことで、利上げのペースは緩やかとの見方が強まり、441ドル高(1.77%増加)。
312日:貿易摩擦の懸念から、ボーイングやキャタピラーなど資本財関連の株が大きく売られ、157ドル安(0.62%下落)。
313日:2月のCPI0.2%上昇と市場予想並みに留まり、長期金利が低下、銀行株が売られ、加えてティラーソン国務長官解任で外交の不透明感が増し、172ドル安(0.68%減少)。
314日:トランプ政権の通商・外交政策の不透明感から、中国への輸出依存度が高いボーイングなどが大きく売られ、長期金利の低下で金融株も売られ、249ドル安(1.00%減少)。
315日:新規失業保険申請件数の減少など経済指標の改善を受け、短期の戻りを期待した買いが優勢で、116ドル高(0.47%増加)。
316日:週半ばに大きく下げた反動から、戻りを期待した買いが優勢で、73ドル高(0.29%増加)。
319日:会員情報が不正利用されたフェイスブックが急落、ハイテク全般に売りが広がり、投資家心理が悪化、336ドル安(1.35%減少)。
320日:前日の大幅安の反動で、買戻しの動きが活発であったが、取引終了前にはFOMC会合での利上げペース加速化への警戒感から、上値が重荷となり、116ドル高(0.47%増加)。
321日:FOMC会合後に発表された金利見通しで、利上げの継続が改めて意識され、45ドル安(0.18%減少)。
322日:トランプ大統領が発表した中国に対する高関税措置で中国との貿易摩擦への警戒心が強まり、幅広い銘柄で売りが膨らみ、724ドル安(2.93%減少)。下落幅は28日以来で、過去5番目の大きさ。
323日:前日の大幅下落への反発から買いが先行したが、米中貿易摩擦への懸念が強く、午後に売りが広がり、425ドル安(1.77%減少)。
326日:米国政府と中国政府のやり取りで、貿易摩擦が激化するとの懸念が和らぎ、金融株や半導体関連株が買われ、669ドル高(2.84%増加)。上昇幅は95か月振りの大きさ。
327日:フェイスブックなどに悪材料が出たことで ハイテク株全般が下げ、投資家心理が悪化、幅広い銘柄に売りが出て、345ドル安(1.43%減少)。
329日:下落が続いていたフェイスブックやアマゾンなどの主力ハイテク株が買われ、投資家心理が改善し、255ドル高(1.07%増加)。

2.米国の雇用状況
米労働省が39日に発表した2月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比313,000人の増加で、市場予想の200,000人増を大きく上回りました。12月の雇用者数の確定値は175,000人で15,000人の増加、1月の改定値は239,000人で39,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は242,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を大きく上回りました。なお、2月の失業率は4.1%で、前月と同じ水準でした。労働参加率も63%で、前月より0.3%増加しました。1月の時間当たり賃金上昇率は前月比0.1%増加で、前年同月比では2.8%増となりました。部門別では建設業が61,000人の増加、小売業が50,300人の増加、製造業が15,000人の増加となりました。

3.FOMC会合と金利据え置き
FOMC会合が32021日に開催され、会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。前回1月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は緩やかに拡大した。雇用増はここ数か月間力強く、失業率は低水準に留まった。家計支出と企業の設備投資は20171012月期から緩やかになった。インフレ率はエネルギーと食品の価格を除くと、前年同月比ペースで引き続き2%を下回った。アンケート調査による測定では、長期のインフレ予想はあまり変わっていない。

景気見通しはここ数か月で強まった。FOMCは金融政策の運営姿勢の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大、労働市場の状況も引き続き力強さを保つと予測する。インフレ率は前月同期比で測ったインフレ率は今後数か月で上昇し、中期的にFOMCの目標である2%付近で安定すると予測している。

景気見通しの短期リスクはほぼ均衡してきているようであるが、インフレ率の動向を注視している。
FOMCは労働市場情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを1.501.75%に引き上げることを決定した。緩和的な金融政策は維持し、力強い労働市場及びインフレ率の2%への持続的回帰を支える。

FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ率2%という目標との比較で評価していく。インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。
FOMCは経済情勢がFF金利の緩やかな引き上げを許すようなかたちで進むと予測している。FF金利は、FOMCが長期的に通常と見なされる水準以下に維持される可能性が高い。但し、実際のFF金利の上がり方はデータが伝える経済見通し次第だ。

今回の決定はパウエル議長やダドリー副議長を含む8人のメンバーの賛成による。

今回はFOMC25日に就任したパウエル議長の最初の会合となりましたが、経済成長率予測を201712月時点の2.5%から2.7%へ引き上げ、19年の見通しも2.4%へ引き上げました。雇用情勢についても、ここ数か月の就業者増加は力強いとして20181012月期には3.8%まで下がることを予測しています。これに伴い、インフレ率は20181012月期には1.9%に高まり、2019年には2%に到達すると予測しています。FOMCとしては今回も2018年について、年3回程度の利上げに踏み切るシナリオを維持しました。こうしたことが理由となって、今日のダウはパウエル議長の記者会見後には上昇幅が大幅に縮小し、45ドル安に転じました。

4.トランプ政権の鉄鋼・アルミ輸入制限と知的財産侵害による対中経済制裁
トランプ政権は38日に通商拡大法232条に沿って、国家の安全保障を理由に鉄鋼とアルミニウムの輸入に対し、それぞれ25%、10%の追加関税を課すことを発表しました。23日に発表された具体的な措置によれば、EU、カナダ、韓国など7か国・地域には維持的に猶予する一方、中国や日本に対しては適用することになりました。
更に、トランプ政権は322日に中国による知的財産権の侵害を理由として、通商法301条を発動し、500億-600億ドル相当の中国製品に25%の高関税を課す制裁措置も発表しました。

前者については、追加関税の発動を猶予する7か国・地域からの鉄鋼輸入が米国全体の6割以上となっているところから、これらの対象国とは米国に有利な個別のFTA(自由貿易協定)を結ばせるための圧力と見られています。また、日本については個別の貿易協定の協議に難色を示しているところから、追加関税適用の対象国にしたものと見られています(日本政府の中には安全保障上の同盟国である日本に対しては猶予してもらいたいとの思惑があるようですが、米国にとって第3位の貿易収支赤字国である日本が貿易収支の赤字を大幅に減少させる具体的な提案が求められていると思います)。
一方、後者は米国にとって中国は2017年で約3,752億ドルという最大の貿易赤字国であり、それを大幅に減少させる方法として、知的財産権の侵害を理由に高関税を課すことを持ち出したものと見られています。しかしながら、米国が中国に対して大幅な貿易赤字を続けている最大の理由は米国の大手企業が製品の技術を移転しながら、中国の安い労働者を使って競争力のある製品を作ってきたという経緯があるだけに、高率関税の適用は中国からの米国農産品に対する輸入制限という対抗措置だけでなく、中国で競争力のある製品の生産を続けてきた米国企業や米国の消費者が被害者になってしまうことも予想されます。

今回の措置はいずれも、今年11月の中間選挙で苦戦が予想されるトランプ大統領が支持者の拡大のために、米国の貿易赤字問題を使って巻き返しを図りたいとする戦略の一部として持ち出されたものと見られています。しかしながら、米国政府による一方的な措置は中国からの強い反発と大きな報復を招き、世界経済を巻き込む貿易戦争に発展しまう恐れが出てきています。
本来、米国が中国による知的財産権の侵害を問題にしたいのであれば、関税などの輸入制限措置ではなく、自動車などの重要産業の分野で1978年以降、中国が開放政策の一環として長期間に渡って取ってきた外資導入策、特に中国側による51%の過半数支配の原則を問題にすべきと思われます。過半数支配の下で日米欧の企業が競い合って中国に進出したことが西側からの中国側企業に対する重要な技術流出の拡大と中国経済の急速な拡大を招く結果になりました。そして中国共産党による独裁政権は中国を自由な開放された市場を作り出すことには関心はなく、中国企業優先の発展政策を続けることになっています。更に対外的には、中国経済の強化が世界の多くの地域で中国による覇権主義の浸透を招いています。

なお、今回のトランプ政権の輸入制限措置については、トランプ政権の経済政策の要であったコーン国家経済会議委員長は鉄鋼・アルミニウムの輸入制限に強く反対、通商政策をめぐる対立から、数週間以内に辞任することを表明しました。コーン氏は20171月にゴールドマン・サックスの社長兼最高執行責任者(COO)から転じたものの、國際協調派的な立場で、トランプ政権の強硬な通商政策に反対、NAFTAからの離脱にも異議を唱えてきました。
5.ドイツの大連立政権発足とイタリアの混乱
ドイツの社会民主党(SPD)は34日に党員投票でキリスト教民主・社会同盟(CDUCSU)との連立合意が承認されたことを発表しました。彼らの発表によれば、賛成が66.02%で、反対が33.98%で、約3分の2が賛成したことになりました。これにより、ドイツは5か月以上の政治空白を経て、3月半ばにメルケル首相の第4次政権が発足することになります。

昨年924日に実施された連邦議会の選挙では、与党のCDUCSUが前回の41.7%を大きく下回る33%、連立を組んでいたSPDは戦後最低の21%に激減しました。このため、SPDは今回は連立に加わらず、野党に転じることを決定しましたが、与党のCDUCSUと自由民主党(FDP)との連立協議が失敗した結果、大統領の強い依頼で、再びSPDとの連立協議が行われ、今年2月に、SPDは党員投票での承認を条件に連立の合意を受け入れたものです。
これにより、欧州最大の経済大国であるドイツで安定政権が再び発足することになりましたが、昨年9月の選挙結果に見られたように、メルケル首相の求心力は低下しており、EUの東欧諸国で(最近はイタリアでも)起きている排外主義や孤立主義の台頭にどこまでブレーキがかけられるかは不透明な状態です。

一方、イタリアでは4日に総選挙が実施され、どの主要政党も過半数を取れない結果となりました。上下両院で第1党となったのは中道右派連合で、上院で約42%、下院で約37%を取ったとされています。見られています。第2党となったのはポピュリズム政党の「五つ星運動」で、上院で約36%、下院で約37%を取ったと見られています。一方、与党の中道左派連合は上院で約18%、下院で約16%と惨敗しました。
いずれの党も過半数を取っていないため、今後は連立政権のための交渉が焦点になります。最大の中道右派は五つ星運動を敵視していること、中道左派に対しても移民政策で大きな差があり、他党との連立は容易ではないと見られています。第2の五つ星も他党との連立に否定的ですが、最近は従来主張していたユーロ離脱を問う国民投票の実施を撤回したり、経済政策面で

最低賃金の増額や大型減税など与党の民主党の政策に近いものを出しており、中道左派との連立協議で、合意が達するかが鍵となるように思われます。
      
          201841日:村方 清)