Friday, November 1, 2019

米主要企業の業績好調と金利低下による株式市場の改善












110月の株式市場
10月の株式市場は経済指標の動向によって大きく変動しましたが、主要米企業の四半期業績が好調であったことや金利低下で、月末にかけて上昇傾向と辿りました(月末に米中貿易協議の懸念から下落)。主要な動きは以下の通りでした。

101日:米サプライマネジメント協会(ISM)が1日に発表した9月の製造業景況感指数が47.8103カ月振りの低水準で、好不調の目安とされる502カ月連続で下回ったことから米景気の後退懸念が強まり、374ドル安(1.28%減少)。
102日:9月のADP全米雇用レポートで、非農業部門の雇用者数が前月比135,000人増と前月比から伸び悩んだことで、米景気が後退するとの懸念が強まり、494ドル安(1.86%減少)。
103日:低調な米経済指標を受けて一時335ドル安まで下落したが、FRBが追加利下げに動きやすくなるとの見方が強まり、買いが優勢で、122ドル高(0.47%増加)
104日:9月の米雇用統計は雇用者増加数が136,000人増で、市場予想の145,000人増を下回ったことものの(失業率は3.5%で前月より0.2%減少)、過去2か月分の雇用者数が上方修正されたこともあり、ハイテクや金融株を中心に買いが入り、373ドル高(1.42%増加)。
107日:週後半に再開する米中貿易協議の不透明感から、運用リスクを回避する動きが広がり、96ドル安(0.36%減少)。
108日:米商務省が中国がウイグル族を弾圧していることを理由に中国企業や政府機関などを28団体・企業に禁輸措置を課したことから、中国も対抗措置を取る姿勢を示し、投資家心理の悪化につながり、314ドル安(1.19%減少)
109日:10日に再開する米中貿易協議で中国が米国に部分合意を求めているとの報道から協議進展への期待が高まり、中国売上高が高いキャタピラー等の銘柄で買いが優勢で、182ドル高(0.70%増加)。
1010日:トランプ大統領のツイートで、11日に中国の副首相とホワイトハウスで会うことが伝えられ、米中間の貿易協議の進展が期待され、151ドル高(0.57%増加)
1011日:米中が貿易協議で部分的な合意に達したとの報道から貿易摩擦が緩和に向かうことを期待した買いが優勢となり、320ドル高(1.21%増加)
1014日:米中貿易協議で部分的な合意をしたものの、中国がサイン前に一段の協議を望んでいると伝えられ、先行き不透明感から、29ドウ安(0.11%減少)。
1015日:主要企業の決算で、ヘルスケアや大手金融機関の業績が市場予想を上回り、これを好感した買いが優勢で、237ドル高(0.89%増加)
1016日:9月の米小売売上高が前月比0.3%減となったことに加え、米中貿易の不透明感が増したため、23ドル安(0.08%減少)。
1017日:米中貿易協議の不透明感や低調な米小売指標があったものの、バンクオブアメリカやユナイテッド航空などが業績好調で、24ドル高(0.09%増加)。
1018日:虚偽報告の疑いが出たボーイングとアズベスト問題が起きたジョンソンエンドジョンソンが大幅下落、EU離脱に関する英国の議会承認の不透明感から、256ドル安(0.95%減少)
1021日:米中貿易協議で中国側の進展発言から懸念が少し後退し、長期金利の上昇による銀行株の上昇もあり、57ドル高(0.21%増加)。
1022日:四半期業績が市場予想に届かなかったマクドナルドとトラベラーズが売られ、かつ英国のEU離脱をめぐる不透明感も重なり、40ドル安(0.15%減少)。
1023日:四半期決算発表を受けて、過度な業績懸念が後退したキャタピラーとボーイングが上昇、指数を押し上げ、46ドル高(0.17%増加)。
1024日:四半期決算が減収決算の3Mが大きく売られ、29ドル安(0.11%減少)。
1025日:四半期決算が好調であったインテルが大幅に上昇し、米中貿易協議進展の報道からキャタピラーなどの中国関連株も買われ、152ドル高(0.57%増加)。
1028日:米中貿易協議の進展への期待から投資家心理が強気となり、マイクルソフトやアップルなどのハイテク株を中心に買いが優勢で、133ドル高(0.49%増加)。
1029日:1030日のFOMCの結果発表を前に様子見姿勢が強く、アルファベット(グーグル)の1株利益が市場予想を下回ったことで売られ、19ドル安(0.07%減少)。
1030日:FRB0.25%の利下げを決め、声明文で利下げ停止を示唆したものの、パウエル議長が記記者会見で利下げの可能性を排除せず、投資家の安心感が広がり、115ドル高(0.43%増)
1031日:米中貿易協議について、中国側から包括的で長期的な合意への疑問が出されたとの報道から、スリーエムやキャタピラーなど中国関連株に売りが出て、140ドル安(0.52%減少)。

 
2.米国の雇用状況
米労働省が104日に発表した9月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比136,000人の増加で、市場予想の140,000-150,000人増を下回りました。7月の雇用者数の確定値は166,000人で7,000人の増加、8月の改定値は168,000人で38,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約157,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を大きく下回りました。なお、8月の失業率は3.5%で、前月より0.2ポイント改善しました。労働参加率は63.2 %で、前月と同水準でした。9月の時間当たり賃金上昇率は前月比で変わらず、前年同月比では2.9%増に留まりました。部門別ではヘルスケア業が39,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が34,000人の増加、ヘルスケア業が24,000人の増加 政府部門が22,000人の増加となりましたが、製造業、建設業などは殆ど増加がありませんでした。

 
3.米中貿易協議の一時合意と株式市場の過剰反応
1010日に再開された米中の閣僚級貿易会議で、11日に中国は米農産品をの輸入を400億―500億ドル増加させる他、米国から批判された中国の通貨政策についても、中国側は為替介入の実績などの通貨政策の透明化を提案、米国側はこれを受け入れ、為替操作国の指定解除の検討に入ったとされています。これお受けて,トランプ政権は1015日から予定されていた2500億ドル分の制裁関税の25%から30%の引き上げを見送りました。また、トランプ大統領は11日に閣僚級会議に参加していた劉鶴副首相とホワイトハウスで会談し、重大な第一段階の合意に達したしとました。この報道を受けて、ダウ平均は一時517ドル高になるなど急上昇しましたが、終値は320ドル高に留まりました。

今回の合意が米中貿易協議の前進であることは間違いないものの、トランプ大統領がコメントするような重大な第一段階の合意であるかについては大きな疑問とされます。第一にこうした合意は書面化されて始めて有効となるものであるが、双方が目指す11月のチリで開催されるAPEC首脳会議までに合意文書が完成するのかは依然不透明です。第2に、今回の合意は比較的に双方が合意しやすい分野であり、最も難しいとされる中国政府の過剰な産業補助金や国有企業の優遇措置などが全て先送りされています。そうした点からすると、株式市場がこうした形が優先した合意で、500ドルを超える上昇となるのは明らかに行き過ぎであり、投機性を増している現在の株式市場の特性を反映しているものと言えます。

 
4.米国の急増する財政赤字
1025日に、米国の財務省は2019会計年度の財政赤字が前年度ヒ26%増の約9,840億ドルに達したことを発表しました。この水準はGDP4.6%に当たり、米国の財政赤字が急速に悪化していることになります。具体的に歳出が軍事費の拡大などで、8.2%増加の44500億ドルであったのに対し、歳入は4%増しか伸びず、34600億ドルに留まったとしています。財政赤字が急増した最大の理由はトランプ政権と共和党主体の連邦議会が、10年間で1.5dルの大型減税を決定したことで、今後この影響は更に強まり、財政赤字が2020年度には180億ドル、2028年には15000億ドルに達すると見られています。トランプ政権も共和党幹部の現在の財政赤字に対する改善措置を取っていませんが、今後財政赤字の拡大が貿易収支の赤字と共に大きな問題になる恐れがあります。

 
5.3回連続の金利引き下げ決定のFOMC会合
FOMC会合が102930日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回9月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は強さを保っており、経済活動は緩やかに拡大した。雇用増はここ数か月平均すると堅調で、失業率も低水準を保った。家計支出は力強く伸びたが、企業の設備投資および輸出は弱いままだ。全般的なインフレ率と、食品・エネルギーを除くインフレ率は2%を下回っている。市場で予測したインフレ値は依然弱く、アンケートによる調査では長期のインフレ予想はあまり変わっていない。

法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。

景気見通しへの海外経済の影響とインフレ圧力が抑制されている点を考慮し、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを1.501.75%引き下げることを決定した。この措置は持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、目標の2%前後付近のインフレ率がもたされるとのFOMCの見方を支える。しかし、この見通しには不確実性が残る。FOMCFF金利の目標レンジの道筋を見極めるため、検討する際には、景気見通しに関する情報が意味するものを引き続き注視していく。
FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む8人のメンバーの賛成による。カンザスシティー連銀のジョージ総裁とボストン連銀のローゼングレン総裁は金利の据え置きを求めて、それおぞれ反対票を投じた。

なお、今回のFOMC会合では、前2回に続いて、0.25%の引き下げを決定しましたが、今後の金利政策については、適切に見極めると表現するにとどめました。市場ではパウエル連銀議長の記者会見で金融緩和に柔軟な姿勢を見せる姿勢が確認され、115ドル高となりました。


 
6.英国のEU離脱の動きと離脱による経済リスク
英国のジョンソン政権は1017日に北アイルランドの国境問題について一時的にEUとの関税同盟に残すことでEUとの離脱合意に達しました。しかし、22日に3日間で手続きを終了させる離脱関連法案をが提出したものの、308322の僅差で否決され、法律に基づき、EUに離脱期限の延長を申請せざるを得なくなりました。この結果、EU27か国は25日の大使級会合で新たな延長期限を協議、28日に2020131日までの延長に合意、書面手続きが取られることになりました。
これを受けて、ジョンソン政権は28日に1212日に総選挙を実施するための法案を下院に提出したものの、3分の2以上の賛成を得られませんでした。このため、ジョンソン政権は総選挙法案を一般法案と同じく、下院と上院で過半数を取る戦略に変え、野党の労働党も賛成したため、1212日に総選挙を行う法案が承認されました。これにより、英国は離脱の是非を再び、1212日に国民の判断を仰ぐことになります。現在の世論調査では、与党の保守党が野党の労働党をリードしているものの、離脱に伴う経済リスクの懸念は3年前の時に比べはるかに国民に広がっており、上村政権の思惑通りに進むものか今後の動きが注目されます。
         2019111日: 村方 清)

 

 

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