Sunday, June 1, 2014

経済データに反応が異なった米国の債券市場と株式市場


 














1.5月の実績

5月の株式市場は企業の四半期業績発表に影響された4月相場と比べ、米国経済についての好不調のデータが交錯、その影響で相場が大きく変動することになりました。さらに、債券市場では10年物国債利回りが低下、一方株式市場ではダウもS&P500も過去の最高値を更新するなど従来とは異なる展開になりました。主要な動きは以下の通りでした。

52日:政府発表によれば、4月の非農業部門雇用者数前月比288,000 人の増加で、市場予想(200,000人)を上回ったものの(失業率6.3へ減少)、ウクライナで暫定政権が親ロシア派の拠点に対する奪回作戦を開始したとの報道から、46ドル安(0.28%減少)。

5月6日:ウクライナ情勢の悪化に加え、AIGなどの四半期業績が低調で、投資家心理が悪化、更にニューヨークタイムズ紙にバブル相場懸念の記事が出て、金融株を含め幅広い銘柄に売りが広がり、130ドル安(0.78%減少)。

5月7日:イエレン連銀議長の議会証言で、米国景気の先行き見通しや低金利政策の継続などが示されたことから、118ドル高(0.72%増加)。

5月12日:海外の株価上昇の影響を受け、112ドル高(0.68%増加)。

5月14日:米10年物国債が水準を下げたために金融株の売り広がったことに加え、前日までの連日最高値更新から目先の利益確定売りが高まり、101ドル安(0.61%減少)。

5月15日:4月の米鉱工業指数が前月比0.6%減で市場予想より悪化、NAHBの住宅市場指数も市場予想に反し前月の46から45へ減少、米国市場の不安定感が増し、利益確保の売りが優勢で、168ドル安(1.01%減少)。

5月16日:4月の米住宅着工件数が市場予想を大きく上回る前月比13.2%増であったこと(但し、大半は5戸以上のアパートの43%増で、戸建ては0.8%の増)、45ドル高(0.27%増加)。

5月20日:JPペニーなど小売り関連株の四半期決算の低調さやフィラデルフィア連銀のプロッサー総裁が経済動向による金利引き上げの早期可能性示唆などで、138ドル安(0.83%減少)。

5月21日:ティファニーの四半期業績が大幅な増益であったことや前日の大幅下落の反動で、159ドル高(0.99%減少)。

5月27日:4月の米耐久消費財受注額が市場予想に反して1.8%の増加となったことや3月のケース・シラー住宅価格指数も1.2%の増加となったことで、69ドル高(0.42%増加)。

5月28日:29日の第1四半期GDPの改定値発表前であることや最高値に近い相場であることから、目先の利益確定の売りが優勢で、42ドル安(0.25%減少)。

5月29日:GDP改定値は予想より悪くマイナス1.0%で、10年物国債利回りの更なる低下が見られたが、週間失業保険申請件数が27,000件減少の300,000件で、66ドル高(0.39%増加)。

5月30日:4月の個人消費支出が前月比0.1%減となったものの、米景気の回復を期待する投資家が多く、18ドル高(0.11%増加)。この結果、ダウもS%P 500も過去最高値を更新。

2.米国の雇用状況

5月2日に米労働省が発表した4月雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比288,000人の増加で、市場予想の200,000人を大きく上回りました。また、2月と3月の雇用者数の改定値も各々222,000人と203,000人に増加しました。これにより、2月から3か月間の月平均雇用増加数は238,000人となり、連銀が目指す200,000人以上を維持したことになりました。

一方、4月の失業率については6.3%で、前月の6.7%から大きく低下しました。但し、同時に労働参加率は62.8%に低下、過去6か月で最低の2013年12月の水準に戻ってしまいました。

部門別では、建設業が32,000人と大きく増加し、製造業も12,000人の増加となりました。

こうした雇用面の改善があったにもかかわらず、ウクライナでの暫定政府による親ロシア派の対立が激化したため、その日のダウ平均価格は46ドル安となりました。

3.イエレン議長の議会証言

連銀のイエレン議長は5月7日に米上下両院経済合同委員会で米国経済と金融政策に関する証言を行いました。最初に、今年第1四半期の経済成長率が前期比0.1%増に留まった点について、異例の厳冬といった一時的な要因が大きいとして、今年の経済は昨年を少し上回るペースで拡大するとの見通しを示しました。労働市場はかなり改善したものの、依然満足できる状況ではなく、長期失業者やパートで働いている人達の数も歴史的に高い水準にあることを指摘しました。こうした点を踏まえ、極めて緩和的な金融政策を継続する必要性を伝えました。委員会での議員達との主要な質疑応答は以下のようなものでした。

       量的緩和策の解除
今後も労働市場の改善が見られ、インフレ率がFRBの長期目標である2%に向かっていくと認識される限り、引き続き資産買い入れの規模を縮小させていく。但し、見通しが変化すれば、計画を見直す用意がある。

       金利
資産買い入れプログラムの終了後、短期金利の誘導目標の引き上げ開始まではかなり時間がかかると見ている。具体的な時期は明確でないが、FOMCの多くのメンバーは2015年または2016年に正常化が開始されるとの見方を示している。

       バランスシートの縮小
適切な水準を示すことはできない。但し、時間と共に、現在の水準からかなり縮小していくと予想している。

       失業
現在、長期失業の比率は全体の約35%と非常に高いが、長期的に成長が加速すれば、長期失業者が減少することを信じて疑わない。 

労働参加率の低下は長期的であり、人口統計的に人口の高齢化も反映している。しかし、労働参加率の低下の背景には労働市場の弱さがあることも明白であり、景気循環による労働市場の改善がこの問題を解消していくことになると見ている。

利上げ検討の目安とする6.5%の失業率は失業率が8%近辺にあった時に導入されたもので、失業率が6.5%に改善した時にフェデラルファンド金利の誘導目標を引き上げると表明したことはない。フォワード・ガイダンスの変更は失業率が低下し、6.5%に近づいたことが唯一の理由である。

        資産バブル

株式市場全体で見た時に、株価のバリュエーションは歴史的に正常な範囲にある。長期金利の水準は低く、これが株式市場のバリュエーションに影響を与えている要素の一つである。

これについては、共和党を中心とする数人の議員から、長期に及ぶ連銀の金融緩和策が株バブルを起こしているのではないかとの強い懸念が示されました。

        所得格差

一部で、所得分配と不平等の拡大が消費を押し下げ、消費の伸びを抑制しているとの見解があるが、これに関する明白な証拠を見つけることは難しい。

これに関連して、イエレン議長は5月8日に上院で証言、現在オバマ政権が議会に諮り、進めようとしている最低賃金を10ドルへ引き上げる法案について、引き上げは90万人の雇用を失う恐れがあるとするCBOの見方を支持、政権とは異なる考えを示しました(但し、米国民の約69%はオバマ政権の最低賃金引き上げ提案に賛成)。

4.長期国債利回り低下と株式市場への影響 ‘

5月14日と15日でダウ平均価格は合計で269ドル下落しました。それと同時に目立ったのは債券市場の動きで、米国の10年物国債は14日と15日にも下げ、一時は下落のリミットと見られた2.5%を割り込みました。本来、14日の4月卸売物価指数の前月比0.6%上昇、15日の消費者物価の前月比0.3%上昇は景気の好調さを反映して、債券市場の金利は上昇するはずでしたが、実際は逆の動きになりました。この背景にはその日の経済データで、4月の米鉱工業生産指数が前月比0.6%減となったことや5月の全米住宅建設業協会(NARB)の住宅市場指数も46から45へ減少するなど米国経済の低迷さを示す内容があったものと見られています。

本来、米国の投資家の立場からすれば、10年物国債の利回り約2.5%はS&P500の過半数の株の利回りを下回っており、魅力的な水準ではありませんが、それでも国債買いに走るのは経済の実態に比べ、高くなり過ぎている株式市場への警戒感が出ているのかも知れません。

同じようなことは欧州でも見られ、15日に発表された欧州連合の2014年第1四半期のGDPが前期比で0.2%増に留まったことが、ドイツや英国の長期国債への資金流入となり、それぞれの金利は1.31%および2.52%まで低下しました(スペインやイタリアについても同様で、1年前までは4.5-5%の10年物国債利回りは現在3.0%程度まで低下してきています)。

更に、28日と29日には米国10年物国債利回りが2.5%を割って2.44%と2.41%まで下がる事態が生じました。一部のアナリストは欧州の債券保有者が金利・為替の両面でより魅力的な米国債にシフトしたことの見方を示しました。しかし、28日はイタリアやスペインの国債が各々2.93%と2.81%まで下落したこと、さらに29日に米国の第1四半期GDPの改定値がマイナス1%となったことを見ると、一部は米国内で株式から債券へのシフトがあったのではないかと思います。

5.金融政策転換をめぐる連銀内の議論の方向

過去5年間以上進められてきた異常な金融政策とも言うべき量的緩和策は、米国経済の回復が進む限り、縮小規模を増やし、年内に終了の予定となっています。これに関連して、5月21日に公表された4月末のFOMC会合の議事録では、その会議でそれ以降に金融政策の転換をどのように進めるかの予備的な議論が行われたことが明らかになりました。現在の超緩和的金融政策を正常化させるためには2つの分野での検討が必要になりますが、その一つは連銀のバランスシートで現在4兆2500億ドルまで膨張した資産をどのように売却・縮小していくかであり、二つは現在のゼロ金利状態をいつから引き上げていくかにあります。

今後、年末に向かって連銀内でこの二つについての議論が高まっていくものと見られますが、行き過ぎた金融緩和策が将来の高いインフレを生じかねさせないという見方に立つタカ派のフィッシャー・ダラス地区連銀総裁やプロッサー・フィラデルフィア地区連銀総裁は積極的な資産売却や早期の金利引き上げを求めていくと見られます。一方、雇用改善に重点を置くイエレン議長やその他のハト派のメンバーはいずれも急ぐべきでないとの見方に立つものとみられます。

これに加えて、連銀の役割にはインフレや雇用以外に金融の安定化も重視されるべきという見方の委員もおり(代表的なのは前ハーバード大教授のステイン氏。但し、5月末に退任の予定)、6月から連銀に参加するフィッシャー副議長候補などが、株価や不動産価格の過度な上昇への懸念から、資産売却や金利引き上げの進め方について違った角度から意見を述べていくものと見られます(イエレン議長の約100日間の議会証言や講演会を聞くと、専門の雇用問題に重点を置きすぎ、やや金融面の視点が弱すぎる面があり、この分野で経験豊かなフィッシャー副議長の役割に期待されるところです)。

6.ウクライナ大統領選挙と欧州議会選挙

5月25日に行われたウクライナの大統領選挙で、新欧米派のポロシェンコ元外相が過半数の約54%を取り、決選投票を待つことなく、当選が確定しました。ポロシェンコ氏は東部のロシア系住民の要望を踏まえ、ロシア語使用の権利保護や自治権拡大、さらに年内に国会選挙を実施し、地方分権を盛り込んだ憲法改正の環境を整える用意があることを明らかにしました。加えて、ウクライナ東部の事態収拾を話し合うために、ロシアのプーチン大統領と会談を実現したい意向も示しました。

しかしながら、ロシア系住民が武力によって大半の地域で大統領選挙の実施を不可能にさせていた東部のドネツク州とルガンスク州では、24日に2州を統合した新たな共和国に合意する文書に署名、25日のウクライナ大統領選挙の影響は全くないとして、26日にはウクライナ政権側の軍・治安部隊を一掃するために戒厳令を敷くことを宣言しました。これに対し、ポロシェンコ氏は暫定政権が進めてきたロシア系住民による武装集団の排除の軍事作戦を当面、継続する方針を明らかにしました。

現時点の動きからする限り、ロシア側は当初考えていた25日の大統領選挙は阻止できなかったものの、東部地区にロシア寄りの政権を作る試みは表面的には成功したように思われます。しかし、武力の監視下で一方的に宣言された東部の政権を合法的な政権と認める外国政府は殆どなく、ロシア国に編入したクリミアに加え、東部の両州に大きな経済的支援を行うことは現在のロシアの経済力からして不可能であり、ウクライナの新政権との間で両国にとって現実的条件で合意していくことになると思われます(東部2州の自治権の拡大、ウクライナを通じる欧州への天然ガスの継続的供給、そしてウクライナがNATOには加盟しないことなど)。

一方、22-25日に実施された欧州連合の欧州議会選挙では、中道左派の「欧州人民党グループ」が211議席、中道左派の欧州社会党が193議席となりました。しかしながら、今回の選挙で目立ったのはメンバー国で、欧州連合に反対や懐疑的な政党を合わせると129議席になり、特にフランス、イギリス、ギリシャ、デンマークで、これらの政党が第1党を占めたことです。これらの政党がまとまった行動をすると、米国との自由貿易協定や主要政党で見解が分かれる問題などで欧州議会の通過が難しくなる可能性が出てくるだけに、今後の動きが注目されます。
           
        (2014年6月1日:  村方 清)

Thursday, May 1, 2014

実体経済との乖離が目立つ米国の過熱高値相場
















1. 4月の実績
4月の株式市場は前半にITやバイオ製薬関連株への高値警戒感から大きな調整の動きがみられましたが、その後は反動からの買戻しが再び活発化しました。後半はウクライナ情勢の混乱と投資家の強気姿勢が交錯する市場展開となりました。主要な動きは以下の通りです。

4月1日:3月の米サプライマネジメント協会(ISM)の製造業景況感指数が前月の53.2から53.7へ改善したことや3月の新車販売台数が前年同月比で5.7%増になったことなどから、ダウ平均価格は75ドル高(0.46%増加)。
4月4日:政府発表の非農業部門の雇用者数の伸びが前月比192,000 人の増加で、市場予想(200,000人)を下回ったこと(失業率は6.7と横ばい)、ITやバイオ製薬関連株に利益確定売りが急激に進み、160ドル安(0.96減少)。ナスダックは2.6%の減少。
47日:8日から発表が始まるITやバイオ製薬関連の主要企業の1~3月期決算への警戒感が強まり、167ドル安(1.02%減少)。ハイテク株比率が高いナスダック2カ月振りの安値。
49日:FRBが午後に公表した318日―19日のFOMC/dx/async/async.do/ae=P_LK_ILTERM;g=96958A90889DE2E6E3EAE2E2E4E2E3E4E2E1E0E2E3E29BE0E2E2E2E2;dv=pc;sv=NXの議事要旨で、/dx/async/async.do/ae=P_LK_ILTERM;g=96958A90889DE2E6E3E5E4EAE3E2E3E4E2E1E0E2E3E29BE0E2E2E2E2;dv=pc;sv=NXFRBが緩和的な金融政策の解除を急ぐとの見方が後退し、181ドル高(1.11%増加)。
410日:IT株やバイオ製薬関連株への売りが強まり、投資家心理が急速に冷え込み、267ドル安(1.62%減少)。314日以来、約1カ月ぶりの安値。ハイテク株の比率が高いナスダック総合株価指数も130ドル安(3.10%減少)。25日以来、約2カ月ぶりの安値。
4月11日:金融大手JPモルガンの決算が不振であったことやインターネットやバイオ製薬関連株への売りが続き、143ドル安(0.89%減少)。ナスダックは2ヶ月ぶりに4000ドル割れ。
4月14日:政府発表の3月小売売上高が前月比1.1%増であったことやシティバンクの4半期業績で純利益G前年同期比4.0%増であったことから、146ドル高(0.91%増加)。
4月16日:中国経済の第1四半期成長率が7.4%と市場予想を上回ったことやヤフーなどのIT関連株の四半期業績が好調で、162ドル高(1%増加)。
4月22日:ユナイテッドテクノロジーやトラベラーズなどの企業業績が好調で、65ドル高(0.40%増加)。
4月25日:ウクライナ国境にロシア軍が迫ったとの情報やアマゾンなどのインターネットサービス関連株の業績不振で、140ドル安(0.85%減少)。
4月28日:ウクライナ情勢への警戒感が強かったものの、ファイザーやゼネラルエレクトリックなどの欧州企業の買収案の発表で、87ドル高(0.53%増加)。
4月29日:医薬品大手のメルクなどの四半期業績が好調で、87ドル高(0.53%増加)。
4月30日:米国政府発表の2014年第1四半期GDPが予想を大きく下回る0.1%、連銀の量的緩和策の更なる100億ドル縮小にかかわらず、投資家の買いが優勢で45ドル高。最高値を更新。

2.米国の雇用状況
米労働省が4月4日に発表した3月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比192,000人の増加となり、市場予想の200,000人を少し下回りました。なお、1月と2月の雇用者数の改定値は各々144,000人と197,000人に増加しました。2月と3月雇用者数が200,000人近くなったこともあり、12月と1月の落ち込みは寒波などの悪天候など一時的なものとの見方が多くなっています。

一方、1月の失業率については前月と同じく6.7%で、横這いとなりました。部門別では、小売りが大きく伸びたサービス部門が19,000人の増加となり、一方、製造業は1,000人減と8か月ぶりに減少に転じました。

3.鈍化する米国の経済回復と連銀の量的緩和策の縮小継続
米商務省は4月30日に2014年第1四半期のGDP速報値を発表しましたが、年率換算で0.1%と事前予想の1.2%を大きく下回りました。今回、GDPが大きく予想を下回った背景には民間設備投資がマイナス2.1%となったことや住宅投資もマイナス5.7%であったことが上げられています。また、米国からの輸出も世界経済の悪化を反映して、マイナス7.6%となりました。唯一、好調だったのはGDPの約7割を占める個人消費で3.0%の増加となりました。なお、今回のGDPについては異常気象による落ち込みで事前予想は1.2%程度になると見られていただけに、それを大きく下回る0.1%であった米国経済の脆弱さはやはり懸念されるところです。

これに関連して、4月29日と30日に開かれた連銀のFOMC会合では個人消費を中心に経済回復が見られることや労働市場の改善が見られるとして、量的緩和策の縮小規模を更に100億ドル減額し、450億ドルとすることを決定しました(米国債を月額300億ドルから250億ドルへ、住宅ローン担保証券を月額250億ドルから200億ドルへ縮小)。なお、30日の株価は第1四半期のGDPの大幅低下や連銀の量的緩和策の追加縮小にもかかわらず、ダウ価格は45ドル高で、史上高値を更新するなど過熱投資状態が続いています。

4. 自社株買いが促進する米国の高値相場
米国の連銀は事実上のゼロ金利政策に加え、2008年111月以降3回に渡る量的緩和策を実施、その買い入れ規模は既に4兆ドルに達していますが、持続的な成長、完全雇用、2%のインフレといったマクロの経済目標は未だに達成されていません。その一方、ダウ平均価格は2013年3月初めにリーマン破綻前の水準を回復、4月30日も史上高値を更新するなど株価の高騰が続いています。この背景には連銀の過度な金融緩和策により、金融機関や企業体が発行する固定金利の金融商品の魅力が失われ、高リスク投資商品である株式への買い需要が強すぎることがあげられます。

これに加えて、企業側もデフレ経済の進展の中で、手持ちの余剰資金を使って自社株を購入、株主資本の減少によって自己資本利益率(ROE)が向上、その結果、株価の上昇をもたらしているとされています。一部のアナリストの見方では、2013年に自社株買いが多かった100社の株価指数は47%上昇したと伝えられています(自社株買いは一時的にPERの低下に結びつくため、本年1月の議会公聴会におけるイエレン連銀議長候補(当時)が証言したように、米国の株価収益率などの指標で見る限り、バブル的要素は少ないなどと言った誤った判断になってしまうのではないかと思われます)。しかし、企業の成長は研究開発や設備への投資が不可欠であり、余剰資金を使った自社株買いは会社が自らの成長を抑えてしまうことにもなりかねません。加えて、自社株買いは行過ぎれば、低利の社債を使った自社株買いに走らせ、自己資本比率や負債比率を悪化させることになります。いずれにしましても、連銀の長期に渡る行過ぎた金融緩和策は米国の金融・株式市場をゆがめているとも言え、本来あるべき金融正常化に向かった政策展開が求められる時期に来ていると思われます。

5.ウクライナ問題の深刻化
3月18日にロシアのプーチン大統領はクリミア自治共和国の住民投票を受けて、クリミアのロシアへの編入を宣言しましたが、その後、東部のドネツク、ドニブロペトロウシク、ハリコフ、ルハーンシク州などもロシア系住民が武力で州政府の建物を選挙、自治権を拡大し、連邦制の導入を強く要求し始めています。これに対し、ウクライナの暫定政府は軍隊を派遣し、建物を占拠するロシア系住民の排除を試みましたがドネツクの空港以外は成功していません。こうした中で、4月17日にスイスのジュネーブでウクライナ暫定政権、ロシア、米国、欧州連合の4者が集まり、①非違合法な武装勢力の解除、②欧州安保協力機構(OSCE)監視団の派遣などで合意しました。更に、オバマ大統領は外交が事態を落ち着かせる可能性はあるものの、それが履行されない場合に備えて追加の制裁を準備する方針を明確にし、28日にG7とEUは追加制裁に合意しました(米国の制裁措置はプーチン側近の7名と17社の資産凍結)。

しかしながら、こうした動きにも拘らず、ロシア政府からロシア系住民による武力での不法占拠を解除させる指示は未だにありません。その背景には現在のロシア憲法61条によって、ロシア国民は国内外においてロシア政府の保護を受けることが保証されており、ウクライナにいるロシア系住民はロシア政府の介入を期待していることがあげられます。同様な規定は戦前のドイツのナチス憲法にもあり、それが1939年のドイツのチェコスロバ二アの侵攻となりました。加えて、欧米が合意した制裁措置はロシア政府の要人に対するビザの発給禁止措置などに限定されており、ロシアの経済に対する悪影響が軽微なものに留まっていることがあげられます(米国とロシアの貿易額は年間400億ドル程度に過ぎないのに対し、欧州とロシアの貿易額は年間4600億ドルと言われ、ロシアへの本格的な経済制裁による代償はロシアだけでなく、欧州諸国にも大きなマイナスとなることが予想されています)。

4月19日付の英国エコノミスト誌はウクライナに対するロシア側の対応について、3つの可能性を指摘しています。その一つはウクライナ暫定政権が5月25日に予定する大統領選挙を阻止、現在の政権には治安維持の能力がないことを示すことにあると言われています。二つは東部の不安定化を口実に国境付近に配備しているロシアの大規模な部隊を平和維持軍としてウクライナに侵攻させることにあると言われています。そして、第3の可能性として指摘されているのはロシア軍を東部地域に侵攻させると同時に、東部地域に西側に近いキエフの暫定政権に対抗して、ロシア寄りの政権を樹立して、並行政府を確立することにあるとされています。

いずれにしても、ロシアのプーチン政権にとっては、ウクライナにいるロシア系住民の保護という名目で、武力を用いてもウクライナの東部地域にロシアの影響力を行使できる政権を樹立することが最終的な目的にあるように思われます。こうしたロシアの強硬な姿勢に対するには、2つの方法しかないように思われます。一つはロシアとの経済の結びつきが強い欧州諸国にロシアに対して金融やエネルギーなどの分野で実質的な経済制裁を認めさせることであり、特に金融面では、ロシアにドル、ユーロ、ポンドなどの国際通貨に対するアクセスを禁止する措置を取ることが求められていると思われます。二つはウクライナに対するNATOの軍事支援を強化することにあると思われます。勿論、こうした強硬策はロシアと欧米諸国との関係を決定的なものにする可能性も高くなりますが、ロシア圏の復活や拡大を意図する強硬なロシアのプーチン政権に対抗するには、欧米諸国もそれに見合った強力な措置を導入するしか有効策はないように思われます。
             (2014年5月1日: 村方 清)

Tuesday, April 1, 2014

ウクライナなど新たな不安定要因を抱える米国市場

















1.3月の株式市場
3月の株式市場はウクライナに対するロシアの対応措置がクリミアだけに留まるかどうかの判断の難しさ、及び3月18-19日に開かれたFOMC会合での金融緩和策転換の予定時期をめぐる不透明さから、一時的に不安定度が高まる展開となりました、主要な動きは以下の通りです。

3月3日:2月の米サプライマネジメント協会(ISM)の製造業景況感指数が前月の51.3から53.2へ改善したものの、ウクライナ情勢をめぐる地政学リスクの高まりから警戒感が強まり、ダウ平均価格は154ドル安(0.74%減少)。
3月4日:ロシアのプーチン大統領がウクライナへの軍事介入について現在時点で必要性がないと発言したことから、投資家心理が大幅に改善し、228ドル高(1.41%増加)。
3月6日:週間の失業保険申請件数が前週から26,000件減少し、323,000件となったことから(市場予想は335,000件)、雇用状況の改善の期待が高まり、62ドル高(0.38%増加)。
3月7日:政府発表の非農業部門の雇用者数の伸びが前月比175,000 人の増加で、市場予想(149,000人)を上回ったものの(失業率は6.7%に上昇)、ウクライナ情勢への懸念から、31ドル0.19増加)。
3月11日:主要株価指数が高値圏にあり、益確保の売りが優勢で、67ドル安(0.41%減少)。
3月13日:ウクライナのクリミア自治共和国のロシア編入の是非を問う16日の国民投票に対してケリー国務長官が実施されれば重大な措置を取ると警告したことや中国の経済指標の悪化から中国経済の減速の懸念が増して、231ドル安(1.41%減少)。下げ幅として今年3番目。
3月17日:クリミア自治共和国の住民投票を受け、欧米のロシアに対する経済措置が、市場の予想に近いものであったため、182ドル高(1.19%増加)。
3月18日:プーチン大統領はクリミアのロシアへの編入を宣言したが、ウクライナの分割を望まないとの姿勢を示したこともあり、89ドル高(0.55%増加)。
3月19日:FOMC会合で、量的緩和策を更に月額100億ドル縮小させることが決定されたことや記者会見でイエレン議長が金利引き上げ時期を市場予想より早める可能性を示唆したとの見方が広がり、114ドル安(0.7%減少)。
3月20日:フィラデルフィア連銀が発表した3月の景気指標は9で市場予想を上回り、米景気先行指標総合指数も市場予想以上に改善になるなどで、109ドル高(0.89%増加)。
3月25日:3月の米消費者信頼感指数が前月の78.3から82.3へ上昇(市場予想は78.6)、前日までの下落から短期的な戻りを期待する投資家も多く、91ドル高(0.56%増加)。
3月26日:クリミア編入でロシアに対するオバマ大統領の追加制裁警告で、99ドル安(0.60%減少)。
3月28日:2月の個人消費支出と所得が増加したことや、前日までの下落による割安感から、買いが優勢で、59ドル高(0.36%増加)。
3月31日:イエレン連銀議長が超低金利政策継続を強調したため、135ドル高(0.82%増加)。

2.米国の雇用状況
米労働省が3月7日に発表した2月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比175,000人の増加となり、市場予想の149,000人を上回りました。また、12月と1月の雇用者数の改定値も各々84,000人と129,000人に増加しました。この結果、12月から2月の3か月間の雇用者数平均は131,000人となったものの、それ以前の9月から11月までの225,000人に比べると低下したことになりました。一方、1月の失業率については前月から0.1%上がって、6.7%となり、横這いと見ていた市場予想を上回りました。部門別では、先月大きく増加した建設業は15,000人の増加に留まり、サービス部門の専門職が先月の42,000人から79,000人へ大きく増加しました。こうした雇用情勢の改善にもかかわらず、株式市場の反応は現在の高値水準やウクライナ情勢の懸念から限定的で、ダウは25ドル高に留まりました。
 
3.FOMC
3月18日と19日に、イエレン連銀新議長の下で、最初のFOMCが開催されました。会合の声明文では今年の冬は悪天候の影響を受け、経済活動の減速が見られたこと、労働市場では失業率が依然として高いものの、改善は見られていること、家計支出や民間設備投資も引き続き改善傾向にあること、物価上昇率はFOMCの長期目標を下回る水準にあるものの、安定した状態にあることが伝えられました。そして、法律に定められた連銀の使命である雇用の最大化と物価の安定化という目標達成が前進していることから、現在の量的緩和策の縮小規模を4月より更に100億ドル減額し、月額ベースで550億ドルとすることを決定しました(米国債を月額350億ドルから300億ドルへ、住宅ローン担保証券を月額300億ドルから250億ドルへ縮小)。

また、将来の政策金利の方向性を示すファーワード・ガイダンスについて、失業率6.5%の物価基準を撤廃したことを明らかにしました。これは政策方針そのものの変更を意味するものではなく、失業率やインフレ率の基準よりも、広範な経済指標を政策決定の際に参考としたいとの考え方に基づいているとしました。但し、この撤廃については、ミネアポリス連銀総裁が数値基準を撤廃すればインフレ目標達成の取り組みにおいて、連銀の信頼性が損なわれかねないとの懸念を示しました。

なお、現在の0-0.25%という異例に近いフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を維持する期間の決定に際しては、雇用の最大化と2%の物価上昇率という目標に向けた前進と今後の予測、さらに金融市場の状態を含めた幅広い情報を考慮して判断したいとして、物価上昇率がFOMCの長期目標である2%を下回る水準で進むとの予測が続くのであれば、現在のFF金利の誘導目標を相当期間維持する可能性があるのとの従来の立場を確認しました(但し、金利見通しについて、大半の委員が2015年の利上げを見込み、2015年末の水準が昨年12月の0.75%から今回は1%と見ていることが示されました)。

FOMC後のイエレン議長の記者会見での主要な質疑応答は以下の通りでした。
① 労働市場
長期失業者が失業者全体に占める割合は非常に高く、高止まりしている。労働参加率の低下については構造的な要因だけでなく、景気循環的な要素も働いていると思われる。しかし、労働参加率のどの部分が構造的で、どの部分が循環的かを区別していくのは難しく、今後も見守っていく必要がある。
       フォーワード・ガイダンスの数値基準
6.5%という失業率を撤廃したのは効果がなかったからでなく、効果があったと判断している。但し、失業率が6.5%に近づくにつれ、突破される公算が大きくなり、それ以外の多くの情報を提供する必要性が大きくなったことによるものである。
③ QE終了後の利上げ時期
“かなりの期間”という声明文の表現は、恐らく6ヶ月程度を意味している。但し、声明文では労働市場の状況や目標インフレ率2%の達成状況などを十分に判断しながら、決定していくことになる。

今回のFOMCの会合、特にイエレン議長の記者会見での質疑応答に伴う市場の反応は極めて敏感で、QE終了後の利上げ時期について、6ヶ月程度と見ていると回答したことから、一時はダウ価格が200ドルを越える下落となり、最後は114ドルの下落となりました。

これに先立ち、3月13日に連銀副議長候補のフィシャー前イスラエル中央銀行総裁(世銀やIMFの要職も経験)が上院銀行員会に公聴会に出席しました。その中で、連銀の役割として、雇用の最大化と物価の安定化という2つの目標に加え、金融の安定化があることを強調しました。また、委員会の副委員長より、金融緩和策が行き過ぎた場合、金融市場の混乱を招くのではないかとの質問に対し、連銀は既に昨年12月より出口に向かっているはずとしました。また、3月21日には連銀のメンバーであるステイン氏(前職はハーバード大の金融論の教授)も長期に渡る金融緩和策による金融不安定性の懸念から、金融安定化のための政策展開をすべきと述べたことが伝えられています。

4. ウクライナ問題
3月16日にクリミア自治共和国の住民投票で、約97%がロシアへの編入を認めた結果を受けて、ロシアのプーチン大統領は18日にクレムリンに上下両院の議員を招集し、クリミア自治共和国と特別市セバストポリをロシアに編入することを宣言しました。ウクライナ暫定政府はクリミアのロシアへの編入はウクライナ憲法に違反と抗議、欧米諸国もロシア軍とみられる部隊が実効支配する中で行われた投票は認めらないとして、ロシアに対する制裁措置を発表しました。しかし、その後、ロシアはロシア軍を派遣、クリミア共和国を実効支配し、クリミアのロシアへの編入を着実に進めています(クリミアに駐留していたウクライナ軍も撤退となりました)。

こうした事態に、3月24日からオランダのハーグで始まった核サミットに合わせて開かれたG7の首脳会議でロシアによるクリミアの編入が認められないこと、ロシアがウクライナの東部や南部に支配権を強めようとすれば金融やエネルギー面での強い経済制裁を実行する用意があること、更に、ロシアのG8からの一時的な追放措置を発表しました(国連もロシアの拒否権がある安全保障理事会ではなく、総会でロシアのクリミア編入は認められないとの採択を行ないました)。

今回のG7による決定を見る限り、最初の段階では強硬なものでなく、ロシアの対応によって制裁措置の度合いを高める内容になっています。この背景には、ロシアとの経済的結びつきが強い欧州とそうではない米国とでは立場が異なっており、妥協の産物として、今回の措置が決められたという事情があります。特に、欧州の場合、ドイツとイタリアはロシアからの天然ガス輸入の比率が高いこと、フランスはロシアへの武器輸出が大きいこと、イギリスはクレムリンに関係の深いロシアの大物実業家の資産を預かっていることなどから、米国ほど強硬な措置を取れない事情があります。

しかしながら、欧米諸国の経済制裁措置によって、ロシアがクリミアを断念するという保証はありません。ロシアにとってクリミアの軍事的な重要性、ロシア系住民が6割以上いるという歴史的な繋がり、ロシア国内でもクリミア編入が国民から圧倒的に支持されている状況を考えると、プーチン大統領が欧米の要求によってクリミアを譲ることは政治的にはあり得ないように思われます。加えて、ロシアはウクライナ東部国境に数万の軍隊を派遣させ、武力による威圧を続けています(30日に開かれた米ロの外相会談で、米国のケリー長官はロシアのラブロフ外相に軍隊の撤退を要求しましたが、ラブロフ外相は通常の演習であるとして拒否しました)。プーチン大統領の戦略としては、ウクライナ暫定政権及び欧米諸国にウクライナの地方州政府により大きな自治権限を認めるように要求すると同時に、それが受け入れらない場合にロシア系住民保護の名目で東部を含む他の地域に軍隊を派遣し、支配権を強める意図があるものと思われます。

その反面、ウクライナ問題を経済的に見た場合、クリミアの例でわかるように、現在天然ガスの約25%、水道の約70%、電力の約90%をウクライナ本土に依存していること、主要な産業である観光業も約70%がウクライナ本土から来ている状況を考えた場合、ロシアにとってクリミアの編入は大きな経済負担を伴ってくることです。ロシア政府は既に1年目だけで、約40億ドルの資金支援が必要になると見ています(特に、ロシア全体の経済規模は現在イタリア経済と同じ程度でしかなく、クリミアへの経済支援だけでもロシアにとって大きな資金負担になると見られます)。更に、欧米による経済制裁がロシア経済全体にとってマイナスの影響を一層拡大させていくことも予想されます(既にロシアからの資本流出により株式市場の低迷や通貨の下落をもたらしており、このままではロシアの今年の経済成長率がマイナスになるとの予測も出ています)。

こうした状況の中で、今後ロシアがウクライナに対して具体的にどのような対応をしていくのかは依然不透明な部分がありますが、短期的にはプーチンが政治や軍事的な理由を優先させ、強硬政策を続けていく可能性があるように思います。しかし、中・長期的に見た場合、ロシアの経済能力からして、対決政策を続けることはロシア経済に一段と深刻な影響を与えることから、最終的には今年2月27日に発足したウクライナの暫定政権を正当な政府と認め(5月25日に大統領選挙を実施予定)、彼等と協力しながら、独立性の高いクリミア自治国に対する支援を行なっていくことになっていくのではないかと思います。クリミアのインフラ部門のウクライナ本土への依存度が高いこと、さらにロシアから欧州へ輸出される天然ガスの多くがウクライナを経由しており、今でも6割近くがウクライナ経由となっていることを考えると、これが現実的な選択にならざるを得ないのではないかと見られます。但し、プーチンは2008年8月のグルジアとの紛争に見られるように、これまで旧ロシア領であった地域がロシアを仮想敵国とするようなNATOのような同盟国メンバーになることには強い反感を抱いており、ウクライナ新政府がNATOのメンバーにならないことの確約を求めるのではないかと思います。
             (2014年4月1日: 村方 清)

Saturday, March 1, 2014

実体経済との乖離が進む米国の株式市場
















1.2月の株式市場

2月の株式市場は米連銀の量的緩和策模縮小による影響から1月23日以降ダウ平均価格は6%近い下落調整が起こりましたが、2月6日以降に急速に回復、2月末には1月23日前を越える水準に戻りました。異常気象の影響もあり、経済指標で米国の改善を示す兆候は見られないもの、株式市場が急速に立ち直ってきた背景について、投機性が高まっているのではないかとの見方も出てきています。主要な動きは以下の通りです。
 
2月3日:1月の米サプライマネジメント協会(ISM)の製造業景況感指数が前月の56.5から51.3へと2013年5月以来の低水準となり、景気減速への警戒感が高まり、シカゴ・オプション取引所の恐怖指数(CBOE Volatility Index)も16.5から2012年12月以来最大の21.44へ急上昇、ダウ平均価格は327ドル安(2.08%減少)。
2月4日:過去2日間で約3%の下落となったこともあり、割安感から短期的戻りを期待した買いが入り、72ドル高(0.47%増加)。
2月6日:週間新規失業保険申請件数が前週より20,000件少ない331,000件に留まり、7日発表の1月雇用統計の期待が高まったことや最近の相場安値感から、188ドル高(1.22%増加)。
27日:政府発表の非農業部門の雇用者数の伸びが前月比113,000 人の増加で、市場予想(185,000人)を大きく下回ったものの、,失業率は6.6%に低下、回復が続くとの見方から、幅広い銘柄に買いが優勢で、166ドル1.06%減少)。
2月11日:イエレン連銀議長が議会下院証言で現行の金融政策の継続を表明したこと、下院共和党が連邦債務上限引き上げを無条件で認める可能性を示したで、193ドル(1.22%増加)。
2月13日:朝に発表の1月の小売売上高が前月比0.4%減少し、過去分も下方修正されたが、連邦政府の債務限度引上げがほぼ解決したことから買いが優勢で、64ドル高(0.40%増加)。
2月14日:1月の米鉱工業生産指数が前月に比して低下したもの、2月の消費者態度指数が81.2と市場予想を上回り、127ドル高(0.79%増加)。週間上昇幅は380ドルで、2か月振り。
219日:住宅関連指標が市場予想を大きく下回ったことで悪天候による景気への影響が改めて意識され先行き警戒感につながった。米連邦準備理事会(FRB)が午後に発表した1月開催のFOMCの議事要旨は新味に欠ける内容で、90ドル安(0.56%減少)
220日:同日発表の米経済指標は強弱感が入り交じる結果となったが、米国の事実上のゼロ金利政策が長引くとの見方がじわりと拡大、93ドル高(0.58%増加)。
2月24日:米国の金融緩和策が長期化するとの見方から、104ドル高(0.64%増加)。
2月27日:上院銀行委員会におけるイエレン連銀議長の景気の一時的な減速は異常な気候による影響が大きいのではないかとの発言を受けて、74ドル高(0.46%増加)。
2月28日:2013年第4四半期のGDPは2.4%に0.8%下方修正されたものの、2月の消費者感度指数の速報値が上方修正されるなど一部の経済指標の改善があり、49ドル高(0.3%増加)。

2. 米国の雇用状況

米労働省が2月7日に発表した1月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比で11万3000人の増加に留まり、市場予想の185,000人を大きく下回りました。また、12月の雇用者数の改定値も1000人の増加に留まり、市場予想とは異なっていました。この結果、12月と1月の2か月間の雇用者数平均は94,000人となり、2013年1月から11月までの平均204,000人に比べ、大きく減少しました。一方、1月の失業率は、前月より0.1%低い6.6%となり、2008年10月の6.5%に次ぐ低い水準となりました(この減少は労働市場参加率の低下も影響)。
今回、雇用者数が予想以上に増加しなかった背景には全米各地を襲った記録的な寒波の影響があるものとみられますが、一方で、増加数が多かったのは気候の変動を受けやすい建設業の48,000人で、逆に小売業は13,000人の減少となったことを見ると、必ずしも気候要因だけではないように見られます。なお、こうした雇用情勢の悪化にも関わらず、株式市場の反応は強気で、ダウは166ドル高となりました。この背景には、2月3日に株価が大きく下がったことの反動や連銀の量的緩和策縮小テンポの見直しへの期待があったように思われます。
いずれにしても、次回の連銀のFOMC会合は3月18日―19日であり、3月初めの2月雇用統計の結果が判断材料になるものと見られます。

3. 連邦政府債務上限引き上げ法案可決

連邦政府の債務が当初は2月7日に、その後2月27日に限度に達すると見られ、引き上げが不可欠になっていた状況の中で、下院は11日に2015年3月までの1年間を無条件で引き上げる法案を僅差で可決、上院に送付されました。これまで、3年に渡って、債務上限引き上げを財政協議の材料に使って譲歩を引き出してきた共和党が、今回オバマ大統領が求めていた無条件の上限引き上げに応じた背景には、11月の中間選挙でオバマ政権が現在も問題を抱える医療保険制度改革(オバマケア)に論議の焦点を絞った方が得策との判断があったと見られています。
当初、共和党のベイナー下院議長は退役軍人向け年金の削減を見直すことを条件にしようとしましたが、党内で十分な支持を得られず、また、投票の際も共和党からの賛成者は議長を含め28名に留まったものの、民主党から195名中193名が賛成したことにより、221名対201名という僅差で承認されました。なお、上院も12日に審議を始め、59名の賛成を得て承認されました。いずれにしても、従来、債務限度引き上げ問題は与野党の厳しい対立から株式市場の不安定性を招いてきただけに、引き上げ法案が無条件で承認された意義は大きいと見られます。

4. イエレン連銀議長の議会証言と金融専門家による証言

(1) イエレン連銀議長の議会証言

連銀のイエレン新議長は11日に下院の金融サービス委員会で、27日には上院の銀行委員会で半期に一度の米国経済と金融政策に関する議会証言を行いました。最初に連銀の中心的な課題である雇用と物価の状況について、雇用は労働市場の回復が完全と呼ぶには程遠く、失業率は改善しているものの、持続可能な完全雇用と一致するFOMCの見通しを大きく上回っていること、インフレも最近では軟調さが見られており、これは輸入価格の下落といった一時的な要因を反映しているように見られることを述べました。また、国際金融市場の混乱については、動向を注意深く見ていく必要はあるものの、米国経済に著しいリスクを及ぼすものではないとしました。こうした状況を踏まえ、労働市場の状況が改善し、インフレがより長期の目標に再び近づいていくことが裏付けられれば、今後の会合で、資産買い入れベースを落としていく公算が大きいとの見通しを明らかにしました。こうした議長の証言を受けた下院での主要な質疑応答は以下のようなものでした(上院での質疑応答は下院と重複しているものが多く、省略)。

① 雇用に関する責務
連銀は議会によって課せられた雇用の最大化と物価の安定の2つの責務を負っており、連銀としてもその責務を果たすことをコミットしている。
② 構造的な失業
現在、26週間以上の失業に陥っている長期失業者は全体の失業者の約36%を占めている。長期に渡る失業は求職者も雇用者も雇用を諦める状況に追いこまれる恐れがあり、経済にとって重大な問題となる。
③ 労働参加率の低下
労働参加率の低下の大部分は構造的なもので、景気循環的な要因によるものではない。人口の高齢化に伴い、労働参加率は更に低下する可能性が高い。
④ 議会ができる失業対策
金融政策は万能ではない。議会が同じ目標を促進するために、その他の措置を検討することは全く適切であると思われる。
⑤ 労働分配率の低下
賃金は生産性に追いついていず、利益が賃金ではなく、資本分配に回されてきている。生活水準と言う観点からするとかなり懸念される傾向となる。
    12月と1月の雇用統計
12月と1月の雇用創出ベースが連銀の予想を大きく下回ってしまった。これには天候要因もあるが、その他の要因も影響を与えている可能性があり、結論を急ぐべきではないと思う。次回に予定されている3月のFOMCまでには、3月の雇用統計を含め、多くの経済指標を検証する必要がある。
    量的緩和策縮小の停止や拡大の条件
いずれも、見通しが著しく悪化することが必要となる。労働市場の見通しの悪化、インフレ率が時間の経過でも目標水準に達しないなどの深刻な懸念が生じた場合に検討することになる。
    今後の量的緩和策の縮小
今後の見通しが連銀の想定通りとなり、労働市場の改善もインフレ率も長期目標に向かって上昇する兆候がある限り、資産買い入れの縮小を継続する公算が高い。
    中銀の合理的なアプローチ
比較的正常な時には、テイラールールなどが合理的なアプローチになるが、経済が金融危機による厳しい状況に直面し、金利の引き下げが限界になっている現状では、異なるアプローチが必要だと信じており、そのように主張してきた。今後はフォワード・ガイダンスを通じて可能な限り系統的で、予見可能であるように務める。

(2) 金融専門家による議会証言

この後、同じ委員会で、金融専門家4名を招いて、米国の金融政策についての質疑を行ないました。特に、注目されたのが、スタンフォード大のフーバー研究所のテイラー教授とワシントンのケイトー研究所ディレクターのカラブリア博士の発言でした。テイラー教授は1985年から2003年までは連銀が政策ルールに従った金融政策を展開したために、大きな金融不安を招くことはなかった。しかし、2003年から2006年まではグリーンスパン議長の下で、そうしたルールに従わない低金利政策を取ったため、住宅バブルとその反動としてのリーマンブラザース破綻による金融危機を生じることになった。その後に1998年11月からバーナンキ議長によって導入された量的緩和策も金融危機がなければ、本来は不要であったはずであったとの議論を展開しました。また、委員長より、政策ルールに従った金融政策はいつ行なうべきかと質問されたところ、テイラー教授は今のような異常な金融緩和策は長く続けるべきではなく、できる限り早く金融正常化のための金利引き上げが重要であること、かつ現在のようなフォワード・ガイダンスによる誘導は指標のターゲットが動いており、正しくないと回答しました。

また、ケイトー研究所のカラブリア博士は連銀の政策は議会によって監督されるべきで、それがなかったことが1998年の金融危機を招くことになったとの意見を述べました。彼は連銀の量的緩和策による雇用効果にも極めて懐疑的で、量的緩和策を実施しても失業が非金融的な理由で起きている以上、効果はなく、ここ数ヶ月失業率が低下している背景には労働市場への参加率が低下していることが主因であるとコメントしました(注)。

(注)連銀の中にも、この委員会に出席したコール前連銀副議長のように、金融政策による雇用創出には限界があり、長期的構造的な失業には対応できないことを認める専門家もいます。

(3). 補足資料

①.米連銀の量的緩和策による実体経済の影響


GDP成長率(%)
12月失業率(%)
労働市場参加率(%)  
CPI(%)
ダウ価格
2010
2.77
   9.4
 64.3
   1.5 
11,578
2011
   2.01
  8.5
 64.0
  3.0
12,216
2012
  2.80
  7.9
 63.6
  1.7
13,104
2013
  1.90
   6.7
  62.8
  1.5
  16,577

②.量的緩和策導入後の連銀の資産ベースの推移

20088月:   8000億ドル台
200811月:  第1次量的緩和策実施
20091月:   1.7兆ドル
201010月:   2.0兆ドル
201011月:  第2次量的緩和策実施
20111月:   2.5兆ドル
20124月:   3.0兆ドル
20129月:   第3次量的緩和策実施
201312月:  3.68兆ドル

③.補足資料についてのコメント

標記1の表の中で、2010年11月の中間選挙までは上院、下院とも民主党が多数派で財政政策が効果を上げた時期であり、連銀の量的緩和策の評価は2011年から2013までが適切となります。この期間(2010年末から2013年末)における株価上昇率は約43%となっていますが、GDP成長率は高いものではなく、物価上昇率は逆に下がっています。また、失業率は下がってきていますが、2008年以前は労働市場参加率が66%を越えていたことを考えると、失業率の低下は市場参加率の低下が主要な原因ではないかと見られます。また、政府統計によれば、27週間以上の長期失業者の比率は2013年末で依然全失業者の約37%と高く、大きな問題となっています。

5.イタリアの経済停滞と新首相選任

欧州連合の中で3番目の経済規模を有するイタリアでは、昨年2月に総選挙が行なわれたものの、与野党の対立から政治空白が長期化、大統領の仲裁により、中道左派の民主党とベルルスコーニ基首相が率いる中道右派が大連立に合意、レッタ政権が4月に成立しました。しかし、経済改革や政治改革が不十分との党内の批判が多くなり、批判の急先鋒であったレンツィ書記長が新政権を樹立することになりました。イタリア上院は24日に、下院は25日にレンツィ新首相に対する信任投票を行い、新首相が承認されました。

現在、イタリアは2008年の金融危機以降GDPで10%以上低下、一人当たりGDPもイタリアが欧州連合に加入する以前よりも悪化、政府債務はGDPの130%を超える水準まで増加しています。この点、歴代首相の最年少であるレンツィ新首相の手腕に期待する声も大きいのは事実ですが、国政の経験が皆無であること、彼を含めて過去3人が選挙を経験しない首相になったことで、どれだけ多くの国民の支持が得られるかについて不安視する見方もあります。

6.ウクライナの政権交代の影響

2月25日にロシアを後ろ盾にするヤヌコビッチ政権が崩壊、野党勢力が新政権を樹立しましたが、ロシアの対応策が読めず、世界の株式市場への影響も現時点では不透明となっています。
            
                   (2014年3月1日: 村方 清)