Monday, October 1, 2018

トランプ大統領の米国第一主義と経済への影響

 
 
 
 
 
 
 

 

 
 
 
1.9月の株式市場
9月の株式市場は引き続き、トランプ政権が取る対中国貿易強硬策の動きによって、市場が大きく変動することになりました。また、8月6日から取られたとられたトランプ大統領によるイランへの経済制裁の結果、原油価格も次第に上昇圧力を強め、経済への悪影響が出始めています。主要な動きは以下の通りでした。

9月4日:トランプ政権の通称政策の先行き警戒感から、海外売上高の比率が高い銘柄が売られ、加えてアルゼンチンやトルコの通貨が大きく売られ、ダウ平均価格は12ドル安(0.05%減少)。
9月5日:米国とカナダの貿易交渉が再開され、協議の行方を見極めたい投資家が多く、23ドル高(0.09%増加)。
9月6日:ボーイングや防衛関連の銘柄が上昇し、21ドル高(0.08%増加)。
9月7日:8月雇用統計で雇用者増加数が201,000人増で市場予想の200,000人増を上回り(失業率は3.9%で変わらず)、6-7月分が下方修正されたものの、賃金上昇率が2.9%となったことで、利上げの可能性が高まったことで、79ドル安(0.31%減少)。
9月10日:米中貿易摩擦をめぐる不透明感から、中国と関係の深いアップルやボーイングが売りを主導して、59ドル安(0.23%減少)。
9月11日:主力製品の発表を控えたアップルや出荷台数が大幅に伸びたボーイングが買われ、114ドル高(0.44%増加)。
9月12日:米中が貿易問題を協議する可能性があるとの報道から、28ドル高(0.11%増加)。
9月13日:トルコ中銀の大幅利上げで新興国の経済をめぐる懸念が後退した他、米中貿易協議への期待から、147ドル高(0.57%増加)。
9月14日:米長期金利や原油先物相場が上昇、金融や石油株が買われ、9ドル高(0.03%増加)。
9月17日:トランプ政権が中国への2000億ドルへの商品に対する追加関税を課すとの報道から、93ドル安(0.35%減少)。
9月18日:トランプ政権の対中追加関の発動を発表したが、中国を含む海外相場が堅調だったため、185ドる高(0.71%増加)。
9月19日:米中貿易摩擦問題への過度の警戒感が後退し、キャタピラーなど資本財関連株が買われ、また米長期金利の上昇を受けて、金融株も買われ、159ドル高(0.61%増加)。
9月20日:米中貿易問題への警戒感が後退し、投資家心理が改善し、251ドル高(0.95%増加)。
9月21日:米中貿易問題への過度な警戒感が後退し、86ドル高(0.32%増加)。
9月24日:トランプ政権が中国からの輸入品約2000億ドルに10%追加関税を課したで、米中貿易摩擦問題の長期化への懸念から。181ドル安(0.65%減少)。
9月25日:貿易摩擦問題への懸念とFOMC会合の結果発表を控え、利益確定売りが先行し、70ドル安(0.26%減少)。
9月26日:FOMCが3回目の利上げを決定、長短金利差が縮まり、利さやが縮小するとの観測から、金融株が売られ、107ドル安(0.26%減少)。
9月27日:アップルやアアマゾンなど主力ハイテク株が買われ、相場上昇を後押ししたが、たが、貿易摩擦問題への懸念も根強く、55ドル高(0.21%増加)。
9月28日:インテルやボーイングなどが業績見通しを引き上げたことで買われたものの、貿易摩擦の長期化やイタリア財政の不透明感から、上値は重く、18ドル高(0.07%増加)。

2.米国の雇用状況
米労働省が9月7日に発表した8月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比201,000人の増加で、市場予想の200,000人増を上回りました。6月の雇用者数の確定値は208,000人で40,000人の減少、7月の改定値は147,000人で10,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は185,333人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、8月の失業率は3.9 %で、前月と同じ水準でした。労働参加率は62.7%で、前月より0.2%下回りました。8月の時間当たり賃金上昇率は前月比10セント増加で、前年同月比では2.9%増となりました。部門別ではヘルスケアが33,000人の増加、建設業が23,000人の増加、運輸・倉庫業が20,000人の増加となりました。

3.FOMC会合と金利引き上げ
FOMC会合が9月25-26日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回8月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は力強い水準で高まった。雇用増はここ数か月間平均すると力強く、失業率は低位を維持している。家計支出と企業の設備投資は力強く拡大した。全般的なインフレ率及びエネルギーと食品を除くインフレ率はいずれも、前年同期比ベースで2%付近で推移している。長期のインフレ予想を示す指標は総じあまり変わっていない。

法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジをさらに段階的に引き上げることは持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、中期的に目標の2%前後付近のインフレ率と整合すると予測している。景気見通しのリスクはほぼ均衡してきているようだ。

FOMCでは労働市場の情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを2.0-2.25%に引き上げることを決定した。
FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やダドリー副議長を含む8人のメンバーの賛成による。

連銀は26日のFOMC会合で3カ月ぶりの利上げを決定、更に年内1回の追加利上げのシナリオを示し、19年も3回が中心シナリオとなりました。今後も18年10-12月のインフレ率が2.1%と目標を上回って推移すると予測していることがあります。また、失業率が18年振りの低水準となり、経済成長率も3.1%と高い伸びが続くと見ています。しかしながら、FOMCの利上げ見通しの中央値ではみると、20年はわずか1回に留まり、今回初めて公表した21年分はゼロでした。この点、政策金利は3.25%-3.5%が天井になる可能性があります。
なお、今回のFOMCの結果発表後に、米債券市場で長短金利の差が縮まり、利さやが縮小するとの観測から、金融株が売られ、107ドル安となりました。

4.疑惑追及に追われるトラんプ大統領
トランプ大統領のグル=プが2016年の大統領選挙期間中、ロシアとの共謀があるのではないかと疑惑を調査中のモラー特別検察官チームは9月14日に。トランプ大統領の元選挙対策本部長であったマナフォート氏がウクライナで新ロシア政権にために働き、3000万ドルのマネーロンダリングをした他、1500万ドルの脱税をしたことを認めると同時に、2016年の大統領選挙でのロシア介入疑惑の捜査に全面的に協力することになったことを明らかにしました。

マニュフォート氏はロシアの有力オリガークの一人で、プーチン大統領に近く、米国の経済制裁の対象となっているDepripaskaとの関係が深く、2016年の大統領選挙では無報酬でトランプ大候補の選挙体側本部長となって、情報提供を行っていたことで知られています。さらに、別のロシアの有力オリガークであるAgalarovの意向で、民主党のクリントン候補にダメージを与える情報提供でロシア政府の弁護士とロランプ候補の長男や娘婿との2016年6月9日のトランプタワーでの会談にマニュフォート氏が同席したことも明らかになっています。

5.トランプ大統領、国連演説でグローバリズムを否定
トランプ大統領は9月25日にニューヨークの国連総会で演説、自分の政権の実績を自慢すると同時に、米国は独自の道を突き進む権利があるとグローバリズムの考え方を否定しました。トランプ大統領は昨年の国連総会でも、国連や多国間主義を攻撃しましたが、今年は国際刑事裁判所を非難することで、グローバリズムを全面的に糾弾しました。これに対して、マクロン仏大統領は国家主権を武器として使ってはならず、地球温暖化などを念頭に、強力な多国間主義なくして、21世紀に勝つことはできないと強調しました。また、グテーレス国連事務総長も、トランプ大統領を名指ししなかったものの、1930年代の教訓を無視して、再び大衆主義と孤立主義の道を突き進み、世界的な紛争に転落していく危険について、警告しました。

いずれにしても、トランプ政権によって進められている米国第一主義は米国内だけでなく、国際関係においても、米国の敵国であるロシアや北朝鮮への批判を避け、同盟国である欧州やカナダとの関係を難しくさせるだけに、地政学リスクの高まりになっていく恐れがあると言えます。9月29日付のLA Times紙は、America first”isolates it at U.N.”との記事で、トランプ大統領は他の国に勝利することもできず、多くの国々を米国無しで考えるように構えさせていくとの批判をしています。

6. トランプ大統領の米国第一主義と経済への影響
トランプ政権は9月24日に、約2000億ドル相当の中国製品に対する10%の追加関税を発動しました。これにより、既に米国は中国に対し、3月の鉄鋼、アルミ製品に対する関税に加えて、7月に340億ドルの製品と8月に160億ドルの製品に対して25%の追加関税を発動していましたが、今回の措置で約3000憶ドルの中国製品に対して、関税を及ぶことになります。これに対し、、中国政府は対抗措置として、約600億ドルの米国製品に対して10%の関税を課す対抗措置を取ることを発表しています。

トランプ政権が米国が抱える巨額な貿易赤字を大きな経済課題としたのは理解できますが、その改善策が広範囲な輸入製品に対する関税措置というのは間違っていると思います。それは、米国企業を含め、世界的なサプライチェーンを使って生産体制を構築している時に、主要なサプライチェーン先である中国からの製品に追加関税措置を取れば、企業の生産体制の見直しとなり、全体的な供給体制に大きな悪影響が出てくることです。更に、トランプ政権が10%の追加関税を課した中国製品は米国の消費者の需要が高いもので、価格上昇は米国の消費者にも悪影響を与えるものです。

更に、トランプ大統領が8月6日に取ったイラン経済制裁の影響も、原油価格の上昇となって現れています。ロンドン市場で北海ブレント原油先物が9月24日に1バレル80ドルを超えましたが、これは2015年以来初めてとなります。ニューヨーク市場でも9月27日にWTI の原油先物は72.32ドルを記録しました。11月5日に予定されるイランの石油輸出遮断を含めた第2次制裁が発動されれば、イランからの原油生産量は1日100バレル減少することになり、北海ブレント原油先物は確実に90ドル以上となり、最悪の場合、100ドルを超えてしまうのではないかとの見方も出ています。

中間選挙を控え、イスラエル寄りのキリスト教福音派の支持を得るべく、対イラン強硬策に走るトランプ大統領には米国全体の利益が何であるのかが見えていないところがあり、経済面の悪化を含め、今後予想される市場リスクに十分な注意を払っていくが必要になっています。
                                           (2018年10月1日:村方 清) 

 

 

Saturday, September 1, 2018

トランプ政権が作り出す貿易摩擦問題と市場の不安定性









 
 
 
 
 
1.8月の株式市場
8月の株式市場はトランプ政権が取る米国第一主義の貿易政策で、中国などとの摩擦問題の動きによって大きく影響されたものの、米国経済が比較的に好調で、月間の株価は2.5%近い上昇となりました。主要な動きは以下の通りでした。

8月1日:トランプ政権が中国からの2000億ドル相当の輸入品に関税を10%から25%へ引き上げるとの報道が伝えられ、中国関連株に売りが広がり、ダウ平均価格は81ドル安(0.32%減少)。金利引き上げ継続方針を確認したFOMCの声明文への反応は限定的。
8月2日:午前中は米中貿易問題への警戒感から幅広い銘柄が売られたが、その後アップル株の上昇が続き投資家心理が改善、ハイテク株を中心に買いが優勢で、終値は8ドル安(0.03%減少)。
8月3日:7月雇用統計で雇用者増加数が157,000人増で市場予想の190,000人増を下回ったものの(失業率は3.9%に低下)、5-6月分が上方修正されたことで好感され、業績好調のIBMやハインツも大幅に上昇し、136ドル高(0.54%増加)。
8月6日:米中貿易摩擦の警戒は続いているものの、バフェット氏の投資会社バークシャー・ハザウエィや食肉のタイソンフーズなどの四半期業績が好調で、40ドル高(0.16%増加)。
8月7日:貿易摩擦に関する悪材料がなかったことや米企業業績の良好さに支えられ、127ドル高(0.50%増加)。
8月8日:トランプ政権が7日に発表した中国への追加関税と中国から報復関税で米中間の貿易摩擦問題の警戒感が増したことや原油安などで、45ドル安(0.18%減少)。
8月9日:原油先物相場下落と長期金利低下で石油と金融株が売られ、75ドル安(0.18%減少)。
8月10日:米国との関係悪化を背景にトルコリラが急落し、地政学リスクの高まりから、欧州市場でトルコへの融資が大きい銀行株が下落、米銀行株にも波及し、196ドル安(0.77%減少)。
8月13日:トルコ情勢への懸念による世界経済の減速や金融市場への混乱から、エネルギーや金融など景気に影響の深い株を中心に売りが広がり、125ドル安(0.50%減少)。
8月14日:トルコのリラの下げが一巡し、投資家のリスク回避姿勢が和らぎ、前日まで続落した反動で112ドル高(0.45%増加)。
8月15日:原油先物相場の下落、トルコ情勢や中国景気の減速などの懸念から、投資家の運用リスクが高まり、138ドル安(0.54%減少)。
8月16日:米中貿易戦争の回避に向けた交渉再開の期待と四半期決算が好調であったウォールマートやシスコシステムが大幅に上昇し、396ドル高(1.58%増加)。
8月17日:米中貿易戦争への懸念が和らぎ、キャタピラーやボーイングなどの中国事業の大きな銘柄が買われ、111ドル高(0.43%増加)。
8月20日:米中貿易摩擦問題が22、23日の事務レベル会議などで和らぐなどの期待や米企業によるM&Aが積極化するとの動きが好感され、89ドル高(0.35%増加)。
8月21日:原油高や米長期金利上昇を受け、石油株や金融株が買われ、64ドル高(0.25%増加)。
8月22日:トランプ政権のロシア疑惑をめぐる不透明感が強まり、89ドル安(0.34%減少)。
8月23日:米中両政府が互いに160億ドルの輸入品に対し25%の追加関税を発動したことに伴い、キャタピラーやボーイング等中国依存度の高い銘柄が売られ、77ドル安(0.30%減少)。
8月27日:NAFTA再交渉で米国とメキシコが大筋に合意したことで、貿易摩擦問題への過度の懸念が薄れ、259ドル高(1.01%増加)。
8月28日:米国とメキシコのNAFTA再交渉の大筋合意が買いがあったものの、カナダとの交渉の行方を見たいとのムードが強く、14ドル高(0.06%増加)。
8月29日:NAFTA再交渉の米国とメキシコの大筋合意を受けて、米国とカナダとの協議への進展ヘの期待と4-6月期GDP改定値が4.2%に上昇したことで、61ドル高(0.23%増加)。
8月30日:トランプ大統領が来週にも約2000億ドルの中国製品に対する追加関税を発動するとの考えが伝えられ、かつ前日までの続伸で利益確定の売りが優勢で、138ドル安(0.53%減少)。
8月31日:31日期限の米国とカナダの貿易交渉が合意に至らず、3連休を前にした利益確定売りが優勢で、22ドル安(0.09%減少)。

2.米国の雇用状況
米労働省が8月3日に発表した7月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比157,000人の増加で、市場予想の190,000人増を上回りました。5月の雇用者数の確定値は268,000人で24,000人の増加、6月の改定値は248,000人で35,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は224,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を上回りました。なお、7月の失業率は3.9 %で、前月から0.1%改善しました。労働参加率は62.9%で、前月と同じ水準でした。7月の時間当たり賃金上昇率は前月比7セント増加で、前年同月比では2.7%増となりました。部門別では製造業が37,000人の増加、ヘルスケアが34,000人の増加、建設業が19,000人の増加、小売業が7,000人の増加となりました。

3.FOMC会合
FOMC会合が7月31-8月1日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回6月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は力強い水準に高まった。雇用増はここ数か月間平均すると力強く、失業率は低位を維持している。家計支出と企業の設備投資は力強く拡大した。全般的なインフレ率及びエネルギーと食品を除くインフレ率はいずれも、前年同期比で2%付近で推移している。長期のインフレ予想を示す指標は総じてあまり変わっていない。

法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジをさらに段階的に引き上げることは持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、中期的に目標の2%前後付近のインフレ率と整合すると予測している。景気見通しのリスクはほぼ均衡してきているようだ。

FOMCでは労働市場の情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを1.75-2.00%に据え置くことを決定した。緩和的な金融政策は維持し、力強い労働市場及びインフレ率の2%への持続的回帰を支える。
FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む8人のメンバーの賛成による。

連銀は今回のFOMCで景気や物価の情勢判断を引き上げ、9月のFOMC会合で追加利上げに踏み切る考えを示唆しました。その一方、トランプ大統領がけん制する利上げやトランプ政権が仕掛ける貿易戦争による景気リスクなどで、先行きの不透明感もあります。こうした状況を受けて、1日のダウ平均価格は81ドル安となりました。
4. トランプ政権が引き起こすトルコ・リラの急落問題
次々と内外で問題を作り出すトランプ政権は、今度は独裁色を強めるトルコのエルドアン政権との間で2016年のクーデター未遂事件で関与の疑いがあるとの理由で拘束した米国人牧師ブランソン氏の解放をめぐって大きな対立を引き起こしました。解放の期限とされた8月8日までにトランプ政権の要求に応じなかったことにより、米国政府はエルドアン政権の2閣僚に対する経済制裁とトルコからの鉄鋼とアルミ製品輸入に関税倍増措置を講じました。これにより、トルコのリラは一時20%近く下落、トルコの銀行や企業との関係が深い欧州の銀行の株価も大きな悪影響を受ける事態に発展しました。こうした状況に対してはトルコの中央銀行が利上げ行って対応すべきですが、景気後退を招きかねない金融引き締めに反対するエルドアン大統領の意向もあり、実行で切る状態にはありません。また、外貨不足に対応するにはIMFからの支援といった手段もありますが、IMFの管理下に置かれることを強く嫌うエルドアン大統領の方針もあり、これも実現される可能性は低いものとなっています。その一方、トルコと友好関係にあるカタール政府から150億ドルの直接投資の表明もありました。しかしトルコの対外借り入れ依存度は高く、カタール政府からの資金支援だけでは十分とは言えない状況です。

今回、トランプ政権がトルコのエルドアン政権に牧師の解放を強く迫った背景には、11月の中間選挙を前に、トランプ大統領は自分の選挙基盤と考えるキリスト教福音派に属する牧師の解放を実現させることで、劣勢回復を狙いたいとの意図が見られます。いずれにしても、米国第一主義を掲げながら、実際は自己利益優先主義のトランプ大統領の思惑がここでも、トルコ、欧州、そして米国にとっても不安要因となっているように思われます。

5. トランプ大統領が抱える政治リスクの拡大
8月21日に、トランプ大統領にとって政治的なダメージを与える2つの出来事が起こりました。一つはトランプ大統領の元選挙対責任者であったマナフォート氏がバージニア州アレクサンドリアの連邦地裁で陪審が起訴された18の罪に対して、脱税や外国銀行口座の申告漏れなど8件で有罪の評決を出したことです。マナフォート氏はウクライナの新ロシア政権であったヤニュコービッチ元大統領と関係が深く、トランプ氏の選対責任者になった後、2016年6月12日のトランプタワーでのトランプ氏の長男とロシア政府の弁護士との会談にも同席するなど、トランプ陣営とロシア政府との繋がりを知る人物の一人として、モラー特別検察間も捜査を進めているとされています。

もう一人はトランプ大統領の元個人弁護士であるマイケル・コーエン被告で、トランプ氏が過去に関係のあった元モデルに口止め料を払ったのは政治献金であり、選挙資金法の上限を超えていたことや更にこうした口止め料の支払いが大統領選挙を前にして、トランプ候補の指示であったことを認めたものです。コーエン氏はロシアのオリガーク達からトランプグループに流れた資金の流れにも精通していると言われ、モラー特別検査官が聴取する可能性が高いと見られます。

いずれにしても、トランプ大統領は選挙期間中から多くの問題が指摘されており、今回の2人の元側近の有罪や自供はトランプ大統領の今後の政権運営にとって、大きなダメージとなっていく可能性があります。

6. 米国消費者利益を無視したトランプ政権のメキシコとのNAFTA見直し合意
米国とメキシコ政府は8月27日に北米自由貿易協定(NAFTA)の見直し交渉で、両者の合意た成立したことを発表しました。合意内容によれば、両者の自動車貿易の関税をゼロにする一方、原産地規則を改め、現在は域内で62.5%の部材調達を75%以上とすることとなりました。加えて、40-45%が時給16ドル以上の地域での生産を義務付ける賃金条項も導入しました。これらの内容はトランプ大統領の米国第一主義の方針に沿ったものですが、それは米国内での自動車関連部品の調達や雇用を重視するあまり、米国での製造業の生産性向上をいかに確保していくかの視点が全く落ちていることになります。更に、自動車関連企業の雇用が第一優先され、米国経済にとって最も重要な消費者利益の追求の観点も全く無視されています。米国の自動車メーカーの立場からすれば、消費者に価格競争力のある製品を届けるのが最大の関心事であるはずで、こうした原産地規則や賃金条項があるのであれば、5%の関税を支払っても、従来通りの生産体制を使った方がよいとする企業もあるはずで、中間選挙を意識したトランプ大統領の意向に沿った形式だけの合意になったように思われます。

それと同時に、NAFTAの見直しはカナダを加えたものになることが予想されていましたが、乳製品などで安易な妥協が許されないカナダとの交渉は期限である8月31日までに成立しませんでした。今後は9月末での合意を目指すことになりますが、最悪の場合は従来のNAFTAが消滅し、米国とメキシコとの2国間協定になってしまう恐れも出ています。いずれにしても、米国内の一部の自動車関連産業の短期的な利益に拘り、米国全体の経済目的や国際的協調を無視するトランプ大統領の貿易政策は大きな問題を抱え続けています。
                   (2018年9月1日:  村方 清)
 
 

Wednesday, August 1, 2018

好調な米企業業績に支えられた米国の株式市場








 



1.7月の株式市場
7月の株式市場は米国と中国や欧州との貿易摩擦問題は続いているものの、4-6月期の四半期業績の好調な企業が多く、ダウ平均価格は再び2月下旬以来の高値を記録しました。主要な動きは以下の通りでした。

7月2日:WTO脱退に関するトランプ大統領の発言が否定的なものになったとの報道から、米国と主要国との貿易摩擦問題に対する過度の警戒感が和らぎ、ダウ平均価格は36ドル高(0.15%増加)。
7月3日:情報流出問題が起きたフェイスブックなどIT関連株が大幅に下落、加えて長期金利の低下で金融株も売られ、132ドル安(0.54%減少)。
7月5日:前日の反発とハイテク株を中心に個別の銘柄に買いが入り、182ドル高(0.75%増加)。
7月6日:6月雇用統計で雇用者増加数が213,000人増で市場予想の190,000人増を上回り(失業率は4.0%に上昇)、米経済の強さを示したことが好感され、ダウは100ドル高(0.41%増加)。
7月9日:米中貿易摩擦問題の新たな悪材料がなく、キャタピラーなど中国事業の大きな銘柄等に買い戻しの動きや週後半からの米主要企業の4-6月期決算の期待で、320ドル高(1.31%増加)。
7月10日:週後半から始まる米主要企業への決算期待から、143ドル高(0.58%増加)。
7月11日:米中貿易摩擦の懸念が再び強まり、キャタピラーやボーイングなど中国売上比率が高い銘柄を中心に売りが優勢で、加えて原油先物相場の下落でエネルギー株も下落、219ドル安(0.88%減少)。
7月12日:米中貿易摩擦の新たな悪材料がなく、昨日下げ幅の大きなキャタピラーやボーイングなど中国売上比率が高い株が買い戻され、224ドル高(0.91%増加)。
7月13日:米中貿易摩擦問題の新たな悪材料がないことや四半期決算への期待で、95ドル高(0.38%増加)。
7月16日:四半期業績が好調であったバンクオブアメリカが4%近く上昇するなど銀行株に買い委が広がり、45ドル高(0.18%増加)。
7月17日:パウエル連銀議長の上院での証言で、米国景気に楽観的な見方をすると同時に、利上げペースの加速を示唆しなかったことで、投資家の安心感を与え、56ドル高(0.22%増加)。
7月18日:四半期業績が増収増益であったモルガンスタンレーが大きく上昇、金融全般に買いが広がり、79ドル高(0.32%増加)。
7月19日:自動車関税をめぐる貿易摩擦の懸念から、135ドル安(0.53%減少)。
7月20日:米大統領の中国への関税強化発言による貿易摩擦の懸念で、6ドル安(0.03%減少)。
7月23日:中国や欧州との貿易取引が多い銘柄に売りが入り、14ドル安(0.06%減少)。
7月24日:四半期業績が好調であったユナイテッドテクノロジーやスリーエムが大幅に上昇、原油先物相場の上昇から石油株も買われ、198ドル高(0.79%増加)。
7月25日:取引終了の30分ほど前に、米欧首脳会談で貿易摩擦問題の緩和で合意したとの報道が伝わり、172ドル高(0.68%増加)。
7月26日:米欧の貿易摩擦が激化するとの懸念が後退し、海外事業の比率が高いキャタピラーやスリーエムなどの銘柄を中心に買いが優勢となり、113ドル高(0.44%増加)。
7月27日:米国の4-6月期のGDPが4.1%と市場予想を下回ったことや四半期業績発表のインテルのデータセンター向け売上げが伸び悩み、ハイテク株の売りが優勢で、76ドル安(0.30%減少)。
7月30日:四半期決算が不振であったネットフリックスやフェイスブックの下落が止まらず、他のアマゾンやグーグルにも売りが広がり、144ドル安(0.57%減少)。
7月31日:米中が貿易交渉の再開を検討しているとの報道から、中国での売り上げが大きな資本財関連株が買われ、108ドル高(0.43%増加)。7月全体では4.3%の上昇で、今年1月以降で最大。

2.米国の雇用状況
米労働省が7月6日に発表した6月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比213,000人の増加で、市場予想の190,000人増を上回りました。4月の雇用者数の確定値は175,000人で16,000人の増加、5月の改定値は244,000人で21,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は211,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、6月の失業率は4.0 %で、前月から0.2%悪化しました。労働参加率は62.9%で、前月より0.1%増加しました。1月の時間当たり賃金上昇率は前月比5セント増加で、前年同月比では2.7%増となりました。部門別では製造業が36,000人の増加、ヘルスケアが25,000人の増加、建設業が13,000人の増加、小売業が22,000人の減少となりました。

3.パウエル連銀議長の議会証言
7月17日にパウエル連銀議長は上院の金融サービス委員会で年2回の証言を行いました。その中で、米国経済の拡大が続いていることや労働市場は力強さを保っていることなどから、インフレ率はFRBの目標である2%近くで推移するであろうの見通しを明らかにしました。これに伴い、今後の金融政について、インフレはほぼ目標に到達しており、段階的な利上げを続けるのが最善の道と主張しました。その一方で、賃金の上昇率は緩やかであり、高インフレを引き起こすことはないとの見方も示しました。特に、パウエル氏は2%のインフレ率目標を上下対称として、幅を持たせる考え方を強調しました、パルエル氏としては、一時的なインフレの上振れを容認して、急激な利上げペースに否定的な考え方を表しました。

それと同時に、トランプ大統領が引き起こす貿易戦争について、パウエル議長は質疑応答で、幅広い製品に長期に渡り、高関税が課せられれば、米国だけでなく、相手国の経済に悪影響をもたらすとの懸念を表明しました。

4.4-6月期の米経済成長率の高さと持続性への疑問
米商務省が7月27日に発表した米国の4-6月期のGDPは前期比年率換算で4.1%増と1-3月期の2.2%を大幅に上回りました。最大の要因は個人消費で、大型減税と雇用拡大で個人の可処分所得が増加、車などの耐久消費財が9.3%も拡大したことでした。加えて、法人税の引き下げによる企業業績の改善、設備投資も7.3%増と大きく伸びました。FRBのパウエル議長も減税効果で、2,3年は需要の押上が見込めるのではないかとしています。

その一方で、今回の個人消費の増加は過剰消費の側面もあり、今後の貿易摩擦問題の行方と共に、どこまで持続性があるかについては多くのエコノミストの間で慎重な見方が出ています。特に、大型減税を導入したことで、米国の財政赤字が急増しており、財務省の試算では2018年後半の借入額は7690億ドルに達すると見込まれており、それは米国が金融危機に直面した2008年7月から12月までに生じた1兆1000億ドルに次ぐものになるとしています。いずれにしても、今後の米国経済の行方については、トランプ政権が誇張するほど持続性のあるものとは言えないように思われます。

この日のダウは、GDPが市場予想の4.4%に届かなったことやデーターセンター向け売り上げが伸び悩んだインテルなどのハイテク会社の決算がほぼ終了したこともあり、76ドル安(0.30%減少)で終わりました。

5.G20財務相会議
主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議は7月21-22日にアルゼンチンのブエノスアイレスで開催されました。米国のトランプ政権が作り出している貿易摩擦問題について、多くの国が世界経済の下振れリスクが高まるとの懸念から、対話と行動を強化するとの共同声明を採択したものの、米中や欧州などが相互に制裁関税を発動しあう報復の連鎖に歯止めをかける具体策は打ち出せんでした。

通貨問題については、米国のトランプ政権が中国やEUを為替操作国とやり玉に挙げたものの、会議では輸出拡大を目的に自国通貨を安値誘導する競争的切り下げの回避に向け、為替レートを目標にしないとの従来の合意を再確認しました。

G20は2008年の金融危機を受けて、初めて首脳会議を開催してから10年になりますが、最初の数年は各国が財政出動を行ったり、保護主義の台頭を抑え込んでいくなど成果が見られましたが、米国で自国第一主義のトランプ政権が誕生してからは、米国と他の国々との貿易摩擦問題がエスカレートし、歯止めをかけられない状態が続いています。今後もこうした対立が続くようであれば、G20の存在意義は問われることになるように思われます(2か国間交渉や協議を重視するトランプ政権からすれば、G20の役割に否定的であるのかもしれませんが)。

6.米欧首脳会議で、関税下げ交渉を開始することで合意
トランプ政権による輸入車の関税引き上げが懸念されていたEUのユンケル委員長とトランプ大統領の会談は7月25日に行われ、自動車を除く工業製品で関税をゼロにするための交渉を開始することで合意しました。トランプ政権は6月にEUに対する鉄鋼とアルミに追加関税を発動、EUは対抗として二輪車や農産品への報復関税を課しました。今回、トランプ政権が自動車に関税を課せば、EUは報復する姿勢を示していました。双方首脳の共同声明によれば、自動車を除く工業製品について関税や非関税障壁、補助金をゼロにするための話し合いをするとして、内容的には米国産の大豆や液化天然ガスのEU向け輸出拡大への貿易交渉を始めることになります。いずれにしても、両者の交渉が続けられる限り、追加の関税を課すことは留保された形になりましたが、今後の交渉に進展によっては再び対立が再燃する可能性もあります。
                (2018年8月1日: 村方 清)

Sunday, July 1, 2018

トランプ大統領が作り出すリスクと市場の不安定化













1.6月の株式市場
6月の株式市場は前半期が長期金利や原油先物相場の上昇で株価の回復が目立ちました。しかし、後半期は対米貿易黒字国を対象とするトランプ政権の関税措置の強化策による貿易摩擦問題への懸念から、ダウ価格は6月12日から8日間連続下落の約860ドル低下となり、市場の不安定化が高まりました。主要な動きは以下の通りでした。

6月1日:5月雇用統計で雇用者増加数が223,000人増で市場予想の190,000人増を上回ったこと(失業率は3.8%に低下)、更に週前半のイタリアの政治混乱が一時的に収まったことから、買いが優勢で、ダウは219ドル高(0.90%増加)。
6月4日:アジアや欧州の主要株価指数が上昇したことに伴い、幅広い銘柄に買いが入ったことやIT株関連でアマゾンやネットフリックスなどが高値を更新、178ドル高(0.72%増加)。
6月5日:米通商政策やイタリアの財政問題の懸念から売りが優勢で、14ドル安(0.06%減少)。
6月6日:欧州中銀の金融政策の正常化の観測から、米長期金利が上昇し、金融株を中心に買いが優勢で、346ドル高(1.40%増加)。
6月7日:原油先物相場の上昇で石油株が買われたことやリストラが評価されたマクドナルドの買いが優勢で、95ドル高(0.38%増加)。
6月8日:カナダでの主要国首脳会議で対立が鮮明になり警戒感が増したが、割安感から資金が流入したプラクターアンドギャンブルなどが買われ、75ドル高(0.30%増加)。
6月11日:米朝首脳会談やFOMC会合を控えて、様子見ムードが強く、6ドル高(0.02%増加)。
6月12日:13日のFOMC会合を控えて、様子見ムードが強く、2ドル安(0.01%減少)。
6月13日:FOMC会合で年内の利上げが更に2回想定されたことへの警戒感と米中貿易摩擦問題への懸念から、120ドル安(0.49%減少)。
6月14日:米長期金利の低下で金融株が売られ、米中貿易摩擦の警戒心もあり、26ドル安(0.10%減少)。
6月15日:トランプ政権が中国製品への追加関税の発動を発表したが、中国政府も米国製品に同額の報復関税を課すと発表、米中貿易摩擦の懸念から、85ドル安(0.34%減少)。
6月18日:米中貿易摩擦への懸念から、103ドル安(0.41%減少)。
6月19日:米中貿易摩擦の対立が強まり、中国事業の比率が高い銘柄を中心に下げが広がり、287ドル安(1.15%減少)。
6月20日:米中貿易摩擦問題への警戒感とパウエル連銀議長の利上げ継続発言で、株価は重荷となり、42ドル安(0.17%減少)。
6月21日:世界貿易摩擦への警戒感が強まり、先行き不透明感から、196ドル安(0.80%減少)。
6月22日:OPEC総会で昨年からの協調減産を7月から辞めることで合意、米中貿易摩擦の警戒感も一時的に後退し、119ドル高(0.49%増加)。
6月25日:米中貿易摩擦が中国資本が25%以上の企業の対米投資制限やIT技術規制の強化といった中国企業の投資制限にも及ぶとの報道から、328ドル安(1.33%減少)。
6月26日:前日大きく下げた反動と、原油先物相場が上昇し、30ドル高(0.12%増加)。
6月27日:中国への投資規制制限に関連してトランプ大統領が対米外国投資員会(CFIUS)を活用する考えを表明、一時買いが優勢となったが、その後再び懸念が広がり、166ドル安(0.68%減少)。
6月28日:前日に2カ月ぶりの安値を付けた反動で、これまで売り込まれていた銘柄に自律的な
反発を見込んだ買いが入り、金融やIT株を中心に上昇、98ドル高(0.41%増加)。
6月29日:四半期業績が好調であったナイキが急伸、原油先物相場も上昇し石油株も買われたものの、貿易摩擦問題への警戒感も強く、55ドル高(0.23%増加)。月間でダウは0.59%下落。

 
2.米国の雇用状況
米労働省が6月1日に発表した5月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比223,000人の増加で、市場予想の190,000人増を上回りました。3月の雇用者数の確定値は155,000人で20,000人の増加、4月の改定値は159,000人で5,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は179,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、2月の失業率は3.8 %で、前月から0.1%改善しました。労働参加率は62.7%で、前月より0.1%減少しました。1月の時間当たり賃金上昇率は前月比8セント増加で、前年同月比では2.7%増となりました。部門別では小売業が31,000人の増加、ヘルスケアが29,000人の増加、建設業が25,000人の増加、製造業が18,000人の増加となりました。

 
3.FOMC会合と金利引き上げ
FOMC会合が6月12-13日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回5月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は堅調なペースで拡大した。雇用増はここ数か月間平均すると力強く、失業率は低下した。家計支出の伸びが上向き、企業の設備投資は引き続拡大を続けたことになる。全般的なインフレ率及びエネルギーと食品を除くインフレ率はいずれも、前年同期比で2%に近づいてきた。長期のインフレ予想を示す指標は総じてあまり変わっていない。

法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジをさらに段階的に引き上げることは持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、中期的に目標の2%前後付近のインフレ率と整合すると予測している。景気見通しのリスクはほぼ均衡してきているようだ。

FOMCでは労働市場の情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを1.75-2.00%に引き上げることを決定した。緩和的な金融政策は維持し、力強い労働市場及びインフレ率の2%への持続的回帰を支える。
FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やダドリー副議長を含む8人のメンバーの賛成による。
連銀は13日のFOMC会合で3カ月ぶりの利上げを決定、更に年内2回の追加利上げのシナリオを示しました。この背景には、FRBが重視する消費支出物価指数が3月と4月ともに2.0%を上回ったことがあげられます。また、今後も18年10-12月のインフレ率が2.1%と目標を上回って推移すると予測していることがあります。また、失業率が18年振りの低水準となり、経済成長率も1.8%の潜在成長率を上回って高い伸びが続くと見ています。こうしたことが18年の利上げ回数を今年3月に想定した年3回から今回の年4回ペースに加速するシナリオに変えた理由とされています。

 
4.トランプ大統領が作り出すリスクの拡大
これまで公務の経験が全くなく、また、ビジネスマンとしても5回以上の破産を繰り返すなど能力があるとは言えないトランプ大統領の米国のリーダーとしての危うさは大統領就任後に何度も見られました。トランプ大統領が作り出した最大のリスクは昨年12月に成立した大規模減税(トランプ減税)でした。これに関連して、6月26日に議会予算局が発表した予測によれば、現在の15兆ドルの赤字額が10年後には2.3兆ドルの増加となり、GDPと同規模になり、米国経済の深刻な影響を与えることになるとしています。それに加え、今回は西側首脳7か国が集まるカナダのケベックでのG7首脳会議、シンガポールでの米朝首脳会談、米中貿易摩擦問題で彼の危うさが際立つ形で現れることになりました。

    (A)    G7会合の決裂
6月9日までカナダのケベック市で開催された主要7か国首脳会議は、トランプ政権による鉄鋼・アルミニウムへの輸入関税をめぐって、米国と他の国々との意見の対立が続き、合意文書の取りまとめは難航しました。最後に、ルールに基づく国際秩序を推進、自由、公平で相互に利益になる貿易と投資は成長と雇用創出の主要原動力であることを確認、関税障壁、非関税障壁の削減に向けて努力すると宣言しました。しかし、合意文書を発表した主催国のカナダのトルドー首相がトランプ政権が国家安全保障を理由に鉄鋼・アルミ製品に関税を課すのは無理があり、カナダは7月1日に報復関税を発動しました。これに対し、トランプ大統領はシンガポールに向かう飛行機で自動車関税を発動するので、宣言を承認しないように指示しました。

これまで、先進主要の首脳が集まり、世界の主要な問題の解決策を求めて議論してきたG7ですが、米国第一主義のトランプ大統領が米国のリーダーとなって以来、懸念された事態がここに来て現実化することになりました。
 
(B)米朝首脳会談の合意は北朝鮮ペース
北朝鮮の非核化に向かって多大の期待をもって実行された米朝首脳会談は、両首脳による共同声明文を見る限り、当初トランプ政権が約束していた完全で検証かつ不可逆的な非核化とは程遠いものになりました。両首脳が共同声明で述べたのは、韓国と北朝鮮が4月27日に確認した板門店合意をか確認し、朝鮮半島における完全な非核化に向かって努力することを約束したもので、2005年の6カカ国協議で合意したのは北朝鮮の全ての核兵器と既存の核兵器の放棄とは著しい内容となりました。また、非核化のプロセスも、早期の完全な非核化ではなく、北朝鮮が従来から主張する段階別な非核化となりました(事実上の核保有容認に近いもの)。

更に、北朝鮮が要求した体制の保証についても、トランプ大統領が韓国と米国による共同軍事行動の中止も前向きに検討するという形になりました。

交渉が得意と公言してきたトランプ大統領が、これほどまでに北朝鮮のペースになってしまったのは
トランプ大統領が今回の米朝首脳会談を11月の中間選挙を意識して自らの支持を広げるための手段として位置付けたため、相手側の要求を多く受け入れて両首脳の合意達成との形式に捉われてしまったことが大きいと思います。

今後懸念されるのは、合意内容が北朝鮮の非核化ではなく、朝鮮半島の非核化となったことにより、北朝鮮はこれまで以上により時間をかけられること、米国のイニシアチブで取られた国連の北朝鮮に対する経済制裁が中国(あるいは韓国)を通じて、形骸化する恐れがあることです。外交経験が皆無でありながら、事務方による深い検討や助言もなく、トップダウンで行ったトランプ大統領のお粗末さが事態を悪化させかねない危険を抱え込んだように思われます。

   (C)  米中貿易摩擦問題の深刻化
トランプ政権は6月15日、中国による知的財産権侵害に対抗して、対中制裁措置を発動することを発表しました。ハイテク商品を中心に1102品目、合計500億ドル相当の中国からの輸入品に25%の追加関税を適用する内容です(第1段階として7月6日に818品目、約340億ドルを、第2段階で284品目、約160億ドルを対象)。トランプ大統領は声明文の中で、中国の知的財産権侵害や米国企業への技術移転強要を非難し、米中の貿易関係は長期に渡って不公平であり、これ以上は続けられないこと、もし中国が報復措置に出れば、追加的な措置を検討するとの方針を明らかにしました。

これに対し、中国側は商務省の報道官が、中国側は米国との貿易戦争を起こしたくないが、米国の目先に捉われた行為に対しては強力な反撃手段を加えざるを得ないとして、米国と同規模、同程度の追加関税措置を取り、従来合意した内容は無効になるとしました。

こうした深刻化する米中貿易摩擦問題は、対中国との取引が大きなボーイング社やキャタピラー社のへの懸念となって現れ、両者の株価は大きく下落することになりました。ダウ全体でも、6月13日以降8日連続で下落、下落幅も860ドルの大きなものとなりました。

トランプ政権が中国との間の約3500憶ドルといわれる巨額貿易赤字や中国企業による知的財産権侵害を米国のような先進資本主義国の大きなの経済問題とするのは理解できる側面もあるものの、それへの解決策が米国第一主義の名のもとに中国からの輸入品に対する大幅な追加関税というのは間違っていると思われます。グローバル化の進展によって、世界経済が密接に関係している状況の中で、トランプ大統領の時代遅れの重商主義ともいえる関税を使った保護貿易政策は相互の応酬が強まるだけで、問題を一層悪化させていくだけと思われます。

中国が今日のように商品貿易で先進国との間で巨額の輸出黒字を作り出すようになったのは、中国側の巧妙な外資導入策だけでなく、欧米日の企業が中国の安価な労働力を求めて、激しく競い合って進出してきたという経緯があります。それは先進国企業にとって競争力のある完成品を作るには、部品供給の面で中国企業による生産が不可欠というグローバルな構造を生み出してしまいました。更に、深刻なのは強権的な共産党独裁国家で、国による産業育成を主要な目標をしてきている中国に進出すれば、それは市場競争ルールが通用しない強力なライバル企業の台頭となってくるのも時間の問題だったはずです。その意味で、現在の米中の貿易摩擦問題は、米中間の問題に留まらず、ベルリンの壁が破られた事件に象徴される冷戦体制の崩壊以降の経済のグローバル化が中国のような共産党支配の独裁体制国家に対しても、政治的な抑制をすることなく拡大させてしまった結果ではないかと思われます。この点、グローバル化が政治体制を超えて世界経済を組み込んだことの経済・政治的意味や影響を冷静に分析し、今後のあり方を改めて考える時期に来ているように思います。
             (2018年7月1日: 村方 清)