Friday, February 1, 2019

連銀の金融正常化慎重方針と回復基調の米国市場







 
 
 
 
 
 
 
  
1.1月の株式市場
1月の株式市場は12月末の政府機関の閉鎖という動きはあったものの、連銀が金融正常化を急がないとの方針を出したことや米中貿易交渉の進展への期待もあり、回復基調となりました。主要な動きは以下の通りでした。

12日:朝方にダウ平均が400ドル近く下げることがあったが、その後、米中貿易交渉の進展への期待と米企業業績からみた割安感から買いが入り、ダウは19ドル高(0.08%増加)。
13日:アップルの売上高見通しの引き下げ、中国の景気減速やスマートフォンの需要減退への懸念から、アップル経済圏の銘柄に売りが広がり、660ドル安(2.83%減少)。
14日:12月雇用統計で雇用者増加数が312,000人増で、市場予想の180,000人増を大きく上回り(失業率は3.9%で0.2%悪化)、賃金上昇率も年率3.2%であったこと及びパウエル連銀議長が金融政策の正常化を急がないと受け止められ、747ドル高(3.29%増加)
17日:米中の次官級貿易会議に関連して、交渉の進展への期待で、98ドル高(0.42%増加)。
18日:米中貿易協議の進展への期待から、中国事業の比率が高いボーイングやアップルを中心に多くの銘柄で買いが鵜優勢で、256ドル高(1.09%増加)。
19日:9日に終了した米中貿易協議の進展に加え、パウエル連銀議長の公開討論会での利上げや資産圧縮についての慎重発言が伝えられ、92ドル高(0.39%増加)。VIX指数も19台に低下。
110日:米中貿易交渉の進展による投資家心理の改善やFRBの利上げを急がないとの見方から、123ドル高(0.51%増加)。
111日:昨日までの相場上昇で、利益確定目的とする売りが優勢で、6ドル安(0.02%減少)。
114日:中国の貿易統計から中国経済の減速懸念が示されたことや米政府機関の閉鎖で米国政治の不透明感が広がり、86ドル安(0.36%減少)。
115日:サービス料金の引き上げをしたネットフリックスや四半期業績がが好調であったユナイテッドヘルスが大きく株価を上げ、156ドル高(0.65%増加)
116日:ゴールドマンサックスやバンクオブアメリカの四半期業績が好調で、金融株が相場を押し上げ、142ドル高(0.59%増加)。
117日:米政府が対中関税の引き下げを検討していると伝えられ、米中貿易摩擦の懸念が後退し、投資家心理が改善、163ドル高(0.67%増加)。
118日:米中政府の歩み寄りで貿易交渉が進展するとの期待が高まり、336ドル高(1.38%増加)。
1月22日:中国や世界経済の景気減速への警戒感が広がり、海外市場の売り上げ比率が高い企業の銘柄が幅広く売られ、302ドル安(1.22%減少)
123日:四半期業績が好調であったIBMが相場をけん引し、171ドル高(0.70%増加)。
124日:ロス商務長官の発言により米中貿易協議の進展に対する期待が後退し、22ドル安(0.05%減少)
125日:FRBが金融正常化のペースを緩めるとの思惑の広がりに加えて、米中貿易摩擦の交渉の進展への期待から、184ドル高(0.75%増加)
128日:四半期業績が不振であったキャタピラーにより、中国の需要低迷が意識され、市場のリスク資産への配分が減少し、209ドル安(0.84%減少)。
129日:スリーエムなど四半期決算が市場予想を上回った銘柄が買われたものの、今週開催されるFOMCの結果を見たい投資家も多く、52ドル高(0.21%増加)。
130日:FOMCの声明文が公表となり、FRBの利上げ慎重姿勢が改めて確認できたことから、市場の安心感が広がり、435ドル高(1.77%増加)。
131日:前日に大幅高となった反動で利益確定売りが優勢であったことや四半期業績が不振であったことに加え、長期金利の低下で銀行株が下げたことで、15ドル安(0.06%減少)。

2.米国の雇用状況
米労働省が14日に発表した12月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比312,000人の増加で、市場予想の180,000人増を大きく上回りました。10月の雇用者数の確定値は274,000人で37,000人の増加、11月の改定値は176,000人で21,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約287,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を大きく上回りました。なお、12月の失業率は3.9%で、前月から0.2%上昇しました。労働参加率は63.1%で、前月から0.2%増加しました。12月の時間当たり賃金上昇率は前月比11セント増加で、前年同月比では3.2%増となりました。部門別では専門・ビジネス・サービス業が42,000人の増加、飲食サービス業が41,000人の増加、建設業が38,000人の増加、製造業が32,000人の増加、小売業が24,000人の増加となりました。

3.FOMC会合と金利引き上げ
FOMC会合が12930日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回12月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は堅調に拡大した。雇用増はここ数か月間平均すると力強く、失業率は低位を保った。家計支出は力強く拡大を続けたが、企業の設備投資は昨年前半の高い伸びと比べ緩やかになった。全般的なインフレ率及びエネルギーと食品を除くインフレ率はいずれも、前年同期比ベースで2%付近で推移している。長期のインフレ予想を示す指標は総じあまり変わっていない。

法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。

この目標を支えるため、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを2.252.5%に据え置くことを決定した。FOMCは引き続き、持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、目標の2%前後付近のインフレ率がもたされるだろうと見ている。海外の経済・金融動向およびインフレ圧力が抑制されている点を考慮し、FOMCFF金利の誘導目標レンジを調整するのを様子見する。

FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。
今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む10人のメンバー全員の賛成による。

なお、今回のFOMC会合後の記者会見で、パウエル議長は利上げ終結の可能性と共に、連銀の保有資産を圧縮する「量的引き締め」も当初想定したよりも早期に終了することを明言しました。連銀の金融正常化慎重方針が確認されたことで市場の安心感が広がり、435ドル高(1.77%増加)となりました。

4.トランプ大統領の譲歩による政府機関閉鎖の一部解除
トランプ大統領は125日に米政府機関の一部閉鎖の解除で与野党と合意しました。従来主張してきた“国境の壁”の建設予算を含まないつなぎ予算を215日までの3週間を容認しました。これにより、昨年1222日に始まり、過去最長を更新していた閉鎖期間は35日目で一時的に終了することになりました。トランプ大統領が今回閉鎖の解除を決めたのは、政府の無給職員の数が80万人超に達し、米国の経済に与える影響が無視できなくなったこと、更に与党共和党からもトランプ大統領に早期の譲歩を求める動きが広がったことがあげられます(トランプ大統領の支持率は34%まで低下)。

今後、トランプ大統領の意向を踏まえた与党の共和党と野党の民主党の協議が215日まで続けられることになりますが、米国政府の財政赤字が急増している中で、約57億ドルという巨額の歳費を“国境の壁”の建設にトランプ大統領の要求に相当な無理があると思われます。トランプ大統領としては2020年の再選に向けて、彼の支持層を繋ぎとめるためには選挙公約である“国境の壁“を実現しなければという超保守派の考えに影響されているとの見方も出ています。しかし、トランプ大統領が非常事態条項を使っても”国境の壁“の建設に固執すれば、他の共和党グループが離れていくという矛盾を抱えているだけに、大統領はより現実的な選択をすることが求められているように思われます。

5.英国議会によるEU離脱案否決と今後の行方
英国議会下院は115日にEUと合意した離脱案を賛成202票、反対432票の大差で否決しました。野党はこれを受けて、メイ政権に対する内閣不信任案を提出しましたが、与党からの十分な賛成票は得られず、否決となりました。これを受けて、メイ首相は代替案について、他党とも対話をする方針を示し、21日にアイルランドの国境問題への対応の修正を検討する代替案を発表し、29日に他の修正案と共に、採決にかけられる予定ですが、承認が得られる可能性は依然低いままに留まっています。

こうした状況の中で、与野党議員から3月末の離脱延期を求める修正案が相次いで提出されました。離脱延期を求める修正案はEU残留派の議員グループが提案していましたが、その狙いは英国経済に大混乱を与えかねない“合意なき離脱”を阻止するのが目的でした。しかし、この案は29日に僅差で否決されました。29日で承認された修正案は、アイルランドとの国境問題への対応でEUに対して修正を求めるというものですが、EU側は昨年11月に合意した離脱案の修正には応じないとの方針であり、これが実現する見通しは依然立っていません。
           (201921日:村方 清)