Monday, November 2, 2020

実体経済を反映しない政治的な投機相場

 

 















1.
10月の実績

10月の株式市場は追加の経済対策を巡るトランプ政権と与野党の協議の進展状況に振り回され、株価の変動が激しい不安定な相場となりました。加えて、終盤はコロナウイルス感染の急増となり、下落相場が続きました。主要な動きは以下の通りでした。

 

101日:追加の経済対策を巡って財務長官と民主党の下院議長が協議を続けたが、まだ隔たりがあることから景気敏感株が買い控えられ、9月の米製造業指数も55.4と前月比0.6低下して、ダウ平均は35ドル高(0.13%増加)。

102日:トランプ大統領のコロナウイルス感染が判明し、大統領選挙への影響を懸念した売りが優勢で、134ドル安(0.48%減少)

105日:トランプ大統領の早期退院や追加経済対策の与野党協議の進展などの報道に投機的な動きが広がり、466ドル高(1.68%増加)。

106日:トランプ大統領が追加の経済対策の協議中止を指示したことで、景気の持ち直しが加速するとの見方が後退し、主力銘柄を中心に売りが広がり、376ドル安(1.34%減少)。

107日:トランプ大統領が空運会社や中小企業の支援など経済対策の一部を個別に実施することを議会に求めたことで、米景気を支えるとの投機的見方に影響され、531ドル高(1.91%増加)

108日:追加の経済対策への期待から引き続き投機的な買いが入り、相場を押し上げ、122ドル高(0.43%増加)

109日:追加の経済対策について、米政権が規模を18000億ドルに引き上げ、民主党に提案すると伝えられ、合意への期待が過剰に膨らみ、161ドル高(0.57%増加)

1012日:政策期待などで中国の上海市場の株式相場が大幅に上昇、米企業の決算内容が市場予想以上になるとの投資家の投機的な思惑から、251ドル高(0.88%増加)

1013日:ジョンソンエンドジョンソンがワクチンの治療薬の治験を中断したことや追加経済対策の与野党協議も停滞するなどで、158ドル安(0.55%減少)。

1014日:追加経済政策の早期合意は困難との見方が広がり、市場心理が悪化、投資家が運用リスクを回避する姿勢が強まり、166ドル安(0.58%減少)。

1015日:新型コロナウイルスの感染急増で、英仏が外出規制を強め、投資家心理を冷やしたが、米政府の追加経済対策への期待から景気敏感株が買い直され、19ドル安(0.07%減少)

1016日:朝方発表の9月の米小売売上げ高が前月比1.9%増と5カ月連続で増え、米経済の底堅さを意識した買いが優勢で、112ドル高(0.39%増加)

1019日:追加の経済対策で米与野党が何らかの合意に達するとの期待で高く始まったが、期待がしぼみ、次第に売りが優勢となり、欧米のコロナウイルス感染の再拡大も影響し、411ドル安(1.44%減少)。

1020日:追加経済対策を巡る米与野党協議で、ペロシ下院議長の発言で何らかの合意に達するとの期待で、113ドル高(0.40%増加)

1021日:ブラジルで実施されていた英国の製薬会社とオックスフォード大のコロナウイルスのワクチンの臨床試験で被験者が死亡したことから、ワクチン開発の不透明感が増し、投資家心理が悪化、98ドル安(0.35%増加)

1022日:週間の新規失業保険申請件数が2週間ぶりに減少したことや米国の追加経済対策への合意期待が再び高まり、153ドル高(0.54%増加)

1023日:追加の経済対策の与野党協議を巡る不透明感や低調な決算を発表したインテルが売られ、相場の重荷となり、28ドル安(0.10%減少)

1026日:米国で新型コロナウイルスの感染拡大が過去最大を更新したことや追加経済対策の合意も遠のき、米国の景気回復が遅れるとの懸念から、650ドル安(2.29%減少)。

1027日:欧米でのコロナウイルス感染が再拡大し、行動制限の強化による景気後退の懸念から売りが優勢で、222ドル安(0.80%減少)

1028日:欧米でコロナウイルス感染拡大が再び深刻化しており、世界景気への悪影響が懸念され、幅広い銘柄に売りが広がり、943ドル安(3.43%減少)

1029日:朝方発表の79月期のGDP速報値が前期比33.1%増と市場予想を上回り、新規失業保険申請件数も市場予想を下回り、139ドル高(0.52%増加)

1030日:米国の1日当たりの新型ウイルス感染者数が過去最高を更新したことや79月期のスマートフォンの売上高が大幅に減少したアップルが大幅安で、158ドル安(0.59%減少

 

2.米国の雇用状況

米労働省が101日に発表した9月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比661,000人の増加で、市場予想の850,000人を下回りました。7月の雇用者数の確定値は1,761,000人で27,000 人の増加、8月の改定値は1,489,000人で、118,000人の増加となりました。なお、8月の失業率は7.9%で、前月と比べて0.5%改善しました。労働参加率は61.4%で、前月から0.3%減少しました。9月の時間当たり賃金上昇率は前月比で2セント増加しました。部門別ではレジャー・観光業が318,000人の増加、小売業が142,000人の増加、ヘルスケア関連業108,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が89,000 人の増加となりました。

 

3.米国財政赤字の急増と今後への影響

米財務省は1016日に2020年度の財政赤字が前年度の3倍に達する3.1兆ドルになったと発表しました。これは金融危機直後の2009年度の1.4兆ドルを上回り、過去最大の規模となりました。これに伴い、2020年度の連邦政府債務は過去最大の約26兆ドルに膨らみ、GDP比率は126%と第2次大戦直後の最悪期の1946年の119%を超えることになります。今年3月の時点では2020年度の財政赤字を1730億ドルと見込んでいましたが、その後の大規模な新型コロナウイルス対策もあり、歳出が前年度の1.5倍の6.6兆ドルに達し、赤字幅が急拡大したものです。GDP比率で126%と言うのはIMFが予測する世界平均の96%を大幅に上回り、主要国では日本の252%、イタリアの156%に次ぐ規模となります。

 

2021年度は当初赤字幅が1.8兆ドルに縮小すると見られていましたが、現在議会は1兆ドル強の追加経済対策を検討しており、赤字幅の増加が避けられない状況です。これにより、2030年度の利払い費は6640億ドルと2020年度の3380億ドルの約2倍に膨らむ見込みです。現在は連銀のゼロ金利政策で、政府の利払い負担は少なくなっているものの、ゼロ金利政策の解除となれば、政府の利払い負担が増加し、米国財政を大きく圧迫することになります。

 

4.米国大統領選挙最後の討論会

米国大統領選挙の最後の討論会が1022日にテネシー州ナッシュビルで行われました。前回の討論会では、トランプ大統領がバイデン候補の発言を何度も遮ったため、今回は1人の候補が話す2分間はもう1人のマイクのスイッチを切る措置を取ったため、議論は前回に比し、大方スムースに進みました。この日の討論会では、新型コロナウイルス、米国の家族、人種、気候変動、国家安全保障、リーダーシップのの6つのテーマで論戦が行われました。

 

新型コロナウイルスではトランプ大統領は全米各地における感染拡大は峠を越え、収束に向かっており、数週間以内に完成したワクチンが配布できれば、この問題は消えてなくなるとの超楽観的な見方を示しました。これに対し、バイデン候補は米国には未だにコロナを収束させる包括的な計画がなく、経済や学校再開の必要な国家的な統一基準を作るとしました。

 

次に、米国の家族では、特に、低所得者に医療保険加入を促す公的医療保険制度(オバマケア)の取り扱いが焦点になりました。司会者がトランプ大統領にオバマケアを廃止すると約2000万人が無保険者になることを指摘すると、オバマケアは個人に保険加入を義務付けるのは最悪だとしながらも、私的保険の活用を主張するだけで、オバマケアに代わる医療保険制度の代替案は相変わらず、提案できませんでした。これに対し、バイデン候補はオバマケアの拡大に加え、私的保険の継続的な活用を主張しました。

 

人種問題では、移民政策について、トランプ大統領が国境に400マイルの壁を作り規制が強化されれたことを誇示しましたが、バイデン候補は親と一緒に来た500名以上の子供が親と分離され、行き場所がなくなってしまったので犯罪ではないかと強く非難ししました。また、トランプ大統領は自分達は黒人を含むマイナリティへの地位向上に最も務めた政権としましたが、バイデン候補より人種間の対立を煽った最悪の政権との批判を受けました。

 

気候変動については、トランプ大統領が温暖化対策の国際ルールである「パリ協定」を米国内のビジネスを破壊するものとして、脱退を表明したことを正当化しました。これに対し、バイデン候補地球温暖化の科学性に基づき、米国は気候変動問題に取り組む道徳的な義務を負っているとしてパリ協定に復帰することを表明しました。

 

国家安全保障について、トランプ大統領が米国の鉄鋼産業の競争力低下に関し、中国への関税許可を正当化したのに対し、バイデン候補はその結果として、従来中国に穀物を輸出していた米国の農家が大きな被害を受け、不必要な巨額の補助金が発生していると非難しました。バイデン候補は中国に対し国際法を守らせることの必要性を強調しました。対北朝鮮政策を巡って、トランプ大統領が北朝鮮の金委員長と親密な関係を築き、戦争を回避していることを強調するのに対し、バイデン候補は北朝鮮がミサイル能力を向上させており、制裁措置の強化を主張しました。

 

これに関連して、トランプ大統領はバイデン候補の息子が父親の地位を利用して、ウクライナや中国で不正に金儲けをしていると非難しました。これに対し、バイデン候補は不正に金儲けをしていることはなく、逆にトランプ大統領が中国に設置している秘密口座の理由を求めました、更に、バイデン候補はトランプ大統領が納税報告書を未だに開示しないことについて強く批判をしました。

 

最後にリーダーシップの問題に関連して、司会者が大統領就任式で支持しなかった人に何を呼びかかけるかの質問に対し、トランプ大統領は経済の成功が結束させると曖昧な回答でした。これに対し、バイデン候補は共和党支持者と民主党支持者を分けることは望ましくなく、米国民が一体となって国を作っていく必要性を強調、リーダーの品格、信用、尊敬の回復の重要性を訴えました。

 

討論会を終えた後の評価では、CNNはバイデン候補の勝利が53%で、トランプ大統領の勝利が39%、一方保守系のFoxニュースでは、トランプ大統領が62%、バイデン候補が38%となっていま。一方、3大ネットワークの一つであるABCはバイデン候補が62%、トランプ候補が33%となっています。

          (2020111日: 村方 清)