Monday, October 1, 2018

トランプ大統領の米国第一主義と経済への影響

 
 
 
 
 
 
 

 

 
 
 
19月の株式市場
9月の株式市場は引き続き、トランプ政権が取る対中国貿易強硬策の動きによって、市場が大きく変動することになりました。また、86日から取られたとられたトランプ大統領によるイランへの経済制裁の結果、原油価格も次第に上昇圧力を強め、経済への悪影響が出始めています。主要な動きは以下の通りでした。

94日:トランプ政権の通称政策の先行き警戒感から、海外売上高の比率が高い銘柄が売られ、加えてアルゼンチンやトルコの通貨が大きく売られ、ダウ平均価格は12ドル安(0.05%減少)。
95日:米国とカナダの貿易交渉が再開され、協議の行方を見極めたい投資家が多く、23ドル高(0.09%増加)。
96日:ボーイングや防衛関連の銘柄が上昇し、21ドル高(0.08%増加)。
97日:8月雇用統計で雇用者増加数が201,000人増で市場予想の200,000人増を上回り(失業率は3.9%で変わらず)、67月分が下方修正されたものの、賃金上昇率が2.9%となったことで、利上げの可能性が高まったことで、79ドル安(0.31%減少)。
910日:米中貿易摩擦をめぐる不透明感から、中国と関係の深いアップルやボーイングが売りを主導して、59ドル安(0.23%減少)。
911日:主力製品の発表を控えたアップルや出荷台数が大幅に伸びたボーイングが買われ、114ドル高(0.44%増加)。
912日:米中が貿易問題を協議する可能性があるとの報道から、28ドル高(0.11%増加)。
913日:トルコ中銀の大幅利上げで新興国の経済をめぐる懸念が後退した他、米中貿易協議への期待から、147ドル高(0.57%増加)。
914日:米長期金利や原油先物相場が上昇、金融や石油株が買われ、9ドル高(0.03%増加)。
917日:トランプ政権が中国への2000億ドルへの商品に対する追加関税を課すとの報道から、93ドル安(0.35%減少)。
918日:トランプ政権の対中追加関の発動を発表したが、中国を含む海外相場が堅調だったため、185ドる高(0.71%増加)。
919日:米中貿易摩擦問題への過度の警戒感が後退し、キャタピラーなど資本財関連株が買われ、また米長期金利の上昇を受けて、金融株も買われ、159ドル高(0.61%増加)。
920日:米中貿易問題への警戒感が後退し、投資家心理が改善し、251ドル高(0.95%増加)。
921日:米中貿易問題への過度な警戒感が後退し、86ドル高(0.32%増加)。
9月24日:トランプ政権が中国からの輸入品約2000億ドルに10%追加関税を課したで、米中貿易摩擦問題の長期化への懸念から。181ドル安(0.65%減少)。
925日:貿易摩擦問題への懸念とFOMC会合の結果発表を控え、利益確定売りが先行し、70ドル安(0.26%減少)。
926日:FOMC3回目の利上げを決定、長短金利差が縮まり、利さやが縮小するとの観測から、金融株が売られ、107ドル安(0.26%減少)。
927日:アップルやアアマゾンなど主力ハイテク株が買われ、相場上昇を後押ししたが、たが、貿易摩擦問題への懸念も根強く、55ドル高(0.21%増加)。
928日:インテルやボーイングなどが業績見通しを引き上げたことで買われたものの、貿易摩擦の長期化やイタリア財政の不透明感から、上値は重く、18ドル高(0.07%増加)。

2.米国の雇用状況
米労働省が97日に発表した8月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比201,000人の増加で、市場予想の200,000人増を上回りました。6月の雇用者数の確定値は208,000人で40,000人の減少、7月の改定値は147,000人で10,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は185,333人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、8月の失業率は3.9 %で、前月と同じ水準でした。労働参加率は62.7%で、前月より0.2%下回りました。8月の時間当たり賃金上昇率は前月比10セント増加で、前年同月比では2.9%増となりました。部門別ではヘルスケアが33,000人の増加、建設業が23,000人の増加、運輸・倉庫業が20,000人の増加となりました。

3.FOMC会合と金利引き上げ
FOMC会合が92526日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回8月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は力強い水準で高まった。雇用増はここ数か月間平均すると力強く、失業率は低位を維持している。家計支出と企業の設備投資は力強く拡大した。全般的なインフレ率及びエネルギーと食品を除くインフレ率はいずれも、前年同期比ベースで2%付近で推移している。長期のインフレ予想を示す指標は総じあまり変わっていない。

法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジをさらに段階的に引き上げることは持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、中期的に目標の2%前後付近のインフレ率と整合すると予測している。景気見通しのリスクはほぼ均衡してきているようだ。

FOMCでは労働市場の情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを2.02.25%に引き上げることを決定した。
FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やダドリー副議長を含む8人のメンバーの賛成による。

連銀は26日のFOMC会合で3カ月ぶりの利上げを決定、更に年内1回の追加利上げのシナリオを示し、19年も3回が中心シナリオとなりました。今後も181012月のインフレ率が2.1%と目標を上回って推移すると予測していることがあります。また、失業率が18年振りの低水準となり、経済成長率も3.1%と高い伸びが続くと見ています。しかしながら、FOMCの利上げ見通しの中央値ではみると、20年はわずか1回に留まり、今回初めて公表した21年分はゼロでした。この点、政策金利は3.25%-3.5%が天井になる可能性があります。
なお、今回のFOMCの結果発表後に、米債券市場で長短金利の差が縮まり、利さやが縮小するとの観測から、金融株が売られ、107ドル安となりました。

4.疑惑追及に追われるトラんプ大統領
トランプ大統領のグル=プが2016年の大統領選挙期間中、ロシアとの共謀があるのではないかと疑惑を調査中のモラー特別検察官チームは914日に。トランプ大統領の元選挙対策本部長であったマナフォート氏がウクライナで新ロシア政権にために働き、3000万ドルのマネーロンダリングをした他、1500万ドルの脱税をしたことを認めると同時に、2016年の大統領選挙でのロシア介入疑惑の捜査に全面的に協力することになったことを明らかにしました。

マニュフォート氏はロシアの有力オリガークの一人で、プーチン大統領に近く、米国の経済制裁の対象となっているDepripaskaとの関係が深く、2016年の大統領選挙では無報酬でトランプ大候補の選挙体側本部長となって、情報提供を行っていたことで知られています。さらに、別のロシアの有力オリガークであるAgalarovの意向で、民主党のクリントン候補にダメージを与える情報提供でロシア政府の弁護士とロランプ候補の長男や娘婿との201669日のトランプタワーでの会談にマニュフォート氏が同席したことも明らかになっています。

5.トランプ大統領、国連演説でグローバリズムを否定
トランプ大統領は925日にニューヨークの国連総会で演説、自分の政権の実績を自慢すると同時に、米国は独自の道を突き進む権利があるとグローバリズムの考え方を否定しました。トランプ大統領は昨年の国連総会でも、国連や多国間主義を攻撃しましたが、今年は国際刑事裁判所を非難することで、グローバリズムを全面的に糾弾しました。これに対して、マクロン仏大統領は国家主権を武器として使ってはならず、地球温暖化などを念頭に、強力な多国間主義なくして、21世紀に勝つことはできないと強調しました。また、グテーレス国連事務総長も、トランプ大統領を名指ししなかったものの、1930年代の教訓を無視して、再び大衆主義と孤立主義の道を突き進み、世界的な紛争に転落していく危険について、警告しました。

いずれにしても、トランプ政権によって進められている米国第一主義は米国内だけでなく、国際関係においても、米国の敵国であるロシアや北朝鮮への批判を避け、同盟国である欧州やカナダとの関係を難しくさせるだけに、地政学リスクの高まりになっていく恐れがあると言えます。929日付のLA Times紙は、America firstisolates it at U.N.”との記事で、トランプ大統領は他の国に勝利することもできず、多くの国々を米国無しで考えるように構えさせていくとの批判をしています。

6. トランプ大統領の米国第一主義と経済への影響
トランプ政権は924日に、約2000億ドル相当の中国製品に対する10%の追加関税を発動しました。これにより、既に米国は中国に対し、3月の鉄鋼、アルミ製品に対する関税に加えて、7月に340億ドルの製品と8月に160億ドルの製品に対して25%の追加関税を発動していましたが、今回の措置で約3000憶ドルの中国製品に対して、関税を及ぶことになります。これに対し、、中国政府は対抗措置として、約600億ドルの米国製品に対して10%の関税を課す対抗措置を取ることを発表しています。

トランプ政権が米国が抱える巨額な貿易赤字を大きな経済課題としたのは理解できますが、その改善策が広範囲な輸入製品に対する関税措置というのは間違っていると思います。それは、米国企業を含め、世界的なサプライチェーンを使って生産体制を構築している時に、主要なサプライチェーン先である中国からの製品に追加関税措置を取れば、企業の生産体制の見直しとなり、全体的な供給体制に大きな悪影響が出てくることです。更に、トランプ政権が10%の追加関税を課した中国製品は米国の消費者の需要が高いもので、価格上昇は米国の消費者にも悪影響を与えるものです。

更に、トランプ大統領が86日に取ったイラン経済制裁の影響も、原油価格の上昇となって現れています。ロンドン市場で北海ブレント原油先物が924日に1バレル80ドルを超えましたが、これは2015年以来初めてとなります。ニューヨーク市場でも927日にWTI の原油先物は72.32ドルを記録しました。115日に予定されるイランの石油輸出遮断を含めた第2次制裁が発動されれば、イランからの原油生産量は1100バレル減少することになり、北海ブレント原油先物は確実に90ドル以上となり、最悪の場合、100ドルを超えてしまうのではないかとの見方も出ています。

中間選挙を控え、イスラエル寄りのキリスト教福音派の支持を得るべく、対イラン強硬策に走るトランプ大統領には米国全体の利益が何であるのかが見えていないところがあり、経済面の悪化を含め、今後予想される市場リスクに十分な注意を払っていくが必要になっています。
                                           (2018101日:村方 清) 

 

 

No comments:

Post a Comment