Tuesday, October 1, 2019

米中貿易問題に加えてトランプ大統領の政治リスクを含んだ米国市場














1.9月の株式市場
9月の株式市場は米中貿易協議が実態よりも、政治家の口先発言で揺れる一方、月末にトランプ大統領が来年の大統領選挙でウクライナ政府に圧力をかけたとの内部告発者の訴え問題もあり、不安定な動きとなりました。主要な動きは以下の通りでした。

93日:米サプライマネジメント協会(ISM)が3日に発表した8月の製造業景況感指数が市場予想以上に悪化し、好不調の目安とされる503年ぶりに下回ったことや、米中貿易摩擦の懸念や英国のEU離脱を巡る不透明感から、ダウ平均価格は285ドル安(1.08%減少)。
94日:香港で続く大規模デモが香港政府の逃亡条例の正式撤回で収束の期待が出てきたことや英国のEUからの合意なき離脱への懸念後退で、3つの内2つのリスクが後退したこともあり、237ドル高(0.91%増加)。
95日:米中が閣僚級の貿易協議を10月初めにワシントンで開くことを合意し、米中摩擦が和らぐとの期待感から、中国売り上げ高の半導体メーカーやアップル、IBMなどの銘柄に買いが向かい、373ドル高(1.41%増加)
96日:8月の米雇用統計は雇用者増加数が130,000人増で、市場予想の160,000人増を下回ったことものの(失業率は3.7%で前月と同じ)、米中貿易協議の進展や連銀の利下げへの期待感が強く、69ドル安(0.26%増加)。
99日:10月に開く米中両国による閣僚級の貿易協議が進展するとの期待から、38ドル高(0.14%増加)。
910日:米中貿易摩擦による対立が緩和に向かているとの期待から中国売上高比率の高い銘柄が買われ、74ドル高(0.28%増加)。
911日:中国政府が追加関税の一部製品を除外すると発表し、米中の対立が和らぐとの期待からキャタピラーやダウなどの景気敏感株の買いが優勢で、228ドル高(0.85%増加)。
912日:トランプ大統領が一部の中国製品への関税引き上げを2週間延期すると発表し、中国政府も米農産物の輸入手続きを再開したことから、米中貿易問題の対立が和らぐのと期待から、45ドル高(0.17%増加)
913日:8月の米小売売上高が市場予想を上回り、個人消費の堅調さを示したことで、買いが優勢で、37ドル高(0.14%増加)。
916日:サウジアラビアの石油施設が14日に無人機の攻撃を受け供給懸念から原油先物相場が高騰、企業の生産コスト増や個人消費減退への懸念で売りが優勢で、143ドル安(0.52%減少)。
917日:18日までのFOMCの結果を見極めたいムードの中で、原油相場が反落し、原油高による収益悪化への警戒感が和らぎ、34ドル高(0.13%増加)
918日:FOMC会合で0.25%の引き下げを発表したが、1920年で利下げ停止が示唆され200ドル以上下落、FRB議長の記者会見で金融緩和に柔軟との姿勢から、36ドル高(0.13%増加)。
919日:米中貿易協議の進展期待から買いが先行したが、協議の難航を示唆する報道が相次ぐと伸び悩み、52ドル安(0.19%減少)
920日:米中が919日から貿易協議が再開したが、20日に中国の代表団が予定を早めて帰国すことが報じられ、交渉進展の期待が後退し、160ドル安(0.59%減少)
923日:9月の米製造業購買担当者景気指数が51.0と改善したものの、米中貿易協議の進展への警戒感から、買い勢いは弱く、15ドル高(0.06%増加)。
924日:トランプ大統領が国連総会で中国に対する強硬姿勢を発表し、米中対立が激化するとの懸念から売りが優勢となり、米消費者信頼漢指数も悪化、142ドル安(0.53%減少)。
925日:トランプ大統領の米中貿易協議に関する早期の決着発言で、貿易摩擦激化の懸念が後退し、中国関連を中心に幅広い銘柄に買いが優勢で、163ドル高(0.61%増加)。
926日:ウクライナ問題で米下院によるトランプ大統領に対する弾劾調査が進んだことによる不透明感と長期金利低下による売りが優勢で、80ドル安(0.30%減少)。
927日:米政権がADR(米預託証券)を含む中国への証券投資の制限を検討していると報じられ、金融市場や米中貿易協議にも響きかねないとの懸念が広がり、71ドル安(0.26%減少)。
930日:中国企業の上場廃止や米国の対中証券投資の制限について、米財務省報道官が否定したこともあり、米中対立への過度な懸念が後退し、97ドル高(0.36%増加)。

 
2.米国の雇用状況
米労働省が96日に発表した8月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比130,000人の増加で、市場予想の160,000人増を下回りました。6月の雇用者数の確定値は178,000人で13,000人の減少、7月の改定値は159,000人で5,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約156,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を大きく下回りました。なお、8月の失業率は3.7%で、前月と同じ水準でした。労働参加率は63.2 %で、前月より0.2%上昇しました。8月の時間当たり賃金上昇率は前月比11セント増加で、前年同月比では3.2%増となりました。部門別では専門・ビジネスサービス業が37,000人の増加、ヘルスケア業が24,000人の増加 金融関連業15,000人の増加、連邦政府関連が28,000人の増加となりました。

 
3.金利引き下げを決定したFOMC会合
FOMC会合が91718日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回7月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は強さを保っており、経済活動は緩やかに拡大した。雇用増はここ数か月平均すると堅調で、失業率も低下した。家計支出は力強く伸びたが、企業の設備投資および輸出は弱まった。全般的なインフレ率と、食品・エネルギーを除くインフレ率は2%を下回っている。市場で予測したインフレ値は依然弱く、アンケートによる調査では長期のインフレ予想はあまり変わっていない。

法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。

この目標を支えるため、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを1.752.0引き下げることを決定した。この措置は持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、目標のFOMCは引き続き、持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、目標の2%前後付近のインフレ率がもたされるとのFOMCの見方を支える。しかし、この見通しには不確実性が残る。FOMCが今後のFF金利の目標レンジの道筋を検討する際には、景気見通しに関する情報が意味するものを引き続き注視し、力強い労働市場と2%前後のインフレ率の目標に向け成長維持のために適切に行動する。
FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む7人のメンバー全員の賛成による。

なお、今回のFOMC会合では0.25%の引き下げを決定したが、1920年の利下げ停止を示唆したこともあり、発表直後はダウ平均は200ドルを超える下げとなりました。しかし、パウエル連銀議長の記者会見で、金融緩和に柔軟な姿勢を見せる姿勢が確認され、36ドル高となりました。

4.ウクライナ問題でトランプ大統領に対する弾劾リスク
201611月の大統領選挙でロシアとの共謀や司法妨害の疑いをかけられ、モラー特別検査官による2年間余におよぶ調査を新たな司法長官を任命することで乗り切ったと思われたトランプ大統領が、今回は自らが直接関与した新たな疑惑を起こし、弾劾リスクを含む影響が株式市場にも及び始めています。

米議会下院の情報特別委員会は926日に、トランプ大統領がウクライナの大統領に対してバイデン前副大統領に関する調査を要請した電話協議の内部告発状を公表しました。告発状によれば、トランプ大統領は725日にウクライナのゼレンスキー大統領と電話をし、バイデン氏や息子が不利になる情報を求めて調査を依頼、これは大統領が権限を使って2020年の大統領選挙に向けて外国政府の介入を求めたものだと指摘しました。更に、電話協議から数日後にホワイトハウス高官は政府関係者による電話記録へのアクセスを大幅に制限し、ホワイトハウス法律顧問はウクライナ首脳との電話記録を削除するように関係者に指示したことも指摘しました。

これらの点は米国の選挙資金法では外国人による選挙活動への貢献や献金を求めてはならない条項があり、貢献を受けなくても要求すること自体が禁止されており、この規定に違反する恐れがあります(なお、2016年当時、ウクライナの検事総長に対しては様々な疑惑が生じたことから、米国だけでなく、EU側も解任を求めており、バイデン氏の息子への捜査から、バイデン氏が圧力をかけたとの見方は事実でないとされています)。

更に、トランプ大統領は米国議会が承認したウクライナへの軍事支援の内、25000万ドルを保留するように首席補佐官に指示した事実も明らかになっています。このことがトランプ大統領が支援を実行する見返りとして、調査への協力を求めたのではないかとの見方になっています。加えて、

米国の有力紙はトランプ大統領がウクライナへの軍事援助をウクライナ政府に対するロシア政府の和解に向けた手段として利用、プーチンが望む米国のロシアへの経済制裁を解除させようとした疑いもあるのではないかとしています。

トランプ大統領が来年の大統領選挙を狙って、ウクライナ政府にバイデン民主党候補に不利な情報を探すように圧力をかけたとされる問題の事実解明は連邦議会の下院で進み始めていますが、トランプ政権の内部から告発者が出てきたことは、トランプ大統領の独断的な手法が政権内部に反発する連中が出てきた点で、極めて意味があることだと思われます。法律や規則を守らず、議会からの要請にも一切従うことなく、逆に国務省、司法省、財務相など連部局のトップが、米国ではなく、トランプ大統領個人の利益優先で動いているような異常な事態を終焉させる時期に来ていると思われます。
           (2019101日:村方 清)。

 

 

Sunday, September 1, 2019

トランプ大統領の時代遅れの経済政策が招く株式市場の混乱


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
1.8月の株式市場
8月の株式市場は、米中貿易協議に関する両国関係者の発言に大きく影響されたことや景気後退の前兆とされる逆イールド現象が起きて、株式市場の混乱が続きました。主要な動きは以下の通りでした。
 
81日:トランプ大統領が午後に、中国に対し残りの3000億ドルへも91日から10%の追加関税を課すと発表したことで、市場全体に動揺が広がり、281ドル安(1.05%減少)。
82日:7月の米雇用統計は雇用者増加数が164,000人増で、市場予想とほぼ同水準だったこと(失業率は3.7%で前月と同じ)に加え、トランプ大統領が前日に対中制裁関税「第4弾」の発動を表明し、米中貿易摩擦問題が厳しくなるとの懸念が広がり、98ドル安(0.37%減少)
85日:トランプ大統領が中国への追加関税を発表して以来、世界経済の不安が急激に高まり、投資家のリスク回避姿勢の強まりから、767ドル安(2.90%減少)。
86日:中国当局が元安進行を抑制するとの姿勢を示したことで、米中貿易戦争への過度の懸念が和らいだことや5日に767ドル安となったことの反動で、312ドル高(1.21%増加)
87日:欧米の長短金利が大幅に低下し、世界景気の減速が意識されたことから、一時下げ幅が589ドルに拡大するなど投資家のリスク回避姿勢が強まり、22ドル安(0.09%減少)。
88日:7月の中国貿易統計で輸出が予想以上に増加したのを受けて、世界景気減速への懸念が後退、かつ中国人民銀行が人民元のレートを予想より高く設定したことから、371ドル高(1.43%増加)
89日:世界経済の不透明感に加え、トランプ大統領が9月の米中貿易協議について中止する可能性を示唆したこともあり、91ドル安(0.34%減少)。
812日:米中対立の長期化による世界経済の減速懸念から、投資家のリスク回避姿勢を強め、米長期金利の指標である10年物国債の利回りが低下、390ドル安(1.48%減少)。
813日:中国に対する第4弾の制裁関税について、米国政府がスマートフォンなどの一部品目を12月に先送りすると発表、米中貿易摩擦の緩和が期待され、373ドル高(1.44%増加)
814日:中国や欧州の経済指標の悪化を受け、貿易摩擦による世界経済の停滞に加え、米国債市場で10年物国債と2年物国債の利回りが逆転する逆イールド現象が12年振りに起こり、投資家の警戒感が強まり、800ドル安(3.05%減少)。
815日:四半期業績が好調であったウォルマートが6%高であったことやコカ・コーラなどの飲料・日用品銘柄が相場をけん引し、100ドル高(0.39%増加)
816日:景気の減速懸念を招いた長期金利の低下が一服し、金融やハイテク株を中心に幅広い銘柄に買いが入り、307ドル高(1.20%増加)
819日:米中貿易摩擦の激化への警戒感が和らいだことに加え、米長期金利の低下が一服したこともあり、相場の押し上げが見られ、250ドル高(0.96%増加)。
820日:米中貿易摩擦の懸念と香港の大規模デモの継続に加えて、イタリア首相の辞任に伴う政局の流動化で欧州市場が全面安となり、米金利の低下もあり、173ドル安(0.66%減少)。
821日:小売業のターゲットやロウズなどの四半期決算が市場予想を上回ったことから、米国の個人消費の堅調さが維持されているとの見方から、240ドル高(0.93%増加)。
822日:航空機のボーイングが新型機の運行再開に向けた前向きの評価や増産計画が伝えられ、ダウ平均を押し上げ、50ドル高(0.19%増加)
823日:中国が米国の対中報復関税「第4弾」への報復関税を発表したのに対して、トランプ大統領がツイッターで対応策を講じる投稿、米中貿易摩擦の激化が警戒され、中国への収益依存度が高い銘柄を中心に売りが広がり、623ドル安(2.37%減少)
826日:トランプ大統領が中国との貿易協議再開を表明したことに加え、イランとの首脳会談への前向きな姿勢を示したことを好感、270ドル高(1.05%増加)。
827日:米中貿易協議について進展を期待させる材料がなかったことや景気後退の前兆とされる逆イールド現象が強まったところから、121ドル安(0.47%減少)
828日:米中貿易摩擦の悪材料がなかったことや逆イールド現象の度合いが和らいだこともあり、JPモルガンなどの金融株を中心に買いが強まり、258ドル高(1.00%増加)。
829日:米中貿易協議で、両サイドから対立姿勢を和らげる報道があり、キャタピラーやナイキなど中国売り上げ高比率が高い銘柄を中心に買いが広がり、326ドル高(1.25%増加)。
830日:米中貿易協議に関連して、トランプ大統領による制裁関税の企業収益への影響を軽視する発言がツィーターにあったが、中国政府からの前向きの発言があったことで、41ドル高(0.16%増加)
 
2.米国の雇用状況
米労働省が82日に発表した7月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比164,000人の増加で、市場予想の160,000人増とほぼ同じ水準でした。5月の雇用者数の確定値は62,000人で10,000人の減少、6月の改定値は193,000人で31,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約140,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を大きく下回りました。なお、8月の失業率は3.7%で、前月と同じ水準でした。労働参加率も63.0 %で、前月より0.1%上昇しました。7月の時間当たり賃金上昇率は前月比8セント増加で、前年同月比では3.2%増となりました。部門別では専門・ビジネスサービス業が31,000人の増加、ヘルスケア業が30,000人の増加 金融関連業18,000人の増加、製造業も16,000人の増加となりました。
 
3.トランプ大統領の時代遅れの経済政策が招く株式市場の混乱
トランプ大統領は20171月に大統領に就任して以来、自国第一主義による米国の貿易赤字の縮小を目指す一方、国内面ではインフラ投資や軍事力増強のための財政支出の拡大、企業や富裕層への大幅減税とオバマケアなどの政府管掌による福祉歳費の削減などを実行してきました。これらの政策は当初は米国企業への税優遇や景気刺激策として評価され、株式市場における株価上昇に貢献しました。しかしながら、時間の経過と共に、トランプ大統領の政策の多くが新たな問題を抱えるようになり、株式市場にも不安定な動きとなって表れるようになりました。
 
最初に自国第一主義による米国の貿易赤字の縮小については、カナダやメキシコとのNAFTAの見直しは米国に優位性があることから、相手国からの譲歩を引き出すことに成功しました。しかし、米国の最大貿易赤字国である中国とは2017年末以降長期に渡る交渉を続けているものの、状況は改善するどころか、悪化の道をたどっています。トランプ大統領の最大の誤算は関税引き上げによる中国製品の値上げが米国市場での中国製品の需要減となって、中国側は米国の要求を受け入れざるを得ないと判断したことにあります。
 
しかし、米国側の要求は単に米中間の貿易不均衡是正ではなく、中国企業が国際市場で競争力のある製品を作り出せる中国政府による優遇措置の改革を求めており、現在の共産党政権の存立基盤を脅かす領域に入ろうとしています。例えば、自動車などの基幹産業について中国資本が51%の持ち分を条件となる外資導入政策は、先端技術が遅れている中国企業にとっては外国の高度な技術移転を可能にさせる点で必要な政策でした。これに対して、トランプ政権は中国企業による外国企業への知的財産権の強制移転を禁止させる要求しており、中国政府にとって受け入れが困難となります。また、米国などの市場競争主義国にとっては、高度な技術製品の開発に対する政府の補助金供与は制限的ですが、世界をリードする産業を国策で支援する中国共産党政権の立場からは当然とこととなり、受け入れられるものではありません。更に、中国側は米国政府からの関税引き上げに対して、中央銀行が人民元の価値を下げることで対応することも可能であり、米国政府による政策措置の限界が明らかになっています。株式市場では米中の間で強硬姿勢が伝わると株価が大きく下げる傾向にあり、トランプ大統領が当初発表した対中貿易赤字の短期的解消とは程遠い状況になっています。
 
本来、市場経済主義でない大国の貿易政策に二国間の関税措置で対応するには、相手国からの対抗関税を引き起こし、やがて自国にも跳ね返ってくるなどエスカレートが繰り返されるという問題があります。そうした関税措置による二国間対応の限界を克服するには、オバマ前大統領のように、TPPのような多国間貿易協定をベースに問題国に対する封じ込め政策で改革を求めていくべきでした。トランプ大統領や担当閣僚は二国間交渉で強く臨めば早期に目標が達成できるとの判断の下に、行動してしましました。トランプ大統領の知識と経験のなさがここでも大きな間違いをする結果になってしまっています。
 
また、814日の米国市場は、トランプ大統領主導の米国第一主義による主要国との貿易摩擦に基づく世界経済の不透明感から、米国債市場で10年物国債が一時1.57%になり、2年物国債の1.63%を下回る逆イールド現象を起こし、800ドルを超える暴落となりました。これに対し、トランプ大統領はこうした債権市場の異常な現象は連銀の金利引き下げが遅れたことが原因であるとして、1%以上の短期金利の引き下げを繰り返し要求しています。しかし、中央銀行の役割は金融市場の安定性を追求していくものであり、トランプ大統領のように、自らが引き起こした米中貿易摩擦による株式市場の落ち込みを中銀の金利引き下げにより株価の引き上げを目論むことは株式市場への政府介入の度合いを強め、市場原則への混乱と歪みを引き起こすだけの結果になりかねません。
 
更に、820日にはトランプ大統領は、景気を下支えするために給与税の一時的な引き下げを検討していることを明らかにしました。しかしながら、米国の財政赤字は2017年末にトランプ減税と呼ばれる10年で1.5兆ドルの巨額減税を実施し、財政赤字が急速に膨らんでいる中で更なる減税には与党の共和党議員からも反対は強く、実現の見通しは不透明です。
 
トランプ大統領の経済政策の最大の問題点は、選挙公約時から株価上昇だけが目的化してしまい、米国経済の健全な運営が何であるかに焦点が当てられていないことにあります。特に、株価がかなりの高水準にある時に、更なる株価引き上げ策を講じれば株価のバブル化が一層強まり、やがて暴落していくことのリスクに十分な注意を払っていないことにあります。
 
4.トランプ大統領がもたらすG7首脳会議存続への疑問
フランスのピアリッツで開催されていた先進7か国による主要国首脳会議(G7)は3日間の日程を終え閉幕しました。主催国であったフランスのマクロン大統領は通常の詳細な首脳宣言の代わりに、1ページの成果文書を発表、貿易やイランなどの問題に言及しました。まず、貿易に関しては、公正で開かれた世界貿易を支持するとした上で、不公正貿易のより迅速な是正と世界貿易機関(WTO)の改革を求めました。また、イラン問題については、イランが核兵器を保有すべきでなく、中東地域の安定を支援しなければならないとしました。
 
しかし、1975年にフランスのランベイユで始まった主要7か国首脳会議は常に保護主義への反対と自由貿易の推進を確認してきましたが、2017年に米国でトランプ氏が大統領になって以降、首脳会議の風景は一変することになりました。以前は自由貿易の旗振り役であった米国の大統領がその役割を放棄し、保護主義に基づく政策を取り始めたからです。また、世界の各地で様々な悪影響が出始めている地球温暖化の対策をめぐっても、2016年のパリ協定を巡って欧州と米国の対立が激化しています。加えて、今回からは欧州で自国第一主義を唱える英国のジョンソン首相が登場し、欧州内でも自由貿易主義の理念が揺らぎ始めています。
 
来年のG7の会合は米国で予定されていますが、米国のトランプ大統領が今後とも米国の国益優先の政策に拘り、英国がジョンソン首相の下で、EUからの合意なき離脱となった場合、世界経済の混乱と低迷は一層深刻になることが予想されるだけに、今後はG7首脳会議の存立意義が問われかねない状態になっていると思われます。
           (201991日:村方 清)
 

Thursday, August 1, 2019

連銀の金融緩和の動きに影響された米国市場














1.7月の株式市場
7月の株式市場は米中貿易協議進展やと連銀の利下げへの期待から上昇傾向を強めましたが、月末の連銀の利下げが小幅なものに留まったために、株価は大きく下げて終わりました。主要な動きは以下の通りでした。

71日:629日の米中首脳会議で、閣僚級の貿易協議の再開を決めたこともあり、貿易摩擦の警戒感が後退し、ダウ平均は117ドル高(0.44%増加)。
72日:世界の主要主要中央銀行が金融緩和に前向きな姿勢を示しているところから、株式市場への資金流入が続くとの期待で、69ドル高(0.26%増加)
73日:米中貿易協議の進展と中央銀行の金融緩和姿勢が投資家の株投資選好が強まり、179ドル高(0.67%増加)。
75日:6月の米雇用統計で雇用者増加数が224,000人増で、市場予想の160,000人増を大きく上回り(失業率は3.7%で前月より0.1%増加)、連銀が利下げするとの観測が弱まり、44ドル安(0.16%減少)。
78日:FRBによる早期の利下げ期待の後退が相場の重荷になったこと、アップルやボーイングも売り材料が広がり、116ドル安(0.43%減少)。
79日:FRBのパウエル議長の議会証言を控えて様子見ムードが強く、方向感に乏しく、23ドル安(0.08%減少)。
710日:パウエル連銀議長の議会証言で7月末に利下げに動くとの期待が高まり、77ドル高(0.29%増加)。
711日:パウエル連銀議長が前日に続き、11日も議会証言で早期の利下げを示唆したことから、7月の利下げ観測が強まり、228ドル高(0.85%増加)
712日:連日の連銀議長の議会証言で、早期の利下げを示唆する発言をして以降、株式市場に資金が流れやすい環境が続き、244ドル高(0.90%増加)。
715日:早期の利下げ観測が相場を支えたものの、今週からの米主要企業の決算発表を見極めたいとの判断から上値追いは限られ、27ドル高(0.10%増加)。
716日:JPモルガンなど金融大手の四半期業績は市場予想を上回ったものの、投資家の反応は鈍く、貿易摩擦の懸念から、23ドル安(0.09%減少)
717日:トランプ大統領が米中貿易交渉について長期化の見通しを述べたことで、キャタピラーなど中国売上比率の高い銘柄が売られ、116ドル安(0.42%減少)。
718日:717日の決算発表で契約者数が伸び悩んだネットフレックスが急落、売りが先行したものの、NY連銀総裁が早期利下げを示唆したため、2ドル高(0.01%増加)
719日:ボーイングなどが好決算で買いが先行したが、今月末のFRBによる金利引き下げが小幅との報道から、売りが優勢となり、69ドル安(0.25%減少)
722日:四半期業績が好調であったアップルや半導体関連株が上昇したものの、ホルムズ海峡でのイランと米英との緊張が高まっており、上値は重く、18ドル高(0.07%増加)。
723日:米中両政府が来週に貿易協議を再開するとも報道やコカコーラなどの主要企業の4半期業績が好調であったことなどから、177ドル高(0.65%増加)
724日:四半期決算が低調であったキャタピラーやボーイングが大幅安となり、79ドル安(0.29%減少)。
725日:米国の耐久財受注額が市場予想を上回るなど経済指標の改善から、FRBによる金融緩和への期待が少し弱まり、129ドル安(0.47%減少)。
726日:米政府発表の第2四半期GDP2.1%で市場予測の1.8%を上回ったことで、米景気減速の過度な警戒感が和らぎ、51ドル高(0.19%増加)
729日:FOMC会合の結果発表を31日に控え、様子見ムードが強く、投資家の慎重姿勢から、29ドル高(0.11%増加)。
730日:米中貿易協議の先行き不透明感の高まりから、投資家心理が重くなり、23ドル安(0.09%減少)。
731日:FOMC10年半ぶりの利下げを決定したが、パウエル議長が記者会見で利下げ継続を否定したとの見方が広がり、幅広い銘柄に売りが広がり、334ドル安(1.23%減少)。

 2.米国の雇用状
2.米国の雇用状況
米労働省が75日に発表した6月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比224,000人の増加で、市場予想の160,000人増を大きく下回りました。4月の雇用者数の確定値は216,000人で8,000人の減少、5月の改定値は72,000人で3,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約167,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、3月の失業率は3.7%で、前月より0.1%上昇しました。労働参加率も62.9 %で、前月より0.1%上昇しました。6月の時間当たり賃金上昇率は前月比6セント増加で、前年同月比で3.1%増となりました。部門別では専門・ビジネスサービス業が51,000人の増加、ヘルスケア業が35,000人の増加 建設業が21,000人の増加、製造業も17,000人の増加となりました。
3.利下げを決定したFOMC会合
FRB31日のFOMC会合で、政策金利を0.25%引き下げ、フェデラルファンド(FF)の誘導金利を
2.252.50%から年2.002.25%に引き下げること決定しました。米経済が10年以上の拡大局面を続け、失業率も3%台後半の水準まで下がる中で、パルエル議長は今回の利下げを景気循環の途中の調整と述べ、緩和局面が短期で終わる考えを示唆しました。同時に、FOMCは量的引き締め策も予定を2か月間早めて、7月末で終わることも決定しました。

今回の決定の背景には米中の貿易摩擦問題が長期化する中で、株価の持続的な上昇を示すことで再選を果たしたいとするトランプ大統領の強い要請に応えることを意識しているように思われます。しかし、その反面、経済が好調な時に利下げを急ぎすぎれば、経済た停滞に陥った時に政策の幅が限定されることになり、より深刻な状況になってしまう恐れも出てきます。株式市場の動向に過度にセンスティブな大統領の要請に、本来独立性が要求される連銀がどのような対応していくのか今後の動きが注目されます。

今回の利下げについて、市場の反応はパウエル議長が、記者会見で、利下げはサイクル途中の政策の調整であって、長期の利下げ局面の始まりではないと発言したことから、株式市場への資金流入が続くと期待が大きく後退し、ダウは334ドル安(1.23%減少)となりました。

 
4.英国新首相のジョンソン前外相を待ち受ける合意なき離脱のリスク
英国与党の保守党は723日の党首選挙で、メイ首相の後任にジョンソン前外相を選びました。約16万人の保守党党員による決戦投票で、強硬離脱派のジョンソン氏が9万票以上を獲得し、穏健離脱派のハント外相に2倍近い差をつけて当選しました。ジョンソン氏としては1031日までの離脱期限までに、メイ首相がEUとの間でまとめた離脱協定案を再度交渉する必要がありますが、EU側は協定案の再交渉を拒否する姿勢を貫いています。EUとして、離脱延期を検討する動きもありますが、そのためには英国側に総選挙や再国民投票などの明確な理由が必要になるとされています。

ジョンソン氏としては離脱前の総選挙や再国民投票に強く反対、EUとの協定案の再交渉ができないのであれば、合意なしでEUを離脱するしかないとしています。ジョンソン氏は25日の組閣においても、最重要ポストになる外相と内相に強硬離脱派を起用、合意なしの離脱に備える体制を整えています。

こうした合意なき離脱のリスクに対して、英国産業界は十分な準備をしていない状況です。現時点ではドーバー港の通関や関税手続きや自動車産業におけるサプライチェーンの断絶性などに十分な対応が取られているとは言えず、離脱強硬派のジョンソン氏が選ばれたことにより、英国の経済が大きな混乱に陥るリスクが高まっているように見られます。

 
5.財政規律を歪める米歳出・債務引き上げの与野党合意
トランプ大統領は722日に今後2年間の連邦政府の歳出と債務引き上げについて、与野党が大筋の合意に達成したことを発表しました。報道によれば、2011年に成立した予算管理法の2年毎の見直しの中で、2020会計年度と2021会計年度の歳出上限を3200億ドルに引き上げるものです。合意案では裁量的経費のうち、国防費と非国防費を同額ずつ引き上げ、共和党と民主党の要求を同時に受け入れる妥協案となる見込みです。同時に、債務上限を20217月まで一時停止することについても合意しました。

今回の与野党合意は、2017年末に成立した大型減税の効果が薄れ、貿易摩擦による景気減速の懸念の中で、財政支出による景気刺激を図ろうとするトランプ大統領の意向に沿うものですが、2020年の財政赤字は1兆ドルを超える見通しで、米国の財政赤字が今後一層深刻になっていくことが予想されます。
                       (201981日: 村方 清)

 

 

Monday, July 1, 2019

金融緩和と米中貿易協議進展の報道に過剰反応した市場












1.6月の株式市場
6月の株式市場は、連銀の金融緩和策と米中貿易協議の進展への過剰期待により月間上昇率が7%を超える大幅な上昇となりました。主要な動きは以下の通りでした。

63日:前週までの下げ基調から短期的な戻りを見込んだ買いが入りやすく、景気変動の影響を受けにくいコカ・コーラや医薬品株が幅広く買われ、ダウ平均は5ドル高(0.02%増加)。
64日:FRBのパウエル議長が景気拡大を持続させるために適切な行動を取ると発言、利下げ期待が高まり、米中貿易摩擦への懸念も和らぎ、512ドル高(2.06%増加)。
65日:ADP5月雇用レポートで、非農業部門雇用者数が27千人に留まったことから、FRBの利下げ観測が高まり、幅広い銘柄が買われ、207ドル高(0.82%増加)。
66日:連銀による利下げ観測を背景にこの日も買いが続き、181ドル高(0.71%増加)。
67日:5月の米雇用統計で雇用者増加数が75,000人増で、市場予想の180,000人増を大きく下回り(失業率は3.6%で前月と同水準)、連銀が早期に利下げするとの観測が一段と強まり、263ドル高(1.02%増加)。
610日:トランプ大統領がメキシコからの全輸入品への関税発動を無制限に見送ったことで、投資家の不安が和らぎ、79ドル高(0.30%増加)。
611日:前日までの6日間の続伸で1247ドル上昇しており、目先の利益確定の売りが優勢で、14ドル安(0.05%減少)
612日:半導体関連株に売りが出た他、米利下げ観測などで金融株にも売りが出て、44ドル安(0.17%減少)。
613日:原油先物市場の上昇で、石油株が買われたことや早期の米利下げ観測を背景に買いが優勢で、102ドル高(0.39%増加)
614日:中国経済指標の悪化を受けて中国需要の回復に対する期待が後退、ダウやアップルなど中国依存の高い銘柄を中心に売りが優勢で、17ドル安(0.7%減少)
617日:1819日に開かれるFOMC会合を控え、早期の利下げ期待が相場を支え、23ドル高(0.09%増加)。
618日:欧米の金融緩和への期待と米中首脳会談が来週開催されるとの見通しから、投資家のリスク選好姿勢が強まり、353ドル高(1.35%増加)
619日:1819日に開催されたFOMCで、声明文に「不確実性が増しており、成長持続に必要な措置を取ると明記され、想定通りの内容だったことから、38ドル高(0.15%増加)。
620日:昨日のFOMC会合を受けて、早期の米利下げ観測が強まったことや米中貿易協議の進展への期待から、249ドル高(0.94%増加)
621日:米商務省が制裁対象に新たに外国の政府系スーパーコンピューター大手企業を加えたことから、これらの企業と取引のある米企業の株が売られ、34ドル安(0.13%減少)
624日:米中が貿易協議のために事務レベルで再開したとの報道で協議進展への期待が高まり、8ドル高(0.03%増加)。
625日:FRBのパウエル議長が利下げの必要性について慎重であったことや米国の消費者信頼度指数が前月比9.8低下の121.5まで低下したことなどで、179ドル安(0.67%減少)。
626日:米中貿易問題について29日の米中首脳会議に期待する向きもあるが、上昇が目立つ銘柄の利益確定売りもあり、11ドル安(0.04%減少)。
627日:米中首脳会談を週末に控え、様子見ムードが強く、方向感が定まらなかったものの、新たな不具合が生じたボーイングが大幅に下げ、10ドル安(0.04%減少)。
628日:29日の米中首脳会談での貿易協議の進展への期待と米大手金融機関の資本計画についてFRBが承認したのを受けて一部に自社株買いや増配があり、株価が上昇、73ドル高(0.28%増加)。今月上昇幅は1784ドルで、約7%の上昇と過去最大。

 
2.米国の雇用状況
米労働省が67日に発表した5月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比75,000人の増加で、市場予想の180,000人増を大きく下回りました。3月の雇用者数の確定値は153,000人で36,000人の減少、4月の改定値は224,000人で39,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約151,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、3月の失業率は3.6%で、前月と同水準でした。労働参加率も62.8 %で、前月と同水準でした。5月の時間当たり賃金上昇率は前月比6セント増加で、前年同月比で3.1%増となりました。部門別では専門・ビジネスサービス業が33,000人の増加、ヘルスケア業が16,000人の増加 建設業は4,000人の増加に留まりました。

 
3.金利据え置きを決定したFOMC会合
FOMC会合が61819日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回5月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は強さを保っており、経済活動は緩やかに拡大した。雇用増はここ数か月平均すると堅調で、失業率も低下した。家計支出は今年初め以降持ち直したようだが、企業の設備投資に関する指標は弱い。全般的なインフレ率と、食品・エネルギーを除くインフレ率は2%を下回っている。アンケートによる調査では長期のインフレ予想を示す指標は総じてあまり変わっていない。

法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。

この目標を支えるため、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを2.252.5%に据え置くことを決定した。FOMCは引き続き、持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、目標の2%前後付近のインフレ率がもたされるだろうと見ている。しかし、景気見通しへの不確実性は増している。こうした不確実性及びインフレ圧力が抑制されている点を考慮し、FOMCは景気見通しに関する情報が意味するものを注視し、力強い労働市場と2%前後のインフレ率の目標に向け成長維持のために適切に行動する。
FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む9人のメンバー全員の賛成による。
なお、今回のFOMC会合では、その声明文で、「不確実性が増しており、成長維持に適切な行動を取る」ことが明記されたことから、市場のほぼ想定通りの内容になったと言えます。これに加えて、米中貿易協議の進展への期待もあり、19日の38ドル高に続き、20日も353ドル高という大幅な上昇となりました。

 
4.トランプ大統領の再選出馬と再選リスク
トランプ大統領は618日にフロリダ州のオーランドで再選出馬表明を行いました。米国を偉大な国に取り戻すとのスローガンをベースに米国第一主義を掲げ、オバマ前大統領が進めたTPPからのも撤退、更にカナダやメキシコとのNAFTAの全面的な改定を要求、更に米国の貿易赤字の約50%をを占める中国に対しては大規模な関税を課すことによって、大幅な貿易赤字の解消と米国製造業の復活を図ろうとしています。しかし、これらの政策の多くは米国の製造業を含めて、生産コストの低下や流通の効率性による世界的なサプライチェーンのネットワーク化に逆行するものであり、賛同を得られるものではありません。更に、関税措置は相手国からの報復関税を招き、それが米国の農産業やひいては米国の消費者に大きな負担となることへの理解も十分ではありません。

628日と29日に開催されたG20サミットで注目されていた米中の貿易協議は、510日に決裂した閣僚会議の再開で合意したものの、米国は関税第4弾を先送りし、ファーウェイの一部制裁解除に応じるなど米国側の譲歩が目立ちました。これはトランプ大統領が来年秋の大統領選挙を控え、対立が強まれば再選戦略に悪影響が出ると判断したためと見られ、トランプ政権の焦りを示す結果となりました。

また、中東政策についても、キリスト教福音派の票を当てにした露骨な親イスラエル政策によってイランが欧米主要国と合意した非核化の取り決めを一方的に破棄、加えて厳しい経済制裁を課すなどあまりに身勝手な行動が多すぎます。イランとの緊張関係の拡大はトランプ大統領自らが作り出したものにも拘わらず、それを相手が守っていないとの主張によって、自分自身で軍事的衝突のリスクを高めているように思います。

次に、国内の経済政策についても、トランプ大統領は再選には株価の更なる上昇が必要として、連銀に対して金利引き下げを強く要求しています。しかし、この点についても、実体経済と乖離した中銀の過度な金融緩和が引き起こす資産バブルのリスクを十分に認識していないように思えます。
こうしたトランプ大統領の政策が本当に米国の利益を優先させているためのものかについても、幾つかの疑問が残ります。昨年12月の大幅減税についても、その恩恵は大企業と超富裕層であり、中間所得層以下の米国民の多くには行き渡っていません。また、トランプ大統領が自らのグループが保有するワシントンのホテルの運営が利益相反に陥っていることもよく知られています。

利益相反の行動に加えて、トランプ大統領による米国民主主義の大原則である三権分立を無視した独裁制的な行動も許されるべきものではありません。本来、議会軽視に対しては、与党の共和党が毅然たる態度を貫くべきですが、保守派の幹部も含めて、トランプ大統領に公然と意義を唱える共和党議員が殆ど出てこないという異常な事態が続いています。

その一方、野党である民主党の大統領候補は20名以上が立候補するなど乱立が目立っています。しかし、現時点の世論調査では、バイデン元副大統領、サンダース上院議員、エリザベス上院議員、ハリス上院議員などの支持率はいずれもトランプ候補を上回っており、トランプ大統領の再選は必ずしも容易であるとは言えない状況にあります。
            (201971日: 村方 清)