1.7月の株式市場
7月の株式市場は米国と中国や欧州との貿易摩擦問題は続いているものの、4-6月期の四半期業績の好調な企業が多く、ダウ平均価格は再び2月下旬以来の高値を記録しました。主要な動きは以下の通りでした。7月2日:WTO脱退に関するトランプ大統領の発言が否定的なものになったとの報道から、米国と主要国との貿易摩擦問題に対する過度の警戒感が和らぎ、ダウ平均価格は36ドル高(0.15%増加)。
7月3日:情報流出問題が起きたフェイスブックなどIT関連株が大幅に下落、加えて長期金利の低下で金融株も売られ、132ドル安(0.54%減少)。
7月5日:前日の反発とハイテク株を中心に個別の銘柄に買いが入り、182ドル高(0.75%増加)。
7月6日:6月雇用統計で雇用者増加数が213,000人増で市場予想の190,000人増を上回り(失業率は4.0%に上昇)、米経済の強さを示したことが好感され、ダウは100ドル高(0.41%増加)。
7月9日:米中貿易摩擦問題の新たな悪材料がなく、キャタピラーなど中国事業の大きな銘柄等に買い戻しの動きや週後半からの米主要企業の4-6月期決算の期待で、320ドル高(1.31%増加)。
7月10日:週後半から始まる米主要企業への決算期待から、143ドル高(0.58%増加)。
7月11日:米中貿易摩擦の懸念が再び強まり、キャタピラーやボーイングなど中国売上比率が高い銘柄を中心に売りが優勢で、加えて原油先物相場の下落でエネルギー株も下落、219ドル安(0.88%減少)。
7月12日:米中貿易摩擦の新たな悪材料がなく、昨日下げ幅の大きなキャタピラーやボーイングなど中国売上比率が高い株が買い戻され、224ドル高(0.91%増加)。
7月13日:米中貿易摩擦問題の新たな悪材料がないことや四半期決算への期待で、95ドル高(0.38%増加)。
7月16日:四半期業績が好調であったバンクオブアメリカが4%近く上昇するなど銀行株に買い委が広がり、45ドル高(0.18%増加)。
7月17日:パウエル連銀議長の上院での証言で、米国景気に楽観的な見方をすると同時に、利上げペースの加速を示唆しなかったことで、投資家の安心感を与え、56ドル高(0.22%増加)。
7月18日:四半期業績が増収増益であったモルガンスタンレーが大きく上昇、金融全般に買いが広がり、79ドル高(0.32%増加)。
7月19日:自動車関税をめぐる貿易摩擦の懸念から、135ドル安(0.53%減少)。
7月20日:米大統領の中国への関税強化発言による貿易摩擦の懸念で、6ドル安(0.03%減少)。
7月23日:中国や欧州との貿易取引が多い銘柄に売りが入り、14ドル安(0.06%減少)。
7月24日:四半期業績が好調であったユナイテッドテクノロジーやスリーエムが大幅に上昇、原油先物相場の上昇から石油株も買われ、198ドル高(0.79%増加)。
7月25日:取引終了の30分ほど前に、米欧首脳会談で貿易摩擦問題の緩和で合意したとの報道が伝わり、172ドル高(0.68%増加)。
7月26日:米欧の貿易摩擦が激化するとの懸念が後退し、海外事業の比率が高いキャタピラーやスリーエムなどの銘柄を中心に買いが優勢となり、113ドル高(0.44%増加)。
7月27日:米国の4-6月期のGDPが4.1%と市場予想を下回ったことや四半期業績発表のインテルのデータセンター向け売上げが伸び悩み、ハイテク株の売りが優勢で、76ドル安(0.30%減少)。
7月30日:四半期決算が不振であったネットフリックスやフェイスブックの下落が止まらず、他のアマゾンやグーグルにも売りが広がり、144ドル安(0.57%減少)。
7月31日:米中が貿易交渉の再開を検討しているとの報道から、中国での売り上げが大きな資本財関連株が買われ、108ドル高(0.43%増加)。7月全体では4.3%の上昇で、今年1月以降で最大。
2.米国の雇用状況
米労働省が7月6日に発表した6月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比213,000人の増加で、市場予想の190,000人増を上回りました。4月の雇用者数の確定値は175,000人で16,000人の増加、5月の改定値は244,000人で21,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は211,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、6月の失業率は4.0 %で、前月から0.2%悪化しました。労働参加率は62.9%で、前月より0.1%増加しました。1月の時間当たり賃金上昇率は前月比5セント増加で、前年同月比では2.7%増となりました。部門別では製造業が36,000人の増加、ヘルスケアが25,000人の増加、建設業が13,000人の増加、小売業が22,000人の減少となりました。
3.パウエル連銀議長の議会証言
7月17日にパウエル連銀議長は上院の金融サービス委員会で年2回の証言を行いました。その中で、米国経済の拡大が続いていることや労働市場は力強さを保っていることなどから、インフレ率はFRBの目標である2%近くで推移するであろうの見通しを明らかにしました。これに伴い、今後の金融政について、インフレはほぼ目標に到達しており、段階的な利上げを続けるのが最善の道と主張しました。その一方で、賃金の上昇率は緩やかであり、高インフレを引き起こすことはないとの見方も示しました。特に、パウエル氏は2%のインフレ率目標を上下対称として、幅を持たせる考え方を強調しました、パルエル氏としては、一時的なインフレの上振れを容認して、急激な利上げペースに否定的な考え方を表しました。
それと同時に、トランプ大統領が引き起こす貿易戦争について、パウエル議長は質疑応答で、幅広い製品に長期に渡り、高関税が課せられれば、米国だけでなく、相手国の経済に悪影響をもたらすとの懸念を表明しました。
4.4-6月期の米経済成長率の高さと持続性への疑問
米商務省が7月27日に発表した米国の4-6月期のGDPは前期比年率換算で4.1%増と1-3月期の2.2%を大幅に上回りました。最大の要因は個人消費で、大型減税と雇用拡大で個人の可処分所得が増加、車などの耐久消費財が9.3%も拡大したことでした。加えて、法人税の引き下げによる企業業績の改善、設備投資も7.3%増と大きく伸びました。FRBのパウエル議長も減税効果で、2,3年は需要の押上が見込めるのではないかとしています。
その一方で、今回の個人消費の増加は過剰消費の側面もあり、今後の貿易摩擦問題の行方と共に、どこまで持続性があるかについては多くのエコノミストの間で慎重な見方が出ています。特に、大型減税を導入したことで、米国の財政赤字が急増しており、財務省の試算では2018年後半の借入額は7690億ドルに達すると見込まれており、それは米国が金融危機に直面した2008年7月から12月までに生じた1兆1000億ドルに次ぐものになるとしています。いずれにしても、今後の米国経済の行方については、トランプ政権が誇張するほど持続性のあるものとは言えないように思われます。
この日のダウは、GDPが市場予想の4.4%に届かなったことやデーターセンター向け売り上げが伸び悩んだインテルなどのハイテク会社の決算がほぼ終了したこともあり、76ドル安(0.30%減少)で終わりました。
5.G20財務相会議
主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議は7月21-22日にアルゼンチンのブエノスアイレスで開催されました。米国のトランプ政権が作り出している貿易摩擦問題について、多くの国が世界経済の下振れリスクが高まるとの懸念から、対話と行動を強化するとの共同声明を採択したものの、米中や欧州などが相互に制裁関税を発動しあう報復の連鎖に歯止めをかける具体策は打ち出せんでした。
通貨問題については、米国のトランプ政権が中国やEUを為替操作国とやり玉に挙げたものの、会議では輸出拡大を目的に自国通貨を安値誘導する競争的切り下げの回避に向け、為替レートを目標にしないとの従来の合意を再確認しました。
G20は2008年の金融危機を受けて、初めて首脳会議を開催してから10年になりますが、最初の数年は各国が財政出動を行ったり、保護主義の台頭を抑え込んでいくなど成果が見られましたが、米国で自国第一主義のトランプ政権が誕生してからは、米国と他の国々との貿易摩擦問題がエスカレートし、歯止めをかけられない状態が続いています。今後もこうした対立が続くようであれば、G20の存在意義は問われることになるように思われます(2か国間交渉や協議を重視するトランプ政権からすれば、G20の役割に否定的であるのかもしれませんが)。
6.米欧首脳会議で、関税下げ交渉を開始することで合意
トランプ政権による輸入車の関税引き上げが懸念されていたEUのユンケル委員長とトランプ大統領の会談は7月25日に行われ、自動車を除く工業製品で関税をゼロにするための交渉を開始することで合意しました。トランプ政権は6月にEUに対する鉄鋼とアルミに追加関税を発動、EUは対抗として二輪車や農産品への報復関税を課しました。今回、トランプ政権が自動車に関税を課せば、EUは報復する姿勢を示していました。双方首脳の共同声明によれば、自動車を除く工業製品について関税や非関税障壁、補助金をゼロにするための話し合いをするとして、内容的には米国産の大豆や液化天然ガスのEU向け輸出拡大への貿易交渉を始めることになります。いずれにしても、両者の交渉が続けられる限り、追加の関税を課すことは留保された形になりましたが、今後の交渉に進展によっては再び対立が再燃する可能性もあります。(2018年8月1日: 村方 清)
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