Sunday, May 1, 2011

第1四半期の実績と財政赤字の削減問題



2010年第4四半期のGDPはクリスマス商戦の好調さを反映して3.1%でしたが、2011年第1四半期は1.8%に減少しました。当初は2.5%程度が予想されていましたが、気候の厳しさ、原油価格や一部の食料品価格の上昇による個人消費の低下、低迷する住宅不動産ビジネス等が重なり、予想を下回る水準になりました。また、この期における物価上昇率は前年同期比で3.8%となり、昨年第4四半期の1.7%を大きく上回る結果となりました。しかしながら、今回の停滞が米国経済の更なる悪化につながるとの見方は少なく、連銀による金融緩和策の継続もあり、第2四半期以降は再び回復基調に戻ることが期待されています。なお、雇用情勢は著しく改善し、3月の失業率は8.8%まで低下、2009年3月以来の低い水準となりました。これはこの期に新たに仕事を失った従業員の数が過去2年間で最小であったことの影響と見られます。

一方、米国の株式市場の動向で大きな影響を与えたのは4月18日に格付け機関のStandard & Poor’sが米国債について、トリプルAの評価は変えなかったものの、長期見通しを“Stable”から“Negative”に変えたことでした。その日はギリシャの現行再建策が行き詰まり、新たな再建プランが必要になることや中国がインフレ懸念から金融引き締めを強めることなどのニュースが合わせて伝えられ、ダウ平均株価は140ドル(1.14%)という大きな下落を経験しました(但し、その後ダウ価格は好調な米企業の業績を反映し、4月28日に2年11ヶ月振りの高値である12,763ドルを記録)。格付け機関が米国債の見通し評価を変えた最大の理由は巨額な米国財政赤字削減の方向性や5月16日に連邦政府の借入限度である14兆294億ドルに達すると見られる事態への対応措置について、民主党のオバマ政権と下院多数派の共和党との間で合意に至る可能性が依然見えていないことにあります(米国の2010年末公的債務残高はGDPの約97%で、最大国日本の約227%の半分以下)。

2011年度予算については、民主党と共和党の各代表および大統領との間で4月8日の真夜中に、380億ドルの財政支出削減を行なうことで最終的に合意、その後両院で承認され、危ぶまれていた連邦政府機関の閉鎖が回避されました。しかし、2012年度予算については、昨年11月の中間選挙の結果、下院の多数派となった共和党が下院予算委員会委員長のライアン議員より“The Path to Prosperity” (繁栄への道)という提案が4月5日に出され、4月15日に下院本会議で承認されました。

ライアン議員が提案した主要な内容は以下の通りです。
1. オバマ大統領が昨年3月に成立させた医療保険改革法を無効として、雇用者が税優遇措置によって行なう健康保険制度を廃止、誰もが民間の健康保険の購入を支援あるいは可能にするために税控除の恩典を与えるようにする。
2. Medicareに代えて、受益者に対して民間の健康保険の購入に補助金を与える制度とする。但し、この措置は2021年までは実行せず、適用は55歳以下の人に限定される。
3. Medicaidを廃止し、民間の健康保険の購入に補助金を与える制度とする。その方式は連邦政府と州政府の折半ではなく、州政府に一定の補助金を与え、州政府はMedicaidの受益者にその補助金を供与するものとする。これにより、Medicaidの受益者が増加しても、州政府のコストを減少させることができる。
4. ブッシュ減税を恒久的なものとし、所得税の簡素化、及び個人と企業の最大税率を25%まで引き下げる。これによる税収の減少は税の抜け道やビジネスに対する付加価値税(実質的には売上税)で補うものとする。
5. 政策的な財政支出は2008年のレベルに5年間凍結する。税率の増加変更や新たな税については議会の3分の2の賛成を必要とする。継続経費の増加については自動的な上限を与える。ヘルスケア関連の増加はCPIやヘルスケアの年間上昇率までとする。こうした支出削減により、全体の経費をGDPの20%に抑えるようにする(現在は25%)。
6. この結果、今後10年間における財政支出削減額は合計で6.2兆ドルとなり、連邦政府の債務残高を4.4兆ドル減少させるものとなる。

これに対して、オバマ大統領は4月13日に以下の点を主内容とする財政赤字削減策を提案しました。
1. 今後12年間における財政赤字の改善額を、昨年12月に財政責任と改革に関する国家委員会が答申した4兆ドルとする。
2. 上記4兆ドルの内、3兆ドルは財政支出の削減から、残り1兆ドルは現在一時的に実行している富裕層への減税措置の廃止により達成する。
3. 財政支出削減の内、750億ドルは一般経費の削減から、400億ドルは防衛支出の削減から、480億ドルは医療費コストの上昇の抑制から、プラス昨年3月の医療保険改革法の実行により、更に500億ドルで合計2兆ドル強を削減する。
4. 更に、財政赤字額の縮小による金利支払いの減少額として1兆ドルを見込む。

財政赤字削減をめぐる共和党案とオバマ大統領案では、以下の2点に大きな差があります。
1. 富裕層減税(ブッシュ減税)への対応
共和党案では、ブッシュ減税の恒久化が提案されていますが、そこには共和党の保守派や小さな政府を求めるティーパーティの影響を強く受けています。市場経済を重視する共和党には1980年代初めに、第1期のレーガン大統領がラッファー・カーブ理論に基づき実行したような、減税をすれば市場の投資活動が盛んになり、ひいては所得の増加が起こり、税金収入も増加するという基本的な考え方があります(しかし、レーガンの減税措置は結果的に、財際赤字の一層の拡大をもたらし、レーガン大統領は第2期目の1986年に第1期に導入した減税措置の殆どを廃止することになりました)。加えて、2001年にノーベル経済学賞を受賞したコロンビア大学のStiglitz教授は、米国の所得や資産分配は著しくバランスを欠いており、現在富裕所得層の上位1%が米国の全所得の25%、全資産の40%を保有していることを指摘しています。こうした行過ぎた米国の富の分配構造からする限り、オバマ大統領が提案するように、年間所得25万ドル以上の富裕層に対する減税の廃止は、米国の財政赤字減少のための財源確保(約1兆ドルの歳入増加)という経済的効果だけでなく、社会的公正さの観点からも望ましいように思われます(4月22日付のCNNニュースでは、米国人の約72%が富裕層への増税を支持することを伝えています)。

2.MedicareやMedicaidの取り扱い
共和党がMedicareの廃止を主張する背景には、今後も連邦政府の負担が増加する一方の保険医療費を放置する限り、財政赤字の健全化は不可能となり、ベービーブーマーが引退を向かえる前に根本的に制度を変える必要があるというものです(特に、現在、Medicare予算の約28%が末期状態にあるシニア患者の治療費や薬代に使用されているといわれます)。また、Medicaidの廃止は、現在のように多くの州で財政赤字が深刻さを増す中で、同率負担を必要とする制度が行き詰まっているという背景があります(加えて、現在のMedicaidには受益者の悪用が多すぎるという指摘もあります)。これに対し、オバマ大統領は、共和党が提案するようなMedicareやMedicaidの廃止はこれまで米国がルーズベルト大統領以来、守り続けてきたシニアや貧困者への社会福祉政策の考えを逸脱するものであり、絶対に受け入れられないと反論しました。両者の考え方にはこのような基本的な違いがありますが、共和党案の問題点として、現在のように医療費や一部薬代の高騰が続く中で経営維持のために保険料を上げ続ける民間保険会社の健康保険に、病気治療がより必要で、しかも収入に限界のあるシニアが連邦政府から一定の補助金を受けても、差額は全て自己負担とするような保険に加入し続けることができるかという点があります。米国の健康保険制度の問題は医療費や一部薬代が一般物価よりはるかに高い水準で増加しており、現在のMedicareでは政府機関の関与により、医療費や薬代の上限が設定されるなどの措置によって成り立っています。もし、ここに政府機関の関与のない、一般の従業員健康保険のような制度を導入すれば、多くのシニアは自己負担の大きさに耐えられないという問題を抱えることになります。以前、ブッシュ前大統領が2005年にソーシャルセキュリテイの民営化を提案しましたが、年金収入の不安定化を懸念するシニアの強い反対を受け、それ以上の無理な導入追求はしませんでした。この点、現在のような共和党下院のMedicare廃止案では多くのシニア予備軍から強い反対を受けざるを得ないものと見られます。

いずれにしましても、米国の財政赤字削減に関する共和党と民主党のオバマ政権の違いは、両者とも財政規律を守ることの重要性は認識しながらも、削減は市場経済機能に多くを委ねるべきとする共和党と社会費用の増加は社会全体として新たな公平さによる分担が望ましいという民主党の考え方の差異にあると見られます。そして、Medicareについて見れば、ベービーブーマー世代が対象になる時期以降は経営的に困難になる危険性が高い以上、現行制度の基本を維持するにしても、高騰する医療費や薬代に対する一定の規制、受益者向けサービス内容の一部削減、受益者負担の増加等による内容の変更や制度の効率的運営が一層求められていると思います。


                    (2011年5月1日    村方 清)

Friday, April 1, 2011

中東の政治的混乱と米国市場への影響












3月11日に起きた東北関東大震災と福島原発事故は中東の政治的な混乱や欧州危機と同じように、米国の株式市場に大きな悪影響を与え、3月16日のダウ平均株価は昨年8月11日以来最大の下げとなる約242ドル(2.08%減)を記録しました。現在でも、原発事故解決への見通しが立たないことや計画停電が続けられるなど根本的解決には至っていませんが、一方で、地震や津波の被害者に対する救援や復旧に向けた動きは活発化しており、3月末におけるダウ株価は大震災前の12,000ドルを越える水準まで戻っています。この点、日本経済に対する米国投資家の懸念は次第に薄らいできているように見られます(但し、日本企業、特に輸出企業にとっては原発事故の収束や計画停電の廃止までは、当面厳しい状況が続くことは避けられません)。

一方、チュニジアの青年の死の抗議で始まった北アフリカの民主化運動の高まりはエジプトでのムバラク長期政権の崩壊に結びつきましたが、その後はリビアでのカダフィ政権の巻き返しや中東のバーレーンでの反政府運動抑圧へのサウジアラビアの協力もあり、混迷を深めました。しかし、3月18日に国連決議に基づくリビア上空での飛行禁止区域の設定を目指した米英仏等多国籍軍の攻撃や反政府組織の国民評議会への支援で、新たな展開が広がる状況になっています。 北アフリカや中東における政治的混乱は原油の安定供給に対する懸念を増加させ、3月4日には米国産標準油種(WTI)の4月渡しの終値が1バーレル当たり102.23ドルと2年5ヶ月振りに100ドル台の大台を突破しました。そして、現在も1バーレルが100ドル以上となっており、2008年9月のリーマンブラザーズ破綻の直前の水準と同じになっています。なお、原油価格の高騰が世界経済に与える影響については、1バーレルが100ドル前後で推移した場合、石油関連支出は世界経済の5%程度で対応可能であるものの、120ドルで長期化した場合には6%となり、深刻な影響が出てくることが予想されています。加えて、今回の高騰の背景には供給不足の懸念による需給バランスの逼迫化だけでなく、金融緩和で市場に溢れるマネーの一部がヘッジファンドなどを通じて商品先物相場へ流れ込んでいる要因も否定できません。

北アフリカと中東の国々で民主化の動きが強まっている背景には、経済的要因と政治的要因の二つがあるように思われます。経済的要因としては、この地域が原油や天然ガスの埋蔵量で其々世界の2分の1と3分の1を抱えながら、クウエート、バーレーン、オマーン、サウジアラビア、リビアを除けば一人当たりGDPは10,000ドル以下の国が大半です。世界最大の産油国であるサウジアラビアの場合、1980年には一人当たりGDPは世界4位でしたが、30年後の2010年では世界の39位にあります。原油や天然ガスが豊富にもかかわらず、それらからの収入を産業の多角化や高度化に活用する点では著しく遅れています。そして、このことが支配層と一般国民との間の所得格差を広げ、急増する若者世代を中心に失業率が極めて高い原因となっています。一方、政治的要因としては、この地域の多くの国で長期政権が続いていること、国民の政治参加が制限されていること、そして言論の自由が抑圧されていることがあげられます。特に、今回政治的な混乱があった北アフリカのチュニジア、エジプト、及びリビアは其々23年、29年、41年の長期政権であり、唯一選挙制度があったエジプトでも野党勢力の活動は限られており、言論の自由が保証されていませんでした。また、サウジアラビアなど世界有数の産油国を抱える中東も、独裁政権や限られた王族によって支配されている国が多く、一般国民による民主政治の普及の上では著しく遅れています。

それと同時に、歴史的な経緯もあり、欧米諸国は石油や天然ガスの安定確保の見地から、北アフリカや中東の政治的安定を強く望んでおり、国の統治が一般国民に言論の自由がない独裁政権によって行われていても、そのことを明確に反対しない態度を貫いてきました。チュニジアの政変後、予想をはるかに超えるスピードで進んだエジプト国内のムバラク独裁政権に反対する民主化の動きに対して、オバマ政権が前向きの反応を直ちに示すことができなかったのは、中東の安定に不可欠な大国エジプトではムバラク政権の協力が必要であったからでした。また、リビアのカダフィ政権に反対する民主化の動きに対して、欧州職国、特に英国の反応が当初段階で鈍かったのは2003年春のイラクのフセイン政権崩壊後、ブレア政権とカダフィ政権との間で石油や天然ガスの供給を受ける代わりに、武器を引き渡す取り決めがあったためと言われています。現在、キャメロン政権は過去のブレア政権のリビア政策を批判、フランスと共に飛行禁止地域の確立を目指した多国籍軍における重要な役割を占めています。また、今回のリビア制裁に最も積極的な国はフランスであり、2003年3月の米軍によるイラク侵攻及び統治で、イラクで従来保持していた多くの利権を失ったことに対する反省もあり、リビアの国民評議会を正式な政府組織として最初に承認したことも大変興味深いことです。

北アフリカや中東のように、一般国民が経済発展の恩恵を受ける機会があまりに少ない状態で、従来のような非民主的な政治体制がいつまでも続くことは、インターネット等の情報手段の発展・普及によって、厳しい現実が直ちに国民の多くに伝わる現在の状況では不可能になってきています。しかし、その一方で、民主化運動の拡大により、現在の長期独裁政権を代える動きには多くの国民の支持が得られるものの、作り上げられた新しい政権の目指す方向性に一致点は乏しく、新政権が混乱した状態になりかねないリスクを備えているという現実もあります。こうした点からすれば、欧米諸国に求められていることは国民不在の状態にある現在の政権に対して民主化のプロセスを段階的に認めるように働きかけ、国民が自らの意思で参加できる新たな政治体制へ円滑に移行するように見守っていくことが重要になっています。

そうした観点で、特に注目されるのは世界最大の産油国で、米国とも密接な関係を有するサウジアラビアの動向です。サウジアラビアの現在の原油生産量は1日当たり8.4百万バーレルですが、更に1日当たり3.5百万バーレルの生産余力があるといわれています。この量は政治的な混乱が起きるリビアの1日あたりの生産量であった1.6百万バーレルの2倍以上に相当します。サウジアラビア政府は既に、2月22日にはリビアの原油生産低下に伴う供給を補うための生産増加を表明しています。また、貧困者救済策として、公務員給与の引き上げや債務不履行者の救済を含む約350億ドルの景気刺激策も導入しました。また、若者の失業率が30%と高いことから、国営石油会社であるAramcoは東部の原油生産地域における少数派であるシーア派の大量採用も発表しています。さらに、サウジアラビア政府は穏健な民主改革者であるアブドラ国王を通じて、今年初めて市議会議員の選挙を行なうことを約束しています。北アフリカや中東の中では、サウジアラビアは最も一般国民の経済的な不満が少ない国とされますが、一方でアルカイーダの主要メンバーにサウジアラビア出身者が多かったという過去の経緯もあり、いかに多くの一般国民が納得できる政治体制を作っていくかが大きな課題となっています。

いずれにしましても、北アフリカや中東の政治的混乱が米国経済や株式市場に与える影響は混乱する国の原油生産量によって異なっており、最大の産油国であるサウジアラビアに急激な政変が起きない限り、大きな混乱はないと見られます。その一方、米国を含め西欧諸国にとって重要なことは、経済困難を抱える北アフリカや中東の国々の政治的不安定性が短期的に解消されるものではないことからすれば、石油依存を減らす工夫や新技術の開発、さらに石油に代わる他のエネルギー源の開発を一層進めることが求められています。但し、原子力発電については今回の福島原発事故が、原子炉における冷却機能の安定確保と使用済み燃料棒の処理の面で、再び世界に安全の問題を提起することになりました。                       
(2011年4月1日: 村方 清) JIPANGU

Tuesday, March 1, 2011

米国における不動産金融の現状と課題













好調であった米国の株式市場に中東の民主化革命の影響が現れ始めています。2月22日には原油生産で世界第8位にあるリビアの政治的な混乱から、昨年11月16日以来、最大の下げとなる178.46ドル(1.4%)の下落を経験しました。今後も中東における主要産油国での政治的な不安定性が発生すれば、米国株式市場に悪影響を与えていくものとみられます。

米国内では回復が目立つ株式市場に対して、不動産市況は依然として低迷状態にあります。2010年第4四半期における全米平均住宅価格は前年同期に比べ、4.1%の下落となり、こうした下落傾向は全米主要20都市の18に及んでいます。価格の下落は新規建設の減少となって表れ、2010年はリーマンショックのあった2008年の約100万戸に比べ、4割減の約60万戸となっています。また、オフィス、倉庫、ホテル、ショッピングセンターなど商業不動産の新規建設も例年を大きく下回っており、このことが建設業や関連産業に従事する人達の高失業にも繋がっています。不動産市場の低迷が続いている背景には、不動産ビジネスを支える金融機能の低下があります。昨年、全米で業績不振でFDICの管理下に入った銀行数は157行で、2009年の140行から17行増加しました。今年も2月半ばの時点で22行がFDICの管理下に入っています。こうした銀行の多くは資本力が不足しており、金額の大きな不動産向けローンからの返済が滞った場合、業務の続行が難しくなります。

通常、不動産取引の大半は金額が大きなことから、住宅と商業物件を問わず、ローンを前提としてビジネスが成立しています。また、米国市場ではローンは物件の市場価値に基づくノンリコースローンが一般的で、借入人の保証や他の担保を必要とされません。このため、ローンを供与する金融機関の立場からすれば、物件価値の客観的な市場評価、価値下落に伴なうローン元本の安全性確保のための適切なエクイティ額、元利支払いを可能にさせる借入人の支払能力や物件の収益性の算定が重要となります。さらに、不動産市場が拡大するにつれ、金融機関は金額の大きな不動産ローンを証券化して投資家に売却することで自己のバランスシートに計上しないオフバランスシート化が一般的になりました。

商業用不動産で本格的なローンの証券化ビジネスが行なわれたのは1990年代初めで、ウォール街の投資銀行がCMBS(商業不動産モーゲージ担保証券)の金融商品を作りました。CMBSは1980年代後半に債務不履行に陥った金融機関の不良債権を低価で買い入れ、さらに不良債権をプールしたものを利回りとリスクの大きさによって幾つかのカテゴリーに分けて、投資家の関心度に応じて売却するという商品でした。CMBSがビジネスとして成立するためには、仕入れた金融債権の金利コストが販売する金融債権の利回りより低いことが必要で、1990年代半ばまでは順調に発展しましたが、1998年夏のロシア金融危機を契機に大きな逆ザヤ現象が発生し、CMBSビジネスは一時的に破綻しました。

一方、住宅不動産のローンの証券化はCMBSよりも早く、1970年代にFennie Mae及びFeddie Macを通じて、金融機関の住宅ローンの保証や買い取りにより、MBS(住宅モーゲージ担保証券)を発行する形で行なわれました。米国の住宅ローンは政府機関の関与により、ローン供与に必要な条件も定型化されており、長い間信用性の高い証券化商品としての位置づけが行なわれていました。しかしながら、2000年代初め、世界的な金余り現象の中で、ウォール街の投資銀行が住宅ローン証券化ビジネスに、サブプライムローン(低所得者向けの住宅ローン)を組み込み、米国内外の投資家に売却し始めたことにより、大きなリスクを抱える高利回り金融商品となりました。低所得者向け住宅ローンにおいては、エクイティ分である借入人への頭金支払いを必ずしも求められず、かつ最初の数年間は変動型金利の金利分だけの支払いでよいというものが多く、住宅不動産の価値が上がり続けることを前提に供与されていました。当時は共和党のブッシュが大統領の時代で、政府の持ち家奨励政策や連銀による低金利政策が支えとなり、住宅価格の上昇が続いていたため、サブプライムローンの証券化のリスクが顕在化しませんでした。しかし、インフレ懸念から、連銀が金利を引き上げた2006年前半以降は変動金利型のサブプライムローンの延滞率やデフォルト率が急激に増加、住宅価格の下落、証券化された不良債権の拡大が世界市場へと広がっていきました。

2008年9月の大手投資銀行リーマンブラザーズの破産までの今回の金融危機の原因に関し、2009年5月に議会によって承認され、大統領も署名した10名の委員会メンバー(委員長はカリフォルニア州の元財務長官であったPhil Angelides)によって作成された「金融危機調査報告書」(”The Financial Crisis Inquiry Report”)が本年1月27日に発表されました。この委員会の構成メンバーは民主党推薦者が6名と共和党推薦者が4名であったこともあり、金融危機の原因について委員会としての統一的な結論はなく、民主党推薦者6名の多数意見に加えて、全体450ページの中に約40ページの共和党推薦者4名の少数意見が併記されることになりました。多数意見は今回の金融危機は避けられたものであったとして、金融機関の内部統制やリスク管理面での大きな誤り、そうした金融機関による過剰借り入れと高リスク投資さらに透明性の欠如が重なったこと、ワシントンの財務省、連銀、ニューヨーク連銀、SEC等政府機関の危機に対する準備不足と金融市場の不確実性やリスクに対する矛盾した対応、格付機関のモーゲージ証券に対する評価の甘さ等が主要な原因としました。これに対し、3名の共和党推薦者の意見は今回の危機は金融機関や政府機関の責任を越えるもので、世界的な金融バブルや住宅バブルの結果であるとしました。もう一人の共和党推薦者は政府による持ち家奨励政策やこれに対応するための政府金融機関の融資基準の緩和措置が原因であるとしました。なお、この委員会の報告より6ヶ月前の7月21日に両院とも民主党が多数派であることを踏まえ、議会は昨年7月22日に金融規制改革法案(Dodd・Frank法)を成立させ、財務省による金融システムの監視、連銀による金融機関の監督強化、銀行の自己取引勘定の禁止(いわゆるVolcker条項)、金融商品に対する消費者保護のための消費庁の創設などを決めました。

「金融危機調査報告書」とは別に、今回の金融危機について分析を行なった経済学者で大きな評価を得たのはニューヨーク大学のNouriel Roubini教授とシカゴ大学のRaghuram Rajan教授でした。Roubini教授はサブプライムローンの問題が顕在化する前の2006年に米国の住宅バブルの崩壊と住宅モーゲージ証券の混乱による世界金融システムの機能停止を予測、さらに2008年初めには大手投資銀行2社の破綻を予想したことで有名になりました。一方、Rajan教授は前職のIMFのチーフエコノミストであった2005年に主要国の中央銀行幹部が集まった会議で、高い利回りと同時に大きなリスクの取引を誘発している投資銀行の従業員報酬制度の問題点を指摘したことで注目されました。また、Rajan教授は昨年米国のビスネス書でベストセラーになった”Fault Lines: How Hidden Fractures Still Threaten the World Economy”(翻訳は「フォールト・ラインズ:大断層が金融危機を招く」)を出したことでも著名です。Rajan教授はその著書の中で、現在、金融の世界は3つの大断層を抱えているとして、米国における所得格差の不満を和らげる金融優先の動き、貿易収支不均衡に基づく過剰消費国と過剰輸出国との間の金融不均衡の拡大、米英とその他の国々との間の金融取引の透明性の大きな差異を上げています。そして、これらの断層による影響を少なくさせない限り、再び金融危機が起こる可能性を示唆しています。いずれにしても、米国の景気は現在連銀の金融緩和策や多くの企業のリストラ策等により、株式市場を中心に回復傾向を示していますが、それと同時にRajan教授が指摘する幾つかの大断層が依然として存在していることを忘れるべきではないと思います。
                            (2011年3月1日:村方 清)



JIPANGU

Tuesday, February 1, 2011

大統領の一般教書演説と米国経済の課題














オバマ大統領は1月25日に、上下両院の合同会議で一般教書演説を行ないました。今年の一般教書演説は2年後の大統領選挙での再選を目指すオバマ大統領にとって、昨年11月の中間選挙で示された共和党優位の流れを変える契機にしたいという大きな意味を持っていました。演説の中で、彼が強調したのは米国が置かれている危機対応への党派を超えた国民的な合意と行動及びグローバルな競争におけるルールの変化の認識でした。そして、“未来を勝ち取る”ための方法として、競争に勝ち抜くためのクリーンエネルギーなどの技術革新、科学や数学教育の充実、未来インフラのための次世代無線通信や高速鉄道の整備、法人税改革の実行と税率の引き下げ、自由貿易と規制緩和の促進などを訴えました。また、財政再建についても、政策支出の増加を5年間凍結し、10年間で4,000億ドルの財政支出削減を目指すことなどを提案しました。

大統領の演説に対するティーパーティグループを含む共和党の評価は、オバマ政権のこれまでの大規模景気刺激策が雇用の改善面で効果を上げず、政府債務を更に増大させたとの位置づけから、これ以上の政府の財政支出や権限の拡大によって経済問題の解決を図るべきではないというものでした。しかし、国民全体としては未来志向のオバマ大統領の演説に対して、9割以上が好意的反応を示したことを3大ネットワークのCBSが報じました。

こうした国民の前向きの反応は、米国経済が最悪期を脱し、2010年第4四半期のGDPが3.2%(個人消費部門は4.4%の増加)となるなど更なる改善を示していること、株式市場がダウジョーンズで2008年6月以来の高水準である12,000ドルに近づいていることなど、回復の足取りが確実に現れていることにあると思います(1月末に起きたエジプトの政治的混乱が米国株式市場に与える悪影響は、今後の展開を注意深く見守る必要があります)。

その一方、こうした回復が目立つ経済指標にも拘らず、高失業率が続く雇用問題の改善は容易ではありません。12月における米国の雇用状況は103,000人の新規雇用で、失業率は9.8%から9.4%へ減少しましたが(逆に、カリフォルニア州では12.4%から12.5%に増加)、今回の失業率減少は就職活動を断念した求職者の減少によるものとの見方もあり、雇用問題が必ずしも改善傾向にあるとはいえない状況です。不況の克服策としてオバマ政権は、1929年の大恐慌直後に、ルーズベルト大統領が経済学者ケインズの理論に基づき、実行したような一時的な公共事業支出を中心とする財政刺激策を取っていますが、現時点でそれが民間部門の雇用増加に直ちに結びついていません。しかしながら、現在の米国の高失業率は単に国内の景気循環だけではなく、世界経済のグローバル化による構造変化も大きな影響を与えています。そうした観点からすれば、共和党保守派やティーパーティグループが信奉する経済学者ハイエクの提言した自由市場主義に任せれば、政府の財政支出に依存しなくても、自然に改善されるという主張も説得性の高いものではありません。

オバマ大統領が演説で述べているように、今日のグローバル化時代における競争はかっての先進自由市場主義国間の競争だけではなく、政府に集中的な財源や権限が与えられ、かつ安価な労働力が豊富にある旧社会主義国や発展途上国を含めた世界的な規模の競争であり、これまでとは競争のルールが異なってきています。また、以前は先進国から発展途上国への技術移転の困難さが先進国に優位性を与えていましたが、今日のIT関連技術の急速な進歩の中では、先進国の技術優位性の確保や維持が長期に続く状況になっていません。

しかも、グローバル化の初期段階では、先進国の大手企業の多くはコスト削減のために、旧社会主義国や発展途上国への生産やサービス機能 の一部を移転させましたが、その後、リーマンショック後の先進国の景気低迷とそうした新興国市場の急速な拡大は、先進国企業による現地の生産やサービス体制を加速化させています。欧州諸国だけでなく、米国や日本でも構造的な高率失業問題が起きているのは、こうした先進国の企業の行動と無関係ではありません。一般教書に先立ち、1月21日にオバマ大統領は新しく発足する雇用と競争力の向上に関する大統領諮問会議の議長にGEの会長兼最高経営責任者であるイメルト氏を任命しました。オバマ大統領が就任した2009年初め当時は米国の金融危機の最中で、再び同じような金融危機を起こさせないことが最大の関心事であり、元連銀総裁であったボルカー氏を委員長とする経済回復諮問委員会が立案した金融規制改革法案を昨年7月に成立させました。そして、米国の大手金融機関の業績も、最近では顕著な改善傾向を示してきていますので、オバマ政権としては政策の重点を金融の安定から雇用と米国の競争力確保の問題に移したことになります。今後イメルト氏の諮問委員会は企業経営者の立場から、米国の雇用や競争力の問題について具体的な提言を行なっていくものと見られます。

これに加えて、オバマ政権は米国の最大貿易相手国で、しかも年間2,000億ドル以上の貿易赤字を生み出している中国に対して、元の引き上げあるいは変動相場制の採用を強く要求しています。自由市場主義の国々とは異なり、政府統制下での限定的な市場主義を取っている中国の企業との競争に対抗し、かつ米国の雇用を維持していくには、かって米国の最大貿易赤字国であった日本に対する政策と同じように、通貨政策が最も有効な手段と考えており、これはオバマ政権も米国議会も共通の認識を持ちながら対応しています。

次に、財政赤字問題については、今年3月末か4月中には政府の借入れ限度額である14兆3,000億ドルに達することもあり、オバマ政権としてもこの問題への取り組みにも強い関心を示しています。一般教書演説では今後5年間の政策支出の増加凍結に加えて、国防や医療保険等での無駄の削減、行政組織の効率化、さらに税収の増加の面では、共和党との間で一時的な妥協が成立した最富裕層に対する2%減税の将来的見直しや税率の簡素化などを提案しました。しかし、米国の雇用問題を最大の課題とする民主党のオバマ政権に対し、米国の財政再建を最優先させる共和党との間では考え方に本質的な違いがあります。そこには、1929年の大不況に対して、当時のルーズベルト大統領が実行した政府の雇用や福祉対策は米国においても不可欠とする民主党に対して、1980年のレーガン革命でも示されたような米国は建国以来、個人や企業の自由な経済活動に任せ、政府の関与は極力少なくあるべきとする共和党との政治哲学の違いが横たわっているように思われます。

両党の考え方の違いは、オバマ政権が昨年3月に成立させた医療保険改革法についても対立を続けています。共和党は今回の医療保険改革法は国民の選択の権利を侵し、強制的な加入を前提とする点で違憲であると主張するのに対して(一部の州の連邦地裁で違憲判決、オバマ政権は控訴)、民主党は国民の誰もが望めば加入できる医療保険制度は設けることは違憲ではなく、政府の任務であるとしています。また、一度成立した医療保険改革法を無効とさせる動きは、昨年11月の中間選挙で過半数を獲得した共和党支配の下院で既に今年1月に可決された実績があり、今後、民主党が多数を占める上院との間でどのような議論が展開されるかが注目されます。但し、大統領が演説の中で指摘したように、既往症者への保険会社による保険加入拒否や大学卒業後も就職できない若い人達への親の医療保険適用の無効は従来の医療保険制度の本質的な欠陥であり、絶対に認められないとする彼の立場は議会でも広く受け入れられるものと見られます。

いずれにしましても、今回のオバマ大統領の一般教書演説は1957年にソ連が人工衛星「スプートニク」の打ち上げに成功した後、米国が遅れていた科学の研究と教育の分野で積極的な投資を行い、ソ連を追い越した具体的な経験を踏まえながら、米国競争力の再生と雇用問題の解決を約束した点で、多くの米国民の共感と支持を得ることになりました。
                          (2011年2月1日:村方 清)




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Tuesday, January 4, 2011

米国経済の見通し(株式市場の好調さと雇用・財政問題)













先進国の景気低迷と発展途上国の高成長が並存する世界経済の中で、米国経済に改善の兆しが見え始めています。 2008年9月のリーマンショックに起因した米国経済の低迷は2009年6月末までGDPが4四半期間連続してマイナスを記録するなど最悪でした。しかし、それ以降はプラス成長に転じ、2010年に入ってからは3.7%、1.7%、2.6%となっています。第4四半期についても、クリスマス商戦が好調であるところから前四半期の2.6%を越えるものと見られます。また、物価上昇率もCPIは現在年率1.1%の状態で推移しており、インフレ懸念は少ない状態です。経済の改善を反映して株式市場も好調であり、ダウ平均株価は昨年12月末まで過去2年4ヶ月で最高の水準を更新しています。しかしながら、改善が見える米国経済でありながら、雇用と財政赤字の2つの面で依然厳しい状態にあることに変わりはありません。

まず、雇用について、失業率は昨年中も高い水準に留まっており、11月は10月よりさらに悪化し、9.8%となりました。米国企業の業績改善が続く中で、雇用情勢が改善しないのは米国企業のグローバル化およびコスト圧縮のためのリストラ化が原因と見られます。業績改善が目立つ企業には海外売り上げの比率が高い大手の製造業やサービス業、加えて連銀による金融緩和の影響を受ける大手金融機関があります。現在、成長が著しい新興国への輸出拡大にはコスト競争力向上の観点から、新興国での生産やサービス拠点の拡大が不可欠であり、米国内での雇用増加に結びついていません。一方、リーマンショックで多額の不動産関連の不良債権を抱えた金融機関でも、景気回復の基調の中で、貸出し損失金や引当金の減少もあり、業績改善が見られるようになっています。しかし、引き続きリストラ化によるコスト圧縮に努めており、新規雇用を増やす状態にはなっていません。これに加えて、グローバル化により、従来に比べ品質が向上した中国など新興国からの製品輸入が急増しており、米国内の製造業従事者の減少に拍車をかけています。

このため、雇用の拡大はオバマ政権にとって最大の課題となっており、米国連銀は一層の金融緩和を進めるべく、昨年11月3日に今後8ヶ月間で6,000億ドルの追加国債購入計画を発表しました。これに加えて、財政面では昨年2月の米国回復再投資法に続き、12月18日にオバマ大統領が共和党との間で妥協が成立し、所得減税の2年延長を含めた8,580億ドルの追加景気刺激法が成立しました。しかしながら、連銀の量的金融緩和策が雇用に与える影響については、デフレ傾向下での企業の新規設備投資のための借り入れ需要はそれほど大きいとは言えず、限界的と見る見方も多くなっています。むしろ、連銀の金融緩和は証券市場への新たな資金供給となることから、株価の上昇を後押しし、その結果資産インフレによる消費拡大に結びつくことが期待されます。加えて、金融緩和は石油などの資源商品の高騰ももたらしています。しかし、不動産市場への影響については住宅も商業物件も未だに多くの不良債権が残っており、金融緩和の恩恵を受けていません。一方、公共事業や失業保険の延長等の財政刺激策は一時的な雇用確保や雇用救済となっていますが、それが民間部門での雇用増加に結びつくかどうかは見方が分かれています。中間選挙で下院における多数派となった共和党からは、そうした財政措置が一層の財政赤字の拡大になることの懸念が出され、市場でも国債の長期金利が上昇、債券市場の悪影響が出ています。

米国の財政赤字についてみると、2010年度(2009年10月から2010年9月まで)は前年度に比べて9%減少の約1兆3000億ドルとなり、対GDP比率も前年度の10%から8.9%へ減少しました。しかしながら、米国の公的債務残高は9月末で約13兆5600億ドルとなり、対GDPの94%に達しています(米国連邦政府だけの債務であれば約9兆ドルで、対GDPで63%になっています)。こうした深刻な事態を受けて、大統領の諮問を受けた“財政責任と改革に関する国家委員会は昨年12月に”The Moment of Truth“(決断の時)”という報告書を提出し、財政赤字解消のための以下のような方策を提言しています。

1.2020年までに、4兆ドルの赤字額を減少させること。
2.年間赤字額を、大統領の目標である2015年までにGDPの3%に対し、GDPの2.3%(ソーシャルセキュリテイを除けば2.4%)まで減らすこと。
3.歳入は対GDP比率21%、歳出は対GDP比率22%とし、最終的に21%とすること。
4.ソーシャルセキュリテイについて、2037年までに22%の削減を行なうこと。
5.公的債務の比率を2014年までに安定させ、その上で対GDP比率を2023年までに60%、2035年までに40%まで低下させること。

この提言に対する議会の反応は大方前向きですが、与党民主党の一部からはソーシャルセキュリテイの大幅削減には強い反対意見が出されています。しかしながら、オバマ大統領としても、今年1月からは下院で共和党が過半数を占めることから、財政赤字削減に向かった具体的な方策が求められることになります。

2008年に始まったサブプライムローンの不良債権額は、米国全体として5兆ドルとか6兆ドルの規模で、日本の不良債権額の5倍以上の大きさといわれました。そして、日本の場合、不良債権問題は1990年代の日本経済を“失われた10年”と言われるほど長期に渡り深刻な状態でした。しかし、米国はこれまでの推移からするかぎり、雇用や財政赤字の問題は続いているにしても、2年数ヶ月で株式市場では強い回復の兆しが見え始めています。この背景には金融機関を中心に不良債権問題を先送りせず、問題を抱えた組織の自立可能性に関する厳しい査定によって、それに適した対応措置を導入しました。早期の回復は自立化できない組織は市場から退出させ、自立化が可能な組織には市場に戻させるという金融面の市場経済原則を前提とした米国のダイナミズムによるところが少なくありません。


JIPANGU

Tuesday, December 7, 2010

欧州危機と米国への影響(欧州連合の理想と現実)













過去20年間のグローバル化の進展および2008年に生じた米国のサブプライムローンによる金融危機の後遺症は日米欧の先進国経済の停滞と同時に、アジアを中心とする発展途上国の急速な経済発展をもたらしています。日米欧の中では、慢性的なデフレ不況に悩む日本を除けば、今年に入り、過剰債務問題に直面する欧州諸国の不振が目立っています。4月末のギリシャの公的債務累積問題に続き、11月末にアイルランドの多額の銀行債務と政府保証の問題が発生、欧州連合とIMFなどから総額850億ユーロの緊急融資が早急に決定されました。しかし、今年5月に1100億ユーロの緊急融資が決められたギリシャについては返済期限の延長が検討され、さらにポルトガルやスペインでも過剰債務による資金調達問題が大きな懸念となっています。27カ国の加盟メンバーを合計すれば、2009年のベースで全世界のGDPの約28%、米国のGDPを約15%上回る規模を持つ欧州連合が破綻することになれば、その影響は計り知れません。この点、今回は欧州危機の原因と今後の見通し、さらに米国市場への影響について焦点を当ててみたいと思います。

当初、ドイツやフランスなど6カ国で進められていた欧州共同体が、飛躍的に拡大したのは2004年5月1日の旧社会主義国の10カ国の加盟によるものでした。同じ年の10月28日には欧州憲法条約が調印され、ユーロという統一通貨を前提にした国家を超える共同体組織構造が用意されました。しかし、政治や経済面で超国家的な性格を持つ欧州憲法条約に対しては、当初のメンバー国であったフランスやオランダなどの国民から、国家主権の侵害という欧州懐疑主義が強まりました。その結果、そうした超国家的な性格を排除したリスボン条約が2007年12月に調印され、2年後の2009年12月1日に発効、欧州連合が誕生しました。言い換えれば、政治や経済の一体化という統合の理念からは超国家的な組織が望ましいものの、全体の規模を拡大するためには加盟メンバーの国家主権を容認せざるを得ないという現実との妥協の中で、欧州連合はスタートすることになりました。

そして、このことが今年4月から5月のギリシャ支援に際して、緊急支援の最大供与国であるドイツなどにおいて、ドイツの国民が放漫財政で生産性が低い国への援助負担に批判を強めた理由でもありました。今回もアイルランドへの支援についてもフランスなどからアイルランド政府が企業誘致のために行なってきた低い法人税(12.5%)への批判が強く見られました。27カ国メンバーの中で、16カ国が統一通貨であるユーロを採用しながら、欧州連合としての共通な経済政策はなく、各国独自の政策を実行しながら、債務不履行などの深刻な経済問題が発生した時に、当面の危機を回避するために欧州連合内部で緊急融資の方法や条件を決定したというのが今回の状況でした。

一方、2008年秋に債務不履行問題に直面したアイスランドの場合、欧州連合の加盟メンバー国でなかったため、最初はロシア、次にIMFから支援を受けましたが、改善のための方策は伝統的な通貨価値の下落であり、その結果、必然的に財政・金融における緊縮政策を実行せざるを得なくなりました。このことに関連して、欧州連合の緊急融資条件である受入国の財政支出削減策の方が市場原則による通貨価値の下落より、国民の負担が大きいのではないかとハーバード大のFeldstein教授が指摘しているのは興味深いことです。

欧州連合のメンバー国が統一通貨ユーロの価値を各国とも維持しようとすれば、メンバー国間の労働の移動、それによる賃金水準の柔軟性、そして税収の再配分といった米国の連邦制のような政治組織まで行くことが必要となります。米国の場合、州政府の財政赤字が拡大し、州民の税負担の増加や社会福祉サービスの低下があれば、州民は税負担が少なく、社会福祉サービスがよい他の州に自由に移ることができますし、加えて連邦政府による税収の再配分機能により、財政赤字に陥った州への支援も可能となっています。しかし、現在の欧州連合のメンバー国には、統一通貨ユーロの価値維持のための共通政策はなく、モノやカネの移動は自由であっても、ヒトの移動は国家主権によって制限されています。

こうした不完全な統合組織でありながら、欧州連合が存続できるのは、加盟メンバー国の中で、元々経済力があるドイツなどが欧州市場で統一通貨ユーロの採用により、さらに国際競争力が高まり、他の加盟メンバー国への金融的支援が可能であることが理由となっています。この点、今後も欧州連合が現在のような組織形態で存続できるかどうかは過剰債務国の連鎖がどこまで波及するか、それに対する資金供与国の金銭的支援能力がどこまで続くかにあると言えます。

それでは、欧州危機が米国市場に与える影響はどのようなものでしょうか。最初に見ておかなければいけないのは公的債務累積問題に陥った今年4月のギリシャにせよ、今回の債務不履行問題に直面したアイルランドにしても、経済規模はそれほど大きくなく、GDPベースで米国の2.3%と1.6%程度でしかないことです(両国はGDPベースで世界8番目の規模とされるカリフォルニア州の18%と12%程度)。今年4月にギリシャ危機が起きた際に、米国市場が混乱したのは欧州連合内で救済するかしないか、あるいは支援額の分担比率、さらに受入国への融資条件で意見が分れ、具体的な救済方法で合意するのに時間がかかったことでした。それに比べ、今回のアイルランド支援問題はギリシャの経験から、救済の方向性は既に決まっており、具体的な救済内容の決定に多くの時間を要しませんでした。その意味で、債務問題が経済規模の小さな国に限定される限り、米国市場への影響も限界的なものと言えます。しかしながら、これが欧州連合の主要メンバー国であり、経済規模で米国の約10分の1といわれるスペインなどにまで拡大すると、ドイツなどの資金供与国側からの支援金額も多額となるため、供与国側の不満も大きくなり、欧州危機の長引く混乱が他の市場、特に米国市場などに深刻な影響を及ぼしてくることになるかも知れません。


JIPANGU

Wednesday, November 17, 2010

デフレと雇用問題(グローバル化の光と影)














冷戦体制下でのグローバル化は、米国、欧州、日本という先進資本主義国間で起きたものでしたが、1989年末に起きた冷戦体制の終焉とその後のIT革命の発展はモノとカネの移動が世界的な規模で起こるグローバル化に変わりました。最初に、1989年11月にベルリンの壁が崩壊したことは、市場が先進国だけでなく、ロシアや東欧の社会主義国および中国やインドなどの発展途上国にまで拡大する効果をもたらしました。次に、ベルリンの壁崩壊から半年後の1990年5月にはウィンドウズ3・0が発売され、無数の一般市民や会社が文字、数字データ、写真などをデジタル化したコンテンツにより容易に世界の誰にも送ることを可能にさせました。現在、米国、EU、日本と並んで、今後の経済大国とされるBRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)の急速な発展に導いたのも、この2つの出来事が大きな契機になりました。













特に、今年、GDPで日本を抜いて世界第2位になると見られる人口約13億人の中国の場合、1978年に鄧小平の指導の下に、それまでの絶対的平等の社会主義から現実的な不均衡発展を容認した社会主義に転換、外資導入による開放型経済発展を図るべく4都市に経済特区を、続いて1984年から1986年にかけて全国の14の沿海都市に経済技術開発区を設置、経済発展に取り組むようになりました。一方、欧米や日本の多国籍企業の立場からは、先進国市場の経済低迷により、価格の安い製品やサービスの供与が求められており、生産体制やサービス提供の価格面の改善のためには中国やインドのような労賃の安い地域への移転が不可避になっていました。1980年代の中国やインドの労賃は先進国の3分の1以下の水準であり、さらにITを通じた技術取得に必要な数学や工学を学んだ若者が多いことなどの理由から、先進国の多国籍企業にとって極めて魅力的な地域でした。こうして、双方の狙いが一致していたこともあり、旧来の社会主義国や発展途上国を巻き込んだ世界のグローバル化が急速に進みました。

しかしながら、先進資本主義国の多国籍企業の利益に貢献したと同時に、受け入れ側の社会主義や発展途上国の経済発展を促進したグローバル化は、今日では先進国における新たな問題、すなわち構造デフレと高失業を作り出す原因になろうとしています。先進国の多国籍企業の立場からは先進国と発展途上国との賃金格差は大きく、生産体制やサービス提供の海外移転が望ましいことになりますが、それは、一方で先進国内での生産活動や雇用を減少させ、失業を増加させる結果に結びつくことになりました。

米国を例に取ると、リーマンショックが起きた2008年9月以降の米国の高失業率約10%には、不振が続く金融機関での従業員のレイオフだけでなく、製造業やサービス業における米国多国籍企業の国内従業員の大きな減少が原因となっています。また、失業率の増加や実質賃金の低下は、米国の消費者に、より価格の安い製品への志向を強めさせ、米国における日常生活品の分野で中国等からの製品が増加することになりました。現在、現在米国の対中国貿易赤字は年間2,000億ドルを越える規模となっており、それは米国全体の貿易赤字の3分の1程度にまで達しています。

一方、日本の場合は米国とは事情が異なっていました。1980年代前半まで自動車や電気製品を中心に日本の対米貿易は大幅な黒字であり、米国政府から日本政府に対し、日本の市場開放への強い要求がありました。しかしながら、日本側は国内産業の保護を理由に必ずしも米国の要求に応えませんでした。このため、日本を筆頭に米国の対外貿易の大幅赤字が続いたため、1985年9月のプラザ会議で、国際通貨ドルを発行する米国の貿易収支改善のために、変動相場制が採用されました。この結果、日本の円は急激に上昇、この影響を避けるために、日本のメーカーの多くは完成品を中心に生産体制の一部を米国に移転させました。しかし、労賃の高い米国での生産を続ける限り、日本メーカーの競争力の維持は難しく、日本のメーカーは主要部品の一部を労賃の安い中国などに移転させることになりました。こうして、日本メーカーにとって、海外での市場確保のために、中国を生産拠点の一つに位置づけるような構造ができあがりました。

日米欧の多国籍企業による中国での生産の増加は、中国で作られる製品の品質の向上にもつながり、やがて日常的な中国製品が世界の市場に出回っていくビジネス環境が形成されました。しかし、それは同時に、価格の安さと品質が向上した中国製品の普及を通じて、先進国の国内市場での生産拠点を一層少なくさせることとなり、先進国経済にデフレの進展と高失業率の長期化という新たな問題を作り出すことになったのです。

現在、日米欧の先進国政府はそれぞれに多額の財政赤字を抱える事情から、大胆な金融緩和策の導入により、高失業率を抱える経済の低迷を打開しようとしています。しかし、市場のデフレ化が進む状況の中では、企業経営者にとって新たな借り入れによる設備投資を行っても、売り上げ増加や収益改善に向かうとの保証はなく、将来の展望が立てにくい状態にあります。

米国政府は現在、金融緩和策と同時に、中国の対米大幅貿易黒字への対応策として、米国内での雇用維持の観点から、中国政府に対して人民元の大幅な切り上げの強い要求を出しています。最近はこれに加えて、経常収支(中心は貿易収支)の黒字や赤字の大きすぎる国の調整の必要性も提案しています。この提案の重要性は今後とも米国の大幅な貿易赤字が続けば、ドルをベースとする国際通貨体制が崩れかねない懸念が生じていることによります。日本の場合も、中国製品の普及による国内経済でのデフレ構造の進展と同時に、米国との間の大幅貿易黒字が今後も続けば際限のない円高に陥ることになり、日本自身も経常収支の調整案を検討する時期がきているように思われます。


JIPANGU