Sunday, March 1, 2020

新型肺炎の感染拡大がもたらした米国市場の大幅調整











1.2月の株式市場
1月末から始まった新型肺炎の感染拡大の影響が2月の第4週目に大きく広がり、週間の下落幅は約12%で、2008年の金融危機以来の規模となりました。主要な動きは以下の通りでした。

2月3日:新型肺炎の感染拡大の懸念から前週末に大きく下げた反動で、自律反発狙いの買いが入ったが、肺炎拡大への警戒感も強く、144ドル高(0.51%増加)。
2月4日:中国政府による積極的な経済対策への期待から、新型肺炎の感染拡大による実体経済への懸念が和らぎ、408ドル高(1.44%増加)
2月5日:新型肺炎の治療薬の発見に関する報道や中国政府の景気試案策への期待が続き、感染拡大への懸念が和らぎ、483ドル高(1.68%増加)。
2月6日:中国政府が6日、米国からの一部輸入品の関税引き下げを発表し、米中貿易交渉の進展を期待した買いが入り、89ドル高(0.30%増加)。
2月7日:2月の米雇用統計は雇用者増加数が225,000人増で、市場予想の160,000人増を大きく上回り(失業率は3.6%で前月より0.2%増加)、過去3か月分の雇用者数が200,000人を超えたが,高値警戒感からの売りの勢いが強かったことや新型肺炎感染拡大の懸念の大きさから、277ドル安(0.99%減少)。
2月8日:前週に出た米国経済指標が好調であったことや決算発表を終えた米主要企業の業績が堅調であったことなどから、買いが優勢で174ドル高(0.60%増加)。
2月11日:新型肺炎の感染拡大の勢いが弱まりつつあるとの見方から買いが先行したが、パウエル連銀議長の議会証言で金融緩和を示唆する発言がなく、利益確定売りが優勢となって、0高。
2月12日:新型肺炎拡大の勢いが落ち着きつつあるとの見方から投資家がリスク選好姿勢を強め、幅広い銘柄が買われ、275ドル高(0.94%増加)。
2月13日:新型肺炎の認定基準の変更で、中国の感染者数が急増、問題収束に時間がかかるとの懸念からリスク回避姿勢が強まり、128ドル安(0.43%減少)。
2月14日:中国での感染者数の増加が続き、景気への悪影響を懸念した売りが優勢となり、25ドル安(0.09%減少)。
2月18日:新型肺炎の影響で、1-3月期の売上高目標を達成できないと発表したアップルが下落、半導体関連株や中国関連株が大きく売られ、166ドル安(-0.56%減少)。
2月19日:中国政府の積極的な景気支援策で新型肺炎の経済的な悪影響が和らぐとの見方が広がり、116ドル高(0.40%増加)。
2月20日:新型肺炎の拡大に終息の兆しが見られず、中国を中心に景気や企業業績の下押し要因になるとの懸念から、株式の売りが優勢で、128ドル安(0.44%減少)。
2月21日:新型肺炎の感染が中国以外に広がっていることへの懸念や、21日に発表の2月の米企業の景況感も大幅に悪化したことで、多くの株式銘柄が売られ、228ドル安(0.78%減少)。
2月24日:新型肺炎の感染拡大の懸念が急激に拡大し、アジアや欧州が大幅安となった影響を受け、米国株も運用リスクを回避する売りが加速し、幅広い銘柄が売られ 1,032ドル安(3.56%減少)。下げ幅は過去3番目。
2月25日:新型肺炎の感染が米国など世界各地に拡散するリスクが意識され、運用資金が安全資産である米国債に向かい、879ドル安(3.15%減少)。ダウ2日間の下げ幅は1,911ドルとなり、2018年2月に記録した1,840ドルを超え、過去最大。
2月26日:午前中は一時461ドル高になる場面もあったが、ブラジルや米国で感染が拡大し、感染が収束に向かう時期は予測不可能との見方から、124ドル安(0.46%減少)。
2月27日:新型肺炎の急激な感染拡大の懸念から、米企業の業績予想の相次ぐ未達状況や安全資産とされる米国債が買われ、長期金利が過去最低を更新、1191ドル安(4.42%減少)。下げ幅は過去最高。
2月28日:新型肺炎の感染拡大で世界経済が停滞するとの懸念が一段と強まり、一時1085ドル安まで下げたが、パウエル連銀議長が早期利下げの可能性を示唆したところから下げ幅を縮め、357ドル安(1.39%減少)。1週間での下落率は約12%で、2008年の金融危機以降で最大。

 
2.米国の雇用状況
米労働省が2月7日に発表した1月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比225,000人の増加で、市場予想の160,000人増を上回りました。11月の雇用者数の確定値は261,000人で5,000人の増加、12月の改定値は147,000人で2,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約210,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を再び上回りました。なお、12月の失業率は3.6%で、前月と比べて0.1%上昇しました。労働参加率は63.4 %で、前月より0.2%増加しました。12月の時間当たり賃金上昇率は前月比で7セント上昇し、前年同月比では3.1%増となりました。部門別では建設業が44,000人の増加、ヘルスケアが36,000人の増加、レジャー・観光業が36,000人の増加、運輸・倉庫業が36,000人の増加となりました。一方、製造業は12,000人の減少となりました。

 
3.新型肺炎感染拡大が引き起こす株価の大幅調整
1月末に中国で発生した新型肺炎の感染拡大の影響は、中国本土だけでなく、日本や韓国、イラン、そして欧州のイランまで広がりを見せています。米国でも25日に疾病センターが新型肺炎が、米国でも広がる可能性を示唆したことから、前日のダウの1,032ドルの大幅下落に続き、879ドル安となりました。2日間の下げ幅は1,911ドルで、2018年2月に起きた1,840ドルを超え、史上最大となりました。

米国で株価の大幅下落調整が起きた原因としては、大きく3つの要因が考えられます。第1の要因は中国が現在、自動車や電子・電機製品など主要産業のの部品供給の上で、グローバルなサプライチェーンの中心的な役割を担っており、中国で約80,000人の感染者が出たことにより、当面、その役割が担えなくなったことです。特に感染者の増加が続き、多くの中国の工場で生産再開が遅れれば、中国からの部品が届かず、完成品の生産にも深刻な影響を与えることが予想されます。第2の要因は新型肺炎の感染拡大の影響が強まると、中国国民の消費需要が低迷し、中国市場で売上高の大きな米国企業にとっては売り上げの不振と業績の悪化が懸念されることになります。第3に、現在の異常に高い株価水準は連銀による長期の金融緩和策に加え、トランプ政権による株価引き上げ目的の大型減税など人為的な政策によって達成されています。それは、株価引き上げが政権維持の手段として使われ、実体経済との乖離が大きくなっていることを意味しています。以前であれば、実体経済を反映した適正株価収益率などを通じて、行き過ぎた株高には調整作用が働きましたが、現在は大規模な金融緩和策が続く中で、過剰な資金が株式市場に流入、歯止めのない株高水準が続いていることになります。今回の新型肺炎の患者数の急増はこうした人為的な株価誘導策に引き上げられた株価の高水準を調整に向かわせる可能性があります。

 
4.民主党の大統領候補指名争い
民主党は問題が多すぎる共和党のトランプ大統領の再選を阻止すべく、多くの候補者が名乗りを上げ、激しい指名争いを続けています。これまでのところ、アイオア州、ニューハンプシャー州、ネバダ州で、多くの党員の支持を獲得したサンダーズ候補がトップを走っています。特に、彼が主張する国民皆保険、公立大学の無償化などは、若者を中心に支持を集める要因となっています。

しかしながら、サンダーズ候補の主張には、国民皆保険や公立大学の無償化には巨額の財源が必要ですが、彼をそれを未だに示していません。彼がモデルとする北欧の社会民主主義には富裕層や大企業だけでなく、国民の大多数が高負担・高福祉の政策を支持している背景があるにもかかわらず、それを明示することなく、理念だけで米国民に訴えている状況です。この点、サンダーズ候補が指名されるかどうかは今後の展開次第であり、時期尚早と言えます。また、仮にサンダーズ候補が指名を受けても、財源の裏付けのない提案をし続ける限り、与党候補のトランプ大統領や共和党から直接大きな批判を受けることになり、民主党が大統領に返り咲く可能性は高くないように思われます。
         (2020年3月1日:  村方 清)

Saturday, February 1, 2020

新型肺炎感染拡大などで調整傾向を強めた市場












1.1月の株式市場
1月の株式市場は上旬が中東情勢の悪化に伴ない売りが強まりましたが、中旬に米中貿易協議の第一段階合意で買いが優勢となり、下旬には中国での新型肺炎感染拡大の影響で再び大きな下落傾向となりました。主要な動きは以下の通りでした。

1月2日:中国が1日に金融緩和策を発表し、景気が持ち直し、世界景気の回復を促すとの見方が広がり、330ドル高(1.16%増加)。
1月3日:米軍がイラクでイランの革命防衛隊の司令官を殺害し、中東情勢が悪化するとの警戒感から幅広い銘柄に売りが広がり、234ドル安(0.81%減少)。
1月6日:米国とイランの対立激化の懸念か一時下げ幅が200ドルを超えたが、その後原油先物相場が一時的に下げに転じ、投資家のリスク回避姿勢が和らぎ、69ドル高(0.24%増加)。
1月7日:トランプ大統領の指示によるイラン革命防衛隊司令官の殺害に対し、イランが米国に報復する考えを示し、米国も対抗する構えで、中東リスクが拡大’、120ドル安(0.42%減少)。
1月8日:イランがイラク国内の米軍基地を攻撃したが、トランプ大統領がそれに対抗するための武力行使を否定する演説をし、投資家の間で安心感が広がり、161ドル高(0.56%増加)。
1月9日:中東情勢をめぐる懸念の後退や、米中の貿易協議の進展期待から、最高値を更新し、212ドル高(0.74%増加)。
1月10日:前日に過去最高値を付けたこともあり、目先の利益を確保する売りに押され、更にボーイングなども運転停止中の小型機の承認が遅れるなどで下落、133ドル安(0.46%減少)。
1月13日:米中貿易協議の第一段階の合意文書の署名が15日に迫り、米中関係の修復が進むとの見方が広がり、83ドル高(0.29%増加)。
1月14日:JPモルガンなどの米銀大手が発表した4半期決算の好調さから買いが優勢であったが、米政府は対中追加関税を今週の大統領選挙まで維持するとの報道が伝えられると、上げ幅が減少、33ドル高(0.11%増加)。
1月15日:米中政府が貿易協議の第一段階の合意文書に署名、これが米国景気と企業業績の追い風になるとの見方から、買いが優勢で、91ドル高(0.31%増加)。
1月16日:年末商戦が前年同期比4.1%増と好調であったこと、四半期業績好調のモルガンスタンレーなど金融株が買われたこと、NAFTAに代わるUSMCAが上院で承認されたことなどを受けて、買いが優勢で、267ドル高(0.92%増加)。
1月17日:米中貿易問題を巡る関係改善や景気回復への期待から、買いが優勢で50ドル高(0.17%増加)。
1月21日:中国の新型肺炎の感染拡大の懸念に加え、主力小型機の運転再開が遅れる可能性のあるボーイングが大きく下げ、152ドル安(0.52%減少)。
1月22日:主力小型機の運転再開に不透明感が強まったボーイングが大きく下落、ダウ平均の重荷となり、10ドル安(0.03%減少)。
1月23日:中国での新型肺炎の感染拡大が投資家心理の重荷となり、大幅下落したものの、世界保健機関が緊急事態宣言を見送るとしたことで、下げ幅が縮小し、26ドル安(0.09%減少)。
1月24日:中国での新型肺炎に関連し、米疾病対策センターが米国で2人目の感染者を発表、米国内の感染拡大を警戒した売りが優勢で、170ドル安(0.58%減少)。
1月27日:中国の新型肺炎感染拡大が嫌気され、世界景気の重荷との見方で投資家のリスク回避姿勢から、一時550ドル近く下がり、終値は454ドル安(1.57%下落)。昨年10月2日来の大きさ。
1月28日:前日に大きく下げた反動で、自律反発組の買いが入ったことや新型肺炎について、米中政府が感染拡大を抑える対策を打ち出したことで、187ドル高(0.66%増加)。
1月29日:FOMCが金利据え置きを決めたものの、パウエル議長の記者会見で世界景気に慎重な発言が相次ぎ、米長期金利が一段と低下し、金融株が下落、終値は12ドル高(0.04%増加)。
1月30日:新型肺炎の感染拡大の警戒感から売りが先行したが、一巡後はマイクロソフトなど業績期待の高い銘柄に買いが入り、上昇に転じて、125ドル高(0.43%増加)。
1月31日:新型肺炎の感染拡大で世界景気の先行き不透明感が強まり、投資家が運用リスク回避姿勢を深め、景気動向に影響されやすい資本財や資源株の幅広い銘柄に売りが強まり、603ドル安(2.09%減少)。下げ幅は昨年8月23日以来半年ぶりの大きさ。

 
2.米国の雇用状況
米労働省が1月10日に発表した12月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比145,000人の増加で、市場予想の165,000人増を下回りました。10月の雇用者数の確定値は156,000人で4,000人の増加、11月の改定値は266,000人で10,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約184,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を再び下回りました。なお、12月の失業率は3.5%で、前月と変わりませんでした。労働参加率は63.2 %で、前月と同じ水準でした。12月の時間当たり賃金上昇率は前月比で3セント上昇し、前年同月比では2.9%増となりました。部門別では小売業が41,000人の増加、ヘルスケアが28,000人の増加、レジャー・観光業が40,000人の増加となりました。その一方、製造業は12,000人の減少となりました。

 
3.米中貿易第1段階合意の矛盾
1月15日に米中政府は貿易協議の第1段階の合意文書に署名しました。今回の合意文書では、米農産品の輸入拡大に加え、知的財産権の保護や中国による米国のIT技術移転の強要禁止などの7項目が盛り込まれています。その中で、トランプ政権は今回の合意により今後2年の間に、2017年に中国が輸入した米国の製品やサービスの金額が少なくとも2000億ドル上回ることを中国政府に義務づけたとその成果を強調しています。しかしながら、今回の合意文書にある大きな矛盾は1月22日付のFinancial Times紙の記事に指摘されているように、中国の市場開放を求めながら、合意事項に規定された内容は中国政府に管理貿易を強要するという矛盾する内容になっていることです。この背景には、トランプ大統領が今年秋の大統領選挙を控え、中国からの輸入拡大という数字的な目標を貿易協議の中心的成果として強調することになってしまったように思います。中国の共産党政府にとっては、彼らにとって不可欠な政府の産業補助金やハイテク産業育成策(中国製造2025)の問題がカバーされていないことに安堵感があったはずです。1年以上の交渉期間を続けながらも、これだけの成果しか示せないトランプ政権には、他の政策と同じように、表面的な成果だけが追及され、本質的な内容には踏み込めないという根本的な欠陥があるように思われます。

 
4.トランプ大統領弾劾裁判とその行方
トランプ大統領のウクライナ疑惑に関して、米国上院での弾劾裁判の審理が1月21日午後から始まりました。米国の歴史の中で、大統領への弾劾裁判はこれが3人目となります。22日からは4日間に渡り、検察官役の下院代表委員とホワイトハウスの弁護団がそれぞれ、冒頭陳述を行いました。

今回の契機となったのは、トランプ大統領が今年の大統領選挙を自らが有利にするために、ウクライナ政府に対し、2019年4月以降、政敵バイデン前副大統領親子の捜査と「2016年米大統領選挙に当時のウクライナ政府が介入したとの陰謀論の捜査の開始を公言するように要求、同時にウクライナ政府が求めていたホワイトハウスでの首脳会談や軍事援助を凍結し、圧力をかけたとされるものです。民主党が多数派の下院では、12月18日に、「権力乱用」と「議会妨害」の2つの訴追条項でトランプ大統領を訴追していました。野党の民主党が、ボルトン前大統領補佐官などを新たな証人に呼ぶように求めましたが、与党の共和党は速やかに終結させることを目指し、1月31日の上院会議では証人が不要との与党共和党案が2名の反対意見が出たものの、承認され、終結の方向で進むことになりました。但し、米国民の約75%が新たな証人を求めることに賛成していただけに、今回の上院での与党共和党の強引なやり方が今年秋の大統領選挙や上院選挙に何等かの悪影響が出てくる可能性はあります。

 
5.金利据え置きを決めたFOMC会合
FOMC会合が1月28-29日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回12月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は強さを保っており、経済活動は緩やかに拡大した。雇用増はここ数か月平均すると堅調で、失業率も低水準を保った。家計支出は緩やかに増加したが、企業の設備投資および輸出は弱いままだ。全般的なインフレ率と、食品・エネルギーを除くインフレ率は2%を下回っている。市場で予測したインフレ値は依然弱く、アンケートによる調査では長期のインフレ予想はあまり変わっていない。

法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。

FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを1.50-1.75%に据え置くことを決定した。持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、目標の2%前後への回帰を支えるために、現在の金融政策スタンスが適切と考える。FOMCはFF金利の目標レンジの道筋を見極めるため、海外の動向や抑制されたインフレ圧力など、景気見通しに関する情報が意味するものを注視していく。
FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む10人のメンバーの賛成による。
なお、今回のFOMC会合では4会合ぶりに政策金利の据え置きを決め、声明では金融政策は現在のスタンスが適切と指摘しました。しかしながら、パウエル議長の記者会見が始まると、世界景気についての慎重な発言が相次ぎ、米長期金利が一段と低下、金融株が下落、更に新型肺炎の感染拡大への警戒感から、原油先物相場の下落から、石油株も下落、終値は12ドル高に留まりました。


6.上昇基調に歯止めをかけた中国発の新型肺炎の感染拡大
1月21日に中国の武漢で発生した新型肺炎の感染拡大は、それまでの米国株式の上昇基調に歯止めをかけることになりました。ダウ平均は4日連続して下落し、24日には一時300ドルを超える状況となりました。ダウ平均の4日連続の下落は2019年8月前半以来で、キャタピラーなど中国の売り上げ比率が高い銘柄に売りが膨らみました。リスク回避の動きは安全資産とされる債券市場にも広がり、長期金利は3か月振りの水準まで低下しました。

世界的な金融緩和で、株式市場への資金流入が続き、ヘッジファンドや個人の株式持ち高が歴史的な高水準にまで膨らんでいただけに、今回の中国発の新型肺炎の感染拡大はリスクオフの動きを加速させることになりました。1月30日には、世界保健機関(WHO)が新型肺炎を「国際的に懸念される公衆衛生の緊急事態」と宣言したこともあり、続く31日には新型肺炎の感染拡大による世界景気のへの悪影響への懸念が強まり、603ドル安(2.09%減少)となりました。
              (2020年2月1日:  村方 清)

Thursday, January 2, 2020

米中貿易協議の第一段階合意と市場の上昇傾向










1.12月の株式市場
12月の株式市場は、初旬では貿易摩擦問題への懸念から大きな下落となりましたが、12月13日に米中貿易協議の第一段階の合意が達成したことで、株価の上昇傾向が続くことになりました。主要な動きは以下の通りでした。
12月2日:ISM製造業指数は48.1と前月から0.2ポイント下落、4カ月連続で50を割り込んだことで製造業の業績悪化が懸念されたことやブラジルやアルゼンチンからの鉄鋼輸入への追加関税による貿易摩擦の懸念も広がり、268ドル安(0.96%減少)。下げ幅は10月8日以来の大きさ。
12月3日:トランプ大統領が中国との貿易協議を先送りする可能性を示唆し、投資家心理が悪化、キャタピラーなど中国関連株を中心に売りが広がり、280ドル安(1.01%減少)。
12月4日:米中貿易協議で第1段階で撤回する関税額ンついて合意に近づいているとの報道から、147ドル高(0.53%増加)。
12月5日:米中貿易協議の行方を見たい投資家が多く、積極的な投資は控えられ、28ドル高(0.10%増加)。
12月6日:11月の米雇用統計は雇用者増加数が266,000人増で、市場予想の190,000人増を上回り(失業率は3.5%で前月より0.1%減少)、過去3か月分の雇用者数が200,000人を超えたこともあり、ハイテクや金融株を中心に買いが入り、337ドル高(1.22%増加)。
12月9日:前週末に大幅高となった反動もあり、米中制裁関税第4弾の発動日である15日の様子を見たいとの投資家の反応から、105ドル安(0.36%減少)。
12月10日:米中貿易協議をめぐる報道が交錯し、積極的な売買は控えられ、投資家は様子見の姿勢を強め、28ドル安(0.10%減少)。
12月11日:FOMCが金利据え置きを決めたことを受けて、低金利政策が今後も続くとの見方が強まり、30ドル高(0.11%増加)。
12月12日:米中の貿易協議が進展し、第一段階で原則合意したとの報道を受け、投資家心理が改善、キャタピラーなど中国関連株が買われ、220ドル高(0.79%増加)。
12月13日:米中が貿易交渉で第1段階の合意に達し、米政府が15日に予定の第4段階の関税の発動を見送ったことで好感されたが、第2段階の交渉が不透明感もあり、3ドル高(0.01%増加)。
12月16日:先週末の米中貿易協議の第一段階の合意を受けて、追加の制裁関税が見送られたことから、投資家の買い意欲が優勢で、101ドル高(0.36%増加)。
12月17日:米中が貿易交渉で第1段階の合意に達したことで、貿易摩擦による世界経済の懸念が和らいだものの、高値警戒感もあり、31ドル高(0.11%増加)。
12月18日:連日、過去値を更新したこともあり、相場の過熱感を警戒した売りが優勢で、28ドル安(0.10%減少)。
12月19日:米中の貿易合意で世界経済の減速リスクが低下する中で、企業業績への楽観的な見方が広がり、相場が上昇、138ドル高(0.49%増加)。
12月20日:米中の貿易協議の合意を受けて、相場の先高観が広がり、78ドル高(0.28%増加)。
12月23日:中国による輸入関税引き下げと経営責任を明確化したボーイング株が上昇し、96ドル高(0.34%増加)。
12月24日:前日まで連日過去最高値を更新していたため、クリスマス祝日前で利益確定売りが優勢で、36ドル安(0.13%減少)。
12月26日:米中両国から、貿易協議の合意書調印に前向きの発言が伝わったこともあり、協議進展の見方が広がり、106ドル高(0.37%増加)。
12月27日:米中の貿易協議が続いていることや米年末商戦が好調だったことから、買いが続き、24ドル高(0.08%増加)。
12月30日:期末を控え、運用実績を意識した機関投資家の一部が高値圏の銘柄を中心にリ家来角栄目的の売りを出したことから、183ドル安(0.84%減少)。
12月31日:日中は前日終値を下回って推移することが多かったが、取引終了にかけて主力株に買いの勢いが強まり、76ドウ高(0.27%増加)。2019年全体のダウ平均は22.3%の上昇。

 
2.米国の雇用状況
米労働省が12月6日に発表した11月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比266,000人の増加で、市場予想の190,000人増を大きく上回りました。9月の雇用者数の確定値は193,000人で13,000人の増加、10月の改定値は156,000人で28,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約205,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を再び上回りました。なお、11月の失業率は3.5%で、前月より0.1ポイント改善しました。労働参加率は63.2 %で、前月より0.1%減少しました。11月の時間当たり賃金上昇率は前月比で7セント上昇し、前年同月比では3.1%増となりました。部門別では製造業が54,000人の増加、ヘルスケアが45,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が31,000人の増加となりました。

 
3.利下げ見送りのFOMC会合
FOMC会合が12月10-11日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回10月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は強さを保っており、経済活動は緩やかに拡大した。雇用増はここ数か月平均すると堅調で、失業率も低水準を保った。家計支出は力強く伸びたが、企業の設備投資および輸出は弱いままだ。全般的なインフレ率と、食品・エネルギーを除くインフレ率は2%を下回っている。市場で予測したインフレ値は依然弱く、アンケートによる調査では長期のインフレ予想はあまり変わっていない。

法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。

FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを1.50-1.75%に据え置くことを決定した。持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、目標の2%前後付近のインフレ率を支えるために、現在の金融政策スタンスが適切と考える。FOMCはFF金利の目標レンジの道筋を見極めるため、海外の動向や抑制されたインフレ圧力など、景気見通しに関する情報が意味するものを注視していく。
FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む10人のメンバーの賛成による。
なお、今回のFOMC会合では4会合ぶりに政策金利の据え置きを決め、声明では金融政策は現在のスタンスが適切と指摘しました。FOMCの参加者が政策金利の見通しで、来年いっぱいの金利据え置きをを示したことから、市場ではFRBは利上げを急がないとの見方が改めて強まり、安心感から28ドル高(0.10%増加)となりました。

 
4.米中貿易交渉の第1段階合意
米中両国政府は12月13日に第1段階の合意に達したと発表しました。これによれば、米国政府は12月15日に予定していた中国製のスマートフォンやノートパソコンなどを対象に15%の関税を上乗せする第4弾の残り1600億ドル分の発動を見送ると同時に、9月に発動していたスマートウオッチなど1200億ドル分の関税率は15%から7.5%に引き下げるとしました。その一方、家電や家具などの第1弾から第3弾(2500億ドル)にかける25%の関税率は維持するとしました。これに対し、中国側は12月15日に予定していた報復関税の発動を見送る他、米国からの小麦やトウモロコシの輸入を大幅に拡大するとしています。

今回の合意内容は中国にとっては第4弾の追加関税を見送らせる一方、9月から発動していた1200億ドルの関税率を半分に引き下げさせた点で大きな成果があったと言えます。また、知的財産権の侵害や技術移転の強要などは対象になるものの、中国政府の最も懸念した国有企業への産業補助金など構造問題は含まれていないことでも、中国側にとって優位の内容になったと位置づけられます。この背景には、トランプ大統領が来年の来年の大統領選挙を控え、選挙民に具体的な成果を示したいという焦りがあり、これが中国にとって交渉を有利に展開できた背景になったと見られます。

 
5.英国総選挙で保守党の勝利
12月12日に実施された英国の総選挙で、ジョンソン首相が率いる与党の保守党が過半数を超える365の議席を獲得しました。これに対して、最大野党の労働党は40議席減の203と惨敗しました。今回の総選挙ではEU離脱が最大の争点でしたが、3年半に及ぶ政治の迷走に英国民に離脱疲れが広がったことや労働党が離脱か残留かを明確にできなかったことが、保守党の大幅増加になったと見られています。これにより、来年1月中に英国議会が新離脱案を可決すれば、2020年末までの移行期間付きの離脱が決定します。その意味で、総選挙の結果、英国がEUから合意なき離脱をして、経済が大混乱する事態はとりあえずは避けられたことになります。しかしながら、2020末までの移行期間中に、英国とEUで新たな自由貿易協定がまとめられなければ、EUの単一市場や関税同盟についての合意がないまま、推移してしまうリスクが依然として残っています。
          (2020年1月2日: 村方 清)

 

Sunday, December 1, 2019

米中貿易協議進展への過大な期待に影響された市場


 









 
 
1.11月の株式市場
11月の株式市場は米中貿易協議の進展を過大に期待する投資家の反応から、上昇基調となりました。しかし、月末にかけて、米国で香港人権・民主主義法案が成立したことで、不透明感が出てきました。主要な動きは以下の通りでした。

11月1日:10月の米雇用統計は雇用者増加数が128,000人増で、市場予想の90,000人増を上回り(失業率は3.6%で前月より0.1%増加)、過去2か月分の雇用者数が上方修正されたこともあり、ハイテクや金融株を中心に買いが入り、301ドル高(1.11%増加)。
11月4日:米中貿易協議が進展するとの期待から、中国売上高が高い銘柄を中心に買いが優勢で、115ドル高(0.42%増加)。
11月5日:米中貿易協議の進展への期待感とISMの10月非製造業景況感指数が54.7と市場予想を上回ったことから、買いが優勢で、31ドル高(0.11%増加)。
11月6日:米中首脳会談が当初予定の11月から12月に延期されるとの報道が伝えられ、スリーエム等の中国売上比率が高い銘柄が売られたが、下げ幅は限定的で、7ドル安(0.00%減少)。
11月7日:中国政府が発動済みの追加関税を段階的に撤廃する方針で米国と一致したと発表し、米中合意への期待が高まり、買いが優勢で、182ドル高(0.66%増加)。
11月8日:トランプ大統領が追加関税の段階的撤廃で合意したとの中国政府の発表を否定し、米中貿易の不透明感から売りが先行、引きにかけて上げに転じ、6ドル安(0.02%増加)。
11月9日:香港情勢の警戒感から、売りが先行したものの、ボーイングなどに買いが出て、10ドル高(0.04%増加)。
11月12日:連日の過去最高値更新による目先の利益確定売りと米中貿易協議の合意による株高への期待が交錯して、横ばいの取引で終了した。
11月13日:パウエル連銀議長が議会証言で金融政策は現状が適切と答えたことから、低金利が続くの見方が強まり、92ドウ高(0.33%増加)。
11月14日:連日の高値更新から過熱感を警戒した売りが出た一方、米中貿易交渉を見極めたいとの見方も出て、2ドル安(0.01%減少)。
11月15日:クドロー米国家経済会議委員長が米中協議について合意に近づいていると発言したことで、中国貿易比率が高い銘柄が買われ、223ドル高(0.80%増加)。
11月18日:米中貿易協議の行方を見極めたいとして方向感に乏しかったが、業績期待の大きなディズニーやユナイテッドヘルスなどが買われ、31ドル高(お。11%増加)。
11月19日:連日の過去最高値更新から、高値警戒感による買い控えムードが強まったことやホームデポの四半期業績不振もあり、102ドル安(0.36%減少)。
11月20日:米中貿易協議の進展が難航しているとの報道が相次ぎ、投資家心理が悪化、中国関連銘柄を中心に売りが広がり、113ドル安(0.40%減少)。
11月21日:香港の民主主義を支援する米国議会の法案にトランプ大統領が署名するとの観測で、それに反発する中国側の反応から米中貿易協議の不透明感が高まり、55ドル安(0.20%減少)。
11月22日:米中貿易協議に関する米中首脳の前向きな発言が伝わり、中国関連株を中心に買いが優勢で、109ドル高(0.39%増加)。
11月25日:中国政府が知的財産権の侵害に対する罰則を強化すると発表し、米中貿易協議が進むとの見方から、アップルなど中国銘柄の買いが広がり、191ドル高(0.68%増加)。
11月26日:米中貿易協議の進展への期待とマクドナルドやホームデポなど小売業の好決算を受けて、年末商戦での個人消費の期待から、55ドル高(0.20%増加)。
11月27日:米中貿易協議の進展期待と10月の米耐久財受注額が前月比0.6%増と市場予想を上回って増加し、米景気の拡大基調から投資家心理が改善して、42ドル高(0.15%増加)。
11月29日:トランプ大統領が27日夕に香港人権・民主主義法案に署名したことへの中国側の反発から、米中貿易協議への悪影響を懸念して、利益確定売りが優勢で、113ドル安(0.40%減少)。

 
2.米国の雇用状況
米労働省が11月1日に発表した10月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比128,000人の増加で、市場予想の90,000人増を上回りました。8月の雇用者数の確定値は168,000人で51,000人の増加、9月の改定値は180,000人で44,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約176,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、10月の失業率は3.6%で、前月より0.1ポイント悪化しました。労働参加率は63.3 %で、前月より0.1%上昇しました。10月の時間当たり賃金上昇率は前月比で6セント上昇し、前年同月比では3.0%増となりました。部門別では飲食業が48,000人の増加、ソーシャルサービスが20,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が22,000人の増加、ヘルスケア業が15,000人の増加となりましたが、製造業は36,000人の減少となりました。

 
3. 米中貿易協議に影響を与える米弾劾公聴会と香港人権問題
10月10-11日の米中閣僚級会議で部分合意に達し、当初は11月にチリで予定されているAPEC首脳会議で合意文書に署名する可能性があると見られた貿易協議が、チリ政府が内政混乱を理由にAPEC会議の取り消しを発表して以来、不透明な状況となっています。その理由は10月の合意が中国による米国農産物の輸入拡大や金融サービスの開放など双方が合意しやすいものであり、トランプ政権が強く要求してきた中国政府の過剰な補助金や国有企業への優遇措置など中国の国家資本主義の本質にかかわるものは先送りされた経緯があることです。

それに加えて、米国と中国各々の内政面で深刻な問題が発生し、両国政府ともその行方がマイナスとならないように最大の努力をつぎ込むことが必要になったことです。米国側の問題は2020年の大統領選挙で民主党の最有力候補と見られるバイデン元副大統領の息子の不正調査にトランプ大統領がウクライナ政府に米議会承認の軍事援助を見返りに過度な圧力をかけたのではないかとの疑惑です。11月13日から始められた下院の情報特別委員会ではこの件でトランプ政権の外交軍事政策に疑問を持つ国務省、国防省、ホワイトハウス内の国家安全保障会議のメンバーが相次いで証言に立ち、見返りを条件に圧力をかけたことを証言しました。特に、トランプ氏への多額献金でEU大使に任命されたソンドランド氏は11月20日の証言では以前の秘密公聴会での発言を翻して、見返りを条件にウクライナ政府に圧力をかけたことを認めました。こうした具体的な証拠が集まっていく中で、下院多数派である民主党は司法委員会で、12月4日からトランプ大統領の弾劾に向けた検証のための公聴会を開催し、その動きをさらに一歩進めることになりました。

一方、香港の自治と人権の擁護を目的とする香港人権・民主主義法案は米議会下院が10月中旬に可決し、11月19日には上院が満場一致で可決しました。法案は一国二制度に基づく香港の自治が機能しているかどうかを検証するために国務省が年次報告書を義務付けるもので、香港で人権侵害に関与した中国当局者らへの制裁も可能にしています。中国外務省は法案が成立すれば、断固反撃するとして報復措置を示唆していました。こうした状況の中で、トランプ大統領としては2020年の大統領再選に向け、中国との貿易協議の合意を実績にしたく、中国を刺激させたくない意向がある一方、上記の下院による弾劾調査の中で、弾劾阻止のカギを握る与党共和党との対立を避ける意味で、トランプ氏が拒否権を行使するのは難しい状況にありました。こうした中で、トランプ大統領は11月27日にトランプ大統領は同法案に署名し、成立することになりました。この背景には、トランプ大統領がこの法案に拒否権を発動しても、上下両院がそれぞれ3分の2以上の賛成で再可決すれば、法案は成立することになり、拒否権を発動しても実質的な効果はないとの判断があったと見られています。加えて、トランプ大統領としては、パソコンなど米国の消費者にも需要の高い中国からの輸入品に12月15日から追加関税第4弾を予定しており、中国政府の報復措置には限界があると見ていたように思われます。いずれにしても、今回トランプ大統領が香港人権・民主主義法案を成立させた意味は大きく、今後の米中貿易協議の行方に不透明感を与えるものとなりました。

 
4.米国市場の株高傾向と経済格差拡大による不安定化                    米国の株高基調が続いています。トランプ大統領は株高基調が続く限り、自分の再選は確実になるとの見方を維持しています。しかしながら、株高が政府による過度な刺激策や政府高官による人為的発言によって達成され続けていくと、その恩恵は企業や富裕層により多く配分されることになり、所得格差の拡大による経済の不均衡化をもたらし、必ずしも大統領の思惑通りになるとは限らなくなります。特に、この傾向は11月になると、米中貿易協議の具体的な進展が明示されていないにもかかわらず、前向きに進んでいるとの米中政府高官の発言によって株式市場が上昇する傾向を強めました。本来、株価は企業の売上高や株価収益率の影響をを与える経済動向によって決定されるべきものですが、株価上昇を目論む政府高官の恣意的な発言によって影響されることは株式市場の投機性を一層高めることになります。また、株価が実体経済以上に高くなれば、従来以上の株価収益率維持のために、生産コストを抑制させていく政策をとらざるを得ず、従業員への賃金配分を減らさざるを得なくなります。トランプ政権の経済政策の問題点は、株価上昇のために金融政策や意図的発言には積極的であるもののの、経済をどのようにバランスよく発展させるかについての政策が乏しく、これがトランプ大統領の支持率が一定以上には上昇しない要因になっているように思われます。
                  (2019年12月1日: 村方 清)