Monday, January 1, 2018

税制改革法案成立と市場への影響


 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
1.12月の株式市場
12月の株式市場は1220日の税制改革法案の成立までは投資家の期待が依然高く、上昇相場が続きましたが、成立後は比較的に安定したものとなりました。主要な動きは以下の通りでした。

121日:フリン前大統領補佐官がロシア疑惑で訴追され有罪を認めたことで、トランプ政権の関与が証言されるとの見方が強まり、投資家心理が悪化、一時350ドル安まで下げたが、上院の税制改革法案成立に必要な票数が集まったとの報道も伝わり、ダウ価格は41ドル安(0.17%減少)。
124日:2日未明の上院での税制改革法案可決による市場の期待で、法人税引き下げ効果の大きな金融株が上昇、実効税率の低いIT株が売られ、58ドル高(0.24%増加)。
125日:税制改革の実現期待から大きく買われた金融株や通信株が売られたこと、更にディズニーが大きく下落したことで、109ドル安(0.45%減少)。
126日:税制改革期待で買われた銀行株などに利益確定の売りが出て、40ドル安(0.16%減少)。
127日:前日までの下落の反動と原油先物相場の上昇によるエネルギー関連株の買いで、71ドル高(0.29%増加)。
128日:米政府発表の11月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比228,000人増で、市場予想の200,000人増を上回ったことで(失業率は4.1%で同水準)、118ドル高(0.49%増加
1211日:出遅れていたアップルやマイクロソフト等のIT株が上昇し、57ドル高(0.23%増加)。
1212日:前日に増配と自社株買いを発表したボーイングが上昇、加えて長期金利の上昇で金融株が買われ、119ドル高(0.49%増加)。
1213日:FOMC会合で、利上げペースが緩やかになるとの見方が意識されたことや税制改革法案の進展が期待され、81ドル高(0.33%増加)。
1214日:連日過去最高値を更新する中、一部与党議員の反対による税制改革法案の議会通過に不透明感が出て、利益確定の売りが優勢で、77ドル安(0.31%減少)。
1215日:税制改革法案の進展への期待と前日に下落した反動からハイテク中心に多くの銘柄が買われ、143ドル高(0.58%増加)。
1218日:税制改革法案が週内に上下両院で可決される見通しとなり、法人税減税の期待から、140ドル高(0.57%増加)。
1219日:連日の過去最高値の更新から利益確定の売りが優勢で、加えて長期金利の上昇もあり、37ドル安(0.15%減少)。
1220日:税制改革法案が米上下院で可決され、約30年振りの抜本的な税制改革が成立となったが、税制改革実現により金融株などで利益確定の売りが優勢となり、28ドル安(0.11%減少)。
1221日:税制改革法案の米議会通過による相場押し上げ期待と、原油高による石油関連株や金利の高止まりによる金融株の大幅上昇で、56ドル高(0.23%増加)。
1222日:税制改革法が成立したが、法人税引き下げの期待感から2か月近くの相場上昇のため、買いは乏しく、クリスマス休日の3連休前で、利益確定売りが優勢で、28ドル安(0.11%減少)。
1226日:販売低調とされたアップルの売りが膨らみ、部品提供メーカーにも波及、8ドル安(0.03%減少)。
1227:長期金利の低下で不動産や公益事業関連株が買われ、28ドル高(0.11%増加)。
1228日:ユナイテッドヘルスなど業業績拡大を期待した買いが優勢で、63ドル高(0.26%増)。
1229日:年末休暇で積極的な取引が見送られたが、懸念材料が生じたアップルなどが売られ、118ドル安(0.48%減少)。今年1年間の上昇率は25%で4年振りの大きさで、上げ幅は約5000ドル(4957ドル)でした。

 
2.米国の雇用状況
米労働省が128日に発表した11月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比228,000人の増加で、市場予想の200,000人増を上回りました。9月の雇用者数の確定値は38,000人で20,000人の増加、10月の改定値は244,000人の増加で、17,000人の減少となりました。今回の結果は過去2カ月間の雇用者の平均増加数は236,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000を大きく上回りました。なお、11月の失業率は4.1%で、前月と同じ水準でした。労働参加率も62.7%で、前月と同水準でした。11月の時間当たり賃金上昇率は前月比0.2%増加で、前年同月比では2.5%増となりました。部門別では製造業が31,000人の増加、建設業が23,000人の増加となりました。

 
3.FOMC会合と利上げ
FOMC会合が121213日に開催され、会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は堅調に拡大している。ハリケーン関連の変動をならすと雇用増は堅調で、失業率はさらに低下した。家計支出は緩やかなペースで拡大し、企業の設備投資もこの数四半期上向いた。インフレ率はエネルギーと食品の価格を除くと、低い状況が続いて入る。ほとんどの調査に基づく長期のインフレ予想はあまり変わっていない。

ハリケーン関連の被害と復興がこの数カ月、経済活動、雇用、インフレ率に影響しているが、国家経済の見通しを大きく変えてはいない。このため、FOMCは金融政策の運営姿勢の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大、労働市場の状況も引き続き力強さを保つと予測する。インフレ率は短期的には依然として2%を下回るが、中期的にFOMCの目標である2%付近で安定すると予測している。

景気見通しのリスクは短期的にほぼ均衡してきているようであるが、インフレ率の動向を注視する。

FOMCは労働市場情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを1.251.5%に引き上げることを決定した。緩和的な金融政策は維持し、力強い労働市場及びインフレ率の2%への持続的回帰を支える。

FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ率2%という目標との比較で評価していく。インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

FOMCは経済情勢がFF金利の緩やかな引き上げを許すようなかたちで進むと予測している。FF金利は、FOMCが長期的に通常と見なされる水準以下に維持される可能性が高い。但し、実際のFF金利の上がり方はデータが伝える経済見通し次第だ。

今回の決定はイエレン議長を含む7人のメンバーの賛成による。シカゴ連銀総裁とミネアポリス連銀総裁は金利据え置きを求め、反対票を投じた。

今回、FOMCで政策金利の利上げはあったものの、金融正常化のペースは加速しないとの判断がなされたこともあり、ダウは81ドル高となりました。

 
4.米税制改革法案の成立と市場への影響
トランプ政権が選挙公約とし、与党共和党が長年の悲願としていた大規模な減税を含む税制改革法案が1220日に米連邦上院と下院で過半数の賛成で可決しました。今回の税制改革法案では、連邦法人税を2018年から従来の35%から21%へ大幅に引き下げる他、個人所得税も現在の39.6%の最高税率を37%へ引き下げることを主要な内容とし、10年間全体の減税規模は約1.5兆ドルに達しています。また、同時に米企業の海外所得への課税を原則として廃止し、海外留保資金を本国に戻させるような措置も導入しました。

今回の税制改革は1986年のレーガン政権第2期の1986年の税制改正以来31年振りですが、内容は著しく異なっています。1986年の税制改正はレーガン政権第1期の1981年の大型減税を含む税制改正が巨額の財政赤字を発生させ、深刻な財政危機となったため財政健全化をのために数多くの税制優遇措置を廃止したもので、今回とは全く逆の税制改正でした。今回の税制改革はどちらかと言えば、レーガン政権第1期の1981年税制改正に類似しており、大型の企業減税によって経済を活性化させ、成長を高めることによって、やがて税収を増加させるというものです(これはいわゆるラッファー理論によるサプライ―サイドエコノミクスの考え方に基づくものですが、実際の経験は前述したごとく、巨額の財政赤字を生み、失敗に終わっています)。

この点、今回の税制改革は1981年の税制改正による大規模な減税が巨額の財政赤字を発生させたことへの反省が極めて希薄であるように思われます(両院の議会合同調査チームは10年間で約1兆ドルの財政赤字増加となることを予測)。グリーンスパン元連銀議長などの多くの専門家も今回の税制改革による経済効果には否定的で、現在のような完全雇用状態で、しかも財政赤字が続く状況の中で新たな財政政策の必要性があるのかと強い疑問を投げています。加えて、グローバル化の進展に伴う企業従業員の経済不安定化や所得格差の拡大という状況の中で、今回のような大規模減税を中心とする税制改正は米国民の所得格差を一層拡大させるというマイナス面の影響も無視されるべきではないように思われます。こうして多くの反対があったにもかかわらず、今回の税制改革が進められた背景には、両院で多数派である共和党が彼らの選挙基盤である大企業や超富裕層の意向をより重視し、トランプ政権の公約を実現するために、野党との十分な議論もせずに一方的に大型減税案をまとめあげたことにあります。特に、オバマ政権の時に野党であった共和党では財政規律を重視したはずのティーパーティーグループ(現在のFreedom Caucus)が今回の税制改革案では10年間で1兆ドルの財政赤字をもたらすとされるにもかかわらず、いとも簡単に賛成してしまうという一貫性のない行動を取っていたことは理解不能と言えます。

なお、株式市場への影響については短期的には大幅な企業減税が企業の収益改善に貢献する点でプラスと思われますが、企業減税への過剰な期待感がここ数カ月でダウが1300ドルも上昇するほどの市場の投機的な反応は明らかに行き過ぎと見られます。また、今後についても今回の減税が中・長期的に米国の財政赤字構造や所得格差の拡大に与える悪影響についても意識しておくことが重要と見られます。
                  (201811日:  村方 清)

 

 

 

Saturday, December 2, 2017

税制改革法案への過剰期待が導く高値相場















1.11月の株式市場
11月の株式市場はトランプ政権が目指す税制改革法案に依然多くの問題がありながら、市場の期待が高く今月も高値相場の継続となりました。主要な動きは以下の通りでした。

111日:ISM発表の10月製造業景況感指数は58.7と前月比2.1ポイント悪化したが、依然高水準であることや9月の建設支出が0.3%増加したことで、買いが優勢で、58ドル高(0.25%増加)。なお、1031日―111日に開催されたFOMCの声明内容はほぼ市場予想通りで、反応も限定的。
112日:トランプ大統領がパウエル理事を次期のFRB議長に指名、現行の緩やかなペースでの利上げや金融正常化が進むとの期待から、81ドル高(0.35%増加)。
113日:米政府発表の10月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比261,000人増で、市場予想の310,000人増を下回ったものの、3ケ月平均では162,000人と堅調で(失業率も17年振りの4.1%に改善)、23ドル高(0.10%増加)。
116日:サウジ政府内部の対立やイエメンの内乱などで中近東情勢が悪化、更に原油価格の上昇でエネルギー関連株が買われ、9ドル高(0.23%増加)。
118日:バージニアなどの州知事選で民主党候補が勝利したり、与党共和党の減税法案が先送りされるなどのニュースが伝えられ、6ドル高(0.03%増加)。
119日:米税制改革の見通しが不透明で、投資家が運用リスクを避ける動きが広がったことや前日に株価が最高値を更新したこともあり、、利益確定の売りが優勢で、101ドル安(0.43%減少)。
1110日:米上下院で税制改革の審議が難航するとの警戒感が広がり、40ドル安(0.17%減少)。
1113日:米長期金利の上昇圧力が鈍いため、公益事業などが買われ、17ドル高(0.07%増加)。
1114日:原油安や中国の低調な経済指標を受け、エネルギーや素材株が売られ、更に配当の半減を発表したGEが売り続かれ、30ドル安(0.13%減少)。
1115日:主要国の株安や原油相場の下落などで、投資家心理が悪化、138ドル安(0.59%減少)。
1116日:前日までの5営業日の売りの反動と四半期決算が好調であったウォールマートが70ドル近く押し上げ、187ドル高(0.80%増加)。
1117日:前日に大きく上昇した反動で目先の利益確定の目的の売りが優勢だったことや税制改革法案の上院での審議の見通しが難航していることから、100ドル安(0.43%減少)。
1120日:ドイツ政局の不透明感にもかかわらず、欧州株が上昇、米国の投資家のリスク選好姿勢が強まり、72ドル高(0.31%増加)。
1121日:ECBの緩和的な金融政策の長期化の見通しとアップルなどのIT、ハイテク株を中心に買いが広がり、161ドル高(0.69%増加)。
1122日:前日に過去最高値を記録したため、感謝祭の祝日を前に目先の利益確定の売りが優勢であったことや長期金利の低下を受けて金融株が売られ、65ドル高(0.27%減少)。
1124日:1123日の感謝祭に始まる年末商戦が好調との見方から、32ドル高(0.14%増加)。
1127日:前週後半からの年末商戦の好調さが伝えられ、小売株に買いが入り、23ドル高(0.10%増加)。
1128日:金融危機の際に導入された金融規制の緩和と税制改革の進展への市場の期待から、256ドル高(1.09%増加)。
1129日:米国上院予算委員会が共和党の税制改革案を可決し、企業減税への期待が高まり、104ドル高(0.44%増加)。
11月30日:上院本会議での税制改革案の可決への市場の期待が強まったことや長期金利のによる金融株の買いで、332ドル高(1.39%増加)。
 

2.米国の雇用状況
米労働省が113日に発表した10月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比261,000人の増加で、20167月以来の大きさでしたが、市場予想の310,000人増を少し下回りました。8月の雇用者数の確定値は208,000人で39,000人の増加、9月の改定値は33,000人の減少から18,000人の増加となりました。今回の結果は過去2カ月間の雇用者の平均増加数は90,000人で、過去3カ月間の平均増加数の162,000を下回りました。なお、9月の失業率は4.1%で、0.1%改善し、200012月以来17年振りの低さとなりました。労働参加率は62.7%で、前月より0.4%低下しました。10月の時間当たり賃金上昇率は前月比0.1%減少で、前年同月比では2.4%増と0.5%減少しました。部門別では製造業が24,000人の増加、建設業が11,000人の増加、小売業が8,300人の増加となりました。


3.FOMC会合とFRB新議長の指名
FOMC会合が1031日-111日に開催されましたが、会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。ハリケーンに伴う混乱にもかかわらず、労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は堅調に拡大している。ハリケーンは9月に雇用減少をもたらしたものの、失業率はさらに低下した。家計支出は緩やかなペースで拡大し、企業の設備投資もこの数四半期に加速した。ハリケーン後にガソリン価格が上昇し、9月の総合インフレを押し上げた。インフレ率はエネルギーと食品の価格を除くと、低い状況が続いて入る。ほとんどの調査に基づく長期のインフレ予想はあまり変わっていない。

ハリケーンの被害は短期的に経済活動の影響するであろうが、中期的に国の経済の進路を大きく変える可能性は低い。このため、FOMCは金融政策の運営姿勢の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大、労働市場の状況もさらにいくらか引き締まると予測する。インフレ率は中期的に2%付近で安定すると予測している。

景気見通しのリスクは短期的にほぼ均衡してきているようであるが、インフレ率の動向を注視する。

FOMCは労働市場情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.751%に据え置くことを決定した。FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、雇用の最大化とインフレ率2%という目標との比較で評価していく。インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。FOMCは経済情勢がFF金利の緩やかな引き上げを許すようなかたちで進むと予測している。

FOMC201710月に継続したバランスシートの正常化プログラムを継続している。

今回の決定はイエレン議長を含む9人のメンバー全員一致による。

今回、FOMCで政策金利の維持と10月からの金融正常化のペースは加速しないとの判断がなされたこともあり、ダウは58ドル高となりました。

なお、112日にトランプ大統領はパウエルFRB理事を次期の議長に指名しました。パウエル氏ン議長は穏健派とされており、現行の低金利政策と緩やかな金融正常化のペースを続けていくものと見られます。


4.米税制改革法案の行方
米連邦議会の下院は1116日に法人税率を2018年から従来の35%から20%に引き下げる法案を227 票対205票の票差で可決しました。同時に全世界所得課税方式を取りやめ、海外子会社が配当で米国に資金を還流する際の課税を廃止しています。一方、個人所得税は現在の7段階から4段階に簡素化すると同時に、課税所得から差し引ける基礎控除を倍増、州・地方控除などは廃止しています。加えて、遺産税を廃止しています。

上院の共和党も122日未明)に税制法案を5149の票差で可決しましたが、下院案とはかなり異なっています。第一に連邦法人税の引き下げを2019年に遅らせ、財政赤字の影響をより少なくさせる内容です、更に個人税制についても、最高税率を38.6%へ引き下げる一方、遺産税は維持しています。同時に、上院では財源確保のために、オバマケアの補助金を廃止を織り込む方向で検討しています。

1130日午後に議会の合同調査委員会が提出した評価書によれば、今回の税制改革法が成立した場合、経済成長の貢献度は0.8%程度で、10年間で1兆ドルの財政赤字を拡大させるとしています。このため、財政赤字の拡大を懸念するコーカー議員などから、財政赤字を職掌させる措置を講じるべきとの意見が出されましたが、マコーネル院内総務は本会議の可決に必要な50票が集まったとの理由で、121日に採決しました。なお、上院案は既に承認された下院案と異なるため、今後両院協議会で両案の調整が図られることになります。

今回のトランプ政権と共和党が目指す税制改革法案については、法人への大幅減税や富裕層への減税措置で株式市場の投資家の期待が高いものですが、10年間で約1兆ドルの赤字増になる見込みであることやミドルクラス以下には実質増税になることで格差を拡大するもので、米国経済の健全な発展にとって望ましいと言えるものではないと思われます(グリーンスパン元連銀議長も、現在の米国の経済状況で減税は必要ではなく、財政赤字を拡大させるものとして反対)。

米国で大幅減税を含む税制改革案が導入されたのはレーガン大統領による1981年の例がありますが、その背景となったのは減税をすれば経済活動が活発化し、企業や個人の所得も増加、やがて税収の増加となってくるというラッファー理論によるものでした。しかしながら、実際には大幅減税による税収の落ち込みが深刻な財政赤字をもたらし、レーガン政権の第2期にあたる1986年の税制改正で税優遇措置は殆ど廃止されることになりました。本来、財政規律を重視してきた共和党のティーパーティーの流れを組むFreedom Caucus((共和党保守強硬派。下院に多いが、上院でもテキサス選出のクルーズ議員もその一人)の議員達が今回の減税案に賛成しており、彼らの豹変振りに驚かされます。これは保守強硬派を支援しているのがマーサ―ファミリーやコーク兄弟などの大富豪の連中であることと無関係でないかも知れません。


5.ドイツの連立政権不成立
9月の総選挙で、議席を失ったメルケル首相が率いる第1党のキリスト教民主・社会同盟は10月半ば以降、中道の自由民主党(FDP)と環境政党の緑の党との間で、連立政権樹立の協議を続けてきましたが、1119日に自由民主党のリントナー党首が協議から離脱することを表明し、決裂しました。対立点は、キリスト教同盟とFDPが難民の受け入れ制限を主張したのに対し、緑の党が反対、環境問題では緑の党が大胆な政策を求めたのに対し、キリスト教同盟と自由民主党が反対したためとされています。

このため、メルケル首相としては、少数与党で政権を運営するか、あるいは再選挙を実施するかの選択を迫られることになりますが、いずれも、ドイツだけでなく、EU全体の不安定化をもたらす恐れがあります。現在、前外相で社会民主党(SPD)出身のシュタインマイヤー大統領の仲介で、両党の大連立に向けた動きが出ていますが、その背景には、再選挙をした場合、両党の支持率は9月の総選挙時より更に低下するとの調査結果があることが理由となっています。いずれにしても、今後の動きが注目されます。
        (2017122日: 村方 清)

 

 

 

 

Wednesday, November 1, 2017

好調な企業業績と政策への過剰期待による高値相場



 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

1.10月の株式市場
10月の株式市場は米企業の好調な四半期決算とトランプ政権による企業減税への過剰な期待もあり、大きく上昇しました。主要な動きは以下の通りでした。
102日:ISMが発表した9月の製造業景況感指数が60.8と前月比2.0ポイント改善したことなどで、買いが優勢で、ダウ平均は153ドル高(0.68%増加)。
103日:自動車大手が発表した9月自動車販売が好調だったことから、84ドル高(0.37%増加)。
104日:ISMが発表した9月の非製造業景況感指数が59.8と市場予想を大きく上回り、米国景気に対する楽観論が強まり、20ドル高(0.09%増加)。
105日:米下院が2018会計年度の予算決議案を賛成多数で可決したことにより、法人税率の引き下げを含む税制改革案が進むとの期待から、114ドル高(0.50%増加)。
106日:米政府発表の9月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比33,000人減で、市場予想の75,000人増を大きく下回ったがハリケーンによる一時的な影響と見なされたことや失業率が4.2%に改善、賃金上昇率も上回ったことで、FRBの利上げ懸念から、2ドル安(0.01%減少)。
109日:コロンバスデーの祝日で市場参加者が少なかったが、前週に主要な株価指数が最高値を記録したことで、経営陣交代のGEを含め目先の利益確定売りが優勢で、13ドル安(0.06%減少)。
1010日:大規模な自社株買いをしたウオールマートが大幅高となり、相場をけん引、70ドル高(0.31%増加)。
1011日:米主要企業の業績発表への期待と証券会社の投資判断が引き上げられたジョンソン・ジョンソンが大きく上げ、42ドル高(0.18%増加)。なお、FOMCの影響は限定的。
1012日:JPモルガンやシティグループなどの四半期決算は増収増益だったが、株価が最高圏にあることや長期金利の低下で、ディズニーなどと共に売りが優勢で、32ドル安(0.14%減少)。
1013日:中国の輸出の伸びを示す経済指標を受け、世界経済の回復による米企業業績の拡大期待から、31ドル高(0.23%増加)。
1016日:長期金利の上昇を受け、JPモルガンやゴールドマンサックスなどの金融株が買われ、85ドル高(0.37%増加)。
1017日:四半期業績が好調であったジョンソン・エンド・ジョンソンやユナイテッドヘルスが買われ、40ドル高(0.18%増加)。
1018日:四半期決算が市場予想を上回ったIBMがダウを90ドル超押し上げ、金融株が上昇し、160ドル高(0.70%増加)。ダウは史上初めて23,000ドルを上回った。
1020日:米上院が2018年度の予算案を可決したことで、法人税減税を含む税制改革に期待が高まり、長期金利も上昇、166ドル高(0.71%増加)。
1023日:先週末まで連日で最高値を更新していたため、利益確定の売りが優勢であったことや税制改革の不透明感もあり、55ドル安(0.23%減少)。
1024日:四半期業績好調のキャタピラや3Mが上昇したことに加え、米長期金利の上昇でJPモルガンなどの金融株が買われ、168ドル高(0.72%増加)。
1025日:四半期業績が不振であったボーイングが大幅安となった他、株価が最高値圏で推移しているため、利益確定の売りが優勢で、112ドル安(0.48%減少)。
1026日:四半期業績が好調であったフォードなどが上昇、71ドル高(0.31%増加)。
1027日:四半期業績が好調であったマイクロソフトとインテルの株価が上昇、相場を押し上げ、33ドル高(0.14%増加)。ナスダックのアマゾンやアルファベットが急上昇し、全体を2.20%増加。
1030日:税制改革について下院が法人税減税の段階的な導入の検討やロシア疑惑との関係でトランプ陣営の元選挙対策本部長が起訴されるなど不透明感が高まり、85ドル安(0.36%減少)。
1031日:米経済指標の改善や企業業績の好調を背景に買いが優勢で、29ドル高(0.12%増加)。 

2.米国の雇用状況
米労働省が106日に発表した9月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比33,000人の減少で、市場予想の75,000人増を大きく下回りました。7月の雇用者数の確定値は138,000人で51,000人の減少、8月の改定値は169,000人で13,000人の増加、合計として38,000人の減少となりました。今回の結果はテキサスやフロリダを襲ったハリケーンの影響で一時的と見られています。なお、9月の失業率は4.2%で、0.2%改善しました。労働参加率は63.1%で、前月と同水準でした。9月の時間当たり賃金上昇率は前月比0.5%増加で、前年同月比では2.9%増と0.2%増加しました。部門別ではハリケーンの影響で飲食業が105,000人の減少、製造業も1,000人の減少の反面、建設業は8,000人の増加となりました。

3.9月のFOMC会合
911日に、91920日に開催されたFOMC会合の議事要旨が公表されました。それによれば、多くの参加者は、景気見通しに変化がなければ、年内にもう1回の利上げが可能と見ています。低インフレは一時的な要因のみではないとの見方は参加者に共有されていますが、それでも利上げを先送りすべきと考えているのは少数派とのことです。

今後、FOMC1031日―111日と121213日の2回が予定されていますが、市場はイエレン議長の記者会見がある12月の会合で利上げの是非を判断すると見ています。

FOMCの利上げ判断は12月のFOMC会合まで延ばされるとの見方から、影響は限定的で、11日のダウは42ドル高となりました。

4.米国株の高値更新とバフェット指数に見るバブル度
米国のダウ平均価格は1013日以降、高値を更新続けていますが、これをGDP比率で比較したバフェット指数で見ると、20179月末時点のバフェット指数は131.5でかなり高い水準にあります。201410月のブログでも述べましたが、1951年以降20149月までの60年間強の平均値は68.620179月末では70.5)、深刻なスタグフレーションが起きた19823年がボトムで32.2%、急激なドットコムバブルが生じた200012月がピークで153.6%となっています。また、20089月の金融危機後は200912月がボトムで59.520133月には約100%を越え、現在は過去60年間の平均値を60以上越えることになります。

バフェット指数と同じようなものとして、米国の普通株をカバーしているウィルシャー5000Wilshire 5000 Full Cap Price Index)がありますが、これも平均値が71.0%、ボトムが19823月がボトムで45.6、ピークが200012月の136.5、金融危機以降は200912月がボトムで56.8%、20133月が96.5%、現在は平均値を60近く越える129.6となっています。

いずれにしても、現在の株価がバフェット指数やウィルシャー指数からして、歴史的な平均値から60近く上昇していることについて、より大きな注意が払われるべきと思われます。

5.米国上院が2018年度予算決議案を可決
2018年度予算に関連して、共和党が多数派の上院で予算決議案が1020日に51票対49票で採択されました。既に共和党が多数派の下院でも同様な決議が採択されており、2018年度予算案は過半数の賛成で承認されることになりました。トランプ政権の予算案は法人税の大幅減税で10年間で15兆ドルの財政赤字が発生すると見られており、財政規律を重視する共和党保守派は赤字幅が少ない予算案を検討していると言われ、今後の展開が注目されます。

なお、米国財務省が20日に発表した2017年度の財政赤字は前年度比13.7%増の66571200万ドルとなりました(GDP比率で、前年度比0.3%増の3.5%)。これは財政赤字が2年連続拡大し、13年度以来4年ぶりの高水準になったことを意味しています。

6.第19回中国共産党大会
1018日から開催されていた第19回中国共産党大会は現在の習主席が今後5年間だけでなく、長期に渡って政権の維持することを確認し、25日に閉幕しました。共産党の創設者である毛沢東元主席以降、鄧小平元主席を除き、集団指導体制を維持してきた中国共産党は今回の大会で、習近平氏の思想を規約に明記することや従来のような後継者の指名を行わないで、習近平主席による個人指導体制に移行することになります。

規約に明記されることになった習近平主席の思想とは、鄧小平元主席が提唱した中国は社会主義の初期段階であり、資本主義の要素も入れて経済を発展しなければならないが、共産党が指導により社会主義の道から外れてはならないという考え方を受け継いでいます。その上で、建国100年の2049年までに「社会主義現代化強国」を完成させ、、経済、軍事、文化などの分野で世界の頂点に立つことで、社会主義の初期段階を終わらせることを目標としています。

今回の共産党大会は習近平主席による長期の個人指導体制を目指した点で、過去の党大会と異なるものですが、政治面で習近平氏による強権政治となる恐れがあること、及び経済面で将来の成長企業が市場経済を志向する中で、政府の社会主義概念による国の管理体制の強化がそれを阻むことになりはしないか等の矛盾を含んでいるように思われます。

7.オーストリアの下院選挙で反難民の国民党が第1党へ
オーストリアの議会下院にあたる国民議会の選挙は1015日に実施されました。暫定の開票では、中道右派で31歳のクルツ党首が率いる国民党が31.4%、極右政党の自由党が27.4%、中道左派で連立与党を構成する社会民主党が26.7%となりました。この結果、国民党が第1党となり、クルツ党首が首相として新たな連立政権を作る可能性が高まっています。

今回の選挙では、難民政策が最大の焦点となり、今年5月に国民党の党首に就任したクルツ氏は難民受け入れの厳格化を主張、国民の幅広い支持を得ることに成功しました。

今後、もし、国民党が極右の自由党と連立を組めば、反難民でEU批判を掲げる連立政権が誕生することになり、EU内の亀裂が一層広がる危険性が予想されます。
        (2017111日: 村方 清)

                 

 

Sunday, October 1, 2017

北朝鮮情勢と金融正常化に影響される米国市場

 















1.9月の株式市場
9月の株式市場は前半期では北朝鮮情勢の変化によって相場が大きく上下しましたが、後半期は北朝鮮情勢に加えてFOMCによる金融正常化の動きによって影響されました。主要な動きは以下の通りでした。

91日:米政府発表の8月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比156,000人増で、市場予想の180,000人増を下回り(失業率も4.4%に悪化)、長期金利の上昇による金融株への投資家の積極買いもあり、39ドル高(0.18%増加)。
95日:北朝鮮の核実験強行など地政学リスクの高まりと長期金利の低下による金融株の売りで、234ドル安(1.05%減少)。
96日:前日の大幅安の反動と連邦債務引き上げ問題で超党派の合意に前進したとの見方から、54ドル高(0.25%増加)。
97日:米長期金利の低下で、JP Morganなどの金融株が売られ、23ドル安(0.10%減少)。
911日:北朝鮮の軍事挑発が後退したことに加え、大型ハリケーンの被害が予想を下回るとの見方から、260ドル高(1.19%増加)。
912日:北朝鮮情勢やハリケーン被害への警戒感が後退したことや長期金利の上昇による金融株の買いなどで、61ドル高(0.28%増加)。
913日:原油高を背景とするエネルギー株が買われたことや税制改革への期待から、39ドル高(0.18%増加)。
914日:原油先物相場が上昇し、前日に続きエネルギー株が買われ、45ドル高(0.20増加)。
915日:北朝鮮が弾道ミサイルを発射したものの、市場の反応は限定的で、好業績の期待が高まるボーイングや新製品発表のアップルが相場をけん引し、65ドル高(0.29%増加)。
918日:北朝鮮情勢の過度の警官感が和らいだことや長期金利上昇に伴う金融株の買いが強まり、63ドル高(0.28%増加)。
919日:長期金利上昇に伴う金融株の買いに加え、通信株も上昇し、39ドル高(0.18%増加)。
920日:FOMCで政策金利の維持と10月からの保有資産の縮小を決定したが、金融正常化のペースは加速しないとの判断がなされ、42ドル高(0.09%増加)。
921日:FOMCが年内の利上げ見通しが高まり、割高感のあるハイテク株を中心に売りが優勢で、53ドル安(0.24%減少)。
925日:アップルなどのハイテク株が多く売られたことや北朝鮮情勢の警戒感が高まったことで、54ドル安(0.24%減少)。
926日:前日に売られたアップルが買われる一方、マクドナルドなどが売られ、12ドル安(0.05%減少)。
927日:トランプ政権と共和党指導部による税制改革案が公表され、法人税率の引き下げへの期待から、56ドル高(0.25%増加)。
928日:米国の長期金利の高止まりら、金融株の買いが続いたことやアナリストの投資判断が上方修正されたマクドナルドが2%強上昇し、相場を押し上げ、40ドル高(0.18%増加)。
929日:利益確定の売りが優勢であったが、長期金利上昇にによる金融株の買いで、終了時は24ドル高(0.11%増加)。

2.米国の雇用状況
米労働省が91日に発表した8月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比156,000人の増加で、市場予想の180,000人増を下回りました。6月の雇用者数の確定値は210,000人で21,000人の減少、7月の改定値は189,000人で20,000人の減少、合計として41,000人の減少となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者の平均増加数は185,000人で、好調さの目安とされた200,000人に近い水準を下回りました。なお、1月の失業率は4.4%で、0.1%悪化しました(広義の失業率は8.6%で変わらず)。労働参加率は62,9%で、前月と同水準でした。8月の時間当たり賃金上昇率は前月比0.1%増加で、前年同月比では2.5%増と同じ水準でした。部門別では製造業が36,000人の増加、建設業も28,000人の増加となりました。

3.FOMC会合とQE政策の評価
1FOMC会合の結果
FOMC会合が91920日に開催されましたが、政策金利の現状維持と同時に10月からFRBの保有資産の縮小を決定しました。会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は緩やかに拡大している。雇用増はここ数カ月堅調さを保ち、失業率も低い水準を維持している。家計支出は緩やかなペースで拡大し、企業の設備投資もこの数四半期上向いた。インフレ率はエネルギーと食品の価格を除くと、鈍化し、2%を下回っている。アンケート調査では長期のインフレ予想はあまり変わっていない。

FOMCは法律で定められた使命を達成するために、雇用の最大化と物価安定の実現に努める。ハリケーン“ハービー”“イルマ”“マリア”は多くの地域社会に打撃を与え、深刻な被害をもたらした。ハリケーンの被害は短期的に経済活動の影響するであろうが、中期的に国の経済の進路を大きく変える可能性は低い。このため、FOMCは金融政策の運営姿勢の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大、労働市場の状況もさらにいくらか引き締まると予測する。インフレ率は中期的に2%付近で安定すると予測している。

景気見通しのリスクは短期的にほぼ均衡してきているようであるが、インフレ率の動向を注視する。

FOMCは労働市場情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.751%に据え置くことを決定した。FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、雇用の最大化とインフレ率2%という目標との比較で評価していく。インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。FOMCは経済情勢がFF金利の緩やかな引き上げを許すようなかたちで進むと予測している。

FOMC20176月の「政策正常化の原則と計画への付録」で説明したバランスシート正常化プログラムを10月に開始する(注)
(注)10月から3カ月間の縮小幅は米国債が月60億ドル、MBSなどが40億ドルに留める。縮小は段階的に増やして1年後にはそれぞれ月300億ドル、月200億ドルとして、資産縮小の規模は最大で6,000億ドルとなる見込み。。

今回の決定はイエレン議長を含む9人のメンバー全員一致による。

今回、FOMCで政策金利の維持と10月からの保有資産の縮小を決定したことについては金融正常化のペースは加速しないとの判断がなされたこともあり、ダウは42ドル高となりました。

2)量的緩和(QE)政策の評価について
FOMC200811月以降に導入したQE政策で、FRBが保有する資産は現在約4.5兆ドルに達しており、今回FOMCが保有資産の段階的な縮小を決定したのは金融政策の正常化の観点からすれば当然と見られています。それと同時に、連銀によるQE政策の必要性については専門家の間でも未だに評価が分かれています。イエレン連銀議長やバーナンキ前連銀議長は金融市場が正常な状態であれば必要ないが、ゼロ金利政策が有効でないような異常な状況下では、QE政策は導入される必要があるとしています。

これに対し、次の連銀議長の候補の一人とされるテイラー・スタンフォード大教授は連銀が金利の先行きについて指針を与えればすむことであり、QEは必要がなかったとしています(2008年に起きた金融危機も、グリーンスパン連銀議長が早めに金利引き上げを実行していれば回避されたものであり、QE政策も不要であったとしています)。また、エバンス・シカゴ地区連銀総裁も金融危機の際にQEを導入したことにより、連銀は本来の役割を変えてしまったと批判しています。また、ブラインダー・プリンストン大教授(元連銀副議長)などの多くの専門家は2008年秋に始められたQE1については金融危機の時期であり、効果があったものの、2010年年以降始められたQE2 QE3の経済全般に与える効果は限定的であったとしています。特に、プロッサー・前フィラデルフィア地区連銀総裁はQE2以降のプログラムは連銀の低金利政策と共に、企業の自社株買いや利益配当の財源により多く使われ、株式市場を歪めてしまったのではないかと見ています。

FRB保有資産の段階的な縮小の株式市場への影響については、金利引き上げと同様に相場の下落要因となると見られますが、過度な金融緩和策によって、実体経済以上に高騰した米国の株式相場の現状からすれば、漸次的に下落調整が進むことは株式市場の健全性からも望ましいことのように思われます。

なお、高値が続く住宅不動産についても FRB保有の住宅モーゲージ債券の売却が長期金利の上昇と共に、価格の下落調整によい影響が出ることが期待されます。

4.米債務上限の短期引き上げで合意
トランプ政権は96日に与党の共和党、野党の民主党の議会指導者と会談し、10月にも限度に達し、デフォルトしかねないと懸念されていた米債務上限について、民主党側提案による12月中旬までの短期の引き上げ案で合意しました。与党共和党は歳出見直しのために、来年中間選挙後までの長期の引き上げを求めたいとしましたが、大統領としては米国南部のハリーケーン被害の復旧を優先させるために、連邦政府の資金繰り問題を早期に解決する必要があると判断したとされています。

米上院は7日に承認、下院も8日に承認、この問題が短期的には解決されることになりました。

5.税制改革
トランプ大統領は927日に与党共和党との間でまとめた税制改革案を発表しました。中心は企業税制で連邦法人税を現在の35%から20%に引き下げと海外所得の課税の原則廃止などで、個人ではこれまでの7段階から3段階に簡素化すると同時に、最高税率を39.6%から35%へ引き下げなどとなっています。本来、トランプ大統領は法人税を15%へ引き下げると主張していましたが、議会の共和党は財政赤字を懸念、最終的に20%で決着したとされています。

超党派の調査機関である「責任ある連邦予算委員会」は今回の税制改革が実現されれば、10年間で2.2兆ドルの減税規模となり、GDPを年間で0.5%押し上げるとの見方もあります。しかしながら、減税に見合う財源がない状態で大幅減税を行えば、10年間で2.7兆ドルの財政赤字を拡大させると「責任ある連邦予算委員会」は見ています。財政規律を重視する共和党の多くの議員がこのような財政赤字を拡大させる税制改革案を用意したのかについては未だ疑問の点がの残ります。

また、野党である民主党は個人への減税の恩恵の多くが富裕層に向けられていることを強く批判しており、今回の税制改革案がそのまま議会で承認される可能性は低いのではないかと思います。

なお、今回の税制改革案が発表された927日の株式相場は法人減税の期待から、56ドル高となりました。

6.ドイツの連邦議会選挙の結果
924日に行われたドイツの連邦議会選挙では、メルケル首相が率いる与党のキリスト教民主・社会同盟(CDUCSU)が第一党を維持したものの、得票率は前回の41.7%を大きく下回る33%に留まりました(議席数で約60票減少の見込み)。それと同時に、連立を組んでいた社会民主党(SPDも戦後最低の21%に惨敗しました。一方、極右政党のドイツのための選択肢(AfD)は大きく躍進し、得票率で12.6%を獲得し、94の議席を得ることになりました。今回の選挙の結果、第二党のSPDは政権には加わらず、野党に転じることを決めたため、少数政党の自由民主党(FDP)や緑の党との連立を組む必要に迫まれています。

FDPと緑の党との連立は経済政策で大きな違いはないものの、環境政策や移民受け入れでは主張が異なるため、閣僚人事を含め、連立交渉が長引く可能性もあります。特に10月には地方選が予定されているため、それが終わるまでは進まないことも予想されます。いずれにしても、与党の予想外の不振はこれまでEUをリードしてきたメルケル首相の与党が国内面をこれまで以上に重視せざるを得ない状況をもたらすものとなりました。

7.国連総会での米朝対立
トランプ大統領は919日に国連総会での初めての演説で、何度にもわたる経済制裁にも拘わらず、核ミサイルの実践配備を進める北朝鮮を強く非難すると同時に、厳しい警告を与えました。

しかしながら、米国内では、トランプ氏の持論である米国第一主義に基づく加盟国の主権優先の主張は2回に渡る世界大戦の経験を踏まえ、国連が国益による対立を話し合いによって解決を図る目的で設立されたことの歴史的な経緯を完全に無視したような演説内容への批判も起きています。更にトランプ大統領の国益優先の対決姿勢は、いかなる場合でも政権維持を図りたい北朝鮮の金政権からの強い反発が予想されましたが、21日には金政権から超強硬措置の断行を検討するとの声明を受けることになりました。

加えて、トランプ大統領が演説で大きな間違いをしたのはイランとの間に米国、英国、フランス、ドイツ、ロシア、中国の5か国が2年簡に渡る厳しい交渉によって作り上げた核合意を米国にとって史上最悪の協定と呼び、破棄を含む見直しをしたいと主張したことです。トランプ大統領は就任以来、TPPを一方的に破棄, パリ合意からの脱退、NAFTAの見直しを進めていますが、米国政府が進めてきた国家間の合意や取り決めの軽視は北朝鮮にとって米国への更なる不信となってしまったように思います。

北朝鮮が核ミサイルの実戦配備に真剣に取り組み始めたのは、米国が北朝鮮に対してクリントン政権の融和政策からブッシュ政権の敵視政策(20021月の一般教書にある悪の枢軸発言)に変更したことが要因の一つとされていますが、今回の国連総会でのトランプ大統領の演説は外交を知らないトランプ政権の深刻な問題を改めて認識させる結果になりました。いずれにしても、米国も北朝鮮も、相反する異常な性格のリーダーが核戦争のボタンを握っているという世界にとって非常な事態をどのように回避・解決するかという極めて難しい問題に直面しているように思います。
          (2017101日:   村方 清)