Friday, September 1, 2017

内外の政治的混乱と米国市場の一時的不安定性













 
1.8月の株式市場
8月の株式市場は当初ダウ平均価格が史上初めて22,000ドルを超えるなど上昇基調にありました。しかし、その後核ミサイルの実践配備計画を進める北朝鮮との緊張関係の高まりやバージニア州の事件でのトランプ大統領の不適切な発言に起因する政治的混乱によって、一時的に不安定さを高めました(但し、8月のダウ平均は月間ベースで0.28%上昇)。主要な動きは以下の通りでした。

81日:金融機関の規制緩和の動きや米サプライマネジメント協会(ISM)の7月製造業景況感指数は56.350を超えたことなどで、ダウ平均は73ドル高(0.33%増加)。
82日:四半期業績が好調であったアップルが5% の大幅上昇で、52ドル高(0.24%増加)。
84日:米政府発表の7月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比209,000人増で、市場予想の180,000人増を上回り(失業率も4.3%に改善)、長期金利の上昇による金融株への投資家の積極的な買いもあり、67ドル高(0.30%増加)。
87日:四半期決算が好調であったアップルやボーイングが大きく上昇、26ドル高(0.12%増加)。
88日:北朝鮮情勢の警戒に加えて、9日連続で最高値を更新したことで、利益確定の売りが優勢であったことから、33ドル安(0.15%減少)。
89日:北朝鮮と米国の軍事衝突への警戒感や長期金利低下で金融株が売られ、37ドル安(0.17%減少)。
810日:北朝鮮と米国との軍事衝突への警戒感の高まりで、金融株やハイテク株を中心に多くの銘柄が売られ、205ドル安(0.93%減少)。7営業振りに22,000ドル台を割り込む。
811日:前日の200ドル強の下落の反動で、アップル等に買いが入り、14ドル高(0.07%増加)。
814日:北朝鮮問題をめぐり、米政府の高官から外交による解決を図りたいとの発言が相次いだことで、投資家心理が改善し、135ドル高(0.62%増加)。
816日:7256日のFOM会合の議事録が公表され、緩和的な金融政策が長期化するとの見方が広がり、26ドル高(0.12%増加)。
817日:バージニア州の事件で白人至上主義団体を擁護したと受け止めらるトランプ大統領の発言で、主要企業トップの離脱が相次ぐ2つの助言機関の解散など政治的な混乱が続いていることやスペインのテロ事件の影響もあり、274ドル安(1.24%減少)。下落幅は517日以来3カ月振り。
818日:バノン首席戦略官の更迭などトランプ政権の先行きに対する警戒感が根強いことやスポーツ用品大手のフットロッカーやナイキへの業績懸念などから、76ドル安(0.35%減少)。
821日:相場下落の反動で短期的な戻りがあったものの、上値は重く、29ドル高(0.13%増加)。
822日:前日までの下げが続いたハイテク株が買戻しがあったことや長期金利の上昇で金融株が買われるなどで、196ドル高(0.99%増加)。
823日:トランプ大統領がメキシコ国境沿いの壁予算が講じられない場合、政府機関の閉鎖も辞さないなど、政府運営の不透明感が意識され、88ドル安(0.40%減少)。
824日:議会に反対が強いトランプ政権の壁建設のための歳出法案や連邦政府の債務上限問題の対応をめぐる不透明感の重荷となり、29ドル安(0.13%減少)。
825日:トランプ政権の税制改革推進への期待から、30ドル高(0.14%増加)。
828日:ハリケーン「ハービー」が米国の経済や企業業績に与える影響を見極めたいとする市場関係者が多く、5ドル安(0.02%減少)。
829日:北朝鮮のミサイル発射を受けて一時は売りが拡大したが、その後、北朝鮮とは軍事衝突までには至らないとの楽観的な見方が多くなり、57ドル高(0.26%増加)。
830日:北朝鮮などの地政学リスクへの過度な警戒感が後退し、ハイテク株や金融株に買いが入り、27ドル高(0.12%増加)。
831日:7月の米個人消費支出の上昇率は前年同月比1.4%で201512月以来の低さで、FRBの利上げベースが鈍らせるとの見方が広がり、56ドル高(0.25%増加)。
 
2.米国の雇用状況
米労働省が84日に発表した7月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比209,000人の増加で、市場予想の180,000人増を上回りました。5月の雇用者数の確定値は145,000人で7,000人の減少、6月の改定値は231,000人で9,000人の増加、合計として2,000人の増加となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者の平均増加数は195,000人で、引き続き好調さの目安とされた200,000人に近い水準を維持しました。なお、1月の失業率は4.3%で、0.1%改善しました(広義の失業率も8.6%で変わらず)。労働参加率は62.9%で、前月より0.1%増加しました。7月の時間当たり賃金上昇率は前月比0.3%増加で、前年同月比では2.5%増と同じ水準でした。部門別では製造業が16,000人の増加、建設業も6,000人の増加となりました。一方、小売業が900人の増加に留まりました。
 
3.7月のFOMC会合
816日に、72526日に開催されたFOMC会合の議事要旨が公表されました。それによれば、多くの参加者が、インフレ率は現在の予想よりも長い間FTBが目標とする2%を下回り続ける可能性があると見ています。このため、一部の参加者はインフレの低迷が続かないことを経済指標で確認できるまで追加利上げをすべきでないと主張しています。一方、FRBが保有する資産の縮小開始時期については、何人かは7月の会合で開始時期を発表できるとの見方を示したが、大半は9月の次期会合まで決断を延ばしたとしています。

FOMCが緩和的な金融政策を維持するとの市場の期待から、16日のダウは26ドル高となりました。
 
4.北朝鮮問題の長期化と市場の不安定さ
810日の米国市場は北朝鮮が米国領グアム周辺にミサイル発射計画の発表したこと及びトランプ大統領が8日の北朝鮮への警告は不十分と発言したことから、両国間の軍事衝突への警戒感が強まり、ダウ平均価格は205ドルの大幅下落となりました。従来、北朝鮮の行動に対する市場の反応は鈍く、74日の弾道ミサイル発射や728日のミサイル発射でも、限定した動きしか見られませんでした。今回、市場が大きく反応したのは北朝鮮が攻撃対象としてグアムという具体的な名前を出したこと、トランプ大統領がオバマケアの全面的な見直しなどが行き詰まったことから、強硬策に出るのではないかと見方が大きくなったことによります。
 
北朝鮮問題の難しさは、米国や日本など主要国及び国連などによる度重なる経済制裁の強化にも拘わらず、大陸間弾道ミサイルの実践配備とミサイに搭載可能な小型核弾頭の生産に向かって着実に進んでいると見られることです(最近のニュースでは、ロシアのロケットエンジンを生産していたウクライナの国営企業「ユズマン」が、2014年のウクライナ危機で経営難となり、そこから闇市場を通じて、エンジンと技術者が北朝鮮に流れたとの可能性が指摘されています)。加えて、既存体制維持の保証を求めている北朝鮮の金正恩委員長には、体制維持の保証が確約されても核ミサイルの実践配備計画を放棄するという意図はないであろうと思われることです。更に、北朝鮮の金正恩委員長は中国とのパイプ役であった叔父の張成沢が中国政府と図って長兄の金正男を擁立する動きを察知して以来(2名とも処分)、中国への警戒心を持ち続けており、中国に対する独立的な地位を確保するたにも、核ミサイルの実戦配備が必要としている見方もあります。
 
一方、北朝鮮が唯一の交渉相手と見なす米国では外交・軍事の両面で全く経験のないトランプ大統領が今年1月に就任して以降、どのような手段をとるのか全く予想がつかない状況にあります。従来であれば、これらの分野を担当する国務省や国防省の幹部が専門家の立場から大統領に進言して、大統領もそれらの意見を聞きながら、適切な決定を下していたものが、現在は両省の幹部ポストの多くは国務長官や国防長官などトップを除けば空席で、ホワイトハウスのマクマスター安全保障首席補佐官などの限られたスタッフから意見を聞くしかない状況にあることです。更に、トランプ大統領は専門家の意見を聞くより、自らの独自の判断で決めてしまうことも多く、実際に適用できないような措置の発言を述べてしまうという問題があることです。いずれにしても、当面、北朝鮮問題は米国市場の不安定化要因になっていくものと見られています(829日早朝に日本の北海道沖に新型中距離弾道ミサイルが発射されました)。
 
5.バノン首席戦略官解任に伴う今後のトランプ政権の不透明さ
818日にトランプ政権誕生に最も貢献した右翼系のオンラインニュースサイト「ブライトバート・ニュース」の最高責任者で、トランプ政権の排他的な米国第一主義を指導したバノン首席戦略官が解任されました。ホワイトハウス内で、米国第一主義の下で保護貿易主義や排他的な移民主義を主張するバノン氏と自由貿易・国際協調を重視するコーン国家経済会議委員長やトランプ大統領の娘イバンカ氏とその夫、クシュナー上級顧問の対立は大きく、加えて外交・安全保障問題でもバノン氏とマクマスター安全問題担当首席補佐官との対立も深まっていました。こうした状況の中で、ホワイトハウス内部の秩序を重視するケリー新首席補佐官の進言で、トランプ大統領はバノン氏の解任を決定したとされています。
 
バノン氏が解任された後、21日にトランプ大統領はバノン氏が強く主張していたアフガニスタンからの早期撤廃を否定、マクマスター補佐官やマティス国防長官が主張した残留・増派の戦略計画を発表しました。これに対して、バノン氏が復帰したブライトバート・ニュースはトランプ政権の政策を日和見主義と批判する記事を掲載しています。
 
今回のバノン氏の解任は今後のトランプ政権にとって、予想以上の混乱を引き起こす恐れがあります。第一に既にプリーバス前首席補佐官やスパイサ前大統領報道官等の共和党主流派に近い幹部がホワイトハウスを去り、クルス上院議員や下院Freedom Caucusなど共和党の超保守派グループと繋がりが深いバノン氏が今回去ったことで、今後の政策運営をめぐりトランプ政権と与党共和党との関係に大きな懸念が生じていることです。更に、バノン氏の後ろ盾であり、2016年の大統領選挙で最大の資金提供者であるヘッジファンドのオーナーであるロバート・マーサ氏がバノン氏がホワイトハウスを去る前に長時間の会談をし、バノン氏に全面的な協力を約束していることです。ブライトバートの最高責任者に戻ったバノン氏がホワイトハウスに残っている国際協調派を徹底的に批判してくることが予想されます(ブライトバートが従来から共和党のエスタブリッシュメントとされるライアン下院議長を強く批判してきたこともよく知られています)。
 
更に、822日の夜にトランプ大統領はアリゾナ州フェニックスの演説で、9月末までにメキシコとの国境沿いに壁を建設するための費用約16億ドルを予算に織り込まなければ、政府機関を閉鎖しなければならないと発言しました。本来、トランプ大統領の選挙公約は壁の建設費用はメキシコ政府に支払わせるというものでしたが、それが困難であることを判明すると米国民の税金を使って壁を建設するという政策に変えてしまいました。トランプ大統領の発言には野党の民主党のみならず、与党の共和党内部からも批判が出ており、それが議会で承認されると思いませんが、もし、9月末までに歳出法案が成立しなければ、政府機関が閉鎖される恐れがあります。加えて、米債務上限の引き上げが10月中旬までに承認されなければ、米政府の債務不履行となる恐れもあり、株式市場もその影響を意識するようになっています。
                (201791日: 村方 清)

  
 

Tuesday, August 1, 2017

政治的不透明さの中で好調な企業業績による上昇相場














1.7月の株式市場
7月の株式市場は、256日のFOMC会合に加え、28日には上院でのオバマケアの廃止法案否決され、トランプ政権の公約であった減税やインフラ投資の見通し困難という状況になりました。しかし、多くの企業の四半期業績が好調で上昇相場を続けました。主要な動きは以下の通りでした。

73日:世界的に金融緩和の縮小に向かうとの見方から金融株が上昇、原油先物相場も上昇しエネルギーや資源株が買われ、ダウ平均は130ドル高(0.61%増加)。
76日:世界的な金利上昇により、米国市場でも金利上昇の恩恵を受けにくいハイテク株、通信株、不動産株に売りが広がり、158ドル安(0.74%減少)。
77日:米政府発表の6月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比222,000人増で、市場予想の179,000人増を大きく上回り(失業率は4.4%に悪化)、投資家の積極的な買う姿勢が強まり、94ドル高(0.44%増加)。
711日:重要日程控え方向感が乏しく、ロシア政府の米国大統領選挙への介入疑惑に関してトランプ氏長男のロシアの弁護士との昨年6月の会談報道も出て、僅か1ドル高(0%増加)。
712日:イエレン連銀議長の下院金融サービス委員会で証言で、追加利上げに慎重な発言をしたことで、幅広い銘柄に買いが広がり、123ドル高(0.57%増加)。
713日:FRBの利上げベースが緩やかになるとの見方が強く、21ドル高(0.10%増加)。
714日:米国政府発表の6CPIは前月横ばいで、市場予想の0.1%を下回り、FRBの追加利上げ観測が後退し、85ドル高(0.39%増加)。
717日:ニューヨーク連銀が発表した7月の製造業指数はプラス9.8と前月を大きく下回り、米企業の改善の勢いが強くないとの見方から、利益確定売りもあり、8ドル安(0.04%減少)。
718日:四半期業績を発表したゴールドマンサックスが売買部門の業績悪化で大きく下げたことやオバマケア代替法案が再び上院で行き詰まり、先行き警戒感が強まり、52ドル安(0.25%減少)。
719日:原油先物相場が上昇、米国企業の46月期決算の期待感で、66ドル高(0.31%増加)。
720日:四半期業績を発表したホームデポが大きく下げ、高値警戒感からの利益確定売りが優勢で、29ドル安(0.13%減少)。
721日:GEなどの四半期決算が不調で大幅減となり、利益確定の売りが優勢で、32ドル安(0.15%減少)。
724日:ジョンソン・アンド・ジョンソンやゴールドマン・サックスへの業績懸念から、相場を押し下げ、67ドル安(0.31%減少)。
725日:四半期業績が好調であったキャタピラーやマクドナルドが上昇、長期金利の上昇で金融株も押し上げて、100ドル高(0.47%増加)。
726日:四半期決算を発表したボーイング、コカ・コーラ、AT Tが大きく買われ、相場を押し上げたことやFOMCが金利引き上げを見送ったことで、98ドル高(0.45%増加)。
727日:ベライゾンやプロクター・アンド・ギャンブルなどの四半期決算が好調で、相場を押し上げ、86ドル高(0.39%増加)。
728日:四半期決算が好調なシェブロンや大手製薬のメルクが上昇、34ドル高(0.15%増加)。
731日:ボーイングなどの四半期業績が好調で、61ドル高(0.28%増加)、7月は2.6%の上昇。

2.米国の雇用状況
米労働省が77日に発表した6月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比222,000人の増加で、市場予想の179,000人増を大きく上回りました。4月の雇用者数の確定値は207,000人で33,000人の増加、5月の改定値は152,000人で14,000人の増加、合計として47,000人の大幅増加となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者の平均増加数は194,000人で、好調さの目安とされた200,000人に近づきました。なお、1月の失業率は4.4%で、0.1%悪化しました(広義の失業率も8.6%0.2%の悪化)。労働参加率は62.8%で、前月より0.1%増加しました。6月の時間当たり賃金上昇率は前月比0.2%増加で、前年同月比では2.5%増と同じ水準でした。部門別では建設業が14,000人の増加、小売業も8,100人の増加となりました。

3.連銀議長の議会証言
イエレン連銀議長は712日と13日に上下両院で、定例の米国の経済情勢や金融政策について証言を行いました。今回の議会証言で最も注目されたのは2008年の金融危機の際に導入された量的緩和策について(連銀のバランスシートは危機前の9千億ドルから45千億ドルまで悪化)、経済が想定通りであれば年内に保有資産の圧縮を開始すると述べたことです。

 
量的緩和策については、連銀による米国債や住宅ローン担保証券の大量購入によって市場に大量の資金を供給し、混乱した金融市場を安定化させていくという効果はあったものの、中央銀行による長期債の大量購入によって、市場の歪みを大きくさせることになりました。また、今後予想されるインフレによる金利上昇が、連銀の保有資産の含み損を拡大させるリスクに対応することも必要になっています。こうした意味で、連銀の資産規模の圧縮による金融正常化は正しい方向であることは間違いありません。その一方で、急激な圧縮は金融市場への強い引き締め圧力となるだけに、資産規模の縮小の上限は当初は月額100億ドルに留め、徐々に上限額を引き上げていく案が公表されています。

なお、質疑応答の中で、イエレン議長が追加利上げについては慎重に対応したいとしたことも注目されました。これは9月の会合では資産縮小の議論を優先させ、追加利上げは数カ月後に先延ばしするのではないかとの見方になっています。この日のダウ平均価格は、追加利上げについての連銀議長の慎重な発言から、123ドル高(0.57%増加)となりました。
 
4.FOMC会合
FOMC会合が62526日に開催されましたが、金融政策の現状維持を決定、追加の利上げを見送りました。会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は緩やかに拡大している。雇用増も年初以降平均すると堅調で、失業率も低下している。家計支出と企業の設備投資も拡大している。インフレ率はエネルギーと食品の価格を除くと、鈍化し、2%を下回っている。アンケート調査では長期のインフレ予想はあまり変わっていない。
 
FOMCは法律で定められた使命を達成するために、雇用の最大化と物価安定の実現に努める。FOMCは金融政策の運営姿勢の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大、労働市場の状況もさらにいくらか引き締まると予測する。インフレ率は中期的に2%付近で安定すると予測している。景気見通しのリスクは短期的にほぼ均衡してきている。引きつづきインフレ率の動向を注視する。

FOMCは労働市場情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.751%に据え置くことを決定した。FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、雇用の最大化とインフレ率2%という目標との比較で評価していく。インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。FOMCは経済情勢がFF金利の緩やかな引き上げを許すようなかたちで進むと予測している。
 
米機関債と住宅担保証券の償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する政策を維持する。この政策はFF金利が正常化が十分に進むまで維持する。FOMCは経済情勢がおおむね予測通りに推移すれば、比較的早期にバランスシートの正常化に着手する予定である。

今回の決定はイエレン議長を含む9人のメンバー全員一致による。

今回の金利据え置きの決定は市場で予想されていたこともあり、ダウは98ドル高となりました。

それと同時に、今回の会合で注目されたのは、金融危機後の量的緩和で増大した保有資産の縮小について、経済が予測通りに推移すれば、比較的早期に着手すると明示したことです。これはイエレン議長が71213日に連邦議会で証言した内容と一致するもので、市場では9月のFOMC会合で資産縮小を正式に決めるのではないかとの見方が強まっています。一方、追加の利上げについては、インフレ率の鈍化が目立っており、数カ月間は見送る可能性が高いと見られています
 
5.オバマケア代替法案の行方
622日に公表された上院共和党指導部が用意したオバマケアの代替法案は当初、74日の独立記念日前に上院で成立を目指していましたが、共和党の保守派とリベラル派の議員がそれぞれに数名が反対し、承認を受けることが困難になりました。このため、共和党上院のマコーネル院内総務は725日にオバマケアの改廃に向けた法案の審議入りを目指す動議を提出、採決は5050で賛否同数で、議長のペンス副大統領が1票を投じてようやく可決となりました。
 
しかし、その後、オバマケアの改廃を目指す異なる内容の法案が3回も議決にかけられましたが、いずれも過半数を得られませんでした。第1回は25日で政府補助金の削減とメディケイドの大幅減少を目指した法案が4357で否決され(CBOの試算ではこの法案が実施されれば約2200万人が無保険者になると予測)、第2回は26日でトランプ大統領が望んだオバマケアを最初に廃止し、2年後に代替案を採用するという法案が4555で否決されました(CBOの試算では約3200万人が無保険者になると予測)。そして、マコーネル院内総務が27日に用意した最後の法案が“スキニー案”で、オバマケアの中で個人の保険加入義務廃止、雇用主に対する従業員の保険提供義務の廃止、そして医療機器メーカーに対する課税の廃止の3つを含むもので、上院で採決される可能性が最も高いとされていたものでした(CBOの試算では約1600万人が無保険者になると予測)。しかし、28日の採決では野党民主党議員の48の反対に加え、共和党からメイン州のコリンズ議員、アラスカ州のマコフシキー議員、そしてアリゾナ州のマケイン議員の3名が反対し、4951で否決されました。特に印象的であったのは脳のガンの手術を受けて議会の採決に戻った共和党重鎮のマケイン議員が725日の演説でオバマケアの見直しはマコーネル院内総務など一部の共和党議員が秘密裏に用意する案ではなく、与野党の議員が参加し、其々の専門の参考人達を公聴会に来てもらい、本来の民主的な手続きで行うべきとの持論を展開していたことでした。
 
現在上院、下院とも議会多数派となっている共和党にとってオバマケアの廃止は7年越しの悲願ですが、共和党内部で意見が大きく割れている最大の理由は、公的医療保険制度のあり方について共和党内での考え方が一致していないことにあります。保守強硬派は医療保険は元来米国民の自由な選択に委ねるべきもので、富裕層からの過大な税金によって成立しているオバマケアは廃止されるのが当然と主張しています。これに対し、穏健派はオバマケアによって2000万人近くが新たな保険者となっている現状において、これを全面的に見直せば低所得層だけでなく、中間所得層から強い反発を招き(特に、オバマケアが認めた既往症患者の保険対象化)、2018年秋の中間選挙に悪い影響が出かねないと主張しています。
 
オバマケアが完全なものでないにせよ、多くの無保険者を保険加盟者にした貢献は大きく、本来はマケイン上院議員が提案するように、オバマケアの抱える問題点について野党の民主党議員を交え、多くの公聴会を開いて病院や医師の代表、保険会社 そして米国民の代表から幅広い意見を聞きながら、どのような解決方法があるかかを時間をかけて検討すべきであると思います。いずれにしても、公的医療保険制度に全力で取り組んだオバマ前大統領に比べ、政治的な駆け引きだけのトランプ大統領はあまりに不勉強であり、これでは与党の共和党議員からも多くの協力や支持を得ることができないはずです。
 
なお、オバマケアの代替法案の方向性が決まらなくなった現在の時点では、トランプ政権の公約であった大幅減税や大規模なインフラ投資も財源問題から今後の見通しが立たない状況です。
                 (201781日:   村方 清)

 

 

 

Saturday, July 1, 2017

利上げと高値相場の不安定性












 
1.6月の株式市場
6月の株式市場は1314日のFOMC会合までは9日のハイテク株の大幅下落を除けば上昇基調でしたが、14日に利上げを決定した後はハイテク株を中心に大幅な下落の動きも見られるなど不安定性が目立ちました。主要な動きは以下の通りでした。

61日:民間雇用サービス会社ADP5月雇用レポートで雇用者数が前月比25万人増を上回ったこと、原油先物相場や長期金利も上昇し、石油や金融株が買いが入り、136ドル高(0.65%増加)。
62日:米政府発表の4月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比138,000人増で、市場予想の185,000人増を大きく下回ったものの(失業率は4.3%に改善)、利上げベースは緩やかなものになるとの期待から、62ドル高(0.29%増加)。
65日:ロンドンでのテロ事件やサウジなどによるカタールとの国交断絶で、国際政治情勢の不透明感から、目先の利益確定の売りが優勢で、22ドル安(0.10%減少)。
66日:ボーイング、マクドナルド、ディズニーなどが売られ、48ドル安(0.28%減少)。
67日:コミー前FBA長官の議会証言の冒頭発言の草稿が公表され、内容が報道された範囲だったことから安心感が広がり、37ドル高(0.82%増加)。
68日:コミー前FBI長官の議会証言が終えたものの、トランプ政権の今後の政策運営に懸念も残り、9ドル高(004%増加)。
69日:成長期待のハイテク株が急激に下落したものの(ナスダックは1.80%下落)、ドッド・フランク法の見直しの金融規制緩和法が下院を通過、金融株が大幅に上昇、89ドル高(0.42%増加)。
612日:アップルやマイクロソフトなどIT株の下落が続き、36ドル安(0.17%減少)。
613日:前日まで下げが続いたIT株が持ち直し、金融規制緩和への期待から金融株も買われて、93ドル高(0.44%増加)。
614日:FOMC3か月振りの利上げを決定、金融株の買戻しが活発化、46ドル高(0.22%増加)。
615日:アップルやアマゾンなどのハイテク株の利益確定売りが続いたことや原油先物相場の下落で石油関連株が売られたことで、15ドル安(0.07%減少)。
616日:原油先物相場が上昇し、石油関連株が買われ、24ドル高(0.11%増加)。
619日:世界的な株高の影響を受けて市場心理が改善し、前週まで軟調だったハイテク株が買われ、145ドル高(0.68%増加)。
620日:原油先物相場が7か月ぶり低水準まで下落したことやダウが過去最高記録を記録していることもあり、目先の利益を確保する売りが優勢で、62ドル安(0.29%減少)。
621日:原油先物相場が10か月ぶりの安値を付けたことかれあ、石油やエネルギー株が売られ、57ドル安(0.27%減少)。
622日:オバマケアの代替法案の公表を受けて、ヘルスケア株が買われたものの、原油先物相場が下落し、エネルギーの売りが優勢で、13ドル安(0.06%減少)。
623日:週末を控え、利益確定の売りが優勢で、3ドル安(0.01%減少)。
626日:金融や公益関連株が上昇したものの、アップルなどのハイテク株は売られ、15ドル高(0.07%増加)。
627日:ドラギECB総裁の金融緩和縮小発言に加え、米上院共和党がオバマケア代替法案の採決を7月以降に先送りすると発表したことで税制改革の遅れが懸念され、99ドル安(0.46%減少)。
628日:米国金利の上昇を受けて、JPモルガンなどの金融株が大幅に上昇して、144ドル高(0.68%増加)。
629日:欧州や英国の中央銀行が金融正常化に伴う資金流入の先細りの懸念から、高値圏にあったハイテク株の利益確定売りが強まり、168ドル安(0.78%減少)。
630日:前日に大幅に下落した反動で、エネルギーや機械関連株が大きく上昇、63ドル高(0.29%増加)。

2.米国の雇用状況
米労働省が62日に発表した5月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比138,000人の増加で、市場予想の185,000人増を大きく下回りました。3月の雇用者数の確定値は50,000人で29,000人の減少、4月の改定値は174,000人で37,000人の減少、合計として66,000人の大幅減少となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者の平均増加数は120,700人で、好調さの目安とされた200,000人を大きく下回りました。なお、1月の失業率は4.3%で、0.1%改善し、20015月以来の低水準となりました(広義の失業率も8.4%0.2%の改善)。労働参加率は62.7%で、前月より0.2%減少しました。5月の時間当たり賃金上昇率は前月比2.0%増加で、前年同月比では2.5%増と同じ水準でした。部門別では建設業が11,000人の増加したものの、小売業は6,100人の減少、製造業も1,000人の減少となりました。

3.FOMC会合とその後の影響
61314日にFOMC会合が開催され、3カ月ぶりに0.25%の利上げを決定しました。会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。前回5月のFOMC会合後に得た情報によると、労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動もこれまでのところ緩やかに拡大している。雇用増は緩やかになったが、今年初め以降平均すると堅調で、失業率は低下している。家計支出はこの数カ月上向いており、企業の設備投資は引き続き拡大した。前年同月比で測ったインフレ率は最近低下し、食品・エネルギー価格を除くインフレ率を同じように。2%をやや下回っている。市場が織り込むインフレ率は依然低い。長期のインフル予想は総じてあまり変わっていない。

FOMCは法律で定められた使命を達成するために、雇用の最大化と物価安定の実現に努める。FOMCは金融政策の運営姿勢の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大、労働市場の状況もさらにいくらか引き締まり、インフレ率は中期的に2%付近で安定すると予測している。景気見通しのリスクは短期的にほぼ均衡してきており、FOMCは物価動向を注視している。

FOMCは労働市場情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を11.25%に引き上げることを決定した。FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、雇用の最大化とインフレ率2%という目標との比較で評価していく。インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。FOMCは対称的な物価目標に対する物価の実際の進捗と予想を注意深く観察する。

米機関債と住宅担保証券の償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する政策を維持する。FOMCは現在、経済情勢が予測通りに推移すれば、年内にバランスシートの正常化に着する予定である。

今回の決定はイエレン議長を含む8人のメンバーの賛成による。

今回の金利引き上げの決定は市場で予想されたものであったことで、金融株を中心に買い戻しが活発化し、ダウは46ドル高となりました。また、今回のFOMC会合で注目されたのは現在45千億ドルに達する連銀の資産規模の縮小を年内に開始することを表明、イエレン議長が早ければ9月にも開始することを示唆したことです。いずれにしても、現在米国の景気はインフ率の停滞状況にあり、金融正常化への道は望ましいにしても、引き締め圧力につながる資産縮小がいつの時点で開始されるかがに市場の関心が向けられています。

なお、14日の利上げ決定後、高値相場が続いたものの、ハイテク株やエネルギー株を中心に下降の動きが見られるなど不安定性が目立っています。今後の高値相場の行方については7月に発表される多くの米企業の四半期業績の結果によって、現在の高値相場が正当化されるかどうか決まってくるものと見られています。

4.英国下院選挙で与党過半数割れ
68日に実施された英国議会の下院選挙で、メイ首相が率いる保守党が圧倒的勝利という事前予想は大きく外れ、330議席から12議席減らし、過半数割れの318議席に留まりました。一方、野党の労働党は選挙前の220議席から41議席増の261議席となりました。メイ首相としては19日から始まるEU離脱交渉には選挙で国民の圧倒的支持を得て、ハードブレグジット(EU単一市場らの撤退)で臨む姿勢でいましたが、今回の選挙結果を受けて、政権維持のためには政策の異なる他の政党の協力が不可欠となりました。その後、北アイルランドの保守政党である民主統一党(DUP)との間で閣外協力について合意されたと伝えられています。

今回、メイ首相が敗北を喫した最大の理由は518日に発表した保守党の政権公約(マニュフェスト)に盛り込まれた高齢者の介護自己負担の増加など社会保障政策への有権者の反発が強かったことにあったとされていますが、そのことが強硬左派論者であるコービン氏が率いる労働党への再評価に繋がったと言われています。

いずれにしても、メイ首相には今回の下院選挙の必要性を含め、党幹部との密接な協議もなく独断で決定してしまうという欠点を持っており、DUPとの閣外協力があっても、英国政治が不安定化するリスクが強くなっているように思われます。

英国とEUの交渉は619日に始まり、EUが求める英国の未払い分担金を優先させ、通商協議は後回しにすることで合意しました。今後の会合では毎月1週間ずつ交渉を行い、当面は(1)最大600億ユーロ(約74000億円)といわれる英国の未払い分担金の支払い、(2)英国で暮らすEU市民の権利や地位の保護、(3)離脱後の英国とアイルランドの国境管理となっています。その上で、会合に十分な進展があったと判断された後に、離脱後の自由貿易協定(FTA)の準備段階に入るとしています。

5.フランスの下院議員選挙の結果
618日に実施されたフランス国民議会(下院)の決選投票の結果、マクロン大統領が率いる共和国前進が共闘する民主運動グループは過半数の289議席を上回る350議席を獲得しました。これに対し、既存の2大政党である社会党は改選前の284議席から45議席に、共和党系は199議席から136議席に大きく減少しました。1958年に第5共和政が発足して以降、右派と左派が政権交代を繰り返してきたフランスの政治で初めて2大政党制が衰退したことが明らかになりました。

マクロン政権の課題としては、共和国前進の約9割が政治経験のない新人議員で、複雑な利害が絡む問題について、こうした議員をまとめながら巧みに運営できるかが未知数の点があります。特に保守的な労働組合に守られたフランスの労働コストは欧州の平均を大きく上回っており、9.6%という高い失業率を改善させるためにも、流動性を高めるべく不当解雇の罰金の上限設定など労働市場改革が不可欠になっています。
          (201771日:  村方 清)

 
 

Thursday, June 1, 2017

米国政治の混乱と株式市場の不安定化












15月の株式市場
5月の株式市場は10日にトランプ大統領が政権とロシアとの関係問題でコミーFBI長官の解任したことに伴う政治的不透明感の高まりから17日にはダウが373ドルも下落しました。その後は企業業績の好調さを反映して反騰の動きを示していますが、政治的な混乱は依然続いており、株式市場も不安定性を示しています。 主要な動きは以下の通りでした。

51日:ボーイングやホームデポなど株価の上昇が続いていた銘柄に利益確定の売りが活発であったことや3月の個人消費支出が市場予想を下回り、ダウは27ドル安(0.13%減少)。
52日:3日のFOMC会合の結果を控えていたものの、3Mやホームデポの四半期業績が好調であったことで、36ドル高(0.17%増加)。
53日:FOMC会合で、13月期の成長鈍化は一時的との見方で、8ドル高(0.04%増加)。
55日:米政府発表の4月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比211,000人増で、市場予想の185,000人増を大きく上回ったこと(失業率も4.4%に改善)や原油先物相場が反発し、石油株などが買われ、55ドル高(0.26%増加)。
58日:著名投資家のバフェット氏がアップル株の積増しをしたことで、5ドル高(0.03%増加)。
59日:原油先物相場が下落、北朝鮮の核実験計画が伝えられて地政学リスクも拡大し、37ドル高(0.17%減少)。
510日:9日のトランプ大統領のコミーFBI長官の解任による米政治の不透明感に加え、ディズニーやボーイングが大きく下落、33ドル安(0.16%減少)。
511日:FBI長官の解任に伴うトランプ政権の政策運営への不透明感に加え、小売り大手のメ―シーズやコールズなどの四半期業績が不振で、24ドル安(0.11%減少)。
512日:JCペニーやノードストロームなどの四半期業績が不振で、小売株全体に売りが広がり、23ドル安(0.11%減少)。
515日:サウジとロシアの協調減産合意で原油先物相場が上昇、更に情報セキュリティ関連株も買われ、85ドル高(0.41%増加)。
516日:トランプ大統領がISに関する機密情報をロシアに漏らしたことが報道され、米国政治への不透明感が強まり、2ドル安(0.01%減少)。
517日:トランプ政権とロシアとの不透明な関係の深まりから、景気刺激策の実施が遅れるとの警戒感が強まり、多くの銘柄で売りが広がり、373ドル安(1.78%減少)。
518日:前日に急落した反動と四半期業績が好調であったウオールマートが買われて相場をけん引し、56ドル高(0.27%増加)。
519日:原油先物相場が上昇し、資源関連株が買われた他、農機大手のディアの四半期業績が好調で相場を押し上げ、142ドル高(0.69%増加)。
522日:前週半ばに急落した株の反動及びアマゾンやグーグルなどハイテク株やトランプ大統領が訪問中のサウジでの兵器売却合意による防衛関連株の上昇で、90ドル高(0.43%増加)。
523日:原油先物相場や長期金利が上昇、資源関連や金融株が買われ、43ドル高(0.21%増加)。
524日:523日のFOMC議事要旨の発表後に米国の金融政策の正常化が緩やかなペースで進むとの期待から、低金利が追い風の不動産や公益企業株に買いが入り、75ドル高(0.36%増加)。
525日:四半期業績が好調であった3M、ユナイテッドヘルス、トラベラーズが上昇、相場をけん引して、71ドル高(0.34%増加)。
530日:原油先物相場が下落、長期金利も低下して、石油株や金融株が売られ、更に先週6日続伸した反動で目先の利益確定の売りが優勢で、51ドル安(0.24%減少)。
531日:原油先物相場の下落によるエネルギー関連株の売りに加え、46月業績に慎重な見方の金融株も大きく下げ、ハイテク株も利益確定売りで、21ドル安(0.10%減少)。

2.米国の雇用状況
米労働省が55日に発表した4月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比211,000人の増加で、市場予想の185,000人増を大きく下回りました。2月の雇用者数の確定値は232,000人で13,000増加、3月の改定値は79,000人で19,000人の減少、合計として6,000人の減少となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者の平均増加数は178,000人で、好調さの目安とされた200,000人を下回りました。なお、1月の失業率は4.4%で、0.1%改善し、20075月以来910か月ぶりの低水準となりました(広義の失業率も8.6%0.3%の改善)。労働参加率は62.9%で、前月と同じ水準でした。2月の時間当たり賃金上昇率は年率2.5%増加で、前月の2.7%増より減少しました。部門別では建設業が5,000人の増加、製造業が6,000人の増加、ヘルスケア・レジャー業が55,000人の増加、小売業も6,300人の増加となりました。

3.FOMC会合
523日にFOMC会合が開催されましたが、金融政策の現状維持を決定、追加の利上げを見送りました。会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。経済活動は減速したものの、労働市場は引き続き力強さを増した。雇用増も平均するとここ数か月堅調で、失業率も低下している。家計支出の伸びは僅かであったが、消費を持続的に支える基盤は依然堅調であった。企業の設備投資も安定していた。インフレ率はFOMCの長期目標である2%近くに来ている。エネルギーと食品の価格を除くと、消費者物価は3月には低下し、インフレ率は引き続き2%をやや下回った。

FOMCは法律で定められた使命を達成するために、雇用の最大化と物価安定の実現に努める。FOMC13月期の景気減速は一時的である可能性が高く、金融政策の運営姿勢の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大、労働市場の状況もさらにいくらか引き締まり、インフレ率は中期的に2%付近で安定すると予測している。景気見通しのリスクは短期的にほぼ均衡してきている。引きつづきインフレ率や世界経済のと金融市場の動向を注視する。

FOMCは労働市場情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.751%に据え置くことを決定した。FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、雇用の最大化とインフレ率2%という目標との比較で評価していく。インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。FOMCは経済情勢がFF金利の緩やかな引き上げを許すようなかたちで進むと予測している。

米機関債と住宅担保証券の償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する政策を維持する。この政策はFF金利が正常化が十分に進むまで維持する(なお、525日に発表された議事録要旨によれば、会合参加者のほぼ全員が年内の資産縮小が適切であることやアプローチとして再投資を止める資産の規模の上限を3か月ごとに段階的に引き上げていくことが含まれることを確認したとしています)

今回の決定はイエレン議長を含む9人のメンバー全員一致による。

今回の金利据え置きの決定は市場で予想されたものであったことや13月期の成長率鈍化が一時的なものとの見方から、ダウは8ドル高に留まりました。

4.フランスの大統領選挙
423日の第1回投票で過半数を取れず、決選投票となったフランスの大統領選挙は第1位のマクロン前経済相と第2位のルペン国民戦線党首との間で7日に決戦投票が実施され、即日開票の結果、マクロン氏が予想を超える65%近い支持率を獲得し、当選しました。両候補とも、これまでフランス政治をリードしてきた社会党や保守党の2大政党に属していないという共通点をあるものの、主張は全く異なっており、マクロン候補がEUによる統合推進や移民に寛容な姿勢を主張したのに対し、ルペン候補はEU離脱と反移民を政策を掲げ、鋭く対立していました。今回、マクロン候補が支持票を増したのは第1回投票で保守党のフィヨン候補や社会党のアモン候補を支持した人たちだけでなく、ルペン候補への反発が極左のメランション候補の支持者の中に広がったことが大きかったように思われます。

今回の決選投票の結果、マクロン氏は首相や主張閣僚の指など組閣に向けた動きに入ることになりますが、最も注目されるのは6月の下院選挙、マクロン候補が率いる政治団体“前進”がどこまでの議席数を確保できるかにかかっています。特に議会での多数派を構成できるかどうかが鍵になると思います。

いずれにしても、今回のマクロン候補の勝利は、昨年6月の英国での国民投票によるEU離脱決定や11月の米国大統領選挙におけるトランプ候補の勝利に見られた自国第一主義が3月のオランダ下院選挙に次いで、敗れる点で大きな意味があったものと思われます。また、今回の決選投票の直前、マクロン候補陣営が外部からの不正なサイバー攻撃を受けたにもかかわらず、フランス国民が冷静であったことも評価されるべきであったと思われます。

5.トランプ政権がもたらす米国政治の混乱の影響
トランプ大統領がコミーFBI長官を59日に突然解任したことは米国政治にみならず、株式市場に大きな不安定性をもたらすことになりました(517日にダウは前日比1.78%減の373ドル下落)。当初、ホワイトハウスとペンス副大統領は今回の解任を民主党のクリントン候補のメール問題へのコミー長官の対応の不適切さとするローゼンスタイン司法副長官の報告書を根拠にしたとしました。しかし、トランプ大統領は11日のNBCのホルト氏によるインタビューで自分がFBIによるトランプ政権とロシアとの関係の調査対象でないことを3回確認したが、それが覆されたことが原因であったことを明らかにしました。本来、独立性が保たれるべきFBIの捜査に対して、被疑者の可能性がある大統領が職権を行使して捜査責任者を解任することは司法妨害ではないかとの強い批判を起こしています。

トランプ大統領はコミー長官を解任した翌日の10日にこれまで敵対国とされたロシアのラブロフ外相と会談し(会談には米国のメディアの取材や写真は認められず、ロシアのタス通信のみが許可)、トランプ大統領よりISに関する第3国からの機密情報がロシア側に伝えられたことがワシントンポスト紙によって報道されました。機密情報の取り扱いは大統領の権限ですが、同盟国から得た情報は相手国の了解を得ることが必要で、その会談に同席したマクマスター大統領補佐官によれば、大統領はその情報のソースを確認することなく、伝えたとのことです。更に、18日にはニューヨークタイムズ紙が、トランプ大統領がラブロフ外相との会談に際に、コミー長官は頭がおかしい変人で、解雇したことにより自分が自由になったと伝えていたことも明らかになりました。

また、517日には、トランプ大統領が214日にコミー前長官と会談した際に、米国の利益を侵害し恐れのあるフリン補佐官の捜査を打ち切るようにコミー長官に求めたことがニューヨークタイムズ紙によって報道されました。

こうした一連のトランプ大統領の異常とも言えるロシア寄りの姿勢がどのような理由で起きているのかについて、米国の幾つかのメディアは1998年以降のトランプ不動産グループとロシアのオリガーク(注)との深い繋がりを指摘しています。彼らはトランプグループのソーホー・ホテルプロジェクトやフロリダの高級コンドミニアムプロジェクトに資金的な繋がりを持っているとされています。
(注)ロシアの経済自由化によって資産を築き上げた新興財閥で、中にはマフィアとのビジネス関係やマネーロンダリングを行っているとされている連中がおり、現在のプーチン政権とも深い関係を持っていることが指摘されています。

こうした状況を受けて、517日に司法省によって、元FBIのモラー長官が特別検査官に任命されたことは当然のことと思われます。今後、モラー特別検察官の下で、昨年の大統領選挙で炉ランプ陣営に有利なロシアの不適切な干渉の実態とその背景について捜査が進むことが期待されます

なお、517日には昨年8月までトランプ大統領の選挙責任者であり、ロシアのオリガークのためにキプロスの銀行を使ってマネーロンダリングをした疑いのあマニュフォート氏がトランプグループが保有するニューヨークの不動産に投資していることもありFBI、司法省、財務省が調査を始められたことが報じられています。なお、そのキプロスの銀行はトランプ政権で商務長官を務めるロス氏が巨額の投資を行い、2014年には一時的に副会長であったことも知られています。

また、525日にワシントンポスト紙は、米国の捜査当局がホワイトハウスの上級顧問でクシュナー上級顧問がロシアのセルゲイ・キスリャク駐米大使との接触について調査を始めることも報じています(報道によれば、彼は大使に対して秘密の通信回線を提案したとも言われています)。加えて、クシュナー氏はトランプグループの不動産プロジェクトに投資したロシアの資産家達に融資を行い、現在米国の制裁の対象となっているロシアの国営銀行である開発対外経済銀行(VEB)の頭取と話し合いを持った疑いも持たれています。、

いずれにしても、今後、モラー特別検査官の下で、及び連邦議会で上院と下院によるトランプ陣営とロシアとの不適切な対応をめぐる捜査が強まるにつれ、トランプ政権は選挙期間中にコミットした大幅減税やインフレ投資の実行がかなり遅れる見通しがでてきていることから、株式市場の不安定化が続くことも予想されます。
           (201761日: 村方 清)