Wednesday, June 1, 2016

利上げを織り込み始めた米国市場
















 
1.5月の株式市場
5月の株式市場は引き続き、原油先物相場の上昇や中国経済の減速懸念が和らぐ一方、米国経済の緩やかな回復を背景に連銀の金利引き上げが意識され、株価の変動が大きくなりました。主要な動きは以下の通りでした。

5月2日:米国の4月ISM製造業景況感指数が前月の51.8%から50.8%へ低下したために、連銀の低金利政策の長期化するとの期待から、ダウ平均価格は118ドル高(0.66%増加)。
5月3日:中国製造業のPMIの悪化、オーストラリアの中央銀行による史上最低の金利引下げに加え、原油先物相場も下落して、140ドル安(0.78%減少)。
5月4日:ADPが発表した4月の非農業部門の雇用者数の伸びは156,000人で市場予想の193,000人に届かず、中国経済の減速にも警戒感が強く、100ドル安(0.56%減少)。
5月6日:米政府発表の4月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比160,000人増で市場予想の200,000人増を下回り(失業率は5.0%で変わらず)、緩和的な金融政策が長期化するとの見方から80ドル高(0.45%増加)。
5月10日:原油先物相場が上昇したことや中国の卸売物価指数が前年同月比3.4%下落と前月より下落幅が縮小し、中国の景気減速懸念が和らいだことで、222ドル高(1.26%増加)。
5月11日:ウォルトディズニーや百貨店大手メーシーなどの四半期業績が振るわず、個人消費株を中心に売りが広がり、217ドル安(1.21%減少)。
5月13日:原油先物相場の下落に加え、4月の米小売売上高は前月比1.3%増と市場予想を上回ったものの、小売企業の業績は低迷したところが多く、185ドル安(1.05%減少)。
5月16日:原油先物相場の上昇や著名投資家ウォーレン・バフレットの投資会社が第1四半期にアップル株を取得していたことからアップル株が急上昇、175ドル高(1%増加)。
5月17日:4月のCPIが0.4%増で市場予想を上回ったことや住宅着工件数の増加などによる米経済の改善から、FRBの利上げ先送りが弱まるとの見方で、181ドル安(1.02%減少)。
5月19日:ニューヨーク連銀総裁の追加利上げの可能性発言などに影響され、FRBによる早期利上げへの警戒からの売りが優勢で、91ドル安(0.52%減少)。
5月20日:世界市場の株高を受けて、下落基調の米国市場も買戻しが優勢となり、66ドル高(0.38%増加)。
5月24日:米新築住宅販売件数が前月比16.6%増の年ベース619,000戸と2008年1月以来の高水準となったことで、住宅市況の改善が確認され、213ドル高(1.22%増加)。
5月25日:原油先物市場の上昇や世界的株高の影響を受けて、投資家心理が改善し、買いが優勢となり、145ドル高(0.82%増加)。
5月27日:原油先物相場が下落、イエレン議長の利上げ含みの講演から下落に転じる場面もあったが、欧州市場の株高や1-3月期GDP改定値の上方修正で、45ドル高(0.25%増加)。
5月31日:4月の個人消費支出は前月比1.0%増と6年8ヶ月ぶりの高い伸びとなったことで、早期の利上げを見込んだ売りが優勢となり、86ドル安(0.98%減少)。

2.米国の雇用状況
米労働省が5月6日に発表した4月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比160,000人の増加で、市場予想の208,000人増を下回りました。また、2月の雇用者数の確定値は233,000人で12,000人の減少、3月の改定値は208,000人で7,000人の減少となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者数の平均増加数は200,333人で、依然として目標の200,000人を上回っています。なお、4月の失業率は前月と変わらず、5.0%に留まりました(広義の失業率は9.7%へ0.1%低下)。労働参加率は62.8%で、前月より0.2%減少しました。時間当たりの賃金上昇率は0.3%の上昇となりました。部門別では製造業が4,000人増加した一方、鉱山業が8,000人の減少、小売業も3,000人の減少となりました。

3.変貌する米国の小売業ビジネス
4月の米小売売上高は前月比1.3%増となりましたが、主因は販売が好調な自動車とオンラインショッピングであり、大手百貨店を含む伝統的な店舗ショッピングは不振が続いています。最大手のメーシーズは売り上げが7%の減少、高級店のノードストロムも1.7%の減少、中価格帯のコールズや低価格帯のJCペニーも其々3.9%と2%の減少となりました。こうした状況から、小売企業の業績悪化を反映して、5月13日のダウ平均価格は185ドル安(1.05%減少)となりました。

これに対し、アマゾンに代表されるオンラインショッピングは4月だけで2.1%の増加、年間では10.2%の増加となりました。一部の見方では、アマゾンの衣料品売り上げが2017年に1位になると予想しています。衣料品の店舗ショッピングが不振であるのはオンラインショッピングに比べ、労賃などのコストが割高になってしまうことに加えて、消費者の消費パターンが衣料品や靴などを購入するよりはケーブル、衛星テレビ、スマートフォンなどの通信サービスにより多くのお金を費やす傾向が広がっていることにも影響されています(衣料品などの支出は年率1%の伸びであるのに対し、これらのサービスに使う費用は年率5.1%の伸びを示しています)。

米国のGDPの約70%は個人消費ですが、店舗ショッピングからオンラインショッピングに大きく移行していく時に、それが経済成長や雇用に与える影響を分析していくことが必要になっています(今年1月15日に米国小売企業最大のウォールマートは全世界で269店舗、全米で154店舗の閉鎖を発表)。

4.連銀による利上げの可能性
5月18日に、連銀は4月26-27日に開催されたFOMCの議事録を公表しました。議事録では、今後発表される指標が第2四半期経済の最長加速を示し、雇用市場が改善を続け、物価上昇率が目標の2%に向かって前進するならば、6月の会合でフェデラルファンドレートの目標レンジを引き上げることが適切になるだろうとしました。

また、1-3月期の国内消費の低迷については、多くの委員は一時的な要因が理由であるとして、堅調な雇用創出や実質所得の増加、家計資産の改善から、低迷は持続しないと見ていました。加えて、世界経済と金融市場がもたらすリスクは和らいだとの認識で一致していました。

加えて、イエレン連銀議長が5月27日にハーバード大学での討論で、経済指標の改善が続けば今後数ヶ月以内に利上げが適切になるとの見方を示しました。この日に発表された今年1-3月期のGDP改定値は速報値の0.5%から0.8%へ上方修正されており、4-6月期についてもニューヨーク連銀の予測モデルでは2.9%を示すなど、経済成長の回復が見込まれています。加えて、個人消費についても、前述したように自動車とオンラインショッピングの好調さから4月の米小売売上高は前月比1.3%増を示し、27日に発表されたミシガン大学の5月消費者態度指数は速報値の95.8から94.7へ下方修正されたものの、昨年6月以来の高水準となりました。こうしたことから、早ければ、6月14-15日に開催される連銀のFOMC会合でフェデラルファンド(FF)の誘導目標を0.25%引き上げる可能性が出てきました。なお、市場関係者でも、株の投資アナリストで著名なJim Cramer氏は昨年12月の連銀による利上げに強く反対しましたが、5月27日には近い将来の利上げに賛意を示していました。

5.世界経済の構造変化
5月26日と27日に日本の伊勢志摩で開催された7カ国首脳会議で、議長国である日本の安倍首相は世界経済がリーマン危機の時と同じようなリスクがあるとの認識を提起しましたが、ドイツや英国の首脳さらにIMF専務理事からは必ずしも賛意が得られませんでした。

安倍首相がリスク判断の根拠としたのは2015年初め以降の石油など資源価格の急激な下落に加え、中国やブラジルなど新興国経済の急速な悪化のようですが、米国での一般的な見方とは大分異なっていると思われます。資源価格の下落や新興国経済の悪化の最大要因は米国の連銀が2008年11月以降導入した量的緩和策が2014年末に終了し、緩和政策による過度なマネーが作り上げた人為的な資源価格の高騰あるいは新興国の投機的な経済活動が急速に縮小し始めたことによるものです。それは米国で起きている資産バブルの調整と共に、過度(あるいは異常)な金融緩和策の終了に伴う金融正常化の当然の帰結であったように思われます。その意味では過度な金融緩和策の導入に際しては、常に金融正常化に戻るための出口戦力を用意しておくことが最も重要になるはずです(日銀も欧州連銀も現在出口戦略がなく、実体経済に大きな改善効果が見込めない金融緩和策を一段と強めるばかりで、今後の副作用による悪影響が深く懸念されます)。

一方、中国経済については中国が発展途上国から中進国になったことによる従来実行してきた共産党政権による国家主導型の経済運営が大きな転換期に来ていることだと思います。本来は市場経済原則を導入し、業績不振が目立つ国営企業の整理統合を図るべき時期に来ていると見られますが、それは共産党政権による経済運営の失敗と受け止められかねず、思い切った政策展開ができないというのが現状であると思います。

なお、日米欧の先進国経済、特に日欧が陥っている経済の停滞についてはニューノーマル(長期停滞)といった観点から見ておくことも必要ではないかと思います。この仮説を唱えたラリー・サマーズ元財務長官によれば、現在の経済では投資より貯蓄が好まれ、慢性的な貯蓄過剰が見られる状況になっており、過剰貯蓄は実質金利を押し下げ、弱い需要は低い経済成長の原因となり、インフレ率はターゲットを下回ることになると説明しています。また、こうした状況下で、完全雇用を実現するために金融政策を導入すれば、信用流入額があまりに膨大で、資産バブルを伴う金融市場の不安定化が避けられなくなるとしています。彼によれば、長期停滞下の一時的な経済回復は、持続不可能な信用創出と株や不動産の高騰という資産価格バブルによって実現されているものであり、量的緩和が終われば経済成長はまた低いレベルに押し下げられていくことになります。

こうした状況に対応するために、サマーズ氏が主張するのは行き過ぎた金融緩和策ではなく、民間貯蓄が民間投資を著しく上回っている場合には、政府は借り入れを負やし、より多くの投資をしなければならないとしています。特に、米国の場合、経済全体に対する政府のインフラ投資の割合が最も低い国であり、公共事業の拡大が必要であるとしています。彼の提案は財政赤字が順調に改善されていく米国には適用される余地があると思われます(但し、財政規律を強く求める共和党が連邦議会の多数派であるかぎり、財政際策の実行は容易ではないと現実もあります)。 その一方、政府債務がGDP比率で世界最大の日本あるいは高比率の南欧諸国を抱えるEUでは財政政策を積極的に実行できるような環境ではありません。

現在、先進国経済の低成長やデフレ化をもたらしている実体経済の最大要因は政治体制や経済原則が異なった国や地域まで拡大した企業の行過ぎたグローバル化であり、4の米小売業の変化で述べたようなITを活用した急激な技術革新であると思います。いずれも従来の雇用を奪う点では経済のマイナスであり、行過ぎたグローバル化や技術革新の見直しが必要があると思います(特に、中国の外資導入政策は未だに重要産業は中国側が51%の支配権を維持することを条件とされ、先進国企業に対する中国のライバル企業の育成や発展に主眼点が置かれているために、全体としてマクロ面で中国からの経済的脅威を受けることになります)。

しかしながら、反グローバル化や反技術革新だけでは政府・中央銀行による通貨安政策と同じように、その時の政府の政権維持のために生産性が低く、競争力のない衰退産業の保護対策になってしまうだけに、グローバル化の進展や技術革新の導入を前提としながら、先進国経済の構造を一層高い段階に進める必要があります。今回のサミットで、最も注目されたのはドイツのメルケル首相が提唱した市場における民間部門の構造調整、特に第4次産業革命、すなわちインターネットを活用した高度技術戦略を提唱していたことでした(ドイツ政府は財政規律と金融節度を前提としているために、政府の財政政策や中銀の金融緩和策への依存度は低い)。今後はITを使った産業や社会全体のシステム化を進めると同時に、そこで余った労働力は人と人の接触・対応能力が要求される医療や介護などのサービス産業に転換させていくような大規模な構造調整が必要になってきているように思われます。
        (2016年6月1日:  村方 清)

Sunday, May 1, 2016

実体経済を反映しない高値相場の不安定性

















1.4月の株式市場
4月の株式市場は、前半期では原油先物相場の上昇や中国経済減速の影響が和らいだことから上昇傾向が見られたものの、後半期は米国経済指標の低調さと四半期業績発表によりアップルなど不振が目立つ企業も多くなり、再び下落相場となりました。主要な動きは以下の通りでした。

4月1日:米政府発表の3月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比215,000人増で市場予想200,000人を少し上回ったことで(失業率は5.0%に上昇)、108ドル高(0.61%増加)。
4月4日:原油先物相場が下落したことや前週末に4ヶ月ぶりの高値を付けたことから、当面の利益確定の売りが優勢で、56ドル安(0.31%減少)。
4月5日:原油先物相場が下落したことや2月の貿易赤字が予想を上回ったことで、米国の景気減速を警戒した売りが優勢で、134ドル安(0.75%減少)。
4月6日:原油先物相場が上昇したことやFOMCの3月議事録要旨で利上げのペースが緩やかになるとの見方が確認され、113ドル高(0.64%増加)。
4月7日:原油先物相場が1バレル36ドル台後半まで下落したことや欧州主要株が軒並み下落したことで、米国株式も目先の利益確定の売りが優勢で、174ドル安(0.98%減少)。
4月12 日:原油先物相場の急伸でエネルギーや金融株が上昇、165ドル高(0.94%増加)。
4月13日:JPモルガンの1-3月期決算は減収減益であったが、1株利益が市場予想を上回った結果、金融株が軒並み大きく上昇、相場全体を押し上げ、187ドル高(1.06%増加)。
4月18日:主要産油国の原油増産凍結の合意がなく原油先物相場の下落があったが、下げ渋ったことやディズニーなどの四半期業績が好調で、107ドル高(0.60%増加)。
4月19日:大手医療保険のユナイテッドヘルスや大手医薬品・日用品のジョンソン&ジョンソンなどの決算や業績見通しがよかったことで、49ドル高(0.27%増加)。
4月20日:原油先物相場が上昇したことや四半期業績を発表したゴールドンサックスなどの金融株が大幅な上昇を示したことで、43ドル高(0.24%増加)。
4月21日:業績不振であった大手保険のトラベラーズと大手通信のベライゾン・コミュニケーションズが大きく下落、加えて最近の上昇相場の反動から、114ドル安(0.63%減少)。
4月27日:原油先物相場が上昇したことやFOMCで政策金利が据え置かれ、追加の利上げにも明確でなかったことで、投資家の安心感が広がり、51ドル高(0.28%増加)。
4月28日:1-3月期GDPは前期比年率換算0.5%減で市場予想0.99%を下回ったものの、前日業績不振で大きく下落したアップル株について著名投資家の売却発言により更に下落したことから、IT関連株から他の業種にも売りが波及、211ドル安(1.17%減少)。
4月29日:欧州主要国の株式市場が軒並み下落、更に3月の米個人消費支出は前月比0.1%増と市場予想の0.2%増を下回ったことで、57ドル安(0.32%減少)。

2.米国の雇用状況
米労働省が4月1日に発表した3月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比215,000人の増加で、市場予想の200,000人増を少し上回りました。また、1月の雇用者数の確定値は168,000人で4,000人の減少、2月の改定値は245,000人で3,000人の増加となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者数の平均増加数は209,000人で、依然として目標の200,000人を上回っています。なお、8月の失業率は前月より0.1%上がり、5.0%になりました。労働参加率は63%で、前月より0.1%上昇しました。時間当たりの賃金上昇率は0.3%の上昇となりました。部門別では小売業が47,700人、建設業が37,000 人増加した一方、製造業が29,000人、鉱山業が12,000人の減少となりました。

3.パナマ文書
2016年4月3日に米国ワシントンDCにある国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)は世界の4大オフショア法律事務所の一つであるパナマのモセック・フォンセカ法律事務所が関わった2.6テラバイトに及ぶ文書の分析結果を発表しました。ICIJによると、この法律事務所は1977年から2015年にかけて21万のペーパーカンパニーを設立、半数以上の約11万3千社は英領バージン諸島に、4万8千社がパナマに、1万6千社がバハマにあったとしています。ペーパーカンパニーの設立を依頼したのは金融機関やコンサルティング会社で、金融機関ではソシエテ・ジェネラル、クレディ・スイス、UBS、HSBCなどの欧州主要銀行の系列会社が名を連ねていると言われています。

今回の文書では2つのケースが問題になると指摘されています。1つは深刻な財政赤字にある国の政治指導者が個人として課税逃れに走ってよいのかという道義的な責任問題です。既に夫妻で資産隠しをしていたとされるアイスランドのグンロイグソン首相は辞任に追い込まれました。また、英国のキャメロン首相も亡父の関与が、アルゼンチンのマウリシオ・マクリ大統領もバハマにある貿易会社の役員をしていたことが指摘されています。

もう1つは資金洗浄(あるいはテロ資金の供与)にペーパーカンパニーが使われていなかったという犯罪絡みの問題です。この文書には発展途上国の首脳だけでなく、ロシアのトップリーダー関連者や中国共産党最高幹部の親族なども名も連ねており、私的利益追求のための資産隠しでなかったかとの疑念も持たれています。

なお、ICIJはパナマ文書に出てくる企業や関連人物の全リストホームページに掲載するとしており、この問題が更に広がる可能性があります(注)。
(注)今回の文書では、米国の企業や資産家の名前が少ないとされていますが、これについては、米国ではデラウエアー州やワイオミング州で簡単にペーパーカンパニーを設立できる他、米国政府は外国の金融機関を使った租税逃れや資産隠しに対して、法律の厳格化を通じて、数々の訴訟や容疑者の逮捕に取り組んできたことを挙げています。

4.修復が容易でない米国とサウジの関係
オバマ大統領は4月20日にサウジを訪問し、イランの核合意をめぐる米国とサウジとの間のギクシャクした関係の改善を目指しました。しかしながら、2時間半に渡ったサルマン国王との会談では、IS掃討、イエメンの内戦、イランとの関係などが話し合われたものの、合意は少なく、両国の間に不一致があることの確認で終わったことが伝えられています。

米国とサウジの関係は原油と軍事を中心に70年間以上も続く特別なものですが、2011年9月11日の米同時多発テロへ関与したサウジ19人の実行犯の内、15人がサウジ国籍者であったことから、両者の関係が見直されることになりました。現在、米議会では同時テロの遺族や生存者がテロに加担した外国の政府や資金提供者を訴えることを可能にさせる法案を用意していますが、逆にサウジ政府からは法案が通過した場合には、米国の資産を売却するなどの警告を与えています。オバマ政権も、もしこの法案が成立すれば、米国が提訴されたり、国家主権による免責特権を奪われたりする恐れがあるとして、議会にこの法案を可決しないように求めているとされています。

もう一つの要素は、米国内のシェールオイルやガスの生産が急激に増加する中で、米国の外国からの原油依存度が低下、主要輸出国であるサウジとの経済的な結びつきが以前ほど強くなくっている状況です。これに関連して、原油価格の急激な低下にも関わらず、サウジが減産に応じない理由の一つは米国のシュールオイルやガス会社の経済的な破綻を意図したものとの見方が従来から出ています。

しかし、その一方、米国が進めるIS掃討作戦では、同じスンニ派の盟主であるサウジの協力が不可欠であることは間違いなく、中東で影響力を増すイランへの対抗心を強めるサウジとの間で今後どのような関係を作っていくべきなのか複雑な対応を迫られています。

5.FOMC会合とその影響
4月25-27日にFOMCが開催されました。会合後の声明文では以下のようなことを伝えました。経済活動は減速したように見えるが、労働市場は一段と改善した。家計支出の伸びは緩やかになったが、家計の実質所得は堅調に伸びており、消費者の景況感も依然良好である。住宅部門も一段と改善している。一方、企業の設備投資と純輸出は軟化した。労働市場は堅調な就業者数の増加などを通じて、さらに力強さを増している。インフレ率についてはエネルギー価格の低下とエネルギー以外の輸入価格の下落の影響もあり、FOMCの目標である2%を下回る水準で推移している。

FOMCは金融政策の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大し、労働市場の指標も引き続き力強さを増していくものと予測している。インフレ率もエネルギー価格の低下もあり短期的に低く留まるが、一時的な影響が消え、労働市場が力強さを増すに連れ、中期的に2%へ向かっていくものと予測している。FOMCは引き続き物価指標および世界経済と金融市場の動向を注視する。

こうした経済見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)の誘導目標を0.25-0.5%に据え置くことを決定した。経済情勢はFF金利の緩やかな引き上げを許すような形で進むとみているが、当面通常と見る水準以下に維持される可能性が高い。今後実際のFF金利の上げ方はデーターが伝える経済見通しによって決定される。

なお、米機関債と住宅担保証券の償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する既存の政策を維持する。この政策はFF金利が通常の水準に戻るまで維持するとしました。

今回の声明文を読むかぎり、3月の声明文にあった「世界経済と金融環境がリスクをもたらしている」との文言を削除していますが、これは中国経済の過度な減速懸念が和らいだこと反映したものと見られます。その一方、インフレ率は労働市場の改善にも関わらず、2%の目標を下回る水準で推移しており、金融正常化のステップが揺やかに進まざるを得ないことを容認したものと言えます。加えて、米国の金利の引き上げは欧州や日本が金融緩和政策を続ける中では、ドル高となって米国の輸出企業の競争力を低下させることへの懸念も意識しているように見られます。なお、この日の株式相場は政策金利が現行水準に維持されたことや早期の利上げに慎重との見方が広がり、ダウ価格は51ドル高となりました。

しかしながら、翌28日は前日の業績発表で大幅な減収減益で6%以上の株価下落となったアップルが大手投資家の売却で更に3%以上の下落となり、それがIT関連株やその他の業種に波及し、ダウ価格全体を211ドル下げる結果となりました。

いずれにしても、米国経済は他の主要国の経済よりは悪くないものの、高い株価に見合う実体経済の裏づけがあるわけではなく(注)、株価の不安定性は暫く続くものと見られます。
(注)28日に発表された米国の1-3月期のGDPは前期比年率換算で僅か0.5%の増加で、原油安と海外経済の落ち込みによる民間設備投資の前期比5.9%減と輸出の前期比2.6%減が大きく影響したものとなりました。加えて、29日に発表された3月の米個人消費支出も0.1%増に留まり、市場予想の0.2%増を下回りました)。
        (2016年5月1日:  村方 清)

Friday, April 1, 2016

金融正常化の動きと株式市場
















1.3月の株式市場
3月の株式市場は原油価格の下落傾向や中国経済の悪化に僅かながら歯止めがかかる一方、米国経済の回復傾向から金融正常化に伴なう金利引き上げの影響が次第に意識される状況になっています。主要な動きは以下の通りでした。

3月1日:米国の2月ISM製造業景況感指数が前月の48.2%から49.5%へ増加して市場予想を上回ったことや1月の建設支出も1.5%の高い伸びを示したことから、349ドル高(2.11%増加)。1月6日以降2ヶ月ぶりの高値。
3月3日:原油先物相場が上昇したことやISMの非製造業景況感指数は市場が警戒するほど悪化したものではなかったことで、45ドル高(0.06%増加)。
3月4日:米政府発表の2月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比242,000人増で市場予想の190,000人を大きく上回ったこと(失業率は4.9%で変わらず)、原油先物相場も上昇し、63ドル高(0.37%増加)。
3月7日:原油先物相場が大幅上昇、石油関連株の買いが優勢で、68ドル高(0.40%増加)。
3月8日:原油先物相場の下落に加え、中国の2月貿易収支の減少による世界景気減速への懸念から、利益確定の売りが優勢で、110ドル安(0.64%減少)。
3月10日:ECBによるマイナス金利の拡大と量的緩和策の拡大で押し上げた欧州株がドラギ総裁の記者会見での追加緩和策への慎重さから、下げに転じ、5ドル安(0.03%減少)。
3月11日:原油先物相場が3ヶ月ぶりの高値を付けた他、欧州やアジアの株式市場が上昇したのを受けて、米市場でも買いが優勢で、218ドル高(1.28%増加)。年初来の高値を記録。
3月16日:FOMC会合後の声明や政策金利の見通しから、利上げは当初より緩やかになるとの市場の見方が広がり、74ドル高(0.43%増加)。
3月17日:原油先物相場が3ヶ月半ぶりに1バレル40ドルを回復したこと、3月の製造業景況感指数が12.4と市場予想に反して大幅に改善し、156ドル高(0.90%増加)。
3月18日:16日のFOMC後、FRBの利上げペースが緩やかになるとの見方が強まっていることやドルが主要通貨に対し大きく下げていることから、121ドル高(0.69%増加)。
3月22日:ベルギーのテロ事件を受け、航空会社や旅行関連株の売りが広がり、41ドル安(0.23%減少)。
3月23日:原油先物相場が1バレル39ドル台後半に下落したことから、素材関連株の売りが膨らんだことや短期的な高値警戒による利益確定売りが強く、80ドル安(0.45%下落)。
3月29日:原油先物相場が下落し、株式相場も大きく値下がりしたが、イエレン連銀議長の講演で緩和的な金融政策が続くとの見方が強まり、97ドル高(0.56%増加)。
3月30日:緩和的な金融政策が続くとの見方から、買いが優勢で、83ドル高(0.47%増加)。
3月31日:緩和的金融政策への期待と利益確定売りが交錯し、32ドル安(0.18%減少)。

2.米国の雇用状況
米労働省が3月4日に発表した2月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比242,000人の増加で、市場予想の190,000人増を大きく上回りました。また、12月の雇用者数の確定値は271,000人で9,000人の増加、1月の改定値は172,000人で21,000人の増加となりました。この結果、1月の雇用者数は200,000人を下回ったものの、過去3ヶ月間の雇用者数の平均増加数は228,000人で依然として目標の200,000人を上回っています。なお、8月の失業率は前月と同じく、ほぼ完全雇用に近い4.9%でした。労働参加率は62.9%で、前月より0.2%上昇しました。時間当たりの賃金上昇率は2.2%の減少となりました。部門別では、ヘルスケア関連業が57,000人、小売業が55,000人、建設業が19,000人増加した一方、建設業が18,000人、鉱山業が15,000人の減少となりました。

3.FOMC会合とその影響
3月16日と17日にFOMCが開催されました。会合後の声明文では以下のような点が伝えられました。ここ数ヶ月の国際経済と金融市場の動きにかかわらず、経済活動は緩やかに拡大、家計支出や住宅部門も一段と改善している。一方、企業の設備投資や輸出は軟化し、労働市場に関する指標は更に力強さを増していることを示している。インフレ率についてはエネルギー価格の低下とエネルギー価格以外の輸入価格の低下の影響もあり、FOMCの目標である2%を下回る水準で推移している。

FOMCは金融政策スタンスの緩やかな調整によって経済は緩やかなペースで拡大し、労働市場の指標も引き続き力強さを増すものと予測している。しかし、国際経済と金融市場の動向が引き続きリスクをもたらしている。インフレ率も先のエネルギー価格の更なる下落もあり、短期的に低く留まるが、一時的な影響が消え、労働市場が力強さを増すにつれ、中期的には2%へ向かっていくものと予測している。

こうした経済見通しを踏まえ、フェデラルファンドレート(FF)の誘導目標を0.25%-0.5%に据え置くことを決定した(賛成は9名で、カンザスシティー連銀総裁は0.50%-0.75%への引き上げを求めた)。経済情勢はFF金利の緩やかな引き上げを許すような形で進むとみているが、当面は長期的に通常と見る水準以下に維持される可能性が高い。今後実際のFF金利の上げ方は、データが伝える経済見通しによって決定される。

また、米機関債と住宅ローン担保証券の償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する既存の政策を維持する。この政策はFF金利が通常の水準に戻るまで維持され、金融緩和状態が継続するのに役立つはずとしました。

今回のFOMC会合で特徴的であったのは、昨年12月のFOMC会合で2016年は年4回の利上げが想定されていましたが、年2回と修正されたことです。これは昨年12月以降に顕著になった原油などエネルギー価格の低下や中国などの景気減速が米国内の経済に与える悪影響に配慮せざるを得なかったためと見られます。一部のアナリストは昨年12月の金利引き上げは時期尚早であったとの見方を取っていますが、12月末以降今年初めにおける株価の下落は予想されていなかった海外要因が大きく響いたものでした。

因みに3月初め以降は原油価格の上昇傾向が進んでおり、また中国経済の停滞に伴う株価の影響も限定的になっています。また、3月25日に発表された2015年10-12月のGDP確定値は前期比年率換算で1.4%増となり、2月下旬発表の改定値が0.4%上方修正されました。この点、FRBは、3月29日のイエレン連銀議長の講演会での慎重発言などがあるものの、今後金融正常化に向かって追加利上げに次第に向かっていくものと見られます。なお、追加利上げがドル高となって一時的に海外比率の高い企業の採算を悪化させ、株価の調整要因となりますが、既に高値水準にある米国の株価水準からすれば、長期的に見れば健全な調整になるものと思われます。

4.オバマ大統領のキューバ訪問
3月21日に、オバマ大統領は米国の大統領として88年振りにキューバを訪問しました。キューバは人口約1100万人、一人当たりGDPが約7,000ドルの中進国ですが、歴史的には米国との経済繋がりは深く、今回の訪問は今後米国が中南米関係を転換させる上で大きな意味を持っています。その一方、キューバは依然社会主義国家であり、民主政治体制ではなく、国民の基本的な権利が十分に保証されているとは言えず、難しい面も持っています。

中国などの共産主義国家に見られるように、共産党政権による市場開放策は政権の権力維持や拡大を狙いとされることが多く、日米欧の企業による優れた資本や技術の提供が共産党政権の権力強化に使われてしまう危険性を含んでいます。GDPで世界第2位となった中国の場合、自動車などの主要産業における合弁企業の外資出資比率は依然49%に制限されており、支配権は中国側企業に委ねられ、中国側のペースで進められています。

今回、オバマ大統領は22日にハバナの国立劇場でキューバ国民向けの演説をし、「冷戦の遺物を葬るためにここに来たこと」、「キューバの人々に友情の手を差し伸べる」と同時に」「表現、集会、信仰の自由などの人権は普遍的なもの」などとして、キューバの人権状況の改善や民主化の促進を求めました。こうしたオバマ政権の演説が、キューバの民主化や国民の人権尊重といった方向に向かうように期待したいものです。

同時に、オバマ政権が掲げる平和主義外交は評価されるべきものですが、理念が優先される結果、中国の共産党政権などが進める国内の人権抑圧や対外的な覇権主義に対し、有効な手段となっていないという現実があり、新たな対策を講じる必要があるように思われます(共和党のトランプ候補のような過激な対応策ではなく)。

5.中銀への過度依存がもたらす悪循環の欧州市場
欧州中央銀行(ECB)は10日の理事会で包括的な金融川策を決定しました。その一つは民間銀行が余剰資金をECBに預けた場合に課す手数料(マイナス金利)を現行の0.3%から0.4%に引き上げであり、もう一つは量的緩和策の規模を現行の月額600億ユーロから800億ユーロへ拡大でした。また、量的緩和策には国債だけでなく、高格付けのユーロ建て社債を追加することも決めました。

今回、ECB理事会が包括的な金融緩和策を発表したのは欧州市場における物価低迷で、一時はプラスに転じていた消費者物価上昇率は最近マイナスに転じており、今回の理事会でも昨年12月時点で1.0%と見込んでいたのを0.1%に下方修正しました。

しかしながら、こうしたECBによる追加の金融緩和策が企業の設備投資拡大のための借り入れ増加に向かう保証はありません。世界的なデフレ化現象の中で実体経済に新たな資金需要があるとは到底考えられず、中銀が追加の金融緩和策を導入しても、巨額の貸し出しが起こる可能性は少ないといえます。むしろ、問題はこうした過度な常な金融緩和策が不動産市場に流れ、不動産市場が過熱していることです(米国では連銀が2008年11月に導入した量的緩和策が株式市場の急回復をもたらしました)。

欧州の株式市場が中銀の過度な金融緩和策によって大きな影響を受けていることは昨年12月と同様で、今回もドラギ総裁が記者会見で、追加の緩和策は想定していないと発言したことから、欧州市場は軒並み下落に転じました。

いずれにしても、中銀依存の高い欧州や日本は、現在のようなグローバル化によるデフレ化が進む中で、中銀による政策展開には限界があることの認識を持つことが急務となるように思われます。
          (2016年4月1日:  村方 清)

Tuesday, March 1, 2016

原油相場の動向に左右される米国の株式市場















1.2月の株式市場
2月の株式市場は、サウジなど4カ国による増産凍結の合意を含め、原油先物相場の動向によって株式市場も大きく変動することになりました。主要な動きは以下の通りでした。

2月2日:原油先物相場が1バレル30ドルを再び割り込んだことや欧州市場の大幅下落を受けて、投資家心理が急激に悪化、ダウ価格は296ドル安(1.80%減少)。
2月3日:原油先物相場が大幅に上昇、前日比8%増となったことで、エネルギー関連株が幅広く買われ、183ドル高(1.13%増加)。
2月4日:雇用を含め米国経済指標の低調さを示すデータが相次いで発表され、FRBの金利引き上げのペースが遅れるのではないかとの見方が広がり、80ドル高(0.49%増加)。
2月5日:米政府発表の1月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比151,000人増で市場予想の190,000人を下回ったものの、失業率は4.9%に改善、賃金も5%の上昇であったため、早期の利上げ観測が再燃し、211ドル安(1.29%減少)。
2月8日:原油先物相場の下落に加え、石油・天然ガス開発大手のチェサピーク・エナジーが債務再編などエネルギー関連企業の不良債権拡大が懸念され、178ドル安(1.13%減少)。
2月10日:午前中は欧州市場の株高を受けて上昇したものの、原油先物相場の下げに伴い、エネルギー関連株が売られ、100ドル安(0.62%減少)。
2月11日:原油先物相場の下落に加え、欧州市場で主要銀行株が大幅安となったことから、米国の金融関連株の売りが膨らみ、255ドル安(1.60%減少)。2014年2月6日以来の安値。
2月12日:1月の米小売売上高が前月比0.2%増、昨年12月も上方修正され、個人諸費の底堅さが意識されたことや原油先物相場が1バレル29ドルまで上昇したことで、エネルギー関連や金融株が大幅が上昇、314ドル高(2.0%増加)。
2月16日:サウジやロシアなど4カ国が条件付で原油増産の凍結で合意とのニュースが伝えられ、先行きの原油安の懸念が和らいだこともあり、223ドル高(1.39%増加)。
2月17日:原油増産の凍結で供給過剰の解消期待から、原油先物相場で一時1バレル31ドル台に回復したことでエネルギー関連株が大幅に反発し、257ドル高(1.59%増加)。
2月18日:原油先物相場が軟調であったことや前日まで3日間で800ドル近く上昇した反動から、40ドル安(0.25%減少)。
2月22日:原油先物相場が上昇、一時1バレル32ドル台になったことや欧州・アジアの株式市場が上昇したことを受けて、229ドル高(1.38%増加)。
2月23日:原油先物相場が大幅な下落となったことで、エネルギー関連株や金融株の売りが拡大し、189ドル安(1.14%減少)。
2月24日:原油先物相場が取引終了時にかけて上昇に転じ、1バレル32ドル台に回復したことから、市場心理が改善し、53ドル高(0.32%増加)。
2月25日:原油先物増場の上昇や欧州市場の株高を受けて、212ドル高(1.29%増加)。
2月26日:米国の第4四半期GDPが1%へ上方修正され、買いが先行したものの、原油先物相場が下落するにつれて警戒感が増し、売りが優勢となり、57ドル安(0.34%減少)。
2月29日:2月のPMIが47.6と前月の55.6から大きく悪化、更に1月の仮契約住宅販売指数も市場予想に反して低下するなど米経済指標の悪化で、123ドル安(0.74%減少)。

2.米国の雇用状況
米労働省が2月5日に発表した1月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比151,000人の増加で、市場予想の190,000人増を下回りました。また、11月の雇用者数の確定値は280,000人で28,000人の増加、12月の改定値は262,000人で30,000人の減少となりました。この結果、1月の雇用者数は目標の200,000人を下回ったものの、過去3ヶ月間の雇用者数の平均増加数は231,000人で依然目標の200,000人を上回っています。なお、8月の失業率は市場予想の5.0%より改善、ほぼ完全雇用に近い4.9%となりました。労働参加率は62.7%で、前月より0.1%上昇しました。時間当たりの賃金上昇率は0.5%の増加となりました。部門別で小売業が57,700人、製造業が29,000人、建設業が18,000人、配達サービスが14.400人の増加でしたが、資源安が続く鉱山業は7,000人の減少で、ピークであった2014年9月から146,000人の減少となりました。

この日のダウ価格は雇用者数が市場予想を下回ったものの、失業率や賃金上昇率は改善、FRBによる早期利上げ観測が再燃して、212ドル安(1.29%減少)となりました。

3.イエレン連銀議長の議会証言
イエレン連銀議長は2月10日に下院金融委員会で半期に一度の経済見通しと政策に関する証言を行ないました。議長は米国経済の現況について、現在見られる雇用増、および賃金上昇の加速により実質所得の伸びが支援され、結果的に消費支出も後押しされるとの認識を示しました。また、労働市場の改善が続き、インフレ率もFRB目標に向かって上昇すると予測している、経済活動は向こう数年間、緩やかのペースで拡大し、労働市場の各指標も引き続き堅調な内容となるだろうと述べました。主要な質疑応答は以下の通りでした。

1)世界市場の混乱
年初来見られるストレス要因は中国の為替相場政策や原油価格をめぐる不透明感に関連しているように思える。しかし、市場で見られた急激な動きをもたらすほど顕著なシフトは確認していない。市場では景気後退リスクへの懸念が高まった結果、リスクプレミアムが上昇したようであるが、世界的にも米国でも成長急減速の兆候はまだ見られない。但し、
今後も世界市場の動向を注視する必要性を十分認識している。

2)利下げの可能性
労働市場が堅調に推移し、改善し続けている。インフレを抑制している多くの要因は一時的なものだと引き続き考えている。景気後退のリスクは常に存在し、世界的な金融情勢が景気減速に繋がる可能性も認識している。しかし、今後米国経済を待ち受けるものについて、早まった結論に飛びつかないように注意したいと思う。

3)利上げのペース
金融政策はあらかじめ決められたコースを辿るわけではない。景気見通しに与える公算が大きな影響さらに雇用やインフレ両方の目標を達成する我々の能力の評価が重要となる。これらが今後の金融政策のスタンスを左右する要因となる。

4)連銀の資産売却
現時点で長期資産を売却すれば、経済に大きな支障をきたす恐れがある。バランスシートの改善は段階的かつ予測可能な方法で縮小していく方針である。

5)マイナス金利の法的権限
政策を予想より速いスピードで引き締める場合でも、緩和する場合でも、用意周到な計画作りの精神で検討している。マイナス金利を拒むものがあるとは認識していないが、法的な側面は十分検証していない。今後そうしたことが必要になる。

なお、イエレン議長は11日には上院の銀行委員会で証言しましたが、マイナス金利については2010年にも検討したことがあったが、銀行の収益圧迫になるとかマネーマッケットファンド市場を混乱させるなどの問題があり、実行されなかったことを伝えました。そして、今後も慎重に検討を進めて行きたいと述べていました。

4.原油価格の下落と金融機関の財務圧迫問題
産油国のサウジ、ロシア、ベネズエラ、カタールの石油担当閣僚が2月16日にカタールの首都ドーハで協議し、各国の原油生産量を1月の水準で固定することに合意しました。今回の4カ国による合意は増産を凍結して供給過剰状態の緩和と価格の下支えに狙ったものですが、この合意には他の主要な産油国が同調することを条件にしているため、サウジと対立するイランがこの合意に従うかは疑問とされます。現時点で、イラン政府は欧米による制裁が解除されれば、従来失われたマーケットシエアを取り戻したいとしています。

これに関連して、2月22日に原油価格が5%以上増加するなどの動きがありました。この背景には原油価格の低迷から、米国の石油生産が2016年には日産60万バレル、2017年には更に20万バレル減産となる見込みであることを国際エネルギー委員会(IEA)が発表したことにあります。しかしながら、IEAは長期的には米国は原油生産のコスト効率を高めることにより、2015年には日産9.5百万バレルであったものが2021年には14.2百万バレルになることを予想しており、原油価格の上昇には限界が来るものと見られます。

加えて、原油先物相場の下落はバーナンキ前連銀議長の下で2008年11月以降に進められてきた大規模な量的緩和策などの過度な金融政策が過剰な投機資金が株や不動産だけでなく、原油に向けられ相場を吊り上げていたことが背景にあると言われています。一昨年12月の量的緩和策の終了や昨年12月の金利引き上げなどの連銀による金融正常化によって、原油への投機資金が急速に離れていっていることも主要な原因と見られています。

更に、現在大きな問題になっているのは原油価格が今後とも下落を続け、1バレル26ドル以下になった場合、経営的に行き詰まるシェールオイルの会社が多くなることから、大手金融機関の引当金の積み増しの必要性など経営内容の圧迫になってしまうことです。
    (2016年3月1日:  村方 清)

Monday, February 1, 2016

原油安と中国経済停滞に揺れる株式市場















1.1月の株式市場
1月の株式市場は原油先物相場の下落や中国の経済鈍化による通貨安と株安が米国だけでなく、世界の株式市場を著しく不安定化させました。主要な動きは以下の通りでした。

1月4日:中国の株式市場が経済指標の悪化を受け、上海株が急落、7%下落のサーキットブレーカー発動による取引停止になり、日本などのアジア株も急落、欧州市場も全面安、サウジとイランの国交断絶による地政学リスクも増加、更にISM 発表の12月米製造業景況感指数は前月比0.4%減の48.2%で悪化、ダウ価格は276ドル安(1.58%減少)。
1月6日:中国の12月サービス業購買担当者指数(PMI)が50.2に低下、原油先物相場の下落、北朝鮮の水爆実験、更に米国の12月非製造業景況感指標も55.3に低下するなど悪材料が重なり、252ドル安(1.47%減少)。ダウは2カ月半振りに17,000ドルを割り込み。
1月7日:中国の株価急落が続いたこと(サーキットブレーカー発動で約30分で取引停止)、更に原油先物相場の下落、12年ぶりの安さなどの影響で、392ドル安(2.32%減少)。
1月8日:米政府発表の12月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比292,000人増で市場予想の215,000人を大きく上回り(失業率は5.0%で変わらず)、買いが先行したものの、欧州市場の大幅安と原油先物相場の下落が続き168ドル安(1.02%減少)。
1月12日:原油先物相場が一時1バレル30ドルを割る動きがあったが、中国人民銀行介入で通貨安定への期待と昨年末からの大幅下落による買戻しで、118ドル安(0.72%増加)。
1月13日:原油安の警戒感が強く、原油需給の不均衡解消に時間がかかるとの見方が浮上、更にS&P500の株価指数が1900を割ると投資家心理が一段と悪化、365ドル安(2.21%減少)。
1月14日:原油先物相場の上昇で大手石油会社の株価が改善したことや前日の株価急落の反動による買戻しが優勢で、228ドル高(1.41%増加)。
1月15日:中国市場の下落に加え、原油先物相場が一時1バレル30ドルを切る水準まで下がり、投資家心理が悪化、500ドルを超える下落となり、終値は391ドル安(2.39%減少)。
1月19日:中国の2015年実質GDPが25年振りの低成長となる6.9%であったため、政策期待から上海株が上昇、しかし原油先物相場は下落したため、28ドル高(0.17%増加)。
1月20日:中国や欧州の株式市場が急落したことや原油先物相場が一時1バレル27ドルを割り込むなど、世界経済の先行き懸念が高まり、249ドル安(1.56%減少)。
1月21日:ECB理事会で現状維持の金融政策を決定したことや原油先物相場が大幅に上昇、一時1バレル30ドルを超えるなどで投資家心理が改善、116ドル高(0.74%増加)。
1月22日:欧州の株高や日本株の急騰、さらに原油先物相場が大幅に上昇したことを受けて、下げが大きかった株の買戻しが活発で、211ドル高(1.33%増加)。
1月25日:原油先物相場が大幅に下落、中国に対する警戒心も強く、投資家心理が再び悪化し、208ドル安(1.29%減少)。
1月26日:サウジやロシアの減産観測から原油先物相場が1バレル31.45ドルに急上昇、1月の米消費者信頼度指数も98.1と前月から1.8上昇し、283ドル高(1.78%増加)。
1月27日:アップルやボーイングの四半期決算が業績不振であったことやFRBの声明で、3月の利上げ観測を否定する内容でなかったため、売りが優勢で、222ドル安(1.36%減少)。
1月28日:産油国の減産協調との思惑で原油先物相場が上昇、投資家心理が改善し、石油関連株が上昇、125ドル高(0.79%増加)。
1月29日:米国の10-12月期GDPは前年比0.7%増で市場予想を下回ったが、日銀がマイナス金利を導入したことで日欧の株価が上昇、投資家の積極的買いから、397ドル高(2.47%増加)。1月はダウが958ドル下落(5.5%減少)、下げ幅は2015年8月以来5カ月振り。

2.米国の雇用状況
米労働省が1月8日に発表した12月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比292,000人の増加で、市場予想の215,000人増を大きく上回りました。また、10月の雇用者数の確定値は307,000人で11,000人の増加、11月の改定値は252,000人で41,000人の増加となりました。この結果、過去3ヶ月間の雇用者数の平均増加数は284,000人と過去1年間で最も大きなものとなりました。なお、8月の失業率は前月と同じく、5.0%でした。労働参加率は62.6%で、前月より0.1%上昇しました。また、フルタイムの職を見つけられず、パートタイムにある労働者を含めた広義の失業率は前月と同じく9.9%に留まりました。 時間当たりの賃金上昇率は0%で増加は見られませんでした。部門別で専門会社の73,000人でしたが、その半分はテンポラリー従業員でした。その他では建設業の45,000人、ヘルスケアの39,000人などでした。逆に資源安が続く鉱山業は8,000人の減少で、年間ベースで131,000人の減少となりました。

この日のダウ価格は労働市場の改善が続いていることで、一時的に137ドル上昇しましたが、欧州株式市場の大幅安と原油先物相場の下落で、最終値は168ドル安となりました。

3.オバマ大統領の一般教書演説
オバマ大統領は12日夜に、大統領の任期の最後となる一般教書演説を行ないました。最初に今年が大統領選挙の年で野党候補から現状への批判が多いことを意識した上で、これまでの業績への擁護と未来へ明るい見通しを強調しました。

まず、経済の実績面では、雇用の大幅拡大によって金融危機時の失業率が半分に低下、財政赤字も年間赤字額が75%も減額したことを伝え、現在米国経済は世界で最も強く、堅固であることを強調しました。また、新たな医療保険制度を導入したことで、約18百万人が
新たに医療保険加入者になったことを伝えました。

その一方、経済成長の果実は富裕層に偏っており、米国全体に景気回復の恩恵が行き渡っておらず、中間層や貧困層が所得減に苦しむ中で、所得と資産が富裕層に集中していることの問題を指摘しました。このため、最低賃金の引き上げによる家計収入の増加や州のコミュニティカレッジの授業料の無償化など中間・貧困層への支援の必要性を訴えました。

更に、昨年12月に12カ国で大筋合意したTPPが中間層の所得引き上げに寄与するものであり、議会に早期承認を求めました。また、12月にパリで合意した気候変動への取り組みに米国が積極的に関わっていくことの重要性を呼びかけました。

国民が不安視するテロリストの脅威については、現在効果を上げている有志連合による作戦を更に強化し、最終的に壊滅するという強い姿勢を示すと共に、それが一般のイスラム教徒への排斥になってはいけないことを伝えました(共和党大統領候補であるトランプ氏
の入国制限発言を批判したもの)。

最後に、米国の政治が与野党の対立の場になっていることを危惧し、米国の将来や可能性に言及し、建設的な議論による米国の団結を強く呼びかけました。

その後、野党の共和党を代表し、サウスカロライナ州のヘイリー知事が反対演説を行い、大統領は崇高な理念を掲げているが、これまでの実績はそれを十分に示していないと批判しました。同時に、現在の状況を一層不安に煽りたて、極端な考えを主張するものもいるが、そうした誘惑に負けるべきでないと暗にトランプ候補を非難する演説を行ないました。

今回のオバマ大統領の最後の一般教書演説について、米国民の反応は極めてよく、CNNの調査ではこれまでで最高の53%が大変良かったとの回答でした。

4.原油安を加速させるサウジとイランの外交関係断絶
1月2日にイスラム教スンニ派の盟主であるサウジは、国内でテロに関与したとしてシーア派の有力宗教指導者ニムル師を含む47人を処刑しました。これに対しシーア派の大国であるイランが激しく反発、イランにあるサウジの大使館や領事館への抗議デモが発生、暴徒化する事態が起きました。これに対し、サウジはイランとの外交関係を断絶すると同時に、イラン外交官の国外退去を求めました。サウジに同調するバーレーンやスーダンもイランとの国交を断絶しました。

今回、サウジがシーア教の宗教指導者を処刑するという強硬な措置を取った背景には中東地域においてシーア派の影響がこれ以上増加することへの脅威があったものと思いますが、同時にイランが欧米との核合意に達し、今後イランが欧米との経済関係を強めることへの警戒心があったものと見られます。特に、イランに対する経済制裁が解除され、イランの石油収入が増加すれば、この地域のイランの影響力が強まることは避けられないことへの懸念が高まっていました。

それと、見逃せないのは、シェアー確保を優先するサウジ王朝政府の原油生産量維持政策が原油価格低迷によるサウジの財政赤字の拡大を招き、これによる自国民の不満を対外的な強硬姿勢で乗り切ろうとするサウジ政府の意図もあると見られています。現在、サウジ政府は財政赤字の穴埋めをするために、外貨準備を切り崩しており、毎月120億ドル以上のペースで減少しています。 サウジの財政赤字は2016年予算で2年続けての赤字予算で、2016年は3262億リヤル(約10.5兆円)とされています。特に歳入は6080億リヤルから5138億リヤルに大幅に減少しており、防衛・安全保障面に多く配分する必要性から、エネルギー関連の補助金は削減することになりました。これにより、ガソリンは50-67%近い値上げとなる見込みとなっています。このため、国民の不満が高まっており、特にサウジのシーア派の大半が居住しているのはサウジ東部の大油田地帯で、ここのシーア派の不満を押さえ込む必要があり、その指導者とされるニムル師の処罰に踏み切ったとの見方が出ています。いずれにしても、イスラム教の2大大国であるサウジとイランが対立を続けることは、地域の政治・軍事的な緊張だけでなく、原油の安定供給の点でもマイナスとなっています。

5.中国経済の悪化と株式市場の不安定化
新年が始まったばかりの中国の上海株式市場で4日に次いで、6日も主要株式指数の下落率が7%を超えた場合、株式市場の売買取引を停止するという導入したばかりのサーキットブレーカー(CB)システムを使う事態が起きました。下落が続いている原因として言われているのは、中国景気の悪化で、4日に発表された15年12月の製造業購買担当景気指数(PMI)が49.7と景気判断の基準である50を5ヶ月連続で割ってしまったことです。更に6日には12月のサービス業購買担当者指数(PMI)が50.2と11月の51.2から低下、1年5ヶ月振りの水準になってしまいました。

これに加えて、人民元の下落が中国市場からの資金流出を一段と強めていることです。特に、7日に中国人民銀行が発表した人民元の対ドルレートの基準値は1ドル=6.5646元であり、2011年3月以来の安値水準となり、人民元の先安感が強まっています。

こうした株式市場の急落を受けて、昨年7月初旬に中国政府が株価対策の一環として上場企業の大株主や経営陣による6ヶ月間の保有株売却の禁止期間の延長を決めました。

いずれにしましても、中国政府が株式市場での安定的な売買取引を期待したはずのサーキットブレーカーが中国投資家にとっては、発動を前に売却に走るという悪循環になっており、不安定な市場展開が避けられない状況です。このため、中国政府当局は8日以降はサーキットブレーカー制度を停止することを決定したことが伝えられています。

6.FOMC会合とその影響
1月26-27日にFOMCが開催されました。会合後の声明文では以下のようなことを伝えました。労働市場は一段と改善したが、米国経済の成長は昨年終盤に減速した。家計支出と民間設備投資は過去数ヶ月間緩やかなペースで増加を続け、住宅市場も一段と改善した。一方、輸出は弱いままであるが、労働市場は雇用が継続的に増加し、未活用の労働資源も幾らか減少している。インフレ率についてはエネルギー価格の低下とエネルギー価格以外の輸入価格の低下の影響もあり、FOMCの目標である2%を下回る水準で推移している。

FOMCは金融政策スタンスの緩やかな調整によって経済は緩やかなペースで拡大し、労働市場の指標も引き続き力強さを増すものと予測している。インフレ率もエネルギー価格の更なる下落もあり短期的に低く留まるが、一時的な影響が消え、労働市場が力強さを増すに連れ、中期的に2%へ向かっていくものと予測している。FOMCは世界経済と金融市場の動向を注視し、それが労働市場、インフレ率、経済見通しのリスク・バランスに及ぼす影響を評価する。

こうした経済見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)の誘導目標を0.25-0.5%に据え置くことを決定した。経済情勢はFF金利の緩やかな引き上げを許すような形で進むと見ているが、当面通常と見る水準以下に維持される可能性が高い。今後実際のFF金利の上げ方はデータが伝える経済見通しによって決定される。

なお、米機関債と住宅担保証券の償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する既存の政策を維持する。この政策はFF金利が通常の水準に戻るまで維持するとしました。

今回の決定は12月のFOMCでゼロ金利政策を9年半ぶりに解除した後に、需給インバランスによる原油安や中国経済の鈍化など海外経済と金融環境の変化を意識したものですが、それは一時的なものであり、FOMCが前月に決定した金融正常化のステップに進むことに変わりないことを確認したものと言えます。このため、市場でもFOMCが3月の会合で金利を引き上げる可能性を否定したものではないとの受け止め方が多かったように見られます。なお、この日はアップルやボーイングの四半期業績が悪化したことも重なり、ダウ価格は222ドルの下落(1.36%減少)でした。
      (2016年2月1日:  村方 清)

Saturday, January 2, 2016

金融正常化の第一歩を踏み出した米国市場















 
1.12月の株式市場
12月の株式市場は原油先物相場下落の影響が続く中で、15-16日のFOMC会合でゼロ金利政策を転換し、0.25%の引き上げを行ないました。原油価格の影響は続いているものの、金融正常化の第一歩は大きな混乱なく推移しました。主要な動きは以下の通りでした。

12月1日:ISM 発表の11月米製造業景況感指数は前月比1.6%減の48.6%で、2009年6月以来の低さになったが、ヘルスケア株や販売好調な自動車株の大きな反騰や3日のECB理事会での追加緩和策への期待から、ダウ価格は168ドル高(0.95%増加)。
12月2日:原油先物相場が1バレル40ドルを割り込んだことで石油や素材株が売られたこと、イエレン議長の講演で改めて12月の利上げの可能性を示したこと、カリフォルニア州の銃撃事件などで投資家がリスクを避ける姿勢が強まり、159ドル安(0.89%減少)。
12月3日:ECBの追加金融緩和が小規模で欧州株が大幅下落、更にISM発表の非製造業景況感指数も前月比3.2%の低下で、投資家心理が悪化、252ドル安(1.42%減少)。
12月4日:米政府発表の11月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比211,000人増で市場予想の200,000人を上回ったことで(失業率は5.0%で変わらず)、12月の利上げ確実性が高まり、金融政策の不透明感が少なくなったことで、370ドル高(2.12%増加)。
12月7日:原油先物相場の急落(一時、WTIで1バレル37.50ドル)で石油関連株が大きく売られたことや前週末の反動で利益確定売りが優勢で、117ドル安(0.66%減少)。
12月8日:原油先物相場の下落に加え(一時、WTIで1バレル36.64ドル)、中国の11月貿易統計が輸出入とも前年同月比を下回り、投資家の警戒感から、163ドル安(0.92%下落)。
12月11日:原油先物相場の下落が続き、エネルギー株が大きく下落、国債商品相場も下落基調で資源関連株も大きく下がり、世界景気の先行き不安から、310ドル安(1.76%減少)。
12月14日:原油先物相場が0.69ドル高の1バレル36.31ドルまで反発したため大手石油株が上昇、更に前週末の反動から多く株に買い戻しが優勢で、103ドル高(0.60%増加)。
12月15日:原油先物相場が大幅に上昇したことを受け、大手石油株だけでなく、金融やヘルスケアなど幅広い株式で買いが優勢となり、157ドル高(0.90%増加)。
12月16日:FOMCは景気回復が順調であるとの判断から、金融正常化の一歩として短期金利の誘導目標を0.25%引き上げることを決定したが、今後の利上げのペースは緩やかであるとの認識も示したことで、投資家の不透明感が薄らぎ、224ドル高(1.28%増加)。
12月17日:原油先物相場が一時1バレル35ドルを割るほど下落、更に利上げによるドル高からの米企業の業績懸念も重なり、253ドル安(1.43%減少)。
12月18日:原油先物相場の下落が続き、投資家心理が悪化、運用リスクを避ける動きが優勢で、367ドル安(2.12%減少)。
12月21日:原油先物相場は一時1バレル34ドルを下回ったものの、前週末までの2日間で620ドル下落したことの反発から買いが優勢で、123ドル高(0.72%増加)。
12月22日:7-9月期のGDP確定値が2.0%と小幅に下方修正されたものの、原油先物相場が上昇、相場の底入れとの期待も出て、166ドル高(0.96%増加)。
12月23日:原油先物相場が持ち直し、1バレル37ドル台を回復したことや年末前の節税対策としての売り圧力がピークを越えて需給バランスが改善、185ドル高(1.06%増加)。
12月29日:原油先物相場の上昇でネルギー関連株が買われ、193ドル高(1.10%増加)。
12月30日:原油先物相場の下落や欧州の株安から売りが優勢で、117ドル安(0.66%減少)。
12月31日:原油先物相場の下落や米経済指標の悪化から売りが優勢で、179ドル安(1.02%減少)。ダウは年間ベースで7年振りにマイナスの2.2%安。

2.米国の雇用状況
米労働省が12月4日に発表した11月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比211,000人の増加で、市場予想の200,000人増を上回りました。また、9月の雇用者数の確定値は145,000人で8,000人の増加、10月の改定値は298,000人で27,000人の増加となりました。この結果、雇用回復の目安とされる200,000人を2ヶ月連続で超えたことになりました。なお、8月の失業率は前月と同じく、5.0%でした。労働参加率は62.5%で、前月より0.1%上昇しました。また、フルタイムの職を見つけられず、パートタイムにある労働者を含めた広義の失業率は前月の9.8%から9.9%に上昇しました。 時間当たりの賃金上昇率は前月の0.4%増から0.2%増に留まりました。部門別で増加したのは建設業の46,000人、小売業の30,700人、ホワイヘルスケアの24,000人などで、逆に資源安が続く鉱山業は11,000人の減少となりました。米景気の回復が強く意識され、12月FOMCで利上げが見込まれているにもかかわらず、この日のダウ価格は370ドル上昇しました(一部には米国は主要な産業が製造業からサービスに移行しているので、ドル高の影響はそれほど大きくないのではないかとの見方もあります)。

3.ECB(欧州中銀)の金融緩和策拡大
123日にECB理事会は追加の金融緩和を実行することを決めました。内容的には域内の金融機関から国債などのユーロ建て債券を毎月600億ユーロのペースで購入している量的緩和策を20169月までから20173月まで延長しました。これに加えて、民間銀行がECBに余剰資金を預け入れた際に課す手数料(マイナス金利)を現行より0.1%上乗せし、マイナス0.3%としました。ECBとしては9月にインフレ率がマイナスになったことで、域内に流し込む資金量を増大させることで景気を支え、物価上昇に結びつけたいこと、さらに資金が企業や家計に行き渡ることで経済活動の活性化を図りたい意向と見られます。

しかしながら、今回の追加緩和の必要性についてはドラギ総裁等のECB執行部とワイトマン・ドイツ連邦銀行総裁等北部欧州との間で意見の違いがあったことも注目されます。米国や日本の例でも示されるように、量的緩和策を続けても経済活動の活性化や物価上昇には大きく結びつかないことは明らかであり、今回のドラギ総裁側の意図が何であるのかわからないところがあります。

4.金融正常化の第一歩を踏み出したFOMC会合の決定とその評価
121516日にFOMCが開催されました。会合後の声明文は以下のような点を伝えました。米国経済は緩やかなペースで拡大しており、家計支出と民間設備投資は過去数ヶ月間堅調なペースで増加を続け、更に住宅市場も一段と改善している。一方、輸出は弱いままであるが、労働市場は雇用が継続的に拡大し、失業率も低下するなど改善が進んでいる。一方、インフレ率についてはエネルギー価格の低下とエネルギー以外の輸入価格の低下の影響もあり、FOMCの長期目標である2%を下回る水準で推移している。

FOMCは法律で定められた使命である雇用の最大化と物価安定の実現に努めており、金融政策の段階的な調整によって経済は引き続き緩やかなペースで拡大し、労働市場の指標も向上し続けると予想している。米国内と世界の進展を考慮に入れると、景気見通しと労働情勢に対するリスクは全般的に安定した状態にあると判断している。インフレ率も、労働市場が一段と改善するにつれ、中期的に2%に向かっていくものと予想している。

こうした状況を踏まえ、労働市場が著しく改善したと判断したことや物価も目標の2%に中期的に向かっていくと確信していることから、フェデラルファンド(FF)の誘導目標を0.25%-0.5%に引き上げることを決定した。引き上げ後も緩和的な金融政策は維持し、労働市場の更なる改善とインフレ率の2%に戻ることを支えるとしました。

なお、米国機間債と住宅担保証券の償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する既存の政策を維持する。この政策はFF金利が通常の水準に戻るまで維持すると予測しました。

今回の決定は200812月から6年以上に渡って続けてきた事実上のゼロ金利政策を解除したことにありますが、イエレン議長も記者会見で、政策金利をゼロ近くに保持した異常な6年間の終わりを示すものとしました。その意味で、今回の決定は米国の金融正常化の第一歩と言えますが、本当に正常化が達成されるかどうかは今後の利上げのペースとFRBのバランスシートの縮小時期にあります。前者について、今回更新されたFOMC参加者17名による政策金利見通しでは中央値は2016年末時点で1.375%となっており1階の利上げ幅を0.25%とすれば、来年の利上げ回数は4回となります。一方、後者のバランスシートの圧縮についてはFF金利が通常の水準に戻るまで維持するとしており、バランスシートの圧縮は債券市場の混乱を避けるために、慎重に進める姿勢を示しています。

FOMC会合の声明文発表やイエレン議長の記者会見後、市場は今回の利上げ決定が織り込み済みであったことや今後の利上げペースが緩やかになるとの認識が得られたことで、幅広い銘柄に買いが広がり、16日のダウ平均価格は224ドルの上昇(1.28%増加)となりました。なお、17日以降2日間に渡って株式市場の大幅下落が続きましたが、これは連銀による金利引き上げの影響と言うより、原油先物相場で下落傾向が続いていることが主要な要因だと思われます。

今回の利上げは昨年末で終了した量的緩和策に続く米国の金融正常化への第一歩となるものですが、現在高値が続く株や不動産市場の状況からすれば、実行が遅れたように思われます。過度な金融緩和策は常に実体経済以上に株や不動産価格の高騰をもたらしますが、2008年のリーマンブラザース破綻に代表される今回の米国金融危機も発端はブッシュ政権の無理な持家拡大策を支援したグリーンスパン議長下の連銀の低金利政策による住宅不動産価格の高騰でした。それは行き過ぎた住宅モーゲージの証券化ビジネスを奨励させ、崩壊した時には住宅モーゲージ市場だけでなく、株式市場にも大きな打撃を与えました。その際にバーナンキ議長下の連銀が導入したのはゼロ金利政策に加えて、大規模な量的緩和策でしたが、その効果は資金実需が少ない実体経済よりは、過剰資金の影響が出やすい株や不動産市場の急激な回復に現れることになりました。しかし、それは一方で低金利を使った投機的な投資活動を活発化させ、実体経済と乖離した資産バブルの様相を起こしかねません。バーナンキ議長が量的緩和策の縮小を記者会見で伝えた20135月にはダウ価格はリーマン破綻前の水準まで戻しており、その時が縮小実行の最良の機会であったように思われます。縮小実行の遅れは米国の株価を一層押し上げることになりましたが、2014年末に量的緩和策が終了した以降は今日まで、実体経済と乖離した株価上昇の動きはようやく収まってきています。

2016年初め以降、米国経済が順調に推移すれば、何回かの金利引き上げが行なわれる予定です。金融正常化にとって最も重要なステップは連銀が抱える巨額な長期債権残高の減少であり、これが成し遂げられない限り、連銀は中央銀行の使命や機能を十分に果たせなくなります。イエレン議長下の連銀が今後の金利上昇が予想される環境の中で、今後長期債権をいかにして縮小させていくかが最大の課題になると思います。

5.OPEC総会と原油価格の下落
124日に開かれたOPEC総会は原油生産目標の設定を棚上げ、現行の高水準の生産を容認、当初期待されていた減産を見送りました。原油収入に依存する加盟国の財政状況は大変厳しく、ベネズエラなど一部の国は減産を要求したものの、シェールオイルの生産を減少させ、自国のシェアの確保を優先させたいサウジアラビアなどと対立し、合意は達成できませんでした。OPECのこれまでの目標は日量3000万バレルでしたが、10月の生産量は3138万バレルまで増加していました。

原油価格は昨年WTIベースで昨年7月まで1バレルが100ドルを越えていましたが、今回のOPEC総会の結果を受けて来年1月渡しで1バレルが40ドルを割り込み、1221日には一時1バレルが34ドルを割り込むまで下落しました。今後についても、主要加盟国のイランが来春の欧米による経済制裁が解除されれば、現在の日量290万バレルを50万バレル引き上げる予定であること、さらにシェールオイルも稼動数を減らしても、一定量が確保できるほど技術革新が進み、原油安の影響を受けにくい構造になっていると言われています。また、米国での原油生産が拡大し、在庫が増加していることもあり、オバマ大統領は1218日に米国からの原油輸出を可能にする法案に署名しています。 いずれにしても、現時点ではシェールオイルの減産を狙ったサウジアラビアの目的は達成されるような結果になっていません。逆に、サウジアラビアは減産をせずに価格安での生産を続けた結果、自国の財政赤字が拡大、国内での不満を抑えるために実行してきた無料の社会福祉政策の継続に支障をきたすのではないかとの懸念も出ています。

一方、需要サイドでは、従来大量の石油を輸入してきた中国経済が低迷、更に欧州でも景気の回復が遅れており、石油需要が一段と鈍化する傾向にあります。今のところ、こうした石油消費国の経済が急激に好転する見通しはありません。この点、現行の生産量が継続される限り、原油価格は一層下落、1バレルが30ドルを割る水準まで行く恐れが出ています(ゴールドマンサックスは最悪の場合として1バレル20ドルを予測)。その時点で、サウジアラビアの採算が取れるものか、あるいはシェールオイルの生産継続が可能なのかが、どちらの影響が大きいのかが、今後の原油価格の下落傾向の動きが見えてくるものと思います。しかしながら、同時に、原油価格が長期に渡って下落傾向が続くことを予想する専門家は殆どおらず、多くの専門家は2016年の第3四半期には1バレル51ドル、第4四半期には56ドルまで戻ることを予想しています。

なお、原油下落の影響は石油産業に留まらず、銅や鉄鉱石などの資源価格の下落にまで波及、オーストラリアやブラジルなどの資源国の通貨安をもたらしており、国際通貨の不安定要素を高めています。加えて、米国の高利回りジャンク債は2008年以降、連銀による超金融緩和策を続けられたことから、現在1.4兆ドルまで増加したと言われています。この内、約25%がエネルギー・素材関係で、原油や資源安の影響を受けて、サード・アベニューなどの米国のジャンク債の中には、清算したところも出てきています。
      (201612日:  村方 清)

Tuesday, December 1, 2015

金融正常化に向かう米国の株式市場















1.11月の株式市場
11月の株式市場は、前半は米国経済指標や原油先物相場の動きによって変動しましたが、18日に10月末のFOMC会合議事要旨が発表され、12月のFOMCで利上げが決定される可能性が高まるにつれ、利上げを踏まえた動きとなりました。主要な動きは以下の通りでした。

112日:ISM発表の10月米製造業景況感指数は前月比0.1%減の50.1で、加えて雇用指数も47.6と前月比2.9ポイント低下したことから、FRBによる金融緩和策が長引くとの期待が強くなり、ダウは165ドル高(0.94%増加)。
11月3日:原油先物の上昇を受け、石油やエネルギー株が上昇、89ドル高(0.50%増加)。
11月4日:ADPの10月非農業部門雇用者数が前月比18万2千人増加し市場予想を上回り、イエレン連銀議長の議会証言で12月の利上げの可能性に言及で、51ドル安(0.28%減少)。
11月6日:米政府発表の10月雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比271,000人増で市場予想の180,000人を大きく上回り(失業率も5.0%に0.1%低下)、ドル高への懸念もあるものの、米景気の回復が強く意識され、47ドル高(0.26%増加)。
11月9日:原油先物相場の下落に加え、利上げ観測を背景に米金利が上昇、金利上昇やドル高の懸念から、幅広い銘柄で売りが優勢となり、180ドル安(1.0%減少)。
11月11日:原油先物相場の下落と百貨店のメーシーズの大幅安で、56ドル安(0.32%減少)。
11月12日:原油先物相場の41ドル台までの急激な下落、欧州主要国の株式相場の大幅下落、そして連銀関係者の年内利上げの可能性の言及などで、254ドル安(1.44%減少)。
11月13日:原油先物相場や欧州株の下落が続いていることに加え、米国の小売売上高が前月比0.1%増に留まったことで、世界経済の不透明感が高まり、203ドル安(1.10%減少)。週間ベースで665ドルの下落。
11月16日:13日夜に起きたパリの同時テロにもかかわらず、欧州市場が底堅く推移、原油先物相場の上昇もあり、先週大幅下落した株の買戻しが盛んで、238ドル高(1.38%増加)。
11月18日:10月27-28日のFOMC議事録要旨公表を受けて、参加者の多くが12月の利上げに向けて条件が整うと予想、かつ金融正常化のペースは緩やかにするとの見方で一致していることが判明したことで、248ドル高(1.42%増加)。
11月20日:株主還元策を発表したナイキなどが大幅に上昇、91ドル高(0.51%増加)。
11月23日:アイルランドの大手製薬会社の買収を発表したファイザーが株価を2.6%下げたことや前日の大幅上昇から利益の確定売りが優勢で、31ドル安(0.17%減少)。
11月24日:ロシア軍機がトルコにより撃墜され、地政学リスクが高まったものの、原油先物相場が上昇、石油関連株に買いが入ったことで、20ドル高(0.11%増加)。
11月30日:27日からの年末商戦はインターネット通販の影響を受けた店舗販売が不振で、
ウォールマートやメーシーズが売られ、79ドル安(0.44%減少)。月間では僅か0.3%増加。

2.米国の雇用状況
米労働省が11月6日に発表した10月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比271,000人の増加で、市場予想の180,000人増を大きく下回りました。しかし、8月の雇用者数の確定値は153,000人で17,000人の増加、9月の改定値は137,000人で5,000人の減少となりました。この結果、10月までの3ヶ月間の雇用者数は月平均で187,000人でしたが、今年1月から10月までは200,000人を越えることになりした。なお、8月の失業率は前月より0.1%低下し、5.0%に改善しました。 また、労働参加率は62.4%で、前月と同水準でした。 時間当たりの賃金上昇率は0.4%増となりました。部門別で増加したのはヘルスケアの34,000人、ホワイトカラー専門職の78,000人、ヘルスケアの45,000人、小売業の44,000人でした。なお、建設業についても42,000人の増加となりました。米景気の回復が強く意識され、この日のダウ価格は47ドル上昇しました。

3.ISをめぐる地政学リスクの拡大
11月13日夜にパリ中心部でISのテロリストグループによる銃撃で多くの一般市民が亡くなるという事件が起こりました。パリでは今年1月にイスラム教創設者ムハンマドの風刺画を掲載した新聞社が襲われており、今回はフランスの警備体制の不完全さも指摘されています。しかし、それ以上に重要なことはISからの脅威に対して、より効果的な対応策を講じる必要性が強まっています。

米国内の議論を聞いて入ると、共和党の大統領候補の中で有力候補と見られるルビオ上院議員やクルス上院議員などから、シリアとイラク北部を支配するISに対して米国主体の強硬路線が提案されていますが、ブッシュ前大統領のイラク侵攻と同じ間違いをするのではないかと大きな懸念を抱かせます。

米国のブッシュ政権は2003年3月にネオコンによって主導された戦略(及びイラクでの石油利権確保)に基づき、アルカイダの存在がなかったフセイン政権に対し、大量破壊兵器の保有という偽りの口実で米軍主体の連合軍によってイラク侵攻を開始、崩壊させることに成功しました、しかし、その結果はイラク国内でフセイン政権を支えたスンニ派と多数派であるシーア派の激しい対立を引き起こし、やがて、フセイン政権の残存している軍部とバース党の幹部組織がシリアの反アサドであるスンニ派の過激グループと結びつき、米欧との武力対決を鮮明にしたのがISでした。世界のイスラム教の約80%はスンニ派とされていますが、今のイラクとシリア地域にはフセイン政権の崩壊後、スンニ派系を代表する政治組織が全く無くなっていることから、スンニ派系の住民はIS壊滅を狙う欧米に対して積極的には協力しない姿勢をとり続けています(イラク政府によるISに対抗する地上軍も、シーア派が中心で、スンニ派の十分な参加を得られていません)。

また、シーア派の代表としてイランやイラクがある一方、サウジ、エジプト、トルコでは国民の大多数がスンニ派であるために、スンニ派の過激グループによって作られたISの壊滅を目指す米欧連合に対して積極的に参加する姿勢を示していません(世界貿易センターの倒壊事件を起したアルカイダ・グループはサウジとエジプト出身でした)。米国の一部軍事専門家はIS壊滅のために米軍主体の地上軍を派遣することはイスラム教徒、特にスンニ派の反発を呼ぶだけであり、こうしたスンニ派の大国によって組織された地上軍の派遣が不可欠と主張しています。しかし、トルコやサウジアラビアの民間組織の中にはISとの結びついているものもあり、容易ではありません(トルコがISから石油を安く購入しているとか、サウジアラビアの一部の民間組織がISへの資金援助をしているとの話も伝えられています)。

24日に起きたトルコ軍によるロシアの爆撃機撃墜事件は、ロシア機によるトルコ領内の侵犯があったことが理由のようですが、それ以外にロシアがアサド政権支援するためにトルコ国境に近いスンニ派の反政府グループの支配地域を空爆していたという事情もあるようです。シリアの混乱は現在、イランとロシアが支援するシーア派のアサド政権、米欧が支援する反政府グループ(スンニ派穏健グループ)、そしてスンニ派過激グループの3つの争いによって起こされていますが、強い統治組織を持っているのはアサド政権だけとなっています。こうした状況で、もしネオコンの主張に沿って米欧がアサド政権の退陣に固執すれば、フセイン政権崩壊後のイラクと同じようにシリアは一層泥沼化する恐れがあります。現在のシリアにおいて重要なことはアサド政権と反政府グループが各々の支援グループの国々(アサド支援のイランとロシア、反政府グループ支援の欧米)、更にスンニ派の大国であるトルコとサウジアラビアの協力を得て、スンニ派過激グループのISに対抗する統一組織を作ることであり、それが達成できないかぎり、シリア解決の道はないように思います(既にシリアの紛争解決に向けて、10月23日にウィーンで米国、ロシア、サウジアラビア、トルコの4カ国外相会議に続き、30日にはイランやエジプトなどを加えた13カ国外相会議が開催され、更に11月14日には3回目の会議が開かれ、関係者によるシリアの和平プロセスの議論が進められています)。

最後に、欧州経済の停滞の中で欧州にいるアラブ系の住民、特に若い人達の差別感による不満が高まっている状況では、彼らの不満を和らげることが新たなテロリストを生まないための条件だと思います。現在、欧州に住んでいるアラブ系住民の不満が高い状況下で、新たにシリアからの大量の難民を受けいれることは更なる経済社会問題を発生することになりかねず、新たな難民受け入れは極めて制限的に行われる必要があると思います。その意味で、欧州への大量難民の受け入れではなく、中東における難民センターへの大規模支援の方に優先度合いをシフトさせることが重要になっているように思います。

4.金融正常化に向かう株式市場(イエレン議長の議会証言と10月のFOMC議事録要旨)
11月4日にイエレン連銀議長は米下院の金融サービス委員会の公聴会で証言しました。同委員会の目的は金融危機以後の規制強化策のあり方でしたが、金利引き上げについての委員の質問に対して、イエレン議長は雇用増のペースは幾らか減退したものの、更に雇用を生み出す成長ベースを維持できると見ていること、物価上昇率についても資源安やドル高が一服すれば目標の2%に向かうと見ていることを伝えました。その上で、経済データ次第であるが、12月のFOMC会合で利上げする可能性があることを示唆しました。これを受けて、4日のダウ平均価格は、市場の警戒感が少し広がり、51ドル安となりました。

11月18日に、連銀は10月27-28日に開催されたFOMCの議事録を公表しました。議事録では、大半の参加者が利上げを踏み切るための条件は次回会合までに整うと見ていることがわかりました。この理由について、夏場から秋初めにおきた海外の経済や金融の動向がもたらす下振れリスクは後退し、米国内の経済や労働市場の見通しが改善していると判断したことがあるとしました。また、次回会合への文言変更は利上げ時期に関する市場予想は来年まで後ずれしていることを挙げ、10月会合の後の声明文で、市場は予想する利上げ時期が12月に戻ったことに言及、市場とFRBの利上げペースの見通しのギャップを埋める意図があったことをほのめかしました。更に、利上げのペースについて、緩やかな金融緩和策の解除でメンバーがほぼ合意していたことも明らかになりました。この日はFOMCの議事録で12月の利上げの可能性が高まったにもかかわらず、市場は不透明要因が薄くなったことを好感し、ダウは248ドルの大幅上昇となりました。

現在、12月15-16日のFOMC会合で、ゼロ金利政策を変え、金利の引き上げを決定する可能性は相当高いと見られますが、それは米国が金融正常化に戻る上での重要なステップと見られます。米連銀は2008年9月にサブプライムローンの証券化ビジネスの破綻によって大手の投資銀行であるリーマンブラザースが破産した以降、ゼロ金利政策と同時に、3回に渡る量的緩和策を導入してきましたが、GDP成長率の推移といったマクロ経済面からすると、その効果は限定的なものでした。また、連銀の2大使命とする物価の安定や雇用の拡大という点で見ても、未だに2%のインフレ目標率の達成は困難であり、失業率も今年10月時点で5.0%まで改善したものの、その多くはパートを含む非正規雇用の拡大で、大きな成果をあげたとは言い切れるものではありません。

その一方、量的緩和策の経済効果は株価や不動産価格の急激な上昇といった面で顕著で、株価は昨年末まで年率10%以上のペースで上昇、住宅不動産価格もサンフランシスコやニューヨーク等の大都市では一般市民の手が届かない価格高騰を続けています。こうした株や不動産など資産価格の急激な上昇は実体経済との乖離を大きくさせ、米国における所得格差の拡大に拍車をかけ、GDPの約7割を個人消費に依存する米国経済の今後の健全な発展にも悪影響を与えるようになっています。そうした意味で、今回米連銀の行きすぎた金融緩和策を終了させ、金融正常化に戻ることは極めてノーマルなことと言えます。その際、金利引き上げは株価や不動産価格の下落を伴うことになりますが、それは高騰しすぎた資産価格の一時的調整という面もあり、前向きに捉えるべきものだと思います(連銀としても金融正常化の過程は慎重に進めることを表明していますので、市場の急激な調製が起きないように配慮していくものと思います)。

それと同時に重要なことはオバマ政権の選挙公約にあったように米国の財政赤字が急速に改善していることもあり、今後の経済運営について金融政策の依存度を低め、財政政策、特に老朽化がめだつ道路や橋などのインフラ整備などには積極的に財政支出を拡大することが求められていると思います(現在、極端な財政均衡主義を唱えるティーグループのいる共和党が上下両院で多数派を占めており、容易ではないと思いますが)。
        (2015年12月1日:  村方 清)