Sunday, September 1, 2019

トランプ大統領の時代遅れの経済政策が招く株式市場の混乱


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
1.8月の株式市場
8月の株式市場は、米中貿易協議に関する両国関係者の発言に大きく影響されたことや景気後退の前兆とされる逆イールド現象が起きて、株式市場の混乱が続きました。主要な動きは以下の通りでした。
 
81日:トランプ大統領が午後に、中国に対し残りの3000億ドルへも91日から10%の追加関税を課すと発表したことで、市場全体に動揺が広がり、281ドル安(1.05%減少)。
82日:7月の米雇用統計は雇用者増加数が164,000人増で、市場予想とほぼ同水準だったこと(失業率は3.7%で前月と同じ)に加え、トランプ大統領が前日に対中制裁関税「第4弾」の発動を表明し、米中貿易摩擦問題が厳しくなるとの懸念が広がり、98ドル安(0.37%減少)
85日:トランプ大統領が中国への追加関税を発表して以来、世界経済の不安が急激に高まり、投資家のリスク回避姿勢の強まりから、767ドル安(2.90%減少)。
86日:中国当局が元安進行を抑制するとの姿勢を示したことで、米中貿易戦争への過度の懸念が和らいだことや5日に767ドル安となったことの反動で、312ドル高(1.21%増加)
87日:欧米の長短金利が大幅に低下し、世界景気の減速が意識されたことから、一時下げ幅が589ドルに拡大するなど投資家のリスク回避姿勢が強まり、22ドル安(0.09%減少)。
88日:7月の中国貿易統計で輸出が予想以上に増加したのを受けて、世界景気減速への懸念が後退、かつ中国人民銀行が人民元のレートを予想より高く設定したことから、371ドル高(1.43%増加)
89日:世界経済の不透明感に加え、トランプ大統領が9月の米中貿易協議について中止する可能性を示唆したこともあり、91ドル安(0.34%減少)。
812日:米中対立の長期化による世界経済の減速懸念から、投資家のリスク回避姿勢を強め、米長期金利の指標である10年物国債の利回りが低下、390ドル安(1.48%減少)。
813日:中国に対する第4弾の制裁関税について、米国政府がスマートフォンなどの一部品目を12月に先送りすると発表、米中貿易摩擦の緩和が期待され、373ドル高(1.44%増加)
814日:中国や欧州の経済指標の悪化を受け、貿易摩擦による世界経済の停滞に加え、米国債市場で10年物国債と2年物国債の利回りが逆転する逆イールド現象が12年振りに起こり、投資家の警戒感が強まり、800ドル安(3.05%減少)。
815日:四半期業績が好調であったウォルマートが6%高であったことやコカ・コーラなどの飲料・日用品銘柄が相場をけん引し、100ドル高(0.39%増加)
816日:景気の減速懸念を招いた長期金利の低下が一服し、金融やハイテク株を中心に幅広い銘柄に買いが入り、307ドル高(1.20%増加)
819日:米中貿易摩擦の激化への警戒感が和らいだことに加え、米長期金利の低下が一服したこともあり、相場の押し上げが見られ、250ドル高(0.96%増加)。
820日:米中貿易摩擦の懸念と香港の大規模デモの継続に加えて、イタリア首相の辞任に伴う政局の流動化で欧州市場が全面安となり、米金利の低下もあり、173ドル安(0.66%減少)。
821日:小売業のターゲットやロウズなどの四半期決算が市場予想を上回ったことから、米国の個人消費の堅調さが維持されているとの見方から、240ドル高(0.93%増加)。
822日:航空機のボーイングが新型機の運行再開に向けた前向きの評価や増産計画が伝えられ、ダウ平均を押し上げ、50ドル高(0.19%増加)
823日:中国が米国の対中報復関税「第4弾」への報復関税を発表したのに対して、トランプ大統領がツイッターで対応策を講じる投稿、米中貿易摩擦の激化が警戒され、中国への収益依存度が高い銘柄を中心に売りが広がり、623ドル安(2.37%減少)
826日:トランプ大統領が中国との貿易協議再開を表明したことに加え、イランとの首脳会談への前向きな姿勢を示したことを好感、270ドル高(1.05%増加)。
827日:米中貿易協議について進展を期待させる材料がなかったことや景気後退の前兆とされる逆イールド現象が強まったところから、121ドル安(0.47%減少)
828日:米中貿易摩擦の悪材料がなかったことや逆イールド現象の度合いが和らいだこともあり、JPモルガンなどの金融株を中心に買いが強まり、258ドル高(1.00%増加)。
829日:米中貿易協議で、両サイドから対立姿勢を和らげる報道があり、キャタピラーやナイキなど中国売り上げ高比率が高い銘柄を中心に買いが広がり、326ドル高(1.25%増加)。
830日:米中貿易協議に関連して、トランプ大統領による制裁関税の企業収益への影響を軽視する発言がツィーターにあったが、中国政府からの前向きの発言があったことで、41ドル高(0.16%増加)
 
2.米国の雇用状況
米労働省が82日に発表した7月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比164,000人の増加で、市場予想の160,000人増とほぼ同じ水準でした。5月の雇用者数の確定値は62,000人で10,000人の減少、6月の改定値は193,000人で31,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約140,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を大きく下回りました。なお、8月の失業率は3.7%で、前月と同じ水準でした。労働参加率も63.0 %で、前月より0.1%上昇しました。7月の時間当たり賃金上昇率は前月比8セント増加で、前年同月比では3.2%増となりました。部門別では専門・ビジネスサービス業が31,000人の増加、ヘルスケア業が30,000人の増加 金融関連業18,000人の増加、製造業も16,000人の増加となりました。
 
3.トランプ大統領の時代遅れの経済政策が招く株式市場の混乱
トランプ大統領は20171月に大統領に就任して以来、自国第一主義による米国の貿易赤字の縮小を目指す一方、国内面ではインフラ投資や軍事力増強のための財政支出の拡大、企業や富裕層への大幅減税とオバマケアなどの政府管掌による福祉歳費の削減などを実行してきました。これらの政策は当初は米国企業への税優遇や景気刺激策として評価され、株式市場における株価上昇に貢献しました。しかしながら、時間の経過と共に、トランプ大統領の政策の多くが新たな問題を抱えるようになり、株式市場にも不安定な動きとなって表れるようになりました。
 
最初に自国第一主義による米国の貿易赤字の縮小については、カナダやメキシコとのNAFTAの見直しは米国に優位性があることから、相手国からの譲歩を引き出すことに成功しました。しかし、米国の最大貿易赤字国である中国とは2017年末以降長期に渡る交渉を続けているものの、状況は改善するどころか、悪化の道をたどっています。トランプ大統領の最大の誤算は関税引き上げによる中国製品の値上げが米国市場での中国製品の需要減となって、中国側は米国の要求を受け入れざるを得ないと判断したことにあります。
 
しかし、米国側の要求は単に米中間の貿易不均衡是正ではなく、中国企業が国際市場で競争力のある製品を作り出せる中国政府による優遇措置の改革を求めており、現在の共産党政権の存立基盤を脅かす領域に入ろうとしています。例えば、自動車などの基幹産業について中国資本が51%の持ち分を条件となる外資導入政策は、先端技術が遅れている中国企業にとっては外国の高度な技術移転を可能にさせる点で必要な政策でした。これに対して、トランプ政権は中国企業による外国企業への知的財産権の強制移転を禁止させる要求しており、中国政府にとって受け入れが困難となります。また、米国などの市場競争主義国にとっては、高度な技術製品の開発に対する政府の補助金供与は制限的ですが、世界をリードする産業を国策で支援する中国共産党政権の立場からは当然とこととなり、受け入れられるものではありません。更に、中国側は米国政府からの関税引き上げに対して、中央銀行が人民元の価値を下げることで対応することも可能であり、米国政府による政策措置の限界が明らかになっています。株式市場では米中の間で強硬姿勢が伝わると株価が大きく下げる傾向にあり、トランプ大統領が当初発表した対中貿易赤字の短期的解消とは程遠い状況になっています。
 
本来、市場経済主義でない大国の貿易政策に二国間の関税措置で対応するには、相手国からの対抗関税を引き起こし、やがて自国にも跳ね返ってくるなどエスカレートが繰り返されるという問題があります。そうした関税措置による二国間対応の限界を克服するには、オバマ前大統領のように、TPPのような多国間貿易協定をベースに問題国に対する封じ込め政策で改革を求めていくべきでした。トランプ大統領や担当閣僚は二国間交渉で強く臨めば早期に目標が達成できるとの判断の下に、行動してしましました。トランプ大統領の知識と経験のなさがここでも大きな間違いをする結果になってしまっています。
 
また、814日の米国市場は、トランプ大統領主導の米国第一主義による主要国との貿易摩擦に基づく世界経済の不透明感から、米国債市場で10年物国債が一時1.57%になり、2年物国債の1.63%を下回る逆イールド現象を起こし、800ドルを超える暴落となりました。これに対し、トランプ大統領はこうした債権市場の異常な現象は連銀の金利引き下げが遅れたことが原因であるとして、1%以上の短期金利の引き下げを繰り返し要求しています。しかし、中央銀行の役割は金融市場の安定性を追求していくものであり、トランプ大統領のように、自らが引き起こした米中貿易摩擦による株式市場の落ち込みを中銀の金利引き下げにより株価の引き上げを目論むことは株式市場への政府介入の度合いを強め、市場原則への混乱と歪みを引き起こすだけの結果になりかねません。
 
更に、820日にはトランプ大統領は、景気を下支えするために給与税の一時的な引き下げを検討していることを明らかにしました。しかしながら、米国の財政赤字は2017年末にトランプ減税と呼ばれる10年で1.5兆ドルの巨額減税を実施し、財政赤字が急速に膨らんでいる中で更なる減税には与党の共和党議員からも反対は強く、実現の見通しは不透明です。
 
トランプ大統領の経済政策の最大の問題点は、選挙公約時から株価上昇だけが目的化してしまい、米国経済の健全な運営が何であるかに焦点が当てられていないことにあります。特に、株価がかなりの高水準にある時に、更なる株価引き上げ策を講じれば株価のバブル化が一層強まり、やがて暴落していくことのリスクに十分な注意を払っていないことにあります。
 
4.トランプ大統領がもたらすG7首脳会議存続への疑問
フランスのピアリッツで開催されていた先進7か国による主要国首脳会議(G7)は3日間の日程を終え閉幕しました。主催国であったフランスのマクロン大統領は通常の詳細な首脳宣言の代わりに、1ページの成果文書を発表、貿易やイランなどの問題に言及しました。まず、貿易に関しては、公正で開かれた世界貿易を支持するとした上で、不公正貿易のより迅速な是正と世界貿易機関(WTO)の改革を求めました。また、イラン問題については、イランが核兵器を保有すべきでなく、中東地域の安定を支援しなければならないとしました。
 
しかし、1975年にフランスのランベイユで始まった主要7か国首脳会議は常に保護主義への反対と自由貿易の推進を確認してきましたが、2017年に米国でトランプ氏が大統領になって以降、首脳会議の風景は一変することになりました。以前は自由貿易の旗振り役であった米国の大統領がその役割を放棄し、保護主義に基づく政策を取り始めたからです。また、世界の各地で様々な悪影響が出始めている地球温暖化の対策をめぐっても、2016年のパリ協定を巡って欧州と米国の対立が激化しています。加えて、今回からは欧州で自国第一主義を唱える英国のジョンソン首相が登場し、欧州内でも自由貿易主義の理念が揺らぎ始めています。
 
来年のG7の会合は米国で予定されていますが、米国のトランプ大統領が今後とも米国の国益優先の政策に拘り、英国がジョンソン首相の下で、EUからの合意なき離脱となった場合、世界経済の混乱と低迷は一層深刻になることが予想されるだけに、今後はG7首脳会議の存立意義が問われかねない状態になっていると思われます。
           (201991日:村方 清)
 

Thursday, August 1, 2019

連銀の金融緩和の動きに影響された米国市場














1.7月の株式市場
7月の株式市場は米中貿易協議進展やと連銀の利下げへの期待から上昇傾向を強めましたが、月末の連銀の利下げが小幅なものに留まったために、株価は大きく下げて終わりました。主要な動きは以下の通りでした。

71日:629日の米中首脳会議で、閣僚級の貿易協議の再開を決めたこともあり、貿易摩擦の警戒感が後退し、ダウ平均は117ドル高(0.44%増加)。
72日:世界の主要主要中央銀行が金融緩和に前向きな姿勢を示しているところから、株式市場への資金流入が続くとの期待で、69ドル高(0.26%増加)
73日:米中貿易協議の進展と中央銀行の金融緩和姿勢が投資家の株投資選好が強まり、179ドル高(0.67%増加)。
75日:6月の米雇用統計で雇用者増加数が224,000人増で、市場予想の160,000人増を大きく上回り(失業率は3.7%で前月より0.1%増加)、連銀が利下げするとの観測が弱まり、44ドル安(0.16%減少)。
78日:FRBによる早期の利下げ期待の後退が相場の重荷になったこと、アップルやボーイングも売り材料が広がり、116ドル安(0.43%減少)。
79日:FRBのパウエル議長の議会証言を控えて様子見ムードが強く、方向感に乏しく、23ドル安(0.08%減少)。
710日:パウエル連銀議長の議会証言で7月末に利下げに動くとの期待が高まり、77ドル高(0.29%増加)。
711日:パウエル連銀議長が前日に続き、11日も議会証言で早期の利下げを示唆したことから、7月の利下げ観測が強まり、228ドル高(0.85%増加)
712日:連日の連銀議長の議会証言で、早期の利下げを示唆する発言をして以降、株式市場に資金が流れやすい環境が続き、244ドル高(0.90%増加)。
715日:早期の利下げ観測が相場を支えたものの、今週からの米主要企業の決算発表を見極めたいとの判断から上値追いは限られ、27ドル高(0.10%増加)。
716日:JPモルガンなど金融大手の四半期業績は市場予想を上回ったものの、投資家の反応は鈍く、貿易摩擦の懸念から、23ドル安(0.09%減少)
717日:トランプ大統領が米中貿易交渉について長期化の見通しを述べたことで、キャタピラーなど中国売上比率の高い銘柄が売られ、116ドル安(0.42%減少)。
718日:717日の決算発表で契約者数が伸び悩んだネットフレックスが急落、売りが先行したものの、NY連銀総裁が早期利下げを示唆したため、2ドル高(0.01%増加)
719日:ボーイングなどが好決算で買いが先行したが、今月末のFRBによる金利引き下げが小幅との報道から、売りが優勢となり、69ドル安(0.25%減少)
722日:四半期業績が好調であったアップルや半導体関連株が上昇したものの、ホルムズ海峡でのイランと米英との緊張が高まっており、上値は重く、18ドル高(0.07%増加)。
723日:米中両政府が来週に貿易協議を再開するとも報道やコカコーラなどの主要企業の4半期業績が好調であったことなどから、177ドル高(0.65%増加)
724日:四半期決算が低調であったキャタピラーやボーイングが大幅安となり、79ドル安(0.29%減少)。
725日:米国の耐久財受注額が市場予想を上回るなど経済指標の改善から、FRBによる金融緩和への期待が少し弱まり、129ドル安(0.47%減少)。
726日:米政府発表の第2四半期GDP2.1%で市場予測の1.8%を上回ったことで、米景気減速の過度な警戒感が和らぎ、51ドル高(0.19%増加)
729日:FOMC会合の結果発表を31日に控え、様子見ムードが強く、投資家の慎重姿勢から、29ドル高(0.11%増加)。
730日:米中貿易協議の先行き不透明感の高まりから、投資家心理が重くなり、23ドル安(0.09%減少)。
731日:FOMC10年半ぶりの利下げを決定したが、パウエル議長が記者会見で利下げ継続を否定したとの見方が広がり、幅広い銘柄に売りが広がり、334ドル安(1.23%減少)。

 2.米国の雇用状
2.米国の雇用状況
米労働省が75日に発表した6月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比224,000人の増加で、市場予想の160,000人増を大きく下回りました。4月の雇用者数の確定値は216,000人で8,000人の減少、5月の改定値は72,000人で3,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約167,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、3月の失業率は3.7%で、前月より0.1%上昇しました。労働参加率も62.9 %で、前月より0.1%上昇しました。6月の時間当たり賃金上昇率は前月比6セント増加で、前年同月比で3.1%増となりました。部門別では専門・ビジネスサービス業が51,000人の増加、ヘルスケア業が35,000人の増加 建設業が21,000人の増加、製造業も17,000人の増加となりました。
3.利下げを決定したFOMC会合
FRB31日のFOMC会合で、政策金利を0.25%引き下げ、フェデラルファンド(FF)の誘導金利を
2.252.50%から年2.002.25%に引き下げること決定しました。米経済が10年以上の拡大局面を続け、失業率も3%台後半の水準まで下がる中で、パルエル議長は今回の利下げを景気循環の途中の調整と述べ、緩和局面が短期で終わる考えを示唆しました。同時に、FOMCは量的引き締め策も予定を2か月間早めて、7月末で終わることも決定しました。

今回の決定の背景には米中の貿易摩擦問題が長期化する中で、株価の持続的な上昇を示すことで再選を果たしたいとするトランプ大統領の強い要請に応えることを意識しているように思われます。しかし、その反面、経済が好調な時に利下げを急ぎすぎれば、経済た停滞に陥った時に政策の幅が限定されることになり、より深刻な状況になってしまう恐れも出てきます。株式市場の動向に過度にセンスティブな大統領の要請に、本来独立性が要求される連銀がどのような対応していくのか今後の動きが注目されます。

今回の利下げについて、市場の反応はパウエル議長が、記者会見で、利下げはサイクル途中の政策の調整であって、長期の利下げ局面の始まりではないと発言したことから、株式市場への資金流入が続くと期待が大きく後退し、ダウは334ドル安(1.23%減少)となりました。

 
4.英国新首相のジョンソン前外相を待ち受ける合意なき離脱のリスク
英国与党の保守党は723日の党首選挙で、メイ首相の後任にジョンソン前外相を選びました。約16万人の保守党党員による決戦投票で、強硬離脱派のジョンソン氏が9万票以上を獲得し、穏健離脱派のハント外相に2倍近い差をつけて当選しました。ジョンソン氏としては1031日までの離脱期限までに、メイ首相がEUとの間でまとめた離脱協定案を再度交渉する必要がありますが、EU側は協定案の再交渉を拒否する姿勢を貫いています。EUとして、離脱延期を検討する動きもありますが、そのためには英国側に総選挙や再国民投票などの明確な理由が必要になるとされています。

ジョンソン氏としては離脱前の総選挙や再国民投票に強く反対、EUとの協定案の再交渉ができないのであれば、合意なしでEUを離脱するしかないとしています。ジョンソン氏は25日の組閣においても、最重要ポストになる外相と内相に強硬離脱派を起用、合意なしの離脱に備える体制を整えています。

こうした合意なき離脱のリスクに対して、英国産業界は十分な準備をしていない状況です。現時点ではドーバー港の通関や関税手続きや自動車産業におけるサプライチェーンの断絶性などに十分な対応が取られているとは言えず、離脱強硬派のジョンソン氏が選ばれたことにより、英国の経済が大きな混乱に陥るリスクが高まっているように見られます。

 
5.財政規律を歪める米歳出・債務引き上げの与野党合意
トランプ大統領は722日に今後2年間の連邦政府の歳出と債務引き上げについて、与野党が大筋の合意に達成したことを発表しました。報道によれば、2011年に成立した予算管理法の2年毎の見直しの中で、2020会計年度と2021会計年度の歳出上限を3200億ドルに引き上げるものです。合意案では裁量的経費のうち、国防費と非国防費を同額ずつ引き上げ、共和党と民主党の要求を同時に受け入れる妥協案となる見込みです。同時に、債務上限を20217月まで一時停止することについても合意しました。

今回の与野党合意は、2017年末に成立した大型減税の効果が薄れ、貿易摩擦による景気減速の懸念の中で、財政支出による景気刺激を図ろうとするトランプ大統領の意向に沿うものですが、2020年の財政赤字は1兆ドルを超える見通しで、米国の財政赤字が今後一層深刻になっていくことが予想されます。
                       (201981日: 村方 清)

 

 

Monday, July 1, 2019

金融緩和と米中貿易協議進展の報道に過剰反応した市場












1.6月の株式市場
6月の株式市場は、連銀の金融緩和策と米中貿易協議の進展への過剰期待により月間上昇率が7%を超える大幅な上昇となりました。主要な動きは以下の通りでした。

63日:前週までの下げ基調から短期的な戻りを見込んだ買いが入りやすく、景気変動の影響を受けにくいコカ・コーラや医薬品株が幅広く買われ、ダウ平均は5ドル高(0.02%増加)。
64日:FRBのパウエル議長が景気拡大を持続させるために適切な行動を取ると発言、利下げ期待が高まり、米中貿易摩擦への懸念も和らぎ、512ドル高(2.06%増加)。
65日:ADP5月雇用レポートで、非農業部門雇用者数が27千人に留まったことから、FRBの利下げ観測が高まり、幅広い銘柄が買われ、207ドル高(0.82%増加)。
66日:連銀による利下げ観測を背景にこの日も買いが続き、181ドル高(0.71%増加)。
67日:5月の米雇用統計で雇用者増加数が75,000人増で、市場予想の180,000人増を大きく下回り(失業率は3.6%で前月と同水準)、連銀が早期に利下げするとの観測が一段と強まり、263ドル高(1.02%増加)。
610日:トランプ大統領がメキシコからの全輸入品への関税発動を無制限に見送ったことで、投資家の不安が和らぎ、79ドル高(0.30%増加)。
611日:前日までの6日間の続伸で1247ドル上昇しており、目先の利益確定の売りが優勢で、14ドル安(0.05%減少)
612日:半導体関連株に売りが出た他、米利下げ観測などで金融株にも売りが出て、44ドル安(0.17%減少)。
613日:原油先物市場の上昇で、石油株が買われたことや早期の米利下げ観測を背景に買いが優勢で、102ドル高(0.39%増加)
614日:中国経済指標の悪化を受けて中国需要の回復に対する期待が後退、ダウやアップルなど中国依存の高い銘柄を中心に売りが優勢で、17ドル安(0.7%減少)
617日:1819日に開かれるFOMC会合を控え、早期の利下げ期待が相場を支え、23ドル高(0.09%増加)。
618日:欧米の金融緩和への期待と米中首脳会談が来週開催されるとの見通しから、投資家のリスク選好姿勢が強まり、353ドル高(1.35%増加)
619日:1819日に開催されたFOMCで、声明文に「不確実性が増しており、成長持続に必要な措置を取ると明記され、想定通りの内容だったことから、38ドル高(0.15%増加)。
620日:昨日のFOMC会合を受けて、早期の米利下げ観測が強まったことや米中貿易協議の進展への期待から、249ドル高(0.94%増加)
621日:米商務省が制裁対象に新たに外国の政府系スーパーコンピューター大手企業を加えたことから、これらの企業と取引のある米企業の株が売られ、34ドル安(0.13%減少)
624日:米中が貿易協議のために事務レベルで再開したとの報道で協議進展への期待が高まり、8ドル高(0.03%増加)。
625日:FRBのパウエル議長が利下げの必要性について慎重であったことや米国の消費者信頼度指数が前月比9.8低下の121.5まで低下したことなどで、179ドル安(0.67%減少)。
626日:米中貿易問題について29日の米中首脳会議に期待する向きもあるが、上昇が目立つ銘柄の利益確定売りもあり、11ドル安(0.04%減少)。
627日:米中首脳会談を週末に控え、様子見ムードが強く、方向感が定まらなかったものの、新たな不具合が生じたボーイングが大幅に下げ、10ドル安(0.04%減少)。
628日:29日の米中首脳会談での貿易協議の進展への期待と米大手金融機関の資本計画についてFRBが承認したのを受けて一部に自社株買いや増配があり、株価が上昇、73ドル高(0.28%増加)。今月上昇幅は1784ドルで、約7%の上昇と過去最大。

 
2.米国の雇用状況
米労働省が67日に発表した5月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比75,000人の増加で、市場予想の180,000人増を大きく下回りました。3月の雇用者数の確定値は153,000人で36,000人の減少、4月の改定値は224,000人で39,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約151,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、3月の失業率は3.6%で、前月と同水準でした。労働参加率も62.8 %で、前月と同水準でした。5月の時間当たり賃金上昇率は前月比6セント増加で、前年同月比で3.1%増となりました。部門別では専門・ビジネスサービス業が33,000人の増加、ヘルスケア業が16,000人の増加 建設業は4,000人の増加に留まりました。

 
3.金利据え置きを決定したFOMC会合
FOMC会合が61819日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回5月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は強さを保っており、経済活動は緩やかに拡大した。雇用増はここ数か月平均すると堅調で、失業率も低下した。家計支出は今年初め以降持ち直したようだが、企業の設備投資に関する指標は弱い。全般的なインフレ率と、食品・エネルギーを除くインフレ率は2%を下回っている。アンケートによる調査では長期のインフレ予想を示す指標は総じてあまり変わっていない。

法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。

この目標を支えるため、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを2.252.5%に据え置くことを決定した。FOMCは引き続き、持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、目標の2%前後付近のインフレ率がもたされるだろうと見ている。しかし、景気見通しへの不確実性は増している。こうした不確実性及びインフレ圧力が抑制されている点を考慮し、FOMCは景気見通しに関する情報が意味するものを注視し、力強い労働市場と2%前後のインフレ率の目標に向け成長維持のために適切に行動する。
FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む9人のメンバー全員の賛成による。
なお、今回のFOMC会合では、その声明文で、「不確実性が増しており、成長維持に適切な行動を取る」ことが明記されたことから、市場のほぼ想定通りの内容になったと言えます。これに加えて、米中貿易協議の進展への期待もあり、19日の38ドル高に続き、20日も353ドル高という大幅な上昇となりました。

 
4.トランプ大統領の再選出馬と再選リスク
トランプ大統領は618日にフロリダ州のオーランドで再選出馬表明を行いました。米国を偉大な国に取り戻すとのスローガンをベースに米国第一主義を掲げ、オバマ前大統領が進めたTPPからのも撤退、更にカナダやメキシコとのNAFTAの全面的な改定を要求、更に米国の貿易赤字の約50%をを占める中国に対しては大規模な関税を課すことによって、大幅な貿易赤字の解消と米国製造業の復活を図ろうとしています。しかし、これらの政策の多くは米国の製造業を含めて、生産コストの低下や流通の効率性による世界的なサプライチェーンのネットワーク化に逆行するものであり、賛同を得られるものではありません。更に、関税措置は相手国からの報復関税を招き、それが米国の農産業やひいては米国の消費者に大きな負担となることへの理解も十分ではありません。

628日と29日に開催されたG20サミットで注目されていた米中の貿易協議は、510日に決裂した閣僚会議の再開で合意したものの、米国は関税第4弾を先送りし、ファーウェイの一部制裁解除に応じるなど米国側の譲歩が目立ちました。これはトランプ大統領が来年秋の大統領選挙を控え、対立が強まれば再選戦略に悪影響が出ると判断したためと見られ、トランプ政権の焦りを示す結果となりました。

また、中東政策についても、キリスト教福音派の票を当てにした露骨な親イスラエル政策によってイランが欧米主要国と合意した非核化の取り決めを一方的に破棄、加えて厳しい経済制裁を課すなどあまりに身勝手な行動が多すぎます。イランとの緊張関係の拡大はトランプ大統領自らが作り出したものにも拘わらず、それを相手が守っていないとの主張によって、自分自身で軍事的衝突のリスクを高めているように思います。

次に、国内の経済政策についても、トランプ大統領は再選には株価の更なる上昇が必要として、連銀に対して金利引き下げを強く要求しています。しかし、この点についても、実体経済と乖離した中銀の過度な金融緩和が引き起こす資産バブルのリスクを十分に認識していないように思えます。
こうしたトランプ大統領の政策が本当に米国の利益を優先させているためのものかについても、幾つかの疑問が残ります。昨年12月の大幅減税についても、その恩恵は大企業と超富裕層であり、中間所得層以下の米国民の多くには行き渡っていません。また、トランプ大統領が自らのグループが保有するワシントンのホテルの運営が利益相反に陥っていることもよく知られています。

利益相反の行動に加えて、トランプ大統領による米国民主主義の大原則である三権分立を無視した独裁制的な行動も許されるべきものではありません。本来、議会軽視に対しては、与党の共和党が毅然たる態度を貫くべきですが、保守派の幹部も含めて、トランプ大統領に公然と意義を唱える共和党議員が殆ど出てこないという異常な事態が続いています。

その一方、野党である民主党の大統領候補は20名以上が立候補するなど乱立が目立っています。しかし、現時点の世論調査では、バイデン元副大統領、サンダース上院議員、エリザベス上院議員、ハリス上院議員などの支持率はいずれもトランプ候補を上回っており、トランプ大統領の再選は必ずしも容易であるとは言えない状況にあります。
            (201971日: 村方 清)

Saturday, June 1, 2019

混迷を深めるトランプ政権の貿易政策と株式市場の不安定性








 
 
 
 
 
 
 
 1.5月の株式市場
5月の株式市場は、交渉合意が期待されていた5910日の米中閣僚級の貿易協議が事実上決裂したことや米国の安全確保という名目でメキシコへの関税措置を取るなど混迷を深めるトランプ政権の貿易政策により、株式市場の不安定性が高まることになりました。主要な動きは以下の通りでした。

51日:51日まで開かれたFOMCが景気判断を引き上げ、FF金利を据え置いたことから、利下げに向かうとの投資家の期待が後退し、ダウ平均は163ドル安(0.61%減少)。
52日:前日のFOMC会合後のパウエル連銀議長の記者会見を受けて、利下げ観測が後退したことを受けて、株式市場への資金流入への懸念から、122ドル安(0.46%減少)。
53日:4月の米雇用統計で雇用者増加数が263,000人増で、市場予想の180,000人増を上回り(失業率は3.6%で0.2%減少)、米経済への楽観論が勢いを増し、197ドル高0.75%増加)
56日:トランプ大統領が5日に突如対中関税を10%から25%への引き上げをイッターに投稿、米中交渉が決裂するとの警戒感から一時471ドルまで下落したものの、66ドル安(0.25%増加)。
57日:米国が中国製品への関税を10%から25%へ引き上げる可能性が高まり、一時649ドルまで下落したものの、その後持ち直し、473ドル安(1.79%増加)
58日:トランプ政権は中国政府に対して追加関税を10%から25%へ引き上げることを発表したが、9日から始まる米中閣僚級会議の思惑からの買い戻しもあり、2ドル高(0.01%増加)。
59日:朝方は米中貿易協議の先行き懸念から売りが先行し、一時450ドル安まで売られたが、トランプ大統領の前向きな発言を受けて、139ドル安(0.54%減少)。
510日:米中貿易交渉の先行き警戒感から売りが先行したが、10日までに開かれた米中閣僚級会議後にムニューシン財務長官が協議は建設的だったとメディアに伝えたことから、相場は上昇に転じ、114ドル高(0.44%増加)
513日:米中による関税引き上げの応酬で、両国が近く合意に達するとの期待が後退、投資家がリスク回避に動き、多くの銘柄が大幅に下落、617ドル安(2.38%減少)。今年2番目の下落。
514日:前日に大きく下落したことのの反発と米中貿易摩擦の懸念が一時的に和らぎ、207ドル高(0.82%増加)。
515日:トランプ大統領が自動車の追加関税導入の判断を最大6カ月先送りしたとの報道から、GMや
フォードなどの自動車株が上昇し、116ドル高(0.45%増加)。
516日:四半期業績が好調であったウォールマートやシスコシステムが買われ、投資家心理が改善し、214ドル高(0.84%増加)。
517日:米中貿易協議の不透明感が示す報道が相次ぎ、中国事業の比率が大きい銘柄を中心に売りが優勢で、99ドル安(0.38%減少)。
520日:ファワーウェイとの取引を禁ずる米政府の措置に対応して米企業が相次いで同社へのサービスや部品の供給を止める報道が伝わり、米中貿易摩擦の懸念から、84ドル安(0.33%減少)。
521日:米政府がファーウエイへの禁輸措置に猶予期間を設けたため、アップルなどのハイテク株が上昇し、197ドル高(0.77%増加)。
522日;米中貿易協議の再開のメドが立たない中で、中国売り上げ高が大きいアップルやボーイングが大きく下落、101ドル安(0.59%減少)。
523日:米中協議の行き詰まりとの懸念に加え、世界景気の減速に対する警戒感も高まり、幅広い銘柄に売りが広がり、286ドル安(1.11%減少)。
525日:米中貿易摩擦への過度の警戒感が少し和らぎ、中国売上高比率の高い銘柄を中心の買いが優勢となり、95ドル高(0.37%増加)。
528日:米中貿易摩擦が長期化するとの見方が広がり、中国売り上げ高比率が高い銘柄が下落、長期金利の低下で金融株も下げ、238ドル安(0.93%減少
529日:米中貿易摩擦の激化が世界景気の減速につながるとの警戒感から幅広い銘柄が売られ、221ドル安(0.87%減少)。
530日:前日まで2日間で約450ドル下落したこともあり、景気変動を受けにくい銘柄を中心に買いが入り、43ドル高(0.17%増加)。
531日:トランプ大統領が不法移民流入へのメキシコへの対策が不十分として、メキシコからの全輸入品に対して追加関税を課すと発表、貿易摩擦激化への懸念が高まり、幅広い銘柄が売られ、355ドル安(1.41%減少)。

 
2.米国の雇用状況
米労働省が53日に発表した4月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比263,000人の増加で、市場予想の180,000人増を大きく上回りました。2月の雇用者数の確定値は56,000人で23,000人の増加、3月の改定値は196,000人で7,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約169,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、3月の失業率は3.6%で、前月から0.2%減少、196912月以来の低水準になりました。労働参加率は62.8 %で、前月比で0.2%低下しました。3月の時間当たり賃金上昇率は前月比6セント増加で、前年同月比では3.2%増となりました。部門別ではヘルスケア業が49,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が76,000人の増加、建設業が33,000人の増加になったものの、製造業は4,000人の増加に留まりました。

 
3.混迷を深めるトランプ政権の貿易政策
トランプ政権が直前まで合意が近いとの見通しを持っていた5910日の米中貿易協議は、中国側が従来の合意内容の大幅修正を求めたことで、事実上決裂状態になりました。今回の協議で中国側が求めたのは、1.合意後の追加関税の即時撤廃、2。米国製品の輸入規模の縮小、3。協定本文での中国の主権と尊厳の尊重の3つにあったとされていますが、この中で最も重要なものは3にある中国の主権と尊厳の尊重とされています。中国側はこれに先立ち、53日に昨年12月の首脳会談以来、5カ月間に及び閣僚級会議で合意してきた知的財産権の保護、技術の強制移転の禁止、政府の産業補助金の大幅縮小、為替政策の透明化など7分野の内、知的財債権の保護、技術の強制移転の廃止、産業補助金の大幅縮小など5つの分野についての法律改正の約束を撤回してきました。

この背景には、今の習近平政権にとっては今回の米国側との合意内容を遵守することになれば、それは共産党政権が従来堅持してきた重要産業育成に関わる共産党の統治モデルを崩しかねないとの危機感が
急激に起きてきたことにあるとされています。910日での米中貿易交渉では中国側代表の劉鶴副首相は中国の尊厳を放棄するようなことはあり得ないとの中国側の立場を強く伝えたと言われています。

これに対し、トランプ大統領は2000億ドル相当の中国製品に対する25%の追加関税を発動を決定、さらに追加関税の対象となっていない残りの中国製品についても関税適用の手続き開始を指示しています。トランプ政権としては中国に対する強硬措置を一段と強めれば、中国側は最終的に受け入れざるを得ないとの判断があるものと見られます。しかしながら、中国側では共産党の機関紙である人民日報は、中国は引き続き協議する用意があるが、重要な原則で譲歩することはないと強調、更に系列の新聞社説で、戦略的な抑圧に対し、中国が耐えられないというのは幻想であるとの考え方を伝えています。

トランプ政権が中国の共産党独裁政権による産業政策を米国および市場経済主義国家に対する脅威として位置づけ、中国政府に対する根本的な構造転換を求めることは理解できますが、それは中国共産党の存立基盤を脅かすものとなりかねないことを考えると、両国の対立は長期化し、交渉内容も複雑化していくことが予想されます、また、それに伴い、世界経済にも貿易摩擦による成長の減速や株式市場の不安定化要因が高まっていくように見られます。

米中貿易協議の行き詰まりに関連して、安倍首相の招待に応じてトランプ大統領は525日から28日の4日間の日本を訪問しました。表向きは新しく即位した天皇への表敬にあるとされていますが、全ては計算の上で行動するトランプ大統領には別の思惑があると言われています(但し、彼の自己中心的利益による貪欲さで計算された手法はその強引さから矛盾が拡大することも多く、それが不動産ビジネスでは5回以上も破産申請する結果をもたらすことになりました)。今回について言えば、米中貿易協議の行き詰まりで、強まる米国の農業従事者達の不満を和らげるために、安倍首相が力説したがる友好的な日米関係を使って、日本に米国の農産品、特に関税引き下げによる牛肉の輸入拡大を受け入れさせるというものです。日本での選挙が終了する8月にはこの問題で決着させたいとするトランプ大統領の期待に日本側がどのように対応しようとするのか、今後の展開が注目されます。

531日にはトランプ大統領がメキシコ政府の政策が米国ヘの不当な移民を増加させ、米国の安全を脅かしているとして、メキシコから米国への全製品に610日から5%、最大で25%までに関税をかけることを発表しました。しかし、この発表は自動車産業などでは外国の会社だけでなく、米国の会社にも悪影響が及ぶものであり、この日の株式市場はダウが355ドル安(1.41%減少)となりました。

 
4EU議会選挙の結果
52324日に実施されたEU議会選挙で、従来中道右派(EPR)と中道左派(S&D)の2党だけで過半数を超えていたが(403議席)、今回は325議席となり、過半数割れとなりました。しかし、中道(ALDE&R)を加えると合計は426議席となり、過半数を超えることになりました。中道の党の議席が大幅に増えたのはフランスの「共和国前進」党(マクロン大統領の党)がここに入ったためです。また、緑の党系も大きく票を伸ばしました。

一方、30%を超えると見られていた極右はENFEFDDを合わせても15.05%、EU会議派のECRを加えても、23.04%に留まりました。加えて、EFDDに属している政党はファラージ氏の英独立党が中心となっており、英国がEUを出ていくことになれば、更に議席数が減ることが予想されます。

今回の選挙は、EU会議派が議席数を伸ばしたものの、3分の1には達せず、EU維持派にとっては一安心ということになります。しかしながら、EPRALDE&Rは全ての面で意見が一致しているわけではなく、欧州統合や地球温暖化などを急速に進めたいマクロン氏と穏健な道筋を求めるメルケル氏との温度差は大きく、また、次の欧州委員長の人事について対立点があると言われ、与党内の調整が大きなカギになると見られます。

            (201961日: 村方 清)

 

Wednesday, May 1, 2019

金融引き締め見直しと経済指標改善で上昇を続けた米市場













1.4月の株式市場
4月の株式市場は米中貿易協議は継続しているものの、連銀の金融引き締め見直しが続いていることや製造業景況感指数、雇用者増加数、第一四半期のGDPなど景気指数が好調であったことから、投資家の期待値が依然高く、株価の上昇が続きました。主要な動きは以下の通りでした。

41日:米国のサプライマネジメント協会(ISM)の製造業景況感指数が市場予想を上回って上昇したこと、米中の貿易協議の進展も期待され、330ドル高(1.27%増加)。
4月2日:前日に半年ぶりの高値を付けたこともあり、売りが優勢で、79ドル安(0.30%減少)。
43日:米中貿易協議が合意に近づいているとの期待感が広がり、39ドル高(0.30%増加)。
44日:米中貿易交渉の最終合意が近いとの期待が相場を支え、ボーイングなどが上昇、167ドル高(0.64%増加)
45日:3月の米雇用統計で雇用者増加数が196,000人増で、市場予想の170,000人増を上回り(失業率は3.8%で変わらず)、米経済の勢いが依然弱くないとして、40ドル高0.15%増加)
48日:ボーイングが大幅安となったことや半年ぶりの高値で利益売りが出て、84ドル安(0.32%減少)。
49日:米国政府がEUからの輸入品に関税を課す方針を示し、貿易摩擦激化が世界経済の減速を招くとの懸念が強まり、190ドル安(0.72%減少)
410日:デルタ航空や大手ジーンズのリーバイストラウスが好調で、7ドル高(0.03%増加)。
411日:医療保険の今後の不透明性から、ユナイテッドヘルスなどが大幅に下落し、14ドル安(0.05%減少)。
412日:四半期決算が増収増益となったJPモルガンなど金融株に大幅な買いが入ったことや動画配信サービスを開始することを公表したディズニーが上昇し、269ドル高(1.03%増加)
415日:四半期業績が不調であったゴールドマンサックスが大きく下落、墜落事故の原因不明で懸念が続くボーインクも売られ、28ドル安(0.10%減少)。
416日:四半期業績が好調であったジョンソンアンドジョンソンが大きく上昇、長期金利の上昇で、金融株も買われ、68ドル高(0.26%増加)
417日:四半期業績が不調で会ったIBM4%近く下落、医療保険制度改革で悪影響が懸念されるユナイテッドヘルスなど保険会社株が売られ、3ドル安(0.01%減少)
418日:市場予想を上回る米小売売上高や米主要企業の決算発表を受けて投資家心理が上向き、資本財関連株を中心に買いが優勢になり、110ドル高(0.42%増加)
422日:23日以降の米主要企業の4半期決算をの発表を控え、結果を見極めたいとして、取引を見送る投資家が多く、48ドル安(0.18%減少)
423日:四半期業績が好調であったコカコーラやユナイテッドテクノロジーなどが大きく買われ、145ドル高(0.55%増加)。
424日:欧州の経済指標が弱く、世界景気の減速懸念が意識され、資本財や素材株を中心に売りが強まり、59ドル安(0.22%減少)。
425日:四半期業績が不振であった3Mが急落したことや前日の四半期業績の不振を発表したキャタピラーも売りが続き、135ドル安(0.51%減少)。
426日:201913月期のGDP速報値が3.2%で、市場予想の2.0%を大きく上回ったことから、米景気減速に対する警戒心が後退し、81ドル高(0.31%増加)。
429日:米個人消費支出が0.9%と市場予想を上回ったことから、米消費の底堅さがあると見なされたことや米長期金利の上昇で金融株が買われ、11ドル高(0.04%増加)。
430日:4半期業績が不振であったグーグルが約7.5%下落したが、業績好調であった製薬会社のファイザーやメルクを中心に買いが優勢で、39ドル高(0.15%増加)

2.米国の雇用状況
米労働省が45日に発表した3月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比196,000人の増加で、市場予想の170,000人増を上回りました。1月の雇用者数の確定値は312,000人で1,000人の増加、2月の改定値は33,000人で13,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約180,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、2月の失業率は3.8%で、前月と同水準でした。労働参加率は63.0%で、前月比で0.2%低下しました。3月の時間当たり賃金上昇率は前月比4セント増加で、前年同月比では3.2%増となりました。部門別ではヘルスケア業が49,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が34,000人の増加、建設業が16,000人の増加となったものの、製造業は6,000人の減少となりました。

3.予想を大幅に上回った第1四半期のGDP成長率
米国商務省が426日に発表した2019年第1四半期のGDPの速報値は年換算で前期比3.2%増と市場予想の2.0%を大きく上回りました。輸出と在庫投資の拡大を背景に経済成長が加速しましたが、個人消費や企業の設備投資の面では弱さが目立ちました。

項目別では、輸出が3.7%増(前期は1.8%増)と3期ぶりの高い伸びとなり、米中貿易摩擦を背景に、輸出業者が報復関税の応酬の影響を抑えるために先手を打ったものと見られます。また、在庫投資も第1四半期は1284億ドルと15年第2四半期以来の高水準をつけました。これは需要の弱含みが原因と見られます。

その一方、GDPの約7割を占める個人消費支出は1.2%増と3期連続で鈍化しました。これは1月下旬まで続いた連邦政府機関の一部閉鎖などの影響が大きいと考えられます。また、企業の設備投資も0.2%に留まりました。加えて、住宅建設投資も2.8%減と5四半期連続で減少しました。

今回の高いGDP成長率は一次的な要因で、今後はトランプ政権による15000億ドルの減税政策の効果が薄れ、成長率が2.5%前後に低下していくことが予想されます。

4.半年延長となった英国離脱
410日から開催されていたEUの首脳会議は8時間を超える超激論の末に、英国の離脱を10月末まで延長することを決定しました。トゥスクEU大統領は英国が短期間の延期を繰り返してその度毎に首脳会議を開く事態を避けるために、最大1年間の延長を提案しました。ドイツはこれを支持したものの、英国は長期の延期は離脱撤回につながりかねないとして反対、離脱議論の長期化を望まないフランスも反対していました。こうした中で、ユンケル欧州委員長は対英交渉を担当するEUの欧州委員会の任期も10月末であることから、10月末案でまとまったものです。

この案では、英国が議会で承認を得た場合にはその時点で離脱できる条項も盛り込まれました。これは523日からの欧州議会選への参加を回避したいメイ首相にとってプラス材料となりました。しかし、既にEUとの合意案を3回も否決されたメイ首相にとって、英議会が短期間で可決できる見通しは依然としてありません。
                 (201951日: 村方 清)