1.2月の株式市場
2月の株式市場は、前半がFRBの金融引き締めに長期金利の上昇で、後半はロシアのウクライナ侵攻による対ロ経済制裁の影響で、大きな下降基調になりました。主要な動きは以下の通りでした。
2月1日:先週来、戻りが急ピッチであったハイテク株に利益確定売りが出た一方、相対的に上昇が鈍かった景気敏感株が買われ、273ドル高(0.78%増加)。
2月2日:前日夕に好決算を発表したアルファベットが大幅高となり、ハイテク株の一角に買いが波及し、224ドル高(0.64%増加)。
2月3日:決算と併せて発表した業績見通しが市場予想を下回ったメタプラットフォームズ(旧フェイスブック)が急落し、ハイテク株に売りが広がり、518ドル安(1.45%減少)。
2月4日:4日発表の1月の雇用統計で非農業部門の雇用者数は前月比467,000人増で市場予想を大幅に上回り、FRBが積極的に金融引き締めを進めるとの見方が強まり、21ドル安(0.06%減少)。
2月7日:新型コロナウイルス感染者数が大きく減少、経済活動正常化の恩恵を受ける銘柄を中心に買いが入り、一方でFRBによる金融引き締めの警戒感も強く、1ドル高(0.00%)。
2月8日:好調な四半期業績を発表したアムジェンが大幅高となり、米長期金利の上昇で金融株も買われ、相場を支えて、372ドル高(1.06%増加)。
2月9日:米長期金利の低下を受けて、高株価収益率の高いハイテク株が買い直され、米国の新型コロナウイルス感染者数の減少を受けて、消費関連株も買われ、305ドル高(0.86%増加)。
2月10日:1月のCPIは前年同期比7.5%と市場予想の7.2%を上回り、FRBが金融引き締めを急ぐとの見方が広がり、526ドル安(1.47%減少)。
2月11日:ロシアのウクライナ侵攻への警戒が強まったことやインフレ加速を背景にFRBが金融引き締めを急ぐとの見方も加わり、503ドル安(1.43%減少)。
2月14日:ウクライナ情勢の緊迫化で警戒した売りが優勢で、下げ幅は一時400ドルを超えたが、過去2日間で1000ドルほど下げたことから、終値は172ドル安(0.59%減少)。
2月15日:ロシアがウクライナの国境付近からの軍隊の一部撤収を発表したことで、地政学リスクの後退で投資家心理が改善し、幅広い銘柄に’押し目買いが入り、423ドル(1.22%増加)。
2月16日:ウクライナ情勢への警戒感が続いたが、FRBの1月のFOMCの議事要旨の公表による新たな情報が無く、下げ幅を縮小し、55ドル安(0.16%減少)。
2月17日:バイデン大統領が2月17日に記者団へロシアがウクライナに侵攻する可能性が非常に高いと述べたことを受けて、ロシアと欧米の対立が激化するとの見方が強まり、リスク回避の売りが出て、622ドル安(1.78%減少)。
2月18日:ウクライナ情勢を巡る警戒が続き、株式相場の重荷で、233ドル安(0.68%減少)。
2月22日:ロシアはウクライナ東部の一部地域の独立を承認し、同地域への軍の派遣を決定、バイデン大統領がロシアに対する大規模な金融・経済制裁に踏み切ると表明し、リスクを回避した売りが優勢で、483ドル安(1.42%減少)。
2月23日:ロシアが東部の親ロシア派支配地域に派兵を決めたことを受け、ウクライナ政府は非常事態宣言を発令する方針となるなど情勢が不透明感を増しており、幅広い銘柄に売りが膨らみ、465ドル安(1.36%減少)。
2月24日:ロシアのウクライナ侵攻で投資家心理が悪化し、一時859ドル安となったが、その後ハイテク株に’押し目買いが入り、取引終了間際に上昇に転じ、92ドル高(0.28%増加)。
2月25日:ロシアがウクライナとの停戦交渉に応じる構えを示し、紛争の長期化が避けられるとの期待が高まり、ハイテク株が買われた前日に続き、景気敏感株やディフェンシブ株にも買いが広がり、835ドル高(2.51%増加)。
2月28日:欧米がロシアの銀行を国際決済網の国際銀行間通信協会(SWIFT)から締め出す方針を打ち出し、制裁強化が世界経済を冷やしかねないとの見方から、166ドル安(0.49%減少)。
米労働省が2月4日に発表した1月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比467,000人の増加で、市場予想の150,000人の増加を大きく上回りました。11月の雇用者数の確定値は647,000人で398,000 人の増加、12月の改定値は510,000人で、311,000人の増加となりました。1月の失業率は4.0%で、前月より0.1%上がりました。労働参加率は62.2%で、前月より0.3%増加しました。1月の時間当たり賃金上昇率は前月比で23セント増加しました。部門別ではレジャー・観光業が151,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が86,000人の増加、小売業が61,000人の増加、輸送・倉庫業が54,000人の増加、地方政府の教育関連業が29,000人の増加となりました。
3.3月利上げと加速視野の1月のFOMC会合
FRBは2月16日に1月25-26日のFOMC会合での議事要旨を公開しました。その中で、物価上昇が定着し、雇用が力強い現在の状況では金利を引き上げる時期が来たのと見方で参加者が一致していることがわかりました。同時に、インフレが今年を通じて和らぐと引き続き予想しているものの、鈍化が無ければ、速いペースで金利を引き上げる用意があるとの立場も示しました。
しかし、1月のFOMCは米国が新型コロナウイルス感染拡大のピークに近い時期に開かれたこともあり、当局者が特定の道筋に固執しているを示す兆候はありませんでした。議事要旨は政策の適切な道筋は経済・金融情勢、及び見通しへの影響と見通しを巡るリスクに左右されると強調しました。その上で、利上げとバランスシートの縮小の双方を検討していく中で、毎回の会合で適切なスタンスを評価していくとしています。いずれにしても、今回の会合では3月の利上げと、状況によってはその後の追加利上げも視野に入れ始めたというのが市場の反応になったと見られています。
4.ウクライナ介入によるプーチンの執念とロシアの代償
2月21日にロシアのプーチン大統領は新ロシア派が支配するウクライナ東部の一部地域に一方的な独立を承認し、ウクライナ全地域へのロシア軍派兵を決めました。プーチン大統領はその演説の中で、ウクライナはロシアと一体であるとの旧ソ連時代の時代錯誤的な歴史観と価値観にとらわれ、同時にウクライナに影響を及ぼそうとする西側諸国への被害妄想でした。ロシアによるウクライナ侵攻までの動きを見ると、米国に北大西洋条約機構(NATO)へ東方拡大の要求が求め、拒否されると、東部2州のロシア住民保護の名目にウクライナ全域への侵攻を始めました。
過去にも、プーチン大統領は夏季の北京五輪が行われた2008年8月に、紛争状態にあったジョージアの親ロシア系住民を守る目的で同国のアブハジアと南オセチアに軍を投入し、その後、独立を承認しています。更に、2014年にはソチ五輪の直後にウクライナ領クリミア半島の併合を決めました。
しかしながら、今回は全面侵攻後3日間で、ロシアは戦車146台、装甲車706台など、全体戦力の30-50%近くを失ったとされています。こうした状況になった背景として、以下のような点が指摘されています。
―ウクライナの戦闘意識の高さ ロシア軍はウクライナを3方面から大規模に侵攻すれば、ゼレンスキー大統領を含むウクライナ政府の指揮系統は短期に瓦解すると仮定していたが、ゼレンスキー大統領を中心にウクライナ国民は老弱男女を問わず、ロシアに対する戦意力が極めて高く、厳しい抵抗にあっていることがあげられます。
―ロシア軍の大隊戦術団の限界と低い戦闘意識 ベラルーシからキエフに進軍したロシア軍の多くは、当初はベラルーシとの共同演習に参加したとの認識であったものの、プーチン大統領が突然、ウクライナ東部の2州だけでなく、ウクライナ全域への侵攻という予想外の展開で、目的を含め、大義名分のない戦闘になってしまっていることがあります。
―西側の支援 米国とNATOはウクライナへの派兵をしていないものの、2014年以降、54億ドルに渡る多額の軍事援助を行っており、ジャベリン対戦車ミサイル、ステインガー地対空ミサイルなどがロシア軍の戦車や装甲車への大量攻撃に高い効果を与えています。
こうした軍事的侵攻の停滞だけでなく、経済や金融制裁の分野でも、米欧日が結束してロシアの制裁を実行しています。米国は2月21日時点では、独立した地域との新規投資や貿易に米国人が関与することを禁じるとの制裁措置を発表しました。しかし、22日にはロシアの大手金融機関2社などを対象に第1弾の金融・経済制裁に踏み切ると表明しました。まず、ロシアの大手金融機関2社を対象とするほか、ロシアの国債や政府機関債などソブリン債を対象に包括的な制裁を実施し、ロシア政府を西側の資金調達から切り離すことになります。また、ロシアのエリート層とその家族も制裁の対象になることを明らかにしました。同時に、ドイツのシュルツ首相は独ロを結ぶ新しいガスパイプライン「ノルドストリーム2」の認可手続きを停止することを表明、ロシアに強い警告を与えました。加えて、2月27日にはこの戦争に加担しているロシアの一部銀行に対する国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除を決定しました。
経済や金融での制裁は効果が高く、ロシアのルーブルが一時30%以上下落、これへの対応策として、ロシア中銀が金利を9.5%から20%へ引き上げることを決定、ロシアの企業や国民に厳しい経済困難に与えることになりました。
今後、ロシアがウクライナへの軍事的攻勢を高める動きと同時に、米欧日による厳しいロシアへの経済・金融制裁の効果がロシアのプーチン政権の不安定化につながってくるかにも注目していく必要があります。
(2022年3月1日: 村方 清)