Thursday, March 1, 2018

長期金利動向で大揺れのトランプ・バブル相場




 










1.2月の株式市場
2月の株式市場は1月末に大きく下落した後、2月には入っても10年物国債の利回りの低下と上昇で、再び大きく変動することになりました(ダウは2月全体で約1,120ドルの4.3%下落)。主要な動きは以下の通りでした。

2月1日:原油先物相場の上昇や長期金利の上昇でエネルギー株や金融株に買いが優勢となったが、10年物国債金利が3年10か月振りに2.79%まで上昇すると、相場の重荷となり、ダウ価格は37ドル高に留まった(0.14%増加)。
2月3日:1月雇用統計で雇用者増加数(200,000人)と賃金上昇率(前年同月比2.9%)が予想を上回り、米長期金利も10年物国債金利で一時4年振りの水準の2.85%となり、株価の割高感から幅広い銘柄で売りが優勢で、666ドル安(2.54%減少)。下げ幅は2008年12月1日以来の大きさ。
2月5日:米長期金利が10年物国債金利で一時2.88%と上昇、株式市場が調整局面に入ったとの見方が広がり、運用リスクが高い株だけでなく幅広い銘柄で急速な売りが強まり、1,175ドル安(4.60%減少)。下げ幅としては史上最大。
2月6日:前日に過去最大の下落を記録したことから、午後に短期的な戻りを見込んだ買いが優勢となり、567ドル高(2.33%増加)。但し、値動きは激しく、1日の高値と安値の差は1100ドル超。
2月7日:午後に長期金利が上昇したことから、リスク選好が強まり、19ドル安(0.08%減少)。
2月8日:米長期金利の上昇圧力が警戒され、PERが高いハイテク株を中心に多くの銘柄に急速な売りが強まり、1,032ドル安(4.15%減少)。下げ幅としては5日に次いで過去2番目。 2月9日:前日に1000ドル以上下落した反動で、短期的な戻りを期待した買いが取引終了時に優勢となり、330ドル高(1.38%増加)。
2月12日:前週に急落した反動で、アップルやボーイングなどの銘柄をい中心に買いが入り、410ドル高(1.70%増加)。 2月14日:取引開始直後はCPIが市場予想を上回り、金利上昇を嫌う投資家による売りが先行したが、その後、変動制指数(VIX)の低下を受け、金融株や石油株が上昇、253ドル高(1.03%増加)。

2月15日:変動率の動きが少なくなったことから、アップルやボーイングなどの優良株を中心に買いが広がり、307ドル高(1.23%増加)。
2月16日:投資家心理が改善し、ヘルスケア株などが買い直されたが、FBIがロシア疑惑に関連してロシア人を起訴したとの報道から、不安定な動きとなり、19ドル高(0.08%増加)。
2月20日:四半期決算が不調であったウオールマートが急落した他、前週末まで6日続伸した反動で、255ドル安(1.01%減少)。 2月21日:FOMC会合議事要旨で利上げベースは緩やかと確認され、一時300ドル超上昇したが、その後、10年物米国債金利が一時2.95%に近づいたことから売りが優勢で、167ドル安(0.67%減少)。
2月22日:前日まで続落した反動から、目先の反発を期待した買いが優勢であったことや米長期金利が低下したことから、165ドル高(0.66%増加)。
2月23日:FRBの年2回の金融政策報告書で利上げペースが速まるとの見方でなかったことや10年物米国債の利回りが23日には2.8%台まで低下、市場心理が改善し、348ドル高(1.39%増加)。
2月26日:長期金利の指標である10年物国債の利回りが一時2.83%まで低下、株価への悪影響の警戒感が和らぎ、399ドル高(1.58%増加)。 2月27日:パウエルFRB新議長が下院で証言し、景気と物価の見通しについて強気の見方を示したことから、長期金利が上昇、299ドル安(1.16%減少)。
2月28日:朝方は前日の反動から買いが先行したが、原油安でエネルギー関連株や3Mが下落、ダウ平均が50日移動平均を下回ったことで、売りが加速、381ドル安(1.50%減少)。2月は月間で1,120ドル下げ(4.3%減少)、11か月振りに前月比で下落。

2.米国の雇用状況
米労働省が2月2日に発表した1月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比200,000人の増加で、市場予想の175,000人増を上回りました。11月の雇用者数の確定値は216,000人で36,000人の減少、12月の改定値は160,000人で12,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は192,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を少し下回りました。なお、1月の失業率は4.1%で、前月と同じ水準でした。労働参加率も62.7%で、前月と同水準でした。1月の時間当たり賃金上昇率は前月比0.3%増加で、前年同月比では2.9%増となりました。部門別では建設業が36,000人の増加、製造業が15,000人の増加、ヘルスケアが21,000人の増加となりました。


3.1月のFOMC会合と次回利上げのタイミング
2月21日に、1月30-31日に開催されたFOM会合の議事要旨が公表されました。それによれば、多くの委員が米国と海外の経済指標が上向いていることに加え、金融環境が引き続き緩和的であることや昨年末の税制改革が短期的に個人消費と企業投資に与える影響が当初予測より大きい可能性があるとして、昨年12月の景気見通しを引き上げたことが判明しました。また、これに伴い、更なる利上げが必要になる可能性があるとして、会合後の声明で、段階的な引き上げが正当化されることとの表現で一致したことも明らかになりました。こうしたことから、市場ではFOMCが3月の会合で、利上げするのではないかとの観測が高まっています。

2月21日は議事要旨が公表された直後では市場の反応は前向きでしたが、その後、10年物国債金利が一時2.95%に近づいたこともあり、この日のダウは167ドルの下落となりました。

4.FRB新議長の議会証言
2月5日にFRB新議長就任したパウエル議長は、27日に下院金融サービス委員会で年2回の証言を行いました。その中で、米国経済は堅調なペースで成長している。雇用拡大のペースは失業率を十分に押し下げ、賃金も緩やかに上昇でしている。経済成長と労働市場の改善にも拘らず、物価上昇率は目標の2%を下回っている。しかし、物価の停滞は一次的なもので、繰り返すことはない。金融市場は緩和的な環境がいくらか反転したものの、現時点で景気や雇用、物価の見通しに大きな影響をもたらすものではない。内外の需要拡大が企業投資を押し上げるであろう。財政政策もより拡大的になる。こうした状況では物価上昇率は上向き、目標の2%近くで安定するであろう。今後、数年の金融政策の道筋は、景気の過熱を回避して、物価目標率を達成するというバランスを取っていくことになる。金融情勢は最近の変動にもかかわらず、引き続き緩和的である。FOMCとしては更なる段階的な利上げが最善の策となるであろう。

パウエル新議長が景気と物価見通しについて強気の見方を示したことから、長期金利が上昇、27日のダウは299ドルの下落となりました。

5.米国歳出上限引き上げ法案成立と財政赤字急増の影響
米国上下両院は2月9日に、インフラ事業や国防費を増額するために、2018会計年度の歳出上限を1430億ドルを、2019会計年度の歳出上限を1530億ドル引き上げる予算関連法案を可決しました。これにより、2018年度の裁量的経費の上限は1兆650億ドルから1兆2080億ドルへと13%引き上げられることになりました。

一方、昨年12月20日に米議会は10年間で1.5兆ドルとされる大規模減税を承認しており、年間で1000億ドル程度の税収が減少することになっています。これに今回増額された歳出予算が実行されると、2017年度で約6660億ドルであった財政赤字は数年後には軽く1兆ドルを超えるのではないかと見られています。財政赤字の急増は国債、特に10年物国債の金利を引き上げることになり、住宅ローンを含めて米国の経済活動、更に株式市場に悪影響を与えることが懸念されます。

 
6.連銀による金融引き締めと財政赤字拡大によるバブル相場の不安定性
米国経済は年間3%前後の成長が続き、雇用も失業率は4.1%と完全雇用の状況にあります。こうした状況の中で、連銀が金融正常化を目指して、金利引き上げと量的緩和縮小に向かっていることは当然のこととなります。

連銀は既に2017年に短期金利の引き上げを3回行うと共に、2008年11月に導入され量的緩和の縮小策として保有する国債やモーゲージ債券の市場売却を四半期毎に100億ドルづつ増額させ、現在年間2400億ドルベースを2018年10月からは年間6000億ドルべースに拡大させることを計画しています(昨年9月末の保有額は約4.5兆ドルと巨額であったことからすれば、年間6000億ドルべースの減額は決して大きな金額ではないのかもしれません)。

しかし、問題はトランプ政権と議会多数派である共和党が成立させた10年間で1,5兆ドルの大型減税と2年間で3000億ドルという歳出増加が、景気の過熱とインフレが強めてしまう恐れがあります。こうした状況では連銀は金融引き締めのペースを速める可能性もあります。 いずれにしても、トランプ政権誕生以降、大型減税と大規模インフラ支出という大規模な財政政策への投資家の過剰な期待から、株式市場はダウで年間21%の上昇を記録しました。しかし、それが実現された今日、GDPに対する株価総額の比率は150%で、リーマン破綻前の137%を上回っていますし、シラー教授の調整済みPERも33.8で、通常の16.8を2倍以上も上回っています。そうした超高値水準にある株式市場の中で、現在はトランプ政権による財政赤字の急増と連銀の経済の過熱化への懸念が高まっています。こうした状況下では、今後長短金利の上昇が避けられず、株式相場も今後も乱高下を繰り返していくように思われます。
                 (2018年3月1日: 村方 清)

Thursday, February 1, 2018

長期金利上昇で強まる投機的市場の不安定性













 
1.1月の株式市場
1月の株式市場は下旬までは世界経済の拡大や米企業の業績改善を背景に急騰を続けましたが、月末に長期金利の上昇が顕著になると、大きく下落する展開となりました。主要な動きは以下の通りでした。

1月2日:米企業の業績拡大の期待から、幅広い銘柄に買いが入り、特に半導体などのIT関連株が買われ、105ドル高(0.42%増加)。
1月3日:世界景気の拡大を背景に米企業の業績改善を見込み ITや石油関連株を中心に買いが優勢で、99ドル高(0.40%増加)。
1月4日:ADPの全米雇用レポートで12月の非農業部門の雇用者数が25万人以上増加し、長期金利が上昇、JPモルガンやゴールドマン・サックス等が押し上げ、152ドル高(0.61%増加)。
1月5日:12月雇用統計は順調な労働市場の拡大を示し、賃金上昇の伸びは小幅であったために、緩やかな利上げに留まるとの見方が強まり、221ドル高(0.88%増加)。主要3指標が過去最高値。
1月8日:前週末まで3日連続で過去最高値を更新したこともあり、売りが優勢で、13ドル安(0.05%減少)。
1月9日:世界的な景気拡大と企業業績の改善の期待から、103ドル高(0.41%増加)。
1月10日:長期金利の上昇で、配当狙いの不動産や公益事業株を中心に売りが優勢で、17ドル安(0.07%減少)。
1月11日:世界経済の成長加速や原油高を背景に、航空機のボーイングや石油のシェブロンなどが大きく買われ、206ドル高(0.81%増加)。主要3指数が最高値を記録。
1月12日:JPモルガンなどの四半期業績が発表され、市場予想を上回るなど米主要企業の業績拡大への期待から、228ドル高(0.89%増加)。主要3指数が最高値を更新。
1月17日:米景気に関する楽観的な見方から、米企業の四半期業績の改善への期待が大きく、323ドル高(1.25%増加)。26,000ドル突破。
1月18日:前日に主要3指数が最高値を更新したことから、利益確定の売りが優勢で、98ドル安(0.37%減少)。
1月19日:米10年債利回りが一時2.65%へ3年4カ月振りに上昇したのを受け、利ざや拡大の期待が持てる金融株が大幅に上昇、54ドル高(0.21%増加)。
1月22日:2月8日までのつなぎ予算で米上院が合意したこが報じられ、幅広い銘柄に買いが入った他、原油先物相場の上昇で石油株も上昇し、143ドル高(0.55%増加)。
1月23日:四半期決算が不調であったジョンソン・エンド・ジョンソンやプロクター・アンド・ギャンブルが大きく売られ、好調であったトラベラーズなどを相殺し、4ドル安(0.01%減少)。
1月24日:米長期金利の上昇を受けて、JPモルガン等の金融株が上昇、41ドル高(0.16%増加)。
1月25日:四半期業績が好調であった3Mや31日に決算を発表予定のボーイングが大きく買われ、141ドル高(0.54%増加)。
1月26日:四半期業績が好調なインテルやスリーエムが大幅に上昇、224ドル高(0.85%増加)。
1月29日:前週後半に大幅上昇したため、利益確定の売りが優勢であったことや米金利の上昇や原油先物相場の下落も重なり、177ドル安(0.67%減少)。
1月30日:米長期金利の指標である10年物国債の利回りが一時2.73%まで上昇、投資家が運用リスクを回避する姿勢が強まったことや原油先物相場も下落したことで、目先の利益確定の売りが優勢となり、363ドル安(1.37%減少)。
1月31日:四半期業績が好調であったボーイングが相場を押し上げたものの、FOMC会合の結果発表後は長期金利やドルの上昇で、上昇幅が縮小し、73ドル高(0.28%増加)。

2.米国の雇用状況
米労働省が1月6日に発表した12月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比148,000人の増加で、市場予想の190,000人増を下回りました。10月の雇用者数の確定値は211,000人で33,000人の減少、11月の改定値は252,000人の増加で24,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は204,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を上回りました。なお、12月の失業率は4.1%で、前月と同じ水準でした。労働参加率も62.7%で、前月と同水準でした。12月の時間当たり賃金上昇率は前月比0.3%増加で、前年同月比では2.5%増となりました。部門別では製造業が25,000人の増加、建設業が30,000人の増加となりましたが、小売業が20,000人の減少となりました。

3.米連邦予算の失効と政府機関閉鎖
米連邦予算は1月20日の午前0時に、移民政策をめぐる与野党の対立から、つなぎ予算が成立せず、一部の政府機関が閉鎖状態に追い込まれることになりました。野党の民主党はつなぎ予算を成立させる見返りに、幼少期に親と一緒に不法入国した若者の滞在を認める「DACA」の制度の存続を求めているのに対し、共和党は移民政策と予算を切り離すことを求め、対立が解消していません。

下院では多数派の共和党が既に1月18日に2月16日までのつなぎ予算を可決していますが、上院では予算については60票が必要で、51議席だけの共和党単独では成立しない状況でした。22日になり、上院の与野党は2月8日までのつなぎ予算の成立で合意、政府機関の閉鎖は一時的に解除されることになりました。しかし、「DACA」をめぐる与野党の対立は依然続いており、2月8日までにDACAに関する新たな法案が成立するかどうかが鍵となっています。

4.FOMC会合と金利据え置き
FOMC会合が1月30-31日に開催され、会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。

労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は底堅く拡大を続けている。雇用増、家計支出、企業の設備投資も堅調で、失業率も低水準に留まっている。インフレ率はエネルギーと食品の価格を除くと、低い状況が続いている。殆どの調査に基づく長期のインフレ予想はあまり変わっていない。

FOMCは金融政策の運営姿勢の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大、労働市場の状況も引き続き力強さを保つと予測する。インフレ率は短期的には依然として2%を下回るが、中期的にFOMCの目標である2%付近で安定すると予測している。

景気見通しのリスクは短期的にほぼ均衡してきているようであるが、インフレ率の動向を注視している。

FOMCは労働市場情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを1.25-1.5%に据え置くことを決定した。緩和的な金融政策は維持し、力強い労働市場及びインフレ率の2%への持続的回帰を支える。

FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ率2%という目標との比較で評価していく。インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

FOMCは経済情勢がFF金利の緩やかな引き上げを許すようなかたちで進むと予測している。FF金利は、FOMCが長期的に通常と見なされる水準以下に維持される可能性が高い。但し、実際のFF金利の上がり方はデータが伝える経済見通し次第だ。

今回の決定はイエレン議長を含む9人のメンバーの賛成による。

今回のFOMCは2月3日に任期が切れるイエレン議長の最後の会合となりましたが、2018年はインフレ率の上昇が見込まれるとして、FF金利の緩やかな引き上げを正当化されことを強調しています。、FOMCとしては、2018年も年3回程度の利上げに踏み切るシナリオを既に公表しています。こうしたことが理由となって、今日のダウはFOMC会合後に、上昇幅が縮小し、73ドル高に留まりました。

5.トランプ大統領の一般教書演説
トランプ大統領は30日に米議会上下両院本会議で、就任後初めての一般教書演説を行いました。

内容的には昨年1月28日の議会演説と同じで、世界のリーダーとしての中期的なビジョンは皆無で、米国第一主義の繰り返しでした。国内の経済面では大幅減税と規制緩和による米国経済の成長や雇用の促進と共に株価の上昇を自分の実績として誇張しました。特に法人税を35%から21%へ引き下げたことを歴史的な改革と位置付け、成長や雇用での経済効果を強調していました。その一方、今回の無理な大規模減税が米国政府の財政赤字を今後10年間で1兆ドルも悪化させることの言及は全くありませんでした(29日と30日に起きた株価の大幅下落の要因は財政赤字拡大の懸念による長期金利の上昇といった要因もあります)。

更に、トランプ大統領は米国における伝統的な製造業の復活の重要性を強く主張しましたが、米国などの先進国での生産コスト上昇圧力によって製造業からサービス産業の高度化と言った経済構造の変化をどこまで理解しているのかに疑問を持たざるを得なくなります。これに加えて、官民の資金による約1兆ドルのインフラ投資と国防費の大幅増加を再び主張しましたが、財源の裏付けがない無責任な提案のように見られました。また、対外的な経済面では、米国第一主義の下に2国間による公正で互恵的な貿易関係の構築を目指すとしていますが、現在NAFTAの見直し交渉が行き詰まっている状況の中で、どこまで実現可能であるかも疑問が生じます。

いずれにしても、トランプ大統領の提案や主張は彼の不動産ビジネスの経験から来ているものと思われますが、投機性の高い不動産ビジネスによって6回も破産状態に陥った状況からすると、米国経済の健全な発展より、今後は投機性を高める株式市場の不安定化になりはしないかとの懸念を感じざるを得ません。

6.トランプ政権の1年目の評価
1月20日はトランプ政権が成立してから1年経過したことになりますが、2017年全体を通じた米国の株価上昇率はダウ平均で21%、S&P500で20%と極めて高い比率を示しており、これがウォール街を中心とする投資家達からの高い評価になっているようです。特に、彼が主張していた規制緩和や大型減税が実現したことが株価上昇に貢献したことは疑いがありません。

しかしながら、その一方で、投資家の過剰な期待を背景とする投機的要因もあり株価上昇のスピードが速く、株式市場の健全さの指標とされる対GDP比率のバフェット指数が130を超えていることや(歴史的には75から100までが健全とされる)、S&P500のPERが健全さとされる16.3を大きく超えて21となっていることに警戒感を持つ必要があるかも知れません(現在アマゾンなどのネット企業のPERは350を超えていますが、従来優良企業とされたジョンソン・エンド・ジョンソンやハネウエルも各々300と75近くになっています)。こうした点からすれば、1月29日と30日に見られたように、今後は長期金利の上昇によって株式市場が大きく影響され、大規模な調整局面に入っていく可能性を考えておくことが求められているように思われます。

なお、移民政策や米国優先の貿易政策になどのトランプ政権の政策については評価が分かれていますが、彼の支持率が未だに戦後の米国大統領の中で37%と最も低い状態にあることを見ると、ロシア疑惑の進展などによっては政権の今後の安定性にかなりの疑問が提起されていると言えます。
                   (2018年2月1日: 村方 清)

 

 

Monday, January 1, 2018

税制改革法案成立と市場への影響


 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
1.12月の株式市場
12月の株式市場は12月20日の税制改革法案の成立までは投資家の期待が依然高く、上昇相場が続きましたが、成立後は比較的に安定したものとなりました。主要な動きは以下の通りでした。

12月1日:フリン前大統領補佐官がロシア疑惑で訴追され有罪を認めたことで、トランプ政権の関与が証言されるとの見方が強まり、投資家心理が悪化、一時350ドル安まで下げたが、上院の税制改革法案成立に必要な票数が集まったとの報道も伝わり、ダウ価格は41ドル安(0.17%減少)。
12月4日:2日未明の上院での税制改革法案可決による市場の期待で、法人税引き下げ効果の大きな金融株が上昇、実効税率の低いIT株が売られ、58ドル高(0.24%増加)。
12月5日:税制改革の実現期待から大きく買われた金融株や通信株が売られたこと、更にディズニーが大きく下落したことで、109ドル安(0.45%減少)。
12月6日:税制改革期待で買われた銀行株などに利益確定の売りが出て、40ドル安(0.16%減少)。
12月7日:前日までの下落の反動と原油先物相場の上昇によるエネルギー関連株の買いで、71ドル高(0.29%増加)。
12月8日:米政府発表の11月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比228,000人増で、市場予想の200,000人増を上回ったことで(失業率は4.1%で同水準)、118ドル高(0.49%増加
12月11日:出遅れていたアップルやマイクロソフト等のIT株が上昇し、57ドル高(0.23%増加)。
12月12日:前日に増配と自社株買いを発表したボーイングが上昇、加えて長期金利の上昇で金融株が買われ、119ドル高(0.49%増加)。
12月13日:FOMC会合で、利上げペースが緩やかになるとの見方が意識されたことや税制改革法案の進展が期待され、81ドル高(0.33%増加)。
12月14日:連日過去最高値を更新する中、一部与党議員の反対による税制改革法案の議会通過に不透明感が出て、利益確定の売りが優勢で、77ドル安(0.31%減少)。
12月15日:税制改革法案の進展への期待と前日に下落した反動からハイテク中心に多くの銘柄が買われ、143ドル高(0.58%増加)。
12月18日:税制改革法案が週内に上下両院で可決される見通しとなり、法人税減税の期待から、140ドル高(0.57%増加)。
12月19日:連日の過去最高値の更新から利益確定の売りが優勢で、加えて長期金利の上昇もあり、37ドル安(0.15%減少)。
12月20日:税制改革法案が米上下院で可決され、約30年振りの抜本的な税制改革が成立となったが、税制改革実現により金融株などで利益確定の売りが優勢となり、28ドル安(0.11%減少)。
12月21日:税制改革法案の米議会通過による相場押し上げ期待と、原油高による石油関連株や金利の高止まりによる金融株の大幅上昇で、56ドル高(0.23%増加)。
12月22日:税制改革法が成立したが、法人税引き下げの期待感から2か月近くの相場上昇のため、買いは乏しく、クリスマス休日の3連休前で、利益確定売りが優勢で、28ドル安(0.11%減少)。
12月26日:販売低調とされたアップルの売りが膨らみ、部品提供メーカーにも波及、8ドル安(0.03%減少)。
12月27日:長期金利の低下で不動産や公益事業関連株が買われ、28ドル高(0.11%増加)。
12月28日:ユナイテッドヘルスなど業業績拡大を期待した買いが優勢で、63ドル高(0.26%増)。
12月29日:年末休暇で積極的な取引が見送られたが、懸念材料が生じたアップルなどが売られ、118ドル安(0.48%減少)。今年1年間の上昇率は25%で4年振りの大きさで、上げ幅は約5000ドル(4957ドル)でした。

 
2.米国の雇用状況
米労働省が12月8日に発表した11月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比228,000人の増加で、市場予想の200,000人増を上回りました。9月の雇用者数の確定値は38,000人で20,000人の増加、10月の改定値は244,000人の増加で、17,000人の減少となりました。今回の結果は過去2カ月間の雇用者の平均増加数は236,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000を大きく上回りました。なお、11月の失業率は4.1%で、前月と同じ水準でした。労働参加率も62.7%で、前月と同水準でした。11月の時間当たり賃金上昇率は前月比0.2%増加で、前年同月比では2.5%増となりました。部門別では製造業が31,000人の増加、建設業が23,000人の増加となりました。

 
3.FOMC会合と利上げ
FOMC会合が12月12-13日に開催され、会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は堅調に拡大している。ハリケーン関連の変動をならすと雇用増は堅調で、失業率はさらに低下した。家計支出は緩やかなペースで拡大し、企業の設備投資もこの数四半期上向いた。インフレ率はエネルギーと食品の価格を除くと、低い状況が続いて入る。ほとんどの調査に基づく長期のインフレ予想はあまり変わっていない。

ハリケーン関連の被害と復興がこの数カ月、経済活動、雇用、インフレ率に影響しているが、国家経済の見通しを大きく変えてはいない。このため、FOMCは金融政策の運営姿勢の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大、労働市場の状況も引き続き力強さを保つと予測する。インフレ率は短期的には依然として2%を下回るが、中期的にFOMCの目標である2%付近で安定すると予測している。

景気見通しのリスクは短期的にほぼ均衡してきているようであるが、インフレ率の動向を注視する。

FOMCは労働市場情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを1.25-1.5%に引き上げることを決定した。緩和的な金融政策は維持し、力強い労働市場及びインフレ率の2%への持続的回帰を支える。

FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ率2%という目標との比較で評価していく。インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

FOMCは経済情勢がFF金利の緩やかな引き上げを許すようなかたちで進むと予測している。FF金利は、FOMCが長期的に通常と見なされる水準以下に維持される可能性が高い。但し、実際のFF金利の上がり方はデータが伝える経済見通し次第だ。

今回の決定はイエレン議長を含む7人のメンバーの賛成による。シカゴ連銀総裁とミネアポリス連銀総裁は金利据え置きを求め、反対票を投じた。

今回、FOMCで政策金利の利上げはあったものの、金融正常化のペースは加速しないとの判断がなされたこともあり、ダウは81ドル高となりました。

 
4.米税制改革法案の成立と市場への影響
トランプ政権が選挙公約とし、与党共和党が長年の悲願としていた大規模な減税を含む税制改革法案が12月20日に米連邦上院と下院で過半数の賛成で可決しました。今回の税制改革法案では、連邦法人税を2018年から従来の35%から21%へ大幅に引き下げる他、個人所得税も現在の39.6%の最高税率を37%へ引き下げることを主要な内容とし、10年間全体の減税規模は約1.5兆ドルに達しています。また、同時に米企業の海外所得への課税を原則として廃止し、海外留保資金を本国に戻させるような措置も導入しました。

今回の税制改革は1986年のレーガン政権第2期の1986年の税制改正以来31年振りですが、内容は著しく異なっています。1986年の税制改正はレーガン政権第1期の1981年の大型減税を含む税制改正が巨額の財政赤字を発生させ、深刻な財政危機となったため財政健全化をのために数多くの税制優遇措置を廃止したもので、今回とは全く逆の税制改正でした。今回の税制改革はどちらかと言えば、レーガン政権第1期の1981年税制改正に類似しており、大型の企業減税によって経済を活性化させ、成長を高めることによって、やがて税収を増加させるというものです(これはいわゆるラッファー理論によるサプライ―サイドエコノミクスの考え方に基づくものですが、実際の経験は前述したごとく、巨額の財政赤字を生み、失敗に終わっています)。

この点、今回の税制改革は1981年の税制改正による大規模な減税が巨額の財政赤字を発生させたことへの反省が極めて希薄であるように思われます(両院の議会合同調査チームは10年間で約1兆ドルの財政赤字増加となることを予測)。グリーンスパン元連銀議長などの多くの専門家も今回の税制改革による経済効果には否定的で、現在のような完全雇用状態で、しかも財政赤字が続く状況の中で新たな財政政策の必要性があるのかと強い疑問を投げています。加えて、グローバル化の進展に伴う企業従業員の経済不安定化や所得格差の拡大という状況の中で、今回のような大規模減税を中心とする税制改正は米国民の所得格差を一層拡大させるというマイナス面の影響も無視されるべきではないように思われます。こうして多くの反対があったにもかかわらず、今回の税制改革が進められた背景には、両院で多数派である共和党が彼らの選挙基盤である大企業や超富裕層の意向をより重視し、トランプ政権の公約を実現するために、野党との十分な議論もせずに一方的に大型減税案をまとめあげたことにあります。特に、オバマ政権の時に野党であった共和党では財政規律を重視したはずのティーパーティーグループ(現在のFreedom Caucus)が今回の税制改革案では10年間で1兆ドルの財政赤字をもたらすとされるにもかかわらず、いとも簡単に賛成してしまうという一貫性のない行動を取っていたことは理解不能と言えます。

なお、株式市場への影響については短期的には大幅な企業減税が企業の収益改善に貢献する点でプラスと思われますが、企業減税への過剰な期待感がここ数カ月でダウが1300ドルも上昇するほどの市場の投機的な反応は明らかに行き過ぎと見られます。また、今後についても今回の減税が中・長期的に米国の財政赤字構造や所得格差の拡大に与える悪影響についても意識しておくことが重要と見られます。
                  (2018年1月1日:  村方 清)