Monday, April 9, 2018

経済・政治の混乱と株式市場の不安定性















1.3月の株式市場
3月の株式市場はトランプ政権の輸入制限措置や経済、外交、安全保障面に渡る人事面の大きな混乱から、株式市場も安定性を欠く展開となりました。主要な動きは以下の通りでした。

3月1日:トランプ大統領が中国などを対象に鉄鋼とアルミニウムの追加関税の方針を発表、貿易戦争の悪影響が懸念されるボーイング等が大きく売られ、420ドル安(1.68%減小)。
3月2日:前日に続き、トランプ大統領の追加関税措置の影響が大きいと見られるボーイングやキャタピラーの下げが大きく、91ドル安(0.29%減少)。
3月5日:トランプ大統領がツイッターで、鉄鋼とアルミへの関税は新たなNAFTAが署名された場合に限り解除と投稿し、貿易摩擦激化の懸念が後退し、337ドル高(1.37%増加)。
3月6日:北朝鮮が非核化で米国と対話する姿勢を示し、地政学リスクが和らぐ動きがあったものの、トランプ政権の保護主義的な通商政策への懸念から、9ドル高(0.04%増加)。
3月7日:トランプ政権の経済政策の中心であったコーン国家経済会議委員長が辞任を表明し、米国政治の不透明感が懸念され、83ドル安(033%減少)。
3月8日:トランプ大統領が鉄とアルミニウムの輸入制限の文書に署名したものの、カナダやメキシコを当面猶予、同盟国も交渉次第としたため、安心感から、94ドル高(0.38%増加)。
3月9日:2月雇用統計で雇用者増加数は313,000人と市場予想の約200,000人を大きく上回ったが、賃金上昇率が0.1%増加で、前月より下回ったことで、利上げのペースは緩やかとの見方が強まり、441ドル高(1.77%増加)。
3月12日:貿易摩擦の懸念から、ボーイングやキャタピラーなど資本財関連の株が大きく売られ、157ドル安(0.62%下落)。
3月13日:2月のCPIが0.2%上昇と市場予想並みに留まり、長期金利が低下、銀行株が売られ、加えてティラーソン国務長官解任で外交の不透明感が増し、172ドル安(0.68%減少)。
3月14日:トランプ政権の通商・外交政策の不透明感から、中国への輸出依存度が高いボーイングなどが大きく売られ、長期金利の低下で金融株も売られ、249ドル安(1.00%減少)。
3月15日:新規失業保険申請件数の減少など経済指標の改善を受け、短期の戻りを期待した買いが優勢で、116ドル高(0.47%増加)。
3月16日:週半ばに大きく下げた反動から、戻りを期待した買いが優勢で、73ドル高(0.29%増加)。
3月19日:会員情報が不正利用されたフェイスブックが急落、ハイテク全般に売りが広がり、投資家心理が悪化、336ドル安(1.35%減少)。
3月20日:前日の大幅安の反動で、買戻しの動きが活発であったが、取引終了前にはFOMC会合での利上げペース加速化への警戒感から、上値が重荷となり、116ドル高(0.47%増加)。
3月21日:FOMC会合後に発表された金利見通しで、利上げの継続が改めて意識され、45ドル安(0.18%減少)。
3月22日:トランプ大統領が発表した中国に対する高関税措置で中国との貿易摩擦への警戒心が強まり、幅広い銘柄で売りが膨らみ、724ドル安(2.93%減少)。下落幅は2月8日以来で、過去5番目の大きさ。
3月23日:前日の大幅下落への反発から買いが先行したが、米中貿易摩擦への懸念が強く、午後に売りが広がり、425ドル安(1.77%減少)。
3月26日:米国政府と中国政府のやり取りで、貿易摩擦が激化するとの懸念が和らぎ、金融株や半導体関連株が買われ、669ドル高(2.84%増加)。上昇幅は9年5か月振りの大きさ。
3月27日:フェイスブックなどに悪材料が出たことで ハイテク株全般が下げ、投資家心理が悪化、幅広い銘柄に売りが出て、345ドル安(1.43%減少)。
3月29日:下落が続いていたフェイスブックやアマゾンなどの主力ハイテク株が買われ、投資家心理が改善し、255ドル高(1.07%増加)。

2.米国の雇用状況
米労働省が3月9日に発表した2月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比313,000人の増加で、市場予想の200,000人増を大きく上回りました。12月の雇用者数の確定値は175,000人で15,000人の増加、1月の改定値は239,000人で39,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は242,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を大きく上回りました。なお、2月の失業率は4.1%で、前月と同じ水準でした。労働参加率も63%で、前月より0.3%増加しました。1月の時間当たり賃金上昇率は前月比0.1%増加で、前年同月比では2.8%増となりました。部門別では建設業が61,000人の増加、小売業が50,300人の増加、製造業が15,000人の増加となりました。

3.FOMC会合と金利据え置き
FOMC会合が3月20-21日に開催され、会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。前回1月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は緩やかに拡大した。雇用増はここ数か月間力強く、失業率は低水準に留まった。家計支出と企業の設備投資は2017年10-12月期から緩やかになった。インフレ率はエネルギーと食品の価格を除くと、前年同月比ペースで引き続き2%を下回った。アンケート調査による測定では、長期のインフレ予想はあまり変わっていない。

景気見通しはここ数か月で強まった。FOMCは金融政策の運営姿勢の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大、労働市場の状況も引き続き力強さを保つと予測する。インフレ率は前月同期比で測ったインフレ率は今後数か月で上昇し、中期的にFOMCの目標である2%付近で安定すると予測している。

景気見通しの短期リスクはほぼ均衡してきているようであるが、インフレ率の動向を注視している。
FOMCは労働市場情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを1.50-1.75%に引き上げることを決定した。緩和的な金融政策は維持し、力強い労働市場及びインフレ率の2%への持続的回帰を支える。

FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ率2%という目標との比較で評価していく。インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。
FOMCは経済情勢がFF金利の緩やかな引き上げを許すようなかたちで進むと予測している。FF金利は、FOMCが長期的に通常と見なされる水準以下に維持される可能性が高い。但し、実際のFF金利の上がり方はデータが伝える経済見通し次第だ。

今回の決定はパウエル議長やダドリー副議長を含む8人のメンバーの賛成による。

今回はFOMCは2月5日に就任したパウエル議長の最初の会合となりましたが、経済成長率予測を2017年12月時点の2.5%から2.7%へ引き上げ、19年の見通しも2.4%へ引き上げました。雇用情勢についても、ここ数か月の就業者増加は力強いとして2018年10-12月期には3.8%まで下がることを予測しています。これに伴い、インフレ率は2018年10-12月期には1.9%に高まり、2019年には2%に到達すると予測しています。FOMCとしては今回も2018年について、年3回程度の利上げに踏み切るシナリオを維持しました。こうしたことが理由となって、今日のダウはパウエル議長の記者会見後には上昇幅が大幅に縮小し、45ドル安に転じました。

4.トランプ政権の鉄鋼・アルミ輸入制限と知的財産侵害による対中経済制裁
トランプ政権は3月8日に通商拡大法232条に沿って、国家の安全保障を理由に鉄鋼とアルミニウムの輸入に対し、それぞれ25%、10%の追加関税を課すことを発表しました。23日に発表された具体的な措置によれば、EU、カナダ、韓国など7か国・地域には維持的に猶予する一方、中国や日本に対しては適用することになりました。
更に、トランプ政権は3月22日に中国による知的財産権の侵害を理由として、通商法301条を発動し、500億-600億ドル相当の中国製品に25%の高関税を課す制裁措置も発表しました。

前者については、追加関税の発動を猶予する7か国・地域からの鉄鋼輸入が米国全体の6割以上となっているところから、これらの対象国とは米国に有利な個別のFTA(自由貿易協定)を結ばせるための圧力と見られています。また、日本については個別の貿易協定の協議に難色を示しているところから、追加関税適用の対象国にしたものと見られています(日本政府の中には安全保障上の同盟国である日本に対しては猶予してもらいたいとの思惑があるようですが、米国にとって第3位の貿易収支赤字国である日本が貿易収支の赤字を大幅に減少させる具体的な提案が求められていると思います)。
一方、後者は米国にとって中国は2017年で約3,752億ドルという最大の貿易赤字国であり、それを大幅に減少させる方法として、知的財産権の侵害を理由に高関税を課すことを持ち出したものと見られています。しかしながら、米国が中国に対して大幅な貿易赤字を続けている最大の理由は米国の大手企業が製品の技術を移転しながら、中国の安い労働者を使って競争力のある製品を作ってきたという経緯があるだけに、高率関税の適用は中国からの米国農産品に対する輸入制限という対抗措置だけでなく、中国で競争力のある製品の生産を続けてきた米国企業や米国の消費者が被害者になってしまうことも予想されます。

今回の措置はいずれも、今年11月の中間選挙で苦戦が予想されるトランプ大統領が支持者の拡大のために、米国の貿易赤字問題を使って巻き返しを図りたいとする戦略の一部として持ち出されたものと見られています。しかしながら、米国政府による一方的な措置は中国からの強い反発と大きな報復を招き、世界経済を巻き込む貿易戦争に発展しまう恐れが出てきています。
本来、米国が中国による知的財産権の侵害を問題にしたいのであれば、関税などの輸入制限措置ではなく、自動車などの重要産業の分野で1978年以降、中国が開放政策の一環として長期間に渡って取ってきた外資導入策、特に中国側による51%の過半数支配の原則を問題にすべきと思われます。過半数支配の下で日米欧の企業が競い合って中国に進出したことが西側からの中国側企業に対する重要な技術流出の拡大と中国経済の急速な拡大を招く結果になりました。そして中国共産党による独裁政権は中国を自由な開放された市場を作り出すことには関心はなく、中国企業優先の発展政策を続けることになっています。更に対外的には、中国経済の強化が世界の多くの地域で中国による覇権主義の浸透を招いています。

なお、今回のトランプ政権の輸入制限措置については、トランプ政権の経済政策の要であったコーン国家経済会議委員長は鉄鋼・アルミニウムの輸入制限に強く反対、通商政策をめぐる対立から、数週間以内に辞任することを表明しました。コーン氏は2017年1月にゴールドマン・サックスの社長兼最高執行責任者(COO)から転じたものの、國際協調派的な立場で、トランプ政権の強硬な通商政策に反対、NAFTAからの離脱にも異議を唱えてきました。
5.ドイツの大連立政権発足とイタリアの混乱
ドイツの社会民主党(SPD)は3月4日に党員投票でキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)との連立合意が承認されたことを発表しました。彼らの発表によれば、賛成が66.02%で、反対が33.98%で、約3分の2が賛成したことになりました。これにより、ドイツは5か月以上の政治空白を経て、3月半ばにメルケル首相の第4次政権が発足することになります。

昨年9月24日に実施された連邦議会の選挙では、与党のCDU・CSUが前回の41.7%を大きく下回る33%、連立を組んでいたSPDは戦後最低の21%に激減しました。このため、SPDは今回は連立に加わらず、野党に転じることを決定しましたが、与党のCDU・CSUと自由民主党(FDP)との連立協議が失敗した結果、大統領の強い依頼で、再びSPDとの連立協議が行われ、今年2月に、SPDは党員投票での承認を条件に連立の合意を受け入れたものです。
これにより、欧州最大の経済大国であるドイツで安定政権が再び発足することになりましたが、昨年9月の選挙結果に見られたように、メルケル首相の求心力は低下しており、EUの東欧諸国で(最近はイタリアでも)起きている排外主義や孤立主義の台頭にどこまでブレーキがかけられるかは不透明な状態です。

一方、イタリアでは4日に総選挙が実施され、どの主要政党も過半数を取れない結果となりました。上下両院で第1党となったのは中道右派連合で、上院で約42%、下院で約37%を取ったとされています。見られています。第2党となったのはポピュリズム政党の「五つ星運動」で、上院で約36%、下院で約37%を取ったと見られています。一方、与党の中道左派連合は上院で約18%、下院で約16%と惨敗しました。
いずれの党も過半数を取っていないため、今後は連立政権のための交渉が焦点になります。最大の中道右派は五つ星運動を敵視していること、中道左派に対しても移民政策で大きな差があり、他党との連立は容易ではないと見られています。第2の五つ星も他党との連立に否定的ですが、最近は従来主張していたユーロ離脱を問う国民投票の実施を撤回したり、経済政策面で

最低賃金の増額や大型減税など与党の民主党の政策に近いものを出しており、中道左派との連立協議で、合意が達するかが鍵となるように思われます。
      
          (2018年4月1日:村方 清)

 

Thursday, March 1, 2018

長期金利動向で大揺れのトランプ・バブル相場




 










1.2月の株式市場
2月の株式市場は1月末に大きく下落した後、2月には入っても10年物国債の利回りの低下と上昇で、再び大きく変動することになりました(ダウは2月全体で約1,120ドルの4.3%下落)。主要な動きは以下の通りでした。

2月1日:原油先物相場の上昇や長期金利の上昇でエネルギー株や金融株に買いが優勢となったが、10年物国債金利が3年10か月振りに2.79%まで上昇すると、相場の重荷となり、ダウ価格は37ドル高に留まった(0.14%増加)。
2月3日:1月雇用統計で雇用者増加数(200,000人)と賃金上昇率(前年同月比2.9%)が予想を上回り、米長期金利も10年物国債金利で一時4年振りの水準の2.85%となり、株価の割高感から幅広い銘柄で売りが優勢で、666ドル安(2.54%減少)。下げ幅は2008年12月1日以来の大きさ。
2月5日:米長期金利が10年物国債金利で一時2.88%と上昇、株式市場が調整局面に入ったとの見方が広がり、運用リスクが高い株だけでなく幅広い銘柄で急速な売りが強まり、1,175ドル安(4.60%減少)。下げ幅としては史上最大。
2月6日:前日に過去最大の下落を記録したことから、午後に短期的な戻りを見込んだ買いが優勢となり、567ドル高(2.33%増加)。但し、値動きは激しく、1日の高値と安値の差は1100ドル超。
2月7日:午後に長期金利が上昇したことから、リスク選好が強まり、19ドル安(0.08%減少)。
2月8日:米長期金利の上昇圧力が警戒され、PERが高いハイテク株を中心に多くの銘柄に急速な売りが強まり、1,032ドル安(4.15%減少)。下げ幅としては5日に次いで過去2番目。 2月9日:前日に1000ドル以上下落した反動で、短期的な戻りを期待した買いが取引終了時に優勢となり、330ドル高(1.38%増加)。
2月12日:前週に急落した反動で、アップルやボーイングなどの銘柄をい中心に買いが入り、410ドル高(1.70%増加)。 2月14日:取引開始直後はCPIが市場予想を上回り、金利上昇を嫌う投資家による売りが先行したが、その後、変動制指数(VIX)の低下を受け、金融株や石油株が上昇、253ドル高(1.03%増加)。

2月15日:変動率の動きが少なくなったことから、アップルやボーイングなどの優良株を中心に買いが広がり、307ドル高(1.23%増加)。
2月16日:投資家心理が改善し、ヘルスケア株などが買い直されたが、FBIがロシア疑惑に関連してロシア人を起訴したとの報道から、不安定な動きとなり、19ドル高(0.08%増加)。
2月20日:四半期決算が不調であったウオールマートが急落した他、前週末まで6日続伸した反動で、255ドル安(1.01%減少)。 2月21日:FOMC会合議事要旨で利上げベースは緩やかと確認され、一時300ドル超上昇したが、その後、10年物米国債金利が一時2.95%に近づいたことから売りが優勢で、167ドル安(0.67%減少)。
2月22日:前日まで続落した反動から、目先の反発を期待した買いが優勢であったことや米長期金利が低下したことから、165ドル高(0.66%増加)。
2月23日:FRBの年2回の金融政策報告書で利上げペースが速まるとの見方でなかったことや10年物米国債の利回りが23日には2.8%台まで低下、市場心理が改善し、348ドル高(1.39%増加)。
2月26日:長期金利の指標である10年物国債の利回りが一時2.83%まで低下、株価への悪影響の警戒感が和らぎ、399ドル高(1.58%増加)。 2月27日:パウエルFRB新議長が下院で証言し、景気と物価の見通しについて強気の見方を示したことから、長期金利が上昇、299ドル安(1.16%減少)。
2月28日:朝方は前日の反動から買いが先行したが、原油安でエネルギー関連株や3Mが下落、ダウ平均が50日移動平均を下回ったことで、売りが加速、381ドル安(1.50%減少)。2月は月間で1,120ドル下げ(4.3%減少)、11か月振りに前月比で下落。

2.米国の雇用状況
米労働省が2月2日に発表した1月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比200,000人の増加で、市場予想の175,000人増を上回りました。11月の雇用者数の確定値は216,000人で36,000人の減少、12月の改定値は160,000人で12,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は192,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を少し下回りました。なお、1月の失業率は4.1%で、前月と同じ水準でした。労働参加率も62.7%で、前月と同水準でした。1月の時間当たり賃金上昇率は前月比0.3%増加で、前年同月比では2.9%増となりました。部門別では建設業が36,000人の増加、製造業が15,000人の増加、ヘルスケアが21,000人の増加となりました。


3.1月のFOMC会合と次回利上げのタイミング
2月21日に、1月30-31日に開催されたFOM会合の議事要旨が公表されました。それによれば、多くの委員が米国と海外の経済指標が上向いていることに加え、金融環境が引き続き緩和的であることや昨年末の税制改革が短期的に個人消費と企業投資に与える影響が当初予測より大きい可能性があるとして、昨年12月の景気見通しを引き上げたことが判明しました。また、これに伴い、更なる利上げが必要になる可能性があるとして、会合後の声明で、段階的な引き上げが正当化されることとの表現で一致したことも明らかになりました。こうしたことから、市場ではFOMCが3月の会合で、利上げするのではないかとの観測が高まっています。

2月21日は議事要旨が公表された直後では市場の反応は前向きでしたが、その後、10年物国債金利が一時2.95%に近づいたこともあり、この日のダウは167ドルの下落となりました。

4.FRB新議長の議会証言
2月5日にFRB新議長就任したパウエル議長は、27日に下院金融サービス委員会で年2回の証言を行いました。その中で、米国経済は堅調なペースで成長している。雇用拡大のペースは失業率を十分に押し下げ、賃金も緩やかに上昇でしている。経済成長と労働市場の改善にも拘らず、物価上昇率は目標の2%を下回っている。しかし、物価の停滞は一次的なもので、繰り返すことはない。金融市場は緩和的な環境がいくらか反転したものの、現時点で景気や雇用、物価の見通しに大きな影響をもたらすものではない。内外の需要拡大が企業投資を押し上げるであろう。財政政策もより拡大的になる。こうした状況では物価上昇率は上向き、目標の2%近くで安定するであろう。今後、数年の金融政策の道筋は、景気の過熱を回避して、物価目標率を達成するというバランスを取っていくことになる。金融情勢は最近の変動にもかかわらず、引き続き緩和的である。FOMCとしては更なる段階的な利上げが最善の策となるであろう。

パウエル新議長が景気と物価見通しについて強気の見方を示したことから、長期金利が上昇、27日のダウは299ドルの下落となりました。

5.米国歳出上限引き上げ法案成立と財政赤字急増の影響
米国上下両院は2月9日に、インフラ事業や国防費を増額するために、2018会計年度の歳出上限を1430億ドルを、2019会計年度の歳出上限を1530億ドル引き上げる予算関連法案を可決しました。これにより、2018年度の裁量的経費の上限は1兆650億ドルから1兆2080億ドルへと13%引き上げられることになりました。

一方、昨年12月20日に米議会は10年間で1.5兆ドルとされる大規模減税を承認しており、年間で1000億ドル程度の税収が減少することになっています。これに今回増額された歳出予算が実行されると、2017年度で約6660億ドルであった財政赤字は数年後には軽く1兆ドルを超えるのではないかと見られています。財政赤字の急増は国債、特に10年物国債の金利を引き上げることになり、住宅ローンを含めて米国の経済活動、更に株式市場に悪影響を与えることが懸念されます。

 
6.連銀による金融引き締めと財政赤字拡大によるバブル相場の不安定性
米国経済は年間3%前後の成長が続き、雇用も失業率は4.1%と完全雇用の状況にあります。こうした状況の中で、連銀が金融正常化を目指して、金利引き上げと量的緩和縮小に向かっていることは当然のこととなります。

連銀は既に2017年に短期金利の引き上げを3回行うと共に、2008年11月に導入され量的緩和の縮小策として保有する国債やモーゲージ債券の市場売却を四半期毎に100億ドルづつ増額させ、現在年間2400億ドルベースを2018年10月からは年間6000億ドルべースに拡大させることを計画しています(昨年9月末の保有額は約4.5兆ドルと巨額であったことからすれば、年間6000億ドルべースの減額は決して大きな金額ではないのかもしれません)。

しかし、問題はトランプ政権と議会多数派である共和党が成立させた10年間で1,5兆ドルの大型減税と2年間で3000億ドルという歳出増加が、景気の過熱とインフレが強めてしまう恐れがあります。こうした状況では連銀は金融引き締めのペースを速める可能性もあります。 いずれにしても、トランプ政権誕生以降、大型減税と大規模インフラ支出という大規模な財政政策への投資家の過剰な期待から、株式市場はダウで年間21%の上昇を記録しました。しかし、それが実現された今日、GDPに対する株価総額の比率は150%で、リーマン破綻前の137%を上回っていますし、シラー教授の調整済みPERも33.8で、通常の16.8を2倍以上も上回っています。そうした超高値水準にある株式市場の中で、現在はトランプ政権による財政赤字の急増と連銀の経済の過熱化への懸念が高まっています。こうした状況下では、今後長短金利の上昇が避けられず、株式相場も今後も乱高下を繰り返していくように思われます。
                 (2018年3月1日: 村方 清)

Thursday, February 1, 2018

長期金利上昇で強まる投機的市場の不安定性













 
1.1月の株式市場
1月の株式市場は下旬までは世界経済の拡大や米企業の業績改善を背景に急騰を続けましたが、月末に長期金利の上昇が顕著になると、大きく下落する展開となりました。主要な動きは以下の通りでした。

1月2日:米企業の業績拡大の期待から、幅広い銘柄に買いが入り、特に半導体などのIT関連株が買われ、105ドル高(0.42%増加)。
1月3日:世界景気の拡大を背景に米企業の業績改善を見込み ITや石油関連株を中心に買いが優勢で、99ドル高(0.40%増加)。
1月4日:ADPの全米雇用レポートで12月の非農業部門の雇用者数が25万人以上増加し、長期金利が上昇、JPモルガンやゴールドマン・サックス等が押し上げ、152ドル高(0.61%増加)。
1月5日:12月雇用統計は順調な労働市場の拡大を示し、賃金上昇の伸びは小幅であったために、緩やかな利上げに留まるとの見方が強まり、221ドル高(0.88%増加)。主要3指標が過去最高値。
1月8日:前週末まで3日連続で過去最高値を更新したこともあり、売りが優勢で、13ドル安(0.05%減少)。
1月9日:世界的な景気拡大と企業業績の改善の期待から、103ドル高(0.41%増加)。
1月10日:長期金利の上昇で、配当狙いの不動産や公益事業株を中心に売りが優勢で、17ドル安(0.07%減少)。
1月11日:世界経済の成長加速や原油高を背景に、航空機のボーイングや石油のシェブロンなどが大きく買われ、206ドル高(0.81%増加)。主要3指数が最高値を記録。
1月12日:JPモルガンなどの四半期業績が発表され、市場予想を上回るなど米主要企業の業績拡大への期待から、228ドル高(0.89%増加)。主要3指数が最高値を更新。
1月17日:米景気に関する楽観的な見方から、米企業の四半期業績の改善への期待が大きく、323ドル高(1.25%増加)。26,000ドル突破。
1月18日:前日に主要3指数が最高値を更新したことから、利益確定の売りが優勢で、98ドル安(0.37%減少)。
1月19日:米10年債利回りが一時2.65%へ3年4カ月振りに上昇したのを受け、利ざや拡大の期待が持てる金融株が大幅に上昇、54ドル高(0.21%増加)。
1月22日:2月8日までのつなぎ予算で米上院が合意したこが報じられ、幅広い銘柄に買いが入った他、原油先物相場の上昇で石油株も上昇し、143ドル高(0.55%増加)。
1月23日:四半期決算が不調であったジョンソン・エンド・ジョンソンやプロクター・アンド・ギャンブルが大きく売られ、好調であったトラベラーズなどを相殺し、4ドル安(0.01%減少)。
1月24日:米長期金利の上昇を受けて、JPモルガン等の金融株が上昇、41ドル高(0.16%増加)。
1月25日:四半期業績が好調であった3Mや31日に決算を発表予定のボーイングが大きく買われ、141ドル高(0.54%増加)。
1月26日:四半期業績が好調なインテルやスリーエムが大幅に上昇、224ドル高(0.85%増加)。
1月29日:前週後半に大幅上昇したため、利益確定の売りが優勢であったことや米金利の上昇や原油先物相場の下落も重なり、177ドル安(0.67%減少)。
1月30日:米長期金利の指標である10年物国債の利回りが一時2.73%まで上昇、投資家が運用リスクを回避する姿勢が強まったことや原油先物相場も下落したことで、目先の利益確定の売りが優勢となり、363ドル安(1.37%減少)。
1月31日:四半期業績が好調であったボーイングが相場を押し上げたものの、FOMC会合の結果発表後は長期金利やドルの上昇で、上昇幅が縮小し、73ドル高(0.28%増加)。

2.米国の雇用状況
米労働省が1月6日に発表した12月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比148,000人の増加で、市場予想の190,000人増を下回りました。10月の雇用者数の確定値は211,000人で33,000人の減少、11月の改定値は252,000人の増加で24,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は204,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を上回りました。なお、12月の失業率は4.1%で、前月と同じ水準でした。労働参加率も62.7%で、前月と同水準でした。12月の時間当たり賃金上昇率は前月比0.3%増加で、前年同月比では2.5%増となりました。部門別では製造業が25,000人の増加、建設業が30,000人の増加となりましたが、小売業が20,000人の減少となりました。

3.米連邦予算の失効と政府機関閉鎖
米連邦予算は1月20日の午前0時に、移民政策をめぐる与野党の対立から、つなぎ予算が成立せず、一部の政府機関が閉鎖状態に追い込まれることになりました。野党の民主党はつなぎ予算を成立させる見返りに、幼少期に親と一緒に不法入国した若者の滞在を認める「DACA」の制度の存続を求めているのに対し、共和党は移民政策と予算を切り離すことを求め、対立が解消していません。

下院では多数派の共和党が既に1月18日に2月16日までのつなぎ予算を可決していますが、上院では予算については60票が必要で、51議席だけの共和党単独では成立しない状況でした。22日になり、上院の与野党は2月8日までのつなぎ予算の成立で合意、政府機関の閉鎖は一時的に解除されることになりました。しかし、「DACA」をめぐる与野党の対立は依然続いており、2月8日までにDACAに関する新たな法案が成立するかどうかが鍵となっています。

4.FOMC会合と金利据え置き
FOMC会合が1月30-31日に開催され、会合後の声明文では以下のようなことが伝えられました。

労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は底堅く拡大を続けている。雇用増、家計支出、企業の設備投資も堅調で、失業率も低水準に留まっている。インフレ率はエネルギーと食品の価格を除くと、低い状況が続いている。殆どの調査に基づく長期のインフレ予想はあまり変わっていない。

FOMCは金融政策の運営姿勢の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大、労働市場の状況も引き続き力強さを保つと予測する。インフレ率は短期的には依然として2%を下回るが、中期的にFOMCの目標である2%付近で安定すると予測している。

景気見通しのリスクは短期的にほぼ均衡してきているようであるが、インフレ率の動向を注視している。

FOMCは労働市場情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを1.25-1.5%に据え置くことを決定した。緩和的な金融政策は維持し、力強い労働市場及びインフレ率の2%への持続的回帰を支える。

FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ率2%という目標との比較で評価していく。インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

FOMCは経済情勢がFF金利の緩やかな引き上げを許すようなかたちで進むと予測している。FF金利は、FOMCが長期的に通常と見なされる水準以下に維持される可能性が高い。但し、実際のFF金利の上がり方はデータが伝える経済見通し次第だ。

今回の決定はイエレン議長を含む9人のメンバーの賛成による。

今回のFOMCは2月3日に任期が切れるイエレン議長の最後の会合となりましたが、2018年はインフレ率の上昇が見込まれるとして、FF金利の緩やかな引き上げを正当化されことを強調しています。、FOMCとしては、2018年も年3回程度の利上げに踏み切るシナリオを既に公表しています。こうしたことが理由となって、今日のダウはFOMC会合後に、上昇幅が縮小し、73ドル高に留まりました。

5.トランプ大統領の一般教書演説
トランプ大統領は30日に米議会上下両院本会議で、就任後初めての一般教書演説を行いました。

内容的には昨年1月28日の議会演説と同じで、世界のリーダーとしての中期的なビジョンは皆無で、米国第一主義の繰り返しでした。国内の経済面では大幅減税と規制緩和による米国経済の成長や雇用の促進と共に株価の上昇を自分の実績として誇張しました。特に法人税を35%から21%へ引き下げたことを歴史的な改革と位置付け、成長や雇用での経済効果を強調していました。その一方、今回の無理な大規模減税が米国政府の財政赤字を今後10年間で1兆ドルも悪化させることの言及は全くありませんでした(29日と30日に起きた株価の大幅下落の要因は財政赤字拡大の懸念による長期金利の上昇といった要因もあります)。

更に、トランプ大統領は米国における伝統的な製造業の復活の重要性を強く主張しましたが、米国などの先進国での生産コスト上昇圧力によって製造業からサービス産業の高度化と言った経済構造の変化をどこまで理解しているのかに疑問を持たざるを得なくなります。これに加えて、官民の資金による約1兆ドルのインフラ投資と国防費の大幅増加を再び主張しましたが、財源の裏付けがない無責任な提案のように見られました。また、対外的な経済面では、米国第一主義の下に2国間による公正で互恵的な貿易関係の構築を目指すとしていますが、現在NAFTAの見直し交渉が行き詰まっている状況の中で、どこまで実現可能であるかも疑問が生じます。

いずれにしても、トランプ大統領の提案や主張は彼の不動産ビジネスの経験から来ているものと思われますが、投機性の高い不動産ビジネスによって6回も破産状態に陥った状況からすると、米国経済の健全な発展より、今後は投機性を高める株式市場の不安定化になりはしないかとの懸念を感じざるを得ません。

6.トランプ政権の1年目の評価
1月20日はトランプ政権が成立してから1年経過したことになりますが、2017年全体を通じた米国の株価上昇率はダウ平均で21%、S&P500で20%と極めて高い比率を示しており、これがウォール街を中心とする投資家達からの高い評価になっているようです。特に、彼が主張していた規制緩和や大型減税が実現したことが株価上昇に貢献したことは疑いがありません。

しかしながら、その一方で、投資家の過剰な期待を背景とする投機的要因もあり株価上昇のスピードが速く、株式市場の健全さの指標とされる対GDP比率のバフェット指数が130を超えていることや(歴史的には75から100までが健全とされる)、S&P500のPERが健全さとされる16.3を大きく超えて21となっていることに警戒感を持つ必要があるかも知れません(現在アマゾンなどのネット企業のPERは350を超えていますが、従来優良企業とされたジョンソン・エンド・ジョンソンやハネウエルも各々300と75近くになっています)。こうした点からすれば、1月29日と30日に見られたように、今後は長期金利の上昇によって株式市場が大きく影響され、大規模な調整局面に入っていく可能性を考えておくことが求められているように思われます。

なお、移民政策や米国優先の貿易政策になどのトランプ政権の政策については評価が分かれていますが、彼の支持率が未だに戦後の米国大統領の中で37%と最も低い状態にあることを見ると、ロシア疑惑の進展などによっては政権の今後の安定性にかなりの疑問が提起されていると言えます。
                   (2018年2月1日: 村方 清)