Sunday, October 1, 2017

北朝鮮情勢と金融正常化に影響される米国市場

 















1.9月の株式市場
9月の株式市場は前半期では北朝鮮情勢の変化によって相場が大きく上下しましたが、後半期は北朝鮮情勢に加えてFOMCによる金融正常化の動きによって影響されました。主要な動きは以下の通りでした。

9月1日:米政府発表の8月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比156,000人増で、市場予想の180,000人増を下回り(失業率も4.4%に悪化)、長期金利の上昇による金融株への投資家の積極買いもあり、39ドル高(0.18%増加)。
9月5日:北朝鮮の核実験強行など地政学リスクの高まりと長期金利の低下による金融株の売りで、234ドル安(1.05%減少)。
9月6日:前日の大幅安の反動と連邦債務引き上げ問題で超党派の合意に前進したとの見方から、54ドル高(0.25%増加)。
9月7日:米長期金利の低下で、JP Morganなどの金融株が売られ、23ドル安(0.10%減少)。
9月11日:北朝鮮の軍事挑発が後退したことに加え、大型ハリケーンの被害が予想を下回るとの見方から、260ドル高(1.19%増加)。
9月12日:北朝鮮情勢やハリケーン被害への警戒感が後退したことや長期金利の上昇による金融株の買いなどで、61ドル高(0.28%増加)。
9月13日:原油高を背景とするエネルギー株が買われたことや税制改革への期待から、39ドル高(0.18%増加)。
9月14日:原油先物相場が上昇し、前日に続きエネルギー株が買われ、45ドル高(0.20増加)。
9月15日:北朝鮮が弾道ミサイルを発射したものの、市場の反応は限定的で、好業績の期待が高まるボーイングや新製品発表のアップルが相場をけん引し、65ドル高(0.29%増加)。
9月18日:北朝鮮情勢の過度の警官感が和らいだことや長期金利上昇に伴う金融株の買いが強まり、63ドル高(0.28%増加)。
9月19日:長期金利上昇に伴う金融株の買いに加え、通信株も上昇し、39ドル高(0.18%増加)。
9月20日:FOMCで政策金利の維持と10月からの保有資産の縮小を決定したが、金融正常化のペースは加速しないとの判断がなされ、42ドル高(0.09%増加)。
9月21日:FOMCが年内の利上げ見通しが高まり、割高感のあるハイテク株を中心に売りが優勢で、53ドル安(0.24%減少)。
9月25日:アップルなどのハイテク株が多く売られたことや北朝鮮情勢の警戒感が高まったことで、54ドル安(0.24%減少)。
9月26日:前日に売られたアップルが買われる一方、マクドナルドなどが売られ、12ドル安(0.05%減少)。
9月27日:トランプ政権と共和党指導部による税制改革案が公表され、法人税率の引き下げへの期待から、56ドル高(0.25%増加)。
9月28日:米国の長期金利の高止まりら、金融株の買いが続いたことやアナリストの投資判断が上方修正されたマクドナルドが2%強上昇し、相場を押し上げ、40ドル高(0.18%増加)。
9月29日:利益確定の売りが優勢であったが、長期金利上昇にによる金融株の買いで、終了時は24ドル高(0.11%増加)。

2.米国の雇用状況
米労働省が9月1日に発表した8月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比156,000人の増加で、市場予想の180,000人増を下回りました。6月の雇用者数の確定値は210,000人で21,000人の減少、7月の改定値は189,000人で20,000人の減少、合計として41,000人の減少となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者の平均増加数は185,000人で、好調さの目安とされた200,000人に近い水準を下回りました。なお、1月の失業率は4.4%で、0.1%悪化しました(広義の失業率は8.6%で変わらず)。労働参加率は62,9%で、前月と同水準でした。8月の時間当たり賃金上昇率は前月比0.1%増加で、前年同月比では2.5%増と同じ水準でした。部門別では製造業が36,000人の増加、建設業も28,000人の増加となりました。

3.FOMC会合とQE政策の評価
(1)FOMC会合の結果
FOMC会合が9月19-20日に開催されましたが、政策金利の現状維持と同時に10月からFRBの保有資産の縮小を決定しました。会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は緩やかに拡大している。雇用増はここ数カ月堅調さを保ち、失業率も低い水準を維持している。家計支出は緩やかなペースで拡大し、企業の設備投資もこの数四半期上向いた。インフレ率はエネルギーと食品の価格を除くと、鈍化し、2%を下回っている。アンケート調査では長期のインフレ予想はあまり変わっていない。

FOMCは法律で定められた使命を達成するために、雇用の最大化と物価安定の実現に努める。ハリケーン“ハービー”“イルマ”“マリア”は多くの地域社会に打撃を与え、深刻な被害をもたらした。ハリケーンの被害は短期的に経済活動の影響するであろうが、中期的に国の経済の進路を大きく変える可能性は低い。このため、FOMCは金融政策の運営姿勢の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大、労働市場の状況もさらにいくらか引き締まると予測する。インフレ率は中期的に2%付近で安定すると予測している。

景気見通しのリスクは短期的にほぼ均衡してきているようであるが、インフレ率の動向を注視する。

FOMCは労働市場情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.75-1%に据え置くことを決定した。FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、雇用の最大化とインフレ率2%という目標との比較で評価していく。インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。FOMCは経済情勢がFF金利の緩やかな引き上げを許すようなかたちで進むと予測している。

FOMCは2017年6月の「政策正常化の原則と計画への付録」で説明したバランスシート正常化プログラムを10月に開始する(注)
(注)10月から3カ月間の縮小幅は米国債が月60億ドル、MBSなどが40億ドルに留める。縮小は段階的に増やして1年後にはそれぞれ月300億ドル、月200億ドルとして、資産縮小の規模は最大で6,000億ドルとなる見込み。。

今回の決定はイエレン議長を含む9人のメンバー全員一致による。

今回、FOMCで政策金利の維持と10月からの保有資産の縮小を決定したことについては金融正常化のペースは加速しないとの判断がなされたこともあり、ダウは42ドル高となりました。

(2)量的緩和(QE)政策の評価について
FOMCが2008年11月以降に導入したQE政策で、FRBが保有する資産は現在約4.5兆ドルに達しており、今回FOMCが保有資産の段階的な縮小を決定したのは金融政策の正常化の観点からすれば当然と見られています。それと同時に、連銀によるQE政策の必要性については専門家の間でも未だに評価が分かれています。イエレン連銀議長やバーナンキ前連銀議長は金融市場が正常な状態であれば必要ないが、ゼロ金利政策が有効でないような異常な状況下では、QE政策は導入される必要があるとしています。

これに対し、次の連銀議長の候補の一人とされるテイラー・スタンフォード大教授は連銀が金利の先行きについて指針を与えればすむことであり、QEは必要がなかったとしています(2008年に起きた金融危機も、グリーンスパン連銀議長が早めに金利引き上げを実行していれば回避されたものであり、QE政策も不要であったとしています)。また、エバンス・シカゴ地区連銀総裁も金融危機の際にQEを導入したことにより、連銀は本来の役割を変えてしまったと批判しています。また、ブラインダー・プリンストン大教授(元連銀副議長)などの多くの専門家は2008年秋に始められたQE1については金融危機の時期であり、効果があったものの、2010年年以降始められたQE2 とQE3の経済全般に与える効果は限定的であったとしています。特に、プロッサー・前フィラデルフィア地区連銀総裁はQE2以降のプログラムは連銀の低金利政策と共に、企業の自社株買いや利益配当の財源により多く使われ、株式市場を歪めてしまったのではないかと見ています。

FRB保有資産の段階的な縮小の株式市場への影響については、金利引き上げと同様に相場の下落要因となると見られますが、過度な金融緩和策によって、実体経済以上に高騰した米国の株式相場の現状からすれば、漸次的に下落調整が進むことは株式市場の健全性からも望ましいことのように思われます。

なお、高値が続く住宅不動産についても FRB保有の住宅モーゲージ債券の売却が長期金利の上昇と共に、価格の下落調整によい影響が出ることが期待されます。

4.米債務上限の短期引き上げで合意
トランプ政権は9月6日に与党の共和党、野党の民主党の議会指導者と会談し、10月にも限度に達し、デフォルトしかねないと懸念されていた米債務上限について、民主党側提案による12月中旬までの短期の引き上げ案で合意しました。与党共和党は歳出見直しのために、来年中間選挙後までの長期の引き上げを求めたいとしましたが、大統領としては米国南部のハリーケーン被害の復旧を優先させるために、連邦政府の資金繰り問題を早期に解決する必要があると判断したとされています。

米上院は7日に承認、下院も8日に承認、この問題が短期的には解決されることになりました。

5.税制改革
トランプ大統領は9月27日に与党共和党との間でまとめた税制改革案を発表しました。中心は企業税制で連邦法人税を現在の35%から20%に引き下げと海外所得の課税の原則廃止などで、個人ではこれまでの7段階から3段階に簡素化すると同時に、最高税率を39.6%から35%へ引き下げなどとなっています。本来、トランプ大統領は法人税を15%へ引き下げると主張していましたが、議会の共和党は財政赤字を懸念、最終的に20%で決着したとされています。

超党派の調査機関である「責任ある連邦予算委員会」は今回の税制改革が実現されれば、10年間で2.2兆ドルの減税規模となり、GDPを年間で0.5%押し上げるとの見方もあります。しかしながら、減税に見合う財源がない状態で大幅減税を行えば、10年間で2.7兆ドルの財政赤字を拡大させると「責任ある連邦予算委員会」は見ています。財政規律を重視する共和党の多くの議員がこのような財政赤字を拡大させる税制改革案を用意したのかについては未だ疑問の点がの残ります。

また、野党である民主党は個人への減税の恩恵の多くが富裕層に向けられていることを強く批判しており、今回の税制改革案がそのまま議会で承認される可能性は低いのではないかと思います。

なお、今回の税制改革案が発表された9月27日の株式相場は法人減税の期待から、56ドル高となりました。

6.ドイツの連邦議会選挙の結果
9月24日に行われたドイツの連邦議会選挙では、メルケル首相が率いる与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が第一党を維持したものの、得票率は前回の41.7%を大きく下回る33%に留まりました(議席数で約60票減少の見込み)。それと同時に、連立を組んでいた社会民主党(SPD)も戦後最低の21%に惨敗しました。一方、極右政党のドイツのための選択肢(AfD)は大きく躍進し、得票率で12.6%を獲得し、94の議席を得ることになりました。今回の選挙の結果、第二党のSPDは政権には加わらず、野党に転じることを決めたため、少数政党の自由民主党(FDP)や緑の党との連立を組む必要に迫まれています。

FDPと緑の党との連立は経済政策で大きな違いはないものの、環境政策や移民受け入れでは主張が異なるため、閣僚人事を含め、連立交渉が長引く可能性もあります。特に10月には地方選が予定されているため、それが終わるまでは進まないことも予想されます。いずれにしても、与党の予想外の不振はこれまでEUをリードしてきたメルケル首相の与党が国内面をこれまで以上に重視せざるを得ない状況をもたらすものとなりました。

7.国連総会での米朝対立
トランプ大統領は9月19日に国連総会での初めての演説で、何度にもわたる経済制裁にも拘わらず、核ミサイルの実践配備を進める北朝鮮を強く非難すると同時に、厳しい警告を与えました。

しかしながら、米国内では、トランプ氏の持論である米国第一主義に基づく加盟国の主権優先の主張は2回に渡る世界大戦の経験を踏まえ、国連が国益による対立を話し合いによって解決を図る目的で設立されたことの歴史的な経緯を完全に無視したような演説内容への批判も起きています。更にトランプ大統領の国益優先の対決姿勢は、いかなる場合でも政権維持を図りたい北朝鮮の金政権からの強い反発が予想されましたが、21日には金政権から超強硬措置の断行を検討するとの声明を受けることになりました。

加えて、トランプ大統領が演説で大きな間違いをしたのはイランとの間に米国、英国、フランス、ドイツ、ロシア、中国の5か国が2年簡に渡る厳しい交渉によって作り上げた核合意を米国にとって史上最悪の協定と呼び、破棄を含む見直しをしたいと主張したことです。トランプ大統領は就任以来、TPPを一方的に破棄, パリ合意からの脱退、NAFTAの見直しを進めていますが、米国政府が進めてきた国家間の合意や取り決めの軽視は北朝鮮にとって米国への更なる不信となってしまったように思います。

北朝鮮が核ミサイルの実戦配備に真剣に取り組み始めたのは、米国が北朝鮮に対してクリントン政権の融和政策からブッシュ政権の敵視政策(2002年1月の一般教書にある”悪の枢軸”発言)に変更したことが要因の一つとされていますが、今回の国連総会でのトランプ大統領の演説は外交を知らないトランプ政権の深刻な問題を改めて認識させる結果になりました。いずれにしても、米国も北朝鮮も、相反する異常な性格のリーダーが核戦争のボタンを握っているという世界にとって非常な事態をどのように回避・解決するかという極めて難しい問題に直面しているように思います。
          (2017年10月1日:   村方 清)
 

Friday, September 1, 2017

内外の政治的混乱と米国市場の一時的不安定性













 
1.8月の株式市場
8月の株式市場は当初ダウ平均価格が史上初めて22,000ドルを超えるなど上昇基調にありました。しかし、その後核ミサイルの実践配備計画を進める北朝鮮との緊張関係の高まりやバージニア州の事件でのトランプ大統領の不適切な発言に起因する政治的混乱によって、一時的に不安定さを高めました(但し、8月のダウ平均は月間ベースで0.28%上昇)。主要な動きは以下の通りでした。

8月1日:金融機関の規制緩和の動きや米サプライマネジメント協会(ISM)の7月製造業景況感指数は56.3で50を超えたことなどで、ダウ平均は73ドル高(0.33%増加)。
8月2日:四半期業績が好調であったアップルが5% の大幅上昇で、52ドル高(0.24%増加)。
8月4日:米政府発表の7月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比209,000人増で、市場予想の180,000人増を上回り(失業率も4.3%に改善)、長期金利の上昇による金融株への投資家の積極的な買いもあり、67ドル高(0.30%増加)。
8月7日:四半期決算が好調であったアップルやボーイングが大きく上昇、26ドル高(0.12%増加)。
8月8日:北朝鮮情勢の警戒に加えて、9日連続で最高値を更新したことで、利益確定の売りが優勢であったことから、33ドル安(0.15%減少)。
8月9日:北朝鮮と米国の軍事衝突への警戒感や長期金利低下で金融株が売られ、37ドル安(0.17%減少)。
8月10日:北朝鮮と米国との軍事衝突への警戒感の高まりで、金融株やハイテク株を中心に多くの銘柄が売られ、205ドル安(0.93%減少)。7営業振りに22,000ドル台を割り込む。
8月11日:前日の200ドル強の下落の反動で、アップル等に買いが入り、14ドル高(0.07%増加)。
8月14日:北朝鮮問題をめぐり、米政府の高官から外交による解決を図りたいとの発言が相次いだことで、投資家心理が改善し、135ドル高(0.62%増加)。
8月16日:7月25,6日のFOM会合の議事録が公表され、緩和的な金融政策が長期化するとの見方が広がり、26ドル高(0.12%増加)。
8月17日:バージニア州の事件で白人至上主義団体を擁護したと受け止めらるトランプ大統領の発言で、主要企業トップの離脱が相次ぐ2つの助言機関の解散など政治的な混乱が続いていることやスペインのテロ事件の影響もあり、274ドル安(1.24%減少)。下落幅は5月17日以来3カ月振り。
8月18日:バノン首席戦略官の更迭などトランプ政権の先行きに対する警戒感が根強いことやスポーツ用品大手のフットロッカーやナイキへの業績懸念などから、76ドル安(0.35%減少)。
8月21日:相場下落の反動で短期的な戻りがあったものの、上値は重く、29ドル高(0.13%増加)。
8月22日:前日までの下げが続いたハイテク株が買戻しがあったことや長期金利の上昇で金融株が買われるなどで、196ドル高(0.99%増加)。
8月23日:トランプ大統領がメキシコ国境沿いの壁予算が講じられない場合、政府機関の閉鎖も辞さないなど、政府運営の不透明感が意識され、88ドル安(0.40%減少)。
8月24日:議会に反対が強いトランプ政権の壁建設のための歳出法案や連邦政府の債務上限問題の対応をめぐる不透明感の重荷となり、29ドル安(0.13%減少)。
8月25日:トランプ政権の税制改革推進への期待から、30ドル高(0.14%増加)。
8月28日:ハリケーン「ハービー」が米国の経済や企業業績に与える影響を見極めたいとする市場関係者が多く、5ドル安(0.02%減少)。
8月29日:北朝鮮のミサイル発射を受けて一時は売りが拡大したが、その後、北朝鮮とは軍事衝突までには至らないとの楽観的な見方が多くなり、57ドル高(0.26%増加)。
8月30日:北朝鮮などの地政学リスクへの過度な警戒感が後退し、ハイテク株や金融株に買いが入り、27ドル高(0.12%増加)。
8月31日:7月の米個人消費支出の上昇率は前年同月比1.4%で2015年12月以来の低さで、FRBの利上げベースが鈍らせるとの見方が広がり、56ドル高(0.25%増加)。
 
2.米国の雇用状況
米労働省が8月4日に発表した7月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比209,000人の増加で、市場予想の180,000人増を上回りました。5月の雇用者数の確定値は145,000人で7,000人の減少、6月の改定値は231,000人で9,000人の増加、合計として2,000人の増加となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者の平均増加数は195,000人で、引き続き好調さの目安とされた200,000人に近い水準を維持しました。なお、1月の失業率は4.3%で、0.1%改善しました(広義の失業率も8.6%で変わらず)。労働参加率は62.9%で、前月より0.1%増加しました。7月の時間当たり賃金上昇率は前月比0.3%増加で、前年同月比では2.5%増と同じ水準でした。部門別では製造業が16,000人の増加、建設業も6,000人の増加となりました。一方、小売業が900人の増加に留まりました。
 
3.7月のFOMC会合
8月16日に、7月25-26日に開催されたFOMC会合の議事要旨が公表されました。それによれば、多くの参加者が、インフレ率は現在の予想よりも長い間FTBが目標とする2%を下回り続ける可能性があると見ています。このため、一部の参加者はインフレの低迷が続かないことを経済指標で確認できるまで追加利上げをすべきでないと主張しています。一方、FRBが保有する資産の縮小開始時期については、何人かは7月の会合で開始時期を発表できるとの見方を示したが、大半は9月の次期会合まで決断を延ばしたとしています。

FOMCが緩和的な金融政策を維持するとの市場の期待から、16日のダウは26ドル高となりました。
 
4.北朝鮮問題の長期化と市場の不安定さ
8月10日の米国市場は北朝鮮が米国領グアム周辺にミサイル発射計画の発表したこと及びトランプ大統領が8日の北朝鮮への警告は不十分と発言したことから、両国間の軍事衝突への警戒感が強まり、ダウ平均価格は205ドルの大幅下落となりました。従来、北朝鮮の行動に対する市場の反応は鈍く、7月4日の弾道ミサイル発射や7月28日のミサイル発射でも、限定した動きしか見られませんでした。今回、市場が大きく反応したのは北朝鮮が攻撃対象としてグアムという具体的な名前を出したこと、トランプ大統領がオバマケアの全面的な見直しなどが行き詰まったことから、強硬策に出るのではないかと見方が大きくなったことによります。
 
北朝鮮問題の難しさは、米国や日本など主要国及び国連などによる度重なる経済制裁の強化にも拘わらず、大陸間弾道ミサイルの実践配備とミサイに搭載可能な小型核弾頭の生産に向かって着実に進んでいると見られることです(最近のニュースでは、ロシアのロケットエンジンを生産していたウクライナの国営企業「ユズマン」が、2014年のウクライナ危機で経営難となり、そこから闇市場を通じて、エンジンと技術者が北朝鮮に流れたとの可能性が指摘されています)。加えて、既存体制維持の保証を求めている北朝鮮の金正恩委員長には、体制維持の保証が確約されても核ミサイルの実践配備計画を放棄するという意図はないであろうと思われることです。更に、北朝鮮の金正恩委員長は中国とのパイプ役であった叔父の張成沢が中国政府と図って長兄の金正男を擁立する動きを察知して以来(2名とも処分)、中国への警戒心を持ち続けており、中国に対する独立的な地位を確保するたにも、核ミサイルの実戦配備が必要としている見方もあります。
 
一方、北朝鮮が唯一の交渉相手と見なす米国では外交・軍事の両面で全く経験のないトランプ大統領が今年1月に就任して以降、どのような手段をとるのか全く予想がつかない状況にあります。従来であれば、これらの分野を担当する国務省や国防省の幹部が専門家の立場から大統領に進言して、大統領もそれらの意見を聞きながら、適切な決定を下していたものが、現在は両省の幹部ポストの多くは国務長官や国防長官などトップを除けば空席で、ホワイトハウスのマクマスター安全保障首席補佐官などの限られたスタッフから意見を聞くしかない状況にあることです。更に、トランプ大統領は専門家の意見を聞くより、自らの独自の判断で決めてしまうことも多く、実際に適用できないような措置の発言を述べてしまうという問題があることです。いずれにしても、当面、北朝鮮問題は米国市場の不安定化要因になっていくものと見られています(8月29日早朝に日本の北海道沖に新型中距離弾道ミサイルが発射されました)。
 
5.バノン首席戦略官解任に伴う今後のトランプ政権の不透明さ
8月18日にトランプ政権誕生に最も貢献した右翼系のオンラインニュースサイト「ブライトバート・ニュース」の最高責任者で、トランプ政権の排他的な米国第一主義を指導したバノン首席戦略官が解任されました。ホワイトハウス内で、米国第一主義の下で保護貿易主義や排他的な移民主義を主張するバノン氏と自由貿易・国際協調を重視するコーン国家経済会議委員長やトランプ大統領の娘イバンカ氏とその夫、クシュナー上級顧問の対立は大きく、加えて外交・安全保障問題でもバノン氏とマクマスター安全問題担当首席補佐官との対立も深まっていました。こうした状況の中で、ホワイトハウス内部の秩序を重視するケリー新首席補佐官の進言で、トランプ大統領はバノン氏の解任を決定したとされています。
 
バノン氏が解任された後、21日にトランプ大統領はバノン氏が強く主張していたアフガニスタンからの早期撤廃を否定、マクマスター補佐官やマティス国防長官が主張した残留・増派の戦略計画を発表しました。これに対して、バノン氏が復帰したブライトバート・ニュースはトランプ政権の政策を日和見主義と批判する記事を掲載しています。
 
今回のバノン氏の解任は今後のトランプ政権にとって、予想以上の混乱を引き起こす恐れがあります。第一に既にプリーバス前首席補佐官やスパイサ前大統領報道官等の共和党主流派に近い幹部がホワイトハウスを去り、クルス上院議員や下院Freedom Caucusなど共和党の超保守派グループと繋がりが深いバノン氏が今回去ったことで、今後の政策運営をめぐりトランプ政権と与党共和党との関係に大きな懸念が生じていることです。更に、バノン氏の後ろ盾であり、2016年の大統領選挙で最大の資金提供者であるヘッジファンドのオーナーであるロバート・マーサ―氏がバノン氏がホワイトハウスを去る前に長時間の会談をし、バノン氏に全面的な協力を約束していることです。ブライトバートの最高責任者に戻ったバノン氏がホワイトハウスに残っている国際協調派を徹底的に批判してくることが予想されます(ブライトバートが従来から共和党のエスタブリッシュメントとされるライアン下院議長を強く批判してきたこともよく知られています)。
 
更に、8月22日の夜にトランプ大統領はアリゾナ州フェニックスの演説で、9月末までにメキシコとの国境沿いに壁を建設するための費用約16億ドルを予算に織り込まなければ、政府機関を閉鎖しなければならないと発言しました。本来、トランプ大統領の選挙公約は壁の建設費用はメキシコ政府に支払わせるというものでしたが、それが困難であることを判明すると米国民の税金を使って壁を建設するという政策に変えてしまいました。トランプ大統領の発言には野党の民主党のみならず、与党の共和党内部からも批判が出ており、それが議会で承認されると思いませんが、もし、9月末までに歳出法案が成立しなければ、政府機関が閉鎖される恐れがあります。加えて、米債務上限の引き上げが10月中旬までに承認されなければ、米政府の債務不履行となる恐れもあり、株式市場もその影響を意識するようになっています。
                (2017年9月1日: 村方 清)

  
 

Tuesday, August 1, 2017

政治的不透明さの中で好調な企業業績による上昇相場














1.7月の株式市場
7月の株式市場は、25-6日のFOMC会合に加え、28日には上院でのオバマケアの廃止法案否決され、トランプ政権の公約であった減税やインフラ投資の見通し困難という状況になりました。しかし、多くの企業の四半期業績が好調で上昇相場を続けました。主要な動きは以下の通りでした。

7月3日:世界的に金融緩和の縮小に向かうとの見方から金融株が上昇、原油先物相場も上昇しエネルギーや資源株が買われ、ダウ平均は130ドル高(0.61%増加)。
7月6日:世界的な金利上昇により、米国市場でも金利上昇の恩恵を受けにくいハイテク株、通信株、不動産株に売りが広がり、158ドル安(0.74%減少)。
7月7日:米政府発表の6月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比222,000人増で、市場予想の179,000人増を大きく上回り(失業率は4.4%に悪化)、投資家の積極的な買う姿勢が強まり、94ドル高(0.44%増加)。
7月11日:重要日程控え方向感が乏しく、ロシア政府の米国大統領選挙への介入疑惑に関してトランプ氏長男のロシアの弁護士との昨年6月の会談報道も出て、僅か1ドル高(0%増加)。
7月12日:イエレン連銀議長の下院金融サービス委員会で証言で、追加利上げに慎重な発言をしたことで、幅広い銘柄に買いが広がり、123ドル高(0.57%増加)。
7月13日:FRBの利上げベースが緩やかになるとの見方が強く、21ドル高(0.10%増加)。
7月14日:米国政府発表の6月CPIは前月横ばいで、市場予想の0.1%を下回り、FRBの追加利上げ観測が後退し、85ドル高(0.39%増加)。
7月17日:ニューヨーク連銀が発表した7月の製造業指数はプラス9.8と前月を大きく下回り、米企業の改善の勢いが強くないとの見方から、利益確定売りもあり、8ドル安(0.04%減少)。
7月18日:四半期業績を発表したゴールドマンサックスが売買部門の業績悪化で大きく下げたことやオバマケア代替法案が再び上院で行き詰まり、先行き警戒感が強まり、52ドル安(0.25%減少)。
7月19日:原油先物相場が上昇、米国企業の4-6月期決算の期待感で、66ドル高(0.31%増加)。
7月20日:四半期業績を発表したホームデポが大きく下げ、高値警戒感からの利益確定売りが優勢で、29ドル安(0.13%減少)。
7月21日:GEなどの四半期決算が不調で大幅減となり、利益確定の売りが優勢で、32ドル安(0.15%減少)。
7月24日:ジョンソン・アンド・ジョンソンやゴールドマン・サックスへの業績懸念から、相場を押し下げ、67ドル安(0.31%減少)。
7月25日:四半期業績が好調であったキャタピラーやマクドナルドが上昇、長期金利の上昇で金融株も押し上げて、100ドル高(0.47%増加)。
7月26日:四半期決算を発表したボーイング、コカ・コーラ、AT &Tが大きく買われ、相場を押し上げたことやFOMCが金利引き上げを見送ったことで、98ドル高(0.45%増加)。
7月27日:ベライゾンやプロクター・アンド・ギャンブルなどの四半期決算が好調で、相場を押し上げ、86ドル高(0.39%増加)。
7月28日:四半期決算が好調なシェブロンや大手製薬のメルクが上昇、34ドル高(0.15%増加)。
7月31日:ボーイングなどの四半期業績が好調で、61ドル高(0.28%増加)、7月は2.6%の上昇。

2.米国の雇用状況
米労働省が7月7日に発表した6月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比222,000人の増加で、市場予想の179,000人増を大きく上回りました。4月の雇用者数の確定値は207,000人で33,000人の増加、5月の改定値は152,000人で14,000人の増加、合計として47,000人の大幅増加となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者の平均増加数は194,000人で、好調さの目安とされた200,000人に近づきました。なお、1月の失業率は4.4%で、0.1%悪化しました(広義の失業率も8.6%で0.2%の悪化)。労働参加率は62.8%で、前月より0.1%増加しました。6月の時間当たり賃金上昇率は前月比0.2%増加で、前年同月比では2.5%増と同じ水準でした。部門別では建設業が14,000人の増加、小売業も8,100人の増加となりました。

3.連銀議長の議会証言
イエレン連銀議長は7月12日と13日に上下両院で、定例の米国の経済情勢や金融政策について証言を行いました。今回の議会証言で最も注目されたのは2008年の金融危機の際に導入された量的緩和策について(連銀のバランスシートは危機前の9千億ドルから4兆5千億ドルまで悪化)、経済が想定通りであれば年内に保有資産の圧縮を開始すると述べたことです。

 
量的緩和策については、連銀による米国債や住宅ローン担保証券の大量購入によって市場に大量の資金を供給し、混乱した金融市場を安定化させていくという効果はあったものの、中央銀行による長期債の大量購入によって、市場の歪みを大きくさせることになりました。また、今後予想されるインフレによる金利上昇が、連銀の保有資産の含み損を拡大させるリスクに対応することも必要になっています。こうした意味で、連銀の資産規模の圧縮による金融正常化は正しい方向であることは間違いありません。その一方で、急激な圧縮は金融市場への強い引き締め圧力となるだけに、資産規模の縮小の上限は当初は月額100億ドルに留め、徐々に上限額を引き上げていく案が公表されています。

なお、質疑応答の中で、イエレン議長が追加利上げについては慎重に対応したいとしたことも注目されました。これは9月の会合では資産縮小の議論を優先させ、追加利上げは数カ月後に先延ばしするのではないかとの見方になっています。この日のダウ平均価格は、追加利上げについての連銀議長の慎重な発言から、123ドル高(0.57%増加)となりました。
 
4.FOMC会合
FOMC会合が6月25-26日に開催されましたが、金融政策の現状維持を決定、追加の利上げを見送りました。会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は緩やかに拡大している。雇用増も年初以降平均すると堅調で、失業率も低下している。家計支出と企業の設備投資も拡大している。インフレ率はエネルギーと食品の価格を除くと、鈍化し、2%を下回っている。アンケート調査では長期のインフレ予想はあまり変わっていない。
 
FOMCは法律で定められた使命を達成するために、雇用の最大化と物価安定の実現に努める。FOMCは金融政策の運営姿勢の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大、労働市場の状況もさらにいくらか引き締まると予測する。インフレ率は中期的に2%付近で安定すると予測している。景気見通しのリスクは短期的にほぼ均衡してきている。引きつづきインフレ率の動向を注視する。

FOMCは労働市場情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.75-1%に据え置くことを決定した。FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、雇用の最大化とインフレ率2%という目標との比較で評価していく。インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。FOMCは経済情勢がFF金利の緩やかな引き上げを許すようなかたちで進むと予測している。
 
米機関債と住宅担保証券の償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する政策を維持する。この政策はFF金利が正常化が十分に進むまで維持する。FOMCは経済情勢がおおむね予測通りに推移すれば、比較的早期にバランスシートの正常化に着手する予定である。

今回の決定はイエレン議長を含む9人のメンバー全員一致による。

今回の金利据え置きの決定は市場で予想されていたこともあり、ダウは98ドル高となりました。

それと同時に、今回の会合で注目されたのは、金融危機後の量的緩和で増大した保有資産の縮小について、経済が予測通りに推移すれば、比較的早期に着手すると明示したことです。これはイエレン議長が7月12-13日に連邦議会で証言した内容と一致するもので、市場では9月のFOMC会合で資産縮小を正式に決めるのではないかとの見方が強まっています。一方、追加の利上げについては、インフレ率の鈍化が目立っており、数カ月間は見送る可能性が高いと見られています。
 
5.オバマケア代替法案の行方
6月22日に公表された上院共和党指導部が用意したオバマケアの代替法案は当初、7月4日の独立記念日前に上院で成立を目指していましたが、共和党の保守派とリベラル派の議員がそれぞれに数名が反対し、承認を受けることが困難になりました。このため、共和党上院のマコーネル院内総務は7月25日にオバマケアの改廃に向けた法案の審議入りを目指す動議を提出、採決は50対50で賛否同数で、議長のペンス副大統領が1票を投じてようやく可決となりました。
 
しかし、その後、オバマケアの改廃を目指す異なる内容の法案が3回も議決にかけられましたが、いずれも過半数を得られませんでした。第1回は25日で政府補助金の削減とメディケイドの大幅減少を目指した法案が43対57で否決され(CBOの試算ではこの法案が実施されれば約2200万人が無保険者になると予測)、第2回は26日でトランプ大統領が望んだオバマケアを最初に廃止し、2年後に代替案を採用するという法案が45-55で否決されました(CBOの試算では約3200万人が無保険者になると予測)。そして、マコーネル院内総務が27日に用意した最後の法案が“スキニー案”で、オバマケアの中で個人の保険加入義務廃止、雇用主に対する従業員の保険提供義務の廃止、そして医療機器メーカーに対する課税の廃止の3つを含むもので、上院で採決される可能性が最も高いとされていたものでした(CBOの試算では約1600万人が無保険者になると予測)。しかし、28日の採決では野党民主党議員の48の反対に加え、共和党からメイン州のコリンズ議員、アラスカ州のマコフシキー議員、そしてアリゾナ州のマケイン議員の3名が反対し、49対51で否決されました。特に印象的であったのは脳のガンの手術を受けて議会の採決に戻った共和党重鎮のマケイン議員が7月25日の演説でオバマケアの見直しはマコーネル院内総務など一部の共和党議員が秘密裏に用意する案ではなく、与野党の議員が参加し、其々の専門の参考人達を公聴会に来てもらい、本来の民主的な手続きで行うべきとの持論を展開していたことでした。
 
現在上院、下院とも議会多数派となっている共和党にとってオバマケアの廃止は7年越しの悲願ですが、共和党内部で意見が大きく割れている最大の理由は、公的医療保険制度のあり方について共和党内での考え方が一致していないことにあります。保守強硬派は医療保険は元来米国民の自由な選択に委ねるべきもので、富裕層からの過大な税金によって成立しているオバマケアは廃止されるのが当然と主張しています。これに対し、穏健派はオバマケアによって2000万人近くが新たな保険者となっている現状において、これを全面的に見直せば低所得層だけでなく、中間所得層から強い反発を招き(特に、オバマケアが認めた既往症患者の保険対象化)、2018年秋の中間選挙に悪い影響が出かねないと主張しています。
 
オバマケアが完全なものでないにせよ、多くの無保険者を保険加盟者にした貢献は大きく、本来はマケイン上院議員が提案するように、オバマケアの抱える問題点について野党の民主党議員を交え、多くの公聴会を開いて病院や医師の代表、保険会社 そして米国民の代表から幅広い意見を聞きながら、どのような解決方法があるかかを時間をかけて検討すべきであると思います。いずれにしても、公的医療保険制度に全力で取り組んだオバマ前大統領に比べ、政治的な駆け引きだけのトランプ大統領はあまりに不勉強であり、これでは与党の共和党議員からも多くの協力や支持を得ることができないはずです。
 
なお、オバマケアの代替法案の方向性が決まらなくなった現在の時点では、トランプ政権の公約であった大幅減税や大規模なインフラ投資も財源問題から今後の見通しが立たない状況です。
                 (2017年8月1日:   村方 清)