Tuesday, February 1, 2022

FRBの金融正常化に揺れる市場







1.1月の株式市場

1月の株式市場は長期金利の上昇と共に、高株価収益率のハイテク株を中心に売りが広がったものの、月末に長期金利の上昇が一巡するとハイテク株が再び上昇するなど、不安定が目立ちました。主要な動きは以下の通りでした。

13日:米景気ン回復基調が続くとの期待や年金基金オ新しい流入もり、英気敏感株を中心に上昇、ハイテク株の一部も買われ、247ドル高(0.68%増加)。

14日:新型コロナウイルスの感染が拡大しても、米経済の回復は続くとの期待から、景気敏感株を中心に買いが優勢で、215ドル高(0.59%増加)。

15日:FOMCの議事要旨を受けてFRBが金融政策の正常化を前倒しで進めるとの見方から、米長期金利が上昇、ハイテク株など高株価収益率の銘柄に売りが広がり、393ドル安(1.07%減少)

16日:FRBが金融政策の正常化を急ぐことへの警戒感から、売りが優勢となり、171ドル安(0.47%減少)。

17日:FRBが金融政策の正常化を前倒しするとの警戒感から相場の重荷が続いたが、雇用市場の改善から米経済回復が続くとの期待で、景気敏感株に買いが入り、5ドル安(0.01%減少)。

110日:FRBが金融引き締めを前倒しするとの観測が投資家の心理の重荷で、1600ドル近く下げたが、長期金利が一服するとハイテク株買い戻され、163ドル安(0.45減少)。

111日:FRB議長の議会証言後に米長期金利の上昇が一服し、高株価収益率のハイテク株を中心に買い直され、183ドル高(0.51%増加。

112日:昨年12月の米消費者物価指数の上昇率が同月比7.0%と市場予想並みに留まり、米長期金利が一時低下、高株価収益率のハイテク株を中心に買いが優勢で、38ドル高(0.11%減少)。

113日:金融政策の正常化が早期に進むとの警戒感から、高株価収益率のハイテク株が売られ、177ドル安(0.49%減少)。

114日:14日発表の昨年12月の米小売売上高が市場予想を下回り、消費者関連株を中心に売りが出たこと、四半期決算を発表したJPモルガンが大幅安で、他の金融株にも波及し、202ドル安(0.56%減少)

118日:米長期金利が一時1.87%と前週末に比べ0.09%増加し、相対的な割高感が意識された高株価収益率のハイテク株が売られ、決算内容が嫌気されたゴールドマン・サックスも大幅に下げ、金融株全体が売られて、543ドル安(1.51%減少)。

119日:前週発表の昨年12月の米小売売上高が前月比で減少したのを受けて、米景気への強気の見方が後退、景気敏感株を中心に売られ、340ドル安(0.96%減少)。

120日:米長期金利の上昇一服を背景にハイテク株などで買いが先行したが、買い一巡後は景気敏感株を中心に売りが膨らみ、313ドル安(0.86%減少)。

121日:四半期決算を発表したネットフリックスが急落、来週以降に決算発表を控える主力ハイテク株の売りが広がり、かつFRBの早期の金融引き締めが米景気の減速につながるとの見方で、売りが優勢で、450ドル安(1.30%減少)

124日:FRBの金融政策正常化への警戒感やウクライナ情勢の緊迫化から売りが先行し、一時下げ幅は1115ドルに達したが、午後にハイテク株を中心に押し目買いが入り、引き間際に上昇に転じて、99ドル高(0.29%増加)。

125日:FOMD会合を明日に控え、金融引き締めの積極化を警戒した売りが優勢で、ウクライナ情勢の緊迫化も重荷となり、67ドル安(0.19%減少)。

126日:午前中は前日発表されたマイクロソフトの四半期決算が好調で500ドル強上昇したが、FOMCの結果が発表され、議長の記者会見が始まると長期金利が上昇、急速に伸び悩み、130ドル安(0.38%減少)

127日:前日のFOMCで金融引き締めに前向きな方針が示されたが、引き締めのペースには不透明感が強く、金政策の先行きが読めず、7ドル安(0.02%減少)

128日:市場予想を上回る四半期決算を発表したアップルとビザが買われて指数を押し上げ、米長期金利の低下で高株価収益率のハイテク株が買い直され、565ドル高(1.65%増加)。

131日:今年に入り下落が目立っていたハイテク株を中心に買いが入り、相場全体を押し上げ、取引終了にかけて上げ幅を広げる展開となり、406ドル高(1.17%増加)。

 

2.米国の雇用状況

米労働省が17日に発表した12月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比199,000人の増加で、市場予想の420,000人の増加を大きく下回りました。10月の雇用者数の確定値は648,000人で102,000 人の増加、11月の改定値は249,000人で、39,000人の増加となりました。なお、11月の失業率は3.9%で、前月より0.3%下がりました。労働参加率は61.9%で、前月より0.1%増加しました。12月の時間当たり賃金上昇率は前月比で19セント増加しました。部門別ではレジャー・観光業が53,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が43,000人の増加、製造業が26,000人の増加、建設業が22,000人の増加、輸送・倉庫業が19,000人の増加となりました。

 

3.長期金利上昇と調整相場

ハイテク株が多いナスダックの総合指数は121日に4日間連続で続落し、前日比2.7%安の13,769ドルで終えました。1月に入ってからの下落率は12.0%に達します。これは20081月のリーマンショックが起きた時を上回り、過去50年間で最悪のペースになります。今年に入ってからのハイテク株売りはFRBの金融引き締めへの警戒感が一因であり、今回のように長期金利が上昇すれば、ハイテク株など高株価収益率の相対的な割高感が意識されやすくなります。

しかし、最近は金融引き締めが即株安とはならない状況になっています。直近の3回の利上げ局面でもナスダック指数は変動を伴いながらも上昇基調が続きました。中央銀行が利上げする時は基本的に景気が強い時であり、堅調な企業業績が株価を支えることになります。それは金融緩和が株価を押し上げる金融相場から、企業収益に基づく業績相場に移行するのが過去のパターンでした。

今回の場合、ハイテク株は事情が異なるようです。新型コロナウイルスまん延の影響で在宅勤務や巣ごもり消費が広がり、企業のデジタル化が一気に進みました。多くのハイテク企業の成長はピークを過ぎた可能性があります。ナスダック市場の時価総額上位100社の売上高営業利益率は過去1年間で平均20%で、バブルのピークであった20001月の19.3%を上回っており、過去最高の記録となっています。また、昨年の1株当たり売上高は21%増と11年振りの高い伸び率でした。この点、昨年までのハイテク株高は金融相場に業績相場が重なったと見るべきなのかもしれません。金融相場だけの調整過程であれば、金利上昇への警戒が薄れば株価も下げ止まるでしょう。しかし、業績相場の調整も同時に始まっているのであれば、金利上昇が止まってもハイテク株の売りは続くことになります。いずれにしても、12526日に予定されているFOMCでのテーパリングの前倒し決定後の相場の動きが、それを判断することになると思われます。

 

4.量的緩和終了と近い将来の利上げを決めたFOMC会合

FOMC会合が125-26日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。経済活動と雇用の指標は引き続き強さを増している。パンデミックによる打撃が最も大きかった産業はこの数か月改善しているが、直近のコロナウイルス感染の急増で影響を受けている。雇用増はこの数か月堅調で、失業率は大きく下がっている。パンデミックと経済再開に関連した需給の不均衡が、引き続き高い物価上昇率に寄与している。経済及び米国の家計と企業の信用の流れを支える政策措置もあり、金融情勢は全般に依然として緩和的だ。

景気の動向は依然としてウイルスの拡大状況に左右されている。ワクチン接種の普及と供給制約の改善が引き続き経済活動と雇用の拡大、およびインフレの低下を助けると見込んでいる。経済の先行きへのリスクは、ウイルスの親変種がもたらすリスクを含め、残っている。

FOMCは雇用の最大化と長期的な2%のインフレ達成を目指している。これらの目標を支えるために、FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを00.25%に据え置くことを決定した。インフレ率は2%をはるかに上回っており、労働市場も強いことから、FF金利の目標レンジを引き上げることがまもなく適切になると予測する。

FOMCは、毎月の資産購入ペースを引き続き減らし、3月上旬に終了することを決定した。2月から、国債保有を少なくとも月200億ドル、ローン担保証券の保有を少なくとも月100億ドル増やす。12月後半からは、国債保有を少なくとも月600億ドル、ローン担保証券を少なくとも月300億ドル増やす。FRBが行っている証券の購入と保有は、円滑な市場機能と緩和的な金融情勢の促進を助け、家計と企業の信用の流れを支える。

金融政策の適切なスタンスを判断するにあたって、FOMCは引き続き、景気見通しについて経済指標が示す意味を注視する。目標達成のリスクが現れた場合は、金融政策のスタンスを適切なものに調整する準備がある。公衆衛生、労働市場の状況、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む11人のメンバーの賛成による。

FRB26日のFOMCで、2%を超える物価と力強い労働市場を踏まえ、政策金利の誘導目標の引き上げが間もなく適切になると予想するとし、次回3月の会合での利上げ開始を示唆しました。併せて、バランスシートの規模縮小難に関する方針を公表しました。パウエル議長の記者会見が始まると長期金利が上昇、売りが優勢となり、ダウは130ドル安(0.38%減少)で終わりました。

            (202221日: 村方 清)

 

  

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