1.4月の株式市場
4月の株式市場は前半が長期金利の低下を受けて上昇基調が続きました。しかし、後半期にはバイデン政権が目指す政府主導型経済における財源確保のため増税路線への警戒感もあり、不安定な動きが出ました。主要な動きは以下の通りでした。
4月1日:米長期金利の低下を受けて、高株価収益率の主力ハイテク株に買いが入り、172ドル高(0.52%増加)。
4月5日:3月の米雇用統計など主要経済指標が市場の予想以上に回復し、投資家のリスク選好姿勢が強まり、消費関連など景気敏感株が買われ、374ドル高(1.13%増加)。
4月6日:前日に1週間ぶりに過去最高値を更新したこともあり、上昇が目立つ銘柄に利益確定売りが出て、97ドル安(0.29%減少)。
4月7日:新型コロナウイルスワクチンの普及を受けた米経済回復への期待やFRBによる金融緩和の長期化観測が相場を支え、16ドル高(0.05%増加)。
4月8日:米長期金利の低下で相対的な割高感が和らぎ、アップルなどハイテク株に買いが入り、57ドル高(0.17%増加)。
4月9日:米経済活動の正常化への期待や金融政策の長期化観測から、景気敏感株を中心に買いが優勢で、297ドル高(0.89%増加)。
4月12日:前週に過去最高値を更新したこともあり、短期的な過熱感が意識されたことや主要企業の決算発表の本格化を控えた持ち高調整の売りが優勢で、55ドル安(0.16%減少)。
4月13日:米政府がJ&Jの新型コロナウイルスワクチンの接種を中断するように勧告、ワクチン普及による経済正常化への期待が後退、景気敏感株を中心に売りが優勢で、68ドル安(0.20%減少)。
4月14日:新型コロナウイルスのワクチン普及の遅れの懸念が和らぎ、景気敏感株に買いが広がり、53ドル高(0.16%増加)。
4月15日:15日発表の3月米小売売上高が前月比9.8%増と市場予想の6.1%増を上回り、米景気回復の期待が一段と強まり、長期金利低下でハイテク株も買われて、305ドル高(0.90%増加)。
4月16日:新型コロナウイルスワクチンの普及で米経済の正常化への期待と3月の米住宅着工件数が前月比19.4%増となったことなどを受けて、買いが優勢で、165ドル高(0.48%増加)。
4月19日:米景気回復や業績改善などのファンダメンタルズは強いものの、上昇基調が続いていることへの過熱警戒感もあり、121ドル安(0.36%減少)。
4月20日:新興国を中心に世界の新型コロナウイルス感染者数の増加が続き、世界経済の足を引っ張りかねないとの見方から、景気敏感株を中心に売りが広がり、256ドル安(0.75%減少)。
4月21日;新型コロナウイルスのワクチン普及の期待から景気敏感株を中心に買いが優勢で、316ドル高(0.93%増加)。
4月22日:バイデン政権がキャピタルゲイン課税の税率を大幅に引き上げるとの方針が伝わると、売りが膨らみ、321ドル安(0.94%減少)。
4月23日:バイデン政権が富裕層を対象に株式などの売却益にかかるキャピタルゲイン課税を引き上げるとの前日の報道で売りが先行したが、一巡後は増税が相場に与える影響は限定的との見方が優勢で、ハイテク株を中心に買いが優勢で、228ドル高(0.67%増加)。
4月26日:商品相場の上昇で採算が圧迫されるとの見方から、コカ・コーラやウォルマードなど消費関連株が売られて、62ドル安(0.18%減少)。
4月27日:米長期金利が1.6%台に上昇し、相対的な割高感が意識されるハイテクなど高株価収益率の銘柄が売られ、3ドル高(0.01%増加)。
4月28日:バイオ製薬のアムジェンが前日の決算の結果大きく売られ、ダウ平均を押し下げたが、FRBによる緩和的な金融政策が長く続くとの観測から、午後に下げ幅を縮める場面があり、165ドル安(0.48%減少)。
4月29日:バイデン大統領が28日の施政方針演説で、インフラ投資計画や米国家家族計画の必要性を訴えことで、財政支出が米景気の回復を後押しすると意識され、240ドル高(0.71%増加)。
4月30日:新型コロナウイルスの新興国での感染拡大や半導体不足などが世界経済の回復の重荷になるとの懸念から、景気敏感株を中心に売りが優勢で、186ドル安(0.54%減少)。
3.日米同盟の強化
日本の菅首相は4月16日にバイデン米大統領と初めて会談し、新たな時代における日米グローバル・パートナーシップと題した共同声明を発表しました。共同声明では、中国が軍事的な圧力を強める台湾海峡について平和と安定の重要性を強調すると明記すると同時に両岸問題の平和的解決を促すとの文言を入れました。台湾を言及した背景には有事への懸念が高まっている状況があり、日米が結束して中国の行動に反対する姿勢を明確にする必要性があると判断したことがあげられます。
また、共同声明では香港や新彊ウイグル自治区の人権状況についても、深刻な懸念を共有するとの表現を盛り込みました。加えて、共同声明では中国からの脱却を念頭に、半導体など重要物資の安定供給網(サプライチェーン)づくりで協力することを確認しました。
今回の共同声明では、安保だけでなく、経済、技術、人権など各分野で中国を意識し、競争する姿勢を貫く文書となりました。
4.金利据え置きを決めたFOMC会合
FOMC会合が4月27-28日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。FRBはこの試練の時に米経済を支え、雇用の最大化と物価の安定の目標を推進するために、あらゆる手段を使うことを約束する。
新型コロナウイルスの流行は、米国と世界中に甚大な人的・経済的な困難をもたらしている。ワクチン接種の進捗と力強い政策支援を受け、経済活動と雇用の指標は強さを増した。パンデミックによる打撃が最も大きかった産業は依然弱いが、回復し始めている。物価上昇率は、主に一時的な要因を反映して上昇した、経済及び米国の家計と企業の信用の流れを支える政策措置もあり、金融情勢は全般に依然として緩和的だ。
景気の動向は、ワクチン接種の進捗も含め、ウイルスの拡大状況に大きく左右されている。現在続いている公衆衛生の危機は引き続き、経済の重荷となっており、経済の先行きへのリスクは残っている。
FOMCは雇用の最大化と長期的な2%のインフレ達成を目指している。物価上昇率がこの長期目標を下回る状態が続いていることから、当面は2%よりやや上のインフレ達成を目指す。そうすることで、インフレ率が長期的に平均で2%になり、長期インフレ予測が2%で安定するようにする。
これらの成果が出るまで、金融政策の緩和的なスタンスを維持すると予測している。
FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを0-0.25%に据え置くことを決定した。労働市場の情勢がFOMCの雇用最大化の判断と一致する水準に達し、インフレ率が2%に上昇して当面は2%をやや上回るところで軌道に乗るまで、この目標レンジを維持することが適切と予測する。
雇用最大化と物価安定の目標に向けてさらなる大きな前進を遂げるまで、FRBは国債保有を少なくとも月800億ドル、ローン担保証券の保有を少なくとも月400億ドル引き続き増やす。こうした資産購入は円滑な市場機能と緩和的な金融情勢の促進を助け、家計と企業の信用の流れを支える。
金融政策の適切なスタンスを判断するにあたって、FOMCは引き続き、景気見通しについて経済指標が示す意味を注視する。目標達成のリスクが現れた場合は、金融政策のスタンスを適切なものに調整する準備がある。公衆衛生、労働市場の状況、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。
今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む11人のメンバーの賛成による。
4月28日はバイオ製薬のアムジェンが決算発表の結果、大きく下げたが、FRBによる緩和的な金融政策が長く続くとの観測が支えとなり、前日比165ドル安(0.48%減少)。
5.バイデン大統領の施政方針演説
バイデン大統領は就任後99日となる4月28日夜に議会の上下両院合同会議で最初の施政方針演説を行いました。最優先課題に掲げている新型コロナ対策では就任100日までにワクチン接種が当初の1億回の倍以上となる2.2億回になり感染者数が激減していること更に1.9兆ドルの追加経済政策で米国経済が回復過程に入っていることなど、コロナ危機から脱しつつある米国の状況に触れ、米国は再び動き出したこと、そして世界を再び主導することを強調しました(4月29日の米商務省の発表によれば、米国のGDPは2021年第1四半期は巨額の財政出動とワクチンの普及で個人消費が2桁増となったことで、年率換算で6.4%増加となり、GDP規模もコロナ危機前の水準に回復)。
今後の経済運営では、経済格差の是正を最優先し、底辺を引き上げ、中間層を起点に経済を成長させるべきとしました。このための方法として明確にしたのは、増税と歳出増を同時に進め、経済に強く関わる大きな政府による成長戦略でした。富める者が増えれば貧しい層にも自然に恩恵がこぼれ落ちるというトリクルダウン理論は機能しなかったとして、トランプ前政権の減税路線を否定しました。経済政策の第1の柱は企業増税を財源にインフラなどで8年で約2兆ドルを投じる米国雇用計画で、第2は個人富裕層への増税で育児や教育支援に10年で1.8兆ドルを充てる米国家族計画です。バイデン大統領は企業と再富裕層に公平な負担をしてもらうとして、合計4兆ドルの構想に超党派の協力を求めました。バイデン大統領は今回の経済構想をブルーカラーのための青写真と称して、トランプ前大統領が意識し、政権を支えた白人労働者層に支持を呼びかけました。
今回の演説の中で、バイデン大統領がもう一つ強調したのは台頭する中国への危機感でした。米国は21世紀を勝ち抜くためには中国やその他の国との競争の中にあるとして、中国のような専制主義の国は21世紀においては民主主義は専制主義に対抗できないと考えており、中国との競争に勝利するためにも、国内の融和や中間層の復活につながる経済政策が必要であることを強調しました。また、米国が誇る民主主義の優位を示すためにも、分断を乗り越えて米国民が結束するように呼びかけました。
その他、国内問題では黒人が不利益を受けている警察改革問題や不法移民の増加などへの移民問題へのための法案整備への協力を共和党に求めました。
バイデン大統領の今回の施政方針演説の中で特徴的であったのは大きな政府による米国経済の再建と成長でそれは1933年に就任したルーズベルト大統領のニューディールに通じるものがあり、その路線を否定した共和党のレーガン政権以来の潮流を変えられるかという根本的な課題に取り組むことになります。
(2021年5月1日:村方 清)
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