Friday, January 1, 2021

コロナ感染者急増下での期待先行相場







1.12月の株式市場

12月の株式市場は11月末の感謝祭休暇後のコロナウイルス感染者急増といった深刻な状況にもかかわらず、2つのワクチンの緊急使用、英国とEUの新自由貿易協定の合意、そして米国での追加経済対策の成立などで、市場が好感、期待先行による上昇相場の継続となりました。主要な動きは以下の通りでした。

121日:新型コロナウイルスのワクチン実用化への期待から、景気敏感株を中心に買いが入り、ダウ平均は185ドル高(0.63%増加)。

122日:英国政府が米ファイザーの新型コロナウイルスワクチンを承認し、ワクチンの実用化が世界経済の正常化を後押しするとの見方から、60ドル高(0.20%増加)

123日:追加の経済対策の早期成立の期待から買いが優勢となったが、午後にかけて、ファイザーなどの新型コロナウイルスのワクチンが計画した規模では供給できないことが伝わり、上げ幅を縮小し、86ドル高(0.29%増加)

124日:朝方発表の11月の米雇用統計が245,000人で、市場予想の450,000人を大きく下回り、追加経済対策が成立するとの期待が高まり、景気敏感株を中心に買いが広がり、249ドル高(0.83%増加)。

127日:全米で新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからず、経済活動の制限が予想以上に大きいとの見方から、143ドル安(0.49%減少)。

128日:英国で新型コロナウイルスのワクチン接種が始まり、経済活動の正常化が進みやすくなるとの期待から、買いが優勢で、104ドル高(0.35%増加)

129日:追加経済対策の与野党協議に進展が見られないことや英国でファイザーのワクチンへの副作用の懸念が出て、投資家心理が悪化、105ドル安(0.35%減少)

1210日:追加経済対策を巡る与野党協議が難航していること、週間の新規失業者保険申請件数も市場予想を上回る85.3万件で、景気敏感株を中心に売りが優勢で、70ドル安(0.23%減少)

1211日:米国で新型コロナウイルスのモデルナのワクチンが近く承認されるとの見方がある反面、追加の経済対策を巡る与野党協議が進展せず、47ドル高(0.16%増加)

1214日:米国の新型コロナ・ウイルスの感染者や死者数が高水準で続いており、ロックダウンが再度導入されるとの観測から、投資家心理が冷えて、185ドル安(0.62%減少)。

1215日:追加経済対策を巡る米与野党協議が進展するとの観測や新型コロナウイルスのワクチン普及への期待から、景気敏感株を中心に買いが広がり、338ドル高(1.13%増加)

1216日:11月の米小売売上高が前月比1.1%減と市場予想の0.3%以上となり、連銀による量的緩和長期化の期待にも拘らす、年末商戦は想定より悪いと受け取られ、45ドル安(0.15%減少)

1217日:追加の米経済対策の早期成立期待と米連銀の金融緩和の長期化で、買いが強まり、149ドル高(0.49%増加)

1218日:短期的な相場の過熱感を警戒した売りが優勢であったことや追加の経済対策を巡る与野党協議の不透明感も加わり、124ドル安(0.41%減少)

1221日:新型コロナウイルスの変異種への懸念から朝方に一時400ドル超下落したが、午後には米政府の追加経済対策への期待から買いが優勢になり、37ドル高(0.12%増加)

1222日:米議会が9000億ドル規模の追加経済対策を可決したが、目先の材料が出尽くしたとの見方や英国の新型コロナウイルスの変異種の拡大で、201ドル安(0.67%減少)

1223日:米ファイザーが来年7月までに1億回分の新型コロナウイルスワクチンを追加供給する契約を締結したことを受けて、ワクチン普及への期待が高まり、114ドル高(0.38%増加)

1224日:英国とEU24日新たな自由貿易協定(FTA)で合意、英国のEU離脱を巡る不透明感が後退、投資家心理が改善し、70ドル高(0.23%増加)

1228日:米政府による追加の経済対策ガトランプ大統領の署名で27日に成立、市場が好感し、アップルなど主力ハイテク株が軒並み上昇し、204ドル高(0.68%増加)

1229日:前日に過去最高値を更新したこともあり、短期的な利益確定売りが優勢で、現金給付を1600ドルから2000ドルへ増額する法案の期待が後退し、68ドル安(0.22%減少)。

1230日:英製薬のアストラゼネガとオックスフォード大が開発した新型コロナワクチンが承認され、景気回復を後押しするとの見方から、74ドル高(0.24%増加)

1231日:朝方は売りが先行したが、新型コロナウイルスのワクチン普及で来年は景気が回復に向かうとの期待から、197ドル高(0.65%増加)。


2.米国の雇用状況

米労働省が124発表した11月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比245,000人の増加で、市場予想の450,000人を大きく下回りました。9月の雇用者数の確定値は711,000人で39,000 人の増加、10月の改定値は610,000人で、28,000人の減少となりました。なお、11月の失業率は6.7%で、前月と比べて0.2%改善しました。労働参加率は61.5%で、前月から0.2%減少しました。11月の時間当たり賃金上昇率は前月比で9セント増加しました。部門別では運輸・倉庫業が145,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が60,000人の増加、ヘルスケア関連業が46,000人の増加、製造業が27,000人の増加となりました。


FOMCの金利据え置き 

FRB1215-16日にFOMC会合を開き、金利据え置きと米国債を制限なく購入する量的緩和策などの維持を決めました。会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。FRBはこの試練のときに米経済を支え、雇用の最大化と物価の安定化の目標を推進するためにあらゆる手段を使うことを約束する。新型コロナウイルスの流行は米国と世界中に甚大な人的・経済的困難をもたらしている。経済活動と雇用はここ数カ月は引き続き回復しているが、依然として今年初めの水準を大きく下回っている。弱い需要と先の石油価格の下落が、消費者物価の上昇率を押し下げている。経済および米国の家計と企業の信用の流れを支える政策措置もあり、金融情勢は全般的に、依然として緩和的だ。

景気の動向は、ウイルスの拡大状況に大きく左右される。現在続いている公衆衛生の危機は、短期的には引き続き、経済活動、雇用、インフレにとって大きな重荷となり、中期的には経済見通しにとって深刻なリスクとなる。

FOMCは雇用の最大化と長期的な2%のインフレ達成を目指している。物価上昇率がこの長期目標を下回る状態が続いていることから、当面は2%よりやや上のインフレ率を目指す。そうすることで、インフレが長期的に平均2%になり、長期インフレ予測が2%で安定するようにする。

これらの成果が出るまで金融政策の緩和的なスタンスを維持することを予測している。

FOMCは(政策金利である)フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを00.25%に据え置くことを決定した。労働市場の情勢がFOMCの雇用最大化の判断と一致する水準に達し、インフレが2%に上昇、当面2%をやや上回るところで軌道にのるまでこの目標レンジの維持が適切と予測する。

雇用最大化と物価安定の目標に向けてさらなる大きな前進を遂げるまで、FRBは国債保有額を少なくとも月800億ドル、ローン担保証券の保有を少なくとも月400億ドル引く続き増やす。こうした資産購入は円滑な市場機能を維持し、緩和的な金融情勢を促進し、家計と企業の信用の流れを支える。

金融政策のスタンスを調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは引き続き、景気見通しについて経済指標が示す意味を注視する。目標達成を妨げるリスクが現れた場合は、金融政策のスタンスを適切なものに調整する準備がある。公衆衛生、労働市場の状況、インフレ圧力・インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

決定はパウエル議長及びウィリアムズ副議長を含む10人のメンバー全員る。

今回の決定は、現状のゼロ金利政策を維持すると同時に、米国債などを大量に買い入れる量的緩和の指針を強化して、米国債などの購入を完全雇用と物価安定に近づくまで継続すると表明したことにあります。新型コロナウイルスの感染再拡大がで雇用が悪化しており、長期の金融緩和を宣言して景気回復期待をつなぎ留めるようにしたのが特徴です。市場の反応は前向きであったものの、米小売売上高が市場予想を大きく下回ったことで、米景気の下振れリスクが懸念され、45ドル安となりました。


4.英国とEUが通商協定で合意 

1224日に英国とEUは新たな自由貿易協定(FTA)を巡る交渉で合意しました。今回の合意により、条件を満たす英EU間の全品目・全数量の貿易で関税ゼロが維持される見通しとなりました。但し、FTAでは優遇関税の対象となる品目の原産地が限定されるため、英・EU以外の国からの原材料の比率が大きい製品は2111日以降に関税がかかる可能性があります。

また、英EU間での人の移動や移住も厳しくなります。英国側は11日以降、これまで自由に移住を受け入れていたEU市民を他の外国人と同様に扱うことになります。これにより、英国は年収や英語力などに基づいたポイントで移民希望者を評価する仕組みを導入し、一定基準以下の低技能の労働者を受け入れないことになると見られています。

今回、英国の主権の回復を目指す英国側といいとこ取りを認めないEUの主張が真正面からぶつかり、交渉が難航しました。特に、英国が英国が政府補助金など産業政策でEUルールに従う公正な競争原理の確保や英海峡でのEU漁船の扱いなどで対立が続いていました。

こうした状況の中で、新型コロナの感染拡大が双方に妥協を促す決定打となりました、特に英国は122日に新型コロナの変異種の感染が拡大し、ロンドンの都市封鎖を迫られ、かつドイツやフランスが英国との往来を制限したことで人や物資の移動に混乱が生じていたことが大きな要因となりました。

これにより、英EU離脱の移行期間である年内中に双方が議会での承認や暫定適用の手続きを済ませれば、懸念されていた年明けからの経済活動の混乱は回避されることになりました。


5.トランプ大統領、追加経済対策法案と2021会計年度歳出法案に署名 

トランプ大統領は1227日に米議会が可決した9000億ドルの新型コロナウイルス対策法案と14000億ドル規模の2021会計年度歳出法案に署名、両案が成立しました。これにより、現在暫定予算で動いている連邦政府の一部機関が29日から閉鎖される事態は回避されることになりました。

トランプ大統領は署名に際し、個人向け給付金の額を600ドルから2000ドルに置き換える法案を採決することを議会に求め、下院は民主党が主導して28日に2000億ドルの増額法案を採択しました。しかしながら、上院では2000億ドルへの引き上げに反対の共和党が多数派で両院を通過する可能性は低いと見られます。        

       (202111日: 村方 清)