1.5月の株式市場
5月の株式市場はコロナワクチン接種の普及が進み、経済正常化の期待から株高基調の動きが続きました。その一方、4月の消費者物価指数が市場予想を大きく上回り、FRB内部で量的緩和策の規模縮小が議論され、市場での警戒的な動きも出てきました。主要な動きは以下の通りでした。
5月3日:世界的な景気回復期待を背景にエネルギーや素材、資本財など景気敏感株を中心に買いが入り、良好な米経済指標もあり(4月製造業景況感指数は60.7)、238ドル高(0.70%増加)。
5月4日:新型コロナウイルスに対するワクチンの接種が進み、米経済の正常化が加速するとの見方が強まり、ダウやキャタピラーなどの景気敏感株の買いが続き、20ドル高(0.06%増加)。
5月5日:商品相場の上昇を受け、景気敏感株のエネルギー―や素材、資本財関連株を中心に買いが優勢で、97ドル高(0.29%増加)。
5月6日:朝方発表の米失業保険申請件数が498,000件と市場予想を下回り、景気回復の期待が高まり、金融や素材等の景気敏感株が買われて、318ドル高(0.93%増加)。
5月10日:米長期金利の先高観が根強く、高株価収益率のアップルやマイクロソフトなどのハイテク株が売られ、35ドル安(0.10%減少)。
5月11日:米景気回復によるインフレ加速や金利先高観から前日にハイテク株が売られた流れが、消費関連株や景気敏感株に波及して、474ドル安(1.36%減少)。
5月12日:5月12日発表の4月消費者物価指数(CPI)が4.2%と市場予想の3.6%上昇を大きく上回り、長期金利が1.7%に上昇し、高株価収益率のハイテク株が下がり、消費関連や景気敏感株にも売りが広がり、682ドル安(1.99%減少)。
5月13日:米長期金利の上昇が一服し、投資家心理が改善、前日まで売られていたハイテク株に押し目買いが入り、経済活動の正常化の期待から景気敏感株も買われ、434ドル高(1.29%増加)。
5月14日:4月の小売売上高は伸び率で前月比横ばいで米長期金利が低下、投資家心理が改善、前日に続き高株価収益率銘柄が多いハイテク株に押し目買いが優勢で、361ドル高(1.06%増加)。
5月17日:インフレ懸念を背景に米長期金利の先高観が根強く、金利上昇局面で相対的に割高感が意識されやすい高株価収益率のハイテク株を中心に売りが優勢で、54ドル安(0.16%減少)。
5月19日:仮想通貨のビットコインが急落し、市場心理が悪化、これまで上昇が目立っていたダウやナイキなど景気敏感株や消費関連株の一角が売りに回され、165ドル高(0.48%減少)。
5月20日:米長期金利が低下し、高株価収益率のハイテク株が買われて相場上昇をけん引、前日に急落した仮想通貨の反発もあり、投資家のリスク回避姿勢が和らぎ、188ドル高(0.55%増加)。
5月21日:米国や欧州の5月購買担当者景気指数の速報値が前月から上昇し、景気敏感株を中心に買いが優勢で、124ドル高(0.36%増加)。
5月24日:ビットコインが大きく反発し、投資家心理が上向き、長期金利も落ち着いた動きとなり、ハイテク株が買い直されて、186ドル高(0.54%増加)。
5月25日:前日までの続伸でダウ平均は過去最高値に近づき、景気敏感株を中心に短期的な利益確定売りが強く、82ドル安(0.24%減少)。
5月26日:新型コロナウイルスワクチン接種の普及が進み、経済の正常化が進むとの期待から景気敏感株を中心に買いが入り、11ドル高(0.03%増加)。
5月27日:新規失業保険申請件数は406,000件と市場予想の425,000件を下回り、経済活動の正常化で景気回復が続いているとの見方が強く、142ドル高(0.41%増加)。
5月28日:ワクチン普及で、夏場にかけて景気回復が勢いづくとの期待から、アメリカン・エキスプレスやナイキなどの消費関連銘柄が高く、65ドル高(0.19%増加
なお、4月の失業率は6.1%で、前月より0.1%上がりました。労働参加率は61.7%で、前月から0.2%増加しました。4月の時間当たり賃金上昇率は前月比で21セント増加しました。部門別では観光・ホテル業が331,000人の増加、他のサービス業が44,000人の増加、金融関連業が19,000人の増加した一方、専門・ビジネスサービス業が111,000人の減少、運輸・倉庫業が77,000人の減少、製造業が18,000人の減少となりました。
3.FOMCの資産購入縮小検討の背景
FRBは5月19日に4月27-28日に行われたFOMCの会議議事要旨を公表しました。それによると、量的緩和の柱である米国債など資産購入の縮小について、経済の急回復が続くなら、今後の会合のどこかで購入ペースを調整する計画を議論することが適切との認識を示しました。議事要旨によると、FOMCが議論開始の条件として、最大雇用と物価安定の目標に向けて更なる著しい進展があるまでとしている時期を巡り、今回は様々な参加者が言及したに変わりました。
財政出動と経済再開で景気が回復し、米国では物価上昇が加速している。これについて、会合参加者は前年の低迷の反動や原材料などなどの供給制約による一時的な要因であるとの見方を崩さなかったものの、サプライチェーンのボトルネックが早期に解消しない可能性から、今年の物価にも上昇圧力がかかることへの警戒感を示しました。これに対し、雇用情勢については、所得水準や人種などによる不均衡があるほか、労働参加率の回復の鈍さなどから、広範で包括的な最大雇用の目標にはほど遠いとの見方で一致しました。
議事要旨によれば、参加者は不確実性が高まったとの認識を示し、結果ベースで政策を判断すると繰り返しました。いずれにしても、次回の6月会合から夏にかけて、どこまで出口論の検討に向けた環境が整うかが焦点となります。
4.バイデン政権の予算教書
バイデン政権は5月28日に2022会計年度の予算編成方針を示す予算教書を米議会に提出しました。通常の年度予算に加えて、米国雇用計画や米国家族計画など2つの大型経済対策を盛り込ん結果、歳出要求額は6兆110億ドルと戦後最大となりました。新型コロナウイルス対策で歳出が急増した2021年度に比べると17%減少するものの、新型コロナ感染問題以前の2019年度からは36%増となります。その一方、2022年度の歳入は景気回復に伴う税収増で4兆1740億ドルと17%増加し、財政赤字は1兆8370億ドルと前年度から半減する見通しです。
今後8-10年間かけて2兆ドル規模のインフラ投資を見込む米国雇用計画と1.8兆ドル規模の育児や教育などの支援に回す米国家族計画を主塾とした積極財政により、2022年度の財政赤字はGDP比で7.8%とリーマンショック後の水準に並ぶことになります。また、連邦政府債務のGDP比率も2021年は109,7%であったものが、2031年度には117%に膨らむことを予測しています。
バイデン政権としてはこうした財政支出拡大を連邦法人税の21%から28%への引き上げや個人富裕層への増税を15年間かけて補う方針で、203年度以降は財政健全化に向かうとしています。これに対して、野党の共和党は積極財政や増税案に強く反対しており、今後議会での本格的な議論に発展することになります。
(2021年6月1日:村方 清)