Thursday, April 30, 2020

新型コロナウイルス感染拡大と市場の急激な不安定













1.3月の株式市場
3月の株式市場は2月の第4週目に起きた新型コロナウイルスの感染拡大の影響が世界的規模に広がる一方、これへの対策として主要国政府の緊急経済政策や中央銀行の金融緩和策が相次いで導入され、乱高下の激しい市場の動きとなりました。主要な動きは以下の通りでした。

32日:世界の主要中央銀行による協調金融緩和への期待から、主力のハイテク株などに買い戻しの動きが広がり、1,293ドル高(5.09%増加)。
33日:3日午前、FOMCは緊急理事会を開いて政策金利を0.5%引き下げ、一時’381ドル高になったが、新型肺炎の影響が予想以上に深刻との警戒感が強く、786ドル安(2.94%減少)
34日:米大統領選挙の民主党候補者争いで、バイデン副大統領が首位に立ち、国民皆保険や米企業ヘの規制強化を訴えるサンダーズ上院議員が当選する可能性が薄れ、ヘルスケア関連株を中心に幅広い銘柄に買いが入り、1,173ドル高(4.53%増加)。
35日:新型肺炎の感染拡大が米国にも本格的に波及し、投資家のリスク回避姿勢が一段と強まり、マネーは安全資産である長期国債に向かい、金融株を中心に多くの銘柄が売られ、970ドル安(3.58%減少)
36日:3月の米雇用統計は雇用者増加数が273,000人増で、市場予想の170,000人増を大きく上回り(失業率は3.5%で前月より0.1%改善)、過去3か月分の雇用者数が200,000人を超えたが、新型肺炎の感染拡大からの警戒心が高まり、257ドル安(0.98%減少)。
39日:新型肺炎の感染拡大による世界経済の景気後退入りの懸念の広がりとOPECと非加盟国の減産調整の協議が不調に終わり、原油先物相場が大幅に下落、エネルギー企業の業績悪化懸念も重なり、2013ドル安(7.79%減少)。下げ幅は史上最才。
310日:トランプ大統領が新型肺炎による景気下振れリスクに対応し、給与減税などを含む経済支援策を発表すると伝わり、1167ドル高(4.89%増加)。
311日:新型肺炎の感染拡大が続く中、WHO事務局長がパンデミックに相当すると表明、更にトランプ政権が10日発表の経済政策の実現性の不透明感が嫌気され、1,465ドル安(5.86%減少)。
312日:トランプ大統領が11日に発表した新型肺炎対策として、英国を除く欧州からの渡航の30日禁止措置が世界景気を押し下げるとの見方や経済政策も具体性に乏しいとの批判から、2,353ドル安(10%減少)
313日:トランプ大統領が新型肺炎に関連して、トランプ大統領が国家非常事態を宣言し、全ての政策を動員すことを決めたことから、米景気への不安心理が後退、1985ドル高(9.36%増加)
316日:FRB315日に0.1%の利下げを決定したが、新型肺炎感染の急速な拡大で、投資家の不安は静まらず、消費財、エネルギー、小売り関連の銘柄を中心に大きく値下がりし、2997ドル安(12.93%減少)。ダウ平均の値下がり率は2月につけた史上最高値から31%強の下落率。
317日:FRBが企業の資金繰り支援でCP購入を発表したことに加え、トランプ政権が家計への現金給付プランを公表したことで、総額1兆ドルとなる経済対策が明らかになり、買いが優勢で、1,049ドル高(5.20%増加)
318日:新型コロナウイルスの感染拡大による米景気と企業業績の不透明感が根強く、売りが膨らみ、ボーイングや石油株が急落して、1338ドル安(6.30%減少)。
319日:前日に31カ月振りの安値を付けた反動で、割安感から大型ハイテク株を中心に買い戻されたことや世界の中央銀行が金融緩和に動いていることから、188ドル高(0.95%増加)
320日:新型コロナウイルスの感染拡大で、米国のカリフォルニア州とニューヨーク州が前事業所に対し出勤を禁止したことから、米景気の落ち込み懸念が強まり、913ドル安(4.55%減少)
323日:新型コロナウイルスによる景気減速に対応するため、トランプ政権の経済政策について議会の与野党対立で合意ができず、政策実行が遅れるとの見方から、582ドル安(3.04%減少)。
324日:新型コロナウイルスに対応した大規模な経済対策で米与野党の協議が進展するとの期待が高まり、2,113ドル高(11.37%増加)。上昇幅としては史上最大。
325日:トランプ政権と与野党の議会指導部が2兆ドルの経済対策で25日未明に合意、後退入りの懸念が高まっていた米景気を下支えするとの期待が広がり、496ドル高(2.39%増加)。
326日:米上院が325日に新型コロナウイルスに対応する2兆ドル規模の経済対策法案を可決し、早期に景気刺激策が実施されるとの期待が高まり、1352ドル高(6.38%増加)
327日:米国の新型コロナウイルス感染者数が26日に中国を上回って世界最多となるなど、感染拡大が続き、人や物の移動の制限が停滞することによる景気不安から売りが膨らみ、915ドル安(4.06%減少)。
330日:トランプ政権の大規模な経済政策にの成立による景気悪化の懸念が後退し、同時に新型コロナウイルスのワクチン開発への期待で、691ドル高(3.19%増加)。
331日:新型コロナウイルスの感染拡大による景気の悪化懸念が強まり、売りが優勢で、410ドル安(1.84%減少)。下げ幅は月間、四半期ベースとも過去最大

2.米国の雇用状況
米労働省が36日に発表した2月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比273,000人の増加で、市場予想の170,000人増を上回りました。12月の雇用者数の確定値は184,000人で37,000人の増加、1月の改定値は273,000人で48,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約243,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を大きく上回りました。なお、1月の失業率は3.5%で、前月と比べて0.1%改善しました。労働参加率は63.4 %で、前月と同じ水準でした。2月の時間当たり賃金上昇率は前月比で9セント上昇し、前年同月比では3.0%増となりました。部門別ではヘルスケア・社会福祉業が57,000人の増加、飲食業が53,000人の増加、建設業が42,000人の増加、専門・技術サービス業が32,000人の増加となりました。

3.コロナウイルス感染拡大とFRBの金利引き下げ
FOMC315日に臨時のFOMC会合を開き、0.1%の利下げを決定しました。会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。新型コロナウイルスの拡大が多くの国の経済活動を損なわせている。経済データは米経済が力強い足元においても、試練の時を迎えていることを示している。1月のFOMCの会合以降に得た情報は、労働市場は底堅く、経済活動は緩やかに上向いているということであった。家計支出は緩やかに伸びているが、企業の設備投資と輸出は弱いままだだ。直近では、エネルギー業界が強り圧力にさらされている。全般的なインフレ率と、食品・エネルギーを除く12か月平均のインフレ率は2%を下回っている。

FOMCは最大の雇用と物価安定を持続させることを求めている。新型コロナの影響は近い将来の経済活動に重くのしかかり、経済見通しのリスクとなるだろう。これらの状況に照らし、政策金利目標を00.25%に引き下げることを決めた。この金利目標は経済活動に対する直近の出来事の影響が晴れたと自信が持てるまで、そして最大雇用ち物価安定の実現のための軌道に乗れると判断できるまで維持するだろう。今回の決定は経済活動、強い労働市場環境、2%の物価目標の回帰を助けるだるFOMCは出てくる経済見通しに関する情報を注視する。その情報は健康関連から物価の下押し圧力に関するものなどにおよぶ。我々の取れる手段を使い、経済を補助するための適切な行動を取る。将来の金融政策のスタンスを調整する時期とその規模を決めるために、FOMCは実際と予想される経済状況を評価する。この評価は幅広い情報を考慮に入れる。労働市場や物価上昇圧力や物価上昇期待、金融政策や国際情勢を含む、

FRBは家計や企業の信用を支援するための手段を行使する準備ができており、こえにより雇用の維持と物価安定を促す。家計や企業の信用の中心となる米国債市場と住宅ローン担保証券(MBS)市場の機能を支援するために、今後数カ月間で米国債を少なくとも5000億ドル、MBSも同じく2000億ドルを購入する。
FRBは家計や企業の信用ニーズを支援するため、他の中央銀行と連携したドル資金の通関交換(スワップ)の拡充なども併せて発表した。

今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む9人のメンバーの賛成による。クリーブランドのロレッタ・メスター総裁やフェデラルファンド金利の誘導目標レンジを0.5%-0.75%にすべきとして反対した。
なお、今回のFOMC会合の金利引き下げは、新型コロナウイルスの感染拡大による経済の悪影響を少なくさせるために決定されたものであるが、市場の反応は時間外取引で米国株価指数先物が大幅安になるなど急落しています。その意味で、コロナウイルスの感染拡大による企業活動の停滞に対してはFRBの政策発動余地が乏しいと受け取られたためと見られています。


4.コロナウイルスに対する米政府の巨額経済救済策
トランプ政権と連邦議会の与野党指導部は325日に新型コロナウイルス対策として、約2兆ドルの景気刺激策に最終合意しました。今回の規模は米国のGDPの約10%に相当し、2008年の金融危機後経済対策の約7000億ドルを大幅に上回ります。


内訳を見ますと、家計向けでは3000億ドルを充て、所得制限を設け、大人には最大1200ドル、子供には500ドルを支給します。失業保険にも2500億ドルを計上しました。一方、企業向けには9000億ドルを充て、飲食・宿泊など新型コロナウイルスが直撃する産業向けに5000億ドルの融資枠を設けます。航空会社にも300億ドルの資金支援を行います。

これに加え、今回の経済対策には米連銀に新たに4兆ドルの資金供給能力を可能しており、全体の景気刺激策は6兆ドルに達するとトランプ政権は主張しています。
今回の巨額の経済支援策に対しても、コロナウイルス感染拡大が急速に進む中で、一時的な経済効果は見込めるものの、コロナウイルス感染拡大を防ぐ治療薬が出てこない限り、根本的な改善にはならないように見られます。それと同時に、大企業や富裕層の利益優遇の政策を取り続け、ニューヨーク州を始め多くの州政府が必要とする社会的な医療インフラの整備や充実を軽視してきたトランプ政権や与党共和党の政策的な誤りが今回の感染拡大の大きな要因であると思われます。この点、そのことを十分に認識できる米国民が多く出てくることが米国の将来にとって極めて重要であると思います。

              202041日: 村方 清)