Friday, March 1, 2019

米中貿易交渉進展への期待が先行した米国市場









 





1.2月の株式市場
2月の株式市場は1月と同じく、連銀の金融正常化慎重方針と米中貿易交渉進展への期待から、回復基調が顕著で222日には26,000ドル台になりました。しかし、月末に米朝首脳会談で合意がなかったため、地政学リスクへの警戒心から再び下落相場となりました。主要な動きは以下の通りでした。
21日:1月雇用統計で雇用者増加数が304,000人増で、市場予想の180,000人増を大きく上回り(失業率は4.0%で0.1%悪化)、賃金上昇率も年率3.2%であったことから、投資家心理が改善し64ドル高(0.26%増加)
24日:アップルやアマゾンなどハイテク株が買われたことやFRBの金融引き締めを急がないとの見方が広がり、175ドル高(0.70%増加)。
25日:米景気の先行き不透明感が後退し、米国主要企業の四半期業績発表でも底堅さが見られ、投資家心理が改善し、172ドル高(0.68%増加)。
26日:前日に2カ月ぶりの高値を付けたこともあり、利益確定売りが優勢で、21ドル安(0.08%減少)。
27日:米中貿易交渉が合意するとの期待が後退したことや欧州を中心に世界景気の減速懸念が
再燃したため、221ドル安(0.87%減少)。
28日:米中貿易協議の不透明感や世界景気の減速懸念が続き、63ドル安(0.25%減少)。
211日:米中貿易協議の進展に向けた動きへの期待から買いが先行したが、勢いは続かず、また
繋ぎ予算の期限切れによる政府機関の閉鎖も懸念され、53ドル安(0.21%減少)。
212日:米与野党指導部が新予算で基本合意し、米政府機関の再閉鎖回避の観測や11日からの米中次官級会議で貿易交渉の進展の期待から、373ドル高(1.49%増加)
213日:米中貿易交渉進展と米政府機関再閉鎖回避の期待が続き、118ドル高(0.46%増加)。
214日:朝方発表の昨年12月の米小売売上高が市場予想を前月比1.2%減で、米景気の不透明感が強まり、銀行株や資本財株に幅広く売りが出て、104ドル安(0.41%減少)。
215日:政府機関の閉鎖がなくなったことや北京での米中貿易交渉がワシントンで継続される方針が伝えられ、協議進展の期待から買いが膨らみ、444ドル高(1.74%増加)
219日:四半期決算が好調であったウォールマートが上昇、小売株に買いが広がり、8ドル高(0.03%増加)。
220日:FOMCの議事要旨で、資産圧縮の停止地金が2019年後半と明記されたことから、市場は前向きに反応し、63ドル高(0.24%増加)。
221日:2月のフィラデルフィア連銀製造業指数が20165月以来初めてマイナス圏に落ち込んだことや昨年12月の耐久剤受注額も市場予想ほど増えず、103ドル安(0.40%減少)。
222日:米中貿易交渉が進展し、3月中に米中首脳が会談し、最終合意を目指すことが明らかになったことで、181ドル高(0.70%増加)。
225日:トランプ大統領が24日に中国製品への関税引き上げの延期を表明し、米中の貿易協議が進展するとの期待から、幅広い銘柄に買いが優勢となり、60ドル高(0.23%増加)。
226日:四半期業績が不振であったホームデポや投資判断が悪化したキャタピラが大幅に下落し、34ドル安(0.13%減少)。
227日:米通商代表部のライトハウザー代表が下院の公聴会で、米中協議について合意までに慎重な姿勢を示したことから、市場の警戒感が増して、73ドル安(0.28%減少)。
228日:米朝首脳会談で北朝鮮の非核化で合意に至らず、地政学リスクの警戒に加え、医療保険制度改革の不透明感から、利益確定の売りが優勢で、69ドル安(0.27%減少)。
 
2.米国の雇用状況
米労働省が12日に発表した1月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比304,000人の増加で、市場予想の180,000人増を大きく上回りました。11月の雇用者数の確定値は196,000人で20,000人の増加、12月の改定値は222,000人で90,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約241,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を大きく上回りました。なお、12月の失業率は4.0%で、前月から0.1%上昇しました。労働参加率は63.2%で、前月から0.1%増加しました。1月の時間当たり賃金上昇率は前月比3セント増加で、前年同月比では3.2%増となりました。部門別ではレジャー・接客業が74,000人の増加、建設業が52,000人の増加、ヘルスケア業が42,000人の増加、専門業・ビジネスサービス業が30,000人の増加、運輸業が27,000人の増加、小売業が21,000人の増加となりました。
 
3.トランプ大統領の一般教書演説
トランプ大統領は当初129日に予定されていた一般教書演説を25日に上下両院合同会議で行いました。演説の冒頭で、2つの政党ではなく、1つの国家を、米国民のアジェンダと述べ、党派を超えた団結を訴えました。これは昨年の中間選挙で、下院多数派となった民主党を意識し、譲歩を迫るものでした。特に、これは民主党が進めようとしているトランプ大統領の不正に関する調査を牽制する意図があったものと見られます。
次に、経済面で政権発足後の2年間で、米国経済は前例のない好調ぶりを示してきたことを強調、雇用創出や賃金上昇、失業率の低下などの数字を示して成果を強調しました。しかし、その背景にはトランプ減税やインフラ歳出の拡大により、米国の財政が急速に悪化している状況には一切の言及がありませんでした。
更に、不法入国者の問題に多くの時間を割き、犯罪者や麻薬が米国に侵入しているとしているとして危機感を強調、米国民の命と雇用を守るために国境の壁を強化し、壁を建設する必要があることを改めて主張しました。これは2020年秋の大統領選挙を意識して、共和党内の支持層の確保のために、国境の壁の建設は譲れないことを改めて強調したものでした。
貿易面では、中国に対する不公正な貿易慣行を終わらせ、米国の慢性的な貿易赤字を解消し、米国民の仕事を守るために実質的な構造的な変化が含まなければならないとして、知的財産権の侵害を伴う中国の取引慣行に強い改善措置を求めました。
また、外交面では北朝鮮情勢に触れ、自分が大統領でなければ、北朝鮮とは戦争になっていただろうとして、22728日の両日にベトナムで金委員長と会談することを明らかにしました。北朝鮮との緊張緩和の傾向が出てきたことは評価されるものの、北朝鮮の非核化が殆ど進んでいない状況への言及はありませんでした。
いずれにしても、今回のトランプ大統領の一般教書演説は、来年の大統領選挙を意識して、自分の実績を強調すると共に、再選に不可欠と言える国境の壁の建設を強く呼びかけたものと言えます。しかし、野党の民主党からの反応は厳しく、大統領の思惑通りにはいかなかったと言えます。
 
. 米国2019年会計年度予算成立と壁建設のための非常事態宣言
トランプ大統領が2019会計年度予算の中に、国境の壁建設に必要な費用として57億ドルの予算を求められていた連邦議会は214日に両院とも壁の建設費用として137500万ドルを活用できるとする予算案を承認しました。トランプ大統領はこの予算案を不満としましたが、政府機関閉鎖の悪影響が大きいとして、15日にはこの予算案に署名しました。それと同時に、トランプ大統領は国境の壁建設は不可避として、15日に非常事態宣言を発表し、約81億ドルの費用を大統領権限で捻出することを明らかにしました。トランプ大統領としては19会計年度の137500万ドルに加え、非常事態宣言により、軍の工事予算から36億ドルを、国防総省の薬物対策費から25億ドル、財務省基金から6億ドルの合計約67億ドルを捻出して、全体で約81億ドルを壁建設に充当することを予定しています。
野党民主党は、トランプ大統領の非常事態宣言は大統領の権限を逸脱するもので、今回のケースが認められれば、議会の予算権限を奪うことになりかねないことや今後は大統領の権限が大きくなりすぎ米国憲法が定める三権分立制が機能しなくなるとし、訴訟に踏み切るとしています。これに対して、トランプ大統領は訴訟を覚悟の上で、最高裁で争う意向を示しているとされます。
今回の非常事態宣言に加え、米国政府が抱えるもう一つの大きな問題は31日に連邦政府の債務の法定上限が期限を迎えることになります。もし上限引き上げについて、米議会の与野党が合意を見なければ、米国債が債務不履行に陥るリスクも存在することになります。特に、現在、米国の債務はトランプ政権による大幅減税などで、211日に22兆ドルを突破しており、引き上げをめぐる議会の議論が激しくなることも予想されます。
 
5.第2回米朝首脳会談は合意見送り
米国内でトランプ大統領の元顧問弁護士であったマイケルコーエン被告の議会公聴会で、トランプ大統領の不正を次々に明らかにする中で、外交面での輝かしい成果を期待していたトランプ大統領にとって第2回目の米朝首脳会談は予想外の展開になりました。トランプ大統領としては核開発の主要拠点である寧辺の核施設の廃棄だけでなく、その他の非核化の取り組みを求めたものの、北朝鮮側はこれに応ぜず、逆に国連による制裁の全面的解除を要求し、交渉は決裂となりました。
今回の交渉が決裂となった最大の理由は、北朝鮮の金委員長がトランプ大統領の立場を読み違えたことにあり、国内面で追い込まれているトランプ大統領であれば、更なる非核化を実行しなくても、北朝鮮に対する制裁をかなり解除するとのではないかとの思惑が強く働いたことにあると思われます。トランプ大統領としては、国内面で追い込まれているとは言え、非核化の面で第1回の首脳会談以降に北朝鮮が表明してきた内容以上に進展がない状況では、北朝鮮にこれ以上の譲歩することは行き過ぎとの考えに同調したものと見られます。
交渉は今後も継続されますが、北朝鮮の非核化を求める米国と核保有を最大の交渉材料にしたい北朝鮮の考え方の違いは大きく、今後の展望は依然として見通しが立てられない状況です。
         201931日: 村方 清)