Monday, April 1, 2019

逆イールドカーブが示す世界景気の後退リスク


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
1.3月の株式市場
3月の株式市場は引き続き米中貿易協議の行方が大きな株価動向要因になりました。同時に長期金利の低下による逆イールドカーブの発生が、投資家の世界経済後退への警戒感を起こさせました。主要な動きは以下の通りでした。

31日:米中首脳が3月半ばにも会談し、貿易協議が合意する可能性があるとの報道が伝えられ、投資家心理が改善し、金融株を中心に買いが優勢で、ダウは110ドル高(0.43%増加)。
34日:米中貿易合意が近いとの報道で一時買いが先行したが、その後、織り込み済みと見方から利益確定の売りが優勢となり、また医療保険大手のユナイテッドヘルスが医療保険改革の一環で大きく売られ、207ドル安(0.79%減少)。
35日:今月下旬に予定される米中貿易交渉の合意内容を確認したいとする投資家が多く、相場は方向感に乏しく、13ドル安(0.05%減少)。
36日:2018年の貿易統計でモノの赤字が8787億ドルと12年振りに過去最大となり、米中の貿易協議がの先行きに警戒感が広がり、133ドル安(0.52%減少)。
37日:欧州中銀が年内の利上げを見送ったことを受けて、米長期金利が下げ、利ざや縮小の観測から、金融株が売られ、200ドル安(0.78%減少)。
38日:中国の輸出入の減速に加え、2月の米雇用統計で雇用者増加数が20,000人増で、市場予想の180,000人増を大きく下回り(失業率は3.8%で0.2%改善)、23ドル安(0.26%増加)
311日:FRBが当面世界景気の動向を見守る姿勢を明確になり、投資家の安心感が広がり、幅広い銘柄に買いが優勢となって、201ドル高(0.79%増加)。
312日:ボーイング社製の墜落事故を受けえ、同型機の運航停止が各国に広がり、ボーイング株が6%安になり、96ドル安(0.38%減少)。
313日:1月の米耐久財受注額が市場予想に反して増加し、銀行や資本財などの景気敏感株の買いにつながり、148ドル高(0.58%増加)。
314日:米中の貿易協議を巡る警戒感が相場の重荷になったが、アップルなどのハイテク株の上昇が相場を支え、7ドル高(0.03%増加)。
315日:米中貿易協議が合意に向けて進展しているとの見方が広がり、投資家心理が改善して、
139ドル高(0.54%増加)。
318日:原油先物相場の上昇とFRBの利上げ慎重姿勢が示されるとの期待が大きく、石油と銀行株が買われ、65ドル高(0.25%増加)。
3月19日:前日までの上昇の反発と米中貿易交渉の進展への警戒感から、27ドル安(0.10減少)。
320日:トランプ大統領の記者会見での米中貿易交渉を巡る慎重発言に市場心理の悪化とFOM会合での2019年の利上げ予想回数がゼロとなり金融株が売られ、142ドル安(0.55%減少)。
321日:FRBが前日までに開いたFOMC会合で、年内の利上げを見送る方針を示したことに加え、アップルや半導体の上昇もあり、217ドル高(0.84%増加)。
322日:米欧での製造業関連の経済指標が市場予想を下回り、世界経済の減速懸念が高まったことや長期金利の大幅低下で逆イールドカーブが発生、金融株が下落、460ドル安(1.77%下落)
325日:前週末に生じた長短金利の逆転、逆イールドカーブの動揺が週明けも続き、景気の先行き不透明感から、投資家の慎重姿勢が見られ、15ドル高(0.06%増加)。
326日:石油株や金融株が買われ、相場を押し上げたが、米長短金利の逆転を受けての景気先行きへの警戒感も強く、上値は限られ、141ドル高(0.55%増加)
327日:米長短金利の逆縁減少を受けて、世界情勢の警戒感から売りが優勢となり、32ドル安(0.13%減少)。
328日:米中貿易協議の進展や長期金利の低下により、投資家の買いが優勢で、92ドル高(0.36%増加)
329日:米中貿易交渉が順調であったとの見方が広がり、投資家心理が改善、中国売上比率が高い企業を中心に幅広い銘柄が買われ、211ドル高(0.82%増加) 


2.米国の雇用状況
米労働省が38日に発表した2月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比20,000人の増加で、市場予想の180,000人増を大きく下回りました。12月の雇用者数の確定値は227,000人で5,000人の増加、1月の改定値は311,000人で7,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約186,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、2月の失業率は3.8%で、前月から0.2%低下しました。労働参加率は63.2%で、前月と同じ水準でした。2月の時間当たり賃金上昇率は前月比11セント増加で、前年同月比では3.7%増となりました。部門別では専門・ビジネスサービス業が42,000人の増加、ヘルスケア業が21,000人の増加となったものの、製造業は4,000人の増加に留まり、建設業は31,000人の減少となりました。
 
 
3.FOMC会合と金利引き上げ
FOMC会合が31920日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回1月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は引き続き力強さを保っているが、20181012月の底堅い伸びからペースが鈍化した。雇用者数は2月にはhとんど変わらなかったが、ここ数カ月を平均すると雇用増は堅調で、米失業率は低水準を保った。足元の指標は、13月期の家計支出と企業の設備投資の伸びの鈍化を示している。全般的なインフレ率は、主にエネルギー価格の低下で前年同月比ベースで下がったが、食品・エネルギーを除くインフレ率は2%付近で推移している。アンケート調査による測定では、長期のインフレ予想はあまり変わっていない。

法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。

この目標を支えるため、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを2.252.5%に据え置くことを決定した。FOMCは引き続き、持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、目標の2%前後付近のインフレ率がもたされるだろうと見ている。海外の経済・金融動向およびインフレ圧力が抑制されている点を考慮し、FOMCFF金利の誘導目標レンジの調整を様子見する。
FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む10人のメンバー全員の賛成による。
なお、今回のFOMC会合では、今後3年間の金融シナリオを改めて議論し、19年中の想定利上げ回数はゼロとなり、1812月時点の2回から、大幅に方針転換しました。また、同日の会合では米国債などの保有資産を縮小する「量的引き締め」を199月に停止することを決定しました。こうしたFOMCの利上げ観測の後退にもかかわらず、米中貿易交渉の不透明感から、ダウは142ドル安0.55%減少)となりました。


4.「合意なし離脱のリスク」が高まる英国
英議会下院は329日にEU離脱案の中で、離脱条件を定めた離脱協定案を切り離して採決、反対多数で否決しました。今回の投票では賛成286票、反対が344票で票差は58票で、1月の230票差や312日の149票差よりも票差は大幅に減少しましたが、与党からは40人程度の造反が出たとされています。29日の採決では過去2回と異なり、離脱案のうち通商協定など英・EUの将来の大枠を示す政治宣言案を分離し、離脱協定案の本体だけに絞り、329日までに英議会で可決すれば、離脱を522日までに延期することで合意していました。しかし、今回も合意が得られなかったことにより、英国政府は412日に今後の離脱方針をEUに示すことが求められ、合意なき離脱のリスクが高まったといえます。

これにより、英国政府は412日までに新たな方針を示すことが求められています。しかし、現在新たな代替案はなく、合意なき離脱に陥る可能性があります。一方で議会は313日に、「合意なき離脱を回避する」との動議を可決しており、41日にメイ首相の離脱案に代わる選択肢を議員主導で探す議論を再開することになります。議会では、EUとの関税同盟への恒久的な残留案や2回目の国民投票案を軸に調整を続けると見られますが、いずれもEUとの再交渉が必要な根本的な方針転換になり、英国の5月の欧州議会選への参加や522日以降の長期延期が欠かせなくなります。こうした状況を受けて、EU加盟国の間でも、412日に合意なき離脱となるシナリオの可能性への警戒感が高まっています。
           201941日: 村方 清)

Friday, March 1, 2019

米中貿易交渉進展への期待が先行した米国市場









 





1.2月の株式市場
2月の株式市場は1月と同じく、連銀の金融正常化慎重方針と米中貿易交渉進展への期待から、回復基調が顕著で222日には26,000ドル台になりました。しかし、月末に米朝首脳会談で合意がなかったため、地政学リスクへの警戒心から再び下落相場となりました。主要な動きは以下の通りでした。
21日:1月雇用統計で雇用者増加数が304,000人増で、市場予想の180,000人増を大きく上回り(失業率は4.0%で0.1%悪化)、賃金上昇率も年率3.2%であったことから、投資家心理が改善し64ドル高(0.26%増加)
24日:アップルやアマゾンなどハイテク株が買われたことやFRBの金融引き締めを急がないとの見方が広がり、175ドル高(0.70%増加)。
25日:米景気の先行き不透明感が後退し、米国主要企業の四半期業績発表でも底堅さが見られ、投資家心理が改善し、172ドル高(0.68%増加)。
26日:前日に2カ月ぶりの高値を付けたこともあり、利益確定売りが優勢で、21ドル安(0.08%減少)。
27日:米中貿易交渉が合意するとの期待が後退したことや欧州を中心に世界景気の減速懸念が
再燃したため、221ドル安(0.87%減少)。
28日:米中貿易協議の不透明感や世界景気の減速懸念が続き、63ドル安(0.25%減少)。
211日:米中貿易協議の進展に向けた動きへの期待から買いが先行したが、勢いは続かず、また
繋ぎ予算の期限切れによる政府機関の閉鎖も懸念され、53ドル安(0.21%減少)。
212日:米与野党指導部が新予算で基本合意し、米政府機関の再閉鎖回避の観測や11日からの米中次官級会議で貿易交渉の進展の期待から、373ドル高(1.49%増加)
213日:米中貿易交渉進展と米政府機関再閉鎖回避の期待が続き、118ドル高(0.46%増加)。
214日:朝方発表の昨年12月の米小売売上高が市場予想を前月比1.2%減で、米景気の不透明感が強まり、銀行株や資本財株に幅広く売りが出て、104ドル安(0.41%減少)。
215日:政府機関の閉鎖がなくなったことや北京での米中貿易交渉がワシントンで継続される方針が伝えられ、協議進展の期待から買いが膨らみ、444ドル高(1.74%増加)
219日:四半期決算が好調であったウォールマートが上昇、小売株に買いが広がり、8ドル高(0.03%増加)。
220日:FOMCの議事要旨で、資産圧縮の停止地金が2019年後半と明記されたことから、市場は前向きに反応し、63ドル高(0.24%増加)。
221日:2月のフィラデルフィア連銀製造業指数が20165月以来初めてマイナス圏に落ち込んだことや昨年12月の耐久剤受注額も市場予想ほど増えず、103ドル安(0.40%減少)。
222日:米中貿易交渉が進展し、3月中に米中首脳が会談し、最終合意を目指すことが明らかになったことで、181ドル高(0.70%増加)。
225日:トランプ大統領が24日に中国製品への関税引き上げの延期を表明し、米中の貿易協議が進展するとの期待から、幅広い銘柄に買いが優勢となり、60ドル高(0.23%増加)。
226日:四半期業績が不振であったホームデポや投資判断が悪化したキャタピラが大幅に下落し、34ドル安(0.13%減少)。
227日:米通商代表部のライトハウザー代表が下院の公聴会で、米中協議について合意までに慎重な姿勢を示したことから、市場の警戒感が増して、73ドル安(0.28%減少)。
228日:米朝首脳会談で北朝鮮の非核化で合意に至らず、地政学リスクの警戒に加え、医療保険制度改革の不透明感から、利益確定の売りが優勢で、69ドル安(0.27%減少)。
 
2.米国の雇用状況
米労働省が12日に発表した1月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比304,000人の増加で、市場予想の180,000人増を大きく上回りました。11月の雇用者数の確定値は196,000人で20,000人の増加、12月の改定値は222,000人で90,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約241,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を大きく上回りました。なお、12月の失業率は4.0%で、前月から0.1%上昇しました。労働参加率は63.2%で、前月から0.1%増加しました。1月の時間当たり賃金上昇率は前月比3セント増加で、前年同月比では3.2%増となりました。部門別ではレジャー・接客業が74,000人の増加、建設業が52,000人の増加、ヘルスケア業が42,000人の増加、専門業・ビジネスサービス業が30,000人の増加、運輸業が27,000人の増加、小売業が21,000人の増加となりました。
 
3.トランプ大統領の一般教書演説
トランプ大統領は当初129日に予定されていた一般教書演説を25日に上下両院合同会議で行いました。演説の冒頭で、2つの政党ではなく、1つの国家を、米国民のアジェンダと述べ、党派を超えた団結を訴えました。これは昨年の中間選挙で、下院多数派となった民主党を意識し、譲歩を迫るものでした。特に、これは民主党が進めようとしているトランプ大統領の不正に関する調査を牽制する意図があったものと見られます。
次に、経済面で政権発足後の2年間で、米国経済は前例のない好調ぶりを示してきたことを強調、雇用創出や賃金上昇、失業率の低下などの数字を示して成果を強調しました。しかし、その背景にはトランプ減税やインフラ歳出の拡大により、米国の財政が急速に悪化している状況には一切の言及がありませんでした。
更に、不法入国者の問題に多くの時間を割き、犯罪者や麻薬が米国に侵入しているとしているとして危機感を強調、米国民の命と雇用を守るために国境の壁を強化し、壁を建設する必要があることを改めて主張しました。これは2020年秋の大統領選挙を意識して、共和党内の支持層の確保のために、国境の壁の建設は譲れないことを改めて強調したものでした。
貿易面では、中国に対する不公正な貿易慣行を終わらせ、米国の慢性的な貿易赤字を解消し、米国民の仕事を守るために実質的な構造的な変化が含まなければならないとして、知的財産権の侵害を伴う中国の取引慣行に強い改善措置を求めました。
また、外交面では北朝鮮情勢に触れ、自分が大統領でなければ、北朝鮮とは戦争になっていただろうとして、22728日の両日にベトナムで金委員長と会談することを明らかにしました。北朝鮮との緊張緩和の傾向が出てきたことは評価されるものの、北朝鮮の非核化が殆ど進んでいない状況への言及はありませんでした。
いずれにしても、今回のトランプ大統領の一般教書演説は、来年の大統領選挙を意識して、自分の実績を強調すると共に、再選に不可欠と言える国境の壁の建設を強く呼びかけたものと言えます。しかし、野党の民主党からの反応は厳しく、大統領の思惑通りにはいかなかったと言えます。
 
. 米国2019年会計年度予算成立と壁建設のための非常事態宣言
トランプ大統領が2019会計年度予算の中に、国境の壁建設に必要な費用として57億ドルの予算を求められていた連邦議会は214日に両院とも壁の建設費用として137500万ドルを活用できるとする予算案を承認しました。トランプ大統領はこの予算案を不満としましたが、政府機関閉鎖の悪影響が大きいとして、15日にはこの予算案に署名しました。それと同時に、トランプ大統領は国境の壁建設は不可避として、15日に非常事態宣言を発表し、約81億ドルの費用を大統領権限で捻出することを明らかにしました。トランプ大統領としては19会計年度の137500万ドルに加え、非常事態宣言により、軍の工事予算から36億ドルを、国防総省の薬物対策費から25億ドル、財務省基金から6億ドルの合計約67億ドルを捻出して、全体で約81億ドルを壁建設に充当することを予定しています。
野党民主党は、トランプ大統領の非常事態宣言は大統領の権限を逸脱するもので、今回のケースが認められれば、議会の予算権限を奪うことになりかねないことや今後は大統領の権限が大きくなりすぎ米国憲法が定める三権分立制が機能しなくなるとし、訴訟に踏み切るとしています。これに対して、トランプ大統領は訴訟を覚悟の上で、最高裁で争う意向を示しているとされます。
今回の非常事態宣言に加え、米国政府が抱えるもう一つの大きな問題は31日に連邦政府の債務の法定上限が期限を迎えることになります。もし上限引き上げについて、米議会の与野党が合意を見なければ、米国債が債務不履行に陥るリスクも存在することになります。特に、現在、米国の債務はトランプ政権による大幅減税などで、211日に22兆ドルを突破しており、引き上げをめぐる議会の議論が激しくなることも予想されます。
 
5.第2回米朝首脳会談は合意見送り
米国内でトランプ大統領の元顧問弁護士であったマイケルコーエン被告の議会公聴会で、トランプ大統領の不正を次々に明らかにする中で、外交面での輝かしい成果を期待していたトランプ大統領にとって第2回目の米朝首脳会談は予想外の展開になりました。トランプ大統領としては核開発の主要拠点である寧辺の核施設の廃棄だけでなく、その他の非核化の取り組みを求めたものの、北朝鮮側はこれに応ぜず、逆に国連による制裁の全面的解除を要求し、交渉は決裂となりました。
今回の交渉が決裂となった最大の理由は、北朝鮮の金委員長がトランプ大統領の立場を読み違えたことにあり、国内面で追い込まれているトランプ大統領であれば、更なる非核化を実行しなくても、北朝鮮に対する制裁をかなり解除するとのではないかとの思惑が強く働いたことにあると思われます。トランプ大統領としては、国内面で追い込まれているとは言え、非核化の面で第1回の首脳会談以降に北朝鮮が表明してきた内容以上に進展がない状況では、北朝鮮にこれ以上の譲歩することは行き過ぎとの考えに同調したものと見られます。
交渉は今後も継続されますが、北朝鮮の非核化を求める米国と核保有を最大の交渉材料にしたい北朝鮮の考え方の違いは大きく、今後の展望は依然として見通しが立てられない状況です。
         201931日: 村方 清)
                                  
 

Friday, February 1, 2019

連銀の金融正常化慎重方針と回復基調の米国市場







 
 
 
 
 
 
 
  
1.1月の株式市場
1月の株式市場は12月末の政府機関の閉鎖という動きはあったものの、連銀が金融正常化を急がないとの方針を出したことや米中貿易交渉の進展への期待もあり、回復基調となりました。主要な動きは以下の通りでした。

12日:朝方にダウ平均が400ドル近く下げることがあったが、その後、米中貿易交渉の進展への期待と米企業業績からみた割安感から買いが入り、ダウは19ドル高(0.08%増加)。
13日:アップルの売上高見通しの引き下げ、中国の景気減速やスマートフォンの需要減退への懸念から、アップル経済圏の銘柄に売りが広がり、660ドル安(2.83%減少)。
14日:12月雇用統計で雇用者増加数が312,000人増で、市場予想の180,000人増を大きく上回り(失業率は3.9%で0.2%悪化)、賃金上昇率も年率3.2%であったこと及びパウエル連銀議長が金融政策の正常化を急がないと受け止められ、747ドル高(3.29%増加)
17日:米中の次官級貿易会議に関連して、交渉の進展への期待で、98ドル高(0.42%増加)。
18日:米中貿易協議の進展への期待から、中国事業の比率が高いボーイングやアップルを中心に多くの銘柄で買いが鵜優勢で、256ドル高(1.09%増加)。
19日:9日に終了した米中貿易協議の進展に加え、パウエル連銀議長の公開討論会での利上げや資産圧縮についての慎重発言が伝えられ、92ドル高(0.39%増加)。VIX指数も19台に低下。
110日:米中貿易交渉の進展による投資家心理の改善やFRBの利上げを急がないとの見方から、123ドル高(0.51%増加)。
111日:昨日までの相場上昇で、利益確定目的とする売りが優勢で、6ドル安(0.02%減少)。
114日:中国の貿易統計から中国経済の減速懸念が示されたことや米政府機関の閉鎖で米国政治の不透明感が広がり、86ドル安(0.36%減少)。
115日:サービス料金の引き上げをしたネットフリックスや四半期業績がが好調であったユナイテッドヘルスが大きく株価を上げ、156ドル高(0.65%増加)
116日:ゴールドマンサックスやバンクオブアメリカの四半期業績が好調で、金融株が相場を押し上げ、142ドル高(0.59%増加)。
117日:米政府が対中関税の引き下げを検討していると伝えられ、米中貿易摩擦の懸念が後退し、投資家心理が改善、163ドル高(0.67%増加)。
118日:米中政府の歩み寄りで貿易交渉が進展するとの期待が高まり、336ドル高(1.38%増加)。
1月22日:中国や世界経済の景気減速への警戒感が広がり、海外市場の売り上げ比率が高い企業の銘柄が幅広く売られ、302ドル安(1.22%減少)
123日:四半期業績が好調であったIBMが相場をけん引し、171ドル高(0.70%増加)。
124日:ロス商務長官の発言により米中貿易協議の進展に対する期待が後退し、22ドル安(0.05%減少)
125日:FRBが金融正常化のペースを緩めるとの思惑の広がりに加えて、米中貿易摩擦の交渉の進展への期待から、184ドル高(0.75%増加)
128日:四半期業績が不振であったキャタピラーにより、中国の需要低迷が意識され、市場のリスク資産への配分が減少し、209ドル安(0.84%減少)。
129日:スリーエムなど四半期決算が市場予想を上回った銘柄が買われたものの、今週開催されるFOMCの結果を見たい投資家も多く、52ドル高(0.21%増加)。
130日:FOMCの声明文が公表となり、FRBの利上げ慎重姿勢が改めて確認できたことから、市場の安心感が広がり、435ドル高(1.77%増加)。
131日:前日に大幅高となった反動で利益確定売りが優勢であったことや四半期業績が不振であったことに加え、長期金利の低下で銀行株が下げたことで、15ドル安(0.06%減少)。

2.米国の雇用状況
米労働省が14日に発表した12月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比312,000人の増加で、市場予想の180,000人増を大きく上回りました。10月の雇用者数の確定値は274,000人で37,000人の増加、11月の改定値は176,000人で21,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約287,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を大きく上回りました。なお、12月の失業率は3.9%で、前月から0.2%上昇しました。労働参加率は63.1%で、前月から0.2%増加しました。12月の時間当たり賃金上昇率は前月比11セント増加で、前年同月比では3.2%増となりました。部門別では専門・ビジネス・サービス業が42,000人の増加、飲食サービス業が41,000人の増加、建設業が38,000人の増加、製造業が32,000人の増加、小売業が24,000人の増加となりました。

3.FOMC会合と金利引き上げ
FOMC会合が12930日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回12月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は堅調に拡大した。雇用増はここ数か月間平均すると力強く、失業率は低位を保った。家計支出は力強く拡大を続けたが、企業の設備投資は昨年前半の高い伸びと比べ緩やかになった。全般的なインフレ率及びエネルギーと食品を除くインフレ率はいずれも、前年同期比ベースで2%付近で推移している。長期のインフレ予想を示す指標は総じあまり変わっていない。

法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。

この目標を支えるため、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを2.252.5%に据え置くことを決定した。FOMCは引き続き、持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、目標の2%前後付近のインフレ率がもたされるだろうと見ている。海外の経済・金融動向およびインフレ圧力が抑制されている点を考慮し、FOMCFF金利の誘導目標レンジを調整するのを様子見する。

FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。
今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む10人のメンバー全員の賛成による。

なお、今回のFOMC会合後の記者会見で、パウエル議長は利上げ終結の可能性と共に、連銀の保有資産を圧縮する「量的引き締め」も当初想定したよりも早期に終了することを明言しました。連銀の金融正常化慎重方針が確認されたことで市場の安心感が広がり、435ドル高(1.77%増加)となりました。

4.トランプ大統領の譲歩による政府機関閉鎖の一部解除
トランプ大統領は125日に米政府機関の一部閉鎖の解除で与野党と合意しました。従来主張してきた“国境の壁”の建設予算を含まないつなぎ予算を215日までの3週間を容認しました。これにより、昨年1222日に始まり、過去最長を更新していた閉鎖期間は35日目で一時的に終了することになりました。トランプ大統領が今回閉鎖の解除を決めたのは、政府の無給職員の数が80万人超に達し、米国の経済に与える影響が無視できなくなったこと、更に与党共和党からもトランプ大統領に早期の譲歩を求める動きが広がったことがあげられます(トランプ大統領の支持率は34%まで低下)。

今後、トランプ大統領の意向を踏まえた与党の共和党と野党の民主党の協議が215日まで続けられることになりますが、米国政府の財政赤字が急増している中で、約57億ドルという巨額の歳費を“国境の壁”の建設にトランプ大統領の要求に相当な無理があると思われます。トランプ大統領としては2020年の再選に向けて、彼の支持層を繋ぎとめるためには選挙公約である“国境の壁“を実現しなければという超保守派の考えに影響されているとの見方も出ています。しかし、トランプ大統領が非常事態条項を使っても”国境の壁“の建設に固執すれば、他の共和党グループが離れていくという矛盾を抱えているだけに、大統領はより現実的な選択をすることが求められているように思われます。

5.英国議会によるEU離脱案否決と今後の行方
英国議会下院は115日にEUと合意した離脱案を賛成202票、反対432票の大差で否決しました。野党はこれを受けて、メイ政権に対する内閣不信任案を提出しましたが、与党からの十分な賛成票は得られず、否決となりました。これを受けて、メイ首相は代替案について、他党とも対話をする方針を示し、21日にアイルランドの国境問題への対応の修正を検討する代替案を発表し、29日に他の修正案と共に、採決にかけられる予定ですが、承認が得られる可能性は依然低いままに留まっています。

こうした状況の中で、与野党議員から3月末の離脱延期を求める修正案が相次いで提出されました。離脱延期を求める修正案はEU残留派の議員グループが提案していましたが、その狙いは英国経済に大混乱を与えかねない“合意なき離脱”を阻止するのが目的でした。しかし、この案は29日に僅差で否決されました。29日で承認された修正案は、アイルランドとの国境問題への対応でEUに対して修正を求めるというものですが、EU側は昨年11月に合意した離脱案の修正には応じないとの方針であり、これが実現する見通しは依然立っていません。
           (201921日:村方 清)

 

 

Tuesday, January 1, 2019

混迷するトランプ政権の政策と不安定化する市場















1.12月の株式市場
12月の株式市場はFOMC会合が開かれる1819日までは米中貿易摩擦問題の長期化とFRBの金融引き締めへの警戒感から下落基調が続き、それ以降は国境の壁建設を巡るトランプ政権と野党の対立から一部政府機関の閉鎖などから、不安定な展開となりました。主要な動きは以下の通りでした。

123日:1日の米中首脳会談で米国が年明けからの中国への追加関税を90日間猶予したことで合意したことや米原油相場の反発から、買いが優勢となり、288ドル高(1.13%増加)。
124日:米国の債券市場で、一部の年限での長短金利の逆イーグルが起きたことを受け、景気減速の懸念が広がったことや米中貿易協議の懸念から、799ドル安(3.10%減少)。
126日:中国通信大手の幹部の逮捕が米中関係の悪化を招くとの懸念が強まり、一時785ドル安まで下げたが、取引終了前に米利上げ休止観測から、下げ幅を縮め、79ドル安(0.32%減少)。
127日:11月雇用統計で雇用者増加数が155,000人増で市場予想の190,000人増を下回り(失業率は3.7%で同水準)、賃金上昇率も年率3.1%であったこと及び米中摩擦問題の懸念が強まり、アップルなどを中心にハイテク株が大幅に下がり、559ドル安(2.24%減少)
1210日:英国がEU離脱を巡る議会投票が延期されたことにより、一時500ドル下落したが、その後、大きく下落していたアップルが持ち直し、34ドル高(0.14%増加)。
1211日:米中貿易交渉の長期化と米予算編成をめぐるトランプ大統領と民主党幹部との対立が伝えられ、53ドル安(0.22%減少)。
1212日:米中貿易交渉の進展が期待される報道で中国売上が大きい銘柄を中心に買いが広がり、米長期金利や原油先物相場の上昇で金融や石油株も買いが入り、157ドル高(0.64%増加)。
1213日:米中貿易問題の進展や原油先物相場の上昇で、70ドル高(0.29%増加)。
1214日:中国と欧州の経済指標が景気減速を示す内容となり、投資家のリスク回避姿勢が強まり、497ドル安(2.02%減少)。
1217日:1819日に開催されるFOMCで今年4回目の利上げに踏み切る可能性が高く、投資家がリスク回避の姿勢を強め、508ドル安(2.11%減少)。
1218日:前日まで大幅下落した反動で、自律反発を見込んだ買いが優勢であったが、FOMCの結果を19日に控え、午後は買い見送りムードが強まり、伸び悩みで、87ドル高(0.35%増加)。
1219日:FOMCが今年4回目の利上げを決定、FRB議長の記者会見で2019年も緩やかな利上げを続ける姿勢を示したことで、市場の警戒感が強まり、352ドル安(1.49%減少)。
1220日:FRBの今後の金融政策が引き締め的になるとの見方から株価の割高感が意識され、更に米連邦政府機関の一部閉鎖の可能性が高まったとの報道から、464ドル安(1.99%減少)。
1221日:景気減速の懸念や米政府機関の一部閉鎖への警戒感などから、投資家のリスク回避姿勢が強まり、414ドル安(1.81%減少)。
1224日:ムニューシン財務長官が米銀大手首脳と電話会談し、決済等に問題がないことを確認したが、これが逆に金融市場の混乱を招いて投資家のリスク回避姿勢を強め、653ドル安(2.91%増加)。
1226日:12月の株価急落の影響で、機関投資家の運用資産に占める株式の組み入れ比率が下がったことから、基準値に戻す必要から買いが優勢で、1,086ドル高(4.98%増加)。
1227日:下落基調が続いた反動で、持ち高調整の買いが次第に大きくなり、260ドル高(1.14%増加)
1228日:国境の壁建設を巡って、トランプ大統領と野党民主党が対立し、政府機関の一部閉鎖が続く見通しであることや世界経済の減速懸念から、76ドル安(0.33%減少)。
1231日:米中貿易交渉の進展への期待と機関投資家の年末の買い増しなどで、265ドル高(1.15%増加)。ダウは2018年全体で年間5.6%の下落。

2.米国の雇用状況
米労働省が127日に発表した11月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比155,000人の増加で、市場予想の190,000人増を下回りました。9月の雇用者数の確定値は119,000人で1,000人の増加、10月の改定値は237,000人で13,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約170,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、9月の失業率は3.7 %で、前月と同水準でした。労働参加率は62.9%で、前月と同水準でした。10月の時間当たり賃金上昇率は前月比6セント増加で、前年同月比では3.1%増となりました。部門別ではレジャー・ヘルスケアが32,000人の増加、専門・ビジネス・サービス業が32,000人の増加、製造業が27,000人の増加となりました。

3.FOMC会合と金利引き上げ
FOMC会合が101819日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回11月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は力強く拡大した。雇用増はここ数か月間平均すると力強く、失業率は低位を保っている。家計支出は拡大を続けたが、企業の設備投資は今年前半の高い伸びと比べ緩やかになった。全般的なインフレ率及びエネルギーと食品を除くインフレ率はいずれも、前年同期比ベースで2%付近で推移している。長期のインフレ予想を示す指標は総じあまり変わっていない。

法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジをさらに若干、段階的に引き上げることは持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、中期的に目標の2%前後付近のインフレ率と整合すると判断している。景気見通しのリスクはほぼ均衡していると判断しているが、引き続き世界景気や市場動向を注視し景気見通しへの影響を分析する。

FOMCでは労働市場の情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを2.02.25%に引き上げることを決定した。

FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。
今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む10人のメンバーの賛成による。

連銀は19日のFOMC会合で3カ月ぶりの利上げを決定しました。米経済は失業率が49年ぶりの水準まで低下するなど堅調で、投票メンバー10人の全員一致で年内4回目の利上げとなりました。その一方、先行きの金融政策見通しでは、19年の想定利上げ回数は計2回が中央値となりました。この背景には物価に過熱感がないことが先行きの利上げ慎重論になっていると見られます。
なお、今回のFOMCの結果発表後に米債券市場で長短金利の差が縮まり、利さやが縮小するとの観測から、金融関連株が売られ、352ドル安となりました。

3.トランプ大統領の求める“国境の壁”と政府機関閉鎖問題
トランプ大統領が選挙期間中に主張していた“国境の壁”が政府予算の措置との関係で新たな問題を迎えています。本来、トランプ大統領の主張はメキシコ側の負担で“国境の壁”を建設するものだったのですが、メキシコ政府が全く応じる姿勢を示さなかったことから、大統領が米国内で予算手当を行うことで建設することに変わった経緯があります。しかしながら、米国財政はトランプ大統領と与党共和党が掲げた大幅減税で昨年末に実行されたことにより、急激に悪化してきており、大統領が主張する約50億ドルと言われる国境の壁が議会で受けいれられる可能性は極めて低いとおもわれます。会期切れであった1222日に野党民主党との話し合いが行われましたが、民主党幹部は国境の壁は税金の無駄使いとして受け入れず、トランプ大統領は“国境の壁”の建設のための予算措置が講じられない限り、政府機関の一部閉鎖もありえると反論、それを実行に移しました。そして、1227日と31日に渡って与野党の話し合いが行われましたが、意見の一致を見ず、現状では政府機関の閉鎖は年を越す可能性が高まってしまいました。

4.混迷する英国のEU離脱問題
メイ首相は1211日に予定されていたEUとの離脱合意案の議会採決を大差で否決される見通しが高いとして、延期しました。その後に、メイ首相は17日に英議会による採決を来年114日からの週に採決する意向を示しました。同時に、18日の閣議では、協定案が承認されず、合意なし離脱に追い込まれた場合の対応について協議、物流の混乱が予想される国境の管理や治安維持などのために、合計20億ポンドの予算を配分することを承認しました。また、ウイリアムソン国防相はこの日の議会で、合意なし離脱に備え、各省庁をサポートするために3500人規模の兵士を派遣する準備をすることを表明しました
 
英国とEU11月に合意した協定案では、英領北アイルランドと地続きのアイルランドとの間で人や物の自由な行き来を続けるため、解決策がない限り、英国全体がEUの関税ルールに従い続けるという非常措置が盛り込まれていました。これについて、与党保守党の強硬離脱派は永久にEUルールに縛られるなどと反発、メイ首相は非常措置の期限を区切るなどの保証をEUから引き出すように協議を続けていますが、現時点では成功していません。いずれにしても、英国のEU離脱問題は期限である3月末に近づいているものの、合意の見通しが立たない状況です。
                      20191月1日: 村方 清)

 

 

Saturday, December 1, 2018

中間選挙後のトランプ政権の経済運営と市場への影響















111月の株式市場
11月の株式市場は、116日の中間選挙まではトランプ政権の政策への期待が高く、株式市場は上昇傾向が続きました。しかし、選挙の結果、上院は過半数を維持したものの、下院は与党が約40の議席を失い、今後のトランプ政権の経済運営の厳しさを予想させることとなりました。但し、月末はFRB議長の利上げ慎重発言などから、上昇傾向が続きました。主要な動きは以下の通りでした。

111日:米中首脳が貿易摩擦問題の打開に向けて協議することで一致したとの報道に加え、化学のダウ・デュポンなど主要企業の四半期業績が好調で、ダウ価格は265ドル高(1.06%増加)。
112日:10月雇用統計で雇用者増加数が250,000人増で市場予想の190,000人増を大きく上回り(失業率は3.7%で同水準)、賃金上昇率も年率3.1%に上昇、長期金利上昇への警戒感が高まり、110ドル安(0.43%減少)。
115日:IBMやシェブロンが買われ、相場を押し上げ、191ドル高(0.76%増加)。
116日:IBMやキャタピラーなどの銘柄が買われ、173ドル高(0.68%増加)
117日:中間選挙の結果が予想通りとして、投機性が高まり、545ドル高(2.13%増加)。
118日:前日に大きく上昇した反動やFOMCの声明文で段階的な利上げの継続方針が出たことで、利益確定の売りも多く出たが、年末に向けた株高への期待で、11ドル高(0.04%増加)。
19日:FOMCの利上げげ継続観測が重荷となり、さらに原油先物相場の下落を受けた世界景気の減速懸念から、投資家がリスク回避姿勢を強め、202ドウ安(0.77%減少)。
1112日;販売減速懸念のアップルが5%下落、他のハイテク株も売られ、更にマレーシアでの資金流用問題が指摘されるゴールドマンサックスも7%強の下落で、602ドル安(2.32%減少)。
1113日:飛行制御システムに問題があったボーイングが大幅に下落、原油先物相場も下落したため、101ドル安(0.40%減少)。
1114日:中国景気の減速や原油先物相場の低迷で、売りが優勢となり、アップルや金融株の下げで、206ドル安(0.81%減少)。
1115日:一時売りが先行し300ドル近く下げたが、米中貿易交渉の進展を期待させる報道から買いが優勢になり、208ドル高(0.83%増加)。
1116日:米中貿易問題について、中国側が追加関税を課さない可能性を示唆したとのトランプ大統領の発言で、警戒感が薄れ、また長期金利も低下し、124ドル高(0.49%増加)。
1119日:アップルを始め大手IT株が売り込まれたこと、米中貿易摩擦の先行き不透明感が増したこと、住宅関連の指標が落ち込んだことなどで、396ドル安(1.56%減少)。
1120日:販売不振のアップルの売りが続いていること、原油安で石油株も下落、利ザヤ縮小で金融株の下落などで、552ドル安(2.21%減少)。年初来の騰落率で再びマイナス。
1121日:一時大きく売られた銘柄を中心に買いが入ったが、米中貿易摩擦問題の行方や世界景気減速への懸念から、取引終了時にかけて伸び悩み、1ドル安(0.00%減少)。
1123日:原油先物相場の下落で石油株が大幅に下げ、長期金利の低下で金融株も売られ、業績懸念のアップルも4日連続で下落、179ドル安(0.73%減少)。
1126日:年末商戦が好調な滑り出しになったことや原油安が一服したことなどから、幅広い銘柄に買いが入り、354ドル高(1.46%増加)。
1127日:米中貿易交渉の期待から、108ドル高(0.44%増加)。
1128日:パウエル連銀議長の発言で、利上げ打ち止めが近いとの思惑や今月末に予定される米中会談で米中間の貿易摩擦問題に進展が見られるとの期待から、618ドル高(2.50%増加)。
1129日:前日に急伸した反動で目先利益を確定する売りが優勢で、28ドル安(0.11%減少)。
1130日:121日の米中首脳会談での貿易交渉進展への期待で、200ドル高(0.79%上昇)。

2.米国の雇用状況
米労働省が112日に発表した10月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比250,000人の増加で、市場予想の190,000人増を大きく上回りました。8月の雇用者数の確定値は286,000人で16,000人の増加、9月の改定値は118,000人で16,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約218,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を上回りました。なお、9月の失業率は3.7 %で、前月と同水準でした。労働参加率は62.9%で、前月から0.2%上昇しました。10月の時間当たり賃金上昇率は前月比5セント増加で、前年同月比では3.1%増となりました。部門別ではレジャー・ヘルスケアが42,000人の増加、建設業が30,000人の増加、製造業が32,000人の増加となりました。

3.中間選挙の結果-トランプ政権への厳しい批判
116日に中間選挙が行われ、直後にトランプ大統領は与党の共和党が上院で過半数を維持したことで大勝利と発言しましたが、時間が経過するにつれ、トランプ政権にとって極めて厳しい結果となりました。上院については、与党の共和党が53議席で選挙前の51議席から2議席増加したものの、共和党の非改選が42議席もあったことよりすれば、決して大きく議席数を増加させたとは言えない状況でした。

厳しい結果となったのは下院で、定足数の435議席が全て改選の対象となり、民主党は235議席で選挙前の195議席から40議席増加、共和党は200議席に留まりました。同時に州知事選挙についても、改選された36州の選挙で、民主党が議席数を伸ばし、改選前の16人から23人となる一方、共和党は33人から27人に減少しました。

今回の選挙の特徴は、投票率が47%と従来の中間選挙より大幅に増加、若者や女性の参加が激増したことでした。そうした中で、民主党が下院で大幅に躍進した理由は、下院の全議席が選挙の対象となり、米国民の意見がより反映されやすく、多くの女性票が反トランプに流れたこと、かつ米国民の関心は医療費関連が41%で最大、トランプが強調した移民問題は23%、経済問題は21%でしかありませんでした。この分野でトランプや共和党がオバマケアに対抗できるような魅力的な医療保険制度を提示できなかったことが下院の大敗になったと見られています。

民主党は下院で過半数を取ったことにより、全27委員会の委員長ポストを独占、トランプのロシア疑惑問題だけでなく、税申告問題、メインバンクであるドイツ銀行との取引の実態、トランプ所有のホテルの外国要人使用問題(憲法規定のEmoluments条項違反)などの調査が大きく進むものと見られます。

今回の選挙後、トランプ大統領はインフラ投資などで、下院で多数派となった野党の民主党と協調する姿勢を示しましたが、一番大きな問題は財源で、2019年度には1兆ドルを超えると見られる財政赤字の中で、両党の合意が得られるかは全く見通しが立ちません。最近の報道では、トランプ大統領は財政赤字の深刻さに懸念を抱き始め、議会関係者に歳出抑制を指示したと言われていますが、今回の財政赤字の主要な原因は昨年12月の企業や富裕層に対する大幅な減税であったことに対する認識が極めて低いことが大きな問題になります。。

4.FOMC会合とパウエル連銀議長の発言への反応
FOMC会合が11月7-8日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回9月のFOMC会合後に得た情報によれば、雇用増はここ数か月平均すると力強く、失業率は低下した。家計支出は力強く拡大したが、企業の設備投資は今年前半の高い伸びと比べ緩やかになった。全般的なインフレ率及びエネルギーと食品を除くインフレ率はいずれも、前年同期比ベースで2%付近で推移している。長期のインフレ予想を示す指標は総じあまり変わっていない。

法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジをさらに段階的に引き上げることは持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、中期的に目標の2%前後付近のインフレ率と整合すると予測している。景気見通しのリスクはほぼ均衡してきているようだ。

FOMCでは労働市場の情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを2.02.25%に据え置くことを決定した。
FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む9人のメンバーの賛成による。

連銀は8日のFOMC会合で金融政策の現状維持を決め、追加利上げを見送りました。その一方、米国経済は大型減税で成長率が3%台に高まり、物価上昇率も目標の2%に達しており、これを踏まえて、声明文では更なる利上げが正当化されるとして、改めて言及、12月の次回会合で追加利上げに踏み切る可能性を示唆しました。

なお、今回のFOMCの結果発表後は、金利を据え置いたことや前日に大きく上昇したこともあり、ダウは11ドル高に留まりました。

一方、1128日にはパウエル連銀議長はニューヨークで講演し、当面の利上げの継続をにじませながら、政策金利が「中立金利」に近いと言及し、利上げの停止時期を慎重に見極める考えを示唆しました。市場はこの発言が利上げ打ち止めが近いとの思惑から、618ドル高となりました。

5.英国とEUの離脱合意
英国政府とEU1125日に英国のEU離脱交渉に関し、2つの点を中心とする合意案を正式に決定しました。それによれば、最初の離脱協定案では、離脱後も2020年末までは英国をEUの単一市場・関税同盟に残留させる「移行期間 を導入、さらに必要ならば最長2年、一回限りの延長を認めることを織り込みました。これにより、英国は移行期間中、EUとの間で関税同盟のメリットを受けられるものの、一方で英国はEUの法律やルールに従わざるをえず、更にEUへの財政負担を求められることになります。次に、2つめの政治宣言案は、離脱後の通商交渉について、包括的な自由貿易圏を目指すとしながらも、FTAを軸としたいEUETAよりも深い関係を築きたい英国との間の溝は以前埋まっていない状況です。最後に、交渉が難航してたアイルランド国境問題も決着を先送りし、移行期間が終わるまでに具体策を見つけることになりました。

実質上、重要事項を先送りした今回の合意案は1211日に予定される英国議会での承認が必要になりますが、与党・保守党の強硬派の立場からすれば、この合意案では離脱が名ばかりになる恐れがあります。一方、議会が承認しなければ、20193月以降は合意なく離脱となり企業活動や国民生活が大混乱する恐れがあります。いずれにしても、議会の承認が得られるかどうかによって、英国は以前として困難な状況が続くことになります。
        2018121日: 村方 清)