Friday, February 1, 2019

連銀の金融正常化慎重方針と回復基調の米国市場







 
 
 
 
 
 
 
  
1.1月の株式市場
1月の株式市場は12月末の政府機関の閉鎖という動きはあったものの、連銀が金融正常化を急がないとの方針を出したことや米中貿易交渉の進展への期待もあり、回復基調となりました。主要な動きは以下の通りでした。

1月2日:朝方にダウ平均が400ドル近く下げることがあったが、その後、米中貿易交渉の進展への期待と米企業業績からみた割安感から買いが入り、ダウは19ドル高(0.08%増加)。
1月3日:アップルの売上高見通しの引き下げ、中国の景気減速やスマートフォンの需要減退への懸念から、アップル経済圏の銘柄に売りが広がり、660ドル安(2.83%減少)。
1月4日:12月雇用統計で雇用者増加数が312,000人増で、市場予想の180,000人増を大きく上回り(失業率は3.9%で0.2%悪化)、賃金上昇率も年率3.2%であったこと及びパウエル連銀議長が金融政策の正常化を急がないと受け止められ、747ドル高(3.29%増加)。
1月7日:米中の次官級貿易会議に関連して、交渉の進展への期待で、98ドル高(0.42%増加)。
1月8日:米中貿易協議の進展への期待から、中国事業の比率が高いボーイングやアップルを中心に多くの銘柄で買いが鵜優勢で、256ドル高(1.09%増加)。
1月9日:9日に終了した米中貿易協議の進展に加え、パウエル連銀議長の公開討論会での利上げや資産圧縮についての慎重発言が伝えられ、92ドル高(0.39%増加)。VIX指数も19台に低下。
1月10日:米中貿易交渉の進展による投資家心理の改善やFRBの利上げを急がないとの見方から、123ドル高(0.51%増加)。
1月11日:昨日までの相場上昇で、利益確定目的とする売りが優勢で、6ドル安(0.02%減少)。
1月14日:中国の貿易統計から中国経済の減速懸念が示されたことや米政府機関の閉鎖で米国政治の不透明感が広がり、86ドル安(0.36%減少)。
1月15日:サービス料金の引き上げをしたネットフリックスや四半期業績がが好調であったユナイテッドヘルスが大きく株価を上げ、156ドル高(0.65%増加)。
1月16日:ゴールドマンサックスやバンクオブアメリカの四半期業績が好調で、金融株が相場を押し上げ、142ドル高(0.59%増加)。
1月17日:米政府が対中関税の引き下げを検討していると伝えられ、米中貿易摩擦の懸念が後退し、投資家心理が改善、163ドル高(0.67%増加)。
1月18日:米中政府の歩み寄りで貿易交渉が進展するとの期待が高まり、336ドル高(1.38%増加)。
1月22日:中国や世界経済の景気減速への警戒感が広がり、海外市場の売り上げ比率が高い企業の銘柄が幅広く売られ、302ドル安(1.22%減少)。
1月23日:四半期業績が好調であったIBMが相場をけん引し、171ドル高(0.70%増加)。
1月24日:ロス商務長官の発言により米中貿易協議の進展に対する期待が後退し、22ドル安(0.05%減少)。
1月25日:FRBが金融正常化のペースを緩めるとの思惑の広がりに加えて、米中貿易摩擦の交渉の進展への期待から、184ドル高(0.75%増加)。
1月28日:四半期業績が不振であったキャタピラーにより、中国の需要低迷が意識され、市場のリスク資産への配分が減少し、209ドル安(0.84%減少)。
1月29日:スリーエムなど四半期決算が市場予想を上回った銘柄が買われたものの、今週開催されるFOMCの結果を見たい投資家も多く、52ドル高(0.21%増加)。
1月30日:FOMCの声明文が公表となり、FRBの利上げ慎重姿勢が改めて確認できたことから、市場の安心感が広がり、435ドル高(1.77%増加)。
1月31日:前日に大幅高となった反動で利益確定売りが優勢であったことや四半期業績が不振であったことに加え、長期金利の低下で銀行株が下げたことで、15ドル安(0.06%減少)。

2.米国の雇用状況
米労働省が1月4日に発表した12月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比312,000人の増加で、市場予想の180,000人増を大きく上回りました。10月の雇用者数の確定値は274,000人で37,000人の増加、11月の改定値は176,000人で21,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約287,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を大きく上回りました。なお、12月の失業率は3.9%で、前月から0.2%上昇しました。労働参加率は63.1%で、前月から0.2%増加しました。12月の時間当たり賃金上昇率は前月比11セント増加で、前年同月比では3.2%増となりました。部門別では専門・ビジネス・サービス業が42,000人の増加、飲食サービス業が41,000人の増加、建設業が38,000人の増加、製造業が32,000人の増加、小売業が24,000人の増加となりました。

3.FOMC会合と金利引き上げ
FOMC会合が1月29-30日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回12月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は堅調に拡大した。雇用増はここ数か月間平均すると力強く、失業率は低位を保った。家計支出は力強く拡大を続けたが、企業の設備投資は昨年前半の高い伸びと比べ緩やかになった。全般的なインフレ率及びエネルギーと食品を除くインフレ率はいずれも、前年同期比ベースで2%付近で推移している。長期のインフレ予想を示す指標は総じあまり変わっていない。

法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。

この目標を支えるため、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを2.25-2.5%に据え置くことを決定した。FOMCは引き続き、持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、目標の2%前後付近のインフレ率がもたされるだろうと見ている。海外の経済・金融動向およびインフレ圧力が抑制されている点を考慮し、FOMCはFF金利の誘導目標レンジを調整するのを様子見する。

FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。
今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む10人のメンバー全員の賛成による。

なお、今回のFOMC会合後の記者会見で、パウエル議長は利上げ終結の可能性と共に、連銀の保有資産を圧縮する「量的引き締め」も当初想定したよりも早期に終了することを明言しました。連銀の金融正常化慎重方針が確認されたことで市場の安心感が広がり、435ドル高(1.77%増加)となりました。

4.トランプ大統領の譲歩による政府機関閉鎖の一部解除
トランプ大統領は1月25日に米政府機関の一部閉鎖の解除で与野党と合意しました。従来主張してきた“国境の壁”の建設予算を含まないつなぎ予算を2月15日までの3週間を容認しました。これにより、昨年12月22日に始まり、過去最長を更新していた閉鎖期間は35日目で一時的に終了することになりました。トランプ大統領が今回閉鎖の解除を決めたのは、政府の無給職員の数が80万人超に達し、米国の経済に与える影響が無視できなくなったこと、更に与党共和党からもトランプ大統領に早期の譲歩を求める動きが広がったことがあげられます(トランプ大統領の支持率は34%まで低下)。

今後、トランプ大統領の意向を踏まえた与党の共和党と野党の民主党の協議が2月15日まで続けられることになりますが、米国政府の財政赤字が急増している中で、約57億ドルという巨額の歳費を“国境の壁”の建設にトランプ大統領の要求に相当な無理があると思われます。トランプ大統領としては2020年の再選に向けて、彼の支持層を繋ぎとめるためには選挙公約である“国境の壁“を実現しなければという超保守派の考えに影響されているとの見方も出ています。しかし、トランプ大統領が非常事態条項を使っても”国境の壁“の建設に固執すれば、他の共和党グループが離れていくという矛盾を抱えているだけに、大統領はより現実的な選択をすることが求められているように思われます。

5.英国議会によるEU離脱案否決と今後の行方
英国議会下院は1月15日にEUと合意した離脱案を賛成202票、反対432票の大差で否決しました。野党はこれを受けて、メイ政権に対する内閣不信任案を提出しましたが、与党からの十分な賛成票は得られず、否決となりました。これを受けて、メイ首相は代替案について、他党とも対話をする方針を示し、21日にアイルランドの国境問題への対応の修正を検討する代替案を発表し、29日に他の修正案と共に、採決にかけられる予定ですが、承認が得られる可能性は依然低いままに留まっています。

こうした状況の中で、与野党議員から3月末の離脱延期を求める修正案が相次いで提出されました。離脱延期を求める修正案はEU残留派の議員グループが提案していましたが、その狙いは英国経済に大混乱を与えかねない“合意なき離脱”を阻止するのが目的でした。しかし、この案は29日に僅差で否決されました。29日で承認された修正案は、アイルランドとの国境問題への対応でEUに対して修正を求めるというものですが、EU側は昨年11月に合意した離脱案の修正には応じないとの方針であり、これが実現する見通しは依然立っていません。
           (2019年2月1日:村方 清)

 

 

Tuesday, January 1, 2019

混迷するトランプ政権の政策と不安定化する市場















1.12月の株式市場
12月の株式市場はFOMC会合が開かれる18-19日までは米中貿易摩擦問題の長期化とFRBの金融引き締めへの警戒感から下落基調が続き、それ以降は国境の壁建設を巡るトランプ政権と野党の対立から一部政府機関の閉鎖などから、不安定な展開となりました。主要な動きは以下の通りでした。

12月3日:1日の米中首脳会談で米国が年明けからの中国への追加関税を90日間猶予したことで合意したことや米原油相場の反発から、買いが優勢となり、288ドル高(1.13%増加)。
12月4日:米国の債券市場で、一部の年限での長短金利の逆イーグルが起きたことを受け、景気減速の懸念が広がったことや米中貿易協議の懸念から、799ドル安(3.10%減少)。
12月6日:中国通信大手の幹部の逮捕が米中関係の悪化を招くとの懸念が強まり、一時785ドル安まで下げたが、取引終了前に米利上げ休止観測から、下げ幅を縮め、79ドル安(0.32%減少)。
12月7日:11月雇用統計で雇用者増加数が155,000人増で市場予想の190,000人増を下回り(失業率は3.7%で同水準)、賃金上昇率も年率3.1%であったこと及び米中摩擦問題の懸念が強まり、アップルなどを中心にハイテク株が大幅に下がり、559ドル安(2.24%減少)。
12月10日:英国がEU離脱を巡る議会投票が延期されたことにより、一時500ドル下落したが、その後、大きく下落していたアップルが持ち直し、34ドル高(0.14%増加)。
12月11日:米中貿易交渉の長期化と米予算編成をめぐるトランプ大統領と民主党幹部との対立が伝えられ、53ドル安(0.22%減少)。
12月12日:米中貿易交渉の進展が期待される報道で中国売上が大きい銘柄を中心に買いが広がり、米長期金利や原油先物相場の上昇で金融や石油株も買いが入り、157ドル高(0.64%増加)。
12月13日:米中貿易問題の進展や原油先物相場の上昇で、70ドル高(0.29%増加)。
12月14日:中国と欧州の経済指標が景気減速を示す内容となり、投資家のリスク回避姿勢が強まり、497ドル安(2.02%減少)。
12月17日:18-19日に開催されるFOMCで今年4回目の利上げに踏み切る可能性が高く、投資家がリスク回避の姿勢を強め、508ドル安(2.11%減少)。
12月18日:前日まで大幅下落した反動で、自律反発を見込んだ買いが優勢であったが、FOMCの結果を19日に控え、午後は買い見送りムードが強まり、伸び悩みで、87ドル高(0.35%増加)。
12月19日:FOMCが今年4回目の利上げを決定、FRB議長の記者会見で2019年も緩やかな利上げを続ける姿勢を示したことで、市場の警戒感が強まり、352ドル安(1.49%減少)。
12月20日:FRBの今後の金融政策が引き締め的になるとの見方から株価の割高感が意識され、更に米連邦政府機関の一部閉鎖の可能性が高まったとの報道から、464ドル安(1.99%減少)。
12月21日:景気減速の懸念や米政府機関の一部閉鎖への警戒感などから、投資家のリスク回避姿勢が強まり、414ドル安(1.81%減少)。
12月24日:ムニューシン財務長官が米銀大手首脳と電話会談し、決済等に問題がないことを確認したが、これが逆に金融市場の混乱を招いて投資家のリスク回避姿勢を強め、653ドル安(2.91%増加)。
12月26日:12月の株価急落の影響で、機関投資家の運用資産に占める株式の組み入れ比率が下がったことから、基準値に戻す必要から買いが優勢で、1,086ドル高(4.98%増加)。
12月27日:下落基調が続いた反動で、持ち高調整の買いが次第に大きくなり、260ドル高(1.14%増加)。
12月28日:国境の壁建設を巡って、トランプ大統領と野党民主党が対立し、政府機関の一部閉鎖が続く見通しであることや世界経済の減速懸念から、76ドル安(0.33%減少)。
12月31日:米中貿易交渉の進展への期待と機関投資家の年末の買い増しなどで、265ドル高(1.15%増加)。ダウは2018年全体で年間5.6%の下落。

2.米国の雇用状況
米労働省が12月7日に発表した11月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比155,000人の増加で、市場予想の190,000人増を下回りました。9月の雇用者数の確定値は119,000人で1,000人の増加、10月の改定値は237,000人で13,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約170,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、9月の失業率は3.7 %で、前月と同水準でした。労働参加率は62.9%で、前月と同水準でした。10月の時間当たり賃金上昇率は前月比6セント増加で、前年同月比では3.1%増となりました。部門別ではレジャー・ヘルスケアが32,000人の増加、専門・ビジネス・サービス業が32,000人の増加、製造業が27,000人の増加となりました。

3.FOMC会合と金利引き上げ
FOMC会合が10月18-19日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回11月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は力強く拡大した。雇用増はここ数か月間平均すると力強く、失業率は低位を保っている。家計支出は拡大を続けたが、企業の設備投資は今年前半の高い伸びと比べ緩やかになった。全般的なインフレ率及びエネルギーと食品を除くインフレ率はいずれも、前年同期比ベースで2%付近で推移している。長期のインフレ予想を示す指標は総じあまり変わっていない。

法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジをさらに若干、段階的に引き上げることは持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、中期的に目標の2%前後付近のインフレ率と整合すると判断している。景気見通しのリスクはほぼ均衡していると判断しているが、引き続き世界景気や市場動向を注視し景気見通しへの影響を分析する。

FOMCでは労働市場の情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを2.0-2.25%に引き上げることを決定した。

FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。
今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む10人のメンバーの賛成による。

連銀は19日のFOMC会合で3カ月ぶりの利上げを決定しました。米経済は失業率が49年ぶりの水準まで低下するなど堅調で、投票メンバー10人の全員一致で年内4回目の利上げとなりました。その一方、先行きの金融政策見通しでは、19年の想定利上げ回数は計2回が中央値となりました。この背景には物価に過熱感がないことが先行きの利上げ慎重論になっていると見られます。
なお、今回のFOMCの結果発表後に米債券市場で長短金利の差が縮まり、利さやが縮小するとの観測から、金融関連株が売られ、352ドル安となりました。

3.トランプ大統領の求める“国境の壁”と政府機関閉鎖問題
トランプ大統領が選挙期間中に主張していた“国境の壁”が政府予算の措置との関係で新たな問題を迎えています。本来、トランプ大統領の主張はメキシコ側の負担で“国境の壁”を建設するものだったのですが、メキシコ政府が全く応じる姿勢を示さなかったことから、大統領が米国内で予算手当を行うことで建設することに変わった経緯があります。しかしながら、米国財政はトランプ大統領と与党共和党が掲げた大幅減税で昨年末に実行されたことにより、急激に悪化してきており、大統領が主張する約50億ドルと言われる国境の壁が議会で受けいれられる可能性は極めて低いとおもわれます。会期切れであった12月22日に野党民主党との話し合いが行われましたが、民主党幹部は国境の壁は税金の無駄使いとして受け入れず、トランプ大統領は“国境の壁”の建設のための予算措置が講じられない限り、政府機関の一部閉鎖もありえると反論、それを実行に移しました。そして、12月27日と31日に渡って与野党の話し合いが行われましたが、意見の一致を見ず、現状では政府機関の閉鎖は年を越す可能性が高まってしまいました。

4.混迷する英国のEU離脱問題
メイ首相は12月11日に予定されていたEUとの離脱合意案の議会採決を大差で否決される見通しが高いとして、延期しました。その後に、メイ首相は17日に英議会による採決を来年1月14日からの週に採決する意向を示しました。同時に、18日の閣議では、協定案が承認されず、合意なし離脱に追い込まれた場合の対応について協議、物流の混乱が予想される国境の管理や治安維持などのために、合計20億ポンドの予算を配分することを承認しました。また、ウイリアムソン国防相はこの日の議会で、合意なし離脱に備え、各省庁をサポートするために3500人規模の兵士を派遣する準備をすることを表明しました
 
英国とEUが11月に合意した協定案では、英領北アイルランドと地続きのアイルランドとの間で人や物の自由な行き来を続けるため、解決策がない限り、英国全体がEUの関税ルールに従い続けるという非常措置が盛り込まれていました。これについて、与党保守党の強硬離脱派は永久にEUルールに縛られるなどと反発、メイ首相は非常措置の期限を区切るなどの保証をEUから引き出すように協議を続けていますが、現時点では成功していません。いずれにしても、英国のEU離脱問題は期限である3月末に近づいているものの、合意の見通しが立たない状況です。
                      (2019年1月1日: 村方 清)

 

 

Saturday, December 1, 2018

中間選挙後のトランプ政権の経済運営と市場への影響















1.11月の株式市場
11月の株式市場は、11月6日の中間選挙まではトランプ政権の政策への期待が高く、株式市場は上昇傾向が続きました。しかし、選挙の結果、上院は過半数を維持したものの、下院は与党が約40の議席を失い、今後のトランプ政権の経済運営の厳しさを予想させることとなりました。但し、月末はFRB議長の利上げ慎重発言などから、上昇傾向が続きました。主要な動きは以下の通りでした。

11月1日:米中首脳が貿易摩擦問題の打開に向けて協議することで一致したとの報道に加え、化学のダウ・デュポンなど主要企業の四半期業績が好調で、ダウ価格は265ドル高(1.06%増加)。
11月2日:10月雇用統計で雇用者増加数が250,000人増で市場予想の190,000人増を大きく上回り(失業率は3.7%で同水準)、賃金上昇率も年率3.1%に上昇、長期金利上昇への警戒感が高まり、110ドル安(0.43%減少)。
11月5日:IBMやシェブロンが買われ、相場を押し上げ、191ドル高(0.76%増加)。
11月6日:IBMやキャタピラーなどの銘柄が買われ、173ドル高(0.68%増加)
11月7日:中間選挙の結果が予想通りとして、投機性が高まり、545ドル高(2.13%増加)。
11月8日:前日に大きく上昇した反動やFOMCの声明文で段階的な利上げの継続方針が出たことで、利益確定の売りも多く出たが、年末に向けた株高への期待で、11ドル高(0.04%増加)。
1月9日:FOMCの利上げげ継続観測が重荷となり、さらに原油先物相場の下落を受けた世界景気の減速懸念から、投資家がリスク回避姿勢を強め、202ドウ安(0.77%減少)。
11月12日;販売減速懸念のアップルが5%下落、他のハイテク株も売られ、更にマレーシアでの資金流用問題が指摘されるゴールドマンサックスも7%強の下落で、602ドル安(2.32%減少)。
11月13日:飛行制御システムに問題があったボーイングが大幅に下落、原油先物相場も下落したため、101ドル安(0.40%減少)。
11月14日:中国景気の減速や原油先物相場の低迷で、売りが優勢となり、アップルや金融株の下げで、206ドル安(0.81%減少)。
11月15日:一時売りが先行し300ドル近く下げたが、米中貿易交渉の進展を期待させる報道から買いが優勢になり、208ドル高(0.83%増加)。
11月16日:米中貿易問題について、中国側が追加関税を課さない可能性を示唆したとのトランプ大統領の発言で、警戒感が薄れ、また長期金利も低下し、124ドル高(0.49%増加)。
11月19日:アップルを始め大手IT株が売り込まれたこと、米中貿易摩擦の先行き不透明感が増したこと、住宅関連の指標が落ち込んだことなどで、396ドル安(1.56%減少)。
11月20日:販売不振のアップルの売りが続いていること、原油安で石油株も下落、利ザヤ縮小で金融株の下落などで、552ドル安(2.21%減少)。年初来の騰落率で再びマイナス。
11月21日:一時大きく売られた銘柄を中心に買いが入ったが、米中貿易摩擦問題の行方や世界景気減速への懸念から、取引終了時にかけて伸び悩み、1ドル安(0.00%減少)。
11月23日:原油先物相場の下落で石油株が大幅に下げ、長期金利の低下で金融株も売られ、業績懸念のアップルも4日連続で下落、179ドル安(0.73%減少)。
11月26日:年末商戦が好調な滑り出しになったことや原油安が一服したことなどから、幅広い銘柄に買いが入り、354ドル高(1.46%増加)。
11月27日:米中貿易交渉の期待から、108ドル高(0.44%増加)。
11月28日:パウエル連銀議長の発言で、利上げ打ち止めが近いとの思惑や今月末に予定される米中会談で米中間の貿易摩擦問題に進展が見られるとの期待から、618ドル高(2.50%増加)。
11月29日:前日に急伸した反動で目先利益を確定する売りが優勢で、28ドル安(0.11%減少)。
11月30日:12月1日の米中首脳会談での貿易交渉進展への期待で、200ドル高(0.79%上昇)。

2.米国の雇用状況
米労働省が11月2日に発表した10月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比250,000人の増加で、市場予想の190,000人増を大きく上回りました。8月の雇用者数の確定値は286,000人で16,000人の増加、9月の改定値は118,000人で16,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約218,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を上回りました。なお、9月の失業率は3.7 %で、前月と同水準でした。労働参加率は62.9%で、前月から0.2%上昇しました。10月の時間当たり賃金上昇率は前月比5セント増加で、前年同月比では3.1%増となりました。部門別ではレジャー・ヘルスケアが42,000人の増加、建設業が30,000人の増加、製造業が32,000人の増加となりました。

3.中間選挙の結果-トランプ政権への厳しい批判
11月6日に中間選挙が行われ、直後にトランプ大統領は与党の共和党が上院で過半数を維持したことで大勝利と発言しましたが、時間が経過するにつれ、トランプ政権にとって極めて厳しい結果となりました。上院については、与党の共和党が53議席で選挙前の51議席から2議席増加したものの、共和党の非改選が42議席もあったことよりすれば、決して大きく議席数を増加させたとは言えない状況でした。

厳しい結果となったのは下院で、定足数の435議席が全て改選の対象となり、民主党は235議席で選挙前の195議席から40議席増加、共和党は200議席に留まりました。同時に州知事選挙についても、改選された36州の選挙で、民主党が議席数を伸ばし、改選前の16人から23人となる一方、共和党は33人から27人に減少しました。

今回の選挙の特徴は、投票率が47%と従来の中間選挙より大幅に増加、若者や女性の参加が激増したことでした。そうした中で、民主党が下院で大幅に躍進した理由は、下院の全議席が選挙の対象となり、米国民の意見がより反映されやすく、多くの女性票が反トランプに流れたこと、かつ米国民の関心は医療費関連が41%で最大、トランプが強調した移民問題は23%、経済問題は21%でしかありませんでした。この分野でトランプや共和党がオバマケアに対抗できるような魅力的な医療保険制度を提示できなかったことが下院の大敗になったと見られています。

民主党は下院で過半数を取ったことにより、全27委員会の委員長ポストを独占、トランプのロシア疑惑問題だけでなく、税申告問題、メインバンクであるドイツ銀行との取引の実態、トランプ所有のホテルの外国要人使用問題(憲法規定のEmoluments条項違反)などの調査が大きく進むものと見られます。

今回の選挙後、トランプ大統領はインフラ投資などで、下院で多数派となった野党の民主党と協調する姿勢を示しましたが、一番大きな問題は財源で、2019年度には1兆ドルを超えると見られる財政赤字の中で、両党の合意が得られるかは全く見通しが立ちません。最近の報道では、トランプ大統領は財政赤字の深刻さに懸念を抱き始め、議会関係者に歳出抑制を指示したと言われていますが、今回の財政赤字の主要な原因は昨年12月の企業や富裕層に対する大幅な減税であったことに対する認識が極めて低いことが大きな問題になります。。

4.FOMC会合とパウエル連銀議長の発言への反応
FOMC会合が11月7-8日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回9月のFOMC会合後に得た情報によれば、雇用増はここ数か月平均すると力強く、失業率は低下した。家計支出は力強く拡大したが、企業の設備投資は今年前半の高い伸びと比べ緩やかになった。全般的なインフレ率及びエネルギーと食品を除くインフレ率はいずれも、前年同期比ベースで2%付近で推移している。長期のインフレ予想を示す指標は総じあまり変わっていない。

法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジをさらに段階的に引き上げることは持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、中期的に目標の2%前後付近のインフレ率と整合すると予測している。景気見通しのリスクはほぼ均衡してきているようだ。

FOMCでは労働市場の情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを2.0-2.25%に据え置くことを決定した。
FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む9人のメンバーの賛成による。

連銀は8日のFOMC会合で金融政策の現状維持を決め、追加利上げを見送りました。その一方、米国経済は大型減税で成長率が3%台に高まり、物価上昇率も目標の2%に達しており、これを踏まえて、声明文では更なる利上げが正当化されるとして、改めて言及、12月の次回会合で追加利上げに踏み切る可能性を示唆しました。

なお、今回のFOMCの結果発表後は、金利を据え置いたことや前日に大きく上昇したこともあり、ダウは11ドル高に留まりました。

一方、11月28日にはパウエル連銀議長はニューヨークで講演し、当面の利上げの継続をにじませながら、政策金利が「中立金利」に近いと言及し、利上げの停止時期を慎重に見極める考えを示唆しました。市場はこの発言が利上げ打ち止めが近いとの思惑から、618ドル高となりました。

5.英国とEUの離脱合意
英国政府とEUは11月25日に英国のEU離脱交渉に関し、2つの点を中心とする合意案を正式に決定しました。それによれば、最初の離脱協定案では、離脱後も2020年末までは英国をEUの単一市場・関税同盟に残留させる「移行期間 を導入、さらに必要ならば最長2年、一回限りの延長を認めることを織り込みました。これにより、英国は移行期間中、EUとの間で関税同盟のメリットを受けられるものの、一方で英国はEUの法律やルールに従わざるをえず、更にEUへの財政負担を求められることになります。次に、2つめの政治宣言案は、離脱後の通商交渉について、包括的な自由貿易圏を目指すとしながらも、FTAを軸としたいEUとETAよりも深い関係を築きたい英国との間の溝は以前埋まっていない状況です。最後に、交渉が難航してたアイルランド国境問題も決着を先送りし、移行期間が終わるまでに具体策を見つけることになりました。

実質上、重要事項を先送りした今回の合意案は12月11日に予定される英国議会での承認が必要になりますが、与党・保守党の強硬派の立場からすれば、この合意案では離脱が名ばかりになる恐れがあります。一方、議会が承認しなければ、2019年3月以降は合意なく離脱となり企業活動や国民生活が大混乱する恐れがあります。いずれにしても、議会の承認が得られるかどうかによって、英国は以前として困難な状況が続くことになります。
        (2018年12月1日: 村方 清)

 

Thursday, November 1, 2018

トランプ政権の政策矛盾と市場の不安定化















1.10月の株式市場
0月の株式市場は10月2日にダウが史上最高の26,951ドルを達した後、トランプ政権の財政政策による長期金利上昇や貿易摩擦問題による企業業績悪化などから、下落傾向が続き9(10月10日には832ドルの下落)、10月末ではピークから約5%の低下となりました(2016年1月以来の大きな下落)。主要な動きは以下の通りでした。

10月1日:北米自由貿易協定(NAFTA)の見直し交渉で米国とカナダが合意、投資家心理が改善、貿易交渉の影響を受けやすい株式銘柄に買いが優勢で、ダウ価格は193ドル高(0.73%増加)。
10月2日:NAFTA見直し交渉の合意を受けて、海外事業の比率が高いキャタピラーやボーイングなどが買われ、123ドル高(0.46%増加)。
10月3日:ADP全米雇用レポートで非農業部門の雇用者数が前月比23万人増と市場予想を上回ったことや
イタリア政府の財政懸念の後退もあり、54ドル高(0.20%増加)。
10月4日:前日に米長期金利が7年振りの水準に達して、米金利の急上昇に対する警戒感が高まったことで、201ドル安(0.75%減少)。
10月5日:9月雇用統計で雇用者増加数が134,000人増で市場予想の185,000人増を下回ったものの(失業率は3.7%まで低下)、賃金上昇率が2.8%などで、長期金利上昇への警戒感が高まり、180ドル安(0.68%減少)。
10月8日:金利上昇を警戒したハイテク株の売りが続いたが、午後に持ち直し、40ドル高(0.15%増加)。
10月9日:米中の貿易摩擦や中国経済の減速への警戒感から、キャタピラーなど中国売り上げ比率が高い銘柄を中心に売りが優勢で、56ドル安(0.21%減少)。
10月10日:米長期金利の上昇を受けて、割高なハイテク株が大きく売られ、加えて米中貿易摩擦の長期化が意識され、投資家のリスク回避の姿勢が強まり、832ドル安(3.15%減少)。
10月11日:米中貿易摩擦の悪影響への投資家の警戒感に加え、原油先物相場の下落に伴う石油株の売りも重なり、546ドル安(2.13%減少)。
10月12日:アップルやアマゾン等のハイテク株心に買いが広がり、287ドル高(1.15%増加)。
10月15日:アップルなどの多くのハイテク株が下落、89ドル安(0.35%減少)。
10月16日:米長期金利の上昇が一服したことやゴールドマン・サックス、ユナイテッドヘルスの四半期決算が好調であったことで、548ドル高(2.17%増加)。
10月17日:前日に急騰した反動の売りと利上げ観測で、92ドル安(0.36%減少)。
10月18日:中国景気の減速に加え、米長期金利の先高観を反映したハイテク株の売りも続いてことから、327ドル安(1.27%減少)。
10月19日:前日に大きく下落した反動で、自律的な反発を見込んだ買いが優勢で、65ドル高(0.26%増加)。
10月22日:イタリアの財政懸念から銀行家が売られ、原油先物相場の下落から石油株も売られ、127ドル安(0.50%減少)。
10月23日:中国関連株のキャタピラーや3Mなどの四半期業績が不振で、一時548ドルの下落をしたが、取引終盤に下げ幅が縮小し、126ドル安(0.50%減少)。
10月24日:10月のユーロのPMIの総合指数が52.7に低下、米中貿易摩擦の長期化による世界経済の不透明感を強く意識され、608ドル安(2.41%減少)。
10月25日:四半期決算が好調であったマイクロソフトとクレジットカードのビザが大幅に上昇し、投資家心理が改善、401ドル高(1.63%増加)。
10月26日:四半期決算が不調であったアマゾンやグーグルが大幅に下落、アップルやフェースブックにも売りが広がり、296ドル安(1.19%減少)。
10月29日:11月の米中首脳会談が不調の場合、トランプ政権が中国からの全輸入品に追加関税を発動との方針が伝えられ、貿易摩擦の影響を受け安い銘柄が売られ、245ドル安(0.99%減少)。
10月30日:トランプ大統領が中国との貿易摩擦問題で折り合うとの姿勢を示したと伝えられたことや四半期業績が好調であったコカ・コーラなどの銘柄が上昇し、432ドル高(1.77%増加)。
10月31日:四半期業績が好調であったフェイスブックが大幅に上昇、これに伴い主力ハイテク株に買いが優勢となったこと、長期金利の上昇で金融株も買われ、241ドル高(0.97%増加)。

2.米国の雇用状況
米労働省が10月6日に発表した9月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比134,000人の増加で、市場予想の185,000人増を下回りました。7月の雇用者数の確定値は165,000人で18,000人の増加、8月の改定値は270,000人で69,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約190,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、9月の失業率は3.7 %で、1969年12月以来の低い水準となりました。労働参加率は62.7%で、前月と同水準でした。9月の時間当たり賃金上昇率は前月比8セント増加で、前年同月比では2.8%増となりました。部門別ではヘルスケアが26,000人の増加、建設業が23,000人の増加、製造業が18,000人の増加となりました。

3.トランプ政権による財政赤字の拡大
連邦議会予算局が発表した2018年度(2017年10月から2018年9月まで)の財政赤字は約7820億ドルで、前年度の約6660億ドルを1160億ドル上回る過去6年間で最悪となる見通しとなりました。この数字は米国GDPの3.9%となり、前年度の3.5%から拡大しました。現在、米国の累積財政赤字額は21.5兆ドルに達しており、2018年度の場合、5230億ドルが金利支払いに充当されたといわれています。いずれにしても、昨年12月にトランプ大統領と共和党が成立させた1兆5000億ドルの大幅減税は、その後のインフラ投資を重点とする約600億ドルの追加財政支出と共に、短期的に経済を活発化させるものの、中長期的に米国の財政赤字が長期金利の上昇となって、米国経済を停滞させていくことになりかねません。

これに関連して、共和党のマッコウネル上院院内総務は今後予想される財政赤字の拡大に対しては、ソーシャルセキュリティーやメディケアのなどの社会保障制度予算の大幅見直しが必要になるとの見方を示しました。2018年度の財政赤字拡大はトランプ大統領と共和党が成立させた大企業や富裕層への大幅減税が大きな原因であったにもかかわらず、そのことに言及することなく、既に医療保険の高騰や既往症の保険適用などで一般の米国民に大きな悪影響を与えている社会制度について、大きな見直しを主張する共和党の姿勢には米国民の間に強い反発を起こしています。

4.トランプ政権の政策矛盾と市場の不安定化
10月10日にダウが832ドル下落した後、トランプ大統領はFRBが金利引き上げを急ぎすぎることが原因で、FRBはアウトオブコントロールになっていると強く非難しました。政治からの独立性が保たれているはずのFRBに対して、現職の大統領が批判するのは異例となっています。株価上昇を前提に支持を維持・拡大しようとしてきたトランプ大統領は11月6日の中間選挙を意識しすぎる余り、米国経済の状況を正確に理解していないように思えます。

米国経済は完全雇用に近い状態にあり、追加の財政政策が必要とされていなかった状況にもかかわらず、前述のようにトランプ大統領は昨年12月に連邦議会与党の共和党と組んで、10年間で1兆5000億ドルの大幅減税を成立させました。また、2018年に入り、更に景気刺激を図るために、軍事とインフラ投資の拡大を重点とする約600億ドルの追加歳出法案も成立させました。グリーンスパン元連銀議長はこうしたトランプ政権の政策を景気の過熱を煽るだけで全く不必要と批判しましたが、選挙を強く意識するトランプ大統領はこうした批判に全く聞こうとはしませんでした。そして、こうした景気の過熱状態を反映したのが長期金利で、10年物米国債の金利は昨年12月の2.4%から今年10月初めの3.1%まで上昇するようになっています。一方、短期金利の決定に責任を持つFRBは賃金上昇率やインフレ率の動きを見ながら、FF金利の水準を決めています。今年2回、FF金利の引き上げを決定したFRBのFOMCはそうした実体経済の指標の動きを見て判断したものです。更に、トランプ大統領の追加の財政政策は2018年度の財政赤字を過去6年間で最大の規模としていますので、この点からも10年物国債の金利が上昇するのは当然のこととなります。

CNBCのアナリストであるSteve Liesman氏が10月11日にテレビ番組で、アウトオブコントロールになっているのはFRBではなく、トランプ大統領自身でないかとコメントしていました。また、同じ日に、債券投資専門家であるJeffery Gundlach氏はトランプ政権による自らの政策が長期金利の上昇を招いているにもかかわらず、FRBを非難していることをキツネのように常軌を逸していると批判しました。こうした専門家の見方が正しいように思えます。

また、トランプ政権の米国第一主義に基づく貿易政策についても、米国企業がグローバルな生産コストを比較しながら、長期間かけて築き上げてきたグローバルなサプライチェーンを全く無視して、相手国が米国に対して過剰な輸出超過を抱えるのは許せないというのは経済合理性を欠いた政治的なスローガンとしか言いようがありません。

いずれにしても、米国の株価が高水準にある時に更なる株価の上昇を自己の政権維持に必要と考えるトランプ大統領を選んだことは、米国経済の健全な発展にとって不必要な財政政策や貿易政策を主張・実行しているだけで、米国の株式市場を究極的に大きく下落させていくように思われます。

5.国益より私益優先のトランプ大統領
サウジアラビア出身で、ムハンド皇太子によるサウジアラビア政権の運営を繰り返し批判してきたカショギ記者がトルコのイスタンブールにあるサウジアラビアの領事館で殺害された事件をめぐり、サウジアラビア政府に対するトランプ政権の対応の鈍さが問題になっています。本来、米国は言論の自由を最も重視する民主国家のリーダーであったはずですが、トランプ大統領はサウジアラビアが巨額の武器輸出先で米国内の雇用増加に与える影響が大きいことなどを理由に最初から慎重姿勢を変えず、サウジアラビアに対する厳しい制裁措置を取っていません。しかしながら、トランプ大統領にとっては、不動産ビジネスで富を築き上げる上で、サウジアラビアの王室や富豪が重要な顧客であったことや現在もトランプ不動産グループにとって深いつながりがあることの方が重要な要因になっているように見られます。

2016年の大統領選挙に関連して、共和党の泡沫候補と言われたトランプ氏をロシアのプーチン大統領が支援した背景には、クリミア併合によって米国がロシアに対して課した経済制裁の解除を実行できる候補として、不動産ビジネスでロシアのオリガーク達と深い関係のあることが大きな理由となったと見られています。

世界経済に最も影響が大きい米国の大統領が国益より私益を優先させれば、米国の同盟関係を歪めるだけでなく、敵対国の利益が助長される結果になりかねません。いずれにしても、現在は、こうしたトランプ大統領の政策運営に疑問を持つ米国民が広がってきているように思われます。

6.トランプ政権の差別主義が引き起こす国内の分断化と相互不信
トランプ政権は2017年1月の発足以来、国内の安全を理由に排外的・差別的な人種による移民政策を展開してきましたが、それは共和党の保守派グループを中心に強い支持を得てきまし。その一方、野党の民主党やその支持者は差別的な移民政策に強く反発してきました。そうした矢先、民主党のオバマ前大統領、バイデン前副大統領、ヒラリー・クリントン前国務長官、ブッカー・ニュージャージー州選出上院議員、ハリス・カリフォルニア州選出上院議員、民主党支持の世界的投資家であるジョージ・ソロス氏、映画俳優のロバート・デ・ニーロ氏など14個の小包爆弾を送ったトランプ大統領の狂信的支持者であるシーザー・セヨク容疑者が10月26日にフロリダ州で逮捕されました。また、27日にはペンシルべーニア州ピッツバーグでユダヤ教の礼拝所で銃乱射事件が起こり、11人が亡くなるという事件が起こり、10月27日にロバート・バウアーズ容疑者が逮捕されました。いずれもの事件も、白人優越主義のグループに属するものですが、後者は反ユダヤ主義者で、トランプ大統領の政策がイスラエル寄りであることや娘婿のクシュナー氏がユダヤ教徒であることなどへの反発があったものと見られています。

米国の過去の大統領の中で、トランプ大統領ほど過激な差別主義政策を取っている大統領は存在せず、彼の度重なる集会発言やツィターを通じて、米国民の間の分断が広がり、相互不信が強まっています。11月6日に予定される中間選挙では、米国の下院で、特にトランプ大統領の与党である共和党が引き続き過半数を維持できるのかが焦点となっています。
             (2018年11月1日:  村方 清)