9月1日:ISMの製造業景況感指数は56.0と3カ月連続で50を上回ったことや新たな会員サービスを発表したウォルマートが大幅上昇、アップルなどの大型ハイテク株も買いが優勢で、216ドル高(0.76%増加)。
9月2日:2日発表の米新車販売台数や雇用者数の増加を受けて、景気回復が続いているとの見方から、幅広い銘柄が買われ、455ドル高(1.59%増加)。
9月3日:アップルやマイクロソフトなどコロナ禍での株高を牽引してきたハイテク株に過熱感が強まり、売りが膨らみ、808ドル安(2.78%減少)。ナスダックは5%減少。
9月4日:8月の雇用統計で失業率が8.4%に低下したものの、前日に広がったハイテク株売りが4日も続き、159ドル安(0.56%減少)。
9月8日:アップルなどの主要ハイテク株への売りが続き、素材や金融など景気敏感株の一角にも売りが広がり、632ドル安(2.25%減少)。
9月9日:前日まで下げが目立った主力ハイテク株が買い直され、相場を押し上げ、製薬会社のファイザーにもワクチン開発の新たな進展報道があり、440ドル高(1.60%増加)。
9月10日:アップルやマイクロソフトなどのハイテク株への売りが再び強まったことや米上院で追加の経済対策法案が否決され、景気回復が遅れるとの懸念から、406ドル安(1.45%減少)。
9月11日:ナイキやキャタピラーなどの景気敏感株やJPモルガンなど金融株が割安感から上昇し、131ドル高(0.48%増加)。
9月14日:エヌビディアが英半導体設計のアームを買収したり、オラクルが中国のTik Tokの米国事業を引き受けるととの観測が高まり、328ドル高(1.28%増加)。
9月16日:FRBが9月15-16日に開催されたFOMC会合で、2023年末まで利上げを見送る方針を示したことで、景気敏感株を中心に買いが優勢となったが、ハイテク株からは資金が流出、引きにかけて急速に伸び悩み、37ドル高(0.13%増加)。
9月17日:FOMCの会合が16日に終わり、様子見をしていた投資家が割高感の強い主力ハイテク株を売りに出したことやCDC所長が年内のワクチン供給は非常に限られると述べたことで、市場心理が悪化し、130ドル安(0.47%減少)。
9月18日:アップルなど主力ハイテク株の売りがやまないこと、追加経済対策の成立が遅れ、景気を冷やしかねないとの懸念から、245ドル安(0.88%減少)。
9月21日:欧州でのコロナウイルス感染の再拡大、ドイツ銀行やJPモルガンなどの大手金融機関のマネーロンダリング問題、最高裁判事の任命問題を巡る政治の不透明性などが原因で、売りが膨らみ、510ドル安(1.84%減少)。
9月22日:欧州でコロナ感染の再拡大が相場の重荷になったが、業績がコロナの盈虚を受けにくい主力ハイテク株が買われ、相場を主導、140ドル高(0.52%増加)。
9月23日:追加の米経済対策成立の見通しが立たない中、主力ハイテク株の割高感からの下げ局面が続き、525ドル安(1.92%減少)。
9月24日:取引開始直後は売りが先行したものの、終了にかけて下落基調にあった主力のハイテク株が上昇し、52ドル高(0.20%増加)。
9月25日:9月に入って調整局面が続いていた主力ハイテク株のマイクロソフトやセールスフォースが上昇、景気敏感株の一角も買われ、359ドル高(1.34%増加)。
9月28日:追加の米経済対策への期待やアジア、欧州株高などを受けて、景気敏感株を中心に買いが優勢で、410ドル高(1.51%増加)。
9月29日:欧米でコロナウイルスの感染が広がる中で、金融株やエネルギー株が売られて、相場を押し下げ、131ドル安(0.48%減少)。
9月30日:追加経済対策で米与野党が近く合意するとの観測が強まり、主力ハイテク株や景気敏感株などに買いが広がり、329ドル高(1.20%増加)。
米労働省が9月4日に発表した8月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比1,400,000人の増加で、市場予想とほぼ同様でした。6月の雇用者数の確定値は4,791,000人で10,000 人の増加、7月の改定値は1,734,000人で、29,000人の減少となりました。なお、8月の失業率は8.4%で、前月と比べて1.8%改善しました。労働参加率は61.7%で、前月から0.3%増加したものの、2月の時点から依然として低い水準にあります。8月の時間当たり賃金上昇率は前月比で11セント増加しました。部門別では小売業が249,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が197,000 人の増加、レジャー・観光業が174,000人の増加、教育・ヘルス業関連が147,000人の増加となりました。
景気の動向は、ウイルスの拡大状況に大きく左右される。現在続いている公衆衛生の危機は、短期的には引き続き、経済活動、雇用、インフレにとって大きな重荷となり、中期的には経済見通しにとって深刻なリスクとなる。
FOMCは雇用の最大化と長期的な2%のインフレ達成を目指している。物価上昇率がこの長期目標を下回る状態が続いていることから、当面は2%よりやや上のインフレ率を目指す。そうすることで、インフレが長期的に平均2%になり、長期インフレ予測が2%で安定するようにする。
これらの成果が出るまで金融政策の緩和的なスタンスを維持することを予測している。
FOMCは(政策金利である)フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを0~0.25%に据え置くことを決定した。労働市場の情勢がFOMCの雇用最大化の判断と一致する水準に達し、インフレが
2%をやや上回るところで軌道にのるまでこの目標レンジの維持が適切と予測する。
さらに今後、FRBは少なくとも現状のペースで国債、ローン担保証券の保有を増やす。そうすることで、円滑な市場機能を維持し、緩和的な金融情勢を促進し、家計と企業の信用の流れを支える。
金融政策のスタンスを調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは引き続き、景気見通しについて経済指標が示す意味を注視する。目標達成を妨げるリスクが現れた場合は、金融政策のスタンスを適切なものに調整する準備がある。公衆衛生、労働市場の状、インフレ圧力・インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。
決定はパウエル議長及びウィリアムズ副議長を含む10人のメンバー全員の賛成による。
今回の決定は、現状のゼロ金利政策と量的緩和策をともに維持すると同時に、物価上昇率が暫くの間、穏やかに2%を超える水準を目指すとフォワード・ガイダンスを変更し、利上げのハードルを引き上げたことに特徴があります。市場の反応は前向きであったものの、ハイテク株が大きき憂く売られ、ダウ平均価格はは37ドル高(0.13%増加)に留まりました。
コロナウイルス感染拡大の中で、その影響が限定的であったアップルやマイクロソフトなどのハイテク株の株価は先月まで急激な上昇を続けてきましたが、今月に入り急速に下落、調整局面を迎えています。その背景には、コロナウイルス感染拡大に伴い、実体経済が急速に落ち込む中で、政府の意向を受けて、中央銀行がゼロ金利や大規模な量的緩和などの過度な金融緩和策を続けた結果、実体経済の悪影響が軽微とされるアップルやマイクロソフトなどのハイテク株の急激な上昇に結び付くことになりました。しかし、ハイテク株と言えども、コロナウイルス感染拡大の影響を受けざるを得ず、株価が投機性を強めて上昇を続ければ、調整局面を迎えざるをえないといことだと思います。いずれにしても、完全に投機的要因に支配されている現在の株式市場は異常としか言いようがありません。
11月3日の米大統領選挙を控え、現職のトランプ大統領と野党の民主党のバイデン候補の第一回討論会が9月29日に実施されました。米国の大統領選挙では伝統的に民主党と共和党の2大政党がそれぞれの全国大会で党の綱領を採択し、それを基にして選挙戦を争い、討論会では両党の候補者が綱領に基づいて議論するのが習わしでした。しかし、今回の共和党大会は党の綱領を採択せずに、現職のトランプ大統領の再選させるための“アメリカファースト”という安易なスローガンと減税や規制緩和に力点を置く、トランプ党の人気取り政策を並べるだけのもので、両候補が政策を争う本質的な議論になりませんでした。特に、トランプ大統領の相手の主張を聞くことなく、中傷するだけの態度に司会者から何度も注意を受けなど従来に前例のない低次元の討論会となりました。
米国で最も深刻なコロナウイルス感染問題への対応についても、トランプ大統領はコロナウイルス感染問題の深刻さを早い段階で認識しながら、有効とされるマスクの着用を義務づけるなどのそれ対応策を講じることはせずに、再選に不可欠と考える株高状況を何とか維持すべく、トランプに近い共和党の州知事に経済活動の再開を優先させるように指示しました。その結果はフロリダ州やテキサス州での感染者や死亡者の急増を招くことになりました。また、コロナウイルス対策に必要ななワクチン開発や治療方法についても、株価上昇を意図すべく、現政権の努力で急速に進んでいることを必要以上に強調するだけで、十分な検証期間を経ていない性急なワクチン開発の副作用の大きさを含むリスクについては言及を避け続けています。現在、米国でのコロナウイルス感染による死者数は9月末で20万人を超えていますが、それは米国史上、南北戦争の66.5万人、1918年から流行したスペイン風邪の50万人、第2次世界大戦の40万人に次いで4番目であり、約8か月間の短期間で起きたことは例を見ません。
コロナウイルス感染問題で極めて深刻は状況をもたらしながら、トランプ大統領が依然40%近い米国民の支持を受け、幾つかの遊説先で多くの傍聴人から熱い声援を受けていることに驚かされます。しかし、その光景は、1930年代初めに経済困難を抱えたドイツにおいて、排他的な民族主義を掲げて急速に勢力を伸ばしたナチス党のヒトラーを連想させるものがあります。トランプの演説に集まる聴衆の多くがどちらかと言えば超保守的な白人層であることでその類似性を感じさせます。
トランプ大統領の問題点は、2016年の大統領選挙の立候補以来、そのスローガンは多民族国家である米国民の融合ではなく、個人的な利益優先をベースとしながら、白人層を中心とする特定グループの利益保護や復活でした。彼がイニシアチブを取った2017年末の大幅減税に見られるように、それは米国民に富めるものと貧しいものの格差を拡大させ、経済の分断を強いることになりました。
また、政治の世界でも、こうした特定のグループの利益実現によって、彼の支持基盤が強固であるとして、米国民主主義政治に不可欠な三権分立を弱くさせ、大統領権限を最大限優先させる方策を取り続けています。更に問題なのは、米国の憲法上の存立基盤を死守する役割を持つべきはずの
バー司法長官がトランプ大統領に迎合し、大統領独裁制を擁護する立場を取っていることです。
その意味で、今回の大統領選挙は自己利益追求が目的で、デマゴーグの政治家であるトランプ大統領によって脅かされている米国の民主政治が守れるのかが試される重要な機会となっています。
(2020年10月1日:村方 清)