Wednesday, February 1, 2012

ギリシャ問題で再燃する欧州危機とオバマ大統領の一般教書演説













1.1月の株式市場
1月の米国株式市場は、1月中旬に欧州市場でギリシャ問題が再燃したにもかかわらず、経済指標の改善やIT関連の企業業績が比較的好調であったことから、上昇傾向を強めました。加えて、25日に連邦準備理事会が2014年後半まで現在の低金利政策の継続を表明したことも、市場に安心感を与えるものとなりました。1月の主要な動きは以下の通りでした。

3日:欧州や中国の12月の経済指数が上昇したことや米国の製造業景況感指数が6ヶ月振りに高水準となったことから、ダウ価格は180ドル高(1.47%増加)。
4日:欧州の懸念を米国経済指標が打ち消したことで、21.04ドル高(0.17%増加)。
6日:非製造業部門の雇用数が20万人増加(予定では15万人)で、12月の失業率は8.5%に低下したものの、欧州でスペインやイタリアの国債利回りが高水準であることやフランスの国国債格下げリスクなどの懸念があり、56ドル安(0.45%減少)。
10日:米企業アルコアの好調な業績発表や格付け会社フィッチがフランスの国債格下げはなしと発表したことにより、70ドル高(0.56%増加)。昨年7月以来の高値を記録。
12日:イタリアとスペインが実施した国債入札が好調であり、欧州危機の懸念が薄らいだが、米国の個人消費(12月は1%増加)や雇用情勢の指標(新規失業保険申請数は39万9千人で前週より2万4千人増加)が予想を下回ったことから、21ドル高(0.17%増加)。
17日:ドイツの景況指数の好調さや欧州主要国の格下げについては織り込み済みだったことから、60ドル高(0.48%増加)。
18日:住宅市場指数が前月比4ポイント増加し、2007年6月以来の高水準になったことなどから、97ドル高(0.78%増加)。
20日:ギリシャ債務削減をめぐるギリシャ政府と民間金融団との交渉が難航し、欧州市場が悪化したにも拘らず、米国市場はグーグルを除き、IBM、マイクロソフト、インテルなどの企業業績が好調で、97ドル高(0.76%増加)。
25日:ギリシャ危機再燃の懸念から、欧州市場が低迷する中で、米国市場は連邦準備理事会が超低金利政策を2014年後半まで続けることを発表したことから、81ドル高(0.64%増加)で、2011年5月10日以来の高値。アップルも増収増益決算で最高値を記録。
27日:2011年第4四半期のGDPは前期の1.8%に対し、2.8%と増加したが(但し、アナリスト予想の3%に届かず)、シェブロンなどの企業業績が悪く、74ドル安(0.56%減少)。
31日:1月の消費者信頼感指標が前月に比べ3.7%下落するなど市場の予想を下回ったことから、21ドル安(0.15%減少)。但し、1月全体では3.4%の増加で、4ヶ月間連続上昇。

2.ギリシャ問題で再燃した欧州危機
昨年11月1日に就任したドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁の下で、低金利政策や資金供給強化策などの新たな政策を展開、安定を示していた欧州市場でしたが、1月13日のS&Pによる9カ国の国債格付け引き下げ発表及び50%の債務削減をめぐるギリシャ政府と民間銀行団の交渉の難航で、再び不安定化要因が増す懸念が生じました。

今回の国債格下げはトリプルAの格付けだったフランスとオーストリアをダブルAプラスへ1段階引き下げ、イタリアをトリプルBプラスへ2段階引き下げ、スペインをシングルAへ2段階引き下げたことで、欧州連合全体の信用力が低下することになりました。特に問題とされたのは欧州連合の金融安定網と言われる欧州金融安定基金の対応力がフランスとオーストリアの引き下げで、4400億ユーロから、実質的な余力が700億ユーロに低下したことでした。また、格下げはイタリアやスペインの国債コストを上昇させるため、3月までに償還期限の迎えるこれらの国々の大量国債の借り入れ延長が円滑化に進むかに懸念も起こさせることになりました。

しかしながら、その後の動きを見る限り、国債格下げの影響は限定的で、フランスについては長期国債の利回りの上昇はなく、イタリアやスペインについても引き下げの影響は殆ど見られませんでした。その背景には今回の格下げは一機関だけのものであることに加えて、現在ドラギ総裁の下で取られている低金利政策や資金供給強化策などの新たな政策展開があげられます。民間金融機関が低金利による資金供給を受けられる限り、格下げによる影響は最小限度に留まるものと見られます。いずれにしましても、現在早急に求められているのは、1月30日の首脳会議で合意された3月初めの財政規律強化の新条約の署名及び今年7月までに約5000億ユーロの安定メカニズムを創設することに変わりありません。

一方、より深刻な状態にあるのはギリシャ債務の50%削減をめぐるギリシャ政府と民間金融団の交渉の難航です。ギリシャ政府は自立再建のために債務総額がGDPの約120%になることが必要として、民間金融機関に対して総額2000億ユーロに達する国債元本が実質65%から70%になるような自発的削減を求めています。加えて、償還期間についても30年で最初の10年間は4%以下の金利支払いのみを強く望んでいると言われています。一方、民間金融機関にとってはギリシャ政府の要求を受け入れれば、金融機関の財務内容を急激に悪化させるために、悪影響をできる限り少なくさせる条件が望ましいことになります。特に、今回の交渉結果は3月19日に期限が来る145億ユーロの国債が民間金融機関の協力を得て円滑に繰り延べられるかに影響を与えるだけに、合意の内容が注目されることになります。なお、民間金融機関による自発的な債務削減という形式を取っているのは、正式な債務不履行となれば、2008年のリーマン破綻に見られたような多数のCDS(Credit Default Swap)の取引に及ぶことになり、それを避ける意味があります。

ギリシャ債務削減問題の本質はギリシャにとって共通通貨ユーロの価値維持が自国の経済力に見合ったものではなく、高い通貨価値の維持のために取られた厳しい財政緊縮策と増税によって、経済が縮小、税収の減少、債務の増加、失業率の上昇、そして競争力の一層低下などを招いていることにあります。ギリシャの場合、欧州連合のメンバーでなければ、韓国などこれまで債務不履行となった国と同じように、IMFの管理下で財政緊縮政策の導入と同時に、より効果が高まる自国通貨の切り下げを実施したはずです。この点、ギリシャが共通通貨の価値維持が自国の大きな経済負担になっている時に、共通通貨統合体である欧州連合のメンバーであることが問題の解決を一層難しくさせているように見られます。本来、欧州連合が真の共通通貨統合体を目指すのであれば、自力で共通通貨ユーロの価値を維持できるメンバー国が自国の主権を超えた統合体に共通な金融・財政政策を実行していくことが必要で、逆に各メンバー国の主権維持を認めさせている今の欧州連合では常に運営が行き詰まることになります。特に、実質的に債務不履行状態にあるギリシャに対して、他のメンバー国や民間金融機関が支援をめぐって振り回されている状況は欧州連合がメンバー国の債務救済機関になっているようにも見られます。しかも現在実施されている緊縮措置はギリシャが抱える経済力の強化への根本的な解決にはならず、のような方法を続ける限り、欧州危機は次にポルトガルなどにも波及していかざるを得ないと思われます。

3.米国経済の現況とオバマ大統領の一般教書演説
米国政府が27日に発表した2011年第4四半期のGDPは2.8%の増加で、アナリストが期待していた3.0%増には達しなかったものの、前期の1.8%増を上回るものとなりました。また、連邦準備理事会が1月25日の公開市場委員会後に発表した声明でも①米国経済は緩やかな拡大を続けていること、②労働市場も改善傾向が見られているが、依然高い水準にあること、②家計支出部門の伸びがあるものの、住宅部門は引き続き低く落ち込んでいること、③物価上昇は安定した状態を維持していることなどを説明しました。そして、より強い景気回復を支援するために、超低金利政策を2014年後半まで続けることを伝えました。

これに先立ち、24日にはオバマ大統領が新年度の一般教書を発表しました。今回の一般教書は今年11月の大統領選挙を意識したものであり、共和党の大統領候補や共和党との政策の違いを強く強調しました。最初にオバマ政権の実績として、22ヶ月間で3.2百万人の民間部門の雇用を創出したこと、また、破綻寸前であった米国自動車産業に政府が支援した結果、GMが生産量で世界1になって自動車関連産業でも16万人の雇用確保になったことに触れました。その上で、米国の雇用増加に必要なのは製造業の再生であり、国内雇用を増加させる企業には税制上の優遇を与えることを伝えました。また、住宅債務の過大負担問題についても、金融機関のリファイナンスを通じた新たな負担軽減措置を提案しました。さらに、12月6日のカンサス シティでのスピーチに続いて、今回もミドルクラスが報われる社会的な公平さが米国社会の基本的な価値観であるとして、富裕層に対して「バッフェット・ルール」を適用、特に1百万ドル以上の高額所得層はミドルクラスと同じように30%以上の税金を払うべきことを求めました。外交・軍事面ではイラクからの撤退、アフガンからの縮小などを通じて、国防予算を削減、半分は財政再建に、半分は国内インフラを使う計画を示しました。なお、一般教書発表後の調査ではオバマ大統領の支持率が48%となり、不支持率の46%を上回りました。

一般教書発表後、共和党はインデイアナ州のダニエル知事が財政削減策に言及していないとのコメントを出しました(ダニエル知事は、ニュージャージー州のクリスティ知事やフロリダ州のブッシュ前知事と共に、共和党主流派が大統領候補に望んだ一人でした)。しかし、現在の米国財政赤字はブッシュ前大統領が再選戦略のために導入した大幅減税と2つの戦争による軍事費の大幅な増加に主因があるもので、当時OMB(大統領府予算管理局)の責任者であった彼のコメントに疑問を出すMSNBCテレビの政治解説者もいました。しかも、オバマ政権は財政赤字の改善をブッシュ前大統領が導入した一時的な大幅減税の廃止(特に富裕層への課税強化)と軍事費の大幅削減で実行しようとするもので、問題はティーパーティグループの影響による“小さな政府”の考えを建前にして、富裕層への課税強化や軍事費削減を阻止しようとする共和党、特に下院多数派の共和党の姿勢にあるように見られます。また、オバマ政権は一部の民主党議員の反対にも拘らず、今後増大する社会保障費への対応の必要性も認めています。

第2次大戦後に選ばれた米国大統領は、ブッシュ前大統領を除いて、現在の共和党候補達が理想とする“小さな政府”を主張したレーガン元大統領も含めて全員が増税を行なっています。レーガン元大統領は第一期では大規模な減税を実施しましたが、それが引き起こした大幅な財政赤字から1986年に増税のための全面的な税制改正を行っており、ブッシュ前大統領だけが自らの政策で大幅な財政赤字を出しながら、増税を実行しない唯一の大統領となりました(彼の父親であるブッシュ元大統領も財政赤字から1990年に増税を実行)。また、現在の米国経済回復の最大の障害になっている巨額の住宅モーゲージ不良債権化問題も、ブッシュ前政権の行き過ぎた持家奨励政策とウオール街金融機関による投機前提の住宅モーゲージ証券化にあったことは言うまでもありません。

4.共和党の米国大統領候補者選び
共和党の大統領候補選挙については、1月3日のアイオワ州の党員集会ではサントラム候補が第1位に、10日のニューハンプシャー州の予備選挙ではロムニー候補が第1位に、21日のサウスカロライナではギングリッチ候補が圧倒的な票を得て第1位になりました。また、31日のフロリダではロムニー候補の巻き返しが成功し、彼が第1位になりました。しかし、4州で獲得した代議員数がまだ少ないことやギャロップ社の全米支持率調査ではギングリッチ候補がロムニー候補を僅かにリードしており、暫くは選挙が続くことになります。

昨年末まで、資金力や組織力で他の候補を圧倒し、早い段階で指名争いに決着をつけると見られたロムニー候補がここまで苦戦しているのは予想外のことでした。ロムニー候補の問題はキリスト教福音派の支持が得られないモルモン教であることや、マサッツセッツ州知事としての実績が穏健派的な多くの政策を導入してきたことに加え、彼がBain Capitalというプライベート エクィティ(Vulture Capital、ハゲタカファンドと呼ばれることもあります)の会社の責任者として投資家利益の最大化に向かって強引なビジネスを展開してきたことがあげられます(1月18日付けのBloomberg/Businessweek誌は冒頭の記事でBain Capitalを含むプライベートエクィエィのビジネスの特徴を分析していますが、ロムニー候補が主張するような雇用創出が目的ではないと結論しています)。さらに、彼は多額の資産がありながら、税率の低い外国に23の銀行口座を保有したり、米国政府に対し14%程度の低い税金しか払っていないことが一般共和党員の支持を得にくくさせています(税率が低いのはBain Capitalなどのプライベート エクィティがロビー活動によって議会に認めさせたCarried Interest(繰越持分利益)に対する15%の低率というキャピタルゲイン税の存在があります)。それと同時に、ロムニー候補はビジネスマンとして成功者であっても、不況で苦しむ一ブルーカラーを中心とする伝統的共和党員との間で価値観を共有できないことも大きな弱点になっているように思います。

一方、ロムニー候補の最大のライバルとなっているのが元下院議長のギングリッチ候補です。ワシントンの政治や人脈に精通し、様々な角度からの議論が展開できる点で、オバマ大統領に対抗する候補として昨年12月から、急速に評価が上がりました。しかし、ギングリッチ候補には、下院議長時代に強引な政治手法から共和党議員を含めて多くの政敵を作ったことや金銭スキャンダル問題で議長職を失った経歴があります。また、議員を離れた後、政府系住宅金融機関のFreddie Macから160万ドルのコンサルタントフィーをもらい、ロビー活動をしていたのではないかとの批判を受けています。

その他の候補としては、一部の共和党候補の支持を受けているサントラム候補や徹底したリバタリアンの主張をするポール候補がいますが、いずれも考え方に偏りがあり、幅広い一般共和党員の支持を得るには至っていません。

なお、いずれの候補からのオバマ政権への批判が強く見られますが、1月23日付けのNewsweek誌に保守派の政治評論家として知られるアンドルー サリバン氏が“Why are Obama’s critics so dumb?(何故オバマ批判者達はそれほど無知なのか?) という記事を寄稿しています。オバマ政権が1930年代の大不況以来最大の不況に取り組んできた業績に加え、彼のイデオロギーに拘らない現実的な政治手法をもっと評価すべきことを主張しています。恐らく、共和党大統領候補の一部はオバマ政権の実績を認めながらも、オバマ大統領に対抗する共和党候補として、意図的に否定する姿勢を貫いているように思われます。
                (2012年2月1日: 村方 清)

Monday, January 2, 2012

一時的安定を示した欧州危機とオバマ大統領の再選新戦略













1.12月の株式市場
12月の米国株式市場は、米国経済改善の指標が相次いで発表されたにも拘らず、20日頃までは9日の欧州首脳会議合意の実行性への懸念に悪影響を受けました。その後、スペインやイタリアの財政規律策が其々の議会で承認されるにつれ、欧州に一時的安定が見られ、米国市場も改善傾向を強めることになりました。12月の主要な動きは以下の通りでした。

2日:米国の11月失業率は2009年3月以来の低水準である8.6%に低下、しかし欧州危機への警戒感から、ダウ価格は0.61ドル安(0.01%減少)。
6日と7日:9日の欧州首脳会議への期待から、其々78ドル高(0.65%増加)と52ドル高(0.43%増加)。
8日:欧州理事会において欧州中央銀行総裁が中央銀行による国債大量購入は出来ないとの発言や欧州共通債発行へのドイツの反対などが伝えられ、199ドル安(1.63%減少)。
9日:欧州首脳会議で、英国を除く26カ国が財政規律強化のための財政協定および欧州安定メカニズム(ESM)による5000億ユーロの支援基金設立で合意したことから,187ドル高(1.55%増加)。
12日:首脳会議合意の実行性懸念やインテル業績不振等から、183ドル安(1.34%減少)。
14日:イタリア国債の市場金利が危機ラインである7%を越えたことやドル高・ユーロ安から原油や金相場が大幅に増加したことから、131ドル安(1.1%減少)。
19日:欧州中央銀行(ECB)総裁が中央銀行による各国の国債購入に慎重な姿勢を示したことやIMFへの融資額が目標の2000億ユーロに達せず、100ドル安(0.84%減少)。
20日:スペインの国債入札が順調であったことや米国の新規住宅着工件数が1年7ヶ月振りの高水準であったことから、337ドル高(2.37%増加)。
22日と23日:新規失業保険申請数が36万4千件と2008年4月以来の低水準となったこと、11月の景気先行指標総合指数が0.5%上昇したこと、11月の米国新規戸建住宅が過去7ヶ月で最高であったこと等から、其々62ドル高(0.51%増加)と124ドル高(1.02%増加)。
28日:イタリア国債の入札懸念や株価高値の利益確定売りで、140ドル安(1.14%減少)。
29日:新規住宅販売件数が1年7ヶ月ぶりの高水準であったこと等、米国の経済指標がよかったことや欧州危機の懸念が薄らいだこともあり、136ドル高(1.12%増加)。
30日:イタリア国債10年物が危機ラインの7%以上となったり、年末越えの運用リスク回避の動きから、69ドル安(0.57%減少)。なお、2011年は世界の主要株式市場が大きく落ち込む中で、ダウ価格は1年全体として約5.5%の増加。

2.一時的安定を示した欧州危機
欧州危機については、12月9日の欧州首脳会議で、英国を除く26カ国が(1)財政規律強化のための新たな枠組みである「財政協定」、(2)新たな支援措置として、2012年7月稼動予定の欧州安定メカニズム(ESM)による5000億ユーロとIMFを活用した2000億ユーロの支援プログラムを導入することで合意しました。

まず、最初の点については、参加国は憲法や国の基本法で公的債務を対GDP比の0.5%までとする均衡予算の達成・維持を義務付けられ(例外的に、一時的な景気要因で債務がGDP比で3%までの赤字になることが認められる)、3%を達成しなかった場合には他の加盟国が欧州司法裁判所に訴え、制裁措置を課すことなどを内容としています(16日には新たな取り決めについての原案がまとまり、20日から英国を除く26カ国で本格的な協議の予定。なお、新たな取り決めの批准には欧州連合加盟17カ国の過半数である9カ国の合意で可能)。次に、第2のESMは, 本来2013年半ばに欧州金融安定基金(EFSF)を引き継ぐことを予定していたものを1年前倒して両者を併用させると同時に、欧州連合加盟国の中央銀行が総額1500億ユーロ、その他の国が500億ユーロをIMFに融資することにより、IMFからの2000億ユーロを緊急時の財源とすることを見込んでいます。

9日の米国株式市場は前日まで欧州首脳会議での話し合いに悲観的な見方もあったことから、この合意を強く好感し、ダウ価格は約187ドル高(1.55%増加)となりました。しかし、この合意については幾つかの懸念が生じています。(1)の「財政協定」については、欧州連合の共通通貨の維持には参加国の財政規律の確保が不可欠ですが、現時点で自国の財政運営責任を最終的に欧州会議に委ねることに其々の国民がどの程度納得するかがあります。また、財政規律を遵守できなかった国が制裁措置を受け入れるかという問題もあります。

次に、(2)の追加支援措置については既存の欧州金融安定基金(EFSF)にESMとIMFによる新たな制度を加えた支援可能金額は合計で1兆1400億ユーロに達します。しかし、この金額は2012年のPIIGSの債務償還額を上回っているものの、欧州連合第3位のイタリアの債務残高は現在1兆.8000億ユーロで、もしイタリア経済が深刻になれば、十分ではないとの指摘があります。支援措置の拡大からすれば、欧州中央銀行(ECB)によるメンバー国の多額の国債購入機能や欧州共通債の導入が望ましいのですが、インフレやメンバー国の財政規律責任の曖昧化を懸念するドイツの反対から、今回も実現できませんでした。

こうした状況の中で、ドラギECB総裁は8日の政策金利の1%への引き下げに加えて、21日には民間銀行への新たな政策として3年強の新流動性供給策を実施、523の金融機関から4890億ユーロの資金要請に応じました。これはECBがドイツなどの反対が強い域内国債の購入ではなく、金融機関への流動性供給拡大を通じて間接的に金融機関の国債投資の維持・拡大をさせ、当面の危機を乗り越えようとしているものと見られ、年末までの動きからする限り、市場の安定と言う点では一定の効果を上げました。

3.本命不在の共和党大統領候補選びとオバマ大統領の再選新戦略
米国経済については、給与税減税(厳密には社会保障税減税)や失業保険の1年間延長について、共和党は最初にこれを埋める財源の確保が前提との立場を取っていました。しかし、その考え方に固執すれば米国中間層の反発を受けるとの懸念から、上院は12月17日に財源問題を棚上げし、取り敢えず2ヶ月間の延長を行なうという法案を超党派(民主党50名と共和党39名)の賛成で承認しました。これに対して、ティーパーティーグループの影響が強い共和党多数の下院では上院案を拒否し、12月20日に幾つかの条件を付けられるのであれば、1年間の延長を認めるという法案を承認しました。このため、一時は法案の年内合意は難しいとの見通しが出るほどでした。しかし、オバマ大統領の強い要請と上院共和党院内総務から働きかけがあり、最終的に12月23日に下院でも上院案を承認することになりました。当初強気であった下院共和党が譲らざるを得なくなった背景には、8月初めの予算法案における国債発行限度額では議会に予算を認めてもらう行政府の大統領側に交渉上不利な面があったのに対し、今回の給与税減税や失業保険の延長ではその恩恵は米国の1億6千万人と言われる従業員や3百万人の失業保険受給者に直接およぶために、世論の動向を考慮せざるを得なかったという事情がありました。但し、今回の法案は2ヶ月間の延長であり、期限となっている2月に再び大統領・民主党対共和党、特に下院共和党との間で激しい議論が展開されることになると見られています。

共和党大統領候補の選定に関連して、1月3日に予定されるアイオワ州党員集会の選挙では、過去の下院議長時代の汚点やロビーイング活動が問題にされたギングリッチ候補の支持率が低下、彼に代わって本来穏健派でありながら、共和党保守派の支持を得るべく自分の主張や立場を次々に変えるFlip-flopper(風見鶏)と称されるロムニー候補がリードする中で、アイオワ州を最重点に置くポール下院議員や共和党保守派の支持を受けるサントラム元上院議員が急速に追い上げています。特にポール候補は自らをリバタリアンとして、連邦政府や連銀の過度な介入を嫌い、市場原理に任せるべきというのは共和党保守派やティーパーティーグループの主張とも一致しています。しかし、ポール候補が彼等と異なるのは外交や軍事においても国内優先主義を主張するのに対し、共和党保守派は世界、特に中東で同盟国であるイスラエルの権益保護のために米国の強い存在を誇示すべきとの立場を取っていることにあります(ポール候補の場合、12月20日前後から約20年前に出した出版物の人種差別表現が問題にされており、その背景にはポール候補が取る親イスラエルとは言えない立場が影響したかも知れません)。いずれにしましても、1月3日のアイオワ州の党員集会や1月10日のニューハンプシャー州の予備選挙で共和党大統領候補が絞られることはないものの、現在7名の候補者から撤退する候補が出てくる可能性は高いと思われます。

これに対して、オバマ大統領は2012年の大統領選挙における経済戦略を早期の経済回復から、ミドルクラスの利益擁護にシフトさせていると12月26日付のLA Times紙は伝えています。オバマ大統領の戦略転換の兆候は12月6日にカンサス シティーで行なわれた“岐路に立つミドルクラス”のスピーチで表れ始めましたが、それは100年前に共和党のセオドア ルーズベルト大統領が”ニューナショナリズム“のスペーチを行い、ミドルクラスの発展こそが米国経済に不可欠であることを述べた場所でもあります(セオドア ルーズベルト大統領は1905年の日露戦争の和平停戦を斡旋したことにより、1906年にノーベル平和賞受賞)。オバマ大統領の言葉を借りれば、”これは我々が取り組むべき極めて重要な課題であり、それはミドルクラスを発展させるか破壊させるかの瞬間でもある。危険に晒されているのは米国は勤労者が家族を育て、適度な貯蓄を行い、家を保有し、老後に備えることを可能にさせる国であり続けるかである“としています。そして、ミドルクラスの比率が戦後の50%から、1980年までに40%に低下、過去20年間の所得格差拡大の傾向が続けばその比率は3分の1に減少するとしています。これを改善するには米国の国民や企業による公平な負担が重要で、ミドルクラスの減税と高所得富裕層の増税を掲げました。

オバマ大統領の新戦略で効果が出たのは、12月末に期限が切れる従業員の給与税減税と失業保険の延長問題でした。前述したように、財政再建を求めながら富裕層減税が執着するティーパーティーグループの影響力が強い下院でも、米国民や世論の圧力から、最後はベイナー下院議長が超党派の上院案を受け入れざるを得ませんでした。この結果、オバマ大統領の支持率は一時の40%前後から現在は50%近くまで回復しています。オバマ政権の戦略転換が現在時点で成功しているものの、それが今後も持続するかどうかは来年11月の大統領選挙まで、米国経済の回復基調が続くかどうかにかかっているように思います(住宅不況の深刻さからして、来年中にリーマン破綻前の経済状態に戻ることは不可能にしても)。

来年11月の大統領選挙に関連して、もう一つ注目されているのがマサッツセッツ州の上院議員選挙です。マサッツセッツ州は従来民主党が強く、2名の上院議員とも民主党でしたがエドワード ケネディが亡くなった後の2010年1月19日の特別選挙で、ティーパーティーグループの影響を受け、共和党のスコット ブラウン下院議員が選ばれました。しかし、11月の選挙ではハーバード大学の法科大学院教授で、2010年7月のドッド・フランク金融改革及び消費者保護法の成立に尽力したハーバード大法科大学院のエリザベス ウオーレン教授が民主党から立候補することになりました。一時は消費者金融商品保護局の長官になる話も伝えられたウオーレン候補はウオール街の金融機関による行過ぎたビジネス方法を強く批判してきており、現在ウオール街占拠運動グループの広範な支持を得て、現職のブラウン議員を7%程リードしています。また、ウオーレン候補の動きはウオール街占拠運動グループの力が強いとされるニューヨーク、ニュージャージー、メリーランド、ロードアイランド州などの選挙結果にも影響を与えるものと見られています。
                (2012年1月2日:  村方 清)

Friday, December 2, 2011

負の連鎖が拡大する欧州危機と米国市場の動向












1.11月の株式市場
11月の米国株式市場も欧州市場の混乱を反映して極めて不安定な展開となりました。それと同時に、前半は大きく下落すれば、翌日あるいは翌々日に大きな反騰の動きがあったのですが、感謝祭の週では欧州市場の深刻化を反映して、6、7日間下落が続くという状況に発展しました。その後、11月30日の米国連銀を中心とする6つの中央銀行によるドル資金の安定供給措置は一時的に株式市場に大きな効果をあげましたが、欧州危機の沈静化には至っていません。この点、欧州危機への根本的な対応が早急に求められる事態に変わりはありません。なお、11月中のダウ価格を中心とする株式市場の主な動きは以下のようなものでした。

11月1日:ギリシャのパパンドレア首相が欧州首脳会議の合意に基づく財政緊縮策を国民投票にかけることを内閣で承認させたことで、市場の懸念が高まり、ダウ価格は約297ドル安(2.48%減少)。
11月2日:前日の大幅反落の反動で、約178ドル高(1.53%増加)。
11月3日:ギリシャ首相が野党との話し合いで、国民投票回避で合意したことから、約208ドル高(1.76%増加)。
11月8日:ギリシャ首相の辞任発表に伴ない、約102ドル高(0.84%増加)。
11月9日:イタリア国債の市場金利が危機ラインとされる7%を越えたことから、約389ドル安(3.26%減少)。
11月10日:前日の大幅下落反動と一部米国企業の業績改善で、約113ドル高(0.96%増加)。
11月11日:イタリア議会で財政安定法案を承認したことから、約260ドル高(2.19%増加)。
11月16日:欧州危機の米国金融機関への影響懸念と欧州におけるドイツ国債と他の国々の国債の差拡大から、約191ドル安(1.58%減少)。
11月17日:イタリアとスペインの国債金利が7%に近づいたことから、約135ドル安(1.13%減少)。
11月21日:フランス国債の格下げ懸念や財政赤字削減をめぐる米国の超党派委員会の話し合い決裂などから、約249ドル安(2.11%減少)。
11月23日:ドイツ国債入札で売れ残りが出たことや中国製造業の鈍化などから、約236ドル安(2.05%減少)。
11月25日:下落幅は小さかったものの、感謝祭週の業績としては1932年以来最悪。ナスダックもS&P500も連続7日間の下落で、下落幅は6%以上。
11月28日:感謝祭直後のブラックフライデイでの売り上げ増加と欧州連合メンバー国の財政規律政策への承認制度導入について独仏の合意が進むなどの動きが出て、約291ドル高(2.59%増加)。
11月30日:米国連銀、欧州中央銀行、日銀など6つの中央銀行が市場へのドル資金供給を容易にするための措置を取ったことにより、約490ドル高(4.24%増加)。

2.負の連鎖が拡大する欧州危機
欧州危機については、ギリシャやイタリアで政権交代があり、首班に実務経験者がなったことで期待感が高まりましたが、ギリシャでもイタリアも財政緊縮政策に対する一部野党や国民の反発は依然として強く、それが完全に履行できるかは不透明です。スペインについても、2003年以来政権にあった社会党に変わって国民党が多数を占めましたが、財政緊縮政策への国民の不満は大きく、実効性に問題を抱えています。これに加えて、欧州連合の2大強国の一つであるフランスの国債金利がドイツ国債に比べ、一段と高くなるなどの動きが見られ、フランスに対する市場の懸念も生じています。

こうした状況の中で、市場価格の下落が続く国の国債購入に対する欧州中央銀行のあり方をめぐるドイツ政府とフランスを含む他の国々の政府の考えの対立が目立ってきています。ドイツのメルケル首相は国債価値の下落はその国の財政政策に問題があるからで、そうした国は自国の財政支出削減にもっと強く取り組むべきであるとの従来の立場を変えていません。またメルケル首相は欧州中央銀行によるメンバー国の大幅な国債購入に否定的で、欧州連合条約にはそうした機能は規定されていないとしています。これに対して、民間金融機関がイタリアやギリシャなどの国債を大量に保有するフランスなどは自国の財政赤字問題もあり、欧州中央銀行の機能を拡大させ、メンバー国の国債購入に大きな道を開くべきとしています。

欧州連合創設の経緯からする限り、メルケル首相の主張が正しく、財政悪化に陥った国は自国の努力で改善に努めることが望まれます。しかし、共通通貨ユーロの価値維持が第一の目的とされている現在の欧州連合では、為替価値の下落による市場調整メカニズムに委ねることができず、国の資産売却あるいは公務員の削減や給与や年金の大幅削減と言った政府の人為的財政支出削減策に依存せざるを得ません。しかし、こうした資産売却や財政支出削減策は国の経済活動を縮小させ、その結果更なる税収の減少、そして新たな支出削減が必要になるなど悪循環に陥ることになります。そして、このことがギリシャ、イタリア、スペインのように、全体の経済における財政支出依存が高い国々では国民の現政権への不満が高まり、政権交代を求めるなど政治の不安定化が増すことになります。また、欧州連合内部でメンバー国の民間金融機関が他国の国債を保有する度合いが高い状況では、一国の財務問題が民間金融機関の他国の国債保有を通じて、金融機関が属するメンバー国の財務問題に波及するなど負の連鎖が拡大することになります。

11月21日付けのビジネスウィーク誌は、現在の欧州通貨統合を1930年代の厳格な金本位制に例え、金本位制がもたらした1929年の大不況あるいはドイツやイタリアにおけるファシスト政権誕生等と言った悲劇的な出来事を再び起こさないための提言を行なっています。それによれば、共通通貨の維持が困難な国は欧州連合からの離脱が望ましいものの、それが直ぐに出来ないのであれば、金本位制でもあったように連合内の黒字国は赤字国と同じように負担をすることが必要であるとしています。具体的には欧州金融安定基金に銀行の信用創造機能を拡大し、赤字国に対して一定の条件を付けながら、金額に制限のない融資を行なうべきとしています(現在、欧州連合で議論されているのは欧州中央銀行による重債務国の無制限の国債購あるいは欧州共通債です)。こうした提案は現在財政赤字問題を抱えている南欧諸国の政府などの主張に見られるもので、財政緊縮政策だけでは根本的な経済状況の改善にならず、国民の強い反発から一層の政治不安定化が高まるとの懸念に基づいています。

欧州連合の設立の経緯や通貨統合の目的からすれば、ドイツの主張が正しいと見られるものの、現在のように統一通貨維持のためにメンバー国の間の負の連鎖が生じている状態を放置すれば、欧州連合は完全に行き詰まってしまう恐れがあります。現在、欧州中央銀行の国債購入や欧州共通債の発行に強く反対しているドイツにしても、欧州連合の共通通貨維持が自国経済に多胎のメリットをもたらしてきたことを考えれば、そうした提案を容認せざるを得ないように思われます。但し、欧州中央銀行による無制限の国債購入や欧州共通債の発行はドイツが懸念するインフレ誘発や重債務国の安易な財政政策を導くリスクもあり、メンバー国の財政規律の共通化といった厳しい条件設定が必要になっています。

これに関連して、現在メルケル首相とサルコジ大統領の間で、12月9日の欧州連合首脳会議に合わせてトリプルAの格付けを維持する6カ国(ドイツ、フランス、オランダ、オーストリア、フィンランド、ルクセンブルグ)による財政統合と共通債発行を可能にさせる欧州連合の条約改正を進める話し合いが進んでいるとも伝えられています。しかし、この構想は他の欧州連合メンバー国の反発やフランスの格下げのリスクもあり、それほど容易ではないように見られます。いずれにしましても、欧州中央銀行の国債購入や欧州共通債の発行は重債務国の財政問題を一時的に軽減させるのは事実ですが、重債務国の中には経済実態に合わない共通通貨システムを採用している自体が再建の大きな障害になっている面も否定できません。この点、現在の制度にはないものの、深刻な重債務国は欧州連合を離脱させ、直接IMFの管理下で、為替調整を含めた総合的な再建策を実行させる取り決めを組み込むなど根本的な見直しが必要であるように思われます。

3.政治的な対立が招く米国経済の停滞
次に、米国については、国内の政治的対立が株式市場に悪影響を与えています。特に財政再建をめぐる民主党と共和党のイデオロギー的な対立は本来あるべき米国経済の回復過程に大きな障害になっているように見られます。11月23日までに新たな財政削減措置を目指していた議会超党派委員会の協議は民主党と共和党の代表が其々自分達の従来の立場を変えず、合意に至りませんでした。この背景には財政赤字の改善には富裕層の高率課税復活が必要とする民主党と医療保険や年金などの社会保障費の削減が不可欠であると共和党の根本的な対立があり、加えて来年11月の大統領選挙を控え、双方とも安易な譲歩は支持者の離反を招く恐れがあるとの立場を貫いたことにあります。この結果、トリガー条項により、2013年1月から10年間に渡って1.2兆ドルの歳出削減が強制的に行なわれることになりますが、来年11月の大統領選挙の行方によっては、新たな歳出削減策が出される可能性がないでもありません。むしろ、近い将来にとって、より重要なのは今年12月末に期限が切れる従業員給与の一時的減税措置や失業保険の延長措置で、これらが通らないと米国経済への悪影響が懸念されます。

共和党の大統領選挙候補による争いは、女性問題を抱えるケイン候補の支持率が低下する一方、保守的な姿勢を貫く元下院議長のキングリッチ候補の支持率が上昇、一部のメディアは支持率が伸び悩むトップのロムニー候補に並んだと伝えています。11月22日の夜に開かれたCNN主催の共和党大統領候補による外交問題の討論会でも、ギングリッチ候補はこれまでの保守的な対応策を変え、メキシコからの不法移民で家族と共に25年以上米国に滞在している人達には教会活動などのコミュニティーに同化している限り、恩典を与え米国での滞在を認めるべきと発言し、他の候補者との差を位置づけていました。しかしながら、ギングリッチ候補は政府系住宅金融機関であるFreddie Macより多額の報酬をもらって(一部の報道では約180万ドル)、その機関の存続のために、共和党議員を中心連邦議会の議員達にロビー活動を行なったとの批判を受けています。この批判に対して、ギングリッチ候補は得意の詭弁によって、自分は歴史家としてその機関のあるべき姿を助言したにすぎないとの自己正当化の抗弁を繰り返しています。

また、11月22日の討論会は共催者が共和党のシンクタンクといわれるThe Heritage FoundationやAmerican Enterprise Instituteであったことから、前のブッシュ政権の要人達(例えば、ネオコンの代表者の一人とされるウォルフォウィッツ元国防次官補)が質問を行なっていました。その中で、ある質問者はイスラエルがイラクへの攻撃を始めた時に米国はイスラエルを支持するかを聞いていましたが、これに明確に反対したのはポール議員だけで、多くの候補者は支持を表明していました。ポール議員の立場は国内の経済事情が大変な時期に米国の負担が大きすぎる外国への関与はこれ以上すべきでなく、防衛予算についてもブッシュ政権時にアフガンやイラク戦争で拡大し過ぎた防衛費の大幅な削減は当然であるとして、共和党の他の候補とは一線を画していました。いずれにしましても、共和党の大統領候補の選定は来年1月3日のアイオワ州の党員集会や8日のニューハンプシャーの予備選挙まで本命がないまま、ロムニー候補対反ロムニー候補者達の対立を軸に続いていくものと見られます。
               (2011年12月2日: 村方 清)

Tuesday, November 1, 2011

欧州の包括合意とウォール街占拠(OWS)運動の意義と課題













1.米国の株式市場
米国の株式市場は10月も、27日に欧州首脳会議で包括合意が達成されるまでは、欧州の動向に大きく左右される展開になりました。3日は週末にギリシャの2011年の財政赤字が目標のGDPの7.5%に対して8.5%になるとの見通しが発表されたことから、ダウ平均価格は約258ドル下落(2.36%減少)を記録しました。翌日の4日はアップルの新製品発表の期待感からハイテク銘柄中心に上昇相場となり、加えて欧州財務相会議でギリシャへの融資は11月半ばまでに行うことを決めたことから、ダウ価格は約153ドル高(1.44%増加)となりました。5日と6日は欧州危機が当面遠のいたとの判断から、ダウ価格は其々に約131ドル高(1.21%増加)と約183ドル高(1.68%増加)になりました(アップルの創業者であるジョブズ氏の死去はアップルの株を0.23%下げるだけに留まりました)。しかし、7日は格付け機関フィッチがイタリアの長期債格付けを1段階、スペインを2段階下げたことから、約20ドル安(0.18%減少)を経験しました。10日は週末にベルギーとフランス政府がギリシャ国債保有比率の高い民間金融機関デクシアの解体を決定したことやサルコジ大統領とメルケル首相が民間銀行の資本強化で一致したことを受け、ダウ価格は再び約330ドル高(2.97%増加)となりました。11日は欧州金融安定基金の拡大に最後の承認が必要であったスロバキア議会が否決したためにダウ価格は若干下落したものの、12日にスロバキアの議会で欧州金融安定基金の拡大が最終的に承認されたため、ダウ価格は約103ドル高(0.9%増加)となりました。13日の株式市場は米銀大手のJPモルガンチェースの四半期決算を受け、金融株が軒並み下がり、ダウ価格は約41ドル安(0.35%減少)を経験しました。14日は9月の小売売上高が前月比1.1%の増加となったことやグーグルが業績好調さを反映して市場をリードしたこともあり、ダウ価格は約166ドル(1.45%増加)となりました。なお、この日を終えて、ダウ価格とナスダック価格は再び昨年末を上回る数字となりました。

しかしながら、17日にドイツの政府高官が23日予定の欧州首脳会議の合意が容易でないことを伝えたこともあり、ダウ価格は再び約247ドル安(2.13%減少)を記録しました。18日は独政府と仏政府との間で欧州金融安定基金の2兆ドルの拡大に合意との話が伝えられ、ダウ価格は再び約180ドル高(1.38%増加)となりました。しかし、19日は前日発表されたアップルの業績が市場の予想を下回ったことや午後に欧州危機の対応が容易でないとのニュースが伝えられ、ダウ価格は再び約72ドル安(0.63%減少)を経験しました。21日と22日は欧州首脳会議への期待及びとマクドナルドやキャタピラーなど米国企業の好決算を受けて、ダウ価格は其々に約267ドル高(2.34%増加)と約105ドル高(0.89%増加)になりました。25日は米国の消費者信頼感指数が前月に比べて大幅に低下したことや欧州の包括合意の見通しが厳しいとの見方が強まり、ダウ価格は約207ドル安(1.74%減少)を再び記録しました。27日は欧州首脳会議で欧州危機の対応について包括合意が達成したことや第3四半期のGDPが2.5%と予想を上回った水準であったことから、ダウ価格は約340ドル高(2.9%増加)となりました。31日は欧州国債への投資に積極的であったMFグローバルが破産法申請したことや欧州包括合意の実効性への懸念から、ダウ価格は約276ドル安(2.26%減少)を記録しました。しかし、10月全体としては株式相場が大きく上昇、ダウ価格も月間増加率で約9.5%と2002年9月以来の高さになりました。

2.欧州危機と包括合意
欧州危機の問題はギリシャが政府の緊縮政策にもかかわらず、財政赤字拡大から債務負担軽減に結びつかず、不履行の懸念が高まっていること、同時にスペインやイタリアなども財政赤字の縮小が予定通り進まず、これらの国々の国債価値が低下するなどの状態が続いています。その結果、既にギリシャ国債を大量に保有していたフランス・ベルギー系民間金融機関デクシアの解体が10月9日に決められました。また、財政赤字の改善ができないギリシャについて、民間金融機関は今年7月に第2次支援で自発的に約21%の元本削減を受け入れましたが、依然として過大との見方が多く、民間金融機関の損失負担の増加が必要になっていました。

こうした中で、10月23日と27日に欧州首脳会議が開かれ、長時間の議論の末に、今後の進め方に関する包括合意が成立しました。主要内容は(1)ギリシャが民間金融機関に対して抱える債務の50%を民間金融機関は自発的に削減、(2)欧州連合は民間金融機関に1000億ユーロの資本増強を求め、2012年6月までに自己資本比率9%の達成、(3)欧州金融安定基金の拡大策として、イタリアやスペインなどの新たな国債購入する投資家の損失を一部保証する債務保証案と特別目的会社(SPC)を使って外部の投資資金を呼び込む案の併用を実行するとの3つになっています。包括合意に対する市場の反応は極めて良好で、28日は欧州市場だけでなく、ニューヨーク市場でもダウ価格が一時400ドルを越える程の上昇となりました(最終的には約340ドル高)。

しかしながら、今回の包括合意は今後の実行段階で、いずれも大きな問題を抱えています。第一にギリシャの債務の50%削減については、7月合意の21%でも参加率は90%に達していないことからすると、50%の削減に民間金融機関がどの程度参加するのかという懸念があります。もし、参加する金融機関が少なければ、ギリシャの負担軽減問題は大きく挫折することになります。第二に民間金融機関で自力による資本増強ができるところはギリシャ、ポルトガル、スペイン、イタリアなどの南欧の銀行では極めて少なく、公的資金の流入が不可欠になります。しかし、これらの国々は政府の債務比率自体が増加しており、新たな公的資金の負担には限界があります。

第三に中国などの外部の国々に新たな資金を出してもらう方法として、米国の1990年代初めのCMBS(商業不動産抵当証券)や2000年代後半のサブプライムローンの証券化で活用されたSPCを使う債権証券化の方法が考えられています。しかし、証券化は裏づけとなる投資対象商品の価値が上昇し続けていることが必要で、価値の下落があればレベレッジを伴っている商品は損失が加速度的に増大するリスクを含んでいます。現在、欧州連合は多くの低成長と債務負担に悩む国々を抱えており、そうした国を対象にした証券化商品をリスクと利回りの面で外部の投資家に魅力のあるスキームで作ることができるかという問題があります。

いずれにしましても、包括合意は欧州連合のメンバー国が自国の負担を極力少なくさせ、救済を外部に求めたものと言ってもよく、本当の意味の解決にはなっていません。欧州連合の本質的な問題は経済力が十分とは言えない国々に対して、統一通貨維持に必要な条件の加盟審査が厳密に行われることなく、政治的な思惑を優先して連合への加盟が認められ、しかもメンバー国に共通な財政政策の履行を強制させる能力を欠いていることにあります。そして、財政赤字や債務増加に陥った国で取られるべき経済実態に応じた為替政策が欧州連合の統一通貨維持という目的のために実行できないことにあります。この点、ギリシャなどの問題国が欧州連合に留まる限り、今後も欧州連合の不安定さは続かざるを得ないと見られます。

3.米国経済とオバマ政権
米国については9月の失業率が前月と同じく9.1%の高水準に留まっていることもあり、米国上院の民主党は10月11日にオバマ大統領が9月8日に提案した総額4,470億ドルの雇用創出法の修正案の議決を求めました。しかし、共和党議員全員の反対で承認に必要な60票に達せず、廃案となりました。これを受けて、オバマ大統領は雇用創出包括法案に代えて、年収100万ドル以上の高所得者に対する0.5%の増税で、教員、警官、消防士などの地方公務員の解雇を防止しようとする350億ドルの分割法案を10月20日に上院へ提出しました。しかし、これも共和党議員の反対で承認が得ることができませんでした。オバマ大統領としては、雇用法案成立のための遊説ツアーを続けていますが、野党である共和党はティーパーティーグループの影響を強く受けており、現在の米国議会構成ではオバマ大統領の雇用創出案が成立する可能性は低くなっています。米国経済の回復が鈍っている状況で、しかも低金利政策や量的緩和策といった金融政策の効果が限界になっている以上、財政支出による追加の刺激策が強く求められています。しかし、共和党が本来中・長期に解決すべき財政赤字の改善問題を全面に出して、オバマ政権による経済回復・雇用対策に悉く反対しており、財政面でも有効な政策が取れない状況にあります。

なお、オバマ政権は住宅ローンを持っている米国人の4割近くがローン残高より住宅価値が下回っている現在の深刻な不動産不況については、10月24日に議会承認が必要ない大統領令で現在のThe Home Affordable Refinance Program(HARP)を拡大し、ローン残高が住宅価値の125%を越えないという条件を外し、約2百万人はいると見られる借入人を現在のFannie MaeあるいはFreddie Macの対象となるリファイナンス・プログラムに加える措置を取りました。この措置により、住宅ローンで遅滞がない借入人は安い金利のリファイナンスを受けられ、連銀が9月に発表したツイスト・オペに比べ、恩恵が直接借入人に及ぶことになります。

4.共和党大統領候補の討論会
共和党大統領候補による討論会は10月も、11日と18日の両日に開催されました。特に、11日は米国の経済問題がテーマで、ビジネス界出身のケーン候補が提案した新たな税金政策である9-9-9が注目されました。所得税、法人税、売上税をいずれも一律に9%にするという考え方は新鮮でケーン候補の支持率を上げるのに役立ちました。しかし、現在の米国の深刻な経済問題への対応については、どの候補者も具体的な提案がない状況に変化はありませんでした。 

18日の討論会ではケーン候補の9-9-9に対する批判が相次ぎ、特に、現在州税である売上税を新たに連邦税に含めることには税負担が大きくなるとの理由で他の候補者から多くの反対意見が出されました。また、ペリー候補が初めて米国の経済回復策として、米国内のエネルギー開発を進めることを提案しましたが、テキサス州のように資源がある州はよいにしても、資源のない他の多くの州にどの程度の適用性があるのかに疑問を残しました。一方、米国の現在の不況の主因である不動産不況の対応策について、ポール議員はブッシュ政権から続いている連邦政府や連銀の過剰な関与がもたらしたものであり、市場経済に委ねるべきという提案が出されました。しかし、彼の提案は今の状況が正常であれば検討の余地があるかも知れませんが、現在のような深刻な不動産不況では市場経済に委ねれば住宅価値が更に減少し、事態が一層悪化しかねないという問題への解決策にはなっていませんでした。また、この日の討論会では共和党候補者の中で一番リードしているとされたロムニー候補に対し、他の候補者達から不法移民問題や健康保険問題で厳しい質問があり、再び本命が不在となるような結果になりました。

5.ウォール街占拠(OWS)運動
最後に、9月17日に始まったウォール街占拠(Occupy Wall Street:OWS)運動は全米の各都市(あるいは世界の主要都市)に広がりを見せています。その背景には学校を出た後あるいは失業した後、すぐに就職口が見つからない若い人達の不満が中心となっています。同時に米国で長期間続けられてきた所得格差の拡大やリーマン破綻後の対応策がウォール街の大手金融機関の救済が優先され、経済状況が悪化している多くの中間所得層に向けられていないことへの政府への不信も重なっています。OWS運動で見逃すことができないのはこの運動を起こしたカル・ラスン氏(バンクーバー拠点のアドバスターズ共同創業者)が述べているように、この運動が反ティーパーティー運動の性格を持っていることです。現在、米国では全人口の1%の富裕層が米国全体の資産の25%近くを保有していると言われ(ニューヨーク市ではこの比率が40%以上)、しかも富裕層が献金やロビー活動によって、政府の政策に大きな影響を与えている状況を放置すべきでないということがあります。OWSが現在The 99% Movementと呼ばれるようになっているのもこのためです。この点、ティーパーティ運動が政府の関与を極力少なくさせた市場経済重視の旧来型の資本主義の復活を求めているのに対し、The 99% Movementは行過ぎた市場経済型資本主義を民主主義の理念に基づいて政府の適切な介入による修正を求めていると言えるかも知れません。

しかし、The 99% Movementは多くの参加者を集め, 一般の人達の関心を得ていながら、現時点ではティーパーティ運動と異なり、組織化の点でかなり遅れています。ティパーティー運動は政府の介入を好まない富裕層や企業の資金支援を受けて、全米的な政治活動組織を作り、これが2008年の中間選挙で共和党の中に大きな存在感を確立することに成功させました。The 99% Movementもこの運動に参加する人達が本当に彼らの目的を少しでも実現しようというのであれば、そのための政治活動組織を作ることが必要であり、もし組織化ができなければ単に現状に不満を抱く人達の抗議の集まりで終わってしまう恐れもあるように思います。
                
(2011年11月1日: 村方 清)

Sunday, October 2, 2011

混迷続く欧米経済と株式市場の不安定化











9月の米国株式市場も欧州危機の混乱と米国経済回復に対する政策面の遅れから、全体的に悪化が目立つ月となりました。9月1日に米国の行政管理予算局が2011年成長率の鈍化や失業率の高止まりの見通しを伝えたことや9月2日に8月の失業率も前月の9.1%の水準に留まったとの政府発表があったことから、ダウ平均価格は2日連続で約120ドル安(1.0%減少)と約253ドル安(2.2%減少)を記録しました。翌週になると、9月7日にドイツの連邦憲法裁判所がドイツ政府によるギリシャ支援や欧州金融安定基金の機能拡充措置を合憲としたことから(但し、今後は連邦議会の承認を得ることが必要)、市場が落ち着きを取り戻し、ダウ価格は約276ドル高(2.5%増加)となりました。しかし、9月8日夜にオバマ大統領が景気・雇用対策のために総額4470億ドルの雇用法案を提案し、市場も前向きの評価を与えたものの、9月9日に欧州中央銀行の専務理事が辞任したことやギリシャの債務不履行の懸念が伝えられ、ダウ価格は再び約304ドル安(2.7%減少)を経験しました。翌週になると、Moody’sによるフランス商業銀行の格下げやオーストリア議会の欧州安定基金への拠出への混乱などが伝えられましたが、9月14日にドイツのメルケル首相とフランスのサルコジ大統領がギリシャ首相との電話会談で、ギリシャが7月21日のユーロ圏首脳会議の決定を実行する限り、ギリシャが欧州連合に留まるための支援を行なうことを確認したことで、ダウ価格は再び約141ドル高(1,27%増加)となりました。9月15日には日米欧の中央銀行が欧州におけるドル資金の供給を強化し、民間商業銀行の資金繰りを支援することを確認したこと、さらに16日に欧州財務相会議で10月にギリシャへの追加融資実行の方針を確認したことで、両日のダウ価格は186ドル高と76ドル高となりました。 なお、この週は2ヵ月半振りに5日間連続でダウ価格の続伸となりました。9月19日はオバマ大統領が先の雇用法案に必要な金額を差し引いた今後10年間における3兆ドルの財政削減計画を発表しましたが、ギリシャ支援を巡るトロイカ(欧州連合、IMF’、欧州中央銀行)とギリシャ政府の話し合いが難航しているとの話が伝えられ、ダウ価格は約108ドル安(0.94%減少)を記録しました。また、9月20日と21日に開かれた連銀の公開市場委員会で、連銀は21日の午後に4000億ドル規模で長期国債の保有比率を高めるツイスト・オペを発表しましたが、市場を驚かせる効果が少なかったことやMoody’sが米国の3つの商業銀行の長期債格付下げをしたことから、ダウ価格は約284ドル安(2.5%減少)を経験しました。更に翌日は連銀の世界経済の見通しが厳しいとの受止め方から、欧州やアジアの株式市場が警戒感を深め、ダウ価格は一時500ドル以上の下落となり、最終的に約391ドル安(3.9%減少)を記録しました。26日の週も前半は欧州金融安定基金の機能拡充など欧州危機に一段と踏み込むなどのニュースがあり、26日のダウ価格は約272ドル高(2.5%増加)に転じたものの、9月30日にはギリシャの財政赤字改善の困難さや中国経済の鈍化のニュースが伝えられ、ダウ価格は約241ドル安(2.2%減少)を経験しました。なお、9月末で終わる第3四半期のダウ価格は約12%の下落で、2009年第1四半期以来最悪の四半期となりました。

9月の欧州市場はギリシャの財政赤字問題が改善の見通しが少ない中で、市場におけるギリシャ債務不履行の懸念の高まりとそれを回避したい欧州連合の主要国や欧州中央銀行の対応措置の繰り返しになりました。それと同時に、従来と異なっていることは支援側のドイツの一部や北欧諸国の一部からギリシャなどの問題国は欧州連合から離脱させるべきとの意見が出てきたり、受け入れ側のギリシャ国内でも現在要求されている財政緊縮政策の厳しさからこれに反対する国民や野党の中より欧州連合からの離脱を主張するグループが出てきたことだと思います。しかしながら、昨年初めにギリシャ債務問題が顕在化した時期であればとも角、それ以降欧州連合やIMFによる支援の取り決めが拡大し、欧州連合内の経済運営が相互に密接な関係を持っている以上、債務不履行や一方的な離脱は2008年のリーマンブラザーズ破綻と同じか、それ以上の混乱を欧州だけでなく、世界経済に与える恐れがあります。これに関連して、9月16日までに合意する予定だった80億ユーロの貸出実行条件をめぐるトロイカ{欧州連合、IMF、欧州中央銀行}とギリシャ政府の話し合いが10月初めまで引き延ばされました。その背景には欧州連合内部で欧州金融安定基金拡大について17カ国の加盟国全てが自国議会の承認など必要な手続きを完了できるか(9月末までにドイツを含めて12カ国が承認済み)と同時に、9月27日の固定資産課税強化法の議会承認に続き、ギリシャ政府による3万人の公務員削減や年金20%の減少等についても国民の理解を得て議会で承認されるかを見極めたいとの判断があったものと見られます。いずれにしても、実質的には債務不履行に近い状態のギリシャの債務問題が改善される見通しは少なく、今後は債務不履行や離脱に伴う市場の混乱をどのように抑えていくかが欧州連合の主要国や関係機関における検討課題になってきているように思います。

一方、米国については、ギリシャなどの欧州危機と異なり、長期に解決すべき財政赤字問題が議会における政治的なイデオロギーの争いになってしまい、経済回復や失業問題に対して必要な財政措置や金融政策が積極的に取れないことに最大の障害があります。オバマ大統領が9月8日に大胆な雇用法案や9月19日に大規模な財政削減案を発表したにもかかわらず、議会下院で多数を占める共和党からの協力姿勢が見られないことから市場に与える動きも限界となっています。また、9月20日と21日に開かれた連銀の公開市場委員会で示されたツイスト・オペも昨年秋に実行されたQE2の量的金融緩和策に比べ、即効性が少なく、市場の反応は芳しいものではありませんでした。ツイスト・オペは深刻な状態にある米国の住宅不動産市場に対して、長期間の低金利ローンを供与する点では意味がありますが、住宅市場の活性化のためには米国の雇用増加や安定収入確保に基づく住宅需要の増加が必要であり、単に低金利のローンを供与するだけでは解決策になりません。米国にとって景気回復が遅れている最大の理由は米国議会の中に現在の米国経済の深刻さの度合いについて共通の認識がなく、イデオロギー的な政治理念の対立を優先させるために、経済回復措置の実行が進まないことにあります。現在の財政赤字の主因であるブッシュ政権時代の政策、大規模減税、アフガンやイラクでの戦争参加による軍事費の大幅増加、持ち家促進のための金融優遇や規制緩和による行過ぎたサブプライムローンの大量不良債権化等はいずれも大胆な見直しと改善策が必要になっており、オバマ大統領はこのために様々な提案を行なっています。しかし、共和党、特にティーパーティーグループは来年11月の大統領選挙でオバマ大統領の再選阻止が第一の目的となり、財政赤字を理由にオバマ政権の財政支援策を悉く批判、米国の深刻な経済問題の解決に向かって超党派的な協力姿勢を示さないことに大きな問題があります。ギリシャの例でも見られるように、共和党が主張する財政赤字改善を優先させる緊縮財政政策だけでは現在の米国経済のような深刻な不況にある時には、経済規模が縮小、結果として債務が増加する悪循環に陥る恐れがあります。

共和党の大統領候補による討論会が、9月7日にロサンゼルス郊外シミバレーのレーガンライブラリーを皮切りに、9月12日にフロリダ州タンパと9月22日にフロリダ州オーランドで、3回に渡って開かれました。ソーシャルセキュリティーの扱い、不法移民への対応、宗教教育の取り扱い、外交政策等については支持率数で第1位のペリー・テキサス州知事に対し、第2位のロムニー・元マサツセッツ州知事やその他の候補者との間で顕著な違いが見られましたが、米国経済低迷や高失業率問題については、いずれの候補もオバマ政権の政府指導型の不況克服を批判、1980年代初めに故レーガン大統領が行なった小さな政府による減税と規制緩和による民間指導型の政策が必要であることを提案していました。しかしながら、レーガン第一期政権は大型減税と巨額軍事支出で財政赤字が大幅に増加、第二期政権の1986年の税制改正で大幅減税や優遇税制措置を悉く廃止し、それが結果的にクリントン政権における財政再建の達成に結ぶついたことについての言及はありませんでした。また、2008年9月のリーマンブラザーズの破綻以降、現在の米国経済不況の最大の要因となっている不良債権急増の住宅不動産市場をどのように立ち直させるかについても、どの候補者からも具体的な提案はありませんでした。

いずれにしましても、欧州危機が更に深刻さを増す中で、米国経済の回復は世界経済の健全な発展のためにも不可欠となっています。しかし、昨年秋の中間選挙の結果、小さな政府による極端な自由市場経済を掲げるティーパーティーグループが共和党支配の下院で大きな影響を与えるようになって以来、一切の妥協を認めない彼等の主張が障害となり、大統領と議会の対立だけでなく、議会内部の対立が悪化し、米国経済の円滑な運営が著しく妨げられるようになっています。現在も10月1日から11月18日までの暫定予算が両院の対立を起こし、合意が得られず(ハリケーン被害による一時的な救援資金法は9月29日に合意)、8月初めのように政府機関閉鎖の恐れが出てきています。このような2大政党間のイデオロギー的対立が来年11月の大統領選挙まで続くことは米国だけでなく、世界にとっても不幸なことであり、米国議会がイデオロギーの対立を超えた米国の経済再生のために、生産的な議論や行動を取っていくことが強く求められているように思われます。
                     (2011年10月2日: 村方 清)

Thursday, September 1, 2011

“日本病”に陥り始めた米国経済と株式市場への影響













8月の株式市場は、8月2日に連邦政府の借入限度が議会で承認されたにもかかわらず、それ以降は下降局面の中で、上下の揺れが極めて大きな値動きを経験しました。8月2日のダウ平均価格は前日の製造業生産に加え、6月の消費支出もマイナス0.2%であったことなどの不振が伝えられ、今年3月以来最大の約266ドル安(2.2%の減少)を、8月4日も欧州中央銀行による欧州危機の懸念表明から約513ドル安(4.3%の減少)を記録しました。加えて、8月8日は前週の金曜日午後に米国の格付け機関の一つであるS&Pが米国政府の財政再建取り組みが不十分との判断から米国債の格付けをAAAからAAプラスに引き下げたことから、株式市場は大きく下落、ダウ価格は約635ドル安(5.6%の減少)となりました。この下落は2008年12月1日の679ドルに次ぐ大きなものでした。但し、翌日の8月9日に開かれた連銀の市場公開委員会後の記者会見で、バーナンキ連銀議長が現行の低金利政策を2013年半ばまで続ける用意があること、景気動向を見ながら追加の金融緩和策を取る用意があることを表明したことから、ダウ価格は再び約430ドル高(4.0%の増加)となりました。しかし、8月10日は欧州、特にフランス国債の格付け引き下げ懸念が出たこともあり、ダウ価格は再び約520ドル安(4.6%の減少)の下落となりました。それ以降は逆に、翌日の8月11日は先週の新規失業保険申請者数が5万人減少したことが原因で、ダウ価格は約424ドル高(4.0%の増加)を、12日は7月の小売額が0.5%上昇したこともあり、約126ドル高(1.1%の増加)を記録しました。さらに、8月15日はグーグルがモトローラの買収を決めたことやECBによるイタリアやスペイン国債の購入により欧州市場が安定を取り戻したことにより、ダウ価格は約214ドル高(1.9%の増加)となりました。なお、この日のダウ終値は11,483ドルで、S&Pによる米国債の格下げ決定前の水準まで戻ったことになりました。しかし、8月18日には大手金融機関の世界経済見通しが厳しかったこと、失業保険申請者が市場予測より増加したこと、さらに7月のCPIが0.5%に増加し、連銀の追加金融緩和措置が遠のいたとの観測などから、ダウ価格は一時500ドルを越す下落を再び経験、終値は約420ドル安(3.7%の減少)となりました。翌週の8月22日には株価が下がり過ぎた株を買い戻す動きと8月26日に予定されるバーナンキ連銀議長による新たな金融緩和策の期待から、ダウ価格は再び約322ドル高(3.0%の増加)を記録しました。8月26日の連銀議長の講演も追加の金融緩和策の余地を確認するものであったため、ダウ株価は更に約135ドル高(1.2%の増加)となりました。加えて、8月29日はギリシャの2つの商業銀行の合併が発表されたことで、ダウ価格は約255ドル高(2.3%の増加)となりました。いずれにしましても、8月のように株価が日毎に(時には1日の中で)、大きく変動を繰り返す月は最近においては例のないものでした。この背景には不安定性が一層増している欧州経済や景気の鈍化が目立つ米国経済や財政赤字問題を実際以上に政治化させてしまった米国議会における混乱があります。

欧州危機について見れば、欧州安定基金により、ギリシャ、ポルトガル、アイルランドへの資金供与が実行され、さらにこの基金の2500億ユーロから4000億ユーロの拡大も決定されました。それにも拘らず、8月も欧州危機の問題が米国の株式市場に大きな影響を与えたのはこれら3国以外に欧州連合の第3位と第4位の経済力を保有するイタリアとスペインの経済が低迷し、財政赤字拡大の懸念に伴う両国の国債信用低下問題が起こったためでした。欧州中央銀行は8月15日に両国の国債を流通市場から購入する措置を取ったことにより、投資家の不安は一時的に収まりましたが、両国の経済が直ちに好転する状況にはないだけに、再燃する恐れはあります。これに関連して、欧州中央銀行による問題国の国債購入では一時的な解決にすぎず、欧州連合の共通国債(欧州債)を発行すべきとの意見も出てきています。確かに、欧州債は問題国の国債に比べ、経済力が強いドイツやオランダなどを含む欧州連合全体としての債券であり、信用力が高く、金利も安くなることが期待されます。しかしながら、経済力の強い国の立場からすれば、欧州債の発行は自国の信用力の低下を招き、自分の国債発行コストにマイナスになりかねないだけに、それを相殺するメッリトがない限り、認められる状態にはありません。その意味で、欧州債は現在の欧州危機を解決する可能性はあっても、その是非は欧州連合のあり方に関係する問題になっています。ユーロという共通通貨を前提にした欧州連合は各国の主権を前提にしている経済統合であり、それを超える超国家形態ではありません。しかし、欧州債の債務返済が担保されるには各国の主権を超えた共通の財政・金融政策の実行が条件となります。8月16日の独仏の首脳会議でメンバー国独自の財政改善努力の必要性で一致したものの、欧州債に言及しなかったのも現在の欧州連合では困難との判断があったためと見られます。加えて、最近では欧州連合の最大経済国であるドイツを含めてメンバー国の景気後退が出始めており、今後も暫くは欧州危機が米国の株式市場に悪影響を与えるのは避けられません。

一方、米国については、8月5日の午後にS&Pが米国債の格付けを引き下げたことが8月8日以降の株式市場に大きな混乱を与えることになりました。S&Pの格下げ評価については、他の格付け機関がAAAの評価を変えていないこと、米国政府の債務不履行リスクという点では、2008年9月のリーマン破綻時期の方がより大きかっただけに、今回の判断には多くの批判が出されています。実際の債券市場でも彼等の格下げ判断にも関わらず、米国債の金利が低下しているという状況が起きています。米国の3つの格付け機関は現在の不動産不況の主因となっているサブプライムローンの証券化商品のリスク判断で、大きな評価の間違いをしており、それが格付け機関に対する批判ともなりました。8月8日のMSNBCで、ライシュ・UC バークレー大教授(クリントン第一期政権の労働著官)が今日の大不況の理由の一つは、格付け機関がサブプライムローンの証券化商品にトリプルA の格付けをしたことにあると述べていましたが、適切な指摘であると思います。いずれにしても、S&Pが格下げ評価の理由として、本来一時的であったブッシュ減税の取り扱いについて未だに適切な措置が取られていない点は正しいとしても、現在のように不履行の懸念が全くないと見られる米国債について格下げを行う必要があったかは大きな疑問とされます。

また、現在の米国の厳しい経済状態について、来年の大統領選挙に立候補予定の共和党候補者から相次いで、過去2年間のオバマ政権の取り組みへの批判が出されています。しかしながら、今回の米国の不況は2008年にリーマンブラザースを始め、多くの金融機関を破綻させた過剰なサブプライムローンに基づく深刻な不動産不況に主因があるとの認識がいずれの候補者から出されていません。株式市場については企業のリストラ化やグローバル化、あるいは連邦政府の金融安定化法や連銀による質と量面における金融緩和措置により、一時的に回復しましたが(少なくとも今年第2四半期までは)、7月以降は連邦政府の借入限度引き上げに関連して、財政収支の改善のあり方が議会の与野党間の激しい対立を起こしたため、株式市場は再び混迷することとなりました。それと同時に、不動産不況の深刻さは商業不動産のみならず、住宅不動産でも今でも続いています。 最近のS&Pの報告によれば、通常の中古住宅物件の在庫(現在は9か月分程)に加えて、金融機関が差し押さえたものの、価格の低迷から市場に回されていない“Shadow Inventory(隠された在庫)”の住宅物件が依然47か月分(約4年分)があるとしています。こうしたことが住宅市況の改善を著しく阻害しており、もし、金融機関が大量の差し押さえ物件を一挙に市場に出せば、急激な価格下落が生じる恐れがあります。こうした厳しい不動産不況は地方銀行を中心に年間100行以上の倒産が続いたり、米国最大の商業銀行であるBank of America(全米最大手の住宅モーゲージレンダーであったCountrywideや住宅モーゲージ証券化ビジネスの大手投資銀行であったMerrill Lynchを買収)の著しい業績悪化や株価の急激な下落を招いています(Bank of Americaの8月24日の株価は2009年3月以来の低水準である6.99ドルで、翌日の25日に世界最大の投資持株会社であるBerkshire Hathawayの会長兼CEOであるウォーレン バフェットが50億ドルの資本増強に応じました)。また、不動産不況は従来このビジネスに従事していた不動産、建設、金融関係の雇用を大きく失わせているだけでなく、一般の米国人にとっても株投資と並ぶ健全な資産形成であった不動産投資ができず、全体の個人消費の低迷の原因を作っています。8月26日のバーナンキ連銀議長の演説も今回の深刻な不況は従来の景気循環型と異なり、住宅市場の長期低迷化と経済のグローバル化が大きく影響しており、その回復には金融面の緩和策だけでなく、財政政策も合わせて取られる必要があることを強調しました。共和党のブッシュ政権による安易な持ち家促進政策や行過ぎた金融の自由化がもたらした今回の不動産不況の克服に共和党候補者はブッシュ政権やそれを引き継いだオバマ政権の金融安定化法による支援措置を批判するだけで、何一つ具体的な解決策を示していません。ティーパーティーグループの支援を期待するペリー候補は不況克服のために導入すべき連銀による量的金融緩和策を批判しましたが、インフレ懸念がない時でもそれに反対するのであれば、不況克服のためには他にどのような具体的な方策があるのかを示すことが求められているはずです。

加えて、米国内の雇用面の対応においても、企業のグローバル化に伴って、多くの米国大手企業が国内の雇用を増加させていない状況の中で、共和党候補が政府の介入を少なくさせ、市場原則に委ねれば、民間企業は国内雇用を増加できると主張するのであれば、その根拠を明示するが必要だと思います。例えば、テキサス州知事のペリー候補はテキサス州の雇用増加が多かったことを強調しますが、テキサス州における最近3年間の純雇用拡大は連邦政府の財政支援による政府職員の増加だったり、民間企業における最低賃金以下の従業員比率が全米で最も高いなどの問題が出ています。米国が現在直面している不況は、1990年代初め以降、日本が経験してき不動産バブル崩壊と高すぎる外需依存による過度なグローバル化がもたらした長期の構造不況(いわゆる失われた10年)という“日本病“に酷似するものであり、深刻な不況克服には何が必要であるかを与党のオバマ政権だけでなく、野党の共和党候補も具体的な方策を提案し、議論を戦わせることが強く求められています。

”日本病“に関連して、7月30日付けのエコノミスト誌は表紙に和服姿のドイツのマルケル首相と米国のオバマ大統領の似姿絵を並べて、両指導者はいずれも、長期に渡る国内の政治的対立から効果的な政策が取れない日本化に罹り始めていると風刺しています。それは欧州危機の問題にドイツ国内の政治事情から適切な対応が取れないマルケル首相と共和党が多数派となった下院の政治事情からリーダーシップが発揮できないオバマ大統領の状態を示したものです。その一方、経済的な”日本病”とは2008年ノーベル経済学賞を授賞したクルーグマン・プリンストン大教授が説明しているように、デフレ経済の進行により、積極的な金融緩和策を取っても、企業や個人の借入需要が増加せず、景気改善が図れないケインズ経済学の”Liquidity Trap (流動性の罠)に陥った状況を指しています。シカゴ連銀のエバンズ議長も8月30日のCNBCのインタビューで、米国経済が流動性の罠に陥っているとの見方を示しました。

最後に、現在の米国の政治状況について、CNNが8月7日から9日まで行なった調査によれば、8月2日に決められた借入限度の引き上げ問題に対する議会の対応に不満を持つ人が多く、2012年での下院選挙で再選を望むのはわずか41%に留まりました。特に、共和党を支持する人の割合は41%から33%へ減少、不支持者は1992年以降最大の59%に増加しました。その中で、ティーパーティー支持者は37%から31%に減少しました。一方、民主党は支持者と不支持者の割合はいずれも47%で従来と変化がありませんでした。なお、8月2日の与野党の財政削減合意に関連して、12名からなる議会の特別委員会に望むものとしては63%の人達が富裕層や企業への減税廃止を、歳出面では軍事費の削減が必要としたのは47%で、ソーシャルセキュリティーやメディケアの削減には3分の2が反対となっていました。野党の共和党はこうした世論の結果を踏まえた現実的な行動を取っていくことが必要になっていると見られます。
                (2011年9月1日:  村方 清)

Monday, August 1, 2011

ギリシャ等の欧州危機と異なる米国の債務問題













7月に入り、6月の製造業景況感指数が全米で拡大しているとのデータが発表されたこともあり、7月1日のダウ平均価格は168ドルの上昇(1.36%)を記録しました。また、この週はダウ平均価格が5.4%の増加となり、過去2年間で最善の週となりました。しかしながら、7月11日には米国連邦政府の借入限度引き上げに関する大統領と議会関係者の話し合いが難航していることに加え、欧州でイタリアの銀行不安と財政赤字問題が伝えられ、ダウ平均価格は151ドルの下落(1.20%)を経験しました。その後、7月19日に米国政府の借入限度引き上げに関し、上院の6名の議員(Gang of Six)による妥協案にオバマ大統領が前向きの反応を示し、明るい見通しが出てきたとの市場の観測から、ダウ平均価格は今年最大の202ドル(1.63%)の上昇となりました。しかしながら、7月25日の週に入ると、借入限度の引き上げをめぐって、昨年11月の中間選挙で躍進したティーパーティーグループの影響を受けた共和党が、借入限度の引き上げにはそれを上回る歳出削減が必要であることを強硬に主張、これに全面的に反対する民主党との間での合意の見通しが立たず、ダウ平均価格は5日連続で下落、合計で538ドル(4.2%の減少)という今年最悪の週となりました。本来、7月は米国の多くの企業が四半期の業績を発表することもあり、株式市場は比較的安定していますが、今年に関してはアナリストの業績予想を大きく上回ったGoogleやAppleの業績発表時期を除き、欧州問題や米国政府の借入限度引き上げ問題のために、株式市場は極めて不安定な状態が続きました。

欧州経済については、7月3日の欧州財務相会議でギリシャに対する第1回金融支援の第5回融資実行条件が承認された後、7月21日に欧州首脳会議で、民間金融機関からの支援500億ユーロを含む総額約1590億ユーロに達するギリシャへの第2回金融支援が合意に達しました。これに加えて、ギリシャ以外の国への支援増加に備えて、欧州金融安定基金(EFSF)の強化策として、融資枠の拡大や民間金融機関が保有する国債の買取りも可能とさせました。この結果、7月22日以降はユーロへの信頼が取り戻されています。しかしながら、こうした合意について、格付け機関の一つであるFitch社は民間金融機関が保有するギリシャ国債の繰り延べや新たな国債とのスワップが実行されるのであれば、ギリシャをトリプルC(Junk bondの中で、下位の位置づけ)から限定的な債務不履行(“Restricted Default”)に下げざるを得ないと表明しました。いずれにしても、今回の第2回金融支援では民間の金融機関にも参加することを求めている点で第一回とは異なっていますが、こうした金融支援によってギリシャが立ち直るかどうかは依然として不透明です。一層厳しい財政緊縮政策はギリシャの経済成長を更に鈍化させ、そのことが税収の減少や失業者の増加になってくる可能性は否定できません。その意味で、昨年5月の合意と同じように、ギリシャが自国経済の実態と合わないユーロの価値維持に制約され、緊縮政策だけが求められている以上、時間の経過と共に再び問題が顕在化するリスクがあると言えます。

一方、米国の財政赤字問題に関連して、米国債がMoody’sやStandard & Poor’s等の格付け機関からトリプルAの評価見直しの警告を受けたこともあり、ギリシャ等の問題と同じように捉える見方が出てきています。しかし、欧州危機と米国の財政赤字問題では基本的に大きな違いがあります。第一にギリシャ、ポルトガル、あるいはスペインにも一部は該当するかも知れませんが、経済の競争力が弱いために輸出できる製品が少なく、外貨の獲得能力には限界があります。この背景にはこれらの国はいずれも社会主義政党が政権を長く担当していたこともあり、従業員の労働生産性が低くなっていることがあげられます。第二に対外債務が増加し、国際競争力をつけることが必要な場合には、通常は自国通貨の価値を引き下げることが求められますが、共有通貨ユーロの価値維持が欧州連合加盟国の義務であるため、これらの国ではその選択がありません。第三に、特にギリシャの場合、過去180年間を通じて国の借り入れ比率が高いことが多く、債務不履行についても幾つかの経験があることです。これに対し、米国は最先端のIT、医療、航空機産業の分野で世界をリードする企業が多くあり、しかも、ドルの価値を管理できる立場にあります。また、米国は債務不履行をしたことは一度もありません。ギリシャの問題は経済力の弱さが主因ですが、米国の問題は経済力というより、政治理念の差による政党間の対立が事態を悪化させています。
 
今回、米国の財政赤字問題が連邦政府の借入限度引き上げ問題に強引に結び付けられた背景には、昨年11月の中間選挙で議員数を急増させたティーパーティーグループ(下院共和党の約25%)の影響がありました。このグループの目的は小さな政府を掲げて、市場経済原則による経済活動の重視と増税を一切認めないことに大きな特徴がありますが、その手段として使われたのが、8月2日に上限がくる連邦政府の借入限度引き上げ問題でした。米国の財政赤字をこれ以上増加させないためには、借入限度の引き上げ額を上回る歳出削減額が必要であるとして、民主党だけでなく、共和党穏健派との妥協も全て拒む姿勢を貫きました(本来、借入限度の引き上げは歳出削減だけでなく、経済の拡大や税制変更による歳入増加の可能性を含めるべきですが、ティーパーティグループは一切の増税に反対する立場から、歳出削減だけを対象にさせました)。そして、7月31日には大統領も民主党幹部も米国政府による債務不履行を何としても回避したいとの配慮が働き、最終的にティーパーティーグループの主張を入れた共和党案を受け入れました。この結果、今後10年間に総額で2兆4000億ドル以上の歳出削減を実行することを条件に、2兆4000億ドルまでの借り入れ枠の引き上げが合意され、議会の承認待ちとなりました(最初に9170億ドルの削減を条件に、4000億ドルと5000億ドルの2回の引き上げ、残りは11月末までに特別委員会の勧告による1兆5000億ドル以上の削減を条件に、1兆5000億ドルの引き上げを12月末までに認める。もし合意ができなければ、1兆2000億ドル以上の削減を条件に、1兆2000億ドルまでの引き上げを認める)。しかし、米国政府の債務不履行は避けられるものの、今回の合意は歳出削減を前提とする財政緊縮政策であるため、現在米国が直面する1929年の大恐慌以来最悪の不況からの克服にはマイナスで、成長や雇用面で悪影響を与えかねないとの懸念が市場関係者やエコノミストから出されています。

もし、米国の財政赤字問題を本格的に取り組むのであれば、2つの問題を区別して検討することが必要になっています。一つはクリントン民主党政権の終わりに年間黒字を達成した米国の財政収支が8年間のブッシュ共和党政権の終わりには年間1兆ドル以上という大きな赤字になってしまった原因は何かということです。二つはベービーブーム世代がシニアになってくるに連れ、政府負担が増大するソーシャルセキュリテイーやメディケア等の社会保障プログラムを今後どのような方向に持っていくかということです。最初の点はブッシュ前大統領が再選戦略のために第一期政権中に取られた幾つかの政策によるところが少なくありません。その1は2001年と2003年に導入された大幅減税(いわゆる“ブッシュ減税”)で、個人所得税率の低減が実行されたことでした。特に、累進の最高税率が39.5%から35%に引き下げられた効果は富裕層には大きなものでした。また、投資所得に対してもキャピタルゲインに対する課税が20%から15%に引き下げられました。景気刺激という目的のためにとられたこうした減税の歳入面に与えた影響は大きく、ブッシュ第二期政権を通じて総額で数兆ドルの減収になったと見られています。このため、ブッシュ大統領自身もこの減税を恒常的なものにするとの考えはなく、2010年末で終了するとのSunset条項を付けていました(しかし、2010年11月の中間選挙でティーパーティーグループの躍進で下院の多数派となった共和党はブッシュ減税の延長を強く主張、オバマ大統領は政治的な妥協の必要性から、2012年末までの延長に応じました)。その2は2003年2月以降に実行されたアフガンとイラクへの介入戦争で、ブッシュ第二期政権では軍事費の年間増額は4000億ドルから5000億ドルに達しました。その3は財源の裏づけがなかったメディケアにおける処方箋薬代への補助で、現在このための政府負担が年間で数百億ドル近くになっていると言われています。

加えて、ブッシュ大統領が掲げた持ち家促進政策のために取られた金融優遇策があり、これが行過ぎた規制緩和の下で大手金融機関による新たな投機金融商品の濫用に結び付けられ、巨額なサブプライムローンの焦げ付き問題を起こさせることになりました。全体の規模で5兆ドルとか6兆ドルとされる不良債権問題に対して、ブッシュ大統領は2008年10月に多くの共和党議員の反対がある中で、民主党議員の協力を得て、約7000億ドルの金融安定化法を成立させ、オバマ大統領も2009年2月にその内容を修正・拡大させた安定化法を成立させました。こうした連邦政府による金融支援策や連銀による質と量の両面における金融緩和策がなければ、米国経済は未だに深刻な状態が続いていたものと見られます。そして、現在は再び米国経済の回復が鈍化する兆候を見せ始めています。

こうした点からすれば、米国の財政赤字問題への対応には、最初にブッシュ前政権で取られた諸政策が現在の赤字増加に及ぼしている要因を全面的に見直す必要があります。同じようなやり方は、歴史的にも1981年から1988年まで二期続いたレーガン共和党政権で実行されました。レーガンの第一期政権では現在のティーパーティグループの主張のように小さな政府が目標とされ、景気刺激のためにラッファー理論に基づく大規模の減税や多くの税優遇措置が導入され、しかもソ連に対抗すべく大幅な軍事費拡大が行なわれました。しかし、その結果は景気回復の前に財政収支が大幅に悪化、第2期目の1986年の税制改正で減税や税の優遇措置が悉く廃止され、その後ソ連との軍縮協定も成立させました。加えて、昨年12月に財政赤字削減のために”The Moment of Truth“(決断の時)”という報告書をまとめた超党派の国家委員会の共同議長であったシンプソン元共和党議員も、歳出削減の重要性と同時に、GDPの15%という戦後最低の水準まで落ちこんだ現在の歳入額について、その増加が不可欠であることを強く主張しています。もし、ティーパーティグループを含めて共和党が早期の財政の均衡化を強く望むのであれば、現在のような厳しい経済停滞期(第2四半期のGDP成長率は1.3%に低下)には景気や雇用に悪影響を及ぼしかねない連邦政府の歳出削減だけでなく、重点的な新規投資に必要な歳入増加にも焦点を与えることが重要になっています(オバマ政権や民主党が求めているのは、年間所得25万ドル以上の富裕層に対する減税措置の廃止と国内での税支払い回避を図る大手企業に対する課税強化などです)。

一方、今後10年間における財政赤字問題への対応という観点では、人口構成の多いベービーブーマー世代がシニアになってくる時に社会保障関係の支出がどの程度になるかを正確に見積もり、それに対応して社会保障関係費のあり方を検討する必要性があると思います。このままでは社会保障費関係の義務的支出がGDPの20%以上になることが予想されますが、その対応には北欧諸国のように高福祉・高負担のような仕組みもあれば、現行制度の基本を維持しながら、ベネフィットを減額あるいは対象年齢の引き上げといった調整も考えられます。あるいは共和党のライアン議員が提案したようなメディケアの民営化といった極端な意見も理論的にはあるのかも知れません。しかし、最も重要なことは1929年の大恐慌の経験を経て、ルーズベルト大統領によって導入された社会保障プログラムは自由市場経済の不安定さを補うために、社会的に必要なセーフティネットを提供するという大きな役割を担っていることです。そうした観点からすれば、社会保障プログラムの今後の方向性は、ティーパーティグループや共和党保守派が主張するように財源難を理由に廃止といった極論ではなく、安定性と効率性を備えた社会的セーフティネットをいかに確保するかであり、その議論に多くの米国民が参加して決めていくことが求められています。

いずれにしましても、現在オバマ政権が1929年の大恐慌以来初めて経験している米国最悪の不況からの克服を試みている時に、共和党が主張する財政健全化のために歳出削減を極端に優先させた緊縮政策だけを導入すれば、それは景気や雇用への悪化となり、結果として財政健全化が一層遠のいてしまう可能性があります。さらに、共和党の中でティーパーティーグループによる小さな政府の主張は観念的には存在意義はあっても、これだけグローバル化している今日の世界では、米国を時代錯誤的な内政重視の孤立主義に向かわせるリスクを含んでいるように見られます。その意味で、来年11月の大統領と議会の選挙で、米国民がティーパーティーグループに対してどのような評価を下すかが鍵になるように思います。
             (2011年8月1日: 村方 清)