Tuesday, October 1, 2019

米中貿易問題に加えてトランプ大統領の政治リスクを含んだ米国市場














1.9月の株式市場
9月の株式市場は米中貿易協議が実態よりも、政治家の口先発言で揺れる一方、月末にトランプ大統領が来年の大統領選挙でウクライナ政府に圧力をかけたとの内部告発者の訴え問題もあり、不安定な動きとなりました。主要な動きは以下の通りでした。

93日:米サプライマネジメント協会(ISM)が3日に発表した8月の製造業景況感指数が市場予想以上に悪化し、好不調の目安とされる503年ぶりに下回ったことや、米中貿易摩擦の懸念や英国のEU離脱を巡る不透明感から、ダウ平均価格は285ドル安(1.08%減少)。
94日:香港で続く大規模デモが香港政府の逃亡条例の正式撤回で収束の期待が出てきたことや英国のEUからの合意なき離脱への懸念後退で、3つの内2つのリスクが後退したこともあり、237ドル高(0.91%増加)。
95日:米中が閣僚級の貿易協議を10月初めにワシントンで開くことを合意し、米中摩擦が和らぐとの期待感から、中国売り上げ高の半導体メーカーやアップル、IBMなどの銘柄に買いが向かい、373ドル高(1.41%増加)
96日:8月の米雇用統計は雇用者増加数が130,000人増で、市場予想の160,000人増を下回ったことものの(失業率は3.7%で前月と同じ)、米中貿易協議の進展や連銀の利下げへの期待感が強く、69ドル安(0.26%増加)。
99日:10月に開く米中両国による閣僚級の貿易協議が進展するとの期待から、38ドル高(0.14%増加)。
910日:米中貿易摩擦による対立が緩和に向かているとの期待から中国売上高比率の高い銘柄が買われ、74ドル高(0.28%増加)。
911日:中国政府が追加関税の一部製品を除外すると発表し、米中の対立が和らぐとの期待からキャタピラーやダウなどの景気敏感株の買いが優勢で、228ドル高(0.85%増加)。
912日:トランプ大統領が一部の中国製品への関税引き上げを2週間延期すると発表し、中国政府も米農産物の輸入手続きを再開したことから、米中貿易問題の対立が和らぐのと期待から、45ドル高(0.17%増加)
913日:8月の米小売売上高が市場予想を上回り、個人消費の堅調さを示したことで、買いが優勢で、37ドル高(0.14%増加)。
916日:サウジアラビアの石油施設が14日に無人機の攻撃を受け供給懸念から原油先物相場が高騰、企業の生産コスト増や個人消費減退への懸念で売りが優勢で、143ドル安(0.52%減少)。
917日:18日までのFOMCの結果を見極めたいムードの中で、原油相場が反落し、原油高による収益悪化への警戒感が和らぎ、34ドル高(0.13%増加)
918日:FOMC会合で0.25%の引き下げを発表したが、1920年で利下げ停止が示唆され200ドル以上下落、FRB議長の記者会見で金融緩和に柔軟との姿勢から、36ドル高(0.13%増加)。
919日:米中貿易協議の進展期待から買いが先行したが、協議の難航を示唆する報道が相次ぐと伸び悩み、52ドル安(0.19%減少)
920日:米中が919日から貿易協議が再開したが、20日に中国の代表団が予定を早めて帰国すことが報じられ、交渉進展の期待が後退し、160ドル安(0.59%減少)
923日:9月の米製造業購買担当者景気指数が51.0と改善したものの、米中貿易協議の進展への警戒感から、買い勢いは弱く、15ドル高(0.06%増加)。
924日:トランプ大統領が国連総会で中国に対する強硬姿勢を発表し、米中対立が激化するとの懸念から売りが優勢となり、米消費者信頼漢指数も悪化、142ドル安(0.53%減少)。
925日:トランプ大統領の米中貿易協議に関する早期の決着発言で、貿易摩擦激化の懸念が後退し、中国関連を中心に幅広い銘柄に買いが優勢で、163ドル高(0.61%増加)。
926日:ウクライナ問題で米下院によるトランプ大統領に対する弾劾調査が進んだことによる不透明感と長期金利低下による売りが優勢で、80ドル安(0.30%減少)。
927日:米政権がADR(米預託証券)を含む中国への証券投資の制限を検討していると報じられ、金融市場や米中貿易協議にも響きかねないとの懸念が広がり、71ドル安(0.26%減少)。
930日:中国企業の上場廃止や米国の対中証券投資の制限について、米財務省報道官が否定したこともあり、米中対立への過度な懸念が後退し、97ドル高(0.36%増加)。

 
2.米国の雇用状況
米労働省が96日に発表した8月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比130,000人の増加で、市場予想の160,000人増を下回りました。6月の雇用者数の確定値は178,000人で13,000人の減少、7月の改定値は159,000人で5,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約156,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を大きく下回りました。なお、8月の失業率は3.7%で、前月と同じ水準でした。労働参加率は63.2 %で、前月より0.2%上昇しました。8月の時間当たり賃金上昇率は前月比11セント増加で、前年同月比では3.2%増となりました。部門別では専門・ビジネスサービス業が37,000人の増加、ヘルスケア業が24,000人の増加 金融関連業15,000人の増加、連邦政府関連が28,000人の増加となりました。

 
3.金利引き下げを決定したFOMC会合
FOMC会合が91718日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回7月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は強さを保っており、経済活動は緩やかに拡大した。雇用増はここ数か月平均すると堅調で、失業率も低下した。家計支出は力強く伸びたが、企業の設備投資および輸出は弱まった。全般的なインフレ率と、食品・エネルギーを除くインフレ率は2%を下回っている。市場で予測したインフレ値は依然弱く、アンケートによる調査では長期のインフレ予想はあまり変わっていない。

法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。

この目標を支えるため、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを1.752.0引き下げることを決定した。この措置は持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、目標のFOMCは引き続き、持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、目標の2%前後付近のインフレ率がもたされるとのFOMCの見方を支える。しかし、この見通しには不確実性が残る。FOMCが今後のFF金利の目標レンジの道筋を検討する際には、景気見通しに関する情報が意味するものを引き続き注視し、力強い労働市場と2%前後のインフレ率の目標に向け成長維持のために適切に行動する。
FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む7人のメンバー全員の賛成による。

なお、今回のFOMC会合では0.25%の引き下げを決定したが、1920年の利下げ停止を示唆したこともあり、発表直後はダウ平均は200ドルを超える下げとなりました。しかし、パウエル連銀議長の記者会見で、金融緩和に柔軟な姿勢を見せる姿勢が確認され、36ドル高となりました。

4.ウクライナ問題でトランプ大統領に対する弾劾リスク
201611月の大統領選挙でロシアとの共謀や司法妨害の疑いをかけられ、モラー特別検査官による2年間余におよぶ調査を新たな司法長官を任命することで乗り切ったと思われたトランプ大統領が、今回は自らが直接関与した新たな疑惑を起こし、弾劾リスクを含む影響が株式市場にも及び始めています。

米議会下院の情報特別委員会は926日に、トランプ大統領がウクライナの大統領に対してバイデン前副大統領に関する調査を要請した電話協議の内部告発状を公表しました。告発状によれば、トランプ大統領は725日にウクライナのゼレンスキー大統領と電話をし、バイデン氏や息子が不利になる情報を求めて調査を依頼、これは大統領が権限を使って2020年の大統領選挙に向けて外国政府の介入を求めたものだと指摘しました。更に、電話協議から数日後にホワイトハウス高官は政府関係者による電話記録へのアクセスを大幅に制限し、ホワイトハウス法律顧問はウクライナ首脳との電話記録を削除するように関係者に指示したことも指摘しました。

これらの点は米国の選挙資金法では外国人による選挙活動への貢献や献金を求めてはならない条項があり、貢献を受けなくても要求すること自体が禁止されており、この規定に違反する恐れがあります(なお、2016年当時、ウクライナの検事総長に対しては様々な疑惑が生じたことから、米国だけでなく、EU側も解任を求めており、バイデン氏の息子への捜査から、バイデン氏が圧力をかけたとの見方は事実でないとされています)。

更に、トランプ大統領は米国議会が承認したウクライナへの軍事支援の内、25000万ドルを保留するように首席補佐官に指示した事実も明らかになっています。このことがトランプ大統領が支援を実行する見返りとして、調査への協力を求めたのではないかとの見方になっています。加えて、

米国の有力紙はトランプ大統領がウクライナへの軍事援助をウクライナ政府に対するロシア政府の和解に向けた手段として利用、プーチンが望む米国のロシアへの経済制裁を解除させようとした疑いもあるのではないかとしています。

トランプ大統領が来年の大統領選挙を狙って、ウクライナ政府にバイデン民主党候補に不利な情報を探すように圧力をかけたとされる問題の事実解明は連邦議会の下院で進み始めていますが、トランプ政権の内部から告発者が出てきたことは、トランプ大統領の独断的な手法が政権内部に反発する連中が出てきた点で、極めて意味があることだと思われます。法律や規則を守らず、議会からの要請にも一切従うことなく、逆に国務省、司法省、財務相など連部局のトップが、米国ではなく、トランプ大統領個人の利益優先で動いているような異常な事態を終焉させる時期に来ていると思われます。
           (2019101日:村方 清)。