Wednesday, December 2, 2020

バイデン候補勝利後のワクチン・バブル相場








1.11月の実績

11月の株式市場は113日の大統領選挙でバイデン候補の勝利が確実になるにつれ、大規模経済対策への期待から大きな上昇となりました。加えて、米英の3つの製薬会社の新型コロナウイルスのためのウクチン開発が最終の臨床試験で良好な結果とあったとの情報によって、更に相場を押し上げる形になりました。主要な動きは以下の通りでした。

112日:中国の製造業購買担当景気指数が99か月ぶりの高水準となったことや米国のISMの製造業景況感指数も21か月ぶりの高水準となり、投資家心理が改善し、ダウ平均は423ドル高(1.60%増加)

113日:米大統領選挙でバイデン候補が勝利し、上院でも民主党が過半数を獲得すれば大規模な経済対策が実施との思惑から景気敏感株を中心に買いが広がり、555ドル高(2.06%増加)

114日:米大統領選挙でバイデン候補の勝利が強まる中で、上院は引き続き共和党が維持すると見られ、ねじれ議会となる可能性から規制の強化はないとの見方から主要ハイテク株への見直し買いが広がり、368ドル高(1.34%増加)

115日:民主党のバイデン候補はネバダ州でリードを広げ、ここで勝利すれば、過半数に必要な270票に一段と近づくため、選挙結果は週内にも判明するとの見通しが強まったことやFOMCが現在の金融緩和策の維持を決めたことで、543ドル高(1.95%増加)

116日:コロナウイルス感染者数が急増していること、米大統領選挙の結果はバイデン氏の勝利が有力視される中、一部の混乱も予想され、67ドル安(0.24%減少)

119日:ファイザー社の新型コロナウイルスワクチンの承認が近いとの報道から、景気敏感株に買いが集まりアメリカン・エキスプレス、ボーイング、ウォルト・ディズニー、シェブロンなどが急上昇し、835ドル高(2.95%増加)。

1110日:新型コロナウイルスのワクチン普及への期待から、景気敏感株への買いが続き、263ドル高(0.90%増加)。ハイテク株の多いナスダック指数は続落

1111日:今月に入り、ダウ平均は2900ドル強上昇しており、短期的な過熱感を警戒した売りが優勢で、23ドル安(0.08%減少)

1112日:米国での1日のコロナ感染者数が10万人を上回る状態が続いており、FRBのパウエル議長が討論会で数か月は厳しい状況になるかもしれないと述べたことで、短期的に景気の下押し要因になる警戒感が強まり、317ドル安(1.08%減少)

1113日:前日にコロナウイルス感染拡大の懸念を受けた売りが一巡したことやワクチン普及への業績期待という投機的な買いが優勢で、400ドル高(1.37%増加)

1116日:米製薬のモデルナがコロナワクチンの臨床試験で94.5%の有効性が確認されたとのニュースで、経済正常化への期待が高まり、景気敏感株を中心に投機的な買いが強まり、471ドル高(1.60%増加)。

1117日:朝方発表の10月の米小売売上高が前月比0.3%増と市場予想の0.5%増に届かず、米景気の先行きへの不透明感が意識され、167ドル安(0.56%減少)

1118日:新型コロナウイルスの感染拡大による目先の景気の不透明感がくすぶり、最近上昇していた銘柄を中心に利益確定売りが優勢で、345ドル安(1.16%減少)

1119日:米新規失業保険申請件数が市場予想を上回ったこともあり、200ドル以上下落する場面もあったが、米議会の追加経済対策の協議が再開することも伝えられ、45ドル高(0.15%増加)

1120日:米国での新型コロナウイルスの感染再拡大で、行動制限を強化する動きが広がり、目先の米経済が停滞との懸念から景気敏感株を中心に売りが優勢で、220ドル安(0.75%減少)。

1123日:英製薬アストラゼネガもワクチンの臨床実験で90%の有効性が判明、ファイザーのワクチンの接種も12月中旬から始まるとの見通しとなり、11月の米購買担当者景気指数(PMI)も10月に比べ1.6%ポイント高で、328ドル高(1.12%増加)

1124日:バイデン次期政権への移行があ円滑に進むとの期待と新型コロナウイルス開発への期待も重なり、投機的な買いが優勢で、455ドル高(1.54%増加)。

1125日:前日に初めて3万ドル台を達成したことや米失業保険申請件数が前週から3万件増加したことで、景気敏感株を中心に短期的な利益確定売りが優勢で、174ドル安(0.58%減少)。

1127日:米政権の円滑な移行と新型コロナウイルスのワクチン普及への期待感から買いが優勢で、38ドル高(0.13%増加)。

1130日:相場が過去最高圏にあることや新型コロナウイルス感染拡大への警戒感から、月末を意識した利益確定や持ち高調整の売りが優勢で、272ドル安(0.91%減少)。



2.米国の雇用状況


米労働省が11月6日に発表した10月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比638,000人の

増加で、市場予想の530,000人を上回りました。8月の雇用者数の確定値は1,493,000人で4,000 人の増加、9月の改定値は672,000人で、11,000人の増加となりました。なお、10月の失業率は6.9%で、前月と比べて1.0%改善しました。労働参加率は61.7%で、前月から0.3%増加しました。10月の時間当たり賃金上昇率は前月比で4セント増加しました。部門別ではレジャー・観光業が271,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が208,000人の増加、小売業が104,000人の増加、ヘルスケア関連業75,000人の増加となりました。


3FOMCの金利据え置き

FOMC1145日にFOMC会合を開き、金利据え置きと米国債を制限なく購入する量的緩和策などの維持を決めました。会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。FRBはこの試練のときに米経済を支え、雇用の最大化と物価の安定化の目標を推進するためにあらゆる手段を使うことを約束する。新型コロナウイルスの流行は米国と世界中に甚大な人的・経済的困難をもたらしている。経済活動と雇用はここ数カ月はやや持ち直しているが、依然として今年初めの水準を大きく下回っている。弱い需要と先の石油価格の下落が、消費者物価の上昇率を押し下げている。経済および米国の家計と企業の信用の流れを支える政策措置もあり、金融情勢は全般的に、依然として緩和的だ。

景気の動向は、ウイルスの拡大状況に大きく左右される。現在続いている公衆衛生の危機は、短期的には引き続き、経済活動、雇用、インフレにとって大きな重荷となり、中期的には経済見通しにとって深刻なリスクとなる。

FOMCは雇用の最大化と長期的な2%のインフレ達成を目指している。物価上昇率がこの長期目標を下回る状態が続いていることから、当面は2%よりやや上のインフレ率を目指す。そうすることで、インフレが長期的に平均2%になり、長期インフレ予測が2%で安定するようにする。

これらの成果が出るまで金融政策の緩和的なスタンスを維持することを予測している。

FOMCは(政策金利である)フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを00.25%に据え置くことを決定した。労働市場の情勢がFOMCの雇用最大化の判断と一致する水準に達し、インフレが

2%に上昇、当面2%をやや上回るところで軌道にのるまでこの目標レンジの維持が適切と予測する。

さらに今後、FRBは少なくとも現状のペースで国債、ローン担保証券の保有を増やす。そうすることで、円滑な市場機能を維持し、緩和的な金融情勢を促進し、家計と企業の信用の流れを支える。

金融政策のスタンスを調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは引き続き、景気見通しについて経済指標が示す意味を注視する。目標達成を妨げるリスクが現れた場合は、金融政策のスタンスを適切なものに調整する準備がある。公衆衛生、労働市場の状況、インフレ圧力・インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

決定はパウエル議長及びウィリアムズ副議長を含む10人のメンバー全員による。

今回の決定は、現状のゼロ金利政策と量的緩和策をともに維持すると同時に、新型コロナウイルスの感染再拡大が懸念材料として、景気リスクが高まれば、量的緩和を拡充する可能性を示唆しました。市場の反応は前向きで、景気拡大策を取ると見られるバイデン大統領候補の勝利する可能性が高まったことの要因もあり、ダウ平均価格はは543ドル高(1.95%増加)となりました。 

4. バイデン候補の勝利

113日に行われた大統領選挙で、民主党のバイデン候補は接戦州であったウイスコンシン州やミシガン州に加え、ペンシルベニア州でも現職与党のトランプ大統領に勝利し、117日に地元のデラウェア州ウィルミントンで勝利宣言の演説を行いました。

 その演説の中で、バイデン候補が強調したのは、自分が米国を団結に導くよう、自分に投票しなかった人々も含め、米国人の大統領として働くことでした。分断ではなく、結束を目指す大統領になることを誓ったことでした。

それに加え、バイデン候補が強調したのは、米国を可能性の国として、全ての米国人が夢を追求できる素晴らしい国であり、米国人の魂を取り戻し、米国が地球の指標として全世界の見本となることを目指していきたいとしました。

バイデン候補に先立ち、演説したハリス副大統領候補も、初めての女性副大統領の誕生の前に自分は初であろうが最後ではなく、今後続く少女たちに希望を与えると述べ、米国は可能性の国であることを改めて伝えました。

今回のバイデン候補の勝利は、直接的には新型コロナウイルスで、ベトナム戦争での米国人の死者を遥かに超える25万人以上の犠牲者を出しながら、有効な政策を出せない現在のトランプ政権への

米国民の不満や批判が強かったことにあります。同時に、米国の民主主義の仕組みを十分に理解することなく、強引に自分や特定のグループへの利益追求に走りすぎたトランプ大統領への不信が強かったことがあげられます。米国がトランプ政権下での多くの誤った政策を見直し、バイデン次期大統領の下で再び、米国が世界の民主主義国家のリーダーとして歩んでいくことを期待したいものです。


5.コロナウイルス感染拡大とワクチン開発によるバブル相場

113日の米国大統領選挙でのバイデン候補の勝利以降、米英の3つの製薬会社による新型コロナウイルス抑止のためのウイルス開発の臨床試験の結果がよかったことで、米政府による新薬への承認期待から株相場が大きく上昇することになりました。しかし、現在有力視される2つのワクチンについては保存方法の難しさや臨床試験の拡大による副作用の問題は依然残されており、急激な上昇相場を正当化するには無理があるように思われます。それよりも懸念されるのは冬のシーズンを迎え、コロナウイルス感染が再び急激に拡大、実体経済への深刻な悪影響が出てきているにもかかわらず、中央銀行の過剰な緩和政策が株式市場の投機的な動きを加速させていることです。バッフェ指数で知られるように、GDPに対する株価の時価相場総額があまりに大きくなりすぎたことに対して、超低金利状態の中で中央銀行が適切な対応策を取れなくなっている現在の株式相場の動きには大きな懸念を持たざるを得ません。

        (2020121日: 村方 清)