Sunday, May 2, 2021

バイデン政権が目指す政府主導型経済と株式市場

 








1.4月の株式市場

4月の株式市場は前半が長期金利の低下を受けて上昇基調が続きました。しかし、後半期にはバイデン政権が目指す政府主導型経済における財源確保のため増税路線への警戒感もあり、不安定な動きが出ました。主要な動きは以下の通りでした。

4月1日:米長期金利の低下を受けて、高株価収益率の主力ハイテク株に買いが入り、172ドル高(0.52%増加)。

4月5日:3月の米雇用統計など主要経済指標が市場の予想以上に回復し、投資家のリスク選好姿勢が強まり、消費関連など景気敏感株が買われ、374ドル高(1.13%増加)。

4月6日:前日に1週間ぶりに過去最高値を更新したこともあり、上昇が目立つ銘柄に利益確定売りが出て、97ドル安(0.29%減少)。

4月7日:新型コロナウイルスワクチンの普及を受けた米経済回復への期待やFRBによる金融緩和の長期化観測が相場を支え、16ドル高(0.05%増加)。

4月8日:米長期金利の低下で相対的な割高感が和らぎ、アップルなどハイテク株に買いが入り、57ドル高(0.17%増加)。

4月9日:米経済活動の正常化への期待や金融政策の長期化観測から、景気敏感株を中心に買いが優勢で、297ドル高(0.89%増加)。

4月12日:前週に過去最高値を更新したこともあり、短期的な過熱感が意識されたことや主要企業の決算発表の本格化を控えた持ち高調整の売りが優勢で、55ドル安(0.16%減少)。

4月13日:米政府がJ&Jの新型コロナウイルスワクチンの接種を中断するように勧告、ワクチン普及による経済正常化への期待が後退、景気敏感株を中心に売りが優勢で、68ドル安(0.20%減少)。

4月14日:新型コロナウイルスのワクチン普及の遅れの懸念が和らぎ、景気敏感株に買いが広がり、53ドル高(0.16%増加)。

4月15日:15日発表の3月米小売売上高が前月比9.8%増と市場予想の6.1%増を上回り、米景気回復の期待が一段と強まり、長期金利低下でハイテク株も買われて、305ドル高(0.90%増加)。

4月16日:新型コロナウイルスワクチンの普及で米経済の正常化への期待と3月の米住宅着工件数が前月比19.4%増となったことなどを受けて、買いが優勢で、165ドル高(0.48%増加)。

4月19日:米景気回復や業績改善などのファンダメンタルズは強いものの、上昇基調が続いていることへの過熱警戒感もあり、121ドル安(0.36%減少)。

4月20日:新興国を中心に世界の新型コロナウイルス感染者数の増加が続き、世界経済の足を引っ張りかねないとの見方から、景気敏感株を中心に売りが広がり、256ドル安(0.75%減少)。

4月21日;新型コロナウイルスのワクチン普及の期待から景気敏感株を中心に買いが優勢で、316ドル高(0.93%増加)。

4月22日:バイデン政権がキャピタルゲイン課税の税率を大幅に引き上げるとの方針が伝わると、売りが膨らみ、321ドル安(0.94%減少)。

4月23日:バイデン政権が富裕層を対象に株式などの売却益にかかるキャピタルゲイン課税を引き上げるとの前日の報道で売りが先行したが、一巡後は増税が相場に与える影響は限定的との見方が優勢で、ハイテク株を中心に買いが優勢で、228ドル高(0.67%増加)。

4月26日:商品相場の上昇で採算が圧迫されるとの見方から、コカ・コーラやウォルマードなど消費関連株が売られて、62ドル安(0.18%減少)。

4月27日:米長期金利が1.6%台に上昇し、相対的な割高感が意識されるハイテクなど高株価収益率の銘柄が売られ、3ドル高(0.01%増加)。

4月28日:バイオ製薬のアムジェンが前日の決算の結果大きく売られ、ダウ平均を押し下げたが、FRBによる緩和的な金融政策が長く続くとの観測から、午後に下げ幅を縮める場面があり、165ドル安(0.48%減少)。

4月29日:バイデン大統領が28日の施政方針演説で、インフラ投資計画や米国家家族計画の必要性を訴えことで、財政支出が米景気の回復を後押しすると意識され、240ドル高(0.71%増加)。

4月30日:新型コロナウイルスの新興国での感染拡大や半導体不足などが世界経済の回復の重荷になるとの懸念から、景気敏感株を中心に売りが優勢で、186ドル安(0.54%減少)。

 

2.米国の雇用状況

米労働省が4月2日に発表した3月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比916,000人の増加で、市場予想の675,000人の増加を大きく上回りました。1月の雇用者数の確定値は233,000人で67,000 人の増加、2月の改定値は468,000人で、89,000人の増加となりました。なお、3月の失業率は6.0%で、前月より0.2%下がりました。労働参加率は61.5%で、前月から0.1%増加しました。1月の時間当たり賃金上昇率は前月比で4セント減少しました。部門別では観光・ホテル業が280,000人の増加、建設業が110,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が66,000人の増加、製造業が53,000人の増加、運輸・倉庫業が48,000人の増加となりました。

 

3.日米同盟の強化

日本の菅首相は4月16日にバイデン米大統領と初めて会談し、新たな時代における日米グローバル・パートナーシップと題した共同声明を発表しました。共同声明では、中国が軍事的な圧力を強める台湾海峡について平和と安定の重要性を強調すると明記すると同時に両岸問題の平和的解決を促すとの文言を入れました。台湾を言及した背景には有事への懸念が高まっている状況があり、日米が結束して中国の行動に反対する姿勢を明確にする必要性があると判断したことがあげられます。

また、共同声明では香港や新彊ウイグル自治区の人権状況についても、深刻な懸念を共有するとの表現を盛り込みました。加えて、共同声明では中国からの脱却を念頭に、半導体など重要物資の安定供給網(サプライチェーン)づくりで協力することを確認しました。

今回の共同声明では、安保だけでなく、経済、技術、人権など各分野で中国を意識し、競争する姿勢を貫く文書となりました。

 

4.金利据え置きを決めたFOMC会合

FOMC会合が4月27-28日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。FRBはこの試練の時に米経済を支え、雇用の最大化と物価の安定の目標を推進するために、あらゆる手段を使うことを約束する。

新型コロナウイルスの流行は、米国と世界中に甚大な人的・経済的な困難をもたらしている。ワクチン接種の進捗と力強い政策支援を受け、経済活動と雇用の指標は強さを増した。パンデミックによる打撃が最も大きかった産業は依然弱いが、回復し始めている。物価上昇率は、主に一時的な要因を反映して上昇した、経済及び米国の家計と企業の信用の流れを支える政策措置もあり、金融情勢は全般に依然として緩和的だ。

景気の動向は、ワクチン接種の進捗も含め、ウイルスの拡大状況に大きく左右されている。現在続いている公衆衛生の危機は引き続き、経済の重荷となっており、経済の先行きへのリスクは残っている。

FOMCは雇用の最大化と長期的な2%のインフレ達成を目指している。物価上昇率がこの長期目標を下回る状態が続いていることから、当面は2%よりやや上のインフレ達成を目指す。そうすることで、インフレ率が長期的に平均で2%になり、長期インフレ予測が2%で安定するようにする。

これらの成果が出るまで、金融政策の緩和的なスタンスを維持すると予測している。

FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを0-0.25%に据え置くことを決定した。労働市場の情勢がFOMCの雇用最大化の判断と一致する水準に達し、インフレ率が2%に上昇して当面は2%をやや上回るところで軌道に乗るまで、この目標レンジを維持することが適切と予測する。

雇用最大化と物価安定の目標に向けてさらなる大きな前進を遂げるまで、FRBは国債保有を少なくとも月800億ドル、ローン担保証券の保有を少なくとも月400億ドル引き続き増やす。こうした資産購入は円滑な市場機能と緩和的な金融情勢の促進を助け、家計と企業の信用の流れを支える。

金融政策の適切なスタンスを判断するにあたって、FOMCは引き続き、景気見通しについて経済指標が示す意味を注視する。目標達成のリスクが現れた場合は、金融政策のスタンスを適切なものに調整する準備がある。公衆衛生、労働市場の状況、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む11人のメンバーの賛成による。

4月28日はバイオ製薬のアムジェンが決算発表の結果、大きく下げたが、FRBによる緩和的な金融政策が長く続くとの観測が支えとなり、前日比165ドル安(0.48%減少)。


5.バイデン大統領の施政方針演説

バイデン大統領は就任後99日となる4月28日夜に議会の上下両院合同会議で最初の施政方針演説を行いました。最優先課題に掲げている新型コロナ対策では就任100日までにワクチン接種が当初の1億回の倍以上となる2.2億回になり感染者数が激減していること更に1.9兆ドルの追加経済政策で米国経済が回復過程に入っていることなど、コロナ危機から脱しつつある米国の状況に触れ、米国は再び動き出したこと、そして世界を再び主導することを強調しました(4月29日の米商務省の発表によれば、米国のGDPは2021年第1四半期は巨額の財政出動とワクチンの普及で個人消費が2桁増となったことで、年率換算で6.4%増加となり、GDP規模もコロナ危機前の水準に回復)。

今後の経済運営では、経済格差の是正を最優先し、底辺を引き上げ、中間層を起点に経済を成長させるべきとしました。このための方法として明確にしたのは、増税と歳出増を同時に進め、経済に強く関わる大きな政府による成長戦略でした。富める者が増えれば貧しい層にも自然に恩恵がこぼれ落ちるというトリクルダウン理論は機能しなかったとして、トランプ前政権の減税路線を否定しました。経済政策の第1の柱は企業増税を財源にインフラなどで8年で約2兆ドルを投じる米国雇用計画で、第2は個人富裕層への増税で育児や教育支援に10年で1.8兆ドルを充てる米国家族計画です。バイデン大統領は企業と再富裕層に公平な負担をしてもらうとして、合計4兆ドルの構想に超党派の協力を求めました。バイデン大統領は今回の経済構想をブルーカラーのための青写真と称して、トランプ前大統領が意識し、政権を支えた白人労働者層に支持を呼びかけました。

今回の演説の中で、バイデン大統領がもう一つ強調したのは台頭する中国への危機感でした。米国は21世紀を勝ち抜くためには中国やその他の国との競争の中にあるとして、中国のような専制主義の国は21世紀においては民主主義は専制主義に対抗できないと考えており、中国との競争に勝利するためにも、国内の融和や中間層の復活につながる経済政策が必要であることを強調しました。また、米国が誇る民主主義の優位を示すためにも、分断を乗り越えて米国民が結束するように呼びかけました。

その他、国内問題では黒人が不利益を受けている警察改革問題や不法移民の増加などへの移民問題へのための法案整備への協力を共和党に求めました。

バイデン大統領の今回の施政方針演説の中で特徴的であったのは大きな政府による米国経済の再建と成長でそれは1933年に就任したルーズベルト大統領のニューディールに通じるものがあり、その路線を否定した共和党のレーガン政権以来の潮流を変えられるかという根本的な課題に取り組むことになります。

            (2021年5月1日:村方 清)

 

Thursday, April 1, 2021

大規模な追加経済対策とワクチンの急速普及で上昇傾向を強める株式市場








1.3月の株式市場

3月の株式市場は、バイデン政権による1.9兆ドルの大規模な追加経済対策とワクチンの急速な普によって、株式市場は一層の上昇傾向を強めました。主要な動きは以下の通りでした。

3月1日:ジョンソンエンドジョンソンの新たなワクチンが認可され、新型コロナウイルスのワクチン普及や追加経済対策の早期成立で経済活動の正常化が進むとの期待から、幅広い銘柄に買いが入り、603ドル高(1.95%増加)。

3月2日:前日に603ドル高を記録したこともあり、主要ハイテク株が総じて下落した他、目先の利益を確定する売りが優勢で、144ドル安(0.46%減少)。

3月3日:米長期金利が一時1.49%と前日から0.1%上昇、高株価収益率銘柄の相対的な割高感が意識され、ハイテク株が売られ、121ドル安(0.39%増加)。

3月4日:RBのパウエル議長の発言を受けて、長期金利が1.5%台に上昇、投資家心理が悪化、高株価収益率のハイテク銘柄を中心に売られ、346ドル安(1.11%減少)。

3月5日:5日発表の2月の雇用統計で非農業部門の雇用者数は前月比379,000人増で市場予想の210,000人を大きく上回り、労働市場が改善しているとの見方が広がり、キャタピラー、アメリカンエクスプレス、ダウなど景気敏感株が買われ、572ドル高(1.85%増加)。

3月8日:米上院が可決した追加経済対策案が下院で再審議され、今週中に成立する見通しとなり、個人消費の押上が見込まれ、景気敏感株を中心に買いが優勢で、306ドウ高(0.97%増加)。

3月9日:米長期金利の上昇が一服し、前日まで軟調であったハイテクなどの成長株に押し目買いが入り、30ドル高(0.10%増加)。

3月10日:米下院は10日に1.9兆ドル規模の追加経済対策案を可決、12日にバイデン大統領の署名で成立することから、景気回復を加速させるとの見方から景気敏感株を中心に買われ、464ドル高(1.46%増加)。

3月11日:米政府の経済追加対策法案が11日に成立し、景気回復が勢いづくとの期待から、幅広い銘柄が買われ、長期金利の上昇が一服したこともあり、’ハイテクなどの銘柄が大きく買われたこともあり、189ドル高(0.58%増加)。

3月12日:米政府の追加経済対策や新型コロナウイルスのワクチン普及による景気回復期待から、景気敏感株に買いが入り、293ドル高(0.90%増加)。

3月15日:前週に米政府の追加経済対策が成立したことから、景気回復が勢いづくと見る買いが消費関連株を中心に入り、175ドル高(0.53%増加)。

3月16日:前日までの7日間続伸で2000ドル程度上昇した反動で、短期的な過熱感を警戒した利益確定売りが景気敏感株を中心に出て、128ドル安(0.39減少)。

3月17日:FOMCで2023年末まで現行のゼロ金利政策を続けるとの予想を示したことで、金融緩和の長期化が景気回復と株式市場へ資金流入を後押しするとの見方で、189ドル高(0.58%増加)。

3月18日:FRBのゼロ金利政策の長期化でインフレが加速するとの見方で長期金利が1年2カ月振りに上昇、ハイテクなど高株価収益率の銘柄が中心に売られ、154ドル安(0.46%減少)。

3月19日:FRBが新型コロナ危機に対応して導入した銀行の資本規制の緩和を延長しないことを表、投融資への影響が懸念され、金融株が下落、234ドル安(0.71%減少)。

3月22日:米長期金利の上昇が一服し、高株価収益率のハイテク株などに押し目買いが入り、193ドル高(0.32%増加)。

3月23日:欧州で新型コロナウイルスの感染が再拡大し、世界経済の正常化が遅れるとの懸念から、資本財や金融など景気敏感株が売られ、308ドル安(0.94%減少)。

3月24日:欧州景気への懸念で前日に売りが広がった景気敏感株に見直し買いが入ったものの、ハイテク株への売りが次第に強まり、取引終了時に下げに転じ、3ドル安(0.01%減少)。

3月25日:売りが先行したが、米新規失業保険申請件数が最低水準であったことから、景気敏感株が中心に買いが優勢で、199ドル高(0.62%増加)。

3月26日:新型コロナウイルスのワクチンの’普及が加速し、経済活動の正常化が進むとの見方から、景気敏感株を中心に幅広い銘柄に買いが入り、453ドル高(1.39%増加)。

3月29日:新型コロナウイルスのワクチン普及に伴う経済活動の正常化期待から主力株に買いが入り、98ドル高(0.30%増加)。

3月30日:バイデン政権が31日にインフラ投資を中心とする新たな経済政策を3月31日に発表することを受けtて、長期金利が一時、1年2カ月振りの水準に上昇し、割高感が警戒され、マイクロソフトとアップルなどの銘柄が売られ、104ドル安(0.01%減少)。

3月31日:米国の景気回復期待で上昇していた景気敏感株の一角に短期的な過熱感を警戒した利益確定売りが優勢で、85ドル安(0.26%減少)。


2.米国の雇用状況

米労働省が3月5日に発表した2月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比379,000人の増加で、市場予想の210,000人の増加を大きく上回りました。12月の雇用者数の確定値はマイナス306,000人で79,000 人の減少、1月の改定値は166,000人で、117,000人の増加となりました。なお、2月の失業率は6.2%で、前月より0.1%下がりました。労働参加率は61.4%で、前月と同じ水準でした。1月の時間当たり賃金上昇率は前月比で7セント増加しました。部門別では観光・ホテ46,000人の増加、小売業が41,000人の増加が355,000人の増加、専門・ビジネスサービス業が53,000人の増加、ヘルスケア・社会福祉業が135,000人の減少、小売業が41,000人の増加であったものの、地方政府の教員数が69,000人の減少となりました。


3.1.9兆ドルの追加経済対策案の成立

米連邦議会下院は3月10日に、バイデン大統領が提案した1.9兆ドルの新型コロナウイルス対策を民主党主導で可決しました。上院は既に承認済みで、12日にバイデン大統領が署名して成立することになります。

新対策の柱は1人最大1400億ドルの現金給付で、年収8万ドル以上の高所得層は除外するものの、支給額総額は4000億ドルに達すると見られます。加えて、3月14日に失効する予定であった失業給付の特例加算も9月末まで延長します。失業者は州・地方政府からの平均週370ドルの失業給付に加えて、連邦政府が週300ドルを上乗せすることになります。これによる支給総額は2500億ドルが見込まれます。ワクチンの普及にも160億ドルを当てる他、財政難で教育や治安が揺らぐ州、地方政府にも3500億ドルを支援することになります。

今回の経済対策の総額は1.9兆ドルとなり、2020年3月以降に発動した第4弾までを合わせると、全体の規模は5.8兆ドル程度になる見込みです。通常の年間歳出が2019年度で4.4兆ドルであることからすると、臨時の財政出動だけで、それを上回ることになり、GDP比率で約28%になると見られます。トランプ前大統領がコロナ危機で国家非常事態宣言を発令したのは20年3月13日で、既に1年が経過しますが、失業者はまだ1000万人で、雇用回復には時間がかかると見られます。同時に、財政出動と金融緩和で株や不動産などの資産価格は高騰し、過熱感がありますが、政府支援がなければ、米国経済は自立できる状態ではないのが実情です。

いずれにしても、21年度の連邦政府の赤字は29兆ドルに達する見込みで、GDP比で過去最悪になると見られます。懸念材料は低位で安定していた長期金利の上昇で、巨額の追加対策は景気回復期待と財政不安という金利上昇圧力となる恐れがあります。

 

4.金利据え置きを決めたFOMC会合

FOMC会合が3月16-17日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。FRBはこの試練の時に米経済を支え、雇用の最大化と物価の安定の目標を推進するために、あらゆる手段を使うことを約束する。

新型コロナウイルスの流行は、米国と世界中に甚大な人的・経済的な困難をもたらしている。回復ペースが緩やかになった後、経済活動と雇用の安定の指標は足元で上向いているが、パンデミックによる打撃が最も大きかった産業は依然緩和的だ。物価上昇は引き続き2%を下回っている。経済及び米国の家計と企業の信用の流れを支える政策措置もあり、金融情勢は全般的に依然として緩和的だ。

景気の動向は、ワクチン接種の進捗も含め、ウイルスの拡大状況に大きく左右されている。現在続いている公衆衛生の危機は、引き続き、経済活動、雇用、インフレにとって重荷となり、経済見通しへの深刻なリスクとなる。

FOMCは雇用の最大化と長期的な2%のインフレ達成を目指している。物価上昇率がこの長期目標を下回る状態が続いていることから、当面は2%よりやや上のインフレ達成を目指す。そうすることで、インフレ率が長期的に平均で2%になり、長期インフレ予測が2%で安定するようにする。

これらの成果が出るまで、金融政策の緩和的なスタンスを維持すると予測している。

FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを1.50-1.75%に据え置くことを決定した。労働市場の情勢がFOMCの雇用最大化の判断と一致する水準に達し、インフレ率が2%に上昇して当面は2%をやや上回るところで軌道に乗るまで、この目標レンジを維持することが適切と予測する。

雇用最大化と物価安定の目標に向けてさらなる大きな前進を遂げるまで、FRBは国債保有を少なくとも月800億ドル、ローンタンプ証券の保有を少なくとも月400送ドル引き続き増やす。こうした資産購入は円滑な市場機能と緩和的な金融情勢の促進を助け、家計と企業の信用の流れを支える。

金融政策の適切なスタンスを判断するにあたって、FOMCは引き続き、景気見通しについて経済指標が示す意味を注視する。目標達成のリスクが現れた場合は、金融政策のスタンスを適切なものに調整する準備がある。公衆衛生、労働市場の状況、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む11人のメンバーの賛成による。

3月17日は、FOMCで現行のゼロ金利政策を続けるとの予想を示したことで、金融緩和の長期化が景気回復と株式市場へ資金流入を後押しするとの見方が強まり、189ドル高(0.58%増加)。

         (2021年4月1日:村方 清)


  

Monday, March 1, 2021

長期金利の上昇に揺れる米国の株式市場









1.2月の株式市場

2月の株式市場はバイデン政権による追加経済対策の期待もあり、2月の終わりの週まで株高基調が続きましたが、2月22日と25日に米長期金利が急上昇したことから、両日とも高い株価収益率の銘柄を中心に売りが広がる展開になりました。主要な動きは以下の通りでした。

2月1日:前週まで市場の混乱を招いていた個人の投機的な売買が弱まり、買いが優勢であったことやISMの米製造業景況指数が58.7と50を上回ったことで、ダウは229ドル高(0.76%増加)

2月2日:ゲームストップなど個人投資家の投機的な買いで高騰していた銘柄が大幅に続落、相場が安定化すると同時に、追加の経済対策への期待も高く、476ドル高(1.57%増加)。

2月3日:バイデン政権が財政調整法を活用して単独で追加経済対策を成立させる手続きを進めており、米長期金利が上昇し、金融株が買われ、36ドル高(0.12%増加)。

2月4日:新規失業保険申請件数は779千人で市場予想の830千人を下回ったことや下院が2021会計年度の予算議案を可決したことで、上院で単独で追加経済対策を成立する道が開かれたことで金融などの景気敏感株が上昇、332ドル高(1.08%増加)。

2月5日:5日発表の1月の雇用統計で非農業部門の雇用者数は49,000人で市場予想に届かなかったが、米上下両院が予算決議案を可決したことで、バイデン政権の追加経済政策が成立に向けて前進したとの見方で、92ドル高(0.30%増加)。

2月8日:米国の追加経済対策が早期に成立し、景気回復を後押しするとの期待から買いが優勢で、景気敏感株を中心に上昇し、238ドル高(0.76%増加)。

2月9日:前日に過去最高値を更新したことから、景気敏感株に利益確定売りが出たが、一方で、民主党が単独で大型の経済対策を成立させるとの観測で、10ドル安(0.13%減少)。

2月10日:インフレ圧力の弱さから。金融緩和の長期化が予想されることや米企業決算の好調さから、62ドル高(0.20%増加)。

2月11日:前日に過去最高値を更新しており、年初から上昇が目立っていた景気敏感株の一角に利益確定売りが出て、7ドル安(0.02%減少)。

2月12日:新型コロナウイルスのワクチン普及や米政府による追加経済対策の成立で、景気回復が早まるとの期待から買いが優勢で、金融や素材等の景気敏感株が上昇、28ドル高(0.09%増加)。

2月16日:追加経済政策の早期成立や新型コロナウイルスのワクチン普及への期待から買いが優勢であったが、長期金利の上昇を受けて主力ハイテク株の一角が売られ、64ドル高(0.20%増加)。

2月17日:FRBによる金融緩和策が長期化するとの観測が押し上げ、ベライゾンや’シェブロンなどの出遅れた銘柄が上昇し、90ドル高(0.29%増加)。
2月18日:週間の米失業保険申請件数は861千件で市場予想の773千件を上回り、雇用回復の勢いが鈍いことや長期金利の先高観測で、ハイテク株が売られ、120ドル高(0.68%減少)。

2月19日:米政府の追加経済対策や新型コロナウイルスワクチンの普及が景気回復の後押しするとの期待の中で、長期金利が上昇し、1ドル高(0.00%)。

2月22日:米長期金利の上昇で売りが先行したが、米国の追加経済対策や経済活動正常化期待で、27ドル高(0.09%増加)。ナスダックは341ドル下落(2.46%減少)。

2月23日:米長期金利の上昇を受けてハイテク株を中心に売りが先行したが、パウエル連銀議長が午前の議会証言で金融緩和の長期化を示唆したことで、上げに転じ、16ドル高(0.05%増加)。

2月24日:J&Jの開発するコロナウクチンがFDAの承認を受け経済が正常化するとの期待から、金融や石油株などの景気敏感株を中心に買いが広がり、425ドル高(1.35%増加)。

2月25日:米長期金利が一時1.61%と昨年2月以来の水準に上昇し、相対的に割高感が意識されやすい株価収益率(PER)の高い銘柄が売られ、投資家心理が悪化し、景気敏感株にも売りが広がり、560ドル安(1.75%減少)。

2月26日:投資家の慎重姿勢が強まり、持ち高調整や利益確定目的の売りが優勢で、金融や日用品などの景気敏感株が売られ、470ドル安(1.50%減少)。

  
2.米国の雇用状況

米労働省が2月5日に発表した1月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比49,000人の増加で、市場予想の100,000人の増加を大きく下回りました。11月の雇用者数の確定値は264,000人で72,000 人の減少、12月の改定値はマイナス227,000人で、87,000人の増加となりました。なお、12月の失業率は6.3%で、前月より0.4%下がりました。労働参加率は61.4%で、前月より0.1%上昇しました。12月の時間当たり賃金上昇率は前月比で6セント増加しました。部門別では専門・ビジネスサービス業が97,000人の増加したものの、小売業が135,000人の減少、観光・ホテル業が61,000人の減少となりました。

3.バイデン政権の追加経済対策と長期金利上昇の懸念

バイデン政権が追加経済対策として取りまとめる法案の総額が1.9兆ドル近くになるとの見通しが高まるにつれ、一部のエコノミストにはインフレ圧力の懸念を示すものも出てきています。代表的なエコノミストはサマーズ元財務長官で、米国経済が成長路線に回帰しつつある中で、更なる活性化のために巨額の財政出動を行えば、この30年で経験しなかったようなインフレ圧力を形成しかねないと警告しました。この意見は議会での共和党の主張にも共通しており、財政赤字拡大の懸念に加え、経済が底離れする段階では、財政出動は重点項目に絞って行うことで十分な景気浮揚効果が期待できるとしています。

この見方に反論したのがクルーグマン博士で、新型コロナウイルスによって破壊された経済の需給ギャップはあまりに大きく、バイデン政権による追加経済対策の規模への懸念は当たらないとしています。また、イエレン新財務長官も就任以来、何百万人もの失業者が溢れている現状への危機感から、財政政策で大きく動く必要性を唱え、連邦議会に速やかな行動を呼びかけています。

こうした意見の違いに加えて、最近の金融市場で気になるのはの長期金利が急上昇していることで、2月25日には10年物米国債利回りは上昇の目安とされた1.25%を一気に超え、1.61%まで上昇しました(その日のダウは560ドル安)。また、30年物米国債利回りも上昇を続け、FRBのインフレターゲットとされる2%を超え、2.19%まで上昇しました。その影響は株式市場にも影響を与え、株価収益率(PER)が高すぎるとされるハイテク株を中心に市場での売り圧力が強まっています。

一方、連銀のパウエル議長は2月23日の上院銀行委員会での公聴会で、最近の長期金利上昇は経済再開や経済成長への市場の期待の表れであるとして、当面は静観する姿勢を示しました。また、一部のエコノミストによるインフレ懸念についても、2020年に急低下した反動で今年は上振れする可能性があるものの、長続きするようなものではないとの1月末のFOMCでの結論を強調しました(下記の議事録参照)。


4.FOMCの長期金融緩和策維持の背景

FRBは2月17日に、1月26-27日に行われたFOMCの会議議事要旨を公表しました。それによると、執行部が2021年4-6月期にインフレ率が2%を超えるとの予測を提示、理由として新型コロナ危機が深刻になった2020年4月にインフレ率は大幅に鈍化しており、2021年にはその反動が予想されるとしました。しかしながら、同時に、インフレ率は2021年末には再び2%を下回って終わるとの見通しを示しました。パウエル連銀議長などの会議参加者も一時的なインフレと、底流としての物価の動向を区別することが重要として、物価の上昇は長続きしないと結論づけました。そして、FRBは一定期間、緩やかにインフレ率が2%を上回ることを当面の目標とするが、その時期は2023年以降と分析しています。このために、金融政策面でも、全ての会議参加者が現行の低金利政策と資産購入ベースの維持を支持したとしています。FRBが金融緩和縮小論を警戒するのは長期金利の上昇を招くことを警戒していることがあり、金利の急上昇は景気回復に水を差さないように、慎重に出口論に対応していくものと見られます。

                   (2021年3月1日: 村方 清)