Monday, July 1, 2019

金融緩和と米中貿易協議進展の報道に過剰反応した市場












1.6月の株式市場
6月の株式市場は、連銀の金融緩和策と米中貿易協議の進展への過剰期待により月間上昇率が7%を超える大幅な上昇となりました。主要な動きは以下の通りでした。

6月3日:前週までの下げ基調から短期的な戻りを見込んだ買いが入りやすく、景気変動の影響を受けにくいコカ・コーラや医薬品株が幅広く買われ、ダウ平均は5ドル高(0.02%増加)。
6月4日:FRBのパウエル議長が景気拡大を持続させるために適切な行動を取ると発言、利下げ期待が高まり、米中貿易摩擦への懸念も和らぎ、512ドル高(2.06%増加)。
6月5日:ADPの5月雇用レポートで、非農業部門雇用者数が2万7千人に留まったことから、FRBの利下げ観測が高まり、幅広い銘柄が買われ、207ドル高(0.82%増加)。
6月6日:連銀による利下げ観測を背景にこの日も買いが続き、181ドル高(0.71%増加)。
6月7日:5月の米雇用統計で雇用者増加数が75,000人増で、市場予想の180,000人増を大きく下回り(失業率は3.6%で前月と同水準)、連銀が早期に利下げするとの観測が一段と強まり、263ドル高(1.02%増加)。
6月10日:トランプ大統領がメキシコからの全輸入品への関税発動を無制限に見送ったことで、投資家の不安が和らぎ、79ドル高(0.30%増加)。
6月11日:前日までの6日間の続伸で1247ドル上昇しており、目先の利益確定の売りが優勢で、14ドル安(0.05%減少)。
6月12日:半導体関連株に売りが出た他、米利下げ観測などで金融株にも売りが出て、44ドル安(0.17%減少)。
6月13日:原油先物市場の上昇で、石油株が買われたことや早期の米利下げ観測を背景に買いが優勢で、102ドル高(0.39%増加)。
6月14日:中国経済指標の悪化を受けて中国需要の回復に対する期待が後退、ダウやアップルなど中国依存の高い銘柄を中心に売りが優勢で、17ドル安(0.7%減少)。
6月17日:18-19日に開かれるFOMC会合を控え、早期の利下げ期待が相場を支え、23ドル高(0.09%増加)。
6月18日:欧米の金融緩和への期待と米中首脳会談が来週開催されるとの見通しから、投資家のリスク選好姿勢が強まり、353ドル高(1.35%増加)。
6月19日:18-19日に開催されたFOMCで、声明文に「不確実性が増しており、成長持続に必要な措置を取ると明記され、想定通りの内容だったことから、38ドル高(0.15%増加)。
6月20日:昨日のFOMC会合を受けて、早期の米利下げ観測が強まったことや米中貿易協議の進展への期待から、249ドル高(0.94%増加)。
6月21日:米商務省が制裁対象に新たに外国の政府系スーパーコンピューター大手企業を加えたことから、これらの企業と取引のある米企業の株が売られ、34ドル安(0.13%減少)。
6月24日:米中が貿易協議のために事務レベルで再開したとの報道で協議進展への期待が高まり、8ドル高(0.03%増加)。
6月25日:FRBのパウエル議長が利下げの必要性について慎重であったことや米国の消費者信頼度指数が前月比9.8低下の121.5まで低下したことなどで、179ドル安(0.67%減少)。
6月26日:米中貿易問題について29日の米中首脳会議に期待する向きもあるが、上昇が目立つ銘柄の利益確定売りもあり、11ドル安(0.04%減少)。
6月27日:米中首脳会談を週末に控え、様子見ムードが強く、方向感が定まらなかったものの、新たな不具合が生じたボーイングが大幅に下げ、10ドル安(0.04%減少)。
6月28日:29日の米中首脳会談での貿易協議の進展への期待と米大手金融機関の資本計画についてFRBが承認したのを受けて一部に自社株買いや増配があり、株価が上昇、73ドル高(0.28%増加)。今月上昇幅は1784ドルで、約7%の上昇と過去最大。

 
2.米国の雇用状況
米労働省が6月7日に発表した5月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比75,000人の増加で、市場予想の180,000人増を大きく下回りました。3月の雇用者数の確定値は153,000人で36,000人の減少、4月の改定値は224,000人で39,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約151,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、3月の失業率は3.6%で、前月と同水準でした。労働参加率も62.8 %で、前月と同水準でした。5月の時間当たり賃金上昇率は前月比6セント増加で、前年同月比で3.1%増となりました。部門別では専門・ビジネスサービス業が33,000人の増加、ヘルスケア業が16,000人の増加 建設業は4,000人の増加に留まりました。

 
3.金利据え置きを決定したFOMC会合
FOMC会合が6月18-19日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回5月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は強さを保っており、経済活動は緩やかに拡大した。雇用増はここ数か月平均すると堅調で、失業率も低下した。家計支出は今年初め以降持ち直したようだが、企業の設備投資に関する指標は弱い。全般的なインフレ率と、食品・エネルギーを除くインフレ率は2%を下回っている。アンケートによる調査では長期のインフレ予想を示す指標は総じてあまり変わっていない。

法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。

この目標を支えるため、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを2.25-2.5%に据え置くことを決定した。FOMCは引き続き、持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、目標の2%前後付近のインフレ率がもたされるだろうと見ている。しかし、景気見通しへの不確実性は増している。こうした不確実性及びインフレ圧力が抑制されている点を考慮し、FOMCは景気見通しに関する情報が意味するものを注視し、力強い労働市場と2%前後のインフレ率の目標に向け成長維持のために適切に行動する。
FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む9人のメンバー全員の賛成による。
なお、今回のFOMC会合では、その声明文で、「不確実性が増しており、成長維持に適切な行動を取る」ことが明記されたことから、市場のほぼ想定通りの内容になったと言えます。これに加えて、米中貿易協議の進展への期待もあり、19日の38ドル高に続き、20日も353ドル高という大幅な上昇となりました。

 
4.トランプ大統領の再選出馬と再選リスク
トランプ大統領は6月18日にフロリダ州のオーランドで再選出馬表明を行いました。米国を偉大な国に取り戻すとのスローガンをベースに米国第一主義を掲げ、オバマ前大統領が進めたTPPからのも撤退、更にカナダやメキシコとのNAFTAの全面的な改定を要求、更に米国の貿易赤字の約50%をを占める中国に対しては大規模な関税を課すことによって、大幅な貿易赤字の解消と米国製造業の復活を図ろうとしています。しかし、これらの政策の多くは米国の製造業を含めて、生産コストの低下や流通の効率性による世界的なサプライチェーンのネットワーク化に逆行するものであり、賛同を得られるものではありません。更に、関税措置は相手国からの報復関税を招き、それが米国の農産業やひいては米国の消費者に大きな負担となることへの理解も十分ではありません。

6月28日と29日に開催されたG20サミットで注目されていた米中の貿易協議は、5月10日に決裂した閣僚会議の再開で合意したものの、米国は関税第4弾を先送りし、ファーウェイの一部制裁解除に応じるなど米国側の譲歩が目立ちました。これはトランプ大統領が来年秋の大統領選挙を控え、対立が強まれば再選戦略に悪影響が出ると判断したためと見られ、トランプ政権の焦りを示す結果となりました。

また、中東政策についても、キリスト教福音派の票を当てにした露骨な親イスラエル政策によってイランが欧米主要国と合意した非核化の取り決めを一方的に破棄、加えて厳しい経済制裁を課すなどあまりに身勝手な行動が多すぎます。イランとの緊張関係の拡大はトランプ大統領自らが作り出したものにも拘わらず、それを相手が守っていないとの主張によって、自分自身で軍事的衝突のリスクを高めているように思います。

次に、国内の経済政策についても、トランプ大統領は再選には株価の更なる上昇が必要として、連銀に対して金利引き下げを強く要求しています。しかし、この点についても、実体経済と乖離した中銀の過度な金融緩和が引き起こす資産バブルのリスクを十分に認識していないように思えます。
こうしたトランプ大統領の政策が本当に米国の利益を優先させているためのものかについても、幾つかの疑問が残ります。昨年12月の大幅減税についても、その恩恵は大企業と超富裕層であり、中間所得層以下の米国民の多くには行き渡っていません。また、トランプ大統領が自らのグループが保有するワシントンのホテルの運営が利益相反に陥っていることもよく知られています。

利益相反の行動に加えて、トランプ大統領による米国民主主義の大原則である三権分立を無視した独裁制的な行動も許されるべきものではありません。本来、議会軽視に対しては、与党の共和党が毅然たる態度を貫くべきですが、保守派の幹部も含めて、トランプ大統領に公然と意義を唱える共和党議員が殆ど出てこないという異常な事態が続いています。

その一方、野党である民主党の大統領候補は20名以上が立候補するなど乱立が目立っています。しかし、現時点の世論調査では、バイデン元副大統領、サンダース上院議員、エリザベス上院議員、ハリス上院議員などの支持率はいずれもトランプ候補を上回っており、トランプ大統領の再選は必ずしも容易であるとは言えない状況にあります。
            (2019年7月1日: 村方 清)

Saturday, June 1, 2019

混迷を深めるトランプ政権の貿易政策と株式市場の不安定性








 
 
 
 
 
 
 
 1.5月の株式市場
5月の株式市場は、交渉合意が期待されていた5月9-10日の米中閣僚級の貿易協議が事実上決裂したことや米国の安全確保という名目でメキシコへの関税措置を取るなど混迷を深めるトランプ政権の貿易政策により、株式市場の不安定性が高まることになりました。主要な動きは以下の通りでした。

5月1日:5月1日まで開かれたFOMCが景気判断を引き上げ、FF金利を据え置いたことから、利下げに向かうとの投資家の期待が後退し、ダウ平均は163ドル安(0.61%減少)。
5月2日:前日のFOMC会合後のパウエル連銀議長の記者会見を受けて、利下げ観測が後退したことを受けて、株式市場への資金流入への懸念から、122ドル安(0.46%減少)。
5月3日:4月の米雇用統計で雇用者増加数が263,000人増で、市場予想の180,000人増を上回り(失業率は3.6%で0.2%減少)、米経済への楽観論が勢いを増し、197ドル高(0.75%増加)。
5月6日:トランプ大統領が5日に突如対中関税を10%から25%への引き上げをイッターに投稿、米中交渉が決裂するとの警戒感から一時471ドルまで下落したものの、66ドル安(0.25%増加)。
5月7日:米国が中国製品への関税を10%から25%へ引き上げる可能性が高まり、一時649ドルまで下落したものの、その後持ち直し、473ドル安(1.79%増加)。
5月8日:トランプ政権は中国政府に対して追加関税を10%から25%へ引き上げることを発表したが、9日から始まる米中閣僚級会議の思惑からの買い戻しもあり、2ドル高(0.01%増加)。
5月9日:朝方は米中貿易協議の先行き懸念から売りが先行し、一時450ドル安まで売られたが、トランプ大統領の前向きな発言を受けて、139ドル安(0.54%減少)。
5月10日:米中貿易交渉の先行き警戒感から売りが先行したが、10日までに開かれた米中閣僚級会議後にムニューシン財務長官が協議は建設的だったとメディアに伝えたことから、相場は上昇に転じ、114ドル高(0.44%増加)。
5月13日:米中による関税引き上げの応酬で、両国が近く合意に達するとの期待が後退、投資家がリスク回避に動き、多くの銘柄が大幅に下落、617ドル安(2.38%減少)。今年2番目の下落。
5月14日:前日に大きく下落したことのの反発と米中貿易摩擦の懸念が一時的に和らぎ、207ドル高(0.82%増加)。
5月15日:トランプ大統領が自動車の追加関税導入の判断を最大6カ月先送りしたとの報道から、GMや
フォードなどの自動車株が上昇し、116ドル高(0.45%増加)。
5月16日:四半期業績が好調であったウォールマートやシスコシステムが買われ、投資家心理が改善し、214ドル高(0.84%増加)。
5月17日:米中貿易協議の不透明感が示す報道が相次ぎ、中国事業の比率が大きい銘柄を中心に売りが優勢で、99ドル安(0.38%減少)。
5月20日:ファワーウェイとの取引を禁ずる米政府の措置に対応して米企業が相次いで同社へのサービスや部品の供給を止める報道が伝わり、米中貿易摩擦の懸念から、84ドル安(0.33%減少)。
5月21日:米政府がファーウエイへの禁輸措置に猶予期間を設けたため、アップルなどのハイテク株が上昇し、197ドル高(0.77%増加)。
5月22日;米中貿易協議の再開のメドが立たない中で、中国売り上げ高が大きいアップルやボーイングが大きく下落、101ドル安(0.59%減少)。
5月23日:米中協議の行き詰まりとの懸念に加え、世界景気の減速に対する警戒感も高まり、幅広い銘柄に売りが広がり、286ドル安(1.11%減少)。
5月25日:米中貿易摩擦への過度の警戒感が少し和らぎ、中国売上高比率の高い銘柄を中心の買いが優勢となり、95ドル高(0.37%増加)。
5月28日:米中貿易摩擦が長期化するとの見方が広がり、中国売り上げ高比率が高い銘柄が下落、長期金利の低下で金融株も下げ、238ドル安(0.93%減少)
5月29日:米中貿易摩擦の激化が世界景気の減速につながるとの警戒感から幅広い銘柄が売られ、221ドル安(0.87%減少)。
5月30日:前日まで2日間で約450ドル下落したこともあり、景気変動を受けにくい銘柄を中心に買いが入り、43ドル高(0.17%増加)。
5月31日:トランプ大統領が不法移民流入へのメキシコへの対策が不十分として、メキシコからの全輸入品に対して追加関税を課すと発表、貿易摩擦激化への懸念が高まり、幅広い銘柄が売られ、355ドル安(1.41%減少)。

 
2.米国の雇用状況
米労働省が5月3日に発表した4月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比263,000人の増加で、市場予想の180,000人増を大きく上回りました。2月の雇用者数の確定値は56,000人で23,000人の増加、3月の改定値は196,000人で7,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約169,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、3月の失業率は3.6%で、前月から0.2%減少、1969年12月以来の低水準になりました。労働参加率は62.8 %で、前月比で0.2%低下しました。3月の時間当たり賃金上昇率は前月比6セント増加で、前年同月比では3.2%増となりました。部門別ではヘルスケア業が49,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が76,000人の増加、建設業が33,000人の増加になったものの、製造業は4,000人の増加に留まりました。

 
3.混迷を深めるトランプ政権の貿易政策
トランプ政権が直前まで合意が近いとの見通しを持っていた5月9-10日の米中貿易協議は、中国側が従来の合意内容の大幅修正を求めたことで、事実上決裂状態になりました。今回の協議で中国側が求めたのは、1.合意後の追加関税の即時撤廃、2。米国製品の輸入規模の縮小、3。協定本文での中国の主権と尊厳の尊重の3つにあったとされていますが、この中で最も重要なものは3にある中国の主権と尊厳の尊重とされています。中国側はこれに先立ち、5月3日に昨年12月の首脳会談以来、5カ月間に及び閣僚級会議で合意してきた知的財産権の保護、技術の強制移転の禁止、政府の産業補助金の大幅縮小、為替政策の透明化など7分野の内、知的財債権の保護、技術の強制移転の廃止、産業補助金の大幅縮小など5つの分野についての法律改正の約束を撤回してきました。

この背景には、今の習近平政権にとっては今回の米国側との合意内容を遵守することになれば、それは共産党政権が従来堅持してきた重要産業育成に関わる共産党の統治モデルを崩しかねないとの危機感が
急激に起きてきたことにあるとされています。9-10日での米中貿易交渉では中国側代表の劉鶴副首相は中国の尊厳を放棄するようなことはあり得ないとの中国側の立場を強く伝えたと言われています。

これに対し、トランプ大統領は2000億ドル相当の中国製品に対する25%の追加関税を発動を決定、さらに追加関税の対象となっていない残りの中国製品についても関税適用の手続き開始を指示しています。トランプ政権としては中国に対する強硬措置を一段と強めれば、中国側は最終的に受け入れざるを得ないとの判断があるものと見られます。しかしながら、中国側では共産党の機関紙である人民日報は、中国は引き続き協議する用意があるが、重要な原則で譲歩することはないと強調、更に系列の新聞社説で、戦略的な抑圧に対し、中国が耐えられないというのは幻想であるとの考え方を伝えています。

トランプ政権が中国の共産党独裁政権による産業政策を米国および市場経済主義国家に対する脅威として位置づけ、中国政府に対する根本的な構造転換を求めることは理解できますが、それは中国共産党の存立基盤を脅かすものとなりかねないことを考えると、両国の対立は長期化し、交渉内容も複雑化していくことが予想されます、また、それに伴い、世界経済にも貿易摩擦による成長の減速や株式市場の不安定化要因が高まっていくように見られます。

米中貿易協議の行き詰まりに関連して、安倍首相の招待に応じてトランプ大統領は5月25日から28日の4日間の日本を訪問しました。表向きは新しく即位した天皇への表敬にあるとされていますが、全ては計算の上で行動するトランプ大統領には別の思惑があると言われています(但し、彼の自己中心的利益による貪欲さで計算された手法はその強引さから矛盾が拡大することも多く、それが不動産ビジネスでは5回以上も破産申請する結果をもたらすことになりました)。今回について言えば、米中貿易協議の行き詰まりで、強まる米国の農業従事者達の不満を和らげるために、安倍首相が力説したがる友好的な日米関係を使って、日本に米国の農産品、特に関税引き下げによる牛肉の輸入拡大を受け入れさせるというものです。日本での選挙が終了する8月にはこの問題で決着させたいとするトランプ大統領の期待に日本側がどのように対応しようとするのか、今後の展開が注目されます。

5月31日にはトランプ大統領がメキシコ政府の政策が米国ヘの不当な移民を増加させ、米国の安全を脅かしているとして、メキシコから米国への全製品に6月10日から5%、最大で25%までに関税をかけることを発表しました。しかし、この発表は自動車産業などでは外国の会社だけでなく、米国の会社にも悪影響が及ぶものであり、この日の株式市場はダウが355ドル安(1.41%減少)となりました。

 
4.EU議会選挙の結果
5月23-24日に実施されたEU議会選挙で、従来中道右派(EPR)と中道左派(S&D)の2党だけで過半数を超えていたが(403議席)、今回は325議席となり、過半数割れとなりました。しかし、中道(ALDE&R)を加えると合計は426議席となり、過半数を超えることになりました。中道の党の議席が大幅に増えたのはフランスの「共和国前進」党(マクロン大統領の党)がここに入ったためです。また、緑の党系も大きく票を伸ばしました。

一方、30%を超えると見られていた極右はENFとEFDDを合わせても15.05%、EU会議派のECRを加えても、23.04%に留まりました。加えて、EFDDに属している政党はファラージ氏の英独立党が中心となっており、英国がEUを出ていくことになれば、更に議席数が減ることが予想されます。

今回の選挙は、EU会議派が議席数を伸ばしたものの、3分の1には達せず、EU維持派にとっては一安心ということになります。しかしながら、EPRとALDE&Rは全ての面で意見が一致しているわけではなく、欧州統合や地球温暖化などを急速に進めたいマクロン氏と穏健な道筋を求めるメルケル氏との温度差は大きく、また、次の欧州委員長の人事について対立点があると言われ、与党内の調整が大きなカギになると見られます。

            (2019年6月1日: 村方 清)

 

Wednesday, May 1, 2019

金融引き締め見直しと経済指標改善で上昇を続けた米市場













1.4月の株式市場
4月の株式市場は米中貿易協議は継続しているものの、連銀の金融引き締め見直しが続いていることや製造業景況感指数、雇用者増加数、第一四半期のGDPなど景気指数が好調であったことから、投資家の期待値が依然高く、株価の上昇が続きました。主要な動きは以下の通りでした。

4月1日:米国のサプライマネジメント協会(ISM)の製造業景況感指数が市場予想を上回って上昇したこと、米中の貿易協議の進展も期待され、330ドル高(1.27%増加)。
4月2日:前日に半年ぶりの高値を付けたこともあり、売りが優勢で、79ドル安(0.30%減少)。
4月3日:米中貿易協議が合意に近づいているとの期待感が広がり、39ドル高(0.30%増加)。
4月4日:米中貿易交渉の最終合意が近いとの期待が相場を支え、ボーイングなどが上昇、167ドル高(0.64%増加)。
4月5日:3月の米雇用統計で雇用者増加数が196,000人増で、市場予想の170,000人増を上回り(失業率は3.8%で変わらず)、米経済の勢いが依然弱くないとして、40ドル高(0.15%増加)。
4月8日:ボーイングが大幅安となったことや半年ぶりの高値で利益売りが出て、84ドル安(0.32%減少)。
4月9日:米国政府がEUからの輸入品に関税を課す方針を示し、貿易摩擦激化が世界経済の減速を招くとの懸念が強まり、190ドル安(0.72%減少)。
4月10日:デルタ航空や大手ジーンズのリーバイストラウスが好調で、7ドル高(0.03%増加)。
4月11日:医療保険の今後の不透明性から、ユナイテッドヘルスなどが大幅に下落し、14ドル安(0.05%減少)。
4月12日:四半期決算が増収増益となったJPモルガンなど金融株に大幅な買いが入ったことや動画配信サービスを開始することを公表したディズニーが上昇し、269ドル高(1.03%増加)。
4月15日:四半期業績が不調であったゴールドマンサックスが大きく下落、墜落事故の原因不明で懸念が続くボーインクも売られ、28ドル安(0.10%減少)。
4月16日:四半期業績が好調であったジョンソンアンドジョンソンが大きく上昇、長期金利の上昇で、金融株も買われ、68ドル高(0.26%増加)。
4月17日:四半期業績が不調で会ったIBMが4%近く下落、医療保険制度改革で悪影響が懸念されるユナイテッドヘルスなど保険会社株が売られ、3ドル安(0.01%減少)。
4月18日:市場予想を上回る米小売売上高や米主要企業の決算発表を受けて投資家心理が上向き、資本財関連株を中心に買いが優勢になり、110ドル高(0.42%増加)。
4月22日:23日以降の米主要企業の4半期決算をの発表を控え、結果を見極めたいとして、取引を見送る投資家が多く、48ドル安(0.18%減少)
4月23日:四半期業績が好調であったコカコーラやユナイテッドテクノロジーなどが大きく買われ、145ドル高(0.55%増加)。
4月24日:欧州の経済指標が弱く、世界景気の減速懸念が意識され、資本財や素材株を中心に売りが強まり、59ドル安(0.22%減少)。
4月25日:四半期業績が不振であった3Mが急落したことや前日の四半期業績の不振を発表したキャタピラーも売りが続き、135ドル安(0.51%減少)。
4月26日:2019年1-3月期のGDP速報値が3.2%で、市場予想の2.0%を大きく上回ったことから、米景気減速に対する警戒心が後退し、81ドル高(0.31%増加)。
4月29日:米個人消費支出が0.9%と市場予想を上回ったことから、米消費の底堅さがあると見なされたことや米長期金利の上昇で金融株が買われ、11ドル高(0.04%増加)。
4月30日:4半期業績が不振であったグーグルが約7.5%下落したが、業績好調であった製薬会社のファイザーやメルクを中心に買いが優勢で、39ドル高(0.15%増加)。

2.米国の雇用状況
米労働省が4月5日に発表した3月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比196,000人の増加で、市場予想の170,000人増を上回りました。1月の雇用者数の確定値は312,000人で1,000人の増加、2月の改定値は33,000人で13,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約180,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、2月の失業率は3.8%で、前月と同水準でした。労働参加率は63.0%で、前月比で0.2%低下しました。3月の時間当たり賃金上昇率は前月比4セント増加で、前年同月比では3.2%増となりました。部門別ではヘルスケア業が49,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が34,000人の増加、建設業が16,000人の増加となったものの、製造業は6,000人の減少となりました。

3.予想を大幅に上回った第1四半期のGDP成長率
米国商務省が4月26日に発表した2019年第1四半期のGDPの速報値は年換算で前期比3.2%増と市場予想の2.0%を大きく上回りました。輸出と在庫投資の拡大を背景に経済成長が加速しましたが、個人消費や企業の設備投資の面では弱さが目立ちました。

項目別では、輸出が3.7%増(前期は1.8%増)と3期ぶりの高い伸びとなり、米中貿易摩擦を背景に、輸出業者が報復関税の応酬の影響を抑えるために先手を打ったものと見られます。また、在庫投資も第1四半期は1284億ドルと15年第2四半期以来の高水準をつけました。これは需要の弱含みが原因と見られます。

その一方、GDPの約7割を占める個人消費支出は1.2%増と3期連続で鈍化しました。これは1月下旬まで続いた連邦政府機関の一部閉鎖などの影響が大きいと考えられます。また、企業の設備投資も0.2%に留まりました。加えて、住宅建設投資も2.8%減と5四半期連続で減少しました。

今回の高いGDP成長率は一次的な要因で、今後はトランプ政権による1兆5000億ドルの減税政策の効果が薄れ、成長率が2.5%前後に低下していくことが予想されます。

4.半年延長となった英国離脱
4月10日から開催されていたEUの首脳会議は8時間を超える超激論の末に、英国の離脱を10月末まで延長することを決定しました。トゥスクEU大統領は英国が短期間の延期を繰り返してその度毎に首脳会議を開く事態を避けるために、最大1年間の延長を提案しました。ドイツはこれを支持したものの、英国は長期の延期は離脱撤回につながりかねないとして反対、離脱議論の長期化を望まないフランスも反対していました。こうした中で、ユンケル欧州委員長は対英交渉を担当するEUの欧州委員会の任期も10月末であることから、10月末案でまとまったものです。

この案では、英国が議会で承認を得た場合にはその時点で離脱できる条項も盛り込まれました。これは5月23日からの欧州議会選への参加を回避したいメイ首相にとってプラス材料となりました。しかし、既にEUとの合意案を3回も否決されたメイ首相にとって、英議会が短期間で可決できる見通しは依然としてありません。
                 (2019年5月1日: 村方 清)

 

Monday, April 1, 2019

逆イールドカーブが示す世界景気の後退リスク


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
1.3月の株式市場
3月の株式市場は引き続き米中貿易協議の行方が大きな株価動向要因になりました。同時に長期金利の低下による逆イールドカーブの発生が、投資家の世界経済後退への警戒感を起こさせました。主要な動きは以下の通りでした。

3月1日:米中首脳が3月半ばにも会談し、貿易協議が合意する可能性があるとの報道が伝えられ、投資家心理が改善し、金融株を中心に買いが優勢で、ダウは110ドル高(0.43%増加)。
3月4日:米中貿易合意が近いとの報道で一時買いが先行したが、その後、織り込み済みと見方から利益確定の売りが優勢となり、また医療保険大手のユナイテッドヘルスが医療保険改革の一環で大きく売られ、207ドル安(0.79%減少)。
3月5日:今月下旬に予定される米中貿易交渉の合意内容を確認したいとする投資家が多く、相場は方向感に乏しく、13ドル安(0.05%減少)。
3月6日:2018年の貿易統計でモノの赤字が8787億ドルと12年振りに過去最大となり、米中の貿易協議がの先行きに警戒感が広がり、133ドル安(0.52%減少)。
3月7日:欧州中銀が年内の利上げを見送ったことを受けて、米長期金利が下げ、利ざや縮小の観測から、金融株が売られ、200ドル安(0.78%減少)。
3月8日:中国の輸出入の減速に加え、2月の米雇用統計で雇用者増加数が20,000人増で、市場予想の180,000人増を大きく下回り(失業率は3.8%で0.2%改善)、23ドル安(0.26%増加)。
3月11日:FRBが当面世界景気の動向を見守る姿勢を明確になり、投資家の安心感が広がり、幅広い銘柄に買いが優勢となって、201ドル高(0.79%増加)。
3月12日:ボーイング社製の墜落事故を受けえ、同型機の運航停止が各国に広がり、ボーイング株が6%安になり、96ドル安(0.38%減少)。
3月13日:1月の米耐久財受注額が市場予想に反して増加し、銀行や資本財などの景気敏感株の買いにつながり、148ドル高(0.58%増加)。
3月14日:米中の貿易協議を巡る警戒感が相場の重荷になったが、アップルなどのハイテク株の上昇が相場を支え、7ドル高(0.03%増加)。
3月15日:米中貿易協議が合意に向けて進展しているとの見方が広がり、投資家心理が改善して、
139ドル高(0.54%増加)。
3月18日:原油先物相場の上昇とFRBの利上げ慎重姿勢が示されるとの期待が大きく、石油と銀行株が買われ、65ドル高(0.25%増加)。
3月19日:前日までの上昇の反発と米中貿易交渉の進展への警戒感から、27ドル安(0.10減少)。
3月20日:トランプ大統領の記者会見での米中貿易交渉を巡る慎重発言に市場心理の悪化とFOM会合での2019年の利上げ予想回数がゼロとなり金融株が売られ、142ドル安(0.55%減少)。
3月21日:FRBが前日までに開いたFOMC会合で、年内の利上げを見送る方針を示したことに加え、アップルや半導体の上昇もあり、217ドル高(0.84%増加)。’
3月22日:米欧での製造業関連の経済指標が市場予想を下回り、世界経済の減速懸念が高まったことや長期金利の大幅低下で逆イールドカーブが発生、金融株が下落、460ドル安(1.77%下落)。
3月25日:前週末に生じた長短金利の逆転、逆イールドカーブの動揺が週明けも続き、景気の先行き不透明感から、投資家の慎重姿勢が見られ、15ドル高(0.06%増加)。
3月26日:石油株や金融株が買われ、相場を押し上げたが、米長短金利の逆転を受けての景気先行きへの警戒感も強く、上値は限られ、141ドル高(0.55%増加)。
3月27日:米長短金利の逆縁減少を受けて、世界情勢の警戒感から売りが優勢となり、32ドル安(0.13%減少)。
3月28日:米中貿易協議の進展や長期金利の低下により、投資家の買いが優勢で、92ドル高(0.36%増加)。
3月29日:米中貿易交渉が順調であったとの見方が広がり、投資家心理が改善、中国売上比率が高い企業を中心に幅広い銘柄が買われ、211ドル高(0.82%増加)。 


2.米国の雇用状況
米労働省が3月8日に発表した2月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比20,000人の増加で、市場予想の180,000人増を大きく下回りました。12月の雇用者数の確定値は227,000人で5,000人の増加、1月の改定値は311,000人で7,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約186,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、2月の失業率は3.8%で、前月から0.2%低下しました。労働参加率は63.2%で、前月と同じ水準でした。2月の時間当たり賃金上昇率は前月比11セント増加で、前年同月比では3.7%増となりました。部門別では専門・ビジネスサービス業が42,000人の増加、ヘルスケア業が21,000人の増加となったものの、製造業は4,000人の増加に留まり、建設業は31,000人の減少となりました。
 
 
3.FOMC会合と金利引き上げ
FOMC会合が3月19-20日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回1月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は引き続き力強さを保っているが、2018年10‐12月の底堅い伸びからペースが鈍化した。雇用者数は2月にはhとんど変わらなかったが、ここ数カ月を平均すると雇用増は堅調で、米失業率は低水準を保った。足元の指標は、1-3月期の家計支出と企業の設備投資の伸びの鈍化を示している。全般的なインフレ率は、主にエネルギー価格の低下で前年同月比ベースで下がったが、食品・エネルギーを除くインフレ率は2%付近で推移している。アンケート調査による測定では、長期のインフレ予想はあまり変わっていない。

法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。

この目標を支えるため、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを2.25-2.5%に据え置くことを決定した。FOMCは引き続き、持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、目標の2%前後付近のインフレ率がもたされるだろうと見ている。海外の経済・金融動向およびインフレ圧力が抑制されている点を考慮し、FOMCはFF金利の誘導目標レンジの調整を様子見する。
FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む10人のメンバー全員の賛成による。
なお、今回のFOMC会合では、今後3年間の金融シナリオを改めて議論し、19年中の想定利上げ回数はゼロとなり、18年12月時点の2回から、大幅に方針転換しました。また、同日の会合では米国債などの保有資産を縮小する「量的引き締め」を19年9月に停止することを決定しました。こうしたFOMCの利上げ観測の後退にもかかわらず、米中貿易交渉の不透明感から、ダウは142ドル安0.55%減少)となりました。


4.「合意なし離脱のリスク」が高まる英国
英議会下院は3月29日にEU離脱案の中で、離脱条件を定めた離脱協定案を切り離して採決、反対多数で否決しました。今回の投票では賛成286票、反対が344票で票差は58票で、1月の230票差や3月12日の149票差よりも票差は大幅に減少しましたが、与党からは40人程度の造反が出たとされています。29日の採決では過去2回と異なり、離脱案のうち通商協定など英・EUの将来の大枠を示す政治宣言案を分離し、離脱協定案の本体だけに絞り、3月29日までに英議会で可決すれば、離脱を5月22日までに延期することで合意していました。しかし、今回も合意が得られなかったことにより、英国政府は4月12日に今後の離脱方針をEUに示すことが求められ、合意なき離脱のリスクが高まったといえます。

これにより、英国政府は4月12日までに新たな方針を示すことが求められています。しかし、現在新たな代替案はなく、合意なき離脱に陥る可能性があります。一方で議会は3月13日に、「合意なき離脱を回避する」との動議を可決しており、4月1日にメイ首相の離脱案に代わる選択肢を議員主導で探す議論を再開することになります。議会では、EUとの関税同盟への恒久的な残留案や2回目の国民投票案を軸に調整を続けると見られますが、いずれもEUとの再交渉が必要な根本的な方針転換になり、英国の5月の欧州議会選への参加や5月22日以降の長期延期が欠かせなくなります。こうした状況を受けて、EU加盟国の間でも、4月12日に合意なき離脱となるシナリオの可能性への警戒感が高まっています。
           (2019年4月1日: 村方 清)