Saturday, September 1, 2012

夏バカンスで不安定さが減少の欧州市場と政治的対立が強まる米国市場
















 1.8月の株式市場
8月の株式市場は、欧州が夏バカンスで一時的に不安定さが減少しました。一方、米国では共和党副大統領候補に保守派の支援を受けるライアン下院議員が選ばれ、全国大会でロムニー候補がオバマ政権との違いを先鋭化させるなど、対決色が強まりましたが、株式市場は取引量も少なく、相対的に安定していました。主要な動きは以下の通りでした。

8月1日:連邦公開市場委員会が追加の金融緩和措置を見送ったことから、売りが広がったものの、欧州中央銀行による追加緩和策の期待も高く、ダウ価格は33ドル安(0.25%減少)。
8月2日:欧州中央銀行理事会終了後のドラギ総裁の記者会見で、中央銀行による南欧諸国の国債買い入れの具体的な計画が示されず、市場の失望感から、92ドル安(0.71%減少)。
8月3日:7月の非農業部門の雇用数が前月比16万3千人の増加となり、市場予想の9万5千人を大きく上回り(失業率は8.3%に上昇)、米景気後退の警戒感が後退したことから、217ドル高(1.69%増加)。
8月7日:ボストン連銀総裁の追加金融緩和が必要との発言や欧州中央銀行による債務危機対応の期待から、51ドル高(0.39%増加)。
8月10日:欧米当局が追加の金融緩和策に踏み切るとの期待から、43ドル高(0.32%増加)。
8月13日:5週間連続の上昇による高値警戒感から、利益確定売りが優勢になり、39ドル安(0.29%現象)。
8月16日:シスコシステムズの好決算によるIT関連株の買いの動きやドイツのメルケル首相のユーロ防衛に向けた強い発言から、85ドル高(0.65%増加)。
8月17日:8月の米消費者態度指数が73.6と前月の72.3から改善、7月の景気先行指標総合指数も市場予想以上に上昇、但し、目先の利益確定売りもあり、25ドル高(0.19%増加)。
8月20日:目先の利益確定売りなどから、4ドル安(0.03%減少)。アップルが時価総額で一時6,231億ドルを超え、史上最高となる。
8月21日:利益確定売りが優勢となり、68ドル安(0.51%減少)。
8月23日:短期的な過熱感から、利益確定目的の売りが続き、115ドル安(0.88%減少)。
8月24日:米連銀の追加金融緩和策への見方が強まったことやギリシャなど欧州債務問題の懸念が後退して、101ドル高(0.77%増加)。アップルとサムソンの特許訴訟で、サムソンに対して10億ドルの支払いを命じる判決。
8月27日:目先の利益確定の売りが優勢となったことで、33ドル安(0.25%減少)。
8月30日:欧州連合の景況感指数が5ヶ月連続で悪化し、欧州経済の悪化懸念が強まったことから、106ドル安(0.81%減少)。
8月31日:前日の下落への反動と連銀議長の追加金融緩和発言で、90ドル高(0.69%増加)。

8月の株式市場はマクロ面で大きな動きはなかったものの、個別株で、アップルが8月13日に創業以来最初の配当を出したり、時価総額で8月20日に1999年12月にマイクロソフトが記録した米国史上最高の6206億ドルを超えたり、8月24日に特許訴訟でサムソンに対する勝訴が決まるなど、話題の大きな月となりました。

2.夏バカンスで先送りされた欧州債務問題
7月26日に欧州中央銀行のドラギ総裁が南欧諸国の財務問題に対して、欧州中央銀行は全責任を持って対応する用意があることを表明、市場も多大の期待を持って8月2日の欧州中央銀行理事会の決定を待ちました。しかし、理事会後の記者会見でドラギ総裁はスペインなどの南欧諸国の国債買い入れを再開する方針を示しましたが、具体的な時期や規模には言及せず、市場の失望を買うことになりました(ダウ価格は一時190ドル近く下落、最終値は92ドル安)。この背景には中央銀行による国債買い入れといえども、借り入れ国の財政規律の条件設定が必要とのドイツ中央銀行のブンデスバンクの意向が強く反映したものと受け止められています。それ以降は欧州が夏バカンスの時期に入っていることもあり、欧州からの不安定要因は少なく、欧米の株式市場に与える影響も極めて限定的でした。

一方、欧州連合の統計局は8月14日に第2四半期のGDP速報値を発表、ユーロ圏全体で前期比マイナス0.2%、前年比マイナス0.4%で、市場予想通り、減速傾向にあることが明らかになりました。メンバー国の中では、ドイツやオランダなどの北欧諸国がそれぞれに、前期比でプラス0.3%および0.2%であったのに対して(フランスは横ばい)、南欧のイタリアはマイナス0.7%、スペインはマイナス0.4%と低迷状態が続いています。また、現在、厳しい財政緊縮政策を実施中のギリシャは前年比マイナス6.2%で、経済規模の縮小が続き、財政削減の目標達成が一層困難になっている状態です。

こうした状況の中で、ドイツでは欧州連合の維持・強化が必要としながらも、容易に改善が見込めない南欧諸国への支援拡大の懸念から、南欧諸国の離脱に向けたドイツの負担度合いに関する非公式調査があったことを8月11日付の英国エコノミスト誌が伝えています。
それによると、ギリシャが離脱した場合、欧州連合全体の負担は3230億ユーロで、ドイツが1180億ユーロ、それに加えて、もしポルトガル、アイルランド、キプロス、スペインが離脱した場合は欧州全体の負担は1兆1550億ユーロで、ドイツが4960億ユーロと見込まれています。それとは逆に、現在のユーロを維持しながら、欧州中央銀行の融資機能強化による支援を行なった場合、全体の負担額は3000億ユーロから4000億ユーロになるとされ、その3分の1がドイツの負担と見られています。この点、欧州連合がギリシャだけの離脱に留まれば、ドイツの負担を少なくて済むものの、離脱がそれ以外の国々まで及べば、ドイツにとってもより大きな負担が生じることになりそうです。更に、8月25日付けの英国エコノミスト誌は供与国側の一つで北欧のフィンランドが負担拡大の懸念から、国内の反対意見が強まっており、欧州連合離脱の可能性があるとの記事を伝えています。

3.ロム二ー候補の危険な賭け-共和党副大統領候補にライアン下院議員
8月11日に、共和党のロムニー大統領候補は副大統領候補に下院の予算委員長を務めるライアン下院議員を選んだことを表明しました。事前予想ではオハイオ州選出のポートマン上院議員あるいはミネソタ州のパレンティ前知事が選ばれる可能性が高いと見る向きが多かっただけに、ライアン議員の選択は専門家の間でも驚きを持って受け止められました。

ライアン議員は2011年4月5日に、2012年度予算について“The Path to Prosperity(繁栄への道)という予算案を下院本会議で提出したことで注目を浴びました、ライアン議員の予算案の特徴は2011年5月の私のブログで詳細に取り上げましたが、基本的には歳入面ではブッシュ減税を恒久化、所得税の最大税率を25%とした上で、税収の不足分は税の抜け道や付加価値税(売上税)で補うとしています。一方、歳出面では社会保障関係制度を全面的に変更し、メディケアは民間の健康保険制度を前提に、バーチャー(クーポンによる一定金額支給)を与える制度にし(但し、現時点で55歳以上の人たちには新しい制度の適用はなし)、連邦政府の支出を大幅に削減することを提案しています。しかし、彼の提案では歳入面よりは歳出削減を優先させた改善策のため、財政均衡化が達成されるのは40年先になっており、オバマ大統領の中期的な財政均衡化案より後退する結果になっています。

こうしたライアン議員の予算案は、当初ギングリッチ元下院議長から“Right-Wing Social Engineering (右派的社会保障改革)”と言われるほど、共和党内部でも批判を受けました。しかし、その後、極端に“小さな政府”を主張するティーパーティーグループから賛成を受けるようになりました。現在、右傾化が目立つ共和党ではライアン議員を若手保守派の代表と見る向きもあり、ロムニー候補はライアン議員を副大統領候補にすることが保守派の支持を取り付ける意味で得策であると判断したように見られます。

今回、ロムニー候補がライアン議員を副大統領候補に選んだことにより、大統領選挙の争点は財政再建を優先させる共和党のロムニー候補と経済回復を重視する現職のオバマ大統領という争いに加え、セーフティネットをめぐる政府の役割のあり方にまで範囲が広がってきているように見られます。ロムニー候補は税収を通じた政府によるセーフティネットの維持・拡大より、個人によるセーフティネットが基本であるとの立場を明確にしました。一方、オバマ大統領が代表する民主党は1929年の大不況後のルーズベルト大統領によって導入された政府によるセーフティネットの維持・充実は米国にとっても不可欠で、そのための前提として、政府による社会的セーフティネットの充実には応分の税負担、特に富裕層の税負担増加が必要との立場を取っています。

この問題を掘り下げれば、現在米国において、企業によるセーフティネットが企業の業績低下から崩れ、かつ富裕層とミドルクラス層との所得格差が拡大している中で、共和党が主張するような個人によるセーフティネットの確立が現実的にどの程度可能であるかとの根本的な疑問に直面するはずです。恐らく、セーフティネットについて個人が確立すべきとする共和党の真意は、個人の自由な権利の尊重という名目の下に、富裕層の税金をミドルクラスや貧困層に対するセーフティネットの拡大に回すべきではないとの考えが横たわっているように思います(現在のメディケアに対して、ライアン議員の提案を導入した場合、一般のシニアの人達の負担は年間で約6500ドルの増加になると言われています)。

さらに、共和党の過度な保守派グループは、オバマ政権が欧州型の福祉国家に向かっているとの批判を繰り返しています(オバマ政権が目指しているのは、市場経済を前提に政府によるセーフティネットを確立した中負担・中福祉の国家と言えます)。 一方、こうした保守派グループの主張を聞くと、米国が所得、医療、教育等の分野で格差拡大を容認する南米型の少数支配利権国家を志向しているのではないかとの疑念も生じかねません。

4.過度な保守主義に影響された共和党全国大会
8月27日から30日に、フロリダ州タンパ市で開かれた共和党全国大会では、11月の大統領選挙の大統領候補にロム二―候補を副大統領候補にライアン候補を指名することを決定しました。政策綱領では、社会面での人工中絶や同性結婚の禁止と同時に、規制緩和や富裕層減税の拡大を通じた民間部門の活性化による強い米国経済の復活を目指すことを決定しました。現在の共和党は保守穏健派のジェフ ブッシュ前フロリダ州知事から、リバタリアン主義を主張するロン ポール下院議員など多岐の考え方が存在しています。しかし、最も影響力のあるのが一部の富裕層(有名なのはラスベガスの2人のカジノオーナー)や特定の企業グループ(石油、軍需、金融に属する企業)の支援を受けたティーパーティーグループであり、その代表は下院共和党のエリック カンター院内総務などです。今回の強い米国を目指すという党綱領の採択に際しても、そうしたグループの利益確保を優先させるために、それに適合する綱領を持ち出したことも十分考えられます。

いずれにしましても、今年の大統領選挙では、本来リベラル派とされていたロムニー候補が、大統領のポストを何としても得たいという願望から、現在共和党で最も影響力の強く、過度な保守主義を主張するティ―パーティグループの意向を受け入れ、彼等のための政策提言や極端なオバマ大統領批判をせざるを得ないところに今日の共和党の大きな問題があるように思います(これがロム二ー候補を、政策面で一貫性のない風見鶏という評価を得てしまう原因ともなっています)。
              (2012年9月1日:  村方 清)

Wednesday, August 1, 2012

財政緊縮下で金融緩和政策への依存度を高める欧米市場













1.7月の株式市場
7月の株式市場は、前半ではスペインの銀行救済をめぐる欧州連合内部の混乱が欧米市場に悪影響を与える一方、後半には欧州債務問題に対する欧州中央銀行総裁の大胆な発言が欧米市場の株価の大幅な上昇をもたらすなど、変化の大きな展開となりました。主要な動きは以下の通りでした。

7月3日:5月の製造業受注額が前月比0.7%増と市場予想を上回ったことや欧州中央銀行が景気支えの金融緩和策に踏み切るとの期待から、ダウ価格は72ドル高(0.56%増加)。
7月6日:6月の米国非農業部門の雇用増加が80,000人に留まったことによる雇用回復遅れの懸念(失業率も先月と同じく8.2%)や欧州連合で合意したスペインの銀行救済案に対する北欧諸国へ否定的反応から、124ドル安(0.96%減少)。
7月10日:アルコアを始めとする米企業の四半期業績の不振に加え、イタリア首相のイタリアも欧州安定メカニズムから国債買い支えの必要性発言から、83ドル安(0.65%減少)。
7月13日:JPモルガンチェースの四半期業績が市場予想ほど悪化せず、中国の第2四半期のGDPが市場予想の範囲であったため、204ドル高(1.62%増加)。
7月17日:コカコーラなどの四半期業績が悪くなかったことや連銀議長の上院証言で、追加金融緩和策の可能性を示したことから、78ドル高(0.62%増加)。
7月18日:前月の新規住宅着工件数が6.9%増の年間76万戸ベースとなったことやインテルなどの四半期業績が市場予想より良かったことから、103ドル高(0.81%増加)。
7月20日:スペインの地方政府の財政難から再び欧州債務問題の警戒感が強まり、投資家の運用リスク回避の売りが広がり、121ドル安(0.93%減少)。
7月23日:スペインとイタリアの国債利回りが上昇し(スペインは7.5%を超える水準)、ギリシャの欧州連合離脱観測も出るなど、欧州債務の懸念から、101ドル安(0.79%減少)。
7月24日:米国製造業の景況感の悪化やギリシャの債務削減の目標達成困難との見通しから、104ドル安(0.82%減少)。3日間連続で100ドル以上のダウ下落は2011年9月以来。
7月25日:6月の新規住宅販売件数は市場予想より減少したものの、ボーイングやキャタピラーなどの四半期業績が好調で、59ドル高(0.47%減少)。
7月26日:欧州中央銀行のドラギ総裁のユーロを守るためのあらゆる措置を取るとの発言を受けて、スペインの国債利回りが低下、212ドル高(1.67%増加)。
7月27日:米国の第2四半期GDPが1.5%と市場予想を上回ったことや前日のドラギ欧州中央銀行総裁の発言を受けて、独仏首脳がユーロ圏の維持に注力するとの声明を出したことで、188ドル高(1.46%増加)。
7月31日:目先の利益確定の売りが広がったことや8月1日に予定される連邦公開市場委員会で追加の量的緩和策の可能性は低いとの見方から、64ドル安(0.49%減少)。

2.不安定さが続く欧州市場
6月29日の欧州連合首脳会議におけるスペインの銀行への支援合意を受けて、7月20日の欧州連合財務相会議では総額1000億ユーロの資金援助を決定しました。支援内容としては7月中に緊急的に300億ユーロをスペイン政府に拠出、国内14銀行に対するストレステストを実施し、9月中に各行の資本不足額を算定した後、資本注入を行うことになりました。資本注入は欧州金融安定基金(EFSF)からスペインの銀行再編基金(FROB)を通じて行ない、欧州安定メカニズム(ESM)が発足した段階で、ESMが支援を引き継ぐことになりました。

今回の合意決定は市場でも前向きに反応したものの、その後にスペインのバレンシア地方政府がスペイン政府に財政支援を求める報道が伝えられ、7月23日にはスペインやイタリアの国債利回りが再び上昇することになりました(スペインの国債利回りは7.5%を越える水準)。また、7月24日には格付け機関のMoody’s が欧州連合を支えるドイツへの評価について南欧諸国への支援負担が増加していることを理由に、中立からネガティブに変える可能性を示すなど、欧州連合全体にとってもマイナス面の影響が大きく出始めました。 

一方、ギリシャについては、サマラス首相が国内的に、財政赤字の削減目標をGDPの3%以内の実行期限は2年間延長するとしたものの、欧州連合メンバー国に難色があり、本格的な交渉は今後に持ち越されることになりました。

そうした状況の中で、7月26日に欧州中央銀行のドラギ総裁がスペインやイタリアが直面する財務問題に対して、欧州中央銀行は全責任を持って対応する用意があることを表明、翌日には独仏首脳も欧州連合の維持を改めて確認したこともあり、欧米の株式市場は急激な回復をしました(ダウ価格は26日が212ドル、27日が188ドルと連続の上昇)。しかし、具体的な改善措置については、財政規律重視のドイツ等の北欧諸国と支援策の拡大を求めるスペインやイタリアなどの南欧諸国との間では大きな差があることに変わりはなく、今後どのような改善方法で合意点を見つけ出していくのかが課題になります。

3.英銀行の金利不正問題と米国の金融規制問題
英大手銀行のバークレーズが6月28日にロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の不正操作問題に関与していたとして、英国と米国の金融当局に対し、総額4億53百万ドルの罰金を支払うことで合意しました。7月に入り、バークレーズのCEOと会長が責任を取って辞任することになりましたが、その後の調査で、LIBORの不正操作問題はバークレーズだけでなく、他の欧米の金融機関も長期間に渡って行っていたとの疑惑が広がり、金融界を揺さぶる大きな事件に発展する恐れが生じています。

もし、他の大手銀行も関与していたことが明らかになれば、関係する政府の金融当局による課徴金だけでなく、そうした銀行を通じてLIBORの金融商品を使っていた多数の顧客からの高額の損害賠償を受ける可能性があります。

一方、米国では7月25日に、シティコープのサンディ・ワイル元CEOがCNBCとの記者会見で、メガバンクにおける銀行業務と投資銀行業務の分離を提案したことで、大きな注目を浴びました。ワイル会長は銀行、投資、保険業務等のあらゆる金融の一元化を唱え、1998年には当時の大手保険会社エトナと最大手商業銀行であるシティコープを統合させ、シティコープが投資銀行業務に大きく踏み込んでいく契機を作った責任者でした。

しかし、彼の後を次いだプリンスCEOは当時のシティコープ経営執行委員会会長がルービン元ゴールドマン・サックス会長であったこともあり、彼の助言によってシティコープは大きく証券化業務(特にサブプライムローンの証券化)に関与していくことになり、それが結果において破綻への道を歩むことになりました。こうして経緯もあり、ワイル元CEOは銀行業務と証券業務の分離、すなわちグラス・スティーガル法の復活を求めたものであり、金融界のみならず、連邦議会でも大きな話題になっています。

3.鈍化する米国経済への連銀の対応
7月17日に、米国連邦準備理事会のバーナンキ議長は上院銀行住宅都市委員会で、半期に一度の金融政策報告を行ないました。その中で、欧州債務危機や米国財政策をめぐる懸念が景気回復の足かせになっていること、雇用市場についても現在の8.2%の水準にある失業率が緩慢にしか低下しない可能性があることを認めました(7月27日に発表された米国の第2四半期GDPは1.5%で前期の2.3%を下回りました)。その上で、今後も雇用市場に改善が見られない場合、あるいはデフレリスクが生じた場合には、一連の追加景気刺激策を検討すると述べ、選択肢として米国債やモーゲージ担保証券などの追加買い入れに加え、窓口買出しや準備金の引き下げ、時間的政策などのコミュニケーションの利用を挙げました。

また、年明けにブッシュ減税の失効と歳出の自動削減措置が開始となる“財政の崖”についても、議会が行動しなければ米国経済はリセッションになる公算が大きいとして、急速な歳出削減や増税を回避しながら、信頼のある長期の財政再建計画を策定することの重要性を改めて強調しました。

こうしたことから、次回の連銀公開市場委員会(FOMC)は7月31日から8月1日に開催の予定ですが、その時に追加の景気刺激策が決まる可能性は少ないものの、9月のFOMCで和措置が取られるのではないかとの見方が多くなっています。

4.オバマ政権の減税提案
7月17日のバーナンキ議長の議会証言に先立ち、7月9日にオバマ大統領は議会に対し、所得が25万ドル以下の米国民の98%が属するミドルクラスについては11月の大統領選挙を待たずにブッシュ減税を1年間延長し、25万ドル以上の富裕層については選挙後に、クリントン大統領時代の税率に戻すべきかどうかの議論を行うべきことを提案しました。

この理由として、①米国の成長はミドルクラスが健全に発展していくことが必要で、ブッシュ政権時代に試みられたトップダウン・エコノミクスは機能しなかったこと。②ブッシュ減税によって、富裕層とミドルクラスの所得格差が広がっていること、③将来の税金がどうなるかについて、不安定な状態を長く続けるべきでないことを上げています。

これに対して、議会の共和党幹部は従来通り、減税延長を行うのであれば、富裕層を含む全所得層を対象にすべきであると主張しています。オバマ大統領がこのような減税案を提案した背景には米国民の3分の2が支持する富裕層への課税強化と経済的な困難を抱えているミドルクラスへの減税延長により、大統領選挙で米国民の広範な支持を得ようとする狙いがあるものと見られます。

5.様々な問題に直面するロム二―候補
6月21日のワシントン・ポスト紙に、ロム二―候補が責任者であったベインキャピタル社の投資先企業が中国やインドに生産施設やサービスの拠点を移したとの記事に関連して、ロムニー候補陣営はGSI インダストリーズなどの投資先企業がアウトソーシングを行なったのはロム二―候補が冬季オリンピックの責任を担うべく、ベインキャピタル社を離れた1999年2月以降のことであり、彼と直接に関与していないとの釈明を行ないました。 

しかし、7月11日付のボストン・グローブ紙はSECに登録されたベインキャピタル社の資料から彼が2002年まで、会長兼CEO、かつ100%のオーナーであったこと、さらに毎年10万ドル以上の報酬が受け取ることを明らかにしました。加えて、2004年に行なわれたマサッツセッツ州知事選挙の際に、対立する民主党候補からボストンを数年間離れていたことを聞かれた際に、ロム二―候補は彼の住所がボストンにあることの他に、ベインキャピタル社の役員会に出席していたことを自ら述べており、矛盾する彼の説明に疑問が投げかけられています。

また、ロム二―候補はメディアから強く求められている過去の納税報告書について、(特に問題となるのは税法上の優遇措置を使った外国での資産運用)、外国での資産運用はブラインドトラスト方式であるため、彼自身ではコントロールできないこと、過去の長期間に渡る納税報告書は不必要な疑問を呼ぶだけであり、昨年と今年の納税報告書以外は公表するつまりはないことを伝えました。こうしたロム二―候補の姿勢に対しては、民主党側だけでなく、共和党関係者からも反発を招いており、過去の納税報告書を公表しないことは大統領候補としてマイナスになるだけであり、公表することが強く求められています。

なお、ロムニー候補の税金問題に関連して、7月16日付けのブルムバーグ・ビシネスウィーク誌はロム二―候補が熱心な信者であるモルモン教とビジネスの関係についての特集記事を掲載しており、その中でモルモン教が宗教法人であることの減税優遇措置を利用して、ビジネスを大きく伸ばしていることを伝えています。

いずれにしましても、ロム二―候補は彼の主張の一貫性の無さ(注1)、資産や経歴の不透明性、米国のリーダーとしては無神経かつ無知な発言の多さなど(注2)、大統領としての資質に多くの問題を抱えているのに対して、オバマ政権も最近は経済停滞が目立ってきており(最大の理由は財政政策が十分に発動されないためで、その背景には連邦下院が2010年11月の選挙で共和党が過半数を取ったことにより、オバマ政権への協力を拒否していることがあります)、今年11月6日の大統領選挙では、2つのマイナスを比べ、どちらが大きいかによる逆の選択になってきているように思われます。
 
 (注1)8月6日付のニューズウィーク誌は、”Romney:the WIMP Factor(臆病さ)-Is He Just Too Insecure To Be President?”とする特集記事で、自らの考えを示すことができないロムニー候補のリーダーシップの欠如の問題を取り上げました。
 (注2)最近ではロンドン・オリンピック開催直前にロンドンを訪問した際、オリンピックについての準備が不十分と発言、ロンドン市民の反感を買ったり、イスラエルを訪れた際には、米国に比べGDPに対する医療費の少なさを賞賛したものの、それはイスラエルが社会主義国のような公的医療保険制度を持っているためであることを知りませんでした。
              (2012年8月1日:  村方 清)

Sunday, July 1, 2012

新たな方向を探る欧州連合と政治的対立の悪影響を受ける米国市場















1.6月の株式市場
6月の株式市場は、ギリシャの総選挙の見通しの困難さやスペイン政府が銀行救済のために欧州連合からの支援が必要になるなど、28日と29日の欧州連合首脳会議で支援強化の方向が出されるまでは大きな混乱が続きました。同時に、米国を含む主要国において経済減速の兆候が目立ってきており、不安定な展開となりました。市場の主要な動きは以下の通りでした。

6月1日:5月の米雇用統計で、雇用者の増加数が69,000人で、市場予想の半分程度に留まったこと(失業率は8.2%に上昇)、中国やユーロ圏の企業景況感の悪化なども重なり、ダウ価格は275ドル安(2.22%減少)。
6月6日:欧州中央銀行総裁の記者会見発言や米国連銀理事会メンバーの追加金融への前向き発言から、287ドル高(2.37%増加)で、今年最大の上げ幅。
6月8日:スペイン政府が週末にも欧州連合に支援を要請し、金融機関の不良債権処理が進むのではないかと期待から、93ドル高(0.75%増加)。
6月11日:週末に欧州連合の財務相会議で、スペイン政府の支援要請があれば約1000億ユーロに応じることを決めたため、一時は100ドル近く上昇したが、具体的な支援の方法が不透明なことから、スペインの国債利回りが上昇し、143ドル安(1.14%減少)。
6月12日:欧州債務問題で主要国やIMFが歩調を合わせるとの見方や米国連銀の追加緩和への期待感から、163ドル高(1.31%増加)。
6月13日:5月の米国小売売上高が前月比0.2%減と2ヶ月連続で落ち込んだことや欧州債務問題への警戒感も強く、77ドル安(0.62%減少)。
6月14日:週間失業保険申請数の増加や5月の消費者物価指数が前月比0.3%減少などから連銀の追加緩和策への期待と週末のギリシャの総選挙の結果に備え、各国中央銀行による流動性供給の報道もあり、156ドル高(1.24%増加)。
6月15日:6月17日のギリシャ総選挙後の混乱に備えた主要国中央銀行の流動性供給の観測と米国連銀の追加緩和策への期待から、115ドル高(0.91%増加)。
6月21日:6月のフィラデルフィア連銀景気指数が悪化したことや中国の6月の購買者景気指数が前月比で悪化したことなど世界景気の減速傾向から、251ドル安(1.96%減少)。
6月22日:欧州中央銀行が資金供給条件を緩和するとの発表で、67ドル高(0.53%増加)。
6月25日:5月の米新築住宅販売件数は市場予想を大きく上回ったものの、欧州情勢への警戒感が強まり、138ドル安(1.09%増加)。
6月27日:5月の米仮契約住宅販売指数が市場の予想以上に改善したことや米国耐久財受注額も改善したことから、92ドル高(0.74%増加)。
6月29日:米国経済指標は改善と悪化が混在したものの、欧州連合で欧州安定メカニズム(ESM)を通じる民間銀行への資本注入を合意したことから、278ドル高(2.20%増加)。

2.新たな方向を探る欧州連合
注目されていた6月17日のギリシャ第2回総選挙の結果は、旧与党として緊縮政策を進めてきた新民主主義党(ND)が第1党で129議席(29.7%)を獲得、反緊縮派の急進左派連合(SYRIZA)の71議席(26.9%)を上回りました(投票率では僅差であったものの、議席数で大きな差となったのは比例代表制によって、第1党に50議席上積みされた結果))。加えて、旧連立与党として、緊縮政策に関与した全ギリシャ社会主義運動(POSOK)が33議席を獲得した結果、旧与党の連立で議会定数300の過半数を確保することになりました。これは急進左派連合が政権を取れば、ユーロ離脱に繋がる恐れがあるとギリシャ国民の多くが判断したためとされています。しかしながら、旧連立与党の勝利はギリシャのユーロ離脱という最悪の事態は回避されたものの、負の悪循環に陥っている現在の緊縮政策でギリシャの財政問題が改善される見通しは依然厳しいこと変わりありません。新連立政府は緊縮政策の実行期限を2年間延長するとの決定をしましたが、欧州連合にはこの延長により、追加の資金援助が出ることを懸念する向きもあり、今後の交渉の難航が予想されます。

6月28日からの欧州連合首脳会議に先立ち、6月22日に開かれたドイツ、フランス、イタリア、スペインの4カ国首脳会議で、欧州連合域内の成長戦略に充てるために、欧州中央銀行を通じて1200億―1300億ユーロの資金を供与することで基本的に合意しました。従来、ドイツのメルケル首相はメンバー国の財政規律政策が最も重要としていましたが、緊縮策だけでは南欧を中心とする経済の悪循環問題は解決できず、フランスのオランド大統領の提案を受け入れる形になりました。

また、スペインにおける商業銀行の資本不足問題に関連して、スペイン政府は約620億ユーロの資本増強が必要とされる状況を踏まえ、6月28日から開かれた欧州連合首脳会議で銀行支援を欧州連合各国に正式に申請しました。既に支援する用意があることを表明していた欧州連合は、欧州金融安定基金(EFSF)や7月に発足予定の欧州安定メカニズム(ESM)を通じて、スペイン政府機関である銀行再編基金(FROB)へ資金を融資する予定です。なお、スペインの商業銀行の資本不足問題に関連して、欧州連合内部で“銀行同盟”設立の議論が出ていますが、従来各国の政府・中央銀行が担っていた銀行監督権限を欧州連合に移管することには各国にとっては主権譲渡の問題もあり、具体的な創設に向けた提案を年内にまとめることになりました。

加えて、財政再建に取り組んでいる国に対しては、厳しい条件を課すことなく、欧州安定メカニズムの資金を通じてその国の国債を買い支え、金融市場の安定化を図ることで合意しました。会議では“ユーロ共同債”も話題になりましたが、信用度の高い国の実質的負担が増加する共同債には依然ドイツなどの反対が強く、今後の検討課題となりました。

こうした合意により、6月29日の米国株式市場ではダウ価格の終値が278ドル高という大きな上昇を記録しました(但し、第2四半期の実績では約3.3%下落)。

“銀行同盟”や“ユーロ共同債”の構想は現在の問題を改善させていく方法であることは間違いありませんが、それは欧州連合が各国の主権を共同体組織に譲渡するという政治統合に向かって進むことであり、現時点ではどのメンバー構成国でも大多数の国民はそれを望んでいない状況にあります。この点、現在の通貨統合がもたらしている欧州連合のメンバー国の問題解決には理論的に政治統合が望ましい解決策であるにしても、どのようにして構成メンバーの国民の多くを納得させていくかも、今後の大きな課題になると思います。

3.米国経済の現況と見通し
米国連銀は19日と20日に開かれた公開市場委員会で、6月末で期限が切れる予定の長期金利を下げるための金融緩和措置(ツイスト・オペレーション)を6ヶ月間延長することを決定しました。連銀議長はこの理由として、米国経済の見通しが2012年の成長率が4月の2.65%から2.15%に落ちてきていること、失業率も7.91%から8.9%に悪化するなど改善のペースが鈍ってきていることを上げています。また、記者会見では今後経済状況がさらに鈍化するような場合には、追加の緩和策を取る用意があることを伝えました。それと同時に、現在の状況を改善するには金融政策だけでは十分ではなく、適切な財政政策が必要であることを伝えました。但し、具体的な財政政策については、議長は従来と同じように、政治的影響を懸念して具体的な言及を避けました。なお、質問の中に、米国経済が流動性の罠に陥っている日本の状況と比べるものがありましたが、議長は現在のような超低金利状態ではこれ以上の金利政策には限界があるものの、量的緩和策は依然有効であり、日銀もそれを用いているはずと回答していました。

4.JPモルガンチェースCEOの公聴会
6月13日に上院銀行委員会で、6月19日に下院金融サービス委員会で、5月10日に金融商品取引で約20億ドルの損失を出したことを発表したJPモルガンチェースのダイモン最高経営責任者(CEO)が出席し、今回の損失問題に関する公聴会が開かれました。今回の事件はリーマンブラザーズ破綻後の金融規制改革法との関係で、更なる規制の強化が必要になるかどうかで注目されましたが、ダイモンCEOは最高投資運用オフィス(CIO)の取引担当者がリスクを理解しておらず、チェック機能も十分に働かなかったために起きたもので、例外的であること、更に、今回の損失があったとしても、4月―6月の決算では依然利益が見込まれていることを強調しました。新たな規制は必要でないとする共和党議員の多くはダイモンCEOの意見に賛意を与えていましたが、民主党議員の中には今回の取引がリスク回避のためのヘッジ取引ではなく、大きな利益を狙おうとした投機取引の結果ではないかとの質問を行ないました。ダイモンCEOはあくまでもヘッジ取引であると回答しましたが、同時に両者の区別はビジネスの性格上、困難なものとのコメントも加えました。

しかしながら、公聴会のテレビ中継後に、こうした金融投機取引ビジネスに詳しい専門家はJPモルガンチェ-スがリーマン破綻後の数年間に渡って、このような投機取引で大きな利益を上げていたのではないか、利益の大きさから内部監督の甘さが生じ、それが今回の大きな損失につながったのではないかとの疑問を投げかけていました。これに関連して、6月18日号のBloomberg  Businessweek 誌は、JPモルガンチェースの元CIO幹部の発言として、ダイモンCEOが2005年にCIOを創設して以来、投機取引による利益確保を奨励していたことや度重なる警告にも拘らず、こうした投機取引を拡大させていったことを明らかにしました。

現在のように、米国の多くの企業に多額の余剰資金がある時に、商業銀行が伝統的な貸し出し業務で多くの利益を上げることは困難な状況ですが、その一方、それを理由に預金を前提とする商業銀行に大きな投機取引を認めることは1929年の大恐慌や2008年のリーマンブラザーズ破綻のような事件を再び繰り返す事態になりかねず、そのことがオバマ政権にボルカー・ルールを含めた金融規制改革法を2010年7月15日に成立させた背景でした。いずれにしても、今回のJP モルガンチェースの損失事件は投機性の高い取引額の大きさや欧州市場の金融不安定さから、損失が更に拡大する恐れもあり(6月28日付のNew York Times紙は最悪90億ドルに達する恐れがあるとの記事を掲載)、金融機関、特に大手商業銀行に対する規制強化の議論が高まることは避けられないように思われます。

5.最高裁による米国医療改革法の合憲判決
2010年3月に成立したオバマ政権の米国医療改革法では医療保険料を下げるためには国民の加入義務が不可欠となっていますが、これまで共和党系の26の州で国民への加入義務は違憲との判決が出ていたこともあり、オバマ政権はジョージア州の高裁判決を対象に連邦最高裁に上訴しました。判決前は最高裁判事が共和党大統領によって5名が指名されていることから、共和党側の主張を受け入れ、国民の加入義務は政府の権限を越えるとの理由で違憲判決が出されるとの見方が大方予想されていました。しかし、6月28日の最高裁判決では、ロバーツ最高裁長官が義務違反の罰金を政府による税金とする限り、違憲ではないと判断したため、5対4の僅差で合憲とされました。オバマ政権は連邦政府には州際通商取引については連邦政府が罰金を課せるとの立場を取っていましたが、ロバーツ長官はその立場を取らず、政府の一般課税権によるものとの判断を下しました。

この背景には米国医療改革法には①既往症者への保険取り扱い差別の禁止、②26歳までの若者は親の保険への加入可能、③医療保険における生涯保険受領額の上限禁止など、既に多くの米国民が恩恵を受け始めており、加入義務条項を理由に違憲判断を下せば、国民生活への悪影響が大きいとの判断があったものと見られます。さらに、従来より、米国最高裁判所は政治色が強すぎるとの批判があったことから、最高裁長官としては中立的な法律論の立場で判断する必要性を感じていたのではないかとも指摘されています。

いずれにしましても、今回の合憲判決は単に再選を目指すオバマ大統領にとってプラスの効果を与えるだけでなく、先進国の中で最も後れている医療保険制度を持つ米国が立法面や行政面だけでなく、司法面でも一歩前進したことで大きな意味があると思います。特に、最高裁の合憲判決後、下院の民主党リーダーであるペロシー議員(前の下院議長)が国民皆保険を悲願としていた故エドワード・ケネディ前上院議員もこれで安心できるのではないかと述べていたことが印象的でした。

6.ウィスコンシン州知事リコール選挙とロムニー候補の指名獲得
一部で、11月初めの大統領選挙の前哨戦と言われた6月5日のウィスコンシン州知事のリコール選挙で、現職の共和党のウォーカー知事が53%で、民主党のバレット候補の46%を破りました。しかし、その直後に行われた同州の大統領候補支持率調査ではオバマ候補が52%、ロムニー候補が45%で、オバマ候補が7%のリードとなっていました。これについて、知事の不正行為とかの理由でないにもかかわらず、リコール投票が行われたことに対して州民の6割近くが賛成でなかったとの報道が出されています。同時に、ウィスコンシン州知事リコール選挙では共和党のウォーカー候補が他州にある政治色の強い企業からの多額献金を集めて使った費用が30.5百万ドルで、民主党のバレット候補が使った費用の3.9百万ドルに比べ、 7倍以上の違いがあったことが選挙結果に大きな影響を与えたとの指摘も出されています。

これに関連して、州内の選挙に他州の企業や団体が無制限の資金を使って介入することを禁じたモンタナ州の最高裁判所の決定を6月25日に5対4で連邦の最高裁判所が覆す決定を行ないました(前述の医療保険改革法に対する最高裁の判決と異なり、この判決は従来と同じように、最高裁の判決が極めて政治色の強いものとなりました)。

共和党の大統領指名選挙に関連して、6月26日に最後のユタ州の予備選を終えて、ロムニー候補が代議員総数の66%にあたる1512人を獲得、8月のフロリダでの党大会で正式に指名を受諾することになりました。ロムニー候補が共和党の氏名争いで、他の候補とは決定的に異なったのは資金力の豊富さであり、他の候補は途中で選挙活動を断念せざるを得ませんでした。特に、現在、共和党大統領によって指名された判事が過半数の最高裁判所の判断で、選挙支援団体の資金集めには金額の制限がないとしたことが、ロム二―候補の指名獲得においても大きな結果をもたらしたことは注目される必要があると思います。

その反面、ロムニー候補の民間企業での実績に関連して、6月21日付のワシントンポスト紙は、彼が責任者であったBain Capitalが投資した企業の多くが生産施設やサービスの拠点を中国やインドなど外国に移し、米国での雇用が失われていることを明らかにしました。米国での雇用増加が大統領選挙の争点の一つになっている時に、大きな影響力を持つワシントンポスト紙にこのような記事が掲載されたことはロムニー候補にマイナスの影響を与えることは避けられないものと見られます(ワシントンポスト紙はロム二―候補側の抗議に対して、記事の内容には裏づけがあるとの理由で応じなかったと報道されています)。
              (2012年7月1日:   村方 清)

Friday, June 1, 2012

矛盾が深まる欧州危機と不安定さが続く米国市場



 









1.5月の株式市場
5月の株式市場は、欧州でフランスの政権交代に加え、ギリシャでの政権与党が過半数を取れず、6月17日に再選挙になるなど政治的な混迷が広がったことや米国での経済指標に悪化要因が見られたことから下落傾向を強めました。市場の大きな動きは以下のようなものでした。

5月1日:4月の製造業景況感指数が市場予想に反して、3月の53.4%から54.8%に増加したことから、ダウ価格は66ドル高(0.50%増加)。
5月4日:政府発表の雇用統計によれば4月の失業率は8.1%に減少したものの、非農業部門の雇用者増が11.5万人で予想の17万人を下回り、景気の不透明感から、168ドル安(1.27%減少)。
5月7日:6日のフランス大統領選挙やギリシャ総選挙で、財政規律を重視する現政権への国民の反対が強いことが判明、今後の見通しが不透明になったことから、30ドル安(0.23%減少)。但し、欧州株式市場はギリシャを除き、すべて上昇。
5月8日:ギリシャの政局混迷で、再び欧州危機の懸念が強まり、75ドル安(0.59%増加)。
5月9日:ギリシャの政局混迷から欧州連合の金融支援が一部遅れるとの情報やスペインの金融システムへの懸念から、97ドル安(0.75%減少)。
5月11日:昨日の取引終了後、JPモルガンが金融派生商品への過剰な投資から、現時点で約20億ドルの評価損を発表したことやギリシャの混迷で、34ドル安(0.27%減少)。
5月14日:ギリシャの政局混迷やJP モルガン・チェースの巨額損失による金融規制強化の警戒から、125ドル安(0.98%減少)。
5月15日:ギリシャの再選挙で欧州連合離脱の観測が出るなど、欧州への懸念から、63ドル安(0.50%減少)。ギリシャの銀行からの預金引き出しが7億ユーロに達したとの報道。
5月17日:ギリシャ問題がスペインの金融機関の格下げなどスペインに波及したことや米国景気の先行き懸念が伝えられ、156ドル安(1.24%減少)。
5月18日:格付け機関がギリシャの金融機関の引き下げたこと等、欧州債務問題の懸念が強く、73ドル安(0.59%減少)。6日連続の下げで、週間では451ドル安。
5月21日:ギリシャの債務問題の警戒感が弱まったこと、中国の景気後退懸念が和らいだことなどから、7営業日振りに反発、135ドル高(1.09%増加)。
5月25日:スペインの金融システムへの警戒感が高まり、75ドル安(0.6%減少)。
5月29日:中国政府の景気刺激策への期待感やギリシャのユーロ離脱観測が和らいだこともあり、126ドル高(1.01%増加)。2週間振りの高さ。
5月30日:スペイン政府の資金調達難やギリシャ選挙懸念から、161ドル安(1.28%減少)。

また、多くの投資家の関心を引いていたフェイスブックが5月18日にナスダックに上場しました。欧州市場の混乱とJP モルガン・チェースの約2億ドルの投機取引損失等といった市場の悪条件もあり、終値は公開価格の38ドルを多少上回る38.23ドルで終わりました。しかし、それ以降は下がり続け、5月末の株価は29.60ドルドルまで下落(6%減少)、新規上場の難しさを改めて認識させました。

2. 矛盾が深まる欧州危機
5月6日に大統領選挙が実施されたフランスでは、社会党のオランド候補が51.67%、現職のサルコジ大統領が48.33%で、予想された通り、オランド候補の勝利となりました。オランド候補は財政規律を強化するEU新条約を見直し、成長を促進する条項を主張していますが、既に25カ国が署名済みの新条約を見直すことは現実的ではないと言えます。但し、欧州の成長戦略策定に対してはドイツのメルケル首相も前向きと言われ、問題はどのような政策を優先させるかにあると見られます。オランド候補は追加の財政政策が必要との立場であるのに対し、メルケル首相は労働市場の構造改革や規制緩和で成長を促進したいとの考えで、今後両国でどのように調整していくかが鍵になっています。

一方、ギリシャは欧州連合からの資金支援を条件に、緊縮財政政策を受け入れた全ギリシャ社会主義運動(PASOK)と新民主主義党(ND)の連立与党はNDが改選前の72議席から108議席へ増加させたものの、PASOKが改選前の129議席から41議席へ大幅に減少し、過半数を失いました。その後、最初に第一党となったNDが、次に第二党となった急進左派連合(SYRIZA)が、最後にPASOKが連立政権を試みましたが、多数派を形成することはできませんでした。これにより、ギリシャは6月17日に、再び総選挙を行うことになりました。総選挙の結果がどのようなものになるにせよ、ギリシャの根本的な問題はギリシャの経済力からして、共通通貨ユーロに留まることのマイナス面が大きすぎることにあります。元来経済基盤が弱く、国際競争力のないギリシャが共通通貨ユーロの導入により、一層経済力を弱めた結果、更なる財政赤字を招き、緊縮政策と引き換えに欧州連合やIMFからの資金援助が必要になったものの、返済はできず、再び緊縮政策の緩和と債務削減の追加を求めるなど悪循環を繰り返しています。同じような困難な状況にある欧州連合メンバー国のアイルランドが欧州連合からの資金支援に対して、緊縮政策を受け入れ、何とか改善を目指している状況を考えれば、ギリシャの選択は緊縮政策を受け入れるか、あるいは欧州連合を自ら離脱するしか打開の道はないように思われます。

加えて、5月後半には深刻な不動産向け不良債権問題に陥っているスペインの大手銀行に対する投資家の懸念が強まり、欧米市場に不安定な動きを与え続けています。5月25日にスペイン政府は経営危機に陥っている大手銀行バンキアに対して190億ユーロの国債注入による資本増強案を発表しましたが、この前提には欧州中央銀行の資金支援が必要であり、欧州中央銀行から否定的な反応を受け、未だに解決の見通しがついていません。スペイン政府の10年もの国債金利が7%に達している現状では、スペイン政府に自力で追加の国債調達をする余裕はなく、欧州中央銀行からの資金支援以外に方法がないのが実態です。

いずれにしましても、現在の欧州連合は共通通貨ユーロの導入による相互の経済発展を図るという当初の目的から離れ、メンバー国の自国内部の経済困難さから、他のメンバー国がユーロ維持のために救済措置を検討・実行する組織に変わってしまっているように見られます。この点、欧州連合のあり方について根本的な見直しが必要な時期に来ているように思われます。

3.ロム二―候補の経済政策(雇用拡大効果は?)
経済回復と雇用拡大を目指す現職のオバマ大統領の経済政策は、1月の一般教書や経済教書、さらに雇用拡大法案やインフラ投資法案などで、明らかにされています。しかし、ロム二―候補の場合、討論会やスピーチを聞く限り、減税や規制緩和などを通じた民間企業指導型の経済への転換を求めているものの、現在の米国のようにリーマン破綻後の深刻な住宅不況や急速なグローバル化による構造変化が進んでいる中で、どのように経済成長や雇用増加を図ろうとするのか具体的な提案がなされていません。大きな方向としては、財政支出をGDPの20%以内にしたり、軍事費をGDPの4%に引き上げるなどを提案しており、1981年に誕生したレーガン大統領の政策に近いと見られます。当時の状況はそれまでの政府指導型経済が結果として、高率インフレと経済停滞が並存するスタグフレーションをもたらしており、小さな政府による市場経済優先の経済政策がある程度の効果を与える状況にありました。

しかしながら、今回の金融不況は行過ぎた規制緩和が、大手金融機関による米国住宅不動産モーゲージの過度な証券化を生じさせ、それが崩壊した後の構造的住宅不況が主因となっています。そうした状況の中で、ロム二―候補がスピーチで主張するように、住宅の需給に徹した市場原理を導入すれば、住宅物件価値の一層の下落から、不況が一段と深刻化するリスクが高まります。これに関連して、5月11日のニューヨーク株式市場終了後、米国最大手商業銀行のJP モルガン・チェースがロンドンオフィスで、デリバティブ取引で約20億ドルの損失を生じたことを発表しましたが、商業銀行には投機的取引を制限させるボルカー・ルールの早期適用が極めて重要です(本来あるべき姿は、1999年に廃止された銀行業務と証券業務の分離を定めた1933年のグラス・スティーガル法の復活にあるかも知れません)。しかし、これについても、ロム二―候補は規制強化に反対の立場を取っています。

一方、雇用拡大策についても、コストの安い発展途上国に生産やサービスのグローバル化が進む中で、いかにして米国内の雇用を増加させるのかの具体的な政策がロム二―候補から示されていません。彼がビジネスで成功させたプライベート・エクイティのBain Capital社であれば、投下資本の最大効率化のために、リストラや生産設備の海外移転で効率化を図ることができますが、大統領や州知事は国や州の従業員の雇用確保と雇用拡大が優先課題であり、彼のBain Capitalでの実績は殆ど役に立ちません。ちなみに、彼が州知事を務めたマサッツセッツ州では彼の在任中、全米で雇用創出数が全米で37位から47位に後退したという事実があります。

共和党の支持者の多くは、ロム二―候補あるいはライアン下院議員が掲げる小さな政府に基づく企業減税や富裕層減税に賛成しているのかもしれませんが、マクロで米国が抱える現在の経済成長や雇用拡大問題は減税と規制緩和で改善できるものではなく、そうした政策を優先させれば、ブッシュ政権時に生じた同じ問題が繰り返されるように思います。

現在の米国経済にとって問題なのは、経済回復や雇用拡大には金融面だけでなく、財政面からの刺激策が必要であるにもかかわらず、連邦議会、特に下院があまりに古すぎる“小さな政府”をイデオロギーとして主張するティーパーティー・グループに強く影響され、オバマ政権の提案をことごとく拒否していることです。

4.両院での多数派を狙う共和党
2010年の中間選挙で共和党の躍進をもたらし、その後、連邦議会、特に下院に大きな影響を与えたティーパーティー・グループが今回は上院で穏健派とされる共和党議員の再選を阻止すべく、大きな運動を起こしています。最初にターゲットにされたのがインディアナ州選出のルーガー上院議員で、共和党穏健派の重鎮として、党派を超えた米国外交政策の課題に取り組んできたことがティーパーティーの強い批判を受け、5月10日の共和党候補選挙の指名を獲得できませんでした。また、ネブラスカ州では州の上院議員を務めたフィッシャー候補がティーパーティー・グループの支援を受け、共和党候補となりました。

加えて、共和党が多数派を占めている州の多くで、選挙民が実際の選挙を行うに際しては本人である公的証明書の提示を義務づける法案を可決するなど選挙資格を厳密化しており、結果において従来の民主党の基盤である貧困層の投票が制限される恐れが出てきています。

この点、仮に11月初めの大統領選挙で、現職のオバマ大統領が再選されても、両院が共和党の多数支配になる可能性もあり、米国政府の政策実行が現在以上に難しくなる懸念があります。本来、世界の民主主義の模範となるべき米国政治が急激に変わってきていることに対して、UC バークレーのライシュ教授(クリントン第1期政権の労働長官)が、最近“Beyond Outrage”という本を著し、少数のグループによる利益支配の構造が進んでいるのではないかとの強い懸念と米国民の自覚を呼びかけているのは大変興味深いことです。
            (2012年6月1日: 村方 清)