1.5月の株式市場
5月の株式市場FRBの金利引き上げによる米中堅銀行の経営破綻問題に加え、米政府の債務上限問題を巡る不透明感も増して、不安定な動きとなりました。主要な動きは以下の通りでした。
5月1日:米サプライマネジメント協会の製造業景況感指数は47.1と市場予想を上回り、米長期金利が上昇し、相対的に割高感があるハイテク株の一部が売りに出され、46ドル安(0.14%減少)。
5月2日:米地域銀行の破綻が連鎖しかねないとの懸念から一部の中堅地銀株が急落、投資家もFOMCの結果発表前にリスク回避姿勢を強め、367ドル安(1.08%減少)。
5月3日:5月2-3日のFOMCで0.25%の利上げを決定、パウエル議長の記者会見で金融引き締めに積極的なタカ的な発言と捉えられ、売りが優勢で、270ドル安(’0.80%)。
5月4日:米中堅金融機関の相次ぐ経営破綻が警戒され、投資家心理に影響、米金融引き締めによる米景気の減速観測もあり、売りが優勢で、287ドル安(0.86%減少)。
5月5日:5日発表の4月の雇用統計で非農業部門の雇用者数が前月比253,000人増で、市場予想の180,000人を大きく上回ったものの、過去分は下方修正され、労働市場の逼迫は緩和されてきているとの見方になり、米地銀株が軒並み上昇し、投資家のリスク回避姿勢が和らいで、547ドル高(1.65%増加)。
5月8日:FRBの調査で米銀行の貸し出し態度が厳しくなっていることが分かり、企業活動の悪化につながるとの懸念が出て、56ドル安(0.17%減少)。
5月9日:米地域銀行株の不安定な動きに加え、米政府の債務上限問題への警戒が相場の重荷になり、57ドル安(0.17%減少)。
5月10日:米債務上限問題を巡る不透明感が根強く残り、株式相場の重荷となり、30ドル安(0.09%減少)。
5月11日:米地域銀行の経営不安が改めて意識されたのが相場を押し下げ、さらに前日に決算を発表したウォルトディズニーが大幅に減少し、221ドル安(0.66%減少)。
5月12日:ミシガン大学の5月消費者景況感指数は57.7と市場予想を下回り、米景気の先行き懸念から売りが優勢で、米政府の債務上限を巡る不透明感もあり、9ドル安(0.03%減少)。
5月15日:イエレン財務長官が5月13日に米債務上限問題を巡る交渉が進展しているとの認識を示したことで、主力株の一部に買いが入り、48ドル高(0.14%増加)。
5月16日:朝方に決算を発表したホームデポが下落し、他の消費材関連株に売りが優勢で、米連邦政府の債務上限を巡る不透明感もくすぶり、336ドル安(1.01%減少)。
5月17日:米債務上限問題を巡って与野党の合意に向けた期待が広がり、加えて米小売り大手のターゲットが四半期決算が市場予想を上回り、409ドル高(1.24%増加)。
5月18日:米債務上限問題への懸念が後退し、ハイテク株への買いが広がり、115ドル高(0.34%増加)。
5月22日:米債務上限問題を巡る政府と野党・共和党の協議が難航していると伝わり、先行き不透明感から売りが優勢で、109ドル安(0.33%減少)。
5月23日:米連邦政府の債務上限問題を巡る政府と野党の協議に進展が見られず、交渉難航を懸念した投資家がリスク回避姿勢を強め、231ドル安(0.69%減少)。
5月24日:米連邦政府の債務上限問題を巡る政府と野党・共和党の交渉に進展が見られず、先行き不安が広がり、256ドル安(0.77%減少)。
5月25日:米連邦政府の債務上限問題を巡る不透明感が引き続き重荷となったが、画面処理半導体のエヌビディアが急騰し、ダウ平均を下支えし、35ドル安(0.11%減少)。
5月26日:米政府の債務上限問題を巡る協議が進展しているとの期待から、買いが優勢で、329ドル高(1.00%増加)。
5月30日:バイデン大統領と共和党のマッカーシー下院議長は連邦政府の債務上限問題を巡って合意に達したが、市場の一部に慎重な見方があることや米利上げの行方に懸念を示す投資家もいることで、51ドル安(0.15%減少)。
5月31日:FRBの金融引き締めが継続、景気が冷え込むとの懸念が相場の重荷となり、135ドル安(0.41%減少)。
2.米国の雇用状況
米労働省が5月5日に発表した4月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比253,000人の増加で、市場予想の180,000人を大きく上回りました。2月の雇用者数の確定値は248,000人で78,000人の減少、3月の改定値は165,000人で71,000人の減少でした。4月の失業率は3.4%で、前月から0.1%減少しました。労働参加率は62.6%で前月と同水準でした。4月の時間当たり賃金上昇率は前月比で16セント増加しました。部門別では専門・ビジネス業が43,000人、ヘルスケア業が40,000人、レジャー・観光業が31,000人の増加、ソーシアルアシスタンス業が25,000人の増加となりました。
3.0.25%の利上げを決めたFOMC会合
FOMC会合が5月2日と3日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。1-3月期の経済活動は緩やかなペースで拡大した。ここ数か月、雇用の増加は堅調で、失業率は低水準にとどまっている。インフレ率は依然として高い水準にある。
米国の銀行システムは健全で回復力がある。家計や企業の信用状況の悪化は、経済活動や雇用、インフレに影響を及ぼすとみられる。これらの影響の度合いは依然として不透明だ。FOMCはインフレリスクを引き続き注視している。
FOMCは最大雇用とインフレ率2%を長期的に達成することを目指している。これらの目標を支えるために、FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを5-5.25%に引き上げることを決定した。今後入ってくる情報を注視し、金融政策を評価する。
インフレ率を長期的に2%に戻すのに十分な金融政策スタンスを達成するために、誘導目標レンジの継続的な引き上げが適切になると予測している。
どの程度追加の政策が適切であるかを決める際に、FOMCは金融政策の累積した引き締め、金融政策や経済活動がインフレに影響を与える時間差、経済・金融情勢を考慮する。さらに、以前計画に示されているように、国債、機関債、ローン担保証券の保有を削減を継続する。FOMCはインフレを2%目標に戻すことを強く注力している。
金融政策の適切なスタンスを評価する上で、経済指標が景気見通しについて与える影響を注視する。目標達成を妨げる可能性のあるリスクが現れた場合、金融政策のスタンスを適切なものに調整する用意がある。労働市場の状況、インフレ圧力やインフレ期待、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮する。
今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む11人のメンバー全員の賛成による。
FOMCの決定は0.25%の利上げで事前予想通りの内容でした。パウエル議長の記者会見で金融引き締めが正当化される場合、より多くのことを行う用意があると述べて、今回で利上げを打ち止めにするという見方が後退し、タカ派的との受け止め方は広がりました。FOMCの結果発表後はダウ平均が100ドル余り上昇する場面がありましたが、パウエル議長の記者会見での発言で、そうした見方が後退、ダウは270ドル安となりました(0.80%減少)。
米労働省が10日に発表した4月のCPIは前年同月比の上昇率が4.9%で市場予想の5.0%を下回りました。これは2021年4月以来2年振りの低水準でした。22年6月の9.1%をピークに鈍化しています。エネルギーと食品を除くコア指数の前年同月比の上昇率は5.5%で、市場予想と同じ水準でした。
賃金トラッカー(3カ月移動平均)は昨夏をピークに前年比の伸びが鈍化していたが、23年3月にかけて6%台に再加速しました。4月の失業率は3.4%とおよそ半世紀ぶりの低水準となりました。根強い人手不足と賃上げ圧力が幅広いサービス価格を押し上げる構図が続いています。
10日の市場では、CPIの総合指数の伸び鈍化に反応し、米金利に低下圧力がかかりました。FRBは3日のFOMCの会合で10回連続の利上げを決める一方、声明文の修正で利上げを打ち止めにする可能性を示唆しました。
累計5%の大幅利上げで家計や企業の資金調達コストは上がり、米地銀の連続破綻で銀行による融資の絞り込みが進む可能性も高まりました。今後とも経済・インフレの先行きを慎重に見極める姿勢が必要になります。
5.米債務上限、妥協による合意で、議会通過への説得
バイデン大統領と野党・共和党のマッカーシー下院議長は5月28日に米政府の法廷債務上限の効力を2025年1月まで停止する合意案を明らかにしました。合意案は政府債務の上限を一時的に取り払う一方、歳出に上限を設けました。2024年会計年度の歳出の内、社会保障費と国防費を除いた額を23年度とほぼ同じ水準に抑え、25年度は1%の増加を認めるものです。
歳出の規模は共和党が主導して4月に下院で可決した独自法案から大幅に縮小しました。争点となっていた低所得層向けの公的医療保険メディケイドの支給要件も変更しませんでした。一方、共和党が求めた低所得層向け食糧支援の厳格化やエネルギー開発の審査の迅速化は合意案に盛り込まれました。民主党が主張した富裕層向けの増税案は入りませんでした。
今回の合意案について、民主党はインフレ抑制法に盛り込んだ気候変動対策ガ維持されたこともあり、今のところ、党内で目立った反対意見は出ていません。一方、共和党のマッカーシー下院議長もエネルギー開発の審査期間の短縮など交渉で多くの譲歩を引き出したと主張して、党内議員の95%が合意案を支持しているとしています。
イエレン米財務長官は政府の資金繰り策が6月5日に行き詰まると予測しています。バイデン大統領とマッカーシー下院議長は法案成立に楽観的な見方を示していますが、議会調整に残された時間は少なく、債務不履行を避けられるか、大詰めを迎えています。
(2023年6月1日:村方 清)