Saturday, April 1, 2017

トランプ政権の経済政策の不透明性と調整局面の株式市場













1.3月の株式市場
3月の株式市場は当初トランプ政権の経済政策への期待から大きく上昇したものの、FOMCの利上げ警戒感から低迷しました。その後、更にトランプ政権の公約であったオバマケア見直し法案が下院与党での合意困難による見送り決定で、トランプ政権の経済政策の実行可能性への不透明感から、高値相場の調整が続きました。主要な動きは以下の通りでした。

31日:228日のトランプ大統領の議会演説による経済政策への期待と金利上昇による金融株の買いで、ダウ価格は303ドル高(1.46%増加)。
32日:前日に最高値を記録した反動とIRSの捜査を受けた建設機械大手のキャタピラーの急落で、113ドル安(0.53%減少)。
36日:北朝鮮のミサイル発射に伴う地政学リスクの高まりや目先の利益確定の売りが金融株を中心に出たことなどで、51ドル安(0.24%減少)。
37日:製薬業界の競争を促すトランプ大統領のツイッターで大手製薬の株が売られたことや相場の最高値圏からの警戒感から利益確定の売りが優勢で、30ドル安(0.14%減少)。
38日:不正会計の報道を受けたキャタピラーが2.8%下落、米国の原油在庫が市場予想を大幅に上回った原油先物相場が下落、69ドル安(0.33%減少)。
310日:米政府発表の2月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比235,000人増と、市場予想の190,000人増を大きく上回ったことで、(失業率も4.7%に改善)、45ドル高(0.21%増加)。
314日:サウジの増産による原油相場の下落とFOMCの様子待ちから、44ドル安(0.21%減少)。
315日:FOMC会合で0.25%の利上げを決定、大方の予想通りであったことや原油先物相場が上昇したことで、前日までの下落していた株に買いが多くなり、113ドル高(0.54%増加)。
317日:米長期金利の低下を背景に、金融株が売られ、20ドル安(0.10%減少)。
321日:米金利低下を背景に金融株が売られ、トランプ政権の税制改革や金融規制緩和の先行き不透明感から利益確定売りが大きくなり、238ドル安(1.14%減少)、下げ幅は昨年913日以来。
324日:取引終了直前に、オバマケア代替法案の採決が見送られ、トランプ政権の政策運営の先行き見通しが不透明になったことで、60ドル安(0.29%減少)。
327日:トランプ政権の政策運営の不透明感が警戒され、46ドル安(0.22%減少)。8日連続の下落は20117月末以降の58か月振り。
328日:コンファレンスボードの発表で3月の米消費者信頼感指数が125.6と市場予想を大きく上回ったことやフィッシャー連銀副議長が今年は残り2回の利上げが適切の発言から、長期金利が上昇してJPモルガンなどの金融株の買いが優勢となり、151ドル高(0.73%増加)。
329日:オバマケアの代替法案の撤回を受け医療保険株が売られ、金利低下で金融株も下落し、42ドル安(0.20%減少)。
330日:原油先物相場の上昇や20161012月のGDP確定値が年率2.1%増と改定値から上方修正されたことで長期金利が上昇し、エネルギーや金融株が買われ、69ドル高(0.33%増加)。
331日:長期金利の低下を受けて、金融株に利益確定の売りが出た他、エネルギー関連株も持ち高調整による売りが優勢で、65ドル安(0.31%減少)。3月は月間で149ドルの下落(0.7%の減少)。

2.米国の雇用状況
米労働省が310日に発表した2月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比235,000人の増加で、市場予想の190,000人増を大きく上回りました。12月の雇用者数の確定値は155,000人で2,000人の減少、1月の改定値は238,000人で11,000人の増加で、合計として9,000人の減少となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者の平均増加数は209,000人で、完全雇用に近い水準であり堅調な増加と見られています。なお、1月の失業率は4.7%で、0.1%改善しました(広義の失業率も9.2%0.2%の改善)。労働参加率は63%で、前月比0.1%増加しました。2月の時間当たり賃金上昇率は年率2.8%増加で、前月の2.6%増より上昇しました。部門別では建設業が58,000人の増加、製造業も28,000人の増加となりましたが、逆に小売業が26,000人の減少となりました。

3.FOMC会合による利上げ決定
31415日にFOMC会合が開催されましたが、昨年12月以来、3カ月ぶりに0.25%の利上げを決定しました。会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。労働市場は改善を続け、経済活動は緩やかなペースで拡大し続けている。雇用の伸びは引き続き堅調で、失業率はここ数カ月間あまり変化がない。家計支出は緩やかに増加し続け、企業の設備投資はいくらか安定したようにみえる。ここ数四半期、インフレ率は上昇し、FOMCの長期的な目標である2%に近づいている。

FOMCは法律で定められた雇用の最大化と物価安定の実現という2大使命を達成するために努める。FOMCは金融政策の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大し、労働市場もさらにいくらか力強さを増し、インフレ率も中期的に2%近辺で安定すると予測している。FOMCは引き続きインフレ率と世界の経済や金融の動向を注意深く監視する。

労働市場の状況とインフレ率の実績と見通しを考慮して、FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の目標誘導レンジを0.751.00%に引き上げることを決定した。金融政策の運営姿勢は引き続き緩和的で、それによって労働市場の状況の更なる改善とインフレへの持続的な回帰を支える。

FOMCは経済状況がFF金利の緩やかな引き上げを正当化する形で進むと予測する。FF金利は当面、長期的に到達すると見込まれる水準を下回るレベルで推移する可能性がある。ただ、FF金利の実際の上がり方はデータが伝える経済見通し次第である。

米機関債と住宅担保証券の償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する政策を維持する。この政策はFF金利が正常の水準に戻るまで維持する。

なお、今回の決定は9人のメンバーの賛成によるもので、1名のメンバーが現在の水準を維持すべきと反対しました。

今回の利上げの結果については、市場では大方の予想通りと受け止めたことや原油先物相場が上昇したことなどで、ダウ価格は113ドル高となりました。

4.トランプ大統領の新年度予算案とその評価
トランプ大統領は315日に2018会計年度(201710月―20189月)の予算案を発表しました。連邦予算全体の規模は約4兆ドルですが、今回は裁量的歳出約1兆ドルを中心に、軍事支出10%または540ドルを増加させました。そので、今年度防衛なプログラムに250ドルを追加し、戦闘業務50ドルを追加するようめました。また、135ドルは航空機、ミサイル、および船舶増強てています。加えて、国土安全保障省今年度予算には30ドルを要請し、その一部はメキシコとの国境建設するための資金まれています。トランプは今年度国境壁建設15ドルを承認することを議会要請し、2018年度には26ドルの資金提供することを求めています。

一方、削減面ではEPAから31%または26億ドルをEPAから削減することを提案しています。その中には貧困層への暖房費を助けるプログラムの削減及び廃止、地方自治体への廃水処理の支援、アラスカ州のような農村部での航空旅費補助などのプログラムの削減が含まれています。また、国務省の資金調達および他の国際プログラムの28%または109億ドルを削減することを要請しています。その他の任意削減には、HUDのコミュニティ開発助成金および20以上の教育省プログラムに対する資金が含まれています。更に、公的放送、芸術および地域プログラムのための連邦資金に依存している19の独立機関に対する資金の廃止が提案されています。

今回の予算案の評価として、EPAの削減は最大規模であるため、清浄水及び汚染関連の規制プログラムが大幅に減少することが懸念されています。また、国務省に対する大幅な予算削減は、国際地域社会及び海外援助プログラムの減少に繋がる為、米国の外交・対外政策に大きなマイナスの影響も予想されます。議会の反応は様々ですが、民主党は防衛費に多大な予算が増加され、貧困者の援助プログラム及び、医学、科学、その他の研究プログラムが削減されていることを批判しました。加えて、環境及び気候変動プログラムを意図的に削減するためEPAへの予算を大幅に減少している予算案を支持していません。一方、一部の共和党は、彼らがエンタイトルメントと呼ぶ国内プログラムが十分削減されていないと指摘しています。同時に、連邦政府の赤字減少を強調する一部の共和党議員はトランプ氏の予算案は逆効果であり、予算調整に権力のある議会が最終的に大幅に修正する必要があると主張しています。

5.トランプ政権によるオバマケア見直し法案の撤回とその影響
トランプ大統領が選挙公約に掲げ、共和党が過去7年間廃止を目指して取り組んできたオバマケアの代替法案(ライアンケア)について、324日に下院本会議の採決を予定していました。しかし、共和党内に反対論が根強く、可決に必要な216票の得られる見通しがなかったことで、法案が撤回されました。当初、この法案の成立を目指したライアン下院議長は24名近い反対者がいるとされた保守派のFreedom Caucus (自由議員連盟:元々はテーパーティ議員連盟とされていた)に対して一部の修正するなどして話し合いを続けたものの成功せず、トランプ大統領自身も彼らの説得に乗り出しましたが、受け入れらませんでした。反対の議員は最終的には一部の修正に反発したリベラル派の議員も反対に回ったことから、当初を上回る356名近い議員にも達したとも言われています。

今回のライアン法案について議会予算局が10年後には2400万人が無保険者となることを予想するなど、米国民の賛成は17%程度にすぎないと言われるほど、支持率が低いものでした。また、仮に下院で成立しても、上院では成立する可能性が殆ど無いというものでした。特に、オバマケアによって恩典を受けている米国民はラストベルトの年配工場労働者などのトランプ支持者も含めて多く、彼らは共和党議員が地元でタウンホール会合を開くと強く反対していたことなども影響しました。

今回のオバマケア見直し法案の撤回の影響は、トランプ政権にとっても極めて深刻と見られています。選挙公約であった大幅減税を含む税制改革や大規模インフラ投資も、早急に実現する可能性は低く、118日のトランプ政権成立によって作り出されたトランプ相場が今後は調整局面となって不安定度を増していくことも予想されます。

6.オランダの下院選挙結果
英国のEU離脱や米国でのトランプ政権の誕生で、注目されていたオランダの下院選挙は315日に行われました。選挙前には、極右で反移民とEU離脱を掲げるウイルダース党首の自由党が議席の倍増を達成するのでないかと見方がありましたが、結果を見ると、ルッテ首相が率いる中道右派の自由民主党が議席数を41議席から33議席へ8議席減らしたものの、引き続き第1党を維持しました。一方、自由党は12議席から20議席へ8議席伸ばし、第2党となりました。また、連立政権を組んでいた労働党は38議席から9議席と大幅に議席数を減らしました。これにより、与党の自由民主党が連立政権を組むことに成功する限り、オランダは引き続き、EUの当初メンバーとして今後とも重要な役割を果たしていくことになります。但し、自由党が大きく躍進した影響は大きく、政権与党は今後、従来よりは右寄りの政策を導入せざるを得ないのではないかと見られます。

7.英国のEU離脱通知
英国のメイ首相は329日にEUに対して離脱を通告しました。これにより、英国とEUとの正式な離脱交渉が始まりますが、交渉期間は20193月までの2年間で、双方の意見の差は大きく、難航が予想されています。英国としては離脱しても、EUとの自由貿易協定を締結を望んでいますが、EU側には既存メンバーの維持の観点から、強い反対意見があります。一方、EU側は交渉の優先事項として、英国が離脱決定前にコミットした最大600億ユーロの分担金の支払いを求めています。いずれにしても、英国は2年以内に合意に達しなければ、EUメンバーとして享受してきたヒト、モノ、金融、サービスの移動の自由を失うばかりでなく、関税が引き上げられることになり、致命的な痛手になる恐れもあります。

      (201741日:  村方 清)

 

 

Wednesday, March 1, 2017

トランプ相場が続く米国市場












 
12月の株式市場

2月の株式市場はトランプ政権の経済政策に対する投資家の過剰な期待から29日以降12日間連続で上昇(1987年の記録に並ぶ)、上昇率も4.9%に達しました。主要な動きは以下の通りでした。

21日:アップルの四半期業績が好調であったことやISMの製造業景況感指数も市場予想を大幅に上回るものだったが、FOMCが現状維持を決めたことで買いが鈍り、ダウは27ドル高0.14%増加)。
23日:米政府発表の12月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比227,000人増で、市場予想の175,000人増を大きく上回ったこと(失業率は4.8%に上昇)及びトランプ大統領が金融規制の見直しを指示する大統領令に署名したことで、金融株が大きく上昇、187ドル高(0.94%増加)。
27日:米企業の業績改善から買いが優勢だったが、原油安を受けて伸び悩み、38ドル高(0.19%増加)。
28日:トランプ政権の政策運営の不透明感から金融株に売りが出て、36ドル安(0.18%減少)。
29日:米航空大手幹部との会談でトランプ大統領による減税などの税制改革の言及があったとの報道から、景気や企業業績の押し上げ期待から、118ドル高(0.59%増加)。
210日:トランプ政権による減税など経済政策への投資家の期待が続いていることや原油先物相場の上昇でエネルギー株が買われ、97ドル高(0.48%増加)。
213日:トランプ政権の減税措置や金融規制緩和への期待から、143ドル高(0.70%増加)。
214日:イエレン連銀議長の上院銀行委員会での証言で今後数回のFOMC会合で追加利上げの可能性を示唆したことから、利上げで収益改善が期待される銀行株が買われ、92ドル高(0.45%増加)。
215日:1月の米小売売上高は前月比0.4%増、消費者物価指数も前月比0.6%上昇市場予想を上回り、米景気の回復が続いているとの見方で、107ドル高(0.52%増加)。
221日:ウォールマートやホームデポなどの小売大手の決算が好調であったことや原油高を背景に石油株にも買いが優勢で、119ドル高(0.58%増加)。
222日:1月の中古住宅販売件数が市場予想より増加したこと、ダウ・ケミカルとの合併を発表したデュポンが欧州当局の審査通過で3%強の上昇となり相場を押し上げ、33ドル高(0.16%増加)。
223日:原油高とトランプ政権の経済政策への期待で、35ドル高(0.17%増加)。
227日:28日のトランプ大統領の議会演説への期待から、16ドル高(0.08%増加)。
228日:トランプ大統領の議会演説を前に利益確定の売りが強く、25ドル安(0.12%減少)。ダウ平均は昨日まで12日間連続の最高値更新。月間ベースで2月は4.9%上昇。

2.米国の雇用状況

米労働省が23日に発表した2月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比227,000人の増加で、市場予想の175,000人増を大きく上回りました。11月の雇用者数の確定値は164,000人で40,000人の減少、12月の改定値は157,000人で1,000人の増加で、合計として39,000人の減少となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者の平均増加数は183,000人で、完全雇用に近い水準であり堅調な増加と見られています。なお、1月の失業率は4.8%で、0.1%悪化しました(広義の失業率は9.4%0.2%の悪化)。労働参加率は62.9%で、前月比0.1%増加しました。1月の時間当たり賃金上昇率は0.1%増加で、前年同期比で2.5%増に留まりました。部門別では小売業が45,900人の増加、建設業が36,000人の増加、製造業も5,000人の増加となりました。

3.FOMCの現状維持決定とイエレン議長の議会証言

1月31日-2月1日にFOMCが開催されましたが、金融政策の現状維持を決定、追加の利上げを見送りました。会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は緩やかなペースで拡大を続けた。た。雇用増は依然好調で、失業率も低水準を維持している。家計支出の緩やかに伸びているが、企業の設備投資は依然弱い状態が続いている。インフレ率はこの数四半期上昇したが、FOMCの長期目標である2wを下回る水準で推移している。

FOMCは法律で定められた雇用の最大化と物価安定の実現という2大使命を達成することに努める。FOMCは金融政策の緩かな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大し、労働市場の状況も更に改善していくものと予測している。インフレ率も短期的に低く留まるが、一時的な影響が消え、労働市場が力強さを増すにつれ、中期的に2%に向かっていくものと予測している。

景気見通しのリスクは短期的にほぼ均衡している。FOMCはインフレ率や世界経済と金融市場の動向を引き続き注視する。

こうした経済見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)の誘導目標を0.500.75%に据え置くことを決定した。FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化と物価上昇率2%という目標との比較で経済情勢の実績と見通しを評価していく。FOMCは今後の経済情勢がFF金利の緩やかな引き上げを許すような形で進むと予測している。FF金利は当面長期的に通常と見られる水準以下に維持される可能性が高い。但し、実際のFF金利の上がり方はデータが伝える経済見通し次第だ。

米機関債と住宅担保証券の償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する政策を維持する。この政策はFF金利が通常の水準に戻るまで維持する。

なお、今回の決定は10人のメンバーの全員賛成によるものであった。

イエレン連銀議長は14日と15日に、議会ので証言に出席しました。イエレン議長の現状説明はFOMC会合での声明文とほぼ同じ内容でしたが、質疑応答の主要なやり取りは以下のようなものでした。

① 連銀のバランスシートの改善
―金融正常化の方針の中で、政策金利が一定の水準に達した時点で、国債やMBSの再投資のを行う。

最終的には国債のみの保有とする。また、現在、短期の政策金利の調整が経済に与える影響について十分と考えており、バランスシート運営を今後金融政策手段として活用することは消極的にならざるをえない。

② テーラールールの適用性
テーラールールの適用は米国の実質金利が2%以上であることを前提にしており、現在の米国のように0%程度であれば、米国経済には不適切であると思われる〈注〉。
(注)テーラー教授の指摘は、グリーンスパン議長当時、金利引き上げが必要であったにも変わらず、長期に低金利政策を維持した結果、リーマン破綻な度に見られる住宅不動産バブルによる住宅向モーゲージローン証券化の行き過ぎが生じたとしている。

③ トランプ大統領のドッド・フランク法の見直し
イエレン議長はドッド・フランク法の設立により、大手金融機関の資本力が強化されたことは評価している。一部の議員はコミュニティバンクやクレジットユニオンが大手の金融機関と同じような不適切な規制を受けてきたと批判している。

④ トランプ政権の経済政策
イエレン議長は直接、トランプ政権の経済政策にコメントすることは避け、トランプ政権の経済政策には長期的に経済成長を高めるための生産性上昇を促す政策が見られないことを指摘している。

4.トランプ大統領の議会演説

トランプ大統領は28日に米議会上下両院本会議で、就任後初めての議会演説を行いました(通常、大統領は1月に一般教書演説を行うが、新たに就任した大統領は演説が2月にずれるのが慣行)。

内容的にはオバマ前大統領の時のような自由世界のリーダーとしての理念的な提言は皆無で、120日の大統領就任の際の米国第一主義の繰り返しでした。国内的には従来から主張してきた規制緩和と減税による米国経済の成長促進を掲げ、対外的には米国の利益優先の保護主義の正当性の主張でした。これに加えて、国防費の大場増加と官民の資金による約1兆ドルのインフラ投資でした。トランプ大統領は法人税を35%から20%を下げるような減税を歴史的な改革を行うと言っていますが、小さな政府を前提とした1981年のレーガンの税制改革が与えたような衝撃はなかったように思います。また、当時の米国の財政状況と異なり、米国の累積財政赤字額が20兆ドルを超えるような現在の状況で、大幅な減税が可能なのかという疑問が生じます(年間赤字は、オバマ前大統領の下で2009年の約16000億ドルから2016年の約6000億ドルの大幅削減に成功)。さらに、約1兆ドルのインフラ投資についても、民主党のクリントン候補は財源を示したものの、トランプ大統領は未だにそれがなく、財政規律を重視する議会の共和党保守派がどこまで認めるかは明確ではありません(採算性が確実でないインフラ投資に民間資金がどこまで集まるかもよくわかりません)。最後に、留意すべきはレーガン大統領の下で行われた大幅減税とソ連に対抗すべく取られた巨額な国防費増大が米国の財政赤字を急激に悪化させ、レーガン大統領は2期目の1986年の税制改正で多くの減税措置を廃止せざるを得なくなったことです。

いずれにしても、米国の株式市場は118日のトランプ候補の勝利後、ダウベースで約2500ドルの13.5%の上昇を示してきましたが、トランプ政権の具体的な政策効果というより、投資家の過剰な期待が株価を異常に引き上げているように思います。

         (201731日: 村方 清)

 

 

Wednesday, February 1, 2017

トランプノミクスに揺れる株式市場

 
1.1月の株式市場
1月の株式市場はトランプ新大統領の経済政策(トランプノミクス)への期待から、20日の就任直後までは好調で、一時ダウ価格が史上初めて20,000ドルを超す状況になりました。しかし、その後、トランプ政権の保護主義的政策や移民規制などの措置が発表されると、
大きな下落調整が起きました。主要な動きは以下の通りでした。
 
13日:ISM12月製造業景況感指数や11月の建設支出が市場予想を上回ったことで、投資家の米国景気への期待が高まり、ダウ価格は119ドル高(0.60%増加)。
14日:米景気の先行きへの楽観的な見方から、遅れが見られた消費関連株に買いが優勢で、60ドル高(0.30%増加)。
15日:米金利低下から金融株が売られたことや年末商戦の売り上げが低調だった小売株の一部も急落したため、43ドル安(0.21%減少)。
16日:米政府発表の12月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比156,000人増で、市場予想の180,000人増を下回ったものの(失業率も4.7%に上昇)、11月の雇用数が大幅増で賃金上昇率も高かったことで、米景気拡大への期待から、65ドル高(0.32%増加)。
19日:原油先物相場が下落したことや金利が低下したことで、石油株や金融株が下落し、76ドル安(0.38%減少)。
111日:トランプ次期大統領の記者会見で一時大幅下落することもあったが、原油先物相場の上昇と企業業績回復への期待から、99ドル高(0.50%増加)。
112日:前日のトランプ次期大統領の記者会見により、アジアの欧州の株価指数が下落したことやトランプ氏の製薬会社の価格決定の仕組み批判で、63ドル安(0.32%減少)。
117日:トランプ次期大統領がドル高に懸念を示したことや議会共和党が検討している予算案を批判するなど、次期政権の政策の不透明感から、59ドル安(0.30%減少)。
119日:20日のトランプ大統領の就任式を控え、持ち高調整や利益確定の売りが優勢で、
72ドル安(0.37%減少)。
120日:トランプ大統領の米国第一主義を繰り返す就任演説で伸び悩む状況があったが、米主要企業の業績改善への期待から、95ドル高(0.48%減少)。
123日:トランプ政権の政策展開が見通しにくいことで、目先の利益確定の売りが優勢で、27ドル安(0.14%減少)。
124日:IT株を中心に四半期決算が好調だった銘柄が買われ、113ドル高(0.57%増加)。
125日:米国主要企業の四半期業績が好調であることやトランプ政権の経済政策への期待から、156ドル高(0.78%増加)。ダウは史上初めて20,000ドル台を記録。
127日:161012月期のGDPが前期比年率1.9%増で市場予想の2.2%に届かなったことや前日まで最高値を更新したから、利益確定の売りが優勢で、7ドル安(0.04%減少)。
130日:トランプ大統領が7か国のテロ懸念国からの入国を制限する大統領令に署名、米国内外で反発や混乱が広がり、売りが優勢で、123ドル安(0.61%減少)。
131日:エクソンモービルなど米主要企業の四半期業績が不調であったことやトランプラリーで大きく上昇したJPモルガンなどが大幅下落調整で、107ドル安(0.54%減少)。
 
2.米国の雇用状況
米労働省が16日に発表した12月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比156,000人の増加で、市場予想の180,000人増を少し下回りました。しかし、10月の雇用者数の確定値は135,000人で7,000人の減少、11月の改定値は204,000人で26,000人の増加で、合計として19,000人の増加となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者の平均増加数は165,000人でしたが、完全雇用に近い水準であり堅調な増加と見られています。なお、12月の失業率は4.7%で0.1%悪化しました(広義の失業率は9.2%0.1%の改善)。労働参加率は62.8%で、前月比0.1%増加しました。12月の時間当たり賃金上昇率は0.4%増加で、前年同期比で2.9%上昇となりました。部門別では製造業が過去4ヶ月間の減少から17,000人の増加で、小売業も6,000人の増加となりました。一方、建設業は過去3ヶ月間の増加から3,000人の減少となりました。
 
3.12月のFOMCの議事録要旨
14日に公表された12月のFOMC議事録要旨によれば、政策金利を0.25%引き上げたのは2大目標である雇用と物価について、前進を続けているという十分な証拠が得られたことで一致したとしています。また、次期政権の財政政策やその他の経済政策の時期、規模、内容によっては経済の不確実性があり、景気の上振れリスクが高まったと指摘しています。
同時に、ドル高や一部の海外諸国の金融面での脆弱性がもたらす下振れリスクにも注視が必要としました。
 
4.英国の単一市場離脱表明
英国のメイ首相は17日にEUからの離脱について、部分的な加盟は目指さないとして、新しいパートナーシップを求めることを明言しました。英国与党内では移民規制を優先し、単一市場へのアクセスを犠牲にしてもよいとするハード・ブレグジット派と単一市場へのアクセス維持を最優先させるソフト・ブレグジット派の対立がありましたが、今回の決定はハード・ブレグジットを選んだことになります。しかしながら、メイ首相が目指す英国に有利な新たな自由貿易協定が締結できるかは現時点では全く不透明です。もし、EUが英国に安易に妥協すれば、現在のEUメンバーの中にも、同じような離脱を目指す国が出ることにもなりかねず、EIとしてはそうした動きを防ぐためには、強い態度で英国との交渉に臨むことになると見られます。なお、24日に英国の最高裁はEUからの離脱通知には英国議会の承認が必要との判決を下しました。これによりメイ、労働党を中心に野党に反対の多いEU単一市場離脱について、当面議会対策を本格化させる必要が出てきました。
 
5.トランプ新政権の米国第一主義(具体的成果を求める米国優先の保護主義)
120日に第45代米国大統領に就任したトランプ氏は選挙戦で訴えた米国第一主義を進めて、貿易、税制、移民、外交に関するあらゆる決定は米国の労働者や家族の利益になるようにすると宣言しました。また、過去何十年間も、米国は自国の産業を犠牲にして、外国の産業を潤してきたと過去の過ちを強調、今後は新しいビジョンの下に、米国製品を買い、米国人を養うという2つのルールを通じて、強い米国を再生するとしました。また、今回の政権交代はワシントンから米国民に権力を移すことにあるとも強調しました。そして、翌日にはカナダやメキシコとの間で進めてきたNAFTAの見直しを宣言、23日にはTPPへの永久離脱の大統領令に署名、今後は二国間㋔FTA交渉に移すことを表明しました。
 
トランプ新大統領の就任演説は彼の選挙公約であったロストベルトの白人工場労働者の雇用増加のために、国内の製造業の復活を目指したもので、このためには規制緩和と税制優遇を行うとするものです。この背景には米国が中国や日本との貿易収支で其々約3500億ドルや700億ドルの巨額な貿易赤字を抱えていることに対して相手国への大きな不満があり、この問題の解決には2国間のFTA交渉が不可欠との判断があると見られています。しかしながら、米国の鉄鋼業や自動車産業など労働集約的産業の競争力の低下は産業の進化に必要な技術移転が国境を越えて進む中で、米国と他の国々との労賃の違いが最大の要因となっています。そうした労賃の違いを無視して、米国での生産を増産しようとすれば、米国の国際競争力を一層低下させ、かつ最終的に米国消費者により大きな負担を強いることを軽視しているように思います。加えて、批判を受けた貿易相手国からの輸入に高い関税を課ければ、米国からの輸出についても相手国からの高い関税を課けられ、相互間の貿易が縮小していく事態になりかねません。
 
共和党の予備選挙から、トランプ大統領の主張を聞いてきて、国の発展に伴う製造業からサービス産業へのシフトといった産業構造の転換についてどの程度十分な知識があるのかに疑問を持たせるものです。同時に、米国の国内の市場が成熟化すれば、経済成長の高い海外市場を求め、生産体制をコストの低い地域に移すことも経済的合理性に合致しているグローバル化や自由貿易の利点について過小評価しているように思われます。大衆扇動家として、ロストベルトの白人労働者の支持を得るべく、政府による保護主義で、もはや成長産業と言えないタイプの製造業の復活を図ろうとするこ試みは米国だけでなく、世界経済の健全な発展にとっても大きな障害になってくるものと思われます。
           (201721日: 村方 清)
 
 

Monday, January 2, 2017

連銀の利上げとトランプ相場への影響
















1.12月の株式市場
12月の株式市場は11月8日の大統領選挙後のトランプ・ラリーが12月中旬まで続きました。しかし、連銀が利上げを決定した14日以降は年末にかけて、調整の動きが目立つようになりました。主要な動きは以下の通りでした。

12月1日:OPECの減産合意による原油高と長期金利の上昇で、エネルギー関連株や銀行株が相場を牽引し、68ドル高(0.36%増加)。
12月2日:米政府発表の11月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比178,000人増で市場予想の175,000人増とほぼ同水準で(失業率は4.6%に低下)、長期金利の上昇が抑えられ、金融株を中心に利益確定の売りが優勢で、22ドル安(0.11%減少)。
12月5日:ゴールドマンサックスなど大手金融機関の目標株価引き上げが伝わったことから、金融株を中心に株価の上昇があり、46ドル高(0.24%増加)。
12月7日:トランプ次期大統領による規制緩和や景気刺激策への期待が、遅れていた通信株などの買いが勢いを得て、298ドル高(1.55%増加)。
12月8日:欧州中央銀行(ECB)が量的緩和策の9日月延長を決め、欧州株式市場が上昇、米国株にもトランプ・ラリーに出遅れたIT関連株に買いが入り、65ドル高(0.33%増加)。
12月9日:欧州株式市場が上昇したことに加え、遅れ気味であった消費やヘルスケア関連株を中心に買いが優勢となり、142ドル高(0.72%増加)。5日連続で最高値更新。
12月12日:10日にOPEC加盟国と非加盟国が減産で合意したことから、原油先物相場が一時1バレル54ドル台まで上昇、石油関連株を中心に買いが優勢で、40ドル高(0.20%増加)。
12月13日:欧州市場が金融株を中心に上昇、また出遅れていたIT株も買いが優勢で、120ドル高(0.58%増加)。
12月14日:FOMCが0.25%の利上げを決定、為替相場の影響を受けやすい素材関連、輸出関連企業を中心に売りが広がり、金融株も長短の差が少なくなったことから下落、119ドル安(0.60%減少)。下落幅は10月11日以来の2ヶ月ぶりの大きさ。
12月15日:長期金利が大きく上昇し、金融株に買いが優勢で、60ドル高(0.30%増加)。
12月19日:上げの鈍かったハイテク株が買われたことや長期金利の低下でREITや公益事業株の買い戻しが入り、40ドル高(0.20%増加)。
12月20日:イタリアの銀行救済策が決定したことから欧州の金融株も上昇、米国でもゴールドマンサックスやアマゾンなどのインターネット通販が上昇、92ドル高(0.46%増加)。
12月21日:20日に過去最高値をつけたことから、利益確定の売りが優勢で、33ドル安(0.16%減少)。
12月22日:欧州やアジアの株安から、高値警戒感が意識され、23ドル安(0.21%減少)。
12月27日:米国の消費者信頼度指数や住宅価格指数などは良好であったが、高値警戒感も意識され、11ドル高(0.06%増加)。但し、ハイテク株の多いナスダックは最高値更新。
12月28日:20,000ドルを間近に上値が重くなり、銀行株を中心に利益確定売りが優勢となり、111ドル安(0.56%減少)。
12月30日:年末で持ち高調整や利益確定の売りが優勢で、57ドル安(0.29%減少)。年間での上昇率は13.4%。

2.米国の雇用状況
米労働省が12月2日に発表した11月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比178,000人の増加で、市場予想の175,000人増とほぼ同水準となりました。しかし、9月の雇用者数の確定値は208,000人で11000人の増加、10月の改定値は142,000人で19,000人の減少となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者数の平均増加数は176,000人で、目標の200,000人を下回りました。なお、11月の失業率は4.6%で0.3%改善しました(広義の失業率は9.3%で0.2%の改善)。労働参加率は62.7%で、前月比0.1%減少しました。11月の時間当たり賃金上昇率は0.1%減少で、前年同期比で2.5%上昇となりました。部門別では建設業が前月に続き、19,000人の増加となりましたが、小売業は8,300人の減少となりました。製造業が前月に続き、更に4,000人の減少となりました。

3.イタリアで改憲法案が否決
今年7月に英国が国民投票でEUからの離脱を決め、11月には米国の大統領選挙で反エスタブリッシュメントのトランプ候補が勝利したのに続き、12月4日にイタリアで上院の権限を大幅に制限する憲法改正法案の国民投票で反対が約60%となり、レンツィ首相が辞意を表明しました。

改憲案は上院の定数を315人から100名に減らすと同時に、内閣承認や立法の権限を大幅に制限する内容でしたが、欧州連合懐疑派の5つ星運動などの野党が国会機能低下になると強く反対、財政規律の重視で景気低迷の影響を受けた多くの国民も野党に同調、憲法改正案は否決となりました。これにより、レンツィ政権が進めてきた改革路線が後退、政治不安が銀行の再建計画に支障が生じる恐れも出てきました。

12月11日に、イタリアのマッタレッラ大統領はレンツィ首相の後任にジェンティローニ外相を首相に指名、国内銀行の不良債権問題などに取り組みことになりました。

イタリアの反EUの動きは右派勢力が台頭する来年3月のオランダの議会選挙や4-5月のフランス大統領選挙にも悪影響を与える可能性が出てきました。

4.FOMCの利上げ決定
12月13-14日にFOMCが開催されましたが、1年ぶりに0.25%の利上げを全会一致で決定しました。会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。経済活動は今年中盤移行緩やかなペースで拡大、労働市場も引き続き力強さを増した。雇用増もここ数ヶ月堅調で、失業率も低下している。家計支出の緩やかに伸びているが、企業の設備投資は依然弱い状態が続いている。インフレ率は幾分高まったが、エネルギー価格及びエネルギー以外の輸入価格の低下もあり、FOMCの長期目標である2%wを下回っている。

FOMCは法律で定められた雇用の最大化と物価安定の実現という2大使命を達成することに努める。FOMCは金融政策の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大し、労働市場の状況も更に改善していくものと予測している。インフレ率も短期的に低く留まるが、一時的な影響が消え、労働市場が力強さを増すにつれ、中期的に2%に向かっていくものと予測している。FOMCは引き続きインフレ率や世界経済と金融市場の動向を注視する。

FOMCは労働市場情勢と物価上昇率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)の誘導目標を0.50-0.75%に引き上げることを決定した。FOMCはFF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、雇用の最大化と物価上昇率2%という目標との比較で評価ししていく。インフレ率が現時点で2%に達していないことから、目標達成に向けた実際の進捗と予想を注意深く観察する。FOMCは経済情勢がFF金利の緩やかな引き上げのみを許すような形で進むと予測している。FF金利は当面、FOMCが長期的に通常と見る水準以下に維持される可能性が高いが、実際のFF金利の上がり方はデータが伝える経済見通し次第となる。

米機関債と住宅担保証券の償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する政策を維持する。この政策はFF金利が通常の水準に戻るまで維持する。

なお、今回の決定はイエレン議長を含む10人のメンバー全員一致による。

今回の会合で0.25%の利上げを行なったのは7-9月期の経済成長が2年ぶりの高さとなったことや失業率も4.6%という9年ぶりの水準まで下がったことなどからして市場の予想通りとされています。しかしながら、注目されるのは今後の利上げ見通しについて、FOMCメンバーが2017年に3回、2018年に年3回を織り込んだことです。前回の9月時点の見通しでは17年が2回、18年が3回であっただけに利上げベースが加速する可能性があることを示しています。トランプ政権のインフラ投資などの財政拡張政策によりインフレ圧力が強まることが最大の要因と見られますが、利上げは一方でドル高となって米国企業の国際競争力を低下させる懸念もあります。また、FRBの利上げは世界のマネーを米国に向けさせる半面、発展途上国から資本流失や通貨安のリスクを拡大させる恐れもあります。

なお、12月14日はFOMCの利上げ決定後、為替相場の影響を受けやすい素材関連、輸出関連企業を中心に売りが広がり、金融株も長短の差が少なくなったことから下落、119ドル安(0.60%減少)となりました。

5.トランプ・ラリーに見る投資家の過剰な期待
11月8日の大統領選挙でトランプ候補が当選して以来、企業減税と規制緩和、更に大規模なインフラ投資への大きな期待感から、米国の株式市場は8%以上の上昇、しかも長期金利も上昇するという動きが続いています。トランプ候補の主張は1980年に当選したレーガン大統領の政策に近く、当時も株式市場が大きく上昇したこともあり、レーガン相場の再来と言う言葉も聞かれます。

しかし、レーガン相場は1970年代の超高金利現象下での低迷相場からの回復過程であったのに対し、現在は2009年3月のボトムから既に2.5倍上昇し、経済成長も上昇局面で、失業率も最低水準にあり、連銀は12月のFOMCで示唆したように2017年は利上げのペースを加速させる可能性があります。こうした時に、大規模な財政支出による景気刺激策はインフレと財政収支の赤字拡大を招くことになりかねません。この点、トランプ・ラリーと言われる現象は投資家による過剰な期待が株式相場を高騰させている側面も否定できません。これに関連して、株の動きを実況放送しているCNBCのゲストに出演したフィシャー・ダラス連邦銀行前総裁がレーガン大統領の時は就任前に8.5%上昇したものの、就任後は1年間で様々な問題が発生し、20%近い下落となったことと述べていました。トランプ新政権にも同様なことが起こりかねないリスクを考えておくことが必要ではないかと思われます。
         (2017年1月2日:村方 清)


Thursday, December 1, 2016

トランプ・ラリーに見られる過熱相場の動向



















1.11月の株式市場
11月の株式市場は11月8日の大統領選挙日を控えた11月6日までは警戒感から下落基調でした。しかし、矛盾の多い大幅減税と大型インフラ投資を掲げるトランプ候補が当選すると、投資家の過剰な期待から上昇基調に転じ、後半には連日最高値の更新となりました。主要な動きは以下の通りでした。

11月1日:11月8日予定の大統領選挙で政策展開が理解しにくい共和党のトランプ候補がリードの一部報道で、市場不透明感への警戒感から、ダウ価格は105ドル安(0.58%減少)。
11月2日:1-2日のFOMC会合で、政策金利の据え置きを決定したが、年内の利上げの可能性が意識されたことや大統領選の不透明感から、77ドル安(0.43%減少)。
11月4日:米政府発表の10月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比161,000人増で市場予想の175,000人増を下回ったものの(失業率は4.9%に低下)、年内のFRBの追加利上げの可能性はあるとの見方が強く、更に大統領選の不透明感から、42ドル安(0.24%増加)。
11月7日:11月5日にFBIが私的メール問題でクリントン候補を訴追しない方針を示したことから、経験豊かなクリントン候補が大統領選挙で勝つとの見方が高まり、8日間連続の下落基調が変化、原油先物相場の上昇も加わり、大幅上昇の371ドル高(2.08%増加)。
11月8日:クリントン候補が優勢との見方が続いていることから、73ドル高(0.40%増加)。
11月9日:大統領選で勝利したトランプ候補の政策の恩恵を受けると見られる金融株や製薬株を中心に買いが優勢となり、257ドル高(1.40%増加)。
11月10日:昨日に続き、金融株や製薬株が大幅な上昇で、218ドル高(1.17%増加)。
11月11日:原油先物相場は下落したものの、ディズニーやシスコシステムズなどが上昇し、相場を支え、40ドル高(0.21%増加)。週間の上昇率は5.4%で、5年11カ月振り。
11月15日:原油先物相場上昇による石油株の買いやIT株の買戻しで、54ドル高(0.29%増加)。
11月16日:トランプ候補の政策の恩恵を受けると見られている金融株を中心に利益確定の売りが優勢で、55ドル安(0.29%減少)。
11月17日:朝に発表された消費者物価指数は前月比0.4%上昇、10月の住宅着工件数も前月比25.5%増で米景気の好調さが伝えられ、連銀議長の議会証言での近い将来の利上げも予想されたものであったことから、36ドル高(0.19%増加)。
11月18日:株価指数が連日過去最高圏で推移しており、利益確定売りが出て、36ドル安(0.19%減少)。
11月21日:次期トランプ政権の経済政策の期待から、89ドル高(0.47%増加)。
11月22日:トランプ政権への期待から、67ドル高(0.35%増加)。ダウは19000ドル突破。
11月23日:11月のPMIや消費者態度指数など経済指標が改善されたことやトランプ政権の経済政策への期待から、59ドル高(0.31%増加)。
11月25日:トランプ政権と年末商戦への期待から、69ドル高(0.36%増加)。
11月28日:前週4日連続で最高値を更新したことから、30日のOPEC総会前に利益確定の売りが優勢で、54ドル安(0.28%減少)。
11月29日:7-9月期のGDP改定値が前期比年率3.2%で、市場予想を上回ったことや大手医療保険のユナイテッドヘルスグループの四半期業績が好調で、24ドル高(0.12%増加)。
11月30日:OPECが30日の総会で8年ぶりに減産が合意したことから、原油先物相場が急上昇し、石油株を中心に買いが広がったが、取引終了時にかけて利益確定の売りが優勢となり、2ドル高(0.01%増加)。11月のダウ価格上昇率は5.4%で今年3月以降最高の伸び。

2.米国の雇用状況
米労働省が11月4日に発表した10月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比161,000人の増加で、市場予想の175,000人増を下回りました。しかし、8月の雇用者数の確定値は176,000人で9,000人の増加、9月の改定値は197,000人で35,000人の増加となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者数の平均増加数は178,000人で、目標の200,000人を下回りました。なお、9月の失業率は4.9%で0.1%改善しました(広義の失業率は9.5%で0.2%の改善)。労働参加率は62.8%で、前月比0.1%減少しました。10月の時間当たり賃金上昇率は0.4%増加で、前年同期比で2.8%上昇となりました。部門別では建設業が11,000人、ヘルスケア業が39,000人の増加となりましたが、小売業は1,100人の減少となりました。製造業が前月に続き、更に9,000人の減少となりました。

3.FOMC会合及び連銀議長の議会証言
11月1-2日にFOMCが開催されましたが、金融政策の現状維持を決定、追加の利上げを見送りました。会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。経済活動は上向いており、労働市場は引き続き力強さを増した。失業率は変化していないが、雇用増は堅調であった。家計支出の緩やかに伸びているが、企業の設備投資は依然弱い状態が続いている。インフレ率は幾分高まったが、エネルギー価格及びエネルギー以外の輸入価格の低下もあり、FOMCの長期目標である2%wを下回る水準で推移している。

FOMCは法律で定められた雇用の最大化と物価安定の実現という2大使命を達成することに努める。FOMCは金融政策の緩かな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大し、労働市場の状況も更に改善していくものと予測している。インフレ率も短期的に低く留まるが、一時的な影響が消え、労働市場が力強さを増すにつれ、中期的に2%に向かっていくものと予測している。FOMCはインフレ率や世界経済と金融市場の動向を引き続き注視する。

こうした経済見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)の誘導目標を0.25-0.5%に据え置くことを決定したFF金利を引き上げる条件は整ってきたと判断しているが、当面(雇用とインフレの)目標に向け、前進を続けることを裏付ける一段の確証を得るのを待つこと決めた。FOMCは今後の経済情勢がFF金利の緩やかな引き上げを許すような形で進むと予測している。FF金利は当面長期的に通常と見られる水準以下に維持される可能性が高い。但し、実際のFF金利の上がり方はデータが伝える経済見通し次第だ。

米機関債と住宅担保証券の償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する政策を維持する。この政策はFF金利が通常の水準に戻るまで維持する。

なお、今回の決定は8人のメンバーの賛成によるもので、2人のメンバーがFF金利の目標レンジを0.50-0.75%に引き上げるべきとして反対しました。

FOMCは9月の会合で年1回の利上げを予定していることを提示していますが、今回については11月8日に大統領選挙を控えており、選挙結果への影響を考慮し、見送ったと判断されます。これにより、利上げの機会は12月13-14日に開催される今年最後のFOMC会合を待つことになります。

11月17日にイエレン連銀議長は上下両院の合同経済委員会で議会証言に質疑応答に臨みました。米国経済の現状について、経済活動が上向きであること、労働市場も改善傾向が続いていること、インフレ率は原油などのエネルギー価格の下落もあり、目標を下回っているが、中期的には目標に向かって進んでいくであろうとの従来の見方を繰り返しました。それと同時に、利上げの条件は整ってきているとして、12月のFOMC会合での利上げの可能性を示唆しました。

また、質疑応答の中で、トランプ候補が掲げた大型インフラ投資について、完全雇用の状況にある米国経済の中で、その必要性に否定的見解を示しました。その一方、長期的な生産性向上に結びつく財政政策は望ましいとの見方を示しました。更に、トランプ候補が撤廃を主張するドッド・フランク法(金融規制改革法)については、金融危機防止には重要で、その法律によって金融機関の経営も自己資本が増加し、安定性が確保されているとして、撤廃に反対を唱えました。

4.英国のEU離脱には議会承認が必要との判決
英国のEU離脱に関連して、市民側が訴えていたEU離脱には議会の承認が必要性について、英国のロンドン高等法院は113日にこれを認め、EUに通知する前に議会承認が必要との判決を出しました。英国政府はこの判決を不服として最高裁に上訴する方針が示しました。最高裁での審理は12月になると見られています。もし、最高裁が同様の判決をした場合、来年3月までに議会承認を得られるかどうかは不透明で、政府としては改めて戦略を立て直す必要に迫られることになります。

5.OPECの減産合意
30日に開催されたOPECの総会で、9月末に合意された総量で日産120万バレルの減産合意に基づき、加盟国の減産割り当てが合意されました。それによると、合意が難しいと見られていたサウジアラビアとイランが其々50万バレルと20万バレルの減産となることが決定されました。OPECとしては加盟国以外のロシアなどにも減産を要請することが伝えられています(ロシアも30万バレルの減産をする用意があることを示唆)。

OPECの減産合意は成立したものの、問題は減産により原油価格が上昇すれば、米国のシュエールオイルの生産が再び活発になることも予想され、原油価格が大幅に上昇することは当面ないものと見られています。

6.トランプ次期大統領の経済政策と過熱状態の株式市場
11月8日の大統領選挙で、事前の予想に反して、共和党のトランプ候補が勝利しましたが、株式市場では今後のトランプ政権の経済政策を見越した動きが始まりました。直後の数日間で大きく上昇したのは、規制緩和が期待される銀行などの金融株と新規薬品を開発する製薬会社株で、10-15%程度上昇しました。その一方、課税強化が予想される海外での生産や販売が大きいアップルなどのIT関連株は軒並み大きく下落しました。この傾向が就任後も続くかについては、規制緩和による悪影響や物価上昇による金利引き上げの動きも見ておく必要があり、見通しがはっきりしません。

トランプ政権の主要経済政策は政権移行100日計画に見られる大幅減税と景気刺激を促進する財政支出にあります。特に企業減税では法人税率を現行の35%から15%に引き上げる計画と言われています。財政支出策では老朽化した道路や橋などの公共事業による約1兆ドルのインフラ投資が中心になると見られます。前者については、両議会の多数派となった共和党の“小さな政府”の考え方に近く、議会の理解も得られるものと見られるものの、後者については財政支出との関連で、政府の財政赤字が巨額になる恐れもあります。なお、前にものべたように、11月17日の議会証言でイエレン連銀議長はトランプ政権の大型インフラ投資に否定的なコメントを述べています。

トランプ政権では新たな財政支出の財源を海外事業活動の大きい企業への課税強化や海外における米軍駐留経費の受入国分担費増額で補い、更にこうした政策で経済成長が加速すれば税収増が望まれると考えているようです。しかし、海外比率の高い企業への課税強化や駐留経費の受入国負担増はいずれも強い反発も予想され、容易ではないのではないかと思われます(民主党のクリントン候補の計画では収益を上げている企業や富裕層に対する増税を公共のインフラ投資の財源としていましたので、財政赤字に与える影響も限られています)。

海外との貿易取引について、トランプ候補はNAFTAがロストベルトの白人労働者の奪ったものであり、見直しの必要があること、TPPも米国民の雇用を奪うものとして、脱退を表明しています。しかしながら、労働集約度の比較的高い鉄鋼製品や自動車などのオールドエコノミーに属する産業については、為替水準や関税率以上に労賃の差が強い影響力を持つものであり、自由貿易協定を廃止して生産工場を発展途上国から米国へ戻そうとすれば、米国の競争力が低下するように思われます。更に、高コストの米国製品を普及しようとすれば、米国の消費者が割高のものを買うことになりはしないとかの疑問が生じます。この点、トランプ候補は、多くの米国企業がIT技術の普及に伴い、労賃の安い発展途上国に生産拠点を移す経済のグローバル化の意味を十分に理解していないように感じられます。また、オールドエコノミーに属する労働集約的な産業の雇用を重視する反面、米国が世界をリードしてきたIT関連や最先端医療など今後の成長が期待されるニューエコノミーを軽視しているようなところがあり、米国の産業高度化が停滞する恐れもあります。

前からも伝えていますが、トランプ政権の政策は1980年に発足したレーガンの第一政権の政策に類似するものがあり、減税とインフラ投資の大幅拡大で財政赤字が急速に拡大、インフレが過熱する恐れがあります。いずれにしても、トランプ政権の主要な経済政策が矛盾の大きな内容を含んでいることを考えると、大統領選挙後に始まったトランプ・ラリーといわれ現象は投資家の過大な期待による投機的動きと言った方がよく、新政権発足後に矛盾点の顕在化により、大きな調整が出てくるようにも思われます。
      (2016121日:村方 清)