Friday, May 1, 2020

新型コロナウイルス感染問題に揺れる株式市場












1.4月の株式市場
4月の株式市場は新型コロナウイルス感染拡大のスピードが一部地域で鈍化する中で、経済再開の動きも見られ、株価の回復傾向も見られるようになりました。その反面、後半期には原油先物市場で需給バランスが崩れ、マイナス価格になるなど新たな不安定性要素が出てきました。主要な動きは以下の通りでした。

41日:新型コロナウイルス感染拡大の増加に歯止めがかからず、人や物資の移動制限が長期化による景気後退あの懸念から、ダウは974ドル安(4.44%減少)。
42日:主要産油国の減産が伝えられ、米原油先物相場が急上昇し、投資家心理が改善、前日比470ドル高(2.24%増加)
43日:新型コロナウイルス感染拡大が続いていることや3月雇用統計で雇用者数が9年半振りに減少したで米景気の懸念が強まり、幅広い銘柄に売りが優勢で、361ドル安(1.69%減少)。
46日:欧米で新型コロナウイルス感染による死者数の増加ベースが減り、感染拡大が鈍化するとの期待が高まり、1,627ドル高(7.73%増加)。
47日:欧米で新型コロナウイルス感染拡大ペースが鈍ってきたとの見方から買いが後押ししたが、ニューヨーク州では1日当たりの感染者数が過去最高になったことを公表し、終息には時間がかかるとの見方から、26ドル安(0.12%減少)
48日:新型ウイルス感染拡大が近く峠を越えるとの見方から投資家の心理改善となったことや急進リベラルのサンダーズ候補が大統領選挙から撤退との報道で、780ドル高(3.44%増加)。
49日:米連銀が企業向けの新たな資金供給計画を発表し、米景気の支えになるとの期待から買いが優勢で、286ドル高(1.22%増加)
413日:前週に大きく上昇した反動と、今週から本格化する米主要企業の業績悪化懸念から、329ドル安(1.39%減少)
414日:新型コロナウイルスの感染がピークに近づき、米国での経済活動が再開されるとの見方が強まり、投資家心理が上向き、559ドル高(2.39%増加)
415日:3月の小売り売り上げ高や鉱工業生産指数が過去最悪レベルの水準となり、投資家のリスク回避姿勢が強まり、445ドル安(1.86%減少)。
416日:米景気の急激な悪化を示す経済指標が相次いだものの、ネットフリクッスやアマゾンへの買いが続き、33ドル高(0.14%増)。
417日:新型コロナウイルスの治療法や検査体制の確立に向けた取り組みに前進が見られたとの受け止めから、過度な懸念が後退し、幅広い銘柄に買いが入り、705ドル高(2.99%増加)
420日:ニューヨーク原油先物市場で史上初のマイナス価格に落ち込み、投資家心理が冷え込んだことや、前週末に相場が大きく上昇した反動で、592ドル安(2.44%減少)。
421日:原油先物相場の下落が止まらず、原油安が米国経済の足を引っ張り、石油関連企業の信用不安を招きかねないとの懸念から、632ドル安(2.67%減少)
422日:テキサスなど一部の州で経済活動の制限を緩める動きが広がり、米景気の悪化に歯止めがかかると受け取られ、かつ連日急落していた原油相場が上昇、457ドル高(1.99%増加)。
423日:米原油先物相場が連日高騰、投資家心理の改善につながったが、新型コロナウイルスの治療薬の臨床試験の懸念や米経済指標の悪化が重荷で、39ドル高(0.17%増加)
424日:今週前半に急落した米原油先物相場が連日上昇、来週に決算発表を控えたアップルやフェイスブックなどが買われ、260ドル高(1.11%上昇)
427日:米国の多くの州で新型コロナの感染ベースの鈍化と共に、経済再開の動きが広がっていることから、米景気の回復に向かい始めたとの期待が優勢で、359ドル高(1.51%増加)。
428日:朝方は買いが先行したが、アマゾン、ネットフレックス、アルファベットなどが利益確定売りに大きく押され、32ドル安(0.13%減少)
429日:新型コロナウイルス治療薬の臨床試験が有効性を示したとの報道があったこともあり、532ドル高(2.21%増加)。
430日:新規失業保険申請件数が市場予想を上回る384万件となり、3月の個人消費支出も前月比7.5%減となったことで投資家心理が悪化、利益確定売りが優勢で、288ドル安(1.17%減少)

 
2.米国の雇用状況
米労働省が43日に発表した3月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比701,000人の減少で、市場予想の140,000人の減少を大きく下回りました。雇用者数の減少は20109月以来、9年半振りとなりました。1月の雇用者数の確定値は214,000人で59,000人の減少、2月の改定値は275,000人で2,000人の増加となりました。なお、1月の失業率は4.4%で、前月と比べて0.9%悪化しました。労働参加率は62.7 %で、前月から0.7%減少しました。3月の時間当たり賃金上昇率は前月比で11セント上昇し、前年同月比では3.1%増となりました。部門別ではレジャー・観光業が459,000人の減少、ヘルスケア・社会福祉業が61,000人の減少、専門・ビジネスサービスが52,000人の減少、小売業が46,000人の減少、建設業が29,000人の減少となりました。

 
3.新型コロナウイルス感染拡大と深刻化する経済問題
IMF414日に世界経済見通しを発表し、2020年の成長率がマイナス3.0%に急激に落ち込むことの予測を示しました。2020年のマイナス3.0%は2009年のマイナス0.1%を上回るもので、IMFが集計を始めた1980年以降で最悪となります。国別では感染者が最大の米国がマイナス5.9%で、ユーロ圏がマイナス7.5%、日本がマイナス5.2%となっています。中国はプラス成長を保つものの、1.2%と著しく低下する見込みです(1-3月の実績はマイナス6.8)

米国では新型コロナウイルス感染拡大が経済に深刻な影響を与えています。415日に発表された3月の小売売上高は前月比8.7%減と過去最大となったのを始め、3月の米鉱工業生産指数6.3%低下し、19462月以来の大幅な落ち込みとなりました。また、16日に発表された失業保険の新規申請件数は1週間で5245千件で、前週の661万件に近い水準になりました。これにより3月中旬に非常事態宣言を発表して以来の失業申請件数は2200万件を突破し、4月の失業率は10%を超え、1948年の統計開始以来の最悪期(198212月の10.8%)を上回るとの見方が強まっています。

米国商務省が429日に発表した202013月期のGDP速報値は年率換算で前期比マイナス4.8%となり、リーマン・ショック後の20081012月期のマイナス8.4%依頼、約11年振りの落ち込みとなりました。米国の景気は4月以降に更に悪化しており、米議会予算局は46月期のGDPは前期比11.8%減、年率換算で39.6%を予測しています。

 
4.急速に悪化する米国経済とFRBの金融緩和策
FOMC42829日に開催されたFOMC会合を開き、米国債を制限なく購入する量的緩和策などの維持を決めました。会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。コロナウイルスの感染拡大は、米国と世界中に甚大な人的・経済的困難をもたらしている。ウイルスおよび公衆衛生を守るために取っている対策は、経済活動の深刻な落ち込みと急激な雇用喪失を引き起こしている。

弱い需要と著しく低い石油価格が、消費者物価の上昇率を押し下げている。米国と海外の経済活動の混乱は、金融情勢に深刻な影響をもたらしており、米国の家計と企業の信用の流れを妨げている。現在続いている公衆衛生の危機は、短期的には経済活動、雇用、インフレにとって大きな重荷となり、中期的には経済見通しにとって深刻なリスクとなる。
こうした状況を考慮して、FOMCは、(政策金利である)フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを00.25%に据え置くことを決定した。経済が足元の状況を乗り切り、最大雇用と物価安定の目標達成に向け軌道にのったと自信をもてるようになるまで、この目標レンジを維持すると予測している。FOMCは、公衆衛生関連の情報も含めた経済見通し、海外の動向、抑制されたインフレ圧力についての情報の監視を続け、経済を支えるために、その手段を用いて適切に行動する。
金融政策のスタンスを調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化と物価上昇率2%という目標との比較で経済情勢の実績と見通しを評価していく。労働市場の状況に関する指標や、インフレ圧力や予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して、判断する。
家計と企業の信用の流れを支えるために、FRBは、国債、住宅および商業不動産ローン担保証券の購入を円滑な市場機能を支えるために必要なだけ続ける。そうすることで、より広範な金融情勢への政策の効果的な伝搬を促進する。加えて、公開市場デスクは、大規模なオーバーナイトおよびタームのレポ操作の提供を続ける。
FOMCは、市場情勢を注視し、適切にその計画を調整する準備をする。

決定はパウエル議長及びウィリアムズ副議長を含む10人のメンバー全員の賛成による。
今回の決定は、新型コロナウイルスの感染拡大による経済の悪影響を少なくさせるために決定されたことで、市場は新型コロナウイルスの治療薬の臨床試験の有効性のニュースもあり、532ドルの高の大幅上昇につながりました。

5.経済再開のタイミング
トランプ大統領は米国最大の感染者数を出しているニューヨーク州などで、新規の感染者数が微減傾向を示し始めたことを理由に、当初は全国民を対象として行動自粛要請を5月にも解除し、経済活動再開に向けたガイドラインを作成することに強い意向を示していました。しかし、416日の記者会見でトランプ大統領が示した指針は、経済活動の再開について3段階で移行するというものですが、その判断は各州知事に任せるというトーンダウンオウンしたものでしたものでした。ちなみに、トロンプ大統領の指針によれば、第1段階では客席の間隔を空けた飲食店の再開を認め、在宅勤務は引き続き奨励、学校は休校のまま、10人以上の集りは避ける。第2段階では学校を再開し、不要不急の旅行を認めるが、50人以上の集りは避ける。第3段階では手洗いと人との距離を確保するなどの条件を除いて、ほぼ全ての経済活動の再開を認めるというものです。

なお、感染者数と死者数が全米一のニューヨーク州のクオモ知事は経済活動の再開を急いで感染率を上げるわけにはいかないとして、4月末の外出制限措置を515日まで延長することを決め、更に近隣のニュージャージー州などと経済再開に向けた協議を進めています。一方、米国西部のカリフォルニア州やワシントン州でも経済再開に向けた協議が始められています。

今年11月の大統領選挙で何としても再選を図りたいトランプ大統領として、コロナウイルス問題で初期対応の遅れがあった状況を回復するためには、経済活動の早期再開が不可欠で(それは株価の回復にも繋がる)、その必要性を殊更強調している傾向があります。しかし、今回のコロナウイルスに効果のあるワクチンの開発の目途が立たず、重症化を抑える決定的な薬も開発されていない現在の状況では、感染拡大を抑える唯一の方法が外出禁止を含む人と人との接触を避けさせることしかない状況では、トランプ大統領の経済活動の早期再開は更に拡大が悪化するリスクがあります。

いずれにしても、米国民の安全確保より、大統領選で勝つことしか考えていないトランプ大統領が米国のリーダーであることが、内外面で不必要な摩擦と国際社会の協力の欠如になっているように思われます。

             (202051日:村方 清)