1.12月の株式市場
12月の株式市場はFOMC会合が開かれる18-19日までは米中貿易摩擦問題の長期化とFRBの金融引き締めへの警戒感から下落基調が続き、それ以降は国境の壁建設を巡るトランプ政権と野党の対立から一部政府機関の閉鎖などから、不安定な展開となりました。主要な動きは以下の通りでした。
12月3日:1日の米中首脳会談で米国が年明けからの中国への追加関税を90日間猶予したことで合意したことや米原油相場の反発から、買いが優勢となり、288ドル高(1.13%増加)。
12月4日:米国の債券市場で、一部の年限での長短金利の逆イーグルが起きたことを受け、景気減速の懸念が広がったことや米中貿易協議の懸念から、799ドル安(3.10%減少)。12月6日:中国通信大手の幹部の逮捕が米中関係の悪化を招くとの懸念が強まり、一時785ドル安まで下げたが、取引終了前に米利上げ休止観測から、下げ幅を縮め、79ドル安(0.32%減少)。
12月7日:11月雇用統計で雇用者増加数が155,000人増で市場予想の190,000人増を下回り(失業率は3.7%で同水準)、賃金上昇率も年率3.1%であったこと及び米中摩擦問題の懸念が強まり、アップルなどを中心にハイテク株が大幅に下がり、559ドル安(2.24%減少)。
12月10日:英国がEU離脱を巡る議会投票が延期されたことにより、一時500ドル下落したが、その後、大きく下落していたアップルが持ち直し、34ドル高(0.14%増加)。
12月11日:米中貿易交渉の長期化と米予算編成をめぐるトランプ大統領と民主党幹部との対立が伝えられ、53ドル安(0.22%減少)。
12月12日:米中貿易交渉の進展が期待される報道で中国売上が大きい銘柄を中心に買いが広がり、米長期金利や原油先物相場の上昇で金融や石油株も買いが入り、157ドル高(0.64%増加)。
12月13日:米中貿易問題の進展や原油先物相場の上昇で、70ドル高(0.29%増加)。
12月14日:中国と欧州の経済指標が景気減速を示す内容となり、投資家のリスク回避姿勢が強まり、497ドル安(2.02%減少)。
12月17日:18-19日に開催されるFOMCで今年4回目の利上げに踏み切る可能性が高く、投資家がリスク回避の姿勢を強め、508ドル安(2.11%減少)。
12月18日:前日まで大幅下落した反動で、自律反発を見込んだ買いが優勢であったが、FOMCの結果を19日に控え、午後は買い見送りムードが強まり、伸び悩みで、87ドル高(0.35%増加)。
12月19日:FOMCが今年4回目の利上げを決定、FRB議長の記者会見で2019年も緩やかな利上げを続ける姿勢を示したことで、市場の警戒感が強まり、352ドル安(1.49%減少)。
12月20日:FRBの今後の金融政策が引き締め的になるとの見方から株価の割高感が意識され、更に米連邦政府機関の一部閉鎖の可能性が高まったとの報道から、464ドル安(1.99%減少)。
12月21日:景気減速の懸念や米政府機関の一部閉鎖への警戒感などから、投資家のリスク回避姿勢が強まり、414ドル安(1.81%減少)。
12月24日:ムニューシン財務長官が米銀大手首脳と電話会談し、決済等に問題がないことを確認したが、これが逆に金融市場の混乱を招いて投資家のリスク回避姿勢を強め、653ドル安(2.91%増加)。
12月26日:12月の株価急落の影響で、機関投資家の運用資産に占める株式の組み入れ比率が下がったことから、基準値に戻す必要から買いが優勢で、1,086ドル高(4.98%増加)。
12月27日:下落基調が続いた反動で、持ち高調整の買いが次第に大きくなり、260ドル高(1.14%増加)。
12月28日:国境の壁建設を巡って、トランプ大統領と野党民主党が対立し、政府機関の一部閉鎖が続く見通しであることや世界経済の減速懸念から、76ドル安(0.33%減少)。
12月31日:米中貿易交渉の進展への期待と機関投資家の年末の買い増しなどで、265ドル高(1.15%増加)。ダウは2018年全体で年間5.6%の下落。
2.米国の雇用状況
米労働省が12月7日に発表した11月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比155,000人の増加で、市場予想の190,000人増を下回りました。9月の雇用者数の確定値は119,000人で1,000人の増加、10月の改定値は237,000人で13,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約170,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、9月の失業率は3.7 %で、前月と同水準でした。労働参加率は62.9%で、前月と同水準でした。10月の時間当たり賃金上昇率は前月比6セント増加で、前年同月比では3.1%増となりました。部門別ではレジャー・ヘルスケアが32,000人の増加、専門・ビジネス・サービス業が32,000人の増加、製造業が27,000人の増加となりました。3.FOMC会合と金利引き上げ
FOMC会合が10月18-19日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回11月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は力強く拡大した。雇用増はここ数か月間平均すると力強く、失業率は低位を保っている。家計支出は拡大を続けたが、企業の設備投資は今年前半の高い伸びと比べ緩やかになった。全般的なインフレ率及びエネルギーと食品を除くインフレ率はいずれも、前年同期比ベースで2%付近で推移している。長期のインフレ予想を示す指標は総じあまり変わっていない。
法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジをさらに若干、段階的に引き上げることは持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、中期的に目標の2%前後付近のインフレ率と整合すると判断している。景気見通しのリスクはほぼ均衡していると判断しているが、引き続き世界景気や市場動向を注視し景気見通しへの影響を分析する。
FOMCでは労働市場の情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを2.0-2.25%に引き上げることを決定した。
FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。
今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む10人のメンバーの賛成による。
連銀は19日のFOMC会合で3カ月ぶりの利上げを決定しました。米経済は失業率が49年ぶりの水準まで低下するなど堅調で、投票メンバー10人の全員一致で年内4回目の利上げとなりました。その一方、先行きの金融政策見通しでは、19年の想定利上げ回数は計2回が中央値となりました。この背景には物価に過熱感がないことが先行きの利上げ慎重論になっていると見られます。
なお、今回のFOMCの結果発表後に米債券市場で長短金利の差が縮まり、利さやが縮小するとの観測から、金融関連株が売られ、352ドル安となりました。
3.トランプ大統領の求める“国境の壁”と政府機関閉鎖問題
トランプ大統領が選挙期間中に主張していた“国境の壁”が政府予算の措置との関係で新たな問題を迎えています。本来、トランプ大統領の主張はメキシコ側の負担で“国境の壁”を建設するものだったのですが、メキシコ政府が全く応じる姿勢を示さなかったことから、大統領が米国内で予算手当を行うことで建設することに変わった経緯があります。しかしながら、米国財政はトランプ大統領と与党共和党が掲げた大幅減税で昨年末に実行されたことにより、急激に悪化してきており、大統領が主張する約50億ドルと言われる国境の壁が議会で受けいれられる可能性は極めて低いとおもわれます。会期切れであった12月22日に野党民主党との話し合いが行われましたが、民主党幹部は国境の壁は税金の無駄使いとして受け入れず、トランプ大統領は“国境の壁”の建設のための予算措置が講じられない限り、政府機関の一部閉鎖もありえると反論、それを実行に移しました。そして、12月27日と31日に渡って与野党の話し合いが行われましたが、意見の一致を見ず、現状では政府機関の閉鎖は年を越す可能性が高まってしまいました。4.混迷する英国のEU離脱問題
メイ首相は12月11日に予定されていたEUとの離脱合意案の議会採決を大差で否決される見通しが高いとして、延期しました。その後に、メイ首相は17日に英議会による採決を来年1月14日からの週に採決する意向を示しました。同時に、18日の閣議では、協定案が承認されず、合意なし離脱に追い込まれた場合の対応について協議、物流の混乱が予想される国境の管理や治安維持などのために、合計20億ポンドの予算を配分することを承認しました。また、ウイリアムソン国防相はこの日の議会で、合意なし離脱に備え、各省庁をサポートするために3500人規模の兵士を派遣する準備をすることを表明しました
英国とEUが11月に合意した協定案では、英領北アイルランドと地続きのアイルランドとの間で人や物の自由な行き来を続けるため、解決策がない限り、英国全体がEUの関税ルールに従い続けるという非常措置が盛り込まれていました。これについて、与党保守党の強硬離脱派は永久にEUルールに縛られるなどと反発、メイ首相は非常措置の期限を区切るなどの保証をEUから引き出すように協議を続けていますが、現時点では成功していません。いずれにしても、英国のEU離脱問題は期限である3月末に近づいているものの、合意の見通しが立たない状況です。
(2019年1月1日: 村方 清)