Monday, July 1, 2019

金融緩和と米中貿易協議進展の報道に過剰反応した市場












1.6月の株式市場
6月の株式市場は、連銀の金融緩和策と米中貿易協議の進展への過剰期待により月間上昇率が7%を超える大幅な上昇となりました。主要な動きは以下の通りでした。

63日:前週までの下げ基調から短期的な戻りを見込んだ買いが入りやすく、景気変動の影響を受けにくいコカ・コーラや医薬品株が幅広く買われ、ダウ平均は5ドル高(0.02%増加)。
64日:FRBのパウエル議長が景気拡大を持続させるために適切な行動を取ると発言、利下げ期待が高まり、米中貿易摩擦への懸念も和らぎ、512ドル高(2.06%増加)。
65日:ADP5月雇用レポートで、非農業部門雇用者数が27千人に留まったことから、FRBの利下げ観測が高まり、幅広い銘柄が買われ、207ドル高(0.82%増加)。
66日:連銀による利下げ観測を背景にこの日も買いが続き、181ドル高(0.71%増加)。
67日:5月の米雇用統計で雇用者増加数が75,000人増で、市場予想の180,000人増を大きく下回り(失業率は3.6%で前月と同水準)、連銀が早期に利下げするとの観測が一段と強まり、263ドル高(1.02%増加)。
610日:トランプ大統領がメキシコからの全輸入品への関税発動を無制限に見送ったことで、投資家の不安が和らぎ、79ドル高(0.30%増加)。
611日:前日までの6日間の続伸で1247ドル上昇しており、目先の利益確定の売りが優勢で、14ドル安(0.05%減少)
612日:半導体関連株に売りが出た他、米利下げ観測などで金融株にも売りが出て、44ドル安(0.17%減少)。
613日:原油先物市場の上昇で、石油株が買われたことや早期の米利下げ観測を背景に買いが優勢で、102ドル高(0.39%増加)
614日:中国経済指標の悪化を受けて中国需要の回復に対する期待が後退、ダウやアップルなど中国依存の高い銘柄を中心に売りが優勢で、17ドル安(0.7%減少)
617日:1819日に開かれるFOMC会合を控え、早期の利下げ期待が相場を支え、23ドル高(0.09%増加)。
618日:欧米の金融緩和への期待と米中首脳会談が来週開催されるとの見通しから、投資家のリスク選好姿勢が強まり、353ドル高(1.35%増加)
619日:1819日に開催されたFOMCで、声明文に「不確実性が増しており、成長持続に必要な措置を取ると明記され、想定通りの内容だったことから、38ドル高(0.15%増加)。
620日:昨日のFOMC会合を受けて、早期の米利下げ観測が強まったことや米中貿易協議の進展への期待から、249ドル高(0.94%増加)
621日:米商務省が制裁対象に新たに外国の政府系スーパーコンピューター大手企業を加えたことから、これらの企業と取引のある米企業の株が売られ、34ドル安(0.13%減少)
624日:米中が貿易協議のために事務レベルで再開したとの報道で協議進展への期待が高まり、8ドル高(0.03%増加)。
625日:FRBのパウエル議長が利下げの必要性について慎重であったことや米国の消費者信頼度指数が前月比9.8低下の121.5まで低下したことなどで、179ドル安(0.67%減少)。
626日:米中貿易問題について29日の米中首脳会議に期待する向きもあるが、上昇が目立つ銘柄の利益確定売りもあり、11ドル安(0.04%減少)。
627日:米中首脳会談を週末に控え、様子見ムードが強く、方向感が定まらなかったものの、新たな不具合が生じたボーイングが大幅に下げ、10ドル安(0.04%減少)。
628日:29日の米中首脳会談での貿易協議の進展への期待と米大手金融機関の資本計画についてFRBが承認したのを受けて一部に自社株買いや増配があり、株価が上昇、73ドル高(0.28%増加)。今月上昇幅は1784ドルで、約7%の上昇と過去最大。

 
2.米国の雇用状況
米労働省が67日に発表した5月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比75,000人の増加で、市場予想の180,000人増を大きく下回りました。3月の雇用者数の確定値は153,000人で36,000人の減少、4月の改定値は224,000人で39,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約151,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、3月の失業率は3.6%で、前月と同水準でした。労働参加率も62.8 %で、前月と同水準でした。5月の時間当たり賃金上昇率は前月比6セント増加で、前年同月比で3.1%増となりました。部門別では専門・ビジネスサービス業が33,000人の増加、ヘルスケア業が16,000人の増加 建設業は4,000人の増加に留まりました。

 
3.金利据え置きを決定したFOMC会合
FOMC会合が61819日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回5月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は強さを保っており、経済活動は緩やかに拡大した。雇用増はここ数か月平均すると堅調で、失業率も低下した。家計支出は今年初め以降持ち直したようだが、企業の設備投資に関する指標は弱い。全般的なインフレ率と、食品・エネルギーを除くインフレ率は2%を下回っている。アンケートによる調査では長期のインフレ予想を示す指標は総じてあまり変わっていない。

法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。

この目標を支えるため、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを2.252.5%に据え置くことを決定した。FOMCは引き続き、持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、目標の2%前後付近のインフレ率がもたされるだろうと見ている。しかし、景気見通しへの不確実性は増している。こうした不確実性及びインフレ圧力が抑制されている点を考慮し、FOMCは景気見通しに関する情報が意味するものを注視し、力強い労働市場と2%前後のインフレ率の目標に向け成長維持のために適切に行動する。
FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む9人のメンバー全員の賛成による。
なお、今回のFOMC会合では、その声明文で、「不確実性が増しており、成長維持に適切な行動を取る」ことが明記されたことから、市場のほぼ想定通りの内容になったと言えます。これに加えて、米中貿易協議の進展への期待もあり、19日の38ドル高に続き、20日も353ドル高という大幅な上昇となりました。

 
4.トランプ大統領の再選出馬と再選リスク
トランプ大統領は618日にフロリダ州のオーランドで再選出馬表明を行いました。米国を偉大な国に取り戻すとのスローガンをベースに米国第一主義を掲げ、オバマ前大統領が進めたTPPからのも撤退、更にカナダやメキシコとのNAFTAの全面的な改定を要求、更に米国の貿易赤字の約50%をを占める中国に対しては大規模な関税を課すことによって、大幅な貿易赤字の解消と米国製造業の復活を図ろうとしています。しかし、これらの政策の多くは米国の製造業を含めて、生産コストの低下や流通の効率性による世界的なサプライチェーンのネットワーク化に逆行するものであり、賛同を得られるものではありません。更に、関税措置は相手国からの報復関税を招き、それが米国の農産業やひいては米国の消費者に大きな負担となることへの理解も十分ではありません。

628日と29日に開催されたG20サミットで注目されていた米中の貿易協議は、510日に決裂した閣僚会議の再開で合意したものの、米国は関税第4弾を先送りし、ファーウェイの一部制裁解除に応じるなど米国側の譲歩が目立ちました。これはトランプ大統領が来年秋の大統領選挙を控え、対立が強まれば再選戦略に悪影響が出ると判断したためと見られ、トランプ政権の焦りを示す結果となりました。

また、中東政策についても、キリスト教福音派の票を当てにした露骨な親イスラエル政策によってイランが欧米主要国と合意した非核化の取り決めを一方的に破棄、加えて厳しい経済制裁を課すなどあまりに身勝手な行動が多すぎます。イランとの緊張関係の拡大はトランプ大統領自らが作り出したものにも拘わらず、それを相手が守っていないとの主張によって、自分自身で軍事的衝突のリスクを高めているように思います。

次に、国内の経済政策についても、トランプ大統領は再選には株価の更なる上昇が必要として、連銀に対して金利引き下げを強く要求しています。しかし、この点についても、実体経済と乖離した中銀の過度な金融緩和が引き起こす資産バブルのリスクを十分に認識していないように思えます。
こうしたトランプ大統領の政策が本当に米国の利益を優先させているためのものかについても、幾つかの疑問が残ります。昨年12月の大幅減税についても、その恩恵は大企業と超富裕層であり、中間所得層以下の米国民の多くには行き渡っていません。また、トランプ大統領が自らのグループが保有するワシントンのホテルの運営が利益相反に陥っていることもよく知られています。

利益相反の行動に加えて、トランプ大統領による米国民主主義の大原則である三権分立を無視した独裁制的な行動も許されるべきものではありません。本来、議会軽視に対しては、与党の共和党が毅然たる態度を貫くべきですが、保守派の幹部も含めて、トランプ大統領に公然と意義を唱える共和党議員が殆ど出てこないという異常な事態が続いています。

その一方、野党である民主党の大統領候補は20名以上が立候補するなど乱立が目立っています。しかし、現時点の世論調査では、バイデン元副大統領、サンダース上院議員、エリザベス上院議員、ハリス上院議員などの支持率はいずれもトランプ候補を上回っており、トランプ大統領の再選は必ずしも容易であるとは言えない状況にあります。
            (201971日: 村方 清)