Thursday, December 1, 2022

インフレ率鈍化による長期金利の低下と株式市場の改善








1.11月の株式市場

11月の株式市場は118日の中間選挙の影響に加えて、1110日にインフレ率の鈍化が見られたことで長期金利の低下傾向が出始めたことで、株式市場の改善となりました。主要な動きは以下の通りでした。

111: 午前に発表された米雇用指標が好調で、FRBがタカ派的姿勢が続くとの観測が相場の重荷となり、80ドル安(0.24%減少)。

112: FRBのパウエル議長がFOMC後の記者会見で、政策金利の最終的な水準は従来の予想よりも高くなるととの見通しを示したことで、利上げが一段と進み、金融引き締めが長引くとの警戒感から、505ドル安(1.55%減少)。

113日:FRBの利上げ長期化を織り込んで、米長期金利が一時4.22%に上昇、アップルなどの高株価収益率のハイテク株が売られて、147ドル安(0.46%減少)

114日:4日発表の10月の雇用統計で非農業部門の雇用者数は前月比261,000人増で市場予想の205,000人を上回ったものの、FRBによる利上げ幅縮小の観測を支える程度に減速したと受け取られ、402ドル高(1.26%増加)。

117日:118日に投開票の米中間選挙で、大統領の政党と議会の多数党が異なるねじれが生じる可能性が高まったことから、株式相場の逆風になり安い法案の成立が難しくなるとの見方が広がり、424ドル高(1.31%増加)。

118日:米中間選挙で政権と議会の多数派が異なるねじれになれば、株買いを促すとの見方から、先回り的な買いが優勢で、334ドル高(1.02%増加)。

119日:米中間選挙で上下両院で共和党が勝利すれば株高につながるとの期待が後退し、幅広い銘柄に売りが出て、647ドル安(2.48%減少)。

1110日:朝方発表の10月米消費者物価指数の伸び率は7.7%で市場予想の8.0%を下回り、インフレピークアウトが意識され、FRBが利上げを緩めるとの見方で、1,201ドル高(3.70%増加)

1111日:朝方は前日に約1,200ドル上昇した反動で売りが先行したが、投資家の心理改善による下値の支えは堅く、ハイテク株を中心に買われ、32ドル高(0.10%増加)

1114日:直近の2営業日で大幅に上昇した後で目先の利益を確定する売りが優勢で、211ドル安(0.63%減少)。

1115日:15日発表の米卸売物価指数は前月比0.2%上昇したものも、市場予想の0.4%を下回り、インフレのピークアウトが意識されたが、利益確定売りも出て、56ドル高(0.17%増加)。

1116日:小売り大手のターゲットの低調な業績見通しを受けて、消費減速の懸念が強まり、39ドル安(0.12%減少)。

1117日:FRB高官が金融引き締めに積極的な姿勢を示したことで米長期金利が上昇したが、好決算を発表した銘柄が上昇し、取引終了にかけて下げ幅が縮小、8ドル安(0.02%減少)。

1118日:ギャップなどが発表した四半期決算が市場予想を上回り、投資家心理が改善、199ドル高(0.59%増加)。

1121日:中国での新型コロナウイルスの感染拡大を背景に石油株やハイテク株の一角が売られて、45ドル安(0.13%減少)。

1122日:米長期金利の低下で株価の相対的な割高感が薄れ、ハイテク株など高株価収益率の銘柄が買われて、398ドル高(1.18%増加)。

1123日:午後に公開された11月のFOMC会合の議事要旨で、多くの参加者が利上げ減速を支持していることがわかり、金融引き締めへの警戒感が後退、96ドル高(0.28%増加)

1125日:FRBの利上げペースが鈍化するとの期待が高まり、景気敏感株や消費関連株が買われて、153ドル高(0.47%増加)。

1128日:中国での新型コロナウイルス対策への抗議活動が同国の一段の景気悪化を招き、世界経済に波及と警戒され、幅広い銘柄に売りが出て、498ドル安(1.45%減少)。

1129日:中国の新型コロナウイルス規制が微修正されるとの期待から29日の中国株が大幅に上昇して投資家心理が改善した半面、FRBの金融引き締めが長期化するとの警戒感も出て、3ドル高(0.01%増加)。

1130日:パウエル連銀議長の講演を受けて12月会合での利上げ縮小観測が強まり、ハイテク株を中心に買いが優勢で、737ドル高(2.18%増加)。ダウは2カ月連続で上昇、上げ幅は1856ドル(5.7%増加)

 


2.米国の雇用状況

米労働省が114日に発表した10月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比261,000人の増加で、市場予想の205,000人を上回りました。8月の雇用者数の確定値は292,000人で23,000人の減少、9月の改定値は315,000人で52,000人の増加でした。8月の失業率は3.7%で、前月より0.2%悪化しました。労働参加率は62.2%で前月より0.1%減少しました。10月の時間当たり賃金上昇率は前月比で12セント増加しました。部門別ではヘルスケア業が53,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が43,000人の増加、製造業が32,000人の増加、ソーシアルサービス業が19,000人の増加、卸売り業が15,000人の増加となりました。

 

34回目の0.75%の利上げを決めたFOMC会合

FOMC会合が1112日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。

最近の消費と生産の指標は緩やかな伸びを示している。雇用はこの数か月堅調に増加し、失業率は低いままだ。物価上昇率はパンデミックに関連した需給の不均衡、食品・エネルギー価格の高騰、広範に及ぶ物価上昇圧力を反映して、高止まりしている。

ロシアによるウクライナ侵攻が人々と経済に甚大な苦難をもたらしている。侵攻と関連する事象が更なる物価上昇圧力をもたらし、グローバルな経済活動の重荷となっている。FOMCはインフレリスクを強く注視している。

FOMCは雇用の最大化と長期的な2%のインフレを目指している。これらの目標を支えるために、FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを3.754.00%に引き上げることを決定した。誘導目標レンジの引き上げの継続が適切になると予測している。

将来の利上げペースを決めるにあたり、FOMCは累積した金融引き締め、金融政策や経済活動がインフレに影響を与える時間差、経済・金融情勢を考慮する。5月に発表した「バランスシートの規模削減のための計画」に述べた通り、国債、機関債、ローン担保証券の保有を削減を継続する。FOMCはインフレを2%目標に戻すことを強く注力している。

金融政策の適切なスタンスを評価する上で、FOMCは引き続き、経済指標が景気見通しについて与える影響を注視する。目標達成を妨げるリスクが現れた場合は、金融政策のスタンスを適切なものに調整する用意がある。公衆衛生、労働市場の状況、インフレ圧力やインフレ期待、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮する。

今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む12人のメンバー全員の賛成による。

FOMCの決定は0.75%の利上げで事前予想通りの内容でした。しかし、パウエル議長がFOMC会合後の記者会見で、政策金利の最終的な水準は従来の予想より高くなるとの見通しを示しました。市場では利上げが一層進み、金融引き締めが長引くとする警戒感が広がり、505ドル安(1.55%減少)になりました。


4.インフレ率の鈍化と米長期金利の低下

1110日公表の10月消費者物価指数は前年同月比77%上昇と前月の8.2%から減速し、市場予想の7.9%を下回りました。特に、エネルギーと食品を除くコア指数の上昇率は6.3%で、約40年振りの高水準であった9月の6.6%から低下しました。米債券市場でも、長期金利の指標になる10年物国債利回りが急低下、CPI公表前は4.1%近くあったものが、一時38%まで低下しました。

この結果、インフレ鈍化を示したと受け止められ、FRB12月のFOMCで利上げ幅をこれまでの0.75%から05%に縮小するとの観測が強まり、金利低下で相対的な割高感が薄れた高株価収益率のハイテク株を中心に買いが広がり、ダウ平均は1,201ドル高(3.70%増加)となりました。

 

5.米国中間選挙の結果

118日に実施された米国中間選挙は民主党が予想以上に健闘する結果になりました。民主党の支持率は夏頃までは低迷していましたが、その後、国民生活に直結するガソリン価格がピークアウトし、国民の不満が少し和らいでいました。また、バイデン政権が成立させた201111月の「インフラ投資計画」や20228月の「インフレ抑制法」などの大型法案で、着実に成果が出ていたことも挙げられます。加えて、トランプ前政権下で最高裁の保守派判事が多数派となり、今年6月に人工中絶を制限する最高裁判決が出されたことを受けて、共和党は人権問題を軽視するとの国民の不安がくすぶっていたこともあります。

そして、より大きな影響を与えたのは、トランプ前大統領の影響の下に共和党がミシガン州、ペンシルべニア州、アリゾナ州などの接戦州で大統領選挙の投票においては州民の投票結果よりも州の内政長官が最終的な決定権限を持つなど、米国民主主義の根幹を揺るがす法案を通過させていたことでした。特に、トランプ大統領が中間選挙の結果がわかる145日に2024年の大統領選挙への参加意思を表明することになるとしたことで、バイデン大統領やオバマ元大統領が米国民主主義の危機を訴え、18歳から29歳までの若者世代(Z世代)が今回の中間選挙に約27%も参加し、その内67%が民主党候補に入れたことが民主党善戦の原動力になりました。

その一方、来年以降に上下両院の多数派が異なるねじれ議会になることもあり、与党の民主党は2023年度本予算成立までのつなぎ予算の期限である1216日の延長や米国債務の再引き上げについて、民主党による上下両院の支配が続く2022年中に、何らかの打開策を講じる必要に迫まれています。今後の動きが注目されます。

          (2022121日: 村方 清)