Wednesday, July 1, 2015

ギリシャ問題で大幅調整が続く株式市場















1.6月の株式市場
6月の株式市場はギリシャ支援をめぐるギリシャ政府とEUとの交渉状況によって上下の変動を繰り返しましたが、月末になりIMFからの借り入れが債務不履行の懸念が強まるにつれ、株式市場の悪影響が一段と拡大しました。主要な動きは以下の通りでした。

6月3日:ECBが定例理事会で緩和的金融政策を発表、ADPの5月民間雇用レポートで201,000人の増加、4月の貿易赤字が19%減少したこと等で、64ドル高(0.36%増加)。
6月4日:ドイツの長期金利が一時1.0%を越えるなど債券市場の不安定さから、欧州の株価指数が下落、米国の株式市場も売りが優勢で、171ドル安(0.94%減少)。
6月5日:政府発表の5月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比280,000人増で市場予想の210,000人増を大きく上回り(失業率は5.5%から5.6%へ上昇)、米連銀の金利引き上げが意識されたため、売りが優勢で、56ドル安(0.31%減少)。
6月10日:ギリシャへの金融支援の進展が期待されたことや原油先物相場が上昇したことで、236ドル高(1.33%増加)。
6月12日に:欧州連合とギリシャ金融支援をめぐる交渉が難航し、欧州市場で株式市場が大幅安となり、米国でも投資家が運用リスクが避けたことから、141ドル安(0.78%減少)。
6月15日: ギリシャ金融支援の先行き不透明感から欧州株が下落、米国株式市場も売りが優勢となり、108ドル安(0.60%減少)。
6月16日:17日のFOMC会合を前に、前日までの大きな下落相場を買戻しする動きが優勢で、113ドル高(0.64%減少)。
6月17日:FOMC会合後、年内の利上げ開始の可能性が引き続き意識される一方で、利上げペースは緩やかになるとの見方から、買いが優勢で、31ドル高(0.17%増)。
6月18日:FRBによる金融引き締めが緩やかになるとの期待から、幅広い銘柄に買いが入り、180ドル高(1.05%増加)。5月28日以来の水準を回復。
6月19日:連日上昇とギリシャ問題の不透明感で売りが優勢で、100ドル安(0.55%減少)。
6月22日;ギリシャの債務問題をめぐる協議が前進するとの期待が広がり、欧州市場が上昇。これを受けて、米国市場も投資家心理が改善、104ドル高(0.58%増加)。
6月24日;前日まで株価が連日上昇していたことやギリシャ支援合意の不透明感が増したことで、178ドル安(0.98%減少)。
6月25日:ギリシャ支援問題の財務相会議が結論を持ち越しで、76ドル安(0.40%減少)。
6月29日:ギリシャの金融支援をめぐる動きが難航、6月30日に期限が来るIMFへの借り入れ返済が不履行になる恐れが増し、世界的な大幅下落から、350ドル安(1.95%減少)。
6月30日:前日の大幅安から、ギリシャの新提案に対するEU側の反応が期待されたが、受け入れないことが決定され、23ドル高(0.13%増加)。IMFへの借り入れ返済は不履行。

2.米国の雇用状況
米労働省が6月5日に発表した5月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比280,000人の増加で、市場予想の210,000人増を大きく上回りました。なお、3月の雇用者数の確定値は119,000人で34,000人が増加、4月の改定値は221,000人で2,000人が減少しました。この結果、5月までの3ヶ月間の雇用者数は月平均207,000人となり、雇用目標の200,000人台を維持しました。5月の失業率は前月の5.4%から0.1%上昇して5.5%となりましたが、これは労働参加率が0.1%増加し、62.9%になったことが影響したためと見られます。また、フルタイムの職を見つけられず、パートタイムにある労働者を含めた広義の失業率は前月の同様に10.8%に留まりました。 時間当たりの賃金上昇率は2.3%で2013年以降最大となりました。部門別では民間のサービスセクターが63,000人、ヘルスケア関係が47,000人、建設関係が17,000人の増加となったものの、エネルギー関係では減少が続き、鉱山や採掘関係は17,000人の減少となりました。今回の雇用状況の改善を受けて、市場関係者の間では今後も改善が続けば、連銀は年内にもゼロ金利政策から金利引き上げに転換する可能性があるとの見方が出てきています。 5日の株式市場は雇用関係の改善を受けて、将来の金利引き上げの懸念から、ダウは56ドル安となりました。

3.FOMC会合の決定
6月16日と17日にFOMCが開かれました。会合の声明文では、米国経済は1-3月期にマイナス成長に陥った後は緩やかな拡大が続いているとし、雇用者数も上向き傾向にあり、労働資源の未活用は幾分低下したとしました。一方、インフレ動向についてはエネルギー価格および輸入物価の下落を背景に伸び率が低位にとの従来の認識を示しつつ、エネルギー価格の一層低下によるインフレ率低下への懸念は緩和されたとの見方を伝えました。

今後の中期見通しについては、15年のGDP伸び率は1-3月期に悪天候の影響を受けてマイナス成長に陥ったことに伴い、1.8-2.0%で、3月時点の予測であった2.3-2.7%を大きく下回りました。但し、16,17両年の成長率は上向きに微調整しました。なお、失業率は景気回復に伴って労働参加率が上昇する可能性を踏まえ、5.2-5.3%へ若干引き上げました。インフレ率は1.3-1.4%で前回予測と変わりありませんでした。

その上で、最大雇用と物価安定に向けた持続的な進展を支援するためにフェデラル・ファンド((FF)金利を現行の0-0.25%に維持することが妥当との見方を再確認、更にこの目標水準をいつまで維持するかの決定に際しては、労働市場の更なる改善とインフレ率が目標の2%へ戻っていくという合理的な確信が得られた段階で行なうのが適切との見解を改めて示しました。イエレン議長の記者会見では、最初の利上げ時期を必要以上に重要視すべきでないこと、金利政策はかなり長く緩和的であり続けるとして、利上げペースが緩やかになることを重視すべきとしました。なお、会合後の株式市場は年内の利上げ開始の可能性が引き続き意識される一方で、利上げペースは緩やかになるとの見方から、株の買いが優勢で、31ドル高となりました。

3.米最高裁、オバマケアによる補助金支給を合憲判断
米連邦最高裁判所は6月25日にオバマケア(米医療保険制度改革法)に織り込まれた補助金支給の是非について争われた裁判で、支給継続を認める判決を言い渡しました。オバマケアは医療保険に未加入の低所得者が民間の医療保険購入者に政府が補助金を支給する制度ですが、法律では州政府の独自の保険取引所を通じた保険購入者が対象だったために、野党の共和党知事の34州が保険取引所を開設せず、その州の住民の多くは連邦政府が開設した取引所を通じて保険を購入し、連邦政府の補助金を受けていました。

このため、オバマケアの反対派は州政府の取引所を開設していない補助金は打ち切るべきと主張、最高裁に判断が委ねられていました。もし、最高裁が反対派の主張を認めれば、米連邦議会が法律を改正するか州政府が行動を起こさない限り、約640万人に対する補助金が打ち切られる恐れがありました。最高裁は6対3の多数意見で、オバマケアは州独自の保険取引所を開設した州の住民だけでなく、連邦政府の取引所を使っている34州の住民に対する支給も認めているとしました。この判決では、リベラル系の裁判官4人だけでなく、保守系のロバーツ長官と他の1人の裁判官も合法との判断を下しました。

この判決について、オバマ大統領は5年前に導入された米国の医療保険は少数の特権ではなく、全国民にとっての権利となったが、今回の判決で定着するとの見方を表明しました。同時に、共和党のミシガン州知事なども今回の判決で不透明さがなくなったとの歓迎するコメントを出したことをLA Times紙は伝えています。最高裁の判決を受けて、米国株式市場では病院経営やヘルスサービス、保険関連の銘柄が大きく上昇しました。

4.ギリシャ支援問題の破綻
ギリシャのチプラス首相は6月27日に同国に対する金融支援の条件をとしてEUから求められていた財政支援策について、7月5日に国民投票を実施することを発表、同時に6月末に迫った金融支援の延長を求めました。これに対し、EU側は同日に開催されたギリシャを除く18カ国の財務相会議でギリシャ側の延長要請を拒否、ギリシャが6月30日にIMFに支払うべき約15億ユーロが実質上、債務不履行となりました(IMFは“延滞”としました)。

ギリシャがEUに加盟したのは1981年ですが、統一通貨ユーロを使い始めたのは2001年以降で、ギリシャ国民にとっては自国通貨であるドラクマより価値が高いユーロを使用できることにより、EU内の高品質な製品を買えることになり、高い消費生活が維持されるなどのメリットがありました。一方、EU最大の経済国であるドイツなどにとっても、ギリシャなど通貨価値の低い国がメンバーになることによって、EU外の国々に対して共通通貨ユーロの価値が低下することによってドイツの製品の競争力が高められるなどのメリットがありました。しかしながら、自国通貨より価値の高いユーロを維持するためには、ギリシャ経済の生産性が上昇していくことが必要で、それがなければ、外国政府や金融機関からの借り入れが増えていくことになります。ギリシャの国民にとって不幸であったのは、自国通貨より高い価値のあるユーロを国内で使っていくことに伴う経済的な負担義務が十分に認識されないことでした。さらに、2004年にアテネで開催されたオリンピックで財政赤字が拡大、2009年10月までそれを隠すという粉飾を続けてしまいました(1993年11月に発効したマーストリヒト条約によって、ユーロの加盟国は一般政府の財政赤字をGDP比で3%以内に収めることが義務付けられています)。

これに対し、EU側はギリシャの財政赤字削減を前提として、2010年5月の1100億ユーロの支援を初めとしてこれまで総額2400億ユーロの支援を実行、財政赤字も次第に改善されていく状況にありました。しかしながら、財政削減に伴うギリシャ国民の犠牲も大きく(実質賃金は40%近く下がるなど)、これが今年1月の総選挙で、財政削減の全面的な見直しを求める急進社会主義政党SRIZAの大勝を引き起こし、チプラス政権の誕生となりました。チプラス政権の主張は年金など実質賃金を更に減少させる財政削減はこれ以上認められないというもので、追加の資金援助継続には更なる財政削減が必要とするEU側との交渉を6月末まで続けたものの、合意に達しませんでした。そして、チプラス政権は先週の27日に今後の交渉は国民投票にかけるとの声明を出すことになりました。

本来、競争力の強いドイツなどにとっては、ギリシャへ支援しても自国経済に戻る利益がそれを上回る限り、支援を継続は実施するという立場でしたが、最近は支援額が増加し続け、これ以上はギリシャ自身の更なる改善努力が必要との姿勢を強めることになりました。

これに加えて、チプラス政権が交渉上の戦略として使っているのがギリシャの地政学的重要性で、共産圏に対する安全保障や自由主義の砦としてEUはギリシャへの支援協力を行なうべきとの立場にあるとされます。この立場は現在ロシアと鋭く対立する米国政府の一部にもあるようです。しかし、難しいのは果たして現在のロシアにEUに代わってギリシャを支援するだけの財政余力があるのかという現実的な評価であると思います。

いずれにしても、EUとしては7月5日のギリシャの国民投票の結果を踏まえて、ギリシャ問題への対応を決める必要が出てきています。
        (2015年7月1日: 村方 清)

Monday, June 1, 2015

金融正常化で調整が見込まれる米国の高値相場














1.5月の株式市場
5月の株式市場は米国経済の回復が当初見込んだほど順調なものではなく、好不調の経済データや米主要企業の四半期業績が交錯する中で、金融正常化を前に高値相場にある株式市場の不安定さが目立つ展開となりました。主要な動きは以下の通りでした。

5月1日:前日に急落したバイオ製薬株やハイテク株に戻しの買いが入ったことで、投資家心理が改善、184ドル高(1.03%増加)。
5月4日:ユーロ圏のPMIが上方修正され、欧州株が上昇したことから、米国株も買いが優勢で、46ドル高(0.26%増加)。
5月5日:米商務省発表の3月貿易収支は約514億ドルの赤字で、前月比43.1%の大きさに拡大、2008年10月以来の大きさとなったことから、1-3月期のGDP改定値もマイナスになることが予想され、米国経済の減速が意識されて、142ドル安(0.79%減少)。
5月6日:米連銀議長の株価の割高発言とADPの4月雇用レポートが4月雇用者数の増加が市場予想の200,000人に対して169,000人に留まったことで、86ドル安(0.45%減少)。
5月7日:欧米の国債利回りの上昇が一服したことや前日まで2日間連続で下落したことの反動から、82ドル高(0.46%増加)。
5月8日:政府発表の4月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比223,000人増で市場予想の224,000人増とほぼ一致(失業率は5.5%から5.4%へ低下)、緩和的な金融政策が続くとの見方が広がり、267ドル高(1.49%増加)。
5月11日:米国の10年債利回りが一時4ヵ月半振りの高い水準となったことによる警戒感と先週末に大幅高になったことで利益確定の売りが優勢で、86ドル安(0.47%減少)。
5月14日:政府発表の週間新規失業申請件数が264,000件で予想の275,000件を下回ったことやドイツの10年物国債利回り低下から米国長期金利も低下、192ドル高(1.06%増加)。
5月15日:5月の消費者態度指数が前月の95.9から88.6へ大幅に低下、4月の工業生産も市場予想を下回る0.3%減少など悪化したが、長期金利が低下し、20ドル高(0.11%増加)。
5月22日:4月の消費者物価指数(CPI)の中で、コア指数が前月比0.3%増となったことで、FRBの利上げを行いやすくなったとの警戒感が出て、54ドル安(0.29%減少)。
5月26日:4月の耐久消費財受注額が前月より増加、FRBによる年内の金利引き上げやドル高が意識され、190ドル安(1.04%減少)。
5月27日:前日までの大きな下落の反動とギリシャ債務問題の合意が近いとのニュースから、欧州主要国の株価が上昇したことで、121ドル高(0.57%増加)。
5月29日:第1四半期のGDP改定値が0.2%増から0.7%減に下方修正や5月のシカゴPMIが4月の52.3から46,2に大幅に低下、米国経済回復の弱さが認識されたことやギリシャ問題の不透明感も広がり、115ドル安(0.64%減少)。

2.米国の雇用状況
米労働省が5月8日に発表した4月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比223,000人の増加で、市場予想の224,000人増とほぼ一致しました。なお、2月の雇用者数の確定値は264,000人で2,000人が減少、3月の改定値は85,000人で41,000人が減少しました。この結果、4月までの3ヶ月間の雇用者数は3月分の鈍化を反映して、190,000人強に留まる見込みです。4月の失業率は前月の5.5%から0.1%減少して5.4%となり、2008年半ば以降、最も低い水準になりました。また、フルタイムの職を見つけられず、パートタイムにある労働者を含めた広義の失業率は前月の10.9%%から10.8%へ低下しました。なお、労働参加率は62.8%へ0.1%増加しました。部門別ではエネルギー関連が11,000人、鉱山関係が15,000人の減少であったものの、民間のサービスセクターが62,000人、建設業関係が45,000人、政府関係が10,000人の増加となりました。なお、3月の雇用統計を受けた週明け8日の株式市場は雇用関係の改善を前向きにとらえて、ダウは267ドル高となりました。

3.FOMCの4月議事録要旨と連銀議長の講演
FRBは5月20日に、4月28-29日に開催されたFOMCの議事録要旨を公表しました。それによると、多くの参加者は米経済が第1四半期の減速の後に緩やかに拡大し、労働市場も改善すると見ているものの、6月までの経済指標が利上げの条件が整ったとするだけの確信をもたらす可能性は低いとしました。また、議事録要旨では、不安定な国債市場への懸念も挙がり、特に利上げ開始時に長期金利が急上昇する可能性が不安視されました。その一方、ドル高や原油価格下落が反転しつつあることにも関心を示し、ドル下落やエネルギー価格の上昇が物価を押し上げ、利上げを促す要因となることも示しました。今回の議事録要旨を踏まえ、市場関係者の間でも、今後利上げがあるとしても、それは9月以降になるとの見方が支配的になっています。なお、この日の株式市場への反応は限定的で、前日まで最高値を更新してきたこともあり、ダウ平均は27ドルの下落となりました。

また、22日に、イエレン連銀議長がロードアイランド州で行なった講演で、消費や投資の減速で一時的な景気の減速が避けられない一方、こうした一時的要因が薄れるに従い、景気データも強くなり、年内のある時期に利上げの最初の段階に進むのが適切との見方を明らかにしました。特に、中期的な見通しについては、米生産と雇用の伸びが強まり、インフレ率も予想以上に高くなるとの強気の姿勢を示しました。この日のダウはイエレン議長の講演に先立ち、CPIのコア指数が2011年以来初めて0.3%の増加を示したことから、市場に連銀利上げの警戒心が出たこともあり、57ドル安となりました。

現在のFRBのジレンマは、労働市場の改善は進んでいるものの、マクロ経済の改善は当初予想通りには進んでいないこと、物価上昇率も目標の2%水準に向かっているとは言えないなど、不透明さが目立つことです。その一方、2008 年11月以降長期に続く金融緩和策は初期段階では実体経済にも好影響を与えたものの、ダウ価格が最高値を更新した2013年3月以降は株価や不動産価格の過度な上昇をもたらし、実体経済との乖離が進んでしまったことです。本来、行過ぎた資産インフレには金利引き上げによる金融正常化が望ましいのですが、実体経済の弱さがタイミングを含めて金融関係者の判断を一層難しくさせていると言えます。4月28-29日に開催された連銀のFOMCの議事録で、当初考えられていた6月利上げの可能性が少なくなったようなトーンになっているのはこうした米国経済の先行き不透明感が大きくなっていることの現れと見られます。しかしながら、ゼロ金利政策を更に続ければ資産インフレが一段と加速する恐れもあり、連銀としてはイエレン議長も述べているように、年内のある時期に金利を引き上げるのではないかと思います。5月26日にニューヨーク市場でダウが190ドルも下落したのは金利引き上げの警戒感と金利引き上げに伴うドル高による米国企業の業績悪化が市場で強く意識されたためとされています。

4.停滞する米国経済と高すぎる株価との乖離
米国政府は5月29日に第1四半期のGDPの改定値を発表しましたが、4月29日の速報値の0.2%を大きく下回るマイナス0.7%に留まりました。昨年と同じく、一部地域では大雪による建設や輸送業界の低迷が影響しましたが、同時にドル高による貿易赤字の急増や原油価格の低下による石油関連業界の不振が主要な原因と見られます。また、GDPの約70%を占める個人消費はガソリン価格の低下を反映して、大きな伸びが期待されましたが、実際は1.2%の伸びに留まったことも停滞の原因となりました。第2四半期については多くのエコノミストは2%程度の成長を予想していますが、ドル高や原油価格の低下が続いた場合、アトランタ連銀のように0.8%程度との見方も出ています。いずれにしても、米国経済は当初米国連銀が予想したような改善には向かっていないように思われます。

中央銀行による量的緩和策やゼロ金利政策の問題点は前々から述べているように、グローバル化の影響を著しく受けている実体経済の状況の中で、そうした政策を続けても実体経済への効果は限定的であること、その一方、金融緩和策は株価や不動産価格の上昇をもたらすものの、それは実体経済の改善を伴っていないため、実体経済と資産インフレの乖離が進むという問題が発生することになります。米国は連銀による過度な金融緩和策が2008年9月のリーマンブラザース崩壊に見られる金融危機を招いた大きな原因でしたが、現在再び連銀による長期間の大規模な量的緩和策やゼロ金利政策が実体経済と資産インフレの乖離という大きなリスク問題を抱えることになりました(一部の貪欲な米国投資家は経済の停滞を口実に、更なる株価上昇のために一層の金融緩和を望んでいますが)。それに加えて、先進各国による金融緩和策はタイミングの違いから通貨安競争を起しやすく、最近では金融正常化に向かうはずの米国はドル高による企業の業績悪化問題に直面するようになっています。

いずれにしても、異常な金融緩和策はいつまでも続けられるものではなく、金融正常化政策に転換すれば、米国が既に経験しているように資産インフレや通貨安に大きな調整要因を与えることになりますが、こうした正常化に伴う調整問題の認識が現在大規模な量的緩和策を実行中の日本や欧州市場で、非常に弱いことが(量的緩和策に強い懸念を示すドイツなどを除き)、今後の大きな課題になってくるものと思われます。

5.ギリシャ債務支援問題
ギリシャ政府は5月11日に返済期限が迫っていた7億5000万ユーロについて、6億5000万ユーロをギリシャ政府がIMFの口座に預けている緊急準備金から取り崩し、残りの1億ユーロはギリシャ政府の現金準備金から引き出すことで、解決しました。しかしながら、ギリシャ政府の資金繰りは4月20日発表した地方公共団体や政府機関に対する余剰金のギリシャ中央銀行への移管で6月末までの資金は一時的に確保されていますが、6月末から7月中には資金が枯渇するものと見られ、2月末から6月末まで延期された72億ユーロの金融支援についてEU側から合意を得られるかどうかにかかってきています。

EU側は支援の前提として、財政の根本的改善のためには公務員削減や年金改革が不可欠としているのに対し、こうした分野についてはEU側に全面的な見直しを求めることを選挙公約にしてきたチプラス政権との間の隔たりが依然大きいことです。6月18日に予定されるユーロ圏財務相会議までに両者の合意が成立するかどうかが鍵となっていますが、現状では予断を許さない状況です。
           (2015年6月1日:  村方 清)


Friday, May 1, 2015

実体経済の停滞と高値相場の不安定化















1.4月の株式市場
4月の株式市場は米国経済の回復が当初見込んだほど順調なものではなく、好不調の経済データや米主要企業の四半期業績が交錯する中で、高値相場にある株式市場の不安定さが目立つ展開となりました。主要な動きは以下の通りでした。

4月1日:ADPリポートで3月非農業部門雇用者数が前月比18万9000人増で市場予想の22万5千人を大きく下回ったことやISM発表の3月米製造業景況感指数も51.5で前月比1.4ポイントと大きく低下、米景気の先行き不透明感が高まり、ダウ平均価格は78ドル安(0.44%減少)。
4月2日:週間の新規失業保険申請件数が市場予想に反して20,000件減少して268,000件となったことや2月の製造業受注も増加、前日まで続落した反動もあり、65ドル高(0.37%増加)。
4月6日:休日の3日に発表された3月の雇用統計の低迷を受けて、FRBによる利上げ開始が先延ばしとの見方や原油先物相場の大幅上昇から、買いが優勢で、118ドル高(0.66%増加)。
4月9日:原油先物相場の下げ止まりや欧州市場の株高を受けて、56ドル高(0.31%増加)。
4月10日:欧州市場が大幅に上昇したことや株主配分策を発表したGEが10%強上がったことから、99ドル高(0.55%増加)。
4月13日:米主要企業の四半期決算発表を前に、ドル高による海外ビジネスが大きな企業の業績悪化が懸念され、81ドル安(0.45%減少)。
4月14日:原油先物相場の上昇を受けて米国石油大手企業の買いが増加したことやJPモルガンの四半期業績がよかったことから、60ドル高(0.33%増加)。
4月15日:欧州の株高や原油高に加え、インテルなどの米大手企業の四半期決算が好調で、ドル高懸念が和らいだこともあり、76ドル高(0.42%増加)。
4月17日:ギリシャの債務問題や中国政府の新たな措置による中国株の需給不安問題が重なり、279ドル安(1.54%減少)。
4月20日:中国人民銀行が預金準備率の引き下げによる金融緩和策を発表したことや原油先物相場が下げ渋っていることから、市場が好感し、209ドル高(1.17%増加)。
4月21日:四半期業績が不振だったデュポンやトラベラーズなどが大きく下落、ドル高による大手企業の業績悪化が意識され、85ドル安(0.47%減少)。
4月22日:3月の中古住宅販売件数が前月比で市場予想を上回ったことや中国市場の参入が認められたビザの収益期待などから、89ドル高(0.49%増加)。
4月27日:バイオジェンなどのバイオ関連株の下落に加え、28日からのFOMC会合を控え、当面の利益確保の売りが優勢で、42ドル安(0.23%減少)。
4月28日:FOMCの会合を前に製薬大手メルクの四半期決算が好調で、72ドル高(0.4%増加)。
4月29日:1-3月期GDP速報値は前期比年率で0.2%増加に留り、米国経済の回復をめぐる警戒感が強まったこと、FOMCの声明もほぼ予想通りだったことで、75ドル安(0.41%減少)。
4月30日:3月の個人消費支出が前月比0.4%増で市場予想を下回ったことや新製品の“アップルウオッチ”に欠陥があったアップル株が3%近く下がったことで、195ドル安(1.08%減少)。

2.米国の雇用状況
米労働省4月3日に発表した3月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比126,000人の増加で、市場予想の245,000人を大きく下回りました。なお、1月の雇用者数の改定値は201,000人で38,000人が減少、2月の改定値は264,000人と31,000人が減少しました。この結果、2015年第1四半期の雇用者数は197,000人で、2014年第4四半期の289,000人から大きく減少しました。なお、3月の失業率は前月の5.5%で変わりませんでした。また、フルタイムの職を見つけられず、パートタイムにある労働者を含めた広義の失業率は前月の11.0%%から10.9%へ低下しました。なお、労働参加率は前月の62.8%から62.9へ増加しました。部門別ではエネルギー関連が11,000人、鉱山関係が30,000人の減少で、ホワイトカラーのビジネスサービスが40,000人の増加でした。なお、3月の雇用統計を受けた週明け6日の株式市場は、連銀の金利引き上げが遅れるのではないかとの見方から、ダウは118ドル高となりました。

3.FOMC会合と連銀のジレンマ
4月28日と29日に開かれた連銀のFOMC会合では、1-3月期のGDP速報値が前期比年率0.2%増と急速に減速したことを受け、冬季の一時的要因による経済減速であるものの、労働市場の未使用もあまり変化していないとの認識を示しました。こうした状況を踏まえ、今後の金利引き上げの時期について、雇用に更なる改善が見られた時として、具体的な時期を明言しませんでした。このため、当初は6月に予定されていた金利引き上げについてはより慎重になっているようなスタンスが見えます。2008年11月以降に3回に渡って実施してきた量的緩和策は昨年10月に終了させましたが、ゼロ金利政策は続けており、マクロ経済面での改善が期待されていますが、実態は株価や不動産価格の高騰といった資産インフレ効果に留まっています。連銀が長期に、かつ大規模な金融緩和策を実施してきながら、実体経済の改善が限定的に留まっていることについては、従来から指摘してきたように、構造的な面を考えていく必要があるように思われます。

米国などの先進国における実体経済の低迷やデフレ化は先進国の大手企業のグローバル化により、中国を中心に発展途上国に資本と技術が供与されたことによる世界的な供給過剰現象が生じていることが原因とされます。そして、当初段階ではグローバル化は先進国の大手企業に多くの恩恵をもたらしたものの、現在は中国政府などの長期に渡る巧みな外資導入政策(51%の支配権維持の継続など)により多くの恩恵が中国の企業や富裕層に移る反面、多くの先進国では経済不振による高率失業と巨額の財政赤字に苦しむ結果になっているように見られます。そして、米国ではサブプライムローンの証券化ビジネスが破綻した後に、連銀は金融市場の回復を主たる目的として2008年11月以降、ゼロ金利政策と同時に3回に渡る量的緩和策を導入しました。しかし、金融面に重点を置いた量的緩和策は株価と不動産価格の上昇という資産インフレ効果は大きく現れたものの、マクロ経済に与える効果は限定的で、加えて富裕層とそれ以外の層との格差の拡大を一層大きくさせてしまったように思われます。一部には所得格差の拡大が個人消費中心の先進国の経済停滞の一因になっているとの見方もあります。現在、米国のウオール街の投資家の中には、マクロ経済の弱さを理由に連銀によるゼロ金利政策の継続が必要と主張する人達もいますが、実体経済と株価の乖離が一層進んでしまっている今日の状況で、今後もゼロ金利政策の継続が本当に必要かどうかは大きな疑問とせざるを得ません。

グローバル化が中国の富裕層にもたらした恩恵と見られる最近の例は、米国の一部地域における中国投資家による不動産購入で、その影響を強く受けた私が住むArcadia市はBloomberg/Businessweek誌でも取り上げられたように、全く不動産市場が変わってしまいました。高額な物件は中国人投資家による現金買いで大半が決まってしまい、ローカルな米国住民が購入することが殆ど不可能な状況となっています。また、中国人投資家が古い家を購入後、建物を壊し、巨大な邸宅を建て、他の中国人に売っていくケースも少なくありません。マクロ経済の回復には限界的な主要国の中央銀行による金融緩和策が世界の株式市場のみならず、不動産市場も過熱させているともいえます。

3.ECBの量的緩和策とギリシャ問題
ECBは4月15日の理事会で月額600億ユーロの国債などを購入する量的緩和策の継続と同時に政策金利を過去最低の0.05%で据え置くことも決定しました。理事会後の記者会見で、ドラギ総裁は理事会後の記者会見で、量的緩和策について、企業の資金調達コストが下がり、資金需要が高まっていることを強調しました。また、量的緩和策によって、ユーロ安が持たされることから、EU内の成長率は0.2%から0.5%押し上げられるとの見方もあります(4月29日の欧州市場は、ドイツの4月消費者物価指数が前年比0.3%増と市場予想の0.2%を上回り、EU圏の購買担当者景気指数(PMI)も50を大きく上回っていることから、量的緩和策の縮小論も出るなどして、株安、債券安、ユーロ高が起きました)。

但し、EU内でドイツは経済が好調であるものの、フランスとイタリアの成長率は依然低い状態にあります。加えて、ギリシャ支援をめぐる動きも、当初は4月末までの合意を目指してきたものの、現時点では合意の着地点が未だに見えない状況です。

ギリシャ政府とEUとの支援条件の交渉が難航する中で、ギリシャ政府の資金繰りが極めて厳しくなっていることが伝えられています。4月20日にはギリシャ政府が地方自治体や政府機関に対し、予備財源などの余剰資金は中央銀行に移管することを命じる緊急政令を出しましたが、
これは4月分の公務員給与や国民年金の支払いに備えるためとされています。これに対し、地方自治体からは強い反対の声が出ています。ギリシャ政府は5月12日にIMFに対する7億700万ユーロの返済をしなければならず、前日に予定されるユーロ財務相会議で、ギリシャからの本格的な財務改革案が示されるかどうかが鍵となっています。

こうした中で、4月25日付けの英国エコノミスト誌は“On the Gredge”(崖ぶちに立つギリシャ)という記事の中で、3つの理由からギリシャのユーロ離脱は避けられないのではないかと見方を取っています。その1はEUメンバーの中で、ギリシャ新政権に対する不信が急速に高まっていること、2はギリシャの離脱に伴う市場の影響は限界的なものに留まると見られること、3は新政権の政治基盤が弱く、交渉しても実効性を確保できないことを挙げています。いずれにしても、ユーロという単一通貨は経済力が近い国々が構成して初めて成立するものであり、深刻な財政赤字を抱えていたギリシャが早い段階でEUメンバーになったことに根本的な問題があったように思います。
          (2015年5月1日:  村方 清)

Wednesday, April 1, 2015

金融正常化を前に調整が続く高値相場












 

1.3月の株式市場
3月の米国株式市場は雇用情勢の改善を受けて、連銀がゼロ金利政策から金利引き上げによって金融正常化に向かう可能性を示していることから市場も不安定化、FOMC会合の時期を挟んで 調整が繰り返される展開となりました。主要な動きは以下の通りでした。

3月2日:ISMが発表した2月の米製造業景況感指数が52.9で前月比0.6ポイント低下、1月の建設支出や個人消費も減少したにもかかわらず、米景気回復への期待からダウ平均価格は156ドル高(0.86%増加)。ナスダックは15年振りに5000ドル越え。
3月3日:イスラエルのネタニヤフ首相の米議会両院合同会議での演説で、イランをめぐる地政学リスクが意識されたことや前日までにダウ価格が過去最高値を更新したことから、売りが優勢で、85ドル安(0.47%減少)。
3月4日:2月のADPリポートで非農業部門雇用者数が前月比21万2000人増で、市場予想を下回ったことや高値圏での利益確定売りが優勢で、106ドル安(0.58%減少)。
3月6日:政府発表の2月の雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比295,000人増で市場予想の240,000人を大きく上回り(失業率は5.7%から5.5%へ低下)、FRBが利上げに動きやすくなったとの観測が広がり、279ドル安(1.54%減少)。
3月9日:前週末の大幅下落の反動で、戻りを見込んだ買いが優勢であったことやアルコアやサイモンの大型買収の動きを受け、139ドル高(0.78%減少)。
3月10日:ドルがユーロや円/dx/async/async.do/ae=P_LK_ILTERM;g=96958A90889DE2E6E3E5EBE7E5E2E3E4E2E1E0E2E3E29BE0E2E2E2E2;dv=pc;sv=NXなどの主要通貨に対して大幅上昇、米企業業績の圧迫懸念から売りが加速、333ドル安(1.85%減少)。下げ幅は今年最大(昨年10月9日以来の大きさ)。
3月12日:前日までの2日間での相場の大幅減少の反動と2月の米小売売上高が前月比で0.6%減少したことからFRBが利上げを急がないとの見方が浮上、260ドル高(1.47%増加)。
3月13日:原油先物市場での下落に加え、ドル高による海外事業の比率が高い企業への影響が懸念され、146ドル安(0.82%減少)。
3月16日:外国為替市場で先週のユーロ売り・ドル買いからユーロ買い・ドル売りが優勢となり、米企業業績への不安がやわらいだことにより、228ドル高(1.29%増加)。
3月17日:原油先物相場の下落に加え、18日からのFOMC会合を前に、目先の利益を確定する売りが優勢で、128ドル安(0.71%減少)。
3月18日:/dx/async/async.do/ae=P_LK_ILTERM;g=96958A90889DE2E6E3EAE2E2E4E2E3E4E2E1E0E2E3E29BE0E2E2E2E2;dv=pc;sv=NXFOMC会合後の声明文やイエレン議長の記者会見を受けて、金利利上げの時期の遅れやペースが緩やかになるとの見方に変わり、大幅下落から227ドル高(1.27%増加)。
3月19日:原油先物相場の下落やドル高の基調、さらに昨日の大幅上昇の反動から売りが優勢で117ドル安(0.65%減少)。
3月20日:欧州市場で金融緩和策の継続から軒並み上昇したことや米連銀もゼロ金利解除後の金利利上げペースが緩くなるとの期待から、169ドル高(0.94%増加)。
3月24日:2月のCPIが前月比0.2%上昇したことや2月の新築住宅販売件数が大きく増加したことから、連銀の金利引き上げやドル高への懸念から、105ドル安(0.58%減少)。
3月25日:2月の米耐久財受注が市場予想に反する前月比1.4%減で、一部金融機関が1-3月期のGDP見通し引下げに動くなど米景気の警戒感が高まり、293ドル安(1.62%減少)。バイオ製薬株に高値警戒感が強まり、ナスダックは2014年4月以来の118ドル安。
3月30日:医療・製薬関連で大型の合併や買収の発表が相次いだことや前週の相場下落の反動から、264ドル高(1.49%増加)。
3月31日:原油安やドル高に加えて、前日の急伸の反動から利益確定の売りが優勢となり、200ドル安(1.11%減少)。

2.米国の雇用状況
米労働省が3月6日に発表した2月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比295,000人の増加で、市場予想の240,000人を大きく上回りました。なお、12月の雇用者数の改定値は329,000人で変わらず、1月の改定値は239,000人と18,000人が減少しました。同時に、2月の失業率は前月の5.7%から5.5%へ下落、2008年5月の水準まで回復しました。また、フルタイムの職を見つけられず、パートタイムにある労働者を含めた広義の失業率は前月の11.3%%から11.0%へ低下しました。なお、労働参加率は前月の62.9%から62.8%へ減少しました。1月の賃金上昇率は3セントの上昇となりました。部門別では建設業が29,000人、製造業が8,000人の増加で、政府部門も7,000人の増加となりました。なお、この日の市場は雇用の著しい改善が連銀の金利引き上げ時期が早まるのと市場の懸念が高まり、279ドルの大幅安となりました。

3.FOMCと金融正常化への転換時期
3月17日と18日にFOMCが開かれました。会合の声明文では、1月の会合以降、経済成長がいくらか和らいだこと、労働市場の状況は雇用が堅調で、失業率が低下、未活用な労働資源が引き続き減少していること、インフレは主にエネルギー価格の下落を反映し、FOMCの長期的な目標からさらに低下したことを伝えました。しかしながら、インフレは短期的には低い水準に留まるものの、労働市場が改善し、エネルギー価格の下落やその他の要因がもたらす一過性の影響が消えるにつれ、インフレは2%に向かって徐々に上昇すると見込んでいるとしました。

その上で、最大雇用と物価安定に向けた持続的な進展を支援するためにフェデラル・ファンド((FF)金利を現行の0-0.25%に維持することが妥当との見方を再確認、更にこの目標水準をいつまで維持するかの決定に際しては、労働市場環境の尺度やインフレ期待の指標、金融や国際情勢に関する諸指標を考慮するとしました。一方、4月のFOMC会合でFF金利の目標水準を引き上げる公算は少ないと判断していることも表明しました。

また、FOMCは保有する政府機関債と住宅ローン担保証券で元本の償還期限のきたものについて、償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する既存の政策を維持するとしました。

FOMC後のイエレン議長の記者会見での主要な質疑応答は以下の通りでした。
①.“忍耐強く”の文言削除の意味
FF金利の誘導目標の引き上げが正当化される可能性はあるが、そのタイミングはFOMCが今後入手する情報をどのように評価するかによっている。
②.ドル高と連銀の見通し
ドル高が輸出の伸びを鈍化させていることを確認している。また、ドル高は輸入物価抑制の一因ともなっている。その一方、ドル高は米経済の力強さを一部反映している。
③.インフレとエネルギー
インフレ率はエネルギー価格の下落を反映し、FRBの長期目標を下回る水準までさらに低下している。さらにドル高による輸入物価の下落もインフレ率の上昇を抑制している。しかし、こうした一時的な要因がもたらす影響が消失し、労働情勢の一段の改善に伴い、インフレ率は中期目標の2%に向け、緩やかに回帰すると想定している。
④.6月の利上げ可能性
本日に文言修正によるフォファードガイダンスの変更は、FOMCが利上げ開始時期を決定したことと解釈されるべきではない。文言変更は6月に利上げを開始することを意味しないが、その可能性も排除できない。
⑤.ポートフォリオの規模縮小
利上げを開始後、債券の再投資を縮小あるいは停止するまでどの程度時間がかかるかは現時点では決まっていない。状況の進展を見て、委員会があらためて検討し、後に決定する。
今後数年間でバランスシートから大量の国債が消えていく。向こう2年間に約8000億ドルが満期を迎えることになっており、この方法でポートフォリオの規模を縮小していくことを見込んでいる。

18日の株式市場は、FOMC会合の声明文発表やイエレン議長の記者会見前までは、100ドルを越える下落相場となっていたものが、議長の説明によって、ゼロ金利政策の転換時期の遅れや利上げペースの緩やかさが市場の安心感を誘い、取引終了時には228ドル高と大きく反転しました。

現在、米国の株式市場は2つの大きな不安定要因を抱えているように見られます。その一つは連銀の長期に渡る大規模な量的・質的緩和策によって、米国の経済実態を遥かにこえる高値相場が米国に形成されたことであり、二つは日本および欧州が大規模な量的緩和策を導入したことにより、金融正常化に向かうべき米国において、海外ビジネスの大きなウエートを占める大手企業にとってはドル高による業績悪化が懸念される状況になっていることです。これら二つは本来、連銀が2008年11月にバーナンキ連銀議長とイエレン副議長の下で量的緩和策が導入されて以降、予想されているべき性格のものであり、2013年5月にバーナンキ議長が記者会見で示唆したように、量的緩和策の縮小を早期に実施し、金融正常化への道を一歩踏み出していれば、今日ほどの警戒はなかったように思われます。いずれにしても、バーナンキ議長の後を継いだハト派のイエレン議長の下で行なわれるべき金融正常化には高値相場の下落調整が伴いますが、それは株式市場の健全化には避けて通れないものと思われます。

4.ECBの量的緩和策実施
ECBは3月5日に理事会を開き、主要政策金利を現行の0.05%に据え置くと同時に、1月の理事会で決定した量的緩和策について9日より実施することを正式に決定しました。量的緩和策はユーロ加盟国19カ国が発行する国債やEU傘下の公的機関が発行する債券などの金融資産を月額600億ユーロ購入するもので、対象期間は今月から2016年9月までとしています。

また、量的緩和策が導入されたことによる経済見通しとして、EU内の成長率を2015年を1%から1.5%へ、2016年を1.5%から1.9%へ引き上げ、物価上昇率を2015年は0.7%から0%へ下がるものの(実績ベースで、2月はマイナス0.3%で、過去3ヶ月連続でマイナス)、2016年は1.3%から1.5%へ上昇するとしました。

しかしながら、デフレ脱却を狙う今回の量的緩和策が実際にどの程度の効果があるのかは、既に量的緩和策を実施した米国や日本の経験からすれば決して容易なことではないように思われます。その一方、量的緩和策がユーロ安をもたらすことは間違いなく、これがドイツやフランスの輸出を後押しし、成長率を引き上げる可能性はあります。その意味では量的緩和策は中央銀行間の通貨安競争を加速させ、量的緩和策終了を決めた米国にとってはドル高が米国企業の業績を悪化させるリスクが生じていると言えます。
        (2015年4月1日: 村方 清)

Sunday, March 1, 2015

問題先送りの欧州市場と金融正常化に慎重な米国市場


















1.2月の株式市場
2月の株式市場は2月末に期限が来るギリシャへの金融支援に関するEU内の話し合い動向により市場が変動する一方、米国は議会証言で連銀議長の金融正常化への慎重姿勢から株価の更なる上昇が見られるなどバブル化が強まりました。主要な動きは以下の通りでした。

2月2日:原油先物市場で一時1バレル50ドル台を回復したことやエクソンなどの大手石油会社の四半期決算で純利益が市場予想ほど減少せず、196ドル高(1.14%増加)。
2月3日:原油先物市場でWTIが急伸し約1ヶ月ぶりの水準になったことやギリシャのチプラス政権がEUとの本格的な金融交渉を始める見通しとなり、305ドル高(1.76%増加)。 
2月4日:取引終了の間際にかけて、ECBがギリシャ国債について金融機関への資金供給の担保受け入れを停止したと発表、投資家がリスク回避姿勢を強め、7ドル高(0.04%増加)。
2月5日:原油先物相場が上昇したことや週間の米新規失業申請件数が市場予想を下回ったことなどから、投資家心理が改善、212ドル高(1.2%増加)。
2月6日:政府発表の1月の雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比257,000人増で市場予想の230,000人を上回ったが(失業率は5.6%から5.7%へ上昇)、昨日までの上昇を受けて目先の利益確定の売りが優勢で、ギリシャ問題も意識され、61ドル安(0.34%減少)。
2月9日:ギリシャの金融支援についてEUとギリシャ政府の交渉の難航が伝えられたことや中国の貿易収支の縮小で、95ドル安(0.53%減少)。
2月10日:ギリシャの債務問題について、ギリシャ政府とEUとの交渉が進展するとの見方が浮上、投資家心理が好転し、140ドル高(0.79%増加)。
2月12日:ウクライナの東部地域の停戦に関する独仏ロとウクライナの4カ国首脳会議の合意で地政学リスクが和らいだことや週間新規失業保険申請件数の増加による連銀の早期金利引き上げが遠のくとの見方から、110ドル高(0.62%増加)。
2月17日:ギリシャがEUに対し融資延長を求めるとの見方が出て、28ドル(0.16%増加)。
2月19日:原油先物市場が下落したことや1月の米景気先行指標総合指数が先月から伸び悩んだことなどから、44ドル安(0.24%減少)。
2月20日:EUの財務相会議で2月末に期限が来るギリシャへの金融支援を4ヶ月延長することを合意したことで市場心理が好転、155ドル高(0.86%増加)。
2月24日:イエレン連銀議長の上院銀行委員会で、早期の金利引き上げに慎重な姿勢を示したと受け取られ、買いが優勢となり、92ドル高(0.51%増加)。
2月26日:原油先物相場の大幅下落で石油株などが売られ、10ドル安(0.06%減少)。
2月27日:米政府発表の2014年10-12月GDの改定値が2.2%へ低下したことやシカゴ購買部協会の2月PMIが45.8と市場予想を大きく下回ったことで、82ドル安(0.45%減少)。

2.米国の雇用状況
米労働省が2月6日に発表した1月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比257,000人の増加で、市場予想の230,000人を少し上回りました。また、11月と12月の改定値も423,000人と329,000人へ上方修正されました。また、12月の失業率は前月の5.6%から5.7%へ上昇しましたが、これは求職者の増加によるものと見られます。なおフルタイムの職を見つけられず、パートタイムにある労働者を含めた広義の失業率は前月の11.2%から11.3%へ増加しました。また、労働参加率も62.7%から62.9%へ増加しました。また、1月までの12ヶ月間の賃金上昇率は2.2%の上昇となりました。部門別では一番増加したのは小売業の45,900人で、次いで建設業の39,000人、製造業の22,000人となりました。なお、政府部門は10,000人の減少となりました。

3.2016年会計度予算教書
オバマ大統領は2月2日に2016会計年度の予算教書を議会に提出しました。それによると歳入総額は景気回復や増税の実行を見込んで3兆5250億ドル、歳出総額は3兆9990億ドルで、財政赤字は4740億ドルで15年会計年度に比べ2割の減少を見込んでいます。これに伴い、GDPに対する財政赤字の比率は15会計年度の3.2%から2.5%に低下、今後10年間は2.5%で安定的に推移するとしています(この前提となる経済見通しは15年の実質GDPを3.1%、16年を3.0%に置いています)。今回の予算の特色は大企業や富裕層への増税を盛り込む一方、教育や育児支援では中間層を後押しし、また企業の海外で得た利益の課税強化を図ることにより、インフラ投資拡充への財源としています。なお、これらの増税措置が認められた場合、法人税の実効税率を現行の35&から原則28%に引き下げることが可能としています。

この予算案に対し、共和党は大企業や富裕層への課税強化は小さな政府の政策に反するもので、民間活力を生かした独自の予算案を用意するとしています。但し、法人税の引き下げやイスラム国を始めとする新たな脅威に対抗する国防費の増額などでは一致できる点もあるとしています。

4.FOMCの1月議事録要旨とFRB議長の議会証言
米連銀は2月18日に1月27-8日に開催されたFOMCの議事録要旨を公表しました。それによると、底堅い米経済(注1)と弱含みの海外情勢をどのように見るかについて話し合いを行い、中国経済の減速と中東やウクライナの不安定な情勢が、米経済の成長身見通しにリスクになると言及しました。同時に米国のインフレ期待低下も不安視され、物価上昇率が依然として低いことが利上げ開始の判断にどの程度影響するかも議論されたとしています。いずれにしても、会合では利上げの開始時期は経済情勢次第との姿勢を維持、早い段階での利上げには慎重な声が上がり、議事録では多くの参加者は時期尚早の利上げが実体経済や労働市場の底堅い回復に水を差したり、物価と雇用の目標水準までの進展を妨げることがないようにしたいとしています。
(注1)米商務省が2月27日に発表した2014年10-12月期のGDP改定値は2.2%で速報値の2.6%から下方修正されましたが、これは企業の在庫積み増しの減少によるもので、引き続きGDPの約70%を占める個人消費は4.2%増であり、大きな懸念はないとの見方が一般的でした。

イエレン連銀議長は24日に上院の銀行委員会で、25日に下院の金融サービス委員会で半期に1度の議会証言を行ないました。その中で3月と4月の2回のFOMCでは利上げ判断は難しいこと、6月の会合あるいは7月の会合で利上げの決定は可能であるとしました。さらに、利上げ前にはFOMCの声明を修正するが、その後2回以内の会合で利上げを決定するとは限らないとして、声明の修正で早期利上げの憶測が広がらないように釘をさしました。いずれにしても、イエレン議長は経済指標を踏まえて適切と判断した場合にのみ、利上げに踏み切ることを示唆し、利上げ時期について明確な言質を与えることを避けました。

なお、注目されていた議会による連銀の監督強化については、上院の委員長や委員からその必要度が提唱されましたが、イエレン議長自身は現行の会計検査院の監督で十分ではないかとの回答でした。また、連銀の金融政策にテーラールールのような基準を用いてはどうかとの下院の委員長の質問に対しても現在のような経済状況では一つの基準ではなく、多くの角度からの判断が重要であるとのコメントでした(注2)。
(注2)これに対し、多くの基準を用いれば適切な金融判断が遅れ、資産バブルの拡大などマイナス面がより高まる恐れがあるとの金融専門家達の指摘があります。

5.ギリシャへの金融支援4ヶ月延長と改革案承認
2月20日に開かれたEU財務相会議で、ギリシャに対する現行の金融支援を4ヶ月延長することで合意したことを踏まえ、ギリシャ政府は財政構造改革の第1次リストがEU側に24日に提出しました。その内容は国内の富裕層への課税強化、脱税や租税回避の摘発、燃料・たばこの密輸入取り締まり強化などで、歳出削減は含まれていないとされています。

ギリシャ政府はこうした対策で年間で20億から25億ユーロの歳入増が見込まれるとしています。EU側は今回の第1次リストを承認しましたが、同時に24日のEU財務相会議ではギリシャ政府に対して、第1次リストに続き、4月末までに広範囲な財政改革策を合意することが必要との態度を取っており、今後厳しい交渉が予定されています。特に、最大の債権国であるドイツはギリシャ政府が従来の財政緊縮策を基本的に継続することが条件としており、全面的な見直しを選挙公約にして勝利したチプラス政権との間でどのように妥協していくのかは依然見通しが立たない状況です。 

2009年に非公表の巨額公的債務がギリシャ政府にあることが判明して以来、何度も繰り返されてきたギリシャ問題は現在新たな局面を迎えているように思います。純粋に経済学的な視点からすれば、経済力の弱いギリシャがEUの統一通貨に加わったこと自体が間違いであり、その後問題のあるたび毎に救済措置を講じてきたものの、価値の高いユーロを維持するための条件はギリシャ国民の多くにとって負担が大きすぎるということだと思います。
その一方、EU発足の政治的な理由やギリシャの離脱に伴う混乱とEUの威信低下の観点から、ギリシャの残留を望む声があり、これが再び今回の一時的な合意となったように思います。
しかし、現在、政治的な状況という点ではギリシャやスペインだけでなく、EUの中心メンバーの一つであるフランスなどでも反EUを掲げる右翼政党やグループの影響力が拡大しており、今年に選挙を予定しているメンバー国の中には彼等の意向が強く示されてくる可能性があります。いずれにしても、EUはメンバー国間の経済格差が一層広がってきており、そうした状況下で共通通貨ユーロの価値維持のための自国民の負担が大きくなればなるほど、現行のEUの制度を守り続けることが一層難しくなってくるように思われます。
        (2015年3月1日:  村方 清)