Thursday, November 1, 2018

トランプ政権の政策矛盾と市場の不安定化















1.10月の株式市場
0月の株式市場は10月2日にダウが史上最高の26,951ドルを達した後、トランプ政権の財政政策による長期金利上昇や貿易摩擦問題による企業業績悪化などから、下落傾向が続き9(10月10日には832ドルの下落)、10月末ではピークから約5%の低下となりました(2016年1月以来の大きな下落)。主要な動きは以下の通りでした。

10月1日:北米自由貿易協定(NAFTA)の見直し交渉で米国とカナダが合意、投資家心理が改善、貿易交渉の影響を受けやすい株式銘柄に買いが優勢で、ダウ価格は193ドル高(0.73%増加)。
10月2日:NAFTA見直し交渉の合意を受けて、海外事業の比率が高いキャタピラーやボーイングなどが買われ、123ドル高(0.46%増加)。
10月3日:ADP全米雇用レポートで非農業部門の雇用者数が前月比23万人増と市場予想を上回ったことや
イタリア政府の財政懸念の後退もあり、54ドル高(0.20%増加)。
10月4日:前日に米長期金利が7年振りの水準に達して、米金利の急上昇に対する警戒感が高まったことで、201ドル安(0.75%減少)。
10月5日:9月雇用統計で雇用者増加数が134,000人増で市場予想の185,000人増を下回ったものの(失業率は3.7%まで低下)、賃金上昇率が2.8%などで、長期金利上昇への警戒感が高まり、180ドル安(0.68%減少)。
10月8日:金利上昇を警戒したハイテク株の売りが続いたが、午後に持ち直し、40ドル高(0.15%増加)。
10月9日:米中の貿易摩擦や中国経済の減速への警戒感から、キャタピラーなど中国売り上げ比率が高い銘柄を中心に売りが優勢で、56ドル安(0.21%減少)。
10月10日:米長期金利の上昇を受けて、割高なハイテク株が大きく売られ、加えて米中貿易摩擦の長期化が意識され、投資家のリスク回避の姿勢が強まり、832ドル安(3.15%減少)。
10月11日:米中貿易摩擦の悪影響への投資家の警戒感に加え、原油先物相場の下落に伴う石油株の売りも重なり、546ドル安(2.13%減少)。
10月12日:アップルやアマゾン等のハイテク株心に買いが広がり、287ドル高(1.15%増加)。
10月15日:アップルなどの多くのハイテク株が下落、89ドル安(0.35%減少)。
10月16日:米長期金利の上昇が一服したことやゴールドマン・サックス、ユナイテッドヘルスの四半期決算が好調であったことで、548ドル高(2.17%増加)。
10月17日:前日に急騰した反動の売りと利上げ観測で、92ドル安(0.36%減少)。
10月18日:中国景気の減速に加え、米長期金利の先高観を反映したハイテク株の売りも続いてことから、327ドル安(1.27%減少)。
10月19日:前日に大きく下落した反動で、自律的な反発を見込んだ買いが優勢で、65ドル高(0.26%増加)。
10月22日:イタリアの財政懸念から銀行家が売られ、原油先物相場の下落から石油株も売られ、127ドル安(0.50%減少)。
10月23日:中国関連株のキャタピラーや3Mなどの四半期業績が不振で、一時548ドルの下落をしたが、取引終盤に下げ幅が縮小し、126ドル安(0.50%減少)。
10月24日:10月のユーロのPMIの総合指数が52.7に低下、米中貿易摩擦の長期化による世界経済の不透明感を強く意識され、608ドル安(2.41%減少)。
10月25日:四半期決算が好調であったマイクロソフトとクレジットカードのビザが大幅に上昇し、投資家心理が改善、401ドル高(1.63%増加)。
10月26日:四半期決算が不調であったアマゾンやグーグルが大幅に下落、アップルやフェースブックにも売りが広がり、296ドル安(1.19%減少)。
10月29日:11月の米中首脳会談が不調の場合、トランプ政権が中国からの全輸入品に追加関税を発動との方針が伝えられ、貿易摩擦の影響を受け安い銘柄が売られ、245ドル安(0.99%減少)。
10月30日:トランプ大統領が中国との貿易摩擦問題で折り合うとの姿勢を示したと伝えられたことや四半期業績が好調であったコカ・コーラなどの銘柄が上昇し、432ドル高(1.77%増加)。
10月31日:四半期業績が好調であったフェイスブックが大幅に上昇、これに伴い主力ハイテク株に買いが優勢となったこと、長期金利の上昇で金融株も買われ、241ドル高(0.97%増加)。

2.米国の雇用状況
米労働省が10月6日に発表した9月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比134,000人の増加で、市場予想の185,000人増を下回りました。7月の雇用者数の確定値は165,000人で18,000人の増加、8月の改定値は270,000人で69,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は約190,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、9月の失業率は3.7 %で、1969年12月以来の低い水準となりました。労働参加率は62.7%で、前月と同水準でした。9月の時間当たり賃金上昇率は前月比8セント増加で、前年同月比では2.8%増となりました。部門別ではヘルスケアが26,000人の増加、建設業が23,000人の増加、製造業が18,000人の増加となりました。

3.トランプ政権による財政赤字の拡大
連邦議会予算局が発表した2018年度(2017年10月から2018年9月まで)の財政赤字は約7820億ドルで、前年度の約6660億ドルを1160億ドル上回る過去6年間で最悪となる見通しとなりました。この数字は米国GDPの3.9%となり、前年度の3.5%から拡大しました。現在、米国の累積財政赤字額は21.5兆ドルに達しており、2018年度の場合、5230億ドルが金利支払いに充当されたといわれています。いずれにしても、昨年12月にトランプ大統領と共和党が成立させた1兆5000億ドルの大幅減税は、その後のインフラ投資を重点とする約600億ドルの追加財政支出と共に、短期的に経済を活発化させるものの、中長期的に米国の財政赤字が長期金利の上昇となって、米国経済を停滞させていくことになりかねません。

これに関連して、共和党のマッコウネル上院院内総務は今後予想される財政赤字の拡大に対しては、ソーシャルセキュリティーやメディケアのなどの社会保障制度予算の大幅見直しが必要になるとの見方を示しました。2018年度の財政赤字拡大はトランプ大統領と共和党が成立させた大企業や富裕層への大幅減税が大きな原因であったにもかかわらず、そのことに言及することなく、既に医療保険の高騰や既往症の保険適用などで一般の米国民に大きな悪影響を与えている社会制度について、大きな見直しを主張する共和党の姿勢には米国民の間に強い反発を起こしています。

4.トランプ政権の政策矛盾と市場の不安定化
10月10日にダウが832ドル下落した後、トランプ大統領はFRBが金利引き上げを急ぎすぎることが原因で、FRBはアウトオブコントロールになっていると強く非難しました。政治からの独立性が保たれているはずのFRBに対して、現職の大統領が批判するのは異例となっています。株価上昇を前提に支持を維持・拡大しようとしてきたトランプ大統領は11月6日の中間選挙を意識しすぎる余り、米国経済の状況を正確に理解していないように思えます。

米国経済は完全雇用に近い状態にあり、追加の財政政策が必要とされていなかった状況にもかかわらず、前述のようにトランプ大統領は昨年12月に連邦議会与党の共和党と組んで、10年間で1兆5000億ドルの大幅減税を成立させました。また、2018年に入り、更に景気刺激を図るために、軍事とインフラ投資の拡大を重点とする約600億ドルの追加歳出法案も成立させました。グリーンスパン元連銀議長はこうしたトランプ政権の政策を景気の過熱を煽るだけで全く不必要と批判しましたが、選挙を強く意識するトランプ大統領はこうした批判に全く聞こうとはしませんでした。そして、こうした景気の過熱状態を反映したのが長期金利で、10年物米国債の金利は昨年12月の2.4%から今年10月初めの3.1%まで上昇するようになっています。一方、短期金利の決定に責任を持つFRBは賃金上昇率やインフレ率の動きを見ながら、FF金利の水準を決めています。今年2回、FF金利の引き上げを決定したFRBのFOMCはそうした実体経済の指標の動きを見て判断したものです。更に、トランプ大統領の追加の財政政策は2018年度の財政赤字を過去6年間で最大の規模としていますので、この点からも10年物国債の金利が上昇するのは当然のこととなります。

CNBCのアナリストであるSteve Liesman氏が10月11日にテレビ番組で、アウトオブコントロールになっているのはFRBではなく、トランプ大統領自身でないかとコメントしていました。また、同じ日に、債券投資専門家であるJeffery Gundlach氏はトランプ政権による自らの政策が長期金利の上昇を招いているにもかかわらず、FRBを非難していることをキツネのように常軌を逸していると批判しました。こうした専門家の見方が正しいように思えます。

また、トランプ政権の米国第一主義に基づく貿易政策についても、米国企業がグローバルな生産コストを比較しながら、長期間かけて築き上げてきたグローバルなサプライチェーンを全く無視して、相手国が米国に対して過剰な輸出超過を抱えるのは許せないというのは経済合理性を欠いた政治的なスローガンとしか言いようがありません。

いずれにしても、米国の株価が高水準にある時に更なる株価の上昇を自己の政権維持に必要と考えるトランプ大統領を選んだことは、米国経済の健全な発展にとって不必要な財政政策や貿易政策を主張・実行しているだけで、米国の株式市場を究極的に大きく下落させていくように思われます。

5.国益より私益優先のトランプ大統領
サウジアラビア出身で、ムハンド皇太子によるサウジアラビア政権の運営を繰り返し批判してきたカショギ記者がトルコのイスタンブールにあるサウジアラビアの領事館で殺害された事件をめぐり、サウジアラビア政府に対するトランプ政権の対応の鈍さが問題になっています。本来、米国は言論の自由を最も重視する民主国家のリーダーであったはずですが、トランプ大統領はサウジアラビアが巨額の武器輸出先で米国内の雇用増加に与える影響が大きいことなどを理由に最初から慎重姿勢を変えず、サウジアラビアに対する厳しい制裁措置を取っていません。しかしながら、トランプ大統領にとっては、不動産ビジネスで富を築き上げる上で、サウジアラビアの王室や富豪が重要な顧客であったことや現在もトランプ不動産グループにとって深いつながりがあることの方が重要な要因になっているように見られます。

2016年の大統領選挙に関連して、共和党の泡沫候補と言われたトランプ氏をロシアのプーチン大統領が支援した背景には、クリミア併合によって米国がロシアに対して課した経済制裁の解除を実行できる候補として、不動産ビジネスでロシアのオリガーク達と深い関係のあることが大きな理由となったと見られています。

世界経済に最も影響が大きい米国の大統領が国益より私益を優先させれば、米国の同盟関係を歪めるだけでなく、敵対国の利益が助長される結果になりかねません。いずれにしても、現在は、こうしたトランプ大統領の政策運営に疑問を持つ米国民が広がってきているように思われます。

6.トランプ政権の差別主義が引き起こす国内の分断化と相互不信
トランプ政権は2017年1月の発足以来、国内の安全を理由に排外的・差別的な人種による移民政策を展開してきましたが、それは共和党の保守派グループを中心に強い支持を得てきまし。その一方、野党の民主党やその支持者は差別的な移民政策に強く反発してきました。そうした矢先、民主党のオバマ前大統領、バイデン前副大統領、ヒラリー・クリントン前国務長官、ブッカー・ニュージャージー州選出上院議員、ハリス・カリフォルニア州選出上院議員、民主党支持の世界的投資家であるジョージ・ソロス氏、映画俳優のロバート・デ・ニーロ氏など14個の小包爆弾を送ったトランプ大統領の狂信的支持者であるシーザー・セヨク容疑者が10月26日にフロリダ州で逮捕されました。また、27日にはペンシルべーニア州ピッツバーグでユダヤ教の礼拝所で銃乱射事件が起こり、11人が亡くなるという事件が起こり、10月27日にロバート・バウアーズ容疑者が逮捕されました。いずれもの事件も、白人優越主義のグループに属するものですが、後者は反ユダヤ主義者で、トランプ大統領の政策がイスラエル寄りであることや娘婿のクシュナー氏がユダヤ教徒であることなどへの反発があったものと見られています。

米国の過去の大統領の中で、トランプ大統領ほど過激な差別主義政策を取っている大統領は存在せず、彼の度重なる集会発言やツィターを通じて、米国民の間の分断が広がり、相互不信が強まっています。11月6日に予定される中間選挙では、米国の下院で、特にトランプ大統領の与党である共和党が引き続き過半数を維持できるのかが焦点となっています。
             (2018年11月1日:  村方 清)

Monday, October 1, 2018

トランプ大統領の米国第一主義と経済への影響

 
 
 
 
 
 
 

 

 
 
 
1.9月の株式市場
9月の株式市場は引き続き、トランプ政権が取る対中国貿易強硬策の動きによって、市場が大きく変動することになりました。また、8月6日から取られたとられたトランプ大統領によるイランへの経済制裁の結果、原油価格も次第に上昇圧力を強め、経済への悪影響が出始めています。主要な動きは以下の通りでした。

9月4日:トランプ政権の通称政策の先行き警戒感から、海外売上高の比率が高い銘柄が売られ、加えてアルゼンチンやトルコの通貨が大きく売られ、ダウ平均価格は12ドル安(0.05%減少)。
9月5日:米国とカナダの貿易交渉が再開され、協議の行方を見極めたい投資家が多く、23ドル高(0.09%増加)。
9月6日:ボーイングや防衛関連の銘柄が上昇し、21ドル高(0.08%増加)。
9月7日:8月雇用統計で雇用者増加数が201,000人増で市場予想の200,000人増を上回り(失業率は3.9%で変わらず)、6-7月分が下方修正されたものの、賃金上昇率が2.9%となったことで、利上げの可能性が高まったことで、79ドル安(0.31%減少)。
9月10日:米中貿易摩擦をめぐる不透明感から、中国と関係の深いアップルやボーイングが売りを主導して、59ドル安(0.23%減少)。
9月11日:主力製品の発表を控えたアップルや出荷台数が大幅に伸びたボーイングが買われ、114ドル高(0.44%増加)。
9月12日:米中が貿易問題を協議する可能性があるとの報道から、28ドル高(0.11%増加)。
9月13日:トルコ中銀の大幅利上げで新興国の経済をめぐる懸念が後退した他、米中貿易協議への期待から、147ドル高(0.57%増加)。
9月14日:米長期金利や原油先物相場が上昇、金融や石油株が買われ、9ドル高(0.03%増加)。
9月17日:トランプ政権が中国への2000億ドルへの商品に対する追加関税を課すとの報道から、93ドル安(0.35%減少)。
9月18日:トランプ政権の対中追加関の発動を発表したが、中国を含む海外相場が堅調だったため、185ドる高(0.71%増加)。
9月19日:米中貿易摩擦問題への過度の警戒感が後退し、キャタピラーなど資本財関連株が買われ、また米長期金利の上昇を受けて、金融株も買われ、159ドル高(0.61%増加)。
9月20日:米中貿易問題への警戒感が後退し、投資家心理が改善し、251ドル高(0.95%増加)。
9月21日:米中貿易問題への過度な警戒感が後退し、86ドル高(0.32%増加)。
9月24日:トランプ政権が中国からの輸入品約2000億ドルに10%追加関税を課したで、米中貿易摩擦問題の長期化への懸念から。181ドル安(0.65%減少)。
9月25日:貿易摩擦問題への懸念とFOMC会合の結果発表を控え、利益確定売りが先行し、70ドル安(0.26%減少)。
9月26日:FOMCが3回目の利上げを決定、長短金利差が縮まり、利さやが縮小するとの観測から、金融株が売られ、107ドル安(0.26%減少)。
9月27日:アップルやアアマゾンなど主力ハイテク株が買われ、相場上昇を後押ししたが、たが、貿易摩擦問題への懸念も根強く、55ドル高(0.21%増加)。
9月28日:インテルやボーイングなどが業績見通しを引き上げたことで買われたものの、貿易摩擦の長期化やイタリア財政の不透明感から、上値は重く、18ドル高(0.07%増加)。

2.米国の雇用状況
米労働省が9月7日に発表した8月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比201,000人の増加で、市場予想の200,000人増を上回りました。6月の雇用者数の確定値は208,000人で40,000人の減少、7月の改定値は147,000人で10,000人の減少となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は185,333人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を下回りました。なお、8月の失業率は3.9 %で、前月と同じ水準でした。労働参加率は62.7%で、前月より0.2%下回りました。8月の時間当たり賃金上昇率は前月比10セント増加で、前年同月比では2.9%増となりました。部門別ではヘルスケアが33,000人の増加、建設業が23,000人の増加、運輸・倉庫業が20,000人の増加となりました。

3.FOMC会合と金利引き上げ
FOMC会合が9月25-26日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回8月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は力強い水準で高まった。雇用増はここ数か月間平均すると力強く、失業率は低位を維持している。家計支出と企業の設備投資は力強く拡大した。全般的なインフレ率及びエネルギーと食品を除くインフレ率はいずれも、前年同期比ベースで2%付近で推移している。長期のインフレ予想を示す指標は総じあまり変わっていない。

法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジをさらに段階的に引き上げることは持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、中期的に目標の2%前後付近のインフレ率と整合すると予測している。景気見通しのリスクはほぼ均衡してきているようだ。

FOMCでは労働市場の情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを2.0-2.25%に引き上げることを決定した。
FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やダドリー副議長を含む8人のメンバーの賛成による。

連銀は26日のFOMC会合で3カ月ぶりの利上げを決定、更に年内1回の追加利上げのシナリオを示し、19年も3回が中心シナリオとなりました。今後も18年10-12月のインフレ率が2.1%と目標を上回って推移すると予測していることがあります。また、失業率が18年振りの低水準となり、経済成長率も3.1%と高い伸びが続くと見ています。しかしながら、FOMCの利上げ見通しの中央値ではみると、20年はわずか1回に留まり、今回初めて公表した21年分はゼロでした。この点、政策金利は3.25%-3.5%が天井になる可能性があります。
なお、今回のFOMCの結果発表後に、米債券市場で長短金利の差が縮まり、利さやが縮小するとの観測から、金融株が売られ、107ドル安となりました。

4.疑惑追及に追われるトラんプ大統領
トランプ大統領のグル=プが2016年の大統領選挙期間中、ロシアとの共謀があるのではないかと疑惑を調査中のモラー特別検察官チームは9月14日に。トランプ大統領の元選挙対策本部長であったマナフォート氏がウクライナで新ロシア政権にために働き、3000万ドルのマネーロンダリングをした他、1500万ドルの脱税をしたことを認めると同時に、2016年の大統領選挙でのロシア介入疑惑の捜査に全面的に協力することになったことを明らかにしました。

マニュフォート氏はロシアの有力オリガークの一人で、プーチン大統領に近く、米国の経済制裁の対象となっているDepripaskaとの関係が深く、2016年の大統領選挙では無報酬でトランプ大候補の選挙体側本部長となって、情報提供を行っていたことで知られています。さらに、別のロシアの有力オリガークであるAgalarovの意向で、民主党のクリントン候補にダメージを与える情報提供でロシア政府の弁護士とロランプ候補の長男や娘婿との2016年6月9日のトランプタワーでの会談にマニュフォート氏が同席したことも明らかになっています。

5.トランプ大統領、国連演説でグローバリズムを否定
トランプ大統領は9月25日にニューヨークの国連総会で演説、自分の政権の実績を自慢すると同時に、米国は独自の道を突き進む権利があるとグローバリズムの考え方を否定しました。トランプ大統領は昨年の国連総会でも、国連や多国間主義を攻撃しましたが、今年は国際刑事裁判所を非難することで、グローバリズムを全面的に糾弾しました。これに対して、マクロン仏大統領は国家主権を武器として使ってはならず、地球温暖化などを念頭に、強力な多国間主義なくして、21世紀に勝つことはできないと強調しました。また、グテーレス国連事務総長も、トランプ大統領を名指ししなかったものの、1930年代の教訓を無視して、再び大衆主義と孤立主義の道を突き進み、世界的な紛争に転落していく危険について、警告しました。

いずれにしても、トランプ政権によって進められている米国第一主義は米国内だけでなく、国際関係においても、米国の敵国であるロシアや北朝鮮への批判を避け、同盟国である欧州やカナダとの関係を難しくさせるだけに、地政学リスクの高まりになっていく恐れがあると言えます。9月29日付のLA Times紙は、America first”isolates it at U.N.”との記事で、トランプ大統領は他の国に勝利することもできず、多くの国々を米国無しで考えるように構えさせていくとの批判をしています。

6. トランプ大統領の米国第一主義と経済への影響
トランプ政権は9月24日に、約2000億ドル相当の中国製品に対する10%の追加関税を発動しました。これにより、既に米国は中国に対し、3月の鉄鋼、アルミ製品に対する関税に加えて、7月に340億ドルの製品と8月に160億ドルの製品に対して25%の追加関税を発動していましたが、今回の措置で約3000憶ドルの中国製品に対して、関税を及ぶことになります。これに対し、、中国政府は対抗措置として、約600億ドルの米国製品に対して10%の関税を課す対抗措置を取ることを発表しています。

トランプ政権が米国が抱える巨額な貿易赤字を大きな経済課題としたのは理解できますが、その改善策が広範囲な輸入製品に対する関税措置というのは間違っていると思います。それは、米国企業を含め、世界的なサプライチェーンを使って生産体制を構築している時に、主要なサプライチェーン先である中国からの製品に追加関税措置を取れば、企業の生産体制の見直しとなり、全体的な供給体制に大きな悪影響が出てくることです。更に、トランプ政権が10%の追加関税を課した中国製品は米国の消費者の需要が高いもので、価格上昇は米国の消費者にも悪影響を与えるものです。

更に、トランプ大統領が8月6日に取ったイラン経済制裁の影響も、原油価格の上昇となって現れています。ロンドン市場で北海ブレント原油先物が9月24日に1バレル80ドルを超えましたが、これは2015年以来初めてとなります。ニューヨーク市場でも9月27日にWTI の原油先物は72.32ドルを記録しました。11月5日に予定されるイランの石油輸出遮断を含めた第2次制裁が発動されれば、イランからの原油生産量は1日100バレル減少することになり、北海ブレント原油先物は確実に90ドル以上となり、最悪の場合、100ドルを超えてしまうのではないかとの見方も出ています。

中間選挙を控え、イスラエル寄りのキリスト教福音派の支持を得るべく、対イラン強硬策に走るトランプ大統領には米国全体の利益が何であるのかが見えていないところがあり、経済面の悪化を含め、今後予想される市場リスクに十分な注意を払っていくが必要になっています。
                                           (2018年10月1日:村方 清) 

 

 

Saturday, September 1, 2018

トランプ政権が作り出す貿易摩擦問題と市場の不安定性









 
 
 
 
 
1.8月の株式市場
8月の株式市場はトランプ政権が取る米国第一主義の貿易政策で、中国などとの摩擦問題の動きによって大きく影響されたものの、米国経済が比較的に好調で、月間の株価は2.5%近い上昇となりました。主要な動きは以下の通りでした。

8月1日:トランプ政権が中国からの2000億ドル相当の輸入品に関税を10%から25%へ引き上げるとの報道が伝えられ、中国関連株に売りが広がり、ダウ平均価格は81ドル安(0.32%減少)。金利引き上げ継続方針を確認したFOMCの声明文への反応は限定的。
8月2日:午前中は米中貿易問題への警戒感から幅広い銘柄が売られたが、その後アップル株の上昇が続き投資家心理が改善、ハイテク株を中心に買いが優勢で、終値は8ドル安(0.03%減少)。
8月3日:7月雇用統計で雇用者増加数が157,000人増で市場予想の190,000人増を下回ったものの(失業率は3.9%に低下)、5-6月分が上方修正されたことで好感され、業績好調のIBMやハインツも大幅に上昇し、136ドル高(0.54%増加)。
8月6日:米中貿易摩擦の警戒は続いているものの、バフェット氏の投資会社バークシャー・ハザウエィや食肉のタイソンフーズなどの四半期業績が好調で、40ドル高(0.16%増加)。
8月7日:貿易摩擦に関する悪材料がなかったことや米企業業績の良好さに支えられ、127ドル高(0.50%増加)。
8月8日:トランプ政権が7日に発表した中国への追加関税と中国から報復関税で米中間の貿易摩擦問題の警戒感が増したことや原油安などで、45ドル安(0.18%減少)。
8月9日:原油先物相場下落と長期金利低下で石油と金融株が売られ、75ドル安(0.18%減少)。
8月10日:米国との関係悪化を背景にトルコリラが急落し、地政学リスクの高まりから、欧州市場でトルコへの融資が大きい銀行株が下落、米銀行株にも波及し、196ドル安(0.77%減少)。
8月13日:トルコ情勢への懸念による世界経済の減速や金融市場への混乱から、エネルギーや金融など景気に影響の深い株を中心に売りが広がり、125ドル安(0.50%減少)。
8月14日:トルコのリラの下げが一巡し、投資家のリスク回避姿勢が和らぎ、前日まで続落した反動で112ドル高(0.45%増加)。
8月15日:原油先物相場の下落、トルコ情勢や中国景気の減速などの懸念から、投資家の運用リスクが高まり、138ドル安(0.54%減少)。
8月16日:米中貿易戦争の回避に向けた交渉再開の期待と四半期決算が好調であったウォールマートやシスコシステムが大幅に上昇し、396ドル高(1.58%増加)。
8月17日:米中貿易戦争への懸念が和らぎ、キャタピラーやボーイングなどの中国事業の大きな銘柄が買われ、111ドル高(0.43%増加)。
8月20日:米中貿易摩擦問題が22、23日の事務レベル会議などで和らぐなどの期待や米企業によるM&Aが積極化するとの動きが好感され、89ドル高(0.35%増加)。
8月21日:原油高や米長期金利上昇を受け、石油株や金融株が買われ、64ドル高(0.25%増加)。
8月22日:トランプ政権のロシア疑惑をめぐる不透明感が強まり、89ドル安(0.34%減少)。
8月23日:米中両政府が互いに160億ドルの輸入品に対し25%の追加関税を発動したことに伴い、キャタピラーやボーイング等中国依存度の高い銘柄が売られ、77ドル安(0.30%減少)。
8月27日:NAFTA再交渉で米国とメキシコが大筋に合意したことで、貿易摩擦問題への過度の懸念が薄れ、259ドル高(1.01%増加)。
8月28日:米国とメキシコのNAFTA再交渉の大筋合意が買いがあったものの、カナダとの交渉の行方を見たいとのムードが強く、14ドル高(0.06%増加)。
8月29日:NAFTA再交渉の米国とメキシコの大筋合意を受けて、米国とカナダとの協議への進展ヘの期待と4-6月期GDP改定値が4.2%に上昇したことで、61ドル高(0.23%増加)。
8月30日:トランプ大統領が来週にも約2000億ドルの中国製品に対する追加関税を発動するとの考えが伝えられ、かつ前日までの続伸で利益確定の売りが優勢で、138ドル安(0.53%減少)。
8月31日:31日期限の米国とカナダの貿易交渉が合意に至らず、3連休を前にした利益確定売りが優勢で、22ドル安(0.09%減少)。

2.米国の雇用状況
米労働省が8月3日に発表した7月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数は前月比157,000人の増加で、市場予想の190,000人増を上回りました。5月の雇用者数の確定値は268,000人で24,000人の増加、6月の改定値は248,000人で35,000人の増加となりました。今回の結果を踏まえた過去3カ月間の雇用者平均増加数は224,000人で、好調の目安とされる平均増加数の200,000人を上回りました。なお、7月の失業率は3.9 %で、前月から0.1%改善しました。労働参加率は62.9%で、前月と同じ水準でした。7月の時間当たり賃金上昇率は前月比7セント増加で、前年同月比では2.7%増となりました。部門別では製造業が37,000人の増加、ヘルスケアが34,000人の増加、建設業が19,000人の増加、小売業が7,000人の増加となりました。

3.FOMC会合
FOMC会合が7月31-8月1日に開催され、会合後の声明要旨で以下のようなことが伝えられました。前回6月のFOMC会合後に得た情報によれば、労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は力強い水準に高まった。雇用増はここ数か月間平均すると力強く、失業率は低位を維持している。家計支出と企業の設備投資は力強く拡大した。全般的なインフレ率及びエネルギーと食品を除くインフレ率はいずれも、前年同期比で2%付近で推移している。長期のインフレ予想を示す指標は総じてあまり変わっていない。

法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化とインフレ率の安定に努める。FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジをさらに段階的に引き上げることは持続的な経済成長、力強い労働市場の情勢、中期的に目標の2%前後付近のインフレ率と整合すると予測している。景気見通しのリスクはほぼ均衡してきているようだ。

FOMCでは労働市場の情勢とインフレ率の実績と見通しを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを1.75-2.00%に据え置くことを決定した。緩和的な金融政策は維持し、力強い労働市場及びインフレ率の2%への持続的回帰を支える。
FF金利の誘導目標を調整する今後の時期と規模を判断するにあたって、FOMCは雇用の最大化とインフレ上昇率2%という目標との比較で経済情勢との実績と見通しを評価していく。労働市場状況に関する指標、インフレ圧力、インフレ予想の指標、金融動向や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。

今回の決定はパウエル議長やウイリアムズ副議長を含む8人のメンバーの賛成による。

連銀は今回のFOMCで景気や物価の情勢判断を引き上げ、9月のFOMC会合で追加利上げに踏み切る考えを示唆しました。その一方、トランプ大統領がけん制する利上げやトランプ政権が仕掛ける貿易戦争による景気リスクなどで、先行きの不透明感もあります。こうした状況を受けて、1日のダウ平均価格は81ドル安となりました。
4. トランプ政権が引き起こすトルコ・リラの急落問題
次々と内外で問題を作り出すトランプ政権は、今度は独裁色を強めるトルコのエルドアン政権との間で2016年のクーデター未遂事件で関与の疑いがあるとの理由で拘束した米国人牧師ブランソン氏の解放をめぐって大きな対立を引き起こしました。解放の期限とされた8月8日までにトランプ政権の要求に応じなかったことにより、米国政府はエルドアン政権の2閣僚に対する経済制裁とトルコからの鉄鋼とアルミ製品輸入に関税倍増措置を講じました。これにより、トルコのリラは一時20%近く下落、トルコの銀行や企業との関係が深い欧州の銀行の株価も大きな悪影響を受ける事態に発展しました。こうした状況に対してはトルコの中央銀行が利上げ行って対応すべきですが、景気後退を招きかねない金融引き締めに反対するエルドアン大統領の意向もあり、実行で切る状態にはありません。また、外貨不足に対応するにはIMFからの支援といった手段もありますが、IMFの管理下に置かれることを強く嫌うエルドアン大統領の方針もあり、これも実現される可能性は低いものとなっています。その一方、トルコと友好関係にあるカタール政府から150億ドルの直接投資の表明もありました。しかしトルコの対外借り入れ依存度は高く、カタール政府からの資金支援だけでは十分とは言えない状況です。

今回、トランプ政権がトルコのエルドアン政権に牧師の解放を強く迫った背景には、11月の中間選挙を前に、トランプ大統領は自分の選挙基盤と考えるキリスト教福音派に属する牧師の解放を実現させることで、劣勢回復を狙いたいとの意図が見られます。いずれにしても、米国第一主義を掲げながら、実際は自己利益優先主義のトランプ大統領の思惑がここでも、トルコ、欧州、そして米国にとっても不安要因となっているように思われます。

5. トランプ大統領が抱える政治リスクの拡大
8月21日に、トランプ大統領にとって政治的なダメージを与える2つの出来事が起こりました。一つはトランプ大統領の元選挙対責任者であったマナフォート氏がバージニア州アレクサンドリアの連邦地裁で陪審が起訴された18の罪に対して、脱税や外国銀行口座の申告漏れなど8件で有罪の評決を出したことです。マナフォート氏はウクライナの新ロシア政権であったヤニュコービッチ元大統領と関係が深く、トランプ氏の選対責任者になった後、2016年6月12日のトランプタワーでのトランプ氏の長男とロシア政府の弁護士との会談にも同席するなど、トランプ陣営とロシア政府との繋がりを知る人物の一人として、モラー特別検察間も捜査を進めているとされています。

もう一人はトランプ大統領の元個人弁護士であるマイケル・コーエン被告で、トランプ氏が過去に関係のあった元モデルに口止め料を払ったのは政治献金であり、選挙資金法の上限を超えていたことや更にこうした口止め料の支払いが大統領選挙を前にして、トランプ候補の指示であったことを認めたものです。コーエン氏はロシアのオリガーク達からトランプグループに流れた資金の流れにも精通していると言われ、モラー特別検査官が聴取する可能性が高いと見られます。

いずれにしても、トランプ大統領は選挙期間中から多くの問題が指摘されており、今回の2人の元側近の有罪や自供はトランプ大統領の今後の政権運営にとって、大きなダメージとなっていく可能性があります。

6. 米国消費者利益を無視したトランプ政権のメキシコとのNAFTA見直し合意
米国とメキシコ政府は8月27日に北米自由貿易協定(NAFTA)の見直し交渉で、両者の合意た成立したことを発表しました。合意内容によれば、両者の自動車貿易の関税をゼロにする一方、原産地規則を改め、現在は域内で62.5%の部材調達を75%以上とすることとなりました。加えて、40-45%が時給16ドル以上の地域での生産を義務付ける賃金条項も導入しました。これらの内容はトランプ大統領の米国第一主義の方針に沿ったものですが、それは米国内での自動車関連部品の調達や雇用を重視するあまり、米国での製造業の生産性向上をいかに確保していくかの視点が全く落ちていることになります。更に、自動車関連企業の雇用が第一優先され、米国経済にとって最も重要な消費者利益の追求の観点も全く無視されています。米国の自動車メーカーの立場からすれば、消費者に価格競争力のある製品を届けるのが最大の関心事であるはずで、こうした原産地規則や賃金条項があるのであれば、5%の関税を支払っても、従来通りの生産体制を使った方がよいとする企業もあるはずで、中間選挙を意識したトランプ大統領の意向に沿った形式だけの合意になったように思われます。

それと同時に、NAFTAの見直しはカナダを加えたものになることが予想されていましたが、乳製品などで安易な妥協が許されないカナダとの交渉は期限である8月31日までに成立しませんでした。今後は9月末での合意を目指すことになりますが、最悪の場合は従来のNAFTAが消滅し、米国とメキシコとの2国間協定になってしまう恐れも出ています。いずれにしても、米国内の一部の自動車関連産業の短期的な利益に拘り、米国全体の経済目的や国際的協調を無視するトランプ大統領の貿易政策は大きな問題を抱え続けています。
                   (2018年9月1日:  村方 清)