Monday, May 1, 2017

国際政治の動きに揺れた株式市場


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
14月の株式市場
4月の株式市場はシリアや北朝鮮の情勢緊張に伴う地政学リスクの拡大によって、後半はフランス大統領選挙の第1回投票結果など国際政治の動きに大きく影響されました。主要な動きは以下の通りでした。

43日:ISM3月米製造業景況感指数が57.20.5低下したことや米新車販売台数も低調で、長期金利が低下し、金融株が売りに出され、13ドル安(0.06%減少)。
44日:トランプ大統領が企業経営者との会合で、金融規制緩和やインフラ投資に言及したことで、景気刺激政策への期待から、39ドル高(0.19%増加)。
45日:3145日のFPMC議事録要旨で、メンバーの多くが年内の縮小開始が適切との見方が伝わったことからの金融株の下落やライアン下院議長による税制改革への時間の必要性発言から、41ドル安(0.20%減少)。
46日:取引終了にかけて金融株が買い戻され、エネルギー株も買われ、15ドル高(0.07%増加)。
47日:米政府発表の3月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比98,000人増と、市場予想の180,000人増を大きく下回ったこと(失業率は4.5%に改善)や米軍によるシリア攻撃で地政学リスクが高まったことで、7ドル安(0.03%減少)。+
411日:シリアや北朝鮮の情勢緊張.から投資家のリスク回避の動きで、7ドル安(0.03%減少)。
412日:シリアや北朝鮮をめぐる地政学リスクの拡大とトランプ大統領のドル高への懸念発言で59ドル安(0.28%減少)。
59ドル安(0.28%減少)。
413日:米軍のアフガン攻撃による地政学リスクの拡大で、139ドル安(0.69%減少)。
417日:米主要企業の四半期決算と景気刺激策への期待から、184ドル高(0.90%増加)。
418日:四半期決算を発表したゴールドマン・サックスやジョンソン・ジョンソンが大きく売られたこと、英国やフランスなど欧州政治の先行きへの警戒感が増し、114ドル安(0.55%減少)。
419日:20四半期減収を発表したIBMが大きく売られたこと、在庫増を反映して原油先物相場の下落から石油株も売られ、更に金融株も軟調で、119ドル安(0.58%減少)。
420日:ムニューシン財務長官などの税制改革に関する発言からトランプ政権への政策期待が再燃たことや金利低下が一服した金融株が上昇し、174ドル高(0.85%増加)。
421日:23日の仏大統領選挙第一回投票を前に結果を見極めたいとの様子見ムードが強く、原油先物相場が1バレル50ドルを割ったことなどから、31ドル安(0.15%減少)。
424日:フランス大統領選の第1回投票で、独立系中道派のマクロン元経済相がトップになり、フランスがEUを離脱する可能性が低下、投資家心理が強気に転じ、216ドル高。
425日:キャタピラーやマクドナルドなど米主要企業の四半期業績が好調であったことや26日に発表されるトランプ政権の税制改革への期待から、232ドル高(1.12%増加)。
426日:トランプ政権の税制改革案の発表があったが、前日までに大幅に続伸した反動で、利益確定の売りが優勢で、21ドル安(0.10%減少)。
428日:四半期決算が不振であったインテルが3.4%下落したことやゴールドマン・サックスなども利益確定売りが出て、41ドル安(0.19%減少)。4月全体で1.3%上昇。

2.米国の雇用状況
米労働省が47日に発表した3月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比98,000人の増加で、市場予想の180,000人増を大きく下回りました。1月の雇用者数の確定値は216,000人で22,000人の減少、2月の改定値は219,000人で16,000人の増加で、合計として38,000人の減少となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者の平均増加数は178,000人で、好調さの目安とされた200,000人を下回りました。なお、1月の失業率は4.5%で、0.2%改善し、20075月以来910か月ぶりの低水準となりました(広義の失業率も8.9%0.3%の改善)。労働参加率は63%で、前月と同じ水準でした。2月の時間当たり賃金上昇率は年率2.7%増加で、前月の2.8%増より減少しました。部門別では建設業が6,000人の増加、製造業も11,000人の増加となりましたが、逆に小売業が29,700人の減少となりました。

3.3月のFOMC会合要旨と今後の見通し
46日に発表された3145日のFOMC会合議事録要旨で、利上げを決定すると同時に、大半のメンバーが経済が予定通りに推移すれば、年内に45千億ドルに拡大したFRBのバランスシートの縮小に着手すべきと考えていることがわかりました。従来、FRBは資産規模の縮小について、金利引き上げが相当程度進んだ段階で、償還が来た国債の再投資を停止するとしてきました。しかし、3月のFOMCFRBはフェデラルファンド金利の誘導目標を年0.751.00%に引き上げ、年内にさらに2回の利上げがあることを示唆しました。この点、市場では6月と9月に利上げして、12月に資産縮小を開始するとの見方が出ています。なお、今回のFOMC会合では、金融市場の状況について、株価は標準的な評価方法と比べ、かなり高いとの警戒感も示されました。

6日の株式市場は、FOMC会合の議事録要旨を受けて、利上げに加え、資産縮小は二重の引き締め圧力となるとの理由で警戒感が強まり、ダウ平均価格は41ドルの下落となりました。

4.トランプ政権の100日間の評価
トランプ大統領は429日に就任100日目を迎えました。トランプ大統領が選挙期間中に掲げた主要な政策は①大幅減税と巨額のインフラ投資、②保護主義的な通商政策、③オバマケアの見直し、④テロリスト国からの入国制限などでしたが、大統領令ではこれらに関する方向性を打ち出したものの、議会の承認を伴う立法や予算措置の面で見ると現時点では何一つ実現されていません。

トランプ大統領が選挙公約に掲げ、共和党が過去7年間廃止を目指して取り組んできた③のオバマケアの代替法案(ライアンケア)について、324日に下院本会議の法案が撤回されたことは今後に大きな影響を与えるように見られます。特に、トランプ政権の最重要政策である大幅減税と巨額のインフラ投資も議会との関係で難航することが予想されます。20日にムニューシン米財務長官が近く税制改革案を発表すると声明したことで株式市場は174ドルの上昇となりましたが、期待先行の感は否めません。特に、トランプ政権が主張する大幅減税は米国の巨額な財政赤字の中で、減税の財源をめぐって、財務省と議会、あるいは議会内部の意見の隔たりは大きく、実現は容易ではないと見られています。これに関連して、ムニューシン米財務長官は26日に税制改革概要を発表しました。内容は連邦法人税率を35%から15%へ引き下げたり、納税者の税率を現行の7段階から3段階にするなど減税を中心とするもので、減税分の詳細な補填財源措置が曖昧であり、LA Times紙は27日に米国の財政赤字を一層深刻化させるものと否定的なコメントを掲載していました。

また、②の保護主義的な通商政策についても、選挙期間中の公約であったNAFTAからの離脱は26日に電話でカナダとメキシコの首脳会談を行った後、当面現行の取り決めを続けることで合意、方針を転換しました。また、日米首脳会談での日米経済対話の新設であったり、米中首脳会談における対中貿易赤字是正の100日計画策定での合意に見られるように、話しあいによって現実的な解決を図る方向で進んでおり、公約通りに進んでいません。

なお、大統領令で実施できるテロリスト国からの入国制限については、2回の大統領令を出しましたが、実施機関との十分な話し合いがなされていなかったこともあり、第1回はワシントン連邦地裁から、第2回はハワイとメリーランドの連邦地裁から憲法違反との理由で、実行を停止されています。

いずれにしても、トランプ政権の100日の実績を見る限り、選挙期間中の公約は殆ど実現されておらず、これまでの政権と比べ、かなり低い評価になっています(現時点での支持率は41%で、不支持率が53%となっています)。。

5.英国の総選挙
英国のメイ首相は18日に2020年に予定していた総選挙を大幅に前倒しする意向を発表、これを受けて英議会下院は19日に賛成が522票、反対が13票で可決しました(68日に実施予定)。今回、メイ首相が意図したのは安定した政権を作った上で、離脱に対するEUへの交渉力を高めることにあるとされています。特に、メイ首相は強硬離脱(ハードクレジット)を主張、完全撤退した上で、関税や貿易協定についてEUと自由貿易協定(FTA)を締結したいとしています。これに対し、最大野党の労働党はFTAを簡単に結べる保証はなく、無関税の取り扱いなどを最優先して交渉し、経済や雇用への悪影響を最小限度に抑えるべきと主張、大きな対立点になっています。現在、メイ首相が率いる保守党は下院の議席が単独過半数を多少上回るだけであり、メイ首相が政権基盤を強化した上で、EUとの交渉に臨みたい意向は理解できるものの、選挙の結果が大きく伸びなければ、メイ首相の求心力が低下する恐れもあり、賭け的なリスクが存在しているように見えます。

6.フランス大統領選挙の結果
423日に行われたフランス大統領選挙の第1回投票は、即日開票の結果、EUとの協調を主張する中道・独立系のマクロン前経済相が23.9%で首位、EU離脱や反移民を掲げる極右政党・国民戦線のルペン党首が21.4%で2位、中道右派で共和党のフィヨン元首相が19.9%で3位、急進左派で左翼党のメランション元共同党首が19.5%で4位、現与党の社会党のアモン前教育相が6.3%で5位となりました。この結果、いずれも過半数に達しなかったため、上位2人の候補による決選投票が57日に行われることになりました。11人が立候補した今回の大統領選挙では、社会党と共和党の2大政党の候補者が決選投票に進めない状況となり、フランスの第5共和政が始まった1958年以来続けられてきた保革2大勢力の対立構図が崩れることになりました。

決選投票では、欧州の統合推進を訴え、移民の受け入れに寛容な姿勢を示すマクロン候補とEU離脱を問う国民投票の実施を掲げ、移民に厳しい制限を課すことを主張するルペン候補の対立構図が明確となり、第1回投票で敗れた他の候補者の票をどれだけ得らえるかが焦点となっています。現時点では、フィヨン候補とアモン候補はいずれもマクロン候補支持を表明していますが、メランション候補は誰を支持するかを明らかにしていません。調査会社イプソスの23日の支持率調査では、マクロン候補が62%、ルペン候補が38%で、マクロン候補が優位に立っています。

マクロン候補の優位性はEU加盟国や外国政府にも安心感を与えていますが、投資銀行出身で政治経験が浅いマクロン候補が大統領になっても、フランスが抱える低成長と高失業の問題(更にアラブ系住民の不満)は深刻であり、容易に解決できるものではありません。この点、選挙後の2日間に渡る株式市場の急激な上昇は投資家の過剰な期待による影響が大きかったと見られます。
           (201751日:  村方 清)

 

Saturday, April 1, 2017

トランプ政権の経済政策の不透明性と調整局面の株式市場













1.3月の株式市場
3月の株式市場は当初トランプ政権の経済政策への期待から大きく上昇したものの、FOMCの利上げ警戒感から低迷しました。その後、更にトランプ政権の公約であったオバマケア見直し法案が下院与党での合意困難による見送り決定で、トランプ政権の経済政策の実行可能性への不透明感から、高値相場の調整が続きました。主要な動きは以下の通りでした。

31日:228日のトランプ大統領の議会演説による経済政策への期待と金利上昇による金融株の買いで、ダウ価格は303ドル高(1.46%増加)。
32日:前日に最高値を記録した反動とIRSの捜査を受けた建設機械大手のキャタピラーの急落で、113ドル安(0.53%減少)。
36日:北朝鮮のミサイル発射に伴う地政学リスクの高まりや目先の利益確定の売りが金融株を中心に出たことなどで、51ドル安(0.24%減少)。
37日:製薬業界の競争を促すトランプ大統領のツイッターで大手製薬の株が売られたことや相場の最高値圏からの警戒感から利益確定の売りが優勢で、30ドル安(0.14%減少)。
38日:不正会計の報道を受けたキャタピラーが2.8%下落、米国の原油在庫が市場予想を大幅に上回った原油先物相場が下落、69ドル安(0.33%減少)。
310日:米政府発表の2月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比235,000人増と、市場予想の190,000人増を大きく上回ったことで、(失業率も4.7%に改善)、45ドル高(0.21%増加)。
314日:サウジの増産による原油相場の下落とFOMCの様子待ちから、44ドル安(0.21%減少)。
315日:FOMC会合で0.25%の利上げを決定、大方の予想通りであったことや原油先物相場が上昇したことで、前日までの下落していた株に買いが多くなり、113ドル高(0.54%増加)。
317日:米長期金利の低下を背景に、金融株が売られ、20ドル安(0.10%減少)。
321日:米金利低下を背景に金融株が売られ、トランプ政権の税制改革や金融規制緩和の先行き不透明感から利益確定売りが大きくなり、238ドル安(1.14%減少)、下げ幅は昨年913日以来。
324日:取引終了直前に、オバマケア代替法案の採決が見送られ、トランプ政権の政策運営の先行き見通しが不透明になったことで、60ドル安(0.29%減少)。
327日:トランプ政権の政策運営の不透明感が警戒され、46ドル安(0.22%減少)。8日連続の下落は20117月末以降の58か月振り。
328日:コンファレンスボードの発表で3月の米消費者信頼感指数が125.6と市場予想を大きく上回ったことやフィッシャー連銀副議長が今年は残り2回の利上げが適切の発言から、長期金利が上昇してJPモルガンなどの金融株の買いが優勢となり、151ドル高(0.73%増加)。
329日:オバマケアの代替法案の撤回を受け医療保険株が売られ、金利低下で金融株も下落し、42ドル安(0.20%減少)。
330日:原油先物相場の上昇や20161012月のGDP確定値が年率2.1%増と改定値から上方修正されたことで長期金利が上昇し、エネルギーや金融株が買われ、69ドル高(0.33%増加)。
331日:長期金利の低下を受けて、金融株に利益確定の売りが出た他、エネルギー関連株も持ち高調整による売りが優勢で、65ドル安(0.31%減少)。3月は月間で149ドルの下落(0.7%の減少)。

2.米国の雇用状況
米労働省が310日に発表した2月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比235,000人の増加で、市場予想の190,000人増を大きく上回りました。12月の雇用者数の確定値は155,000人で2,000人の減少、1月の改定値は238,000人で11,000人の増加で、合計として9,000人の減少となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者の平均増加数は209,000人で、完全雇用に近い水準であり堅調な増加と見られています。なお、1月の失業率は4.7%で、0.1%改善しました(広義の失業率も9.2%0.2%の改善)。労働参加率は63%で、前月比0.1%増加しました。2月の時間当たり賃金上昇率は年率2.8%増加で、前月の2.6%増より上昇しました。部門別では建設業が58,000人の増加、製造業も28,000人の増加となりましたが、逆に小売業が26,000人の減少となりました。

3.FOMC会合による利上げ決定
31415日にFOMC会合が開催されましたが、昨年12月以来、3カ月ぶりに0.25%の利上げを決定しました。会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。労働市場は改善を続け、経済活動は緩やかなペースで拡大し続けている。雇用の伸びは引き続き堅調で、失業率はここ数カ月間あまり変化がない。家計支出は緩やかに増加し続け、企業の設備投資はいくらか安定したようにみえる。ここ数四半期、インフレ率は上昇し、FOMCの長期的な目標である2%に近づいている。

FOMCは法律で定められた雇用の最大化と物価安定の実現という2大使命を達成するために努める。FOMCは金融政策の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大し、労働市場もさらにいくらか力強さを増し、インフレ率も中期的に2%近辺で安定すると予測している。FOMCは引き続きインフレ率と世界の経済や金融の動向を注意深く監視する。

労働市場の状況とインフレ率の実績と見通しを考慮して、FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の目標誘導レンジを0.751.00%に引き上げることを決定した。金融政策の運営姿勢は引き続き緩和的で、それによって労働市場の状況の更なる改善とインフレへの持続的な回帰を支える。

FOMCは経済状況がFF金利の緩やかな引き上げを正当化する形で進むと予測する。FF金利は当面、長期的に到達すると見込まれる水準を下回るレベルで推移する可能性がある。ただ、FF金利の実際の上がり方はデータが伝える経済見通し次第である。

米機関債と住宅担保証券の償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する政策を維持する。この政策はFF金利が正常の水準に戻るまで維持する。

なお、今回の決定は9人のメンバーの賛成によるもので、1名のメンバーが現在の水準を維持すべきと反対しました。

今回の利上げの結果については、市場では大方の予想通りと受け止めたことや原油先物相場が上昇したことなどで、ダウ価格は113ドル高となりました。

4.トランプ大統領の新年度予算案とその評価
トランプ大統領は315日に2018会計年度(201710月―20189月)の予算案を発表しました。連邦予算全体の規模は約4兆ドルですが、今回は裁量的歳出約1兆ドルを中心に、軍事支出10%または540ドルを増加させました。そので、今年度防衛なプログラムに250ドルを追加し、戦闘業務50ドルを追加するようめました。また、135ドルは航空機、ミサイル、および船舶増強てています。加えて、国土安全保障省今年度予算には30ドルを要請し、その一部はメキシコとの国境建設するための資金まれています。トランプは今年度国境壁建設15ドルを承認することを議会要請し、2018年度には26ドルの資金提供することを求めています。

一方、削減面ではEPAから31%または26億ドルをEPAから削減することを提案しています。その中には貧困層への暖房費を助けるプログラムの削減及び廃止、地方自治体への廃水処理の支援、アラスカ州のような農村部での航空旅費補助などのプログラムの削減が含まれています。また、国務省の資金調達および他の国際プログラムの28%または109億ドルを削減することを要請しています。その他の任意削減には、HUDのコミュニティ開発助成金および20以上の教育省プログラムに対する資金が含まれています。更に、公的放送、芸術および地域プログラムのための連邦資金に依存している19の独立機関に対する資金の廃止が提案されています。

今回の予算案の評価として、EPAの削減は最大規模であるため、清浄水及び汚染関連の規制プログラムが大幅に減少することが懸念されています。また、国務省に対する大幅な予算削減は、国際地域社会及び海外援助プログラムの減少に繋がる為、米国の外交・対外政策に大きなマイナスの影響も予想されます。議会の反応は様々ですが、民主党は防衛費に多大な予算が増加され、貧困者の援助プログラム及び、医学、科学、その他の研究プログラムが削減されていることを批判しました。加えて、環境及び気候変動プログラムを意図的に削減するためEPAへの予算を大幅に減少している予算案を支持していません。一方、一部の共和党は、彼らがエンタイトルメントと呼ぶ国内プログラムが十分削減されていないと指摘しています。同時に、連邦政府の赤字減少を強調する一部の共和党議員はトランプ氏の予算案は逆効果であり、予算調整に権力のある議会が最終的に大幅に修正する必要があると主張しています。

5.トランプ政権によるオバマケア見直し法案の撤回とその影響
トランプ大統領が選挙公約に掲げ、共和党が過去7年間廃止を目指して取り組んできたオバマケアの代替法案(ライアンケア)について、324日に下院本会議の採決を予定していました。しかし、共和党内に反対論が根強く、可決に必要な216票の得られる見通しがなかったことで、法案が撤回されました。当初、この法案の成立を目指したライアン下院議長は24名近い反対者がいるとされた保守派のFreedom Caucus (自由議員連盟:元々はテーパーティ議員連盟とされていた)に対して一部の修正するなどして話し合いを続けたものの成功せず、トランプ大統領自身も彼らの説得に乗り出しましたが、受け入れらませんでした。反対の議員は最終的には一部の修正に反発したリベラル派の議員も反対に回ったことから、当初を上回る356名近い議員にも達したとも言われています。

今回のライアン法案について議会予算局が10年後には2400万人が無保険者となることを予想するなど、米国民の賛成は17%程度にすぎないと言われるほど、支持率が低いものでした。また、仮に下院で成立しても、上院では成立する可能性が殆ど無いというものでした。特に、オバマケアによって恩典を受けている米国民はラストベルトの年配工場労働者などのトランプ支持者も含めて多く、彼らは共和党議員が地元でタウンホール会合を開くと強く反対していたことなども影響しました。

今回のオバマケア見直し法案の撤回の影響は、トランプ政権にとっても極めて深刻と見られています。選挙公約であった大幅減税を含む税制改革や大規模インフラ投資も、早急に実現する可能性は低く、118日のトランプ政権成立によって作り出されたトランプ相場が今後は調整局面となって不安定度を増していくことも予想されます。

6.オランダの下院選挙結果
英国のEU離脱や米国でのトランプ政権の誕生で、注目されていたオランダの下院選挙は315日に行われました。選挙前には、極右で反移民とEU離脱を掲げるウイルダース党首の自由党が議席の倍増を達成するのでないかと見方がありましたが、結果を見ると、ルッテ首相が率いる中道右派の自由民主党が議席数を41議席から33議席へ8議席減らしたものの、引き続き第1党を維持しました。一方、自由党は12議席から20議席へ8議席伸ばし、第2党となりました。また、連立政権を組んでいた労働党は38議席から9議席と大幅に議席数を減らしました。これにより、与党の自由民主党が連立政権を組むことに成功する限り、オランダは引き続き、EUの当初メンバーとして今後とも重要な役割を果たしていくことになります。但し、自由党が大きく躍進した影響は大きく、政権与党は今後、従来よりは右寄りの政策を導入せざるを得ないのではないかと見られます。

7.英国のEU離脱通知
英国のメイ首相は329日にEUに対して離脱を通告しました。これにより、英国とEUとの正式な離脱交渉が始まりますが、交渉期間は20193月までの2年間で、双方の意見の差は大きく、難航が予想されています。英国としては離脱しても、EUとの自由貿易協定を締結を望んでいますが、EU側には既存メンバーの維持の観点から、強い反対意見があります。一方、EU側は交渉の優先事項として、英国が離脱決定前にコミットした最大600億ユーロの分担金の支払いを求めています。いずれにしても、英国は2年以内に合意に達しなければ、EUメンバーとして享受してきたヒト、モノ、金融、サービスの移動の自由を失うばかりでなく、関税が引き上げられることになり、致命的な痛手になる恐れもあります。

      (201741日:  村方 清)

 

 

Wednesday, March 1, 2017

トランプ相場が続く米国市場












 
12月の株式市場

2月の株式市場はトランプ政権の経済政策に対する投資家の過剰な期待から29日以降12日間連続で上昇(1987年の記録に並ぶ)、上昇率も4.9%に達しました。主要な動きは以下の通りでした。

21日:アップルの四半期業績が好調であったことやISMの製造業景況感指数も市場予想を大幅に上回るものだったが、FOMCが現状維持を決めたことで買いが鈍り、ダウは27ドル高0.14%増加)。
23日:米政府発表の12月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比227,000人増で、市場予想の175,000人増を大きく上回ったこと(失業率は4.8%に上昇)及びトランプ大統領が金融規制の見直しを指示する大統領令に署名したことで、金融株が大きく上昇、187ドル高(0.94%増加)。
27日:米企業の業績改善から買いが優勢だったが、原油安を受けて伸び悩み、38ドル高(0.19%増加)。
28日:トランプ政権の政策運営の不透明感から金融株に売りが出て、36ドル安(0.18%減少)。
29日:米航空大手幹部との会談でトランプ大統領による減税などの税制改革の言及があったとの報道から、景気や企業業績の押し上げ期待から、118ドル高(0.59%増加)。
210日:トランプ政権による減税など経済政策への投資家の期待が続いていることや原油先物相場の上昇でエネルギー株が買われ、97ドル高(0.48%増加)。
213日:トランプ政権の減税措置や金融規制緩和への期待から、143ドル高(0.70%増加)。
214日:イエレン連銀議長の上院銀行委員会での証言で今後数回のFOMC会合で追加利上げの可能性を示唆したことから、利上げで収益改善が期待される銀行株が買われ、92ドル高(0.45%増加)。
215日:1月の米小売売上高は前月比0.4%増、消費者物価指数も前月比0.6%上昇市場予想を上回り、米景気の回復が続いているとの見方で、107ドル高(0.52%増加)。
221日:ウォールマートやホームデポなどの小売大手の決算が好調であったことや原油高を背景に石油株にも買いが優勢で、119ドル高(0.58%増加)。
222日:1月の中古住宅販売件数が市場予想より増加したこと、ダウ・ケミカルとの合併を発表したデュポンが欧州当局の審査通過で3%強の上昇となり相場を押し上げ、33ドル高(0.16%増加)。
223日:原油高とトランプ政権の経済政策への期待で、35ドル高(0.17%増加)。
227日:28日のトランプ大統領の議会演説への期待から、16ドル高(0.08%増加)。
228日:トランプ大統領の議会演説を前に利益確定の売りが強く、25ドル安(0.12%減少)。ダウ平均は昨日まで12日間連続の最高値更新。月間ベースで2月は4.9%上昇。

2.米国の雇用状況

米労働省が23日に発表した2月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比227,000人の増加で、市場予想の175,000人増を大きく上回りました。11月の雇用者数の確定値は164,000人で40,000人の減少、12月の改定値は157,000人で1,000人の増加で、合計として39,000人の減少となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者の平均増加数は183,000人で、完全雇用に近い水準であり堅調な増加と見られています。なお、1月の失業率は4.8%で、0.1%悪化しました(広義の失業率は9.4%0.2%の悪化)。労働参加率は62.9%で、前月比0.1%増加しました。1月の時間当たり賃金上昇率は0.1%増加で、前年同期比で2.5%増に留まりました。部門別では小売業が45,900人の増加、建設業が36,000人の増加、製造業も5,000人の増加となりました。

3.FOMCの現状維持決定とイエレン議長の議会証言

1月31日-2月1日にFOMCが開催されましたが、金融政策の現状維持を決定、追加の利上げを見送りました。会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は緩やかなペースで拡大を続けた。た。雇用増は依然好調で、失業率も低水準を維持している。家計支出の緩やかに伸びているが、企業の設備投資は依然弱い状態が続いている。インフレ率はこの数四半期上昇したが、FOMCの長期目標である2wを下回る水準で推移している。

FOMCは法律で定められた雇用の最大化と物価安定の実現という2大使命を達成することに努める。FOMCは金融政策の緩かな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大し、労働市場の状況も更に改善していくものと予測している。インフレ率も短期的に低く留まるが、一時的な影響が消え、労働市場が力強さを増すにつれ、中期的に2%に向かっていくものと予測している。

景気見通しのリスクは短期的にほぼ均衡している。FOMCはインフレ率や世界経済と金融市場の動向を引き続き注視する。

こうした経済見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)の誘導目標を0.500.75%に据え置くことを決定した。FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化と物価上昇率2%という目標との比較で経済情勢の実績と見通しを評価していく。FOMCは今後の経済情勢がFF金利の緩やかな引き上げを許すような形で進むと予測している。FF金利は当面長期的に通常と見られる水準以下に維持される可能性が高い。但し、実際のFF金利の上がり方はデータが伝える経済見通し次第だ。

米機関債と住宅担保証券の償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する政策を維持する。この政策はFF金利が通常の水準に戻るまで維持する。

なお、今回の決定は10人のメンバーの全員賛成によるものであった。

イエレン連銀議長は14日と15日に、議会ので証言に出席しました。イエレン議長の現状説明はFOMC会合での声明文とほぼ同じ内容でしたが、質疑応答の主要なやり取りは以下のようなものでした。

① 連銀のバランスシートの改善
―金融正常化の方針の中で、政策金利が一定の水準に達した時点で、国債やMBSの再投資のを行う。

最終的には国債のみの保有とする。また、現在、短期の政策金利の調整が経済に与える影響について十分と考えており、バランスシート運営を今後金融政策手段として活用することは消極的にならざるをえない。

② テーラールールの適用性
テーラールールの適用は米国の実質金利が2%以上であることを前提にしており、現在の米国のように0%程度であれば、米国経済には不適切であると思われる〈注〉。
(注)テーラー教授の指摘は、グリーンスパン議長当時、金利引き上げが必要であったにも変わらず、長期に低金利政策を維持した結果、リーマン破綻な度に見られる住宅不動産バブルによる住宅向モーゲージローン証券化の行き過ぎが生じたとしている。

③ トランプ大統領のドッド・フランク法の見直し
イエレン議長はドッド・フランク法の設立により、大手金融機関の資本力が強化されたことは評価している。一部の議員はコミュニティバンクやクレジットユニオンが大手の金融機関と同じような不適切な規制を受けてきたと批判している。

④ トランプ政権の経済政策
イエレン議長は直接、トランプ政権の経済政策にコメントすることは避け、トランプ政権の経済政策には長期的に経済成長を高めるための生産性上昇を促す政策が見られないことを指摘している。

4.トランプ大統領の議会演説

トランプ大統領は28日に米議会上下両院本会議で、就任後初めての議会演説を行いました(通常、大統領は1月に一般教書演説を行うが、新たに就任した大統領は演説が2月にずれるのが慣行)。

内容的にはオバマ前大統領の時のような自由世界のリーダーとしての理念的な提言は皆無で、120日の大統領就任の際の米国第一主義の繰り返しでした。国内的には従来から主張してきた規制緩和と減税による米国経済の成長促進を掲げ、対外的には米国の利益優先の保護主義の正当性の主張でした。これに加えて、国防費の大場増加と官民の資金による約1兆ドルのインフラ投資でした。トランプ大統領は法人税を35%から20%を下げるような減税を歴史的な改革を行うと言っていますが、小さな政府を前提とした1981年のレーガンの税制改革が与えたような衝撃はなかったように思います。また、当時の米国の財政状況と異なり、米国の累積財政赤字額が20兆ドルを超えるような現在の状況で、大幅な減税が可能なのかという疑問が生じます(年間赤字は、オバマ前大統領の下で2009年の約16000億ドルから2016年の約6000億ドルの大幅削減に成功)。さらに、約1兆ドルのインフラ投資についても、民主党のクリントン候補は財源を示したものの、トランプ大統領は未だにそれがなく、財政規律を重視する議会の共和党保守派がどこまで認めるかは明確ではありません(採算性が確実でないインフラ投資に民間資金がどこまで集まるかもよくわかりません)。最後に、留意すべきはレーガン大統領の下で行われた大幅減税とソ連に対抗すべく取られた巨額な国防費増大が米国の財政赤字を急激に悪化させ、レーガン大統領は2期目の1986年の税制改正で多くの減税措置を廃止せざるを得なくなったことです。

いずれにしても、米国の株式市場は118日のトランプ候補の勝利後、ダウベースで約2500ドルの13.5%の上昇を示してきましたが、トランプ政権の具体的な政策効果というより、投資家の過剰な期待が株価を異常に引き上げているように思います。

         (201731日: 村方 清)

 

 

Wednesday, February 1, 2017

トランプノミクスに揺れる株式市場

 
1.1月の株式市場
1月の株式市場はトランプ新大統領の経済政策(トランプノミクス)への期待から、20日の就任直後までは好調で、一時ダウ価格が史上初めて20,000ドルを超す状況になりました。しかし、その後、トランプ政権の保護主義的政策や移民規制などの措置が発表されると、
大きな下落調整が起きました。主要な動きは以下の通りでした。
 
13日:ISM12月製造業景況感指数や11月の建設支出が市場予想を上回ったことで、投資家の米国景気への期待が高まり、ダウ価格は119ドル高(0.60%増加)。
14日:米景気の先行きへの楽観的な見方から、遅れが見られた消費関連株に買いが優勢で、60ドル高(0.30%増加)。
15日:米金利低下から金融株が売られたことや年末商戦の売り上げが低調だった小売株の一部も急落したため、43ドル安(0.21%減少)。
16日:米政府発表の12月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比156,000人増で、市場予想の180,000人増を下回ったものの(失業率も4.7%に上昇)、11月の雇用数が大幅増で賃金上昇率も高かったことで、米景気拡大への期待から、65ドル高(0.32%増加)。
19日:原油先物相場が下落したことや金利が低下したことで、石油株や金融株が下落し、76ドル安(0.38%減少)。
111日:トランプ次期大統領の記者会見で一時大幅下落することもあったが、原油先物相場の上昇と企業業績回復への期待から、99ドル高(0.50%増加)。
112日:前日のトランプ次期大統領の記者会見により、アジアの欧州の株価指数が下落したことやトランプ氏の製薬会社の価格決定の仕組み批判で、63ドル安(0.32%減少)。
117日:トランプ次期大統領がドル高に懸念を示したことや議会共和党が検討している予算案を批判するなど、次期政権の政策の不透明感から、59ドル安(0.30%減少)。
119日:20日のトランプ大統領の就任式を控え、持ち高調整や利益確定の売りが優勢で、
72ドル安(0.37%減少)。
120日:トランプ大統領の米国第一主義を繰り返す就任演説で伸び悩む状況があったが、米主要企業の業績改善への期待から、95ドル高(0.48%減少)。
123日:トランプ政権の政策展開が見通しにくいことで、目先の利益確定の売りが優勢で、27ドル安(0.14%減少)。
124日:IT株を中心に四半期決算が好調だった銘柄が買われ、113ドル高(0.57%増加)。
125日:米国主要企業の四半期業績が好調であることやトランプ政権の経済政策への期待から、156ドル高(0.78%増加)。ダウは史上初めて20,000ドル台を記録。
127日:161012月期のGDPが前期比年率1.9%増で市場予想の2.2%に届かなったことや前日まで最高値を更新したから、利益確定の売りが優勢で、7ドル安(0.04%減少)。
130日:トランプ大統領が7か国のテロ懸念国からの入国を制限する大統領令に署名、米国内外で反発や混乱が広がり、売りが優勢で、123ドル安(0.61%減少)。
131日:エクソンモービルなど米主要企業の四半期業績が不調であったことやトランプラリーで大きく上昇したJPモルガンなどが大幅下落調整で、107ドル安(0.54%減少)。
 
2.米国の雇用状況
米労働省が16日に発表した12月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比156,000人の増加で、市場予想の180,000人増を少し下回りました。しかし、10月の雇用者数の確定値は135,000人で7,000人の減少、11月の改定値は204,000人で26,000人の増加で、合計として19,000人の増加となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者の平均増加数は165,000人でしたが、完全雇用に近い水準であり堅調な増加と見られています。なお、12月の失業率は4.7%で0.1%悪化しました(広義の失業率は9.2%0.1%の改善)。労働参加率は62.8%で、前月比0.1%増加しました。12月の時間当たり賃金上昇率は0.4%増加で、前年同期比で2.9%上昇となりました。部門別では製造業が過去4ヶ月間の減少から17,000人の増加で、小売業も6,000人の増加となりました。一方、建設業は過去3ヶ月間の増加から3,000人の減少となりました。
 
3.12月のFOMCの議事録要旨
14日に公表された12月のFOMC議事録要旨によれば、政策金利を0.25%引き上げたのは2大目標である雇用と物価について、前進を続けているという十分な証拠が得られたことで一致したとしています。また、次期政権の財政政策やその他の経済政策の時期、規模、内容によっては経済の不確実性があり、景気の上振れリスクが高まったと指摘しています。
同時に、ドル高や一部の海外諸国の金融面での脆弱性がもたらす下振れリスクにも注視が必要としました。
 
4.英国の単一市場離脱表明
英国のメイ首相は17日にEUからの離脱について、部分的な加盟は目指さないとして、新しいパートナーシップを求めることを明言しました。英国与党内では移民規制を優先し、単一市場へのアクセスを犠牲にしてもよいとするハード・ブレグジット派と単一市場へのアクセス維持を最優先させるソフト・ブレグジット派の対立がありましたが、今回の決定はハード・ブレグジットを選んだことになります。しかしながら、メイ首相が目指す英国に有利な新たな自由貿易協定が締結できるかは現時点では全く不透明です。もし、EUが英国に安易に妥協すれば、現在のEUメンバーの中にも、同じような離脱を目指す国が出ることにもなりかねず、EIとしてはそうした動きを防ぐためには、強い態度で英国との交渉に臨むことになると見られます。なお、24日に英国の最高裁はEUからの離脱通知には英国議会の承認が必要との判決を下しました。これによりメイ、労働党を中心に野党に反対の多いEU単一市場離脱について、当面議会対策を本格化させる必要が出てきました。
 
5.トランプ新政権の米国第一主義(具体的成果を求める米国優先の保護主義)
120日に第45代米国大統領に就任したトランプ氏は選挙戦で訴えた米国第一主義を進めて、貿易、税制、移民、外交に関するあらゆる決定は米国の労働者や家族の利益になるようにすると宣言しました。また、過去何十年間も、米国は自国の産業を犠牲にして、外国の産業を潤してきたと過去の過ちを強調、今後は新しいビジョンの下に、米国製品を買い、米国人を養うという2つのルールを通じて、強い米国を再生するとしました。また、今回の政権交代はワシントンから米国民に権力を移すことにあるとも強調しました。そして、翌日にはカナダやメキシコとの間で進めてきたNAFTAの見直しを宣言、23日にはTPPへの永久離脱の大統領令に署名、今後は二国間㋔FTA交渉に移すことを表明しました。
 
トランプ新大統領の就任演説は彼の選挙公約であったロストベルトの白人工場労働者の雇用増加のために、国内の製造業の復活を目指したもので、このためには規制緩和と税制優遇を行うとするものです。この背景には米国が中国や日本との貿易収支で其々約3500億ドルや700億ドルの巨額な貿易赤字を抱えていることに対して相手国への大きな不満があり、この問題の解決には2国間のFTA交渉が不可欠との判断があると見られています。しかしながら、米国の鉄鋼業や自動車産業など労働集約的産業の競争力の低下は産業の進化に必要な技術移転が国境を越えて進む中で、米国と他の国々との労賃の違いが最大の要因となっています。そうした労賃の違いを無視して、米国での生産を増産しようとすれば、米国の国際競争力を一層低下させ、かつ最終的に米国消費者により大きな負担を強いることを軽視しているように思います。加えて、批判を受けた貿易相手国からの輸入に高い関税を課ければ、米国からの輸出についても相手国からの高い関税を課けられ、相互間の貿易が縮小していく事態になりかねません。
 
共和党の予備選挙から、トランプ大統領の主張を聞いてきて、国の発展に伴う製造業からサービス産業へのシフトといった産業構造の転換についてどの程度十分な知識があるのかに疑問を持たせるものです。同時に、米国の国内の市場が成熟化すれば、経済成長の高い海外市場を求め、生産体制をコストの低い地域に移すことも経済的合理性に合致しているグローバル化や自由貿易の利点について過小評価しているように思われます。大衆扇動家として、ロストベルトの白人労働者の支持を得るべく、政府による保護主義で、もはや成長産業と言えないタイプの製造業の復活を図ろうとするこ試みは米国だけでなく、世界経済の健全な発展にとっても大きな障害になってくるものと思われます。
           (201721日: 村方 清)